第59話 テツイの告白。

奈落の出口には「大地の核」に住み着いていたあの侍風の男が居た。

ルルが「おお!来てくれたかモノフ!!」と言って侍風の男、モノフに駆け寄る。


「私にしか斬れないモノがあると…」

「ああ、昨晩の見立て通り、モノフにしか斬れないモノだった、今すぐ頼めるか」


ルルの言葉にモノフは「構わぬ」と言ってアーティファクト「暴食の刀」を抜いた。

赤黒い刀身が禍々しさを際立たせる。


モノフが「それで、斬るモノは?」と聞くとルルは「これだ」と言ってテツイの服を剥ぐ。

今も成長している以上、もう周りの目等と言って居られないのだ。


「急を要しているのだ。この左胸に埋め込まれたアーティファクトのみを斬って欲しい。出来るか?」


モノフは目をしかめてテツイの胸を見て触りながら「これは…アーティファクトか?」と聞いた。


ルルが頷きながら「ああ、昨日試し喰いをしてもらった人工アーティファクトと同じ分類だろう」と言うと「そうか」と言ってテツイが「暴食の刀」の剣先でテツイの胸をつついて見て「むぅ…」と言って唸った。


「どうだ?」

「並の、C級くらいのアーティファクトならば今ので霧散するのだが…どうにも硬い」


ルルが「出来ぬか?」と聞くとモノフは鋭い眼光でルルを睨み「出来ぬとは言っておらん。全力で斬り伏せる」と言うと「暴食の刀」を斜め上に構える。

袈裟斬りの構えに見える。


モノフの仰々しさにテツイが慌てて「だ…だだ…大丈夫でしょうか?」と聞く。

モノフの自信ありげな「安心しろ、ただの据物斬りだ」という声にテツイも俺達もホッとする。


だがいくら待ってもモノフは集中しているのか動こうとしない。

カムカが我慢できなかったのだろう「ちなみにやったことは?」と聞いてしまった。


「ない!」

「「「え?」」」

俺達は声を揃えて聞き返すとモノフは「だが出来る。私なら出来る!」と言った。


このモノフの言葉にテツイが限界といった顔で「えぇぇぇぇっ!?」と言って情けない顔をする。

だがルルが「安心せよ。今のお前はまだ死ねぬ身だ」と言うとモノフは「何と!それは心強い」と言ってウキウキと剣を構える。


息を整え、そして集中をする。

多分さっきのは緊張だったのだろう、顔つきも何も違う。

辺りは一瞬シンとなる。


その瞬間「【アーティファクト】!」と言って前に出たモノフの袈裟斬り。

テツイの胸に付いている「悪魔のタマゴ」を狙った一撃は見事に命中してパキンと言う綺麗な音を立てて真っ二つに割れ落ちた後で霧散した。

周りに出来た人だかりも「わぁぁぁっ!」と歓声を上げている。



「むぅ…?これは中々のもの。本当に喰らってしまってよかったのか?」

「ああ、構わぬ。それどころか食べてもらえて感謝している」


「そうか、また機会があればよろしく頼む」

「こちらこそ」


そう言ってモノフと別れた俺たちはひとまずナオイの所にテツイを届け、今までの経緯と事情を話すとナオイは「このバカ!!何で一言言わないの!?」と大泣きしながら怒っている。


「姉さん、ごめん」

「ごめんじゃないよ!急にアーティファクトも使えなくなって、帰ってこなくなってどうしたのかって心配していたらそんな変なものを身体に埋め込まれていただなんて!!」


ナオイは溜まった心配をぶちまけるように言い続けているので俺は「とりあえず今日はここに居ろ」と言う。俺の言葉に「え?」とテツイが驚いた顔をする。


「当たり前だろ?今は病み上がりみたいなものなんだから。それに俺達は今の出来事をウノ達に報告をしてくるだけだ。もう奈落には降りないから今日は姉弟水入らずでじっくり説教されるといい。ナオイ、頼めるな?」


「はい!」

「えぇぇぇぇっ!?」


テツイのいつもの返事に皆が笑う。


これで済めば良かったのだが…テツイがベッドを降りると俺に向かって土下座をした。


「おいおい、どうしたんだよテツイ。別にそんなかしこまって感謝する事じゃないし、するとしたら俺じゃない。ルルにだろ?」


「いえ、僕はツネツギ様にお話ししなければいけない事と謝らなければいけない事があります」

土下座をしたままのテツイが神妙な口振りでそう言ってきた。

何があると言うのだ?

今までの役立たず振りなら今後取り返せばいいのに…俺はそんな事を考えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


土下座を始めたテツイが「ツネツギ様とミシロ様が食べる食事に毒を盛った者が居た事を知っていて黙っていました」と言った。


…テツイは何を言った?

俺の心はテツイの言葉をうまく処理することが出来なかった。

その間もテツイは「すみませんでした。あの女中が僕の胸に「悪魔のタマゴ」を仕込んだ「あの女」です」と続ける。


俺は「え?御代に毒…ってお前が?…え?何言っているんだよ?え?訳わかんねぇ」と言うと無意識に勇者の腕輪から光の剣を出していた。


それに気づいたカムカが「何やってんだ」と言いながら俺を羽交い絞めにし、その隙にルルが俺に時のアーティファクトで首から下の時を止めていた。

アーティファクトとはこんな使い方も出来るのかと少しは驚いたが、今は怒りでそれどころではない。


「あんたなんていう事を!」と怒るナオイを制して「話を聞かせてくれ」そう言ったのはルルだった。


「あの日、勇者召喚が成功し、ツネツギ様とミシロ様に食事を取りに行った時の事です」


城の中で1人の女中に話しかけられたテツイの視点でイメージしていく。


「はぁい、久しぶり。私の事覚えてる?あ、無理かー、あの日は今日の姿とも違っているしね」

「あの、どなたですか?僕は城に4年勤めていますが、あなたを見たのは初めてだと思います」


僕はこの女性を見ているとたまらなく不安になった。そうしている間も女中は「じゃあ、こう言えば思い出してくれるかしら?」と言う。


一体何を言っているんだ?と思う僕に向かって女は「お胸のアーティファクトは大きくなったかしら?それとも必死に4年間我慢しているのかしら?」と言って笑った。


……その笑顔と言葉の意味を理解した僕の全身から汗が噴き出してきた。


「あなたが、僕に「悪魔のタマゴ」を…」

「はい正解―。よくできましたー」


僕は怒りに満ちた目を向けても彼女は飄々としていて、それがまた恐怖を助長させていきました。


「今日はね、勇者召喚が成功したみたいだからイタズラしに来ちゃった。そしたら何?勇者って2人も居るのね。どっちが本物?」


何も答えない僕に向かって女性が妖艶な笑みで笑いながら「言えない?じゃあ胸のソレ、成長を早めちゃいましょうかしら。ふふふ…」と言った。

妖艶でいやらしい感じもするのだが、とてつもなくその笑顔が恐ろしかった。



それでも答えない僕に向かって「まあ、いいの。そんな事は。今から食事でしょ?」と聞いてくる女中。


「え?」

「それ位は言ってくれてもいいでしょ?だからね。私は毒入りのご飯とそうでないご飯を用意したの。どっちが食べても私はそんなに困らないもの。ただ実験をしたいだけだしね」


「実験?」

「ええそうよ。貴方の胸のソレも、他にも仕込んできたアレやソレもみんな実験。今回もそう。勇者に毒は効くのか?勇者の仲間が毒を盛られたら勇者はどうなってしまうのか?実験よ、実験。楽しくない?」


そう言うと一人で満足そうに女性は笑いながら恍惚の表情で身体をしならせた。


「あら見とれているの?いやらしい子。でもね、そんな事もどうでもいいわ。ただ一つ。邪魔しないでね」


呆然と立ち尽くして何もできない僕に対して彼女はそう言ってきた。


「邪魔…?」

「そうよ、毒を食べる前に小屋に戻ったらその場であなたの時間を進めるわ。その後でお姉さん。町にいるでしょ?お姉さんにもあなたの秘密を教えて同じ境遇になって貰おうと思っているわ」


「…!?姉さん……」

「姉と弟の2人で支え合ってきたのよね。今もお姉さんに少しでも残せるものを残そうとしているからアーティファクトも使わずに、一日でも長くお城に努めているんでしょ?……ああ、お姉さんを同じ境遇にするのはやめたわ。勇者が食事を食べる前に小屋に戻ったらあんたのタマゴを孵化させるわ。そしてお姉さんを自分の手で殺すと良いわ」


もう、僕はその言葉に抗いようが無かった。

せめて、偶然を装い。毒の進行が進む前に命を…残り時間を削ってでもツネツギ様とミシロ様を助ける。

それしか出来なかった。


僕が伝えたかったことはひとまず伝えた。

今目の前で、目に怒りを燃やしているツネツギ様は僕を許さないだろう。

身体が動くようになればミシロ様が味わった苦しみの一部でも償えと僕を八つ裂きにするかもしれない。


だが、せめてあと一つは伝えなければならない。


「まだ、まだあります。もう少し聞いてください」


そう言って僕は続けた。


「あの女性から無理矢理も含めて授けられたアーティファクトの話です」

「4年前から今までの間に、あの女性がこの国に授けたアーティファクトは全部で3つです。「暴食の刀」と「悪魔のタマゴ」が2つ。ちなみに「悪魔のタマゴ」を植え付けられたのは、僕と……イー様です。イー様はアーティファクト反対派のお人です。なので「本当にアーティファクトを使わずに生きていけるのか実験をしましょう」と言ってイー様の身体に「悪魔のタマゴ」が植え付けられました。イー様は僕の為にとご自身の身体でどうにか処置できないかと色々と試してくださいました。今もまだ試していると思われます。どうか、僕はどのようにされても良いのです。ただイー様は助けていたがけませんか!?」


そう話している間にツネツギ様の停止時間が終わっていたようで一歩、また一歩と僕の元に来る。


…僕は斬られるのだろう。

そう思ったが、ツネツギ様の手にはもう光の剣は無かった。



僕の横に来たツネツギ様は姉さんを見て「ナオイ…俺の代わりに説教を頼む」と言った。

一瞬の間の後で姉さんは「はい!愚弟がご迷惑をおかけしています!!ツネツギ様の分まで説教しておきます!」と返す。

これに僕は驚いて「え?」と聞き返してしまった。


ツネツギ様は呆れ顔で「イーを助けてやるって言っているんだよ。時間が無いんだろう?」と言ってくださったので僕は「はい!ありがとう…ありがとうございます」と言って見送った。




俺達は城に行く前にモノフの所に行く。

モノフは気分良さそうに鼻歌混じりで「おお、先程は世話になった」と挨拶をしてくる。

俺は「いや、俺たちの方こそ」と返すとモノフは「それで?まだなにか?」と聞いてきた。

俺が「お代わりがあるから一緒に来てくれ!」と言って4人で走り出した。

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