第73話 侵入
アルクルム山地は、草木の気配がないハゲ山だ。白みを帯びた茶色い地面が剝き出しになっており、ゴロゴロとした大きな岩や石が転がっている。まさに不毛の大地といった感じだ。此処では、たくさんの洞窟のような横穴を見つけることができる。その全てが鉱石を採取する為に掘られた坑道だ。此処にはいたる所に坑道が走っており、様々な鉱石が産出する。鉄や銅、亜鉛をはじめ、金や銀の貴金属、オリハルコンやアダマンタイトまで低確率ではあるが産出する。
ゲームでは、ランダムでポップするマイニングポイントでつるはしを使うと鉱石を掘ることができたが……現実はゲームのように掘るべき所を教えてくれる機能なんて無い。はたして素人のオレ達に鉱石を掘りあてることができるのかどうか……。
問題は他にもある。この地を支配しているのが魔族という問題だ。此処アルクルム山地は、人族の生存圏ではない。魔族の支配する敵地だ。
この地を支配するのは、トータス族だ。二足歩行の大きな亀のような姿の魔族で、物理防御力に秀でている。教会が主導して実施したバストレイユ奪還作戦にて、魔族側の援軍として多数現れた魔族である。人族のバストレイユ奪還作戦を頓挫させた主犯だ。オレも撤退時にしこたま殴られたこともあって、ちょっと苦手意識を持っている魔族でもある。
トータス族は、金属への関心が高い事でも知られている。彼らの亀の甲羅のような部分は生来のものではなく、金属を加工して作った鎧だ。彼らの治金技術は高く、魔族貨を造っているのも彼らではないかと言われている。
アルクルム山地は、トータス族の拠点なのだ。彼らはこの地で鉱石を掘りだし、それを武器や鎧に加工しているのである。
そんな敵の本拠地でオレ達がしようとしている事は、コソドロに近い。というかコソドロそのものである。坑道に忍び込んで、鉱石を掘ってバレない内に逃げる。こんな感じだ。戦闘は無しである。マリアドネがごねるかと思ったが、素直に納得してくれた。意外だ。バトルジャンキーなのに。
「わたくしだって時と場合ぐらい弁えますわ」
マリアドネは、その優美な双眸を歪ませて心外そうに顔を背けた。本人曰く、時と場合を考えるバトルジャンキーらしい。このあたりがディアゴラムとは違うところだ。アイツは時も場所も考えないからなー……。て言うか、まず言うことを聞いてくれないし……。ディアゴラムが求めているのは、血沸き肉躍る強者との戦闘であるらしい。その強者は善か悪かも人族か魔族かも問わない。オレの契約している英霊の中で唯一、人族と敵対することを良しとしたイカレた奴だ。相手が強者ならば、例え罪の無い善人でも斬りたいバカ野郎だ。一応、魔族は敵とみなして斬ってくれるけど、危なくて人前では召喚できたものじゃない。
「では、準備はよろしくて?」
「いいよ」
必要な物は全て背中の鞄に入っている。英霊も呼び出したし、準備万端だ。メンバーは引き続きライエル、ハインリス、エバノン、アイリス。むしろ準備が必要なのは馬に荷物を預けていたマリアドネ達の方だった。馬が背負った荷物からつるはしや松明など必要な物を取り出していた。
馬は結び付けたりせずに、そのまま放しっぱなしにするみたいだ。
「逃げちゃわない?」
「ふふ、大丈夫ですわ」
マリアドネに笑われてしまった。馬は口笛で合図をしたら戻って来るように調教されているので心配ないそうだ。逆にどこかに結んでおくと、魔族に襲われた時に馬が逃げられずに危険だと言う。なんとも賢い馬達だ。
そろそろ準備も終わり、いよいよ坑道へと侵入する。目の前には大きな洞窟がある。縦横ともに4メートルくらいありそうな程大きい。奥も見通せない程深い。おそらく自然のものじゃない。坑道だ。これだけ大きな穴なのは、トータスが巨体なためだろう。アイツら3メートル近くありそうだからな。
「行きますわよ」
マリアドネの号令で、オレ達は坑道へと侵入を開始したのだった。
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