第60話 「創世の光」。

イーの奴を治しに来ると城は騒然として居た。

何があったと言うのだろう。


中に入ると死屍累々と言うのが相応しい感じで兵士達が倒れている。

声をかけるが皆昏倒していて返事はない。その姿を見た俺は嫌な予感がして、たまらず御代が心配になり駆け出した。



何故、嫌な予感というのは当たるのだろう。

ウノの部屋は荒らされていて、部屋の隅でウノが倒れ込んでいた。


ウノをカムカとルルに任せて俺は隣の部屋へ走る。


「御代!」と言いながら扉をくぐる俺は「お兄、どうしたの?」と言う声を期待したが御代はいなかった。

それどころかこちらの部屋も荒らされていて護衛の兵士達も倒れている。


護衛の兵士を助け起こしながら「おい!何があったんだ!!」と声をかけると後ろから「あの女です…」と聞こえてきた。声の方を振り返るとウノがカムカに肩を借りてこちらに歩いてきていた。


「ウノ!」

「姿形は当時とは違っていましたが、間違いなくあの女…パーンでした」


ウノの]話ではあの女がいきなり城に現れて御代を出せと言って暴れまわり、最後には御代とイーを奪って行ったと言う話だった。

俺は起きた事実を恨めしそうに思い「くそっ!どうして御代が…」と口にするとウノは「あの女は、実験だと…」と言った。


また実験か!クソが…


「それで!御代とイーはどこに?」

「あまり遠くに行って探せなくても困るから中庭に行くと言っていました」


「中庭だな!」

「私がわかる!こっちだ」


ルルが先導してくれて俺たちは中庭を目指した。

御代が心配で心がざわつく。



中庭に続く道、目印のように兵士達が倒れている。

初めは1人ずつカムカが見ていたが、何故か全員倒れているだけで誰一人として死んでいないので今はもう兵士達で足止めを食らうことなく先に進む。


「見えた!そこが中庭だ!」

ルルが指差した門を開けると、一面の花なんて事はなく、イーストの現状を現すように枯れ果てた中庭があり、真ん中に1人の女が立っていた。


女は女中の格好で鼻歌交じりに立っている。


俺は光の剣を女に向けながら「御代は何処だ!」と聞く。

言わなければ切り捨てる。

そう言う意思表示だが、相手に通じたかは知らない。


女はこちらを向くと舌舐めずりをしながら「あら、勇者様のお出ましね」と言った。


そのままカムカとルルを見て「後はサウスの筋肉さんにルルさんね」と言った後で「ルルさんお久しぶり。随分若くなっちゃって。今は見た目が変わっているからわからないかしら?」と笑い、そして後ろのモノフを見ると「あらあら、会えて嬉しいわ」と顔を紅潮させて喜んだ。


相手に合わせている余裕の無い俺は一歩前に出て「御代は何処だ!」と怒鳴ると女は「またそれ?つまらないわ。そんなにがっつかないの」と馬鹿にするように言った後で「とは言えお兄様は心配よね?見る?【アーティファクト】」と言った。


女の前に布で覆われた何かが出てきた。布を見る俺に「あ、これ?これはね「光と闇の布」って言う私が作ったアーティファクトよ。これを使えば音も光も自在に遮る事が出来るの。勇者様もここにある事に気付かなかったでしょ?」と言って女は布を取る。


中には透明でガラス張りの多面体に入れられた御代が必死にガラスを叩いている。

何か叫んでいるのだろう。

口は必死に動いているが、声は聞こえない。


「ふふ、これは「光と闇の檻」この中に居ると時間は過ぎないけれど息はできるのよ」


その説明の後で「ただね」といやらしい顔をして続けた。


「ただね、中は外の声が聞こえないで自身の声だけが響くし、中は多面体の鏡張り。息は出来るけどちょっと息苦しい感じなの。いつまで心が保つかしら?早く助けないと発狂しちゃうかも知れないわ」


女は「アハハハ」と笑い声を上げてこちらを見ている。


俺は「ふざけんな!!【アーティファクト】!!」と言って前に出ると光の剣で檻を斬りつけるが刃は檻に入らなかった。



「実験成功ね。S級のアーティファクトでも壊せないなんて素敵…」


あの女は身体をくねらせてウットリとした顔を浮かべると「ルルさん、人工アーティファクトの資料ありがとうございます。お陰でこうして沢山の実験が出来ていますわ。今までみたいに箱庭の裏側まで行って禁忌のアーティファクトを取ってくる必要がなくなりましたもの」と言った。


俺はそんな事を聞かずに一心不乱に斬りつけていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は剣を振るい続けるが一向に檻には届かない。


周りなんて見ていられない。「くそっ!くそっ!御代!」と言っている俺の耳に聞こえてきたのはあの女の「あら、熱心なお兄様。そんなお兄様には朗報よ。私を倒せれば檻は消せるわ!頑張って!」という声だった。

俺はその声が終わるかどうかの時には剣を横に振ってあの女に斬りつけていた。



俺の剣はわずかに女の頬を掠っただけで終わった。

だが傷が付いた。檻は傷つかない。簡単だ。さっさと倒して御代を開放する。


「あら速い。そして躊躇もない。よくある女子供は斬れないっていう勇者様では無いのね?」

「当たり前だ…、俺の最優先は俺の家族を守る事。その為になら女だろうが子供だろうが斬り捨てる。それにお前は俺を怒らせた。容赦なんかする筈がない」


「へぇ、格好いい。でも私の頬を斬りつけた貴方は許さない。まずは四肢をぐちゃぐちゃにして動けなくしてあげる。それで妹が発狂する様をじっくりと鑑賞させてから殺すわ!」

「その前にお前を殺せばいいだけだ!」


そう言い斬りつける俺をかわしながら女は【アーティファクト】と唱えた。

するともう1つの布が現れる。


女が布を取ると中からは上半身裸のイーが猿ぐつわを噛まされて磔にされて出てきた。

そのイーの胸に付いた「悪魔のタマゴ」は大きく肥大していて、胸全体を覆っていた。


あの女は俺達の視線を見て「この男ったら、アーティファクト否定派なのに助かろうとして色々試したみたいね。こんなに肥大している。もうすぐ孵化よ。そうしたら貴方達じゃ勝てないわね。アハハハ!」と高笑いをした。


「その前に助ける!モノフ!」

「承知!」

モノフが「暴食の刀」を抜くとそれを見たあの女が「そうね、それが正解」と言い、「出来ればだけどね。おいで!!」と続けると女は口笛を鳴らす。

遠くから巨大で赤い何かが中庭に入ってきた。


それは狼と呼ぶには凶々しい何かだった。

「犬?狼?」

「狼よ。野生の狼に新しい「悪魔のタマゴ」を植え付けたの。今までの「悪魔のタマゴ」は使用者がアーティファクトを使わないと成長しなかったけど、この新型は回復の力を浴びせてあげると成長するのよ。素敵でしょ?」


最悪な話にしか聞こえない。

そうなると悪魔化した狼という事になる。

狼は止まることなく俺達を狙ってくる。全員で応戦をするが、今日初めて戦うモノフも合わせると連携が取りにくい。

改めてフィルさんとマリオンに頼っていた事がわかる。


「さーてと、イーも悪魔化させなきゃ」と言った女は「あ、そうそう、なんでここまでの間に兵士を殺さなかったかわかるかしら?悪魔化したイーが自分の城の兵士を殺すのって素敵じゃない?アハハハ」と笑うとイーの猿ぐつわを外す。



「おのれ魔女め!」

「違うでしょ?私は神の使い。間違えないで」


女はイーに向かって手を突き出して「これ、知ってる?「支配の指輪」って言うの。これがあれば1人だけ言うことを聞かせられるのよ」と言って指輪をつけると「【アーティファクト】」と唱えて「さあ、右手だけ自由にしてあげるから右手を前に出して」と指示を出した。


イーは首を横に振るが右手を前に突き出した。


「はい、これあげる。見たことあるわよね?「炎の腕輪」よ。これを付けてあげるから、勇者様達に放ちましょうね」


イーは必死に抵抗をしているが女は「アハハハ。ダメよそんな。あなた如きがアーティファクトの支配を逃れられる訳ないでしょ?」と笑ってから「それにしてもイーさんって変な人よね。アーティファクト否定派なのに散々「悪魔のタマゴ」に向けて使って試したでしょ?なんで?」と聞いた。


「テツイの為に決まっている!あんな才能に恵まれた若者の為に私は犠牲になる事にしたんだ!」

「ふーん、つまんない理由。それで実験して失敗して残り時間がもう僅かって恥ずかしくない?」


「恥ずかしい事など無い!テツイはこの国に必要な人間だ!いずれ王を支える存在になる!」

「なんか白けるー。もういいや撃って」

イーは「断る」と言ったが俺たちに向けて火の玉を撃ってくる。


回避をする俺達に向かって女は「あ、勇者様知ってる?アーティファクトはね、唱えなくても思うだけでも発動するのよ。でもね、唱えないと威力は低いんだー」と説明をはじめてきた。


知らなかったし、今知りたくない。このままではどうしようもないので俺たちは一旦距離を取る事にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


距離を取った俺達を見て女が「あら、作戦会議?いいわね。頑張って!」と言うと「じゃあ、イーは火の玉が届く範囲まで休憩。ワンちゃんは連中が近づくまで待ってあげてね」と指示を出す。


クソっ、余裕ぶりやがって。

だが指示通りイーも狼もこの命令に大人しくなる。

忌々しいが今は作戦会議が出来るのはありがたい。


「どうする?」

「イーは悪魔化寸前と言ったところで猶予はない」

「あの胸の赤い「悪魔のタマゴ」を斬り伏せるにも、火の玉と狼が邪魔だ」

「ツネツギの妹はそう長くは保たないぜ」


詰んでいる。

どうしてもそう思えてしまう。

まだだ、まだ諦めるのは早い。



俺達の渋い表情をみて女が「あ、困ってる?ウケるー」と言って「アハハ」と笑うと「じゃあ、1つだけヒントをあげちゃうから頑張って考えてね」と言った。


つい耳は聞こう聞こうとしてしまう。


「この状況を打破するには「創世の光」しかないと思うの。でも残念。あの力は相当強力な使い手が居て初めて使えるのよ。力が中途半端だと、この国を滅ぼしたみたいになるの。キチンと最大限まで威力を高めて内部で燃焼させて一点集中で放てば毒も出ないし、あんな格好悪い爆発なんて起きないわ。まあ、でも無理ね。ルルさんもいい線行っているけど身体が反動に耐えられなくて途中で発動しちゃうと思うわ。そうなったらこの城くらいなら平気で蒸発しちゃう。あのテツイって子も今の体調じゃ撃ってもルルさんよりも早くバテちゃいそう」


女の言葉で打つ手が無い事を突きつけられると女も「そう。もう打つ手無しでーす」と明るく言い放ち「アハハハ。諦めちゃう?それとも頑張る?」と言った。


…何がヒントだ、駄目押しじゃないか。

苛立ちと共に「クソっ」と言う俺にルルが「ツネツギ…耳を貸せ」と言う。


「あら?まだ作戦会議?いいけどイーはまだしも妹さんが保たないわよー。アハハハ」



ルルに耳を貸すと「私が解決してやる。お前は時間を稼げ。そして呼んだら私の元にすぐ来てくれ」と言われた。


「はぁ?何を…」

「良いから!妹の時間がないのだろう?」


確かにそうだ、御代に残された時間は後どれだけあるのだろう?


「モノフ、済まない。本当ならば速度向上のアーティファクトを使ってやりたいのだが余裕がない。なんとかしてくれ」

「承知。私は変わらずにあの赤いアーティファクトを狙う」


「カムカ、言いようによってはお前が一番大変だが、あの狼を任せられるか?」

「おうよ、やってやるさ。そうすればルルとツネツギがなんとかするんだろ?」

ルルが「ああ」と言って笑う。


ルルの「よし、作戦開始だ!」の声で俺達は前に出る。女が「あら、もういい?じゃあ始めるわよ。ワンちゃん、行って」と言うと狼が俺達を狙って突進してくる。


カムカが「ワンコロは俺に任せろ!」と言って前に出て突きを放つが狼は紙一重でかわす。


「甘い!【アーティファクト】!」

突いた腕をそのまま薙ぎ払いにして狼に炎の一撃を放つ。

狼は「ギャウン」と言う声を上げて遠のき、カムカを睨む。


「次は俺だ!」

そう言ってあの女に斬りかかる。


「あら、てっきりワンちゃんに戦力を集めるかと思ったら1人1つなのかしら?」

「知ったことかよ!」

俺の剣は前のように女には届かなくなった。だが、余裕がある回避の仕方はしていない。


「モノフ!」

モノフは頷くとイーに向かって斬りかかる。

だがイーはモノフ狙いで火の玉を放ち続ける。

あと少しで届きそうなのだが、中々あと一歩が踏み出せないでいる。


女の「あらあら。もうすぐ悪魔化よ」という言葉にモノフが「くそ、あと少し、あと少しなんだ」と叫ぶ。


そして再度意を決しての特攻。


「【アーティファクト】」と聞こえてきた声に合わせてモノフの動きが速くなり、余裕で火の玉をかわす。


俺は一瞬声の方向を見るとそこにはテツイが立っていた。

俺は援軍の到着に「テツイ!」と名を呼んでしまった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


右手をかざしたテツイは「僕も微力ながら参加します!」と言うと「イー様は「炎の腕輪」、今の僕はB級しか持っていない。だが!!」と言ってイーの方を向いて「イー様…行きます!【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱えて3連続で指輪のアーティファクトから氷を出す。


驚く俺に「僕も姉さんと同じ氷が得意なんですよ、ツネツギ様」と言うとイーの火の玉に氷をぶつける。


当たった氷は水蒸気になり視界が悪くなるとテツイは「モノフ様!今です!」 と言った。その声に「承知!」と答えたモノフはあっという間に懐に入ってイーの胸にあった赤いアーティファクトを斬り落とした。


あっという間の出来事に女が「やるじゃない」と言って睨みつけてくる。


「ちょっとだけイライラしちゃう。テツイはこの実験が終わったら新しい「悪魔のタマゴ」を作って実験してあげる。今度は自動的に成長するの!どう?素敵でしょ!それで悪魔化したら真っ先にお姉さんを殺させてあげるわ!」

「お断りします!【アーティファクト】」


テツイはそのままカムカに移動速度を上げるアーティファクトを使った。


これによって「ようやくワンコロに追い付いたぜ!」と言って回避一辺倒ではなくなるカムカだが、動きについていけるようにはなったし攻撃も入るのだが、まだ決定打が出ていない。


「クソっ、サウスの前の王様と一緒で硬い!体色が大分灰色に近づいてきたからあと少しなんだろうが辛い!」

「カムカ様!」


テツイが氷のアーティファクトで援護をする。

これで手数は増えたのだが、やはり決め手が足りない気がする。


少しすると「あらあら、【アーティファクト】」と言ってあの女が狼を癒す。

体色が赤になった狼を見て「振り出しかよ!」とカムカが毒づく。


「あらー、振り出しじゃないわよ。勇者様の妹さんは後どれくらい保つのかしら?早くしないと大変よ。アハハハ」


女の言葉で俺は御代を見ると弱弱しくガラスを叩いていてもう猶予は無かった。

「クソっ!」と言って慌てる俺をルルが「慌てるなツネツギ!」と制止する。


ルルはそのまま「テツイ、モノフ!カムカの援護を。カムカ!私が合図をしたらその狼をあの女にぶつけろ!ツネツギは私の元に」と指示を出した。


「なんで俺はこっちなんだ?」

「お前は後ろから私を抱きしめる係だ」

突然の申し出に俺は「はぁ?」と言って素っ頓狂な声を上げてしまう。


「今から私は「創世の光」を使う」

「え?それって…大丈夫なのか?」


「それしか方法がない。長期戦でもいいのだがお前の妹が耐えられん」

「…わかった」

そう言うと、俺はルルに後ろから抱き着いた。


肩から手を回すと「そこじゃない。腰に手を回せ」と言われ、俺は「ああ、わかった」と言ってルルの腰に手を回すと一つの事に気付いた。


「ルル、お前震えているのか?」

「当たり前だ、私の自信は準備と経験からくるものだ。こういうぶっつけ本番は好きではない」


何という事だ、あの自信に満ちたルルが少女の顔で震えている。

だが、それがかえって俺のやる気に火をつける。


「大丈夫だ。きっとうまく行く。向こうの3人もルルを信じているから戦えているんだ」

…それは無責任な発言なのかもしれない。

失敗すれば辺りが蒸発するアーティファクトを使わなければいけない重責は相当だろう。


「いいか、あの女が言っていた私の身体が耐えられない可能性を考えてツネツギに頼っている。私の身体が「創世の光」に負けないように支えてくれ。そして意識を失わないように語り続けてくれ」

「わかった」


「行くぞ」

そう言うとルルは胸の宝石を捻る。上に頂点の無い状態。

ノレノレだ。


ノレノレは引き気味の笑顔で「ツネツギー。照れちゃうねー。でもノレノレ頑張るから支えていてよね」と言う。俺が頷いて「ああ、やってくれ」と言うとノレノレは懐から黒い筒を取り出した。


それに気づいたあの女が「あら、使ってみるのねルルさん」と言っている。

あの女はノレノレを知らないのかもしれない。



ノレノレは真剣な表情で「創世の光」を構えて「【アーティファクト】!」と唱えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ノレノレが「創世の光」を発動させると黒い筒からは物凄い光があふれ出てきた。


「重い…なにこれー?」


身体能力を強化されたノレノレが「創世の光」の反動、重さに驚いている。

すかさず俺が「俺も一緒に持つか?」と聞くとノレノレが「ダメ、ツネツギは身体を支えて…くるよ」と言った直後凄い衝撃が前から押し寄せてきて俺は「え?うおっ!?」と言ってしまう。


こんなもんに耐えられる奴なんて居るのか?

神様は何だってこんなもんを作ったんだ?

意味が分からん。


「ツネツ…ギ……、黙…らないで、……喋って!」

「ああ、済まない。考え事をしていた」


「今…考え事…なん…てする…の?何を…考えて…いた…の?」

「神様は何で「創世の光」を作ったんだろうってな」


「何だ…ろう?…作れたから?……かな?」

俺は後ろなので比較的話しやすいが、前のノレノレは話しにくそうだ。

それでも話し続けるノレノレが凄い。


そんな事を考えてしまうと「黙……るなー……」と言われてしまう。


「ごめん。あとどれくらいだ?」

「多分…まだ、……もう少し限界まで高めないと……」


「わかった!俺も耐えるからノレノレも頑張ってくれ!」

「うん」

ノレノレが必死に返事をしてくれる。

何だろう?喋っていないと意識を持っていかれるのと言ったがそんなものなのだろうか?


俺達を見てあの女が「へぇ、随分頑張るわね。ルル様、勇者様―。今大体半分くらいよー頑張ってねー」と軽薄な言い方で揶揄してくる。


「ノレノレ、……あの女嫌い」

「ああ、同感だ」


「ノレルも…ルノレも…ルルも…嫌いだって………」

「気が合うな」


「ツネツギ…ちょっと…危なくなっ…てきた…。もう少しきつく抱きしめて。意識が飛ばないように話しかけて」

「わかった!何を話す?好きな食べ物は?」


「今……それ……聞く?」

「ダメか?」


「うう……ん。気が紛れる。丁度いいかも」

「そうか」


「ノレノレと…ルノ…レ……はお肉が好き……。ノレルはお野菜。…野菜って言えばね、昔……ルルは…石で野菜…を作って…サラダにして食べたんだよ」

「健康に良さそうだな」


「後ね……、内緒だけど…ルル…は甘い…お菓子が……大好き…なんだよ」

「ほう、それはいい事を聞いたな」


「後、…聞きたい…事ない?」

「後、どれだけ続くんだこれ?」


「後少し…ノレノレには……わかるよ。あと少しで放てられるよ」

「カムカ!そろそろだ!」

俺の言葉にカムカは振り向かずに「おう!!」と返事をした。


その後も俺とルルは戦闘に似つかわしくない会話をした。

驚いたのは、ルルは研究一筋で恋愛をしたことがないらしい。

見た目は悪くないのだから言い寄る男くらい居そうなものだが、本人の信条が「準備と経験が第一」なので恋愛は準備のしようもないし、経験の積みようも無いと言う事で延び延びでアラフォーになってしまったらしい。

これを話したことはルルには内緒ねとノレノレが言っていた。



「あ、撃てるよ!ツネツギ!!」

「よし、カムカ頼む!!」

「おう!!」


「ノレノレ、目標は?」

「あのおばさんとオオカミが重なった瞬間」


「わかった!カムカ!あの女の前に狼を蹴りだせ!そうしたら離れろ!!」


そういうとカムカが狼を全力で蹴り飛ばす。

蹴った先にはあの女が居る。


俺達と女の間に狼が来た瞬間、あの女は余裕の表情で「何?撃てるのかしら?やってみると良いわ」と言った。


言われなくても撃ってやると言わんばかりにノレノレが「【アーティファクト】!!!」と唱えると「創世の光」が発動した。

光が筒から一直線に伸びて、狼を捉えたがノレノレが威力に負けて後ずさってくる。

俺は必死にノレノレを支える。


ノレノレがの「ありがとう。ツネツギ」の声と共に光にさらされた狼は光の当たっている部分から蒸発をしているようだった。


「そのままあの女も」

「うん」


狼が蒸発した後も光は止まずにまっすぐ伸びた。

そして狼の後ろにいたあの女も一緒に焼く。


女は「ああ、熱い!!熱いわ!!これが「創世の光」!!凄い…」と言いながら蒸発した。

その直後、「光と闇の檻」が壊れて中から御代が飛び出してきた。

御代も限界が近かったのだろう、意識はなく床に倒れこむ。


何とかなってくれた。

俺は思わずホッとした。


俺は早く御代の元に行きたくて「ノレノレ、終わったぞ。いつまで光を出しているんだ?」と聞くとノレノレは「ツネツギー。止め方わかんない」と言った。


俺は「え?」と聞き返してしまう。

終わってなんかいなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


止め方がわからない?

確かに発動のやり方しかあの女は言っていなかった。


今もノレノレが持つ「創世の光」からは焼き尽くす光が飛び出している。

このまま垂れ流すわけにもいかない。


あ、いや。だが不用品を持ってきてここで蒸発させるのはありかも知れない?

いや、俺は何をパニックになってしまっているんだ?


落ち着け。

落ち着いて考えよう。


ノレノレがとりあえず上の方に光を向けてくれたので城は蒸発しないで済んでいる。


この間にやり方を探すために俺は「テツイー!止め方!」と言ったが即答で「わかりません!!」と言われてしまう。

まずい。イースト代表で一番造詣の深いテツイがアウトだと後は誰だ?


ここでノレノレが「あ、ルルがやってみるって言ってる。ツネツギ私の宝石を回転させてルルに戻して」と言ってきた。


…え?どっち回転だ?

さっきは右回転でノレノレになっていたから左回転だよな。


俺は背後からノレノレの胸に手を回して左に回そうとする。

「ツネツギの馬鹿―!向きが逆!これじゃあノレルちゃんになっちゃう!」

ああ、そうだ、俺は今背後に居るんだった。


宝石を逆方向に回しながら一つのことが気になった俺は「いや待て」と言って手を止める。

そして嫌な予感がしながら恐る恐る「お前ノレノレだから支えていられるんだろ?ルルになったらどうなるんだよ?」と聞いて見た。


「最悪、吹っ飛ぶかもー」

「ダメだ!!」


…しかしルルにしない事には止め方がわからない…


「カムカー!モノフー!テツイー!ノレノレの身体を俺と一緒に支えろ!!」

3人を呼んで役割分担を決めた。


テツイが右腕。

モノフが左腕。

カムカは全身。

そして俺が足だ。


今はその体制になっている。


「くすぐったいよー。早くしてね」

とノレノレが言っている。


よし、行くぞ!

俺は胸の宝石を回した。


髪色が紫になった事でルルに戻ったことが分かるとルルは「よし戻った!だいた…たたたたた…支えろ、支えてくれ!!!」と叫ぶので俺達は必死になってルルを支える。


「ふぅ、大体アーティファクトなんてもんの機能停止は毎回同じだ。終了」


ルルの声にあわせて「創世の光」から出てくる光の流量がどんどん落ち着いていき、そして最後は細くなった光が途切れて終わった。


シンとする中、カムカが「終わったー。良かったー」と言って床に座り込み、テツイはイーを助けに行った。イーは何とか間に合ったようでピンピンしている。


本当は御代が気になったのだが動けなかった。とりあえず疲れた。ひとまず寝かせてくれ。


俺は戻ってきたテツイに「テツイ、悪い…後よろしく」と言って倒れこむ。

テツイの「ええぇぇぇっ!?」という情けない声を聞いていると「私も駄目だ…ノレノレの時間が長すぎた」と言って俺の真横にルルが倒れこんできた。


追加の「ええぇぇぇっ!?」を聞きながら眠りに落ちる俺は「これで日本に帰れる」その喜びで胸がいっぱいだった。

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