第58話 逃走②
マリアドネ達から話を聞いたところ、敵右翼に突撃した味方は、無事に敵右翼を突破できたらしい。今はハーリッシュに向けて撤退の最中のようだ。マリアドネ達が軍の最後尾だと言われた。
彼女たちは、軍の殿をかってでたらしい。しかし、まともに正面からぶつかっても勝ち目が無いのは分かり切っていたため、敵軍に対して伏撃を仕掛け、敵軍の追撃速度を鈍らせようとしたようだ。
正面から闘っても勝ち目が無いのは分かり切ってるか…。此処に、それが分からずに一人で突っこんだバカが居るんすよ……。リリアラがニヤニヤしながらオレを見てくるが、努めて無視した。
「よし、止まれ!此処でもう一度伏撃を仕掛けるぞ!」
敵軍が見えなくなった頃、マリアドネがそう宣言した。
「私、ガリクソン、アルビレオがこちら。残りは反対だ。襲撃の合図は私が出す。一当てしたら、すぐに撤退するように。敵は倒せなくても良い。生きて奇襲を続けることを目標にせよ」
「隊長、彼女達は魔法が使えますが、どうしますか?」
オレは抱っこしているリリアラとラトゥーチカを持ち上げて示す。
「そうか……では、アルビレオは私達の20m後方で待機。撤退時に魔法で支援せよ」
「はい」
各自、持ち場に着くべく動き出す。
「偉そうな女ねー。あんなのじゃ嫁の貰い手がないわよ」
「まぁまぁリリアラ。マリアドネは実際、隊長だから偉いんだよ」
そう答えながらオレは自分の配置についた。
「アルはあの女の肩を持つの?ひょっとして惚れちゃった?」
リリアラがニヤニヤと笑いながら聞いてくる。ラトゥーチカも興味深そうに見つめてきた。
マリアドネか…。実際どうなんだろう?オレはマリアドネについて考えてみる。最初は凄いツンツンした態度だったけど、今はだいぶ当たりが柔らくなった。ちゃんと一人の人間として扱ってくれている気がする。オレはマリアドネに対して、好きまでいかないけど、好意は持っているのを自覚した。……オレの好意を抱くライン低すぎない?軽く人間不信になってる気がするぞ。優しくされると、すぐ好きになっちゃうチョロイ人間になってしまった…。
オレがマリアドネを好きになる可能性ってかなり有ると思う。戦闘狂なのが玉に瑕だけど、割と優しいところがあるし、時々ドキッとさせられることもあるんだよなー。それに…。
「見た目は満点なんだよなー…」
「えー…」
口に出てしまったらしい。リリアラとラトゥーチカが半目で軽蔑の眼差しをしていた。
「男ってやーねー。どうして女を体でしか見れないの!」
「不潔…」
「いや、違くて…」
言い訳を述べようとすると、遠く方からドドドドドドと地響きが聞こえてきた。
「お客さんが来たみたいね」
すごい数の団体客だな。できればお引き取り願いたいけど、聞いてくれないよなー…。
「準備しなさい、変態エルヴィン」
「へいへい」
変態エルヴィンって何だよ…。オレはそう思いながらリリアラとラトゥーチカを抱っこするのだった。
◇
その後、何度か奇襲を成功させ、敵軍の先頭集団を叩いた。幸いこちらの死者は0人。回を重ねる毎に奇襲が上手くなってる気さえする。絶好調だ。
しかし、敵もさるもの引っ掻くもの。奴らは、奇襲を終えて逃げるオレ達に、武器を投げつける事で反撃をしてくるようになった。幸い命中率は低いし、直撃しても大した怪我にはならなかったので、無視して逃げることにしている。
「ただ待つのも暇ねー。ちょっと歌でも歌いなさいよ、変態エルヴィン」
暴君過ぎませんかね?リリアラさん。今は敵集団に伏撃を仕掛けようと、森の中に隠れているところだ。歌なんて歌ってたら見つかってしまう。
「はぁ…」
ため息を吐いた瞬間、急に疲れを感じて膝から崩れ落ちてしまった。
「アル!?」
なんとか体を起こすが、体中が泥に浸かっているかの様に重たく感じる。少し動かすのも一苦労だ。なんだこれ?まるで一気に疲労が押し寄せてきたような…。もしかして…!
「大丈夫、大丈夫…っと」
オレは何とか立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き出す。
「ちょっと!休んでた方が良いんじゃない?」
「いや、それよりも確認しないと…」
森から道に出ると、マリアドネ達がこちらへと向かって来るところだった。
「アルビレオ、白虎様の御加護が…」
「ああ、やっぱり…」
白虎のバフが切れたらしい。空を見上げると、太陽は西へと傾き、もう夕方に近い。早朝からずっとだもんなー。むしろ今まで良く保った方である。ゲームだと10分のバフだったんだけど、明らかに10分以上バフが続いてる。これも謎の現象だ。メリットしかないように思えるけど、実はデメリットもある。リキャストタイム、再召喚に必要な時間が明らかに伸びている。
ゲームでは、白虎と青龍のリキャストタイムは1時間だったのに、1時間以上経っても再召喚ができない。通常の英霊達も、ゲームに比べて長い時間召喚しっぱなしにできるようになったが、再召喚のリキャストタイムが伸びているようだ。原因は分からない。
今考えてても仕方ないな。それよりも早く白虎のバフをもう一度かけよう。『黄泉の門』のアビリティを使ったから、白虎のリキャストタイムもリセットされているはずだ。
「もう一度、白虎様を召喚します」
「できるのか!?」
マリアドネ達が驚愕している。そんなに驚かなくてもいいじゃんってくらいだ。マリアドネは口を手で覆い、目が零れんばかりに見開かれている。こんな顔しても美人は美人だから狡いな。
「それは…助かる。このままでは我々が逃げるのにも苦労しそうだからな。だが、大丈夫か?顔色が悪いように見える。先程も足を引きずるようにして歩いていたぞ」
そう言われると、マリアドネ達は普通に歩いていたな。疲れは感じていないのだろうか?どんなお化け体力しているんだ?或いはこれが、前衛職と後衛職の体力差なのかもしれない。この体もハイスペックだと思ったんだけど、所詮は後衛職の体力だったらしい。これが生粋の前衛職の体力かよ。やべぇな。
「大丈夫ですよ。出でよ、白虎」
その瞬間だった。視界がぐらりと傾き、地面へと投げ出された。少し間が空いて、漸く気付く。へ?オレ…倒れたのか?倒れた衝撃も痛みも感じなかった。と言うか、体の感覚が無い。
視界もだんだん暗くなってきた。マリアドネ達が口をパクパクと動かしてるけど、何も聞こえない。これ…本格的にマズイんじゃ…………。
オレの意識はそこで途切れた。
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