第23話 大森林を抜けて

 村を出て3日、いや4日か?オレは未だにナルバレンタ大森林を彷徨っていた。木々が太陽の光を遮り、昼間でも暗い森の中で日付感覚は曖昧になっていた。太陽が見えなくて方角の確認もできない。

 一応アントムに教えられたマチルドネリコ連邦の方角に進んでいると思うんだけど…。方向感覚も曖昧だ。自信が持てない。


 認めたくない、認めたくないがもしかして遭難しているのか?暗い森の中に独りぼっちという状況が不安に拍車をかける。外套も繕ってもらったし、やっぱり街道を進んだほうが良かっただろうか?でも検問とかあったら詰んじゃうし。うおっ!?


 足元の腐葉土に足を取られる。膝までずっぽりだ。この足元のせいで思ったようにスピードがでない。一歩一歩足を上げないといけないため余計に体力を使う。水と食料にはまだ余裕がある。まだ大丈夫だ、大丈夫。そう自分に言い聞かせて、なだらかな斜面を下っていく。




 村を出てから何日経ったかな?もう分かんないな。昼間でも暗い森の中がだんだんとさらに暗くなる。夜が来たようだ。もう自分の手まで確認できないほどの暗さだ。これ以上進めないな。そろそろ英霊の護衛を召喚して寝ようかな。


「出でよハインリス、エバノン」


 空間が歪み二人の英霊が姿を現した。頼れる<見習い騎士>ハインリスと<狩人>エバノンだ。二人は油断なく周囲を見渡すとため息をついた。


「まだ森の中なのか」


 二人も森に飽きているのかもしれない。オレも飽きた。うんざりだ。


「こうも時間がかかるとは。食料は大丈夫か?」


「食料はまだ大丈夫だけど、水がもう残り少ない」


「そいつはやべぇな」


 村を出てから節約して飲んできたが、もう水が一気飲みできるような量しか残ってない。200mlくらい?人が水なしで活動できるのは3日が限界だと聞いた覚えがある。この状況はかなりまずい。


「一応周りを探してみるがよ。あんま期待出来ねぇぞ」


 エバノンが周りを探索してくれるらしい。でも期待できないかぁ…。川があれば言うことなしなんだが。難しいか。水音も聞こえないしな。


 携帯食料の乾パンモドキを齧る。口の中の水分が吸い尽くされた。すっげー口の中がパサつく。でも水は飲まない。節約節約。粉に咽そうになりながら無理やり飲み込む。喉までパサついてきた。これ以上食べる気にならず、乾パンモドキを鞄の中にしまう。


「このままで大丈夫なのか?」


 ハインリスが心配そうに聞いてくる。このままじゃマズイのは分かってる。水は明日には無くなってしまうだろう。もうリミットまで3日しかないと思った方がいいだろう。このまま森の中を彷徨っていたら3日なんてすぐにでも経ってしまいそうだ。


 森を抜けれたとしても、マチルドネリコ連邦に入国できたとしても、草原のはずだ。水の手に入るあてなどない。運よく近くに町があることを期待するしかないのか?すごい期待薄だ。これってもしかしてもう詰んでる?


「大丈夫じゃない…」


 ハインリスの顔も見れず、思わず俯いてしまう。こうなると検問覚悟で街道を進んだほうが良かったかもしれない。自分の選択に後悔していると、エバノンが足早に帰ってきた。


「アルビレオ、明かりだ。明かりが見えた」


 声には喜色がある。明かり?ひょっとして森を抜けられたのだろうか?


「間違いなく火の明かりだ。誰かが火を使ってる」


 !?

 誰かいるのか。水分けてもらえないかな?いや、接触するのは危険か?でもこのままじゃ詰みだ。頼み込んで水だけでも分けてもらう。それしかない。


「エバノン案内して!」


「こっちだ」


 何も見えない暗闇の中、腐葉土に足を取られながら、手探りでエバノンの案内の元進んでいく。エバノン達英霊の体は淡く輝いている。辺り照らすほど強い光ではない。本当に淡い光だ。それでも見失わなそうで安心だ。




 数分歩くと急にあたりが明るくなった。強い明かりではない。昼間の森の中のような淡い光だ。オレは驚いて上を見上げた。星空?いつの間にか頭上は木々の枝ではなく星空が広がっていた。頭上だけじゃない。前方にも星空は広がっている。赤い月も見える。


 ひょっとして森を抜けた?足元も腐葉土から草の生えた大地に変わっていた。


「こっちだアルビレオ。あれが見えるか?」


 森を抜け、見事な星空が見えたことに感動しているオレにエバノンが声をかける。そうだった。火の明かりが見えたんだった。エバノンが指さす方向に目を向けると月明りと違うオレンジ色の力強い光が遠くに見えた。火の大きさ的に焚火だろうか?もしそうならば人がいることになる。


「エバノンありがとう。良く見つけてくれた。本当に助かった」


「なぁに、いいってことよ」


 本当に助かった。まだ水を分けてもらえると決まったわけじゃないが、森を出れただけでも一歩前進だ。オレは二人にお礼を言って送還した。これから人に会う。ネクロマンサーと知られない方が良いだろう。


 オレは焚火の方へ足を進ませた。近づくことで、ぼんやりと見えていた影が鮮明に見えてくる。馬だ。馬が三頭いる。三頭とも休んでいるのか、地面に座っている。その背中に乗せているのは人ではなく荷物らしい。山盛りだ。馬はいるが持ち主の姿が見えない。馬の陰に居るんだろうか?


「止まりなさいっ!」


 ビクッ!?

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