南の「時のタマゴ」-敗北・告白。
第7話 勉強会。
僕はようやく自分のベッドに入れたことで「ふう」と声が出る。
戦っている時は疲れを感じなかったが終わってベッドに入るとドンドン疲れが出てくる。
ここにトキタマが明るくはしゃぎながら「お父さん、今日はお疲れさまでした。一日で沢山跳びましたね!!」と声をかけてくる。
家に入るときに僕はトキタマを家に招き入れて父さんと母さんに紹介をした。
父さんと母さんはアーティファクトなのに綺麗な小鳥だとトキタマを褒めちぎるとトキタマは「ありがとうございます!」と言っていて会話が成立した事で更に感動をしていた。
そして2人とも僕に優しく微笑んでから、僕の想像通りに喜んでくれた事で僕は僕がやった事が間違いではなかったと思えて嬉しかった。
そう言えばあの剣を持って帰ることにした。鞘は倒した兵士から拝借して自分のモノにしてしまった。
せっかく育てたアーティファクトなので出来る事ならこのまま使いたいと思う。
そう言えば名前が無いな。
僕はアーティファクトの事ならトキタマに聞こうと思い「トキタマ」と呼ぶと「はいです!」と言って飛んできたトキタマに「この剣の名前って何?」と聞いてみた。
トキタマは一瞥しただけで「こんな剣の名前なんて知らないです。お父さんが勝手に名前を付けちゃえばいいんじゃないですか?」と言ってまた部屋中を飛んでいる。
まあ無くても不便はない。
変な名前を付けて後で剣を知っている人に「それ違いますよ?」なんて言われたら格好悪いし、今のところは兵士が使っていたから「兵士の剣」とかで良いのかもしれない。
段々と眠くなってきた。
それにしても惜しいのはフードの男を取り逃がした事だと思う。
だがあの男は丸腰だったので今すぐ何かをしてくる事もないだろう。
それでもやはり取りこぼしがあると言うのは落ち着かない。
この時僕の心を読んだのか、顔に出ていたのかトキタマが「跳びますか!?」と不穏な事を言ってきたので僕はそれを断って布団に入った。
ああ、トキタマはタマゴの殻をうまい事使って寝ている。
「そう言えばあの殻もよく割れたり無くなったりしなかった…な………」
そう思っている最中に僕は眠ってしまった。
[2日目]
僕は気づかない間に相当疲れていたみたいだ。
起きた時はもう昼近い時間だった。
普段なら午前中は水汲みや父さんの道具の整理や調整に付き合って居るのだが今日は起きられなかった。
僕の部屋を見回したがトキタマの姿が見えなかった。
「まあ、呼べばくるか…」と言ってからベッドを整えて僕は母さんたちの所に顔を出した。
僕に気付いたトキタマが「お父さん、おはようございます!」と言って僕のところに飛んできた。
母さんが「キヨロスがなかなか起きないからお母さんが心配で顔を見に行ったの。そうしたらトキタマちゃんは起きていたのよ」と言う。
「それでうるさくしたらキヨロスが起きてしまうでしょ?お母さんとこっちで待ちましょって誘ったのよ」
確かにトキタマなら僕を起こしていたかもしれない、僕は「ありがとう母さん」と言ったところで父さんが居ない事に気付き「父さんは?」と聞く。
「お父さんはいつもの日課と村長の所に集まっているわよ」
村長の所?そうか…あの兵士の亡骸の埋葬とこれからの話をしに行っているのか…
母さんが「所でキヨロス?」と話しかけてくる。
何か頼まれごとかな?何だろうという気持ちで「何?母さん」と聞くと「トキタマちゃんは何を食べるのかしら?トキタマちゃんが大丈夫って言うから朝はお母さん達と一緒のご飯をあげたんだけど、虫とか捕まえてきた方がいいのかしら?」と言う。
母さんは虫は平気だが出来れば触りたくないと言っているのでトキタマの主食が虫の場合には父さんと僕の仕事に虫取りが追加される訳だがトキタマは違うので「大丈夫、なんでも食べるけど何も食べなくて平気だって本人が言っていたから僕たちと一緒のご飯で平気だよ」と説明した。
この説明で母さんは「そう?それなら安心ね」と安心した表情になる。
「所で午後の予定はあるの?」
「ああ、それならナックとリーンと少しアーティファクトの事で話をしてくるよ」
僕達は昨日の帰りにアーティファクトに関して少し勉強をしようと言う話になっていた。
昨日「万能の柄」で覚えた事とかをリーンに教えたいし、ナックにも川辺の話をキチンと説明したい。
母さんは「わかったわ、午後はお母さんも広場の片付けに行ってくるわね」と言った事で昨日の片付けが残っていた事を思い出した。
あの時は助かる為とは言え広場に近い家の人のテーブルや椅子を盾がわりに使ったのだ、滅茶苦茶になっているはずだ。
外で父さんが歩いている気がした僕は母さんに「あ、もう父さん帰ってきたよ」と告げる。
もう昔からずっと言っているので母さんは疑わない。
そして言った通り少しして「ただいま」と言って父さんが帰ってくる。
ドアの前まで言ったトキタマが「おかえりなさい!お父さんのお父さん!」と変な呼び方をしている。
父さんはそれだとお爺ちゃんになるのか…。トキタマが父さんを「お爺さん!」と呼ぶのはなんか嫌なので「お父さんのお父さん」でいいやと思った。
僕は家族で昼食を食べた。
食後に父さんから村長との話し合いの内容を教えてもらった。
一度目の時間で僕がフードの男から聞いた王様の話についてまずは話したらしい。
王様が何を思ってアーティファクトを求めたのかはわからないが、この15年近く他のガーデンとの交流が断たれていて、戦争が近いと言う噂が現実味を帯びてきたのかも知れないと言う事。
C級のアーティファクトが戦争で一体なんの役に立つのだろうか?
「愛のフライパン」ならご飯が美味しくて兵士はヤル気になるかも知れないが…
昨日の戦いではないが兵士にとても太刀打ち出来ない。
もう1つの命を回すと言うのは多分命の絶対数の事を言っているのだろう。
アーティファクト使いを殺して15〜16年くらい待てばどこかで生まれた新しい命は成人の儀を迎えるだろう。そこでB級やA級が出ればよし。でなければまた回す。
そう言う話だろう。
人権を軽んじた無茶苦茶な話だと思う。
そして次の議題の方が問題だった。
朝、ナックのお父さんが二の村に向けて出発した。
二の村までは大人の足で半日、多分今頃二の村に着いているだろう。
そこで二の村がどうなっているか、まだ何も起きていなければ昨日の事を話して対策を考えるように話してくる事になっているらしい。
僕は望みが薄い事を薄々感じていた。
この村は国の一番東に位置している。
そこから西に向かって、二の村、三の村、四の村が並んで城がある。
城を超えると五の村、六の村、七の村が集まって出来た都がある。みんな王都と言っている。
そして一番西に八の村がある。
この一の村に攻め込むと言うことは通り道の二の村はもうやられているかもしれない。
フードの男は1回目の時間の時に三の村と四の村の名前を出して居た。
多分この二か所は無事なんだと思う。
そう言えばまだその話をして居なかった事を思い出して父さんに伝える。
父さんは難しい表情で「三の村と四の村は健在か…」と呟いた後で僕に「何故かは聞いたのかい?」と聞く。「ううん、聞いてない…と言うかあの時は一方的に言うだけ言って去って行ったんだ」と答える。
あのフードの男は何を聞いても緩和が成立している風に感じなかった。
父さんは「そうか、よし…村長にはお父さんから話しておこう」と言ってくれた。
僕達は子供だからやはりこういう部分は父さん達大人の人に任せようと思う。
「お前はナックとリーンちゃんと会うのだろう?」
「うん、少し話しておきたい事もあるし。あ、もう来たみたいだ」
てっきりリーンが迎えに来て2人でナックを迎えに行くことになるかと思ったが待ちきれないナックがリーンを迎えに行ってウチを目指している感じだ。
僕はご飯の残りを一気に食べてご馳走様を告げると「行ってきます」と言って席を立つ。母さんは「行ってらっしゃい。夕飯には帰ってきなさいよ」と言いながら僕の食器を下げてくれる。
「わかっているよ母さん。トキタマ、君はどうする?」
「僕も行きますー」
トキタマと外に出るとナックとリーンが丁度来たところで「相変わらずタイミングバッチリだな」「本当、「何でかわかる」って言うのは本当なのよね。トイレとか約束の時間より早い時以外でキョロの家で待った事ってないよね」と言っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕達は<降り立つ川>に来た。
まずは昨日知ったアーティファクトの成長について村には知って居る人間が居ないからだ、村にいないなら神の使いに聞けないかと思い祭壇まで来た。
ナックが祭壇をノックしながら「もしもーし!入ってますかー?聞こえますかー?」と声をかける姿を見ながら「そんな、トイレじゃないんだから…」とリーンが呆れている。
本当なら同じアーティファクトのトキタマが詳しく話してくれればいいのだが、やはり他のアーティファクトには興味が無いようで聞いてもロクな回答が無い。僕はそれ以外に何故僕だけ二種類のアーティファクトを使えているのかを知りたかったのだがトキタマは無言だった。
ノックに飽きて諦めたナックが僕の方を向いて「ダメだな」と言っている。
ここで終わりとはならずリーンが「そう言えば、キョロはその剣を持って跳ぶまでは私のアーティファクトを使っていたんだよね?どう言うものを精製したの?」と僕に聞いてきた。
日常を取り戻せたらそれの指南をしようと思って僕は「そうだ、その話もしたかったんだ」と言う。
「僕が精製出来たのは、ナイフ、釘を大きく太くしたような杭、後は刃の飛び出るナイフ、それと鞭。失敗したのはダガーナイフかな」
ダガーナイフ…この<降り立つ川>で失敗して2人を助けることが出来なかった………嫌な事を思い出した。
今2人はここに居るんだ、嫌な事は忘れよう。
説明を聞いたリーンが「凄いね。ねえ?キョロ、見本…見せてくれないかな?」と言うとナックも「お、いいなそれ!見たい見たい」と言う。
今僕はトキタマと「兵士の剣」を持っている。
ここで3つ目に手を出すのはどうなんだろう?正直不安な気持ちになって「え?…でも…」と答える。何が起きるかわからないしナックの言っていた例の静電気が起きるかもしれない。
僕はそのまま続けるように「いや、静電気が…」と言うとナックが不思議そうな顔で「静電気?何言ってんだ?」と突っ込んでくる。
あんなに痛がっていたのに覚えてないのか?
僕はそのまま出来た事実を教えようと思った。
「昨日、ナックがリーンのアーティファクトを試してみようとして…」と昨日の宴の席での話をしたのだが返事は「俺、そんな事してないぜ?」だった。
ここでようやく気が付いた僕は「あ!」と声を出す。
今目の前のナックは僕が跳んで来た後でリーンのアーティファクトを使おうとしていたからまだ触っても居ない。そこに僕が跳んできて兵士との戦闘に巻き込んだんだ。
そうだ、この時間のナックは何も知らないんだ。
ようやく合点の言った僕は「リーン、「万能の柄」を貸して」と言ってリーンから「万能の柄」を借りてそのままナックに渡す。
突然渡されたナックが「な、なんだよ?」と驚きを声にするので僕が「ナック、ナイフを精製してみてくれないかな?」と言った。
ナックは一瞬驚いた顔をしたが「別にいいけど、へへへ…昨日から興味があったんだー」と言った後で「【アーティファクト】!」と唱えた。
バチッ!!
一瞬静電気が起きてナックの手から「万能の柄」は離れた。
離れたと言うより弾かれたと言った方が的確かも知れない。
大きな音で痛みの程が知れる。
ナックは突然の衝撃に「いってぇぇぇ!?」と言って手を押さえるとリーンがナックを心配そうに見て「ナック、大丈夫!?」と聞いている。
ナックが怒り気味に僕を見て「なんだよこれ?キョロはこうなるって知っていたのか?」と聞いてくる。僕は微笑みながら「知っていたと言うか、昨日ナックが試して教えてくれたんだよ」と説明をする。
「昨日試して、それでナックがダメだったから僕にも試してみろって「万能の柄」を持たせてきたんだ、結果僕は精製出来てそのおかげで今があるんだけどね」
そういった僕の言葉にちょっと不服そうな顔で「なんだよそれ…ずるいなぁ」と言うナックは見た感じもう怒ってはいない。
僕は静電気が理解されたことで「だから、僕ももう「兵士の剣」を持っているから持たない方がいいかなってさ」と言って剣を見せて断ろうとした時、トキタマが突然「大丈夫だと思いますよ〜」と言い出した。
ナックが「お、トキタマが言うなら行けるんじゃないか?」と言うとリーンも「ねえ、キョロ、やってみてよ」と一緒になって言ってくる。
静電気は怖いけどこうも期待をされると断るのも勇気がいる。
僕はリーンの「万能の柄」を手に取って「仕方ない、やってみるよ」と言って「万能の柄」に意識を向けた。
「まずはナイフ、【アーティファクト】!」と言ってナイフを作ると出来上がったナイフを見てリーンが「凄い!」と驚いている。
僕は内心、作れたことよりも静電気が来なかったことに驚いている。
そのまま僕は刃の飛んで行くナイフの説明をしながら生成して十歩先の石に当てた。
「わ!?わ!?本当に刃が飛んだ!凄い!」と言うリーンの言葉に僕は段々と気を良くなり、実演をしながら杭と鞭を見せた。
そして「リーン、君のアーティファクトはイメージを形にするのが基本なんだけど、逆にこうあって欲しいと言うのを柄に送り込む事でも精製が出来るんだ。僕が出した杭も兵士の鎧を貫くためにイメージしたら出来たんだ」と説明をすると凄い凄いとリーンが喜んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一通り昨日作ったものを見せたところでナックが「なあ、俺たちがイメージしたものをキョロが精製出来るか試してみないか?」と変な事を言い出した。
「え?」と聞き返す僕にナックが「だからな、俺が「薄くて鋭くて棒状」って言ってみて、キョロがそれを精製してみるんだよ」と言い僕が返事をしないと「それで俺たちがイメージしたものをキョロが精製出来るか試すんだよ」と再度言いながら詰め寄ってきた。
僕は乗り気ではないので「でも、このアーティファクトはリーンのものだし、僕が練習をしても意味ないよ」と言って断ったのだがリーンまで「いいから、一回だけやってみましょ?そうしたらやめてもいいから、ね?」と言ってくる。
僕は呆れながら「わかった。やってみよう」と言うとリーンが「やったー!」と喜びナックが「じゃあ俺から言うぞ!」と言って張り切っている。
だが僕はナックが言う前に「ナックの番は終わり」と言うとナックが「え?何でだよ」と聞いてくる。
「さっきの説明で僕がイメージした乗馬用の鞭がもう出来たからさ」
そう言って僕は出来た鞭を振るうと鞭は「ヒュンヒュン」と音を立てている。
リーンは出来上がった鞭を見て「凄い!もう出来たの?」と喜びナックは「なんだよ~つまんないの」とふて腐れる。
リーンが「じゃあ今度は私ね!「網のような、スコップのような、お玉のようなもの」!!」と言い出した。何のことだかわからないナックが「なんだそれ?俺がもう一回問題を出した方が面白いものが出来たかもなー」と不満げに言っている。
網でスコップでお玉か…。
ここで一つ思いついた僕はこれはどうだろう?と言う気持ちで作ってみた。
出来上がったものを店ながら「リーン、出来たよ。どうかな?これじゃない?投石器」と聞くとリーンは「凄い!そうそれ」と言った後で「投石器って名前だったんだ…」と言った。
ナックは呆れながら「名前も知らないで作らせたのかよ?それでキョロ、それはどう使うんだ?」と聞く僕は足元の石を手に取りながら「これは網の部分に石を入れて投げるんだ」と説明をする。
ナックは実物を見たことがあったので「ああ、狩りでキョロのお父さんが使っている紐の奴か」と納得をする。この前もイノシシ相手に父さんが作ったのをナックは見ていた。
僕は「そうそう」と言いながら試しに今拾った石を入れて投げてみた。
石はちょっとの力でも狙ったほうへしっかりと飛ぶ。これは中々の感じだ。さすがは「万能の柄」だなと思った。
これでいいだろうと思って「万能の柄」をリーンに返そうとしたのだが、ナックが「なあ、今のうちにいろいろ作ってみたらどうだ?」と言い出した。
「今、リーンの説明の中にもあったスコップとかだよ。一度イメージして作れば二回目は楽だろ?」
そう言われても正直困るので「これはリーンのアーティファクトで…」と言ったのだがナックは聞く耳を持ってはくれない。
仕方ない、少し付き合うとするかと思った僕は「まずはスコップだな」と言う言葉に合わせてスコップを精製する。
出来上がったスコップを見て満足そうなナックは「ノコギリも使えるな」と言い出す。
「そんなものも?」と言っても「もしもの時の備えだよ!」と言われてしまい僕は片刃のノコギリを作った。
これで終わらずにナックが「ああ、忘れてたトンカチだ!」と言う。
呆れた僕は「それ、完全に大工道具だよね?」と聞くと「大工道具でも実戦で使えるだろ?」と言ってナックは退かない。
リーンが見かねて「ナック、キョロ嫌そうだよ?」と言ってくれるのだがナックは「いいだろ?キョロやってくれよ」と言うのでさっさと作って終わりにするためにも「はい、トンカチ」と言って僕はトンカチを作った。
この後でバールも作るように言われてバールを作った僕に「次は…」と言うナック。
僕は流石にナックに注意しようと思った時に「そろそろやめた方がいいと思いますよー」と言ってトキタマが割り込んできた。
僕は助かったという気持ちで「トキタマ、どういうこと?」と聞くと「昨日、お父さんに15回目の成長を聞かれた時の話です」とトキタマが話し始めた。15回目…確か「今回はすごい事ですが今のお父さんにはあまり関係ない事です」とトキタマは言っていた。
その確認をするとトキタマは「あの時のお父さんの成長は持って跳ぶことは出来ないけどB級のアーティファクトなら二個くらい同時に持てるようになった事でした」と説明を始める。
僕は確認するように「持っていけるのは剣のみだけど、今度からは剣の他に別のアーティファクトも使えると言う事?」とトキタマに聞くと「大体正解です」と言われた。
そのままトキタマが説明を続けたので聞いていると「お父さんの剣は途中で成長してB級の上位の剣になってしまいました。あれが14回までの時間だったらお父さんの手に衝撃が走って剣が離れてしまっていました。ちょうど15回目の時間だったからそのまま装備できていました」と言う。
それを聞いた僕は「なるほど、だからあの時の僕には関係なかったのか、あの時に新しくアーティファクトを奪うつもりはなかったから」と納得をする。
昨日は余計なモノを持たずに最低限で結果を示そうとしていた。
だから関係のないことだったのか。
「はいです。そして今使っているアーティファクトも未成長なら持っていても大丈夫でしたが、もうすぐ成長するのが僕にはわかります。多分コイツは精製数が一定になると成長するアーティファクトなんです。今成長するとお父さんの手には余るモノになってしまって持てなくなりますよー」
そう言われた僕は手の中にある「万能の柄」を見ながら「リーンの[ろうそく][たいまつ][ナイフ]、僕の[ナイフ][鞭][刃の出るナイフ][杭][乗馬用の鞭][投石器][スコップ][ノコギリ][トンカチ][バール]で13種類か…」と口に出すと指折り数えていたナックが「何かキリが悪いな。後2個で15個で成長じゃないのか?」とトキタマに聞く。
トキタマが答える前にリーンが「…ごめんなさい。多分[ナイフ]は1種類だと思うの」と申し訳なさそうに言う。
この発言で僕はピーンときて「あ、そういう事なんだね」とリーンに言った。
リーンは頷いているのだがナックはわからずに「え?どういう事だよキョロ?リーンも」と置いていかれている感じに戸惑っている。
僕は簡単なことだと「万能の柄」を見せながら「これは、リーンのアーティファクトだって事だよ。ナック」と言う。それでもわからずに「だから何なんだよ?」と言うナックに「リーンは自分でも練習していたんだよ」と説明をしてリーンに「2種類の精製をしたんだよね?」と聞く。
リーンが照れ臭そうに「うん、私も戦えるようになりたいって思って、昨日寝る前と今朝にちょっと試してみたの」と答える。
ナックは「それで、何を作ったんだよ?」と聞くと「え、恥ずかしいな」と言うリーン。
リーンが恥ずかしがっても「照れるなって、どんな武器なんだよ」と詰め寄るとリーンが顔を赤くして「武器って言うか…、あ、戦えないことはないんだよ。でも…キョロの後だとちょっと恥ずかしい」と言った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナックはリーンが精製したモノを気にしてしつこく聞いている。
この流れは正直良くない。
ナックの言い方はしつこいのでこのままリーンがイヤイヤ見せて不機嫌になる確信がある。
そしてナックは見るまで納得をしない。
僕は話を纏めるためにも「大丈夫だよ。リーンが考えて精製した武器を見せて欲しいな」と言いながら「万能の柄」を渡すとリーンは恥ずかしそうに「うん、…笑わないでね?」と言う。
ナックは「平気だぜ、なあ!キョロ?」と聞いてくるので僕が「うん」と答えるとようやく気をよくしたリーンが「【アーティファクト】!」と唱えた。
僕とナックはリーンの手元を見た。
手元には何と大きなミートフォークがあった。
ナックが驚いて「フォークぅ?」と言っていて顔には「まさかフォークだとは」と書いてあって、ナックの顔を見たリーンが「ほら、笑わないでって言ったのに、ナックおかしいって思ってる!」と不機嫌になる。
ナックが取り繕うように「お…思ってねぇよ」と言うのだがリーンは不機嫌そうにしているので僕が「ねえ、リーン。何でミートフォークなの?」と聞くと「え?戦う相手って骸骨とかお化けじゃない肉のある生き物だから、肉に刺さったら痛そうな武器を考えたの」と答える。
僕にはその発想は無かったので驚いてしまうと「ほら、キョロもおかしいって思ってる!」とリーンがまた少し不機嫌になる。
僕は「そんなんじゃないよ、僕にはない発想だったから驚いただけ、リーンは凄いなぁ…」と付け加える。本当、女の子の発想は恐ろしい。
ナックは不機嫌にさせた事も気にしないように「こ…これで13種類だよな?あと1種類は何を精製したんだよ」と更に聞くと不機嫌なリーンは「そう言ってナックはまた笑うでしょ?」と言う。
ナックは慌てて「笑わねぇよ、なあキョロ?」と僕に話を振り、僕も「うん、笑わない。笑わないよ」と話をあわせる。
リーンは「本当、笑わないでよね」と更に釘を刺してくる。
ナックが「笑わないって、だから俺たちに見せてくれよー」と言うともう一度「わかった、本当に笑わないでよね」と言われ、ナックが「うんうん、それはもう」と言うとようやくやる気になってくれたようでリーンは何故か「万能の柄」の先を前に突き出すと「じゃあ、ナックとキョロは危ないから離れて」と言った。
ん?
危ない?
聞き違いを疑うと「危ないから離れて!」ともう一度言われる。
え?リーンは万能の柄で何を精製したんだ?
危ないって、僕だってそんなものを精製しなかったぞ、リーンは何を精製したんだ?
離れたほうがいい気がした僕は「ナック、離れよう…」と言って言われた通りリーンから離れた。
僕達が十分に離れたところでリーンが「行くわよ…、【アーティファクト】!」と唱える。
僕は目を逸らすことなくリーンの手元を見た。
横でナックが「おい、マジかよ…」と驚いている。
僕も驚いている。
そこには1メートルを超える長さの太くて大きな針があった。
確かにそのまま前に立っていたら僕たちに刺ってていたかもしれない。
この針は何に使うのだろう?
僕は鎧を貫ける杭を精製したが、リーンは僕とは違う別の武器を思いついていた。
僕は「長さは申し分ないけど、これだと兵士の鎧は貫けないね」と思わず言ってしまうとナックが慌てて「おいキョロ!」と言って僕を咎める。
ハッとした僕は「しまったリーンの気を悪くしてしまったかもしれない」と思いながらリーンの顔を見てみると、リーンはあっけらかんとした顔で「そういう武器じゃないのコレ」と言った。
そういう武器じゃないという部分に「え?」と聞き返す僕に「兵士に近寄りたくなかったから長い武器を考えたのだけど、でもあまりいい武器が思いつかなくて、それで針を見て思いついたの」と経緯を説明するリーン。
針を思いついて作っただけあって針なので僕は「確かに針だね」と返すとナックは「これでどう戦うんだよ?」と質問をする。
リーンは自信たっぷりに「え?兵士が来たら目潰しするのよ」と言った。
その返しに僕とナックは「え?」とハモった。
肉を刺すフォークに目潰しをする針…女性の考えることは恐ろしい…。
僕は笑うとかよりも恐ろしくなって引いてしまっている。
昨日、リーンは僕に人が変わったと言っていたが、リーンも十分に変わったと思う。
ナックが「これで14種類か…、あと1種類精製したら成長か、何か考えちまえば?」と簡単に言ってくれる。
僕は「いや、やめておいた方が良いいかも」と注意するとナックが「なんでだよ?」と聞いてくる。
「リーンはまだアーティファクトを持って二日目だから急に成長をさせると「万能の柄」自体を持てなくなってしまうかもしれない」
ナックは「そんなことないかもしれないだろ?リーンはどうしたいんだよ?」と言う。恐らくだがイメージが形になる「万能の柄」が面白いしアーティファクトが成長をするところをどうしても見てみたいのだろう。
何とかならないかという感じでリーンの意見を聞いている。
リーンは「私は…持てなくなるのは嫌だけど成長はさせてあげたいかな?トキタマちゃん、私のアーティファクトは成長すると持てなくなるのかな?」とトキタマに聞くと「多分大丈夫ですー。駄目だった時にはお父さんがちょっと前に跳んでやり直してくれますよー」と答えた。
それを聞いたナックが「お!そうか!その方法があったのか!じゃあリーンも失敗できるじゃないか」と軽々しく言ってくれる。
跳ぶと聞いたリーンは「…やっぱりやめておく。失敗してキョロに何とかしてもらうのも良くないと思うの」と言って「万能の柄」をしまうとナックとトキタマが「なんだよつまんないなー」「つまんないですねー」とブーブー文句を言っている。
だが「万能の柄」はリーンのアーティファクトなのだから周りがとやかく言うものではない。
話を戻すと昨日の成長で、僕は持って跳ぶ事はかなわないものの、今の時間の中で使えるアーティファクトが増えたと言う事らしい。ただし、それもB級の未成長のもの限定で仮に使用中に成長をすると今の僕には持てなくなるらしい。
「万能の柄」の事が終わった事でナックが「なあなあ、俺も「大地の槍斧」を使えば成長するのか?成長したらキョロみたいに二個持ちとか出来るようになるのか?」とトキタマに聞くと「無理ですね」とトキタマが無情にも言い切った。
ガッカリする表情のナックにトキタマは「複数持ちは特定の人や僕を授かったお父さんにしか出来ません」と説明をする。
そう、僕は昨日の夜、トキタマが未成長でもリーンの「万能の柄」を使えた。
僕はその事を思い出しながら「トキタマ、君は僕がアーティファクトを同時装備できる事も知っていたんだね?」と聞くと「はい!」と気持ちのいい返事をするトキタマ。
このやり取りにナックが「何で言わないんだよ!」とトキタマを怒る。
僕はトキタマのタイミングに合わせて「聞かれなかったから」と言うとトキタマも同時に「聞かれなかったからですー」と言った。
ナックが面食らった顔で「え?」と言うとリーンが「何それ、キョロ面白い!」と笑う。僕は「トキタマは基本的に聞かないと答えてくれないんだ」と説明をすると2人は不思議そうにトキタマを見た。
コミュニケーションが取れるからたまに忘れてしまうが、トキタマはアーティファクト。
人とは違う考え方なのだ、多分トキタマの優先順位は一番がトキタマ自身の事、僕にアーティファクトを使わせること。二番が僕の身体、僕がアーティファクトを使えなくならないように気を付ける事なのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕はリーンに「万能の柄」の説明をした後で昨日のナックの戦い方をナックに説明していた。
説明を聞いたナックは「キョロも酷いよなー、何で俺の記憶と跳んでくれなかったんだ?」と言う。
…行きたくないって懇願したのはナック、君だよ。
とは言えないので「リーンとナックが話し合って決めてくれたんだ。2人がお互いは覚えていないけど跳んでみてその話を今みたいに僕が伝えて、リーンが避難誘導とナックへの戦闘指示をやってみると言ってくれたんだ」と伝える。
嘘ではない。
この説明で納得をしたナックは「そっかぁ。まあ、前の時間の俺がやれた事は今の俺もそのうちやれるようになると思うから頑張って精進するよ」と前向きに言ってくれる。そこに合わせるようにリーンが「頑張ってね、ナック」と言ってナックを応援してくれた事で話は何とか纏まってくれた。
僕は今のこの流れならもう1つの用事を済ませられるなと思って「ナック、頼みを聞いてくれるかい?」と言う。
思ったとおり気分が前向きのナックは「お、どうしたんだよ?」と聞いてくる。
「一緒に跳べないとしても、アーティファクトの2個持ちが有益な事には変わらない。またいつ何があるかわからないから試してみようと思うんだ」
僕はあえて何がとは言わずに話し出し「ただ広場で試すと村長達に何を言われるかわからないだろ?だからさ…」と続けると流石は幼馴染。何も言わなくてもナックは「そう言うことか、あの兵士達のアーティファクトを持ってくれば良いんだな!」と言ってくれる。
この流れになれば「頼めるかな?」と聞くだけで「お安い御用だぜ、任せておけ!」と言ってナックは広場に走っていった。
どこにアーティファクトがあるのか知らないのできっとナックは手間取るだろう。
これで僕はリーンと2人きりになった。
リーンは「キョロが積極的に試すなんて珍しいね」と意外そうに僕を見る。僕は少しだけ困った風に「ああ、あれはナックにお使いを頼む口実だよ」と告げると「え?」と聞き返すリーンに「僕はリーンと2人きりで話がしたかったんだ」と言った。
「私と話?」
「うん、昨日はよく眠れた?」
「え?…うん」
「良かった。昨日は怖い思いもしたし、リーンは僕と一緒に跳んでくれただろ?それに跳ぶ前の弱りきったナックと君達が変わったと言う僕を見てしまっていたから、何というか違和感のようなものを感じて悩んでいるんじゃないかと思ったんだ」
昨日話せなかったことを今この場で早いうちに済ませてしまいたい。
そう思ってナックにお使いを頼んだ。
リーンは少し俯いて黙った後、僕の方を見た。
「それは凄く怖かったけど終わった後にキョロが少しだけいつものキョロに戻ってくれた感じがしたから平気だったよ。ナックもあのナックはたくさん兵士を殺して心が疲れて居たんだろうけど今のナックはいつもと変わらないナックだったから大丈夫!」
そう言ってくれた顔は無理をしていない普段のリーンだったので僕は「そう、それなら良かった」と言って安心をした。
この流れで続けて質問をする。
「後は、昨日の成人の儀の事で聞きたいことがあってさ」
成人の儀と聞いて「なに?」と不思議そうな顔をするリーンに「リーンが行った時、「神の箱庭」はどうなっていたのかなと思って…」と聞くとリーンは「え?花が沢山咲いていたわ。暖かかったから春かなって思っていたの?」と言って思い出すように話し始める。
「それで、言われた通りに真っ直ぐ歩いていたんだけど途中で道が2つに分かれたの、私はどっちに行ったら良いのかわからなかったから少し困ったんだけど、右の道は赤い花が咲いていて左の道は青い花が咲いていたの。私、昨日は赤い花が綺麗に見えたから赤い花の方に行った。そうしたら赤やピンクやオレンジの綺麗な花が沢山咲いていたの」
僕は相槌のように「それで嬉しくなって歌ったの?」と聞くとリーンが「え?歌!?何で知っているの!?」と驚いた顔をした。
僕は驚いた顔をされた事が楽しくて「神の使いから聞いたんだ」と説明をする。
「リーンがどの辺りに居るのか心配で神の使いに聞いたら歌っているよって言っていたよ」と続けるとリーンは顔を赤くして「やだ!恥ずかしい…」と言った後で「それでその奥に進むと祭壇があったわ」と説明をしてくれた。
今の話の通りだとリーンには「万能の柄」以外の、他の可能性があったのか…、やはりナックが居ない時に聞いて正解だったな…。
いくらなんでもナックが聞いたら悲しむかも知れない。
僕が「リーン、道が2つあったことはナックには黙っておいてくれるかな?」と言うとリーンは「え?どうして?」と言って不思議そうな顔をする。
僕は「神の箱庭」は道の数だけその人が授かるアーティファクトの可能性があると言う話をした。
この説明で納得をしたリーンは「そっか、ナックは一本道だったって言っていたよね?」と言う。
「うん、リーンは赤い花を選んだから赤い柄の「万能の柄」が手に入ったんだと思う。まだ別の青い花の可能性もあったけどナックには「大地の槍斧」以外の可能性は無かったから…」と最後まで言う前にリーンは「そうね」と納得してくれた。
リーンは「万能の柄」を見ながら「でもちょっと残念。青い方はどんなアーティファクトだったんだろう?」と言う。僕は落としどころとして「青い方だったらきっと僕はリーンからアーティファクトを借りれなくてみんなを助けられて居ないんじゃないかな?だから赤い方で正解だったんだよ」と言った。
リーンは「万能の柄」を見ながら頷いて「うん、そう思うことにする」と言うと「…キョロはこの2日で色んな顔を見せてくれるね。昨日の兵士を何人も殺しても顔色1つ変えなかったり、戦えないって泣いたナックを見て居た時の怖い顔。そして今の優しい顔…」と話した後で僕の顔を見て「…私は優しい顔がいいな」と言った。
リーンの本音。昨日の僕は本当に嫌だったんだと思う。
僕はその気持ちで「うん、僕だって無駄に殺したい訳ではないし殺したりなんてしないよ。あの時は、もうそうするしかないってだけだから」と説明をした。
リーンは「そうだよね」と言って困った顔をすると「キョロ、忘れないでね。キョロもキョロが言う村の皆なんだからね。キョロだけが犠牲になるのは嫌だよ」と言う。
僕はリーンが安心できるように「うん、そうだね。ありがとう」と言って微笑んだ。
懇願するような心配するような優しい顔で「キョロだけが犠牲になるのは嫌だよ」と言ったリーンの顔がとても印象的だった。
あの顔をされたら安心できるように微笑むしか出来ない。
でもね、リーン。
僕はひとつだけみんなに言えていない事があるんだ、「トキタマの呪い」とあのフードの男が言っていた事を「お前は何をしても死ねない」この言葉が文字通りの意味だとしたら、僕はもうみんなとは違うんだ…。
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