第61話 俺たちの戦いはこれからだ。

あの女を退けてテツイとイーを助け出して2日後。

今日は救国のお礼を言われるのと、「創世の光」をウノに渡して俺は日本に帰る為に城に居る。「勇者の腕輪」は戦闘後無事に外れたのでテツイに返しておいた。長いこと着けていたこともあって久々の感覚に手首がスースーして落ち着かない。


城はようやく落ち着きを取り戻していた。

あの日ウノとアインツを治療したのはナオイだった。

アインツはイーがさらわれた時に真っ先に助けに入って返り討ちにあったらしい。


どうりであの日は城に来てから姿を見なかったわけだ。


そう言えば、この騒ぎで姿を見なかったと言えば王様だ。

ルルから聞いた通りの、それらしい事は言うけど何も考えていないと言うのは当たっていた。

お陰様で今日もウノから「謝辞などはこちらでやっておきますので」と追いやられていた。


これ、傀儡政治ってやつじゃないのか?


モノフは俺達の仲間と言う事でウノから礼金を貰っていた。

「ツネツギさんと居たら「暴食の刀」はアーティファクトを食べられたし、私もお金を貰えてご飯が食べられて、感謝しかありませんな」と言って笑っていた。

この先もアーティファクト絡みで困った事があったら助けて欲しいと言うと快諾してくれた。

これで俺が居なくなってもテツイやルルは安泰だろう。


そのテツイだが3大臣達からの推薦で大出世を果たした。

今後は後を継いで王を支えていける男になるのが目標らしい。


3大臣は王様と国民の手前、それとアーティファクトへの考え方だけで仲たがいをしている風に見えていたが、あれは仕事上のやり取りだけで、仕事以外では仲が良く今もテツイの事などでは仲良く相談し合っていたらしい。


カムカは明日サウスに帰ると言っていた。

俺が奈落攻略はカムカなしでは遂げられなかったと感謝を告げると照れ臭そうに「俺も勇者だからよ」と言っていた。

何でも老人の「神の使い」から神の使いの使い?勇者として育てられたことをつい先日知ったそうだ。それでイーストを調査に来たらしい。

それなら何で俺は勇者召喚でこの世界に呼ばれたんだろう?


イーストとサウスだが、カムカのお手柄もあってイーストとサウスは戦争なんかしないで助け合おうと言う事でひとまず落ち着いた。

だが、フィルさんがお妃様と言うのは今の所俺達だけの秘密になっている。


ルルは…

あー、ルルの事はちょっと怒らせてしまっている。


あの後、目覚めた俺達は喜び合った。

ルルは「創世の光」を扱いきれた事に感涙しながら抱き着いて喜んできた時は悪い気は勿論しなかった。

俺も日本に帰れる嬉しさからルルに抱き着いてしまった。


抱き着いたまま顔を赤くしたルルが「ツネツギはやはり元の世界に帰るのか?」と聞いてきた。俺はその為に「創世の光」を手に入れたんだと説明をしたらがっかりされてしまった。


そこに、ついつい浮かれてしまっていた俺はルルに「ルルも今度は恋愛が出来るようになるといいな!」と言ってしまったのだ。


「はぁ?」と言うと途端にルルの顔が曇る。


「ツネツギ、お前何を知っている?」

「いえ何も」


「そんな訳あるか!ノレノレか?ノレノレから聞いたのか!!?」

そう言うとルルが物凄い目つきで俺を睨んできた。


そして俺は観念して、ノレノレからルルは恋愛経験がない事を聞いたと伝えた。

そうしたらルルは怒ってしまい、今日までノレルが出てきている。


「余計な事を言わなきゃ良かったのに。ルルは貴方と過ごした数日を凄く楽しんでいたのよ」

一度ノレルに会った時に言われた言葉だ。


うん、悪い事をしたなと思った。


御代だが、余程辛かったのかあの後丸1日寝ていた。

そして起きて外出を希望されたのだが即却下した。

「なんで?お兄酷くない!?」と怒っていたが、これでまた新しいトラブルに巻き込まれて帰れなくなったら困る。

トラブルの種となった御代には城でゆっくりして貰う事にした。

まあ、代わりにご飯は上等なものを出して貰ってご満悦だったので一長一短と言った所だろう。


俺がこの2日間の事を考えている間に俺達以外の謝辞が終わった。


ウノが「ツネツギ様。「創世の光」をここに」と言うので俺はノレルから「創世の光」を受け取ってウノに渡す。


「確かに「創世の光」です。いただきました。勇者ツネツギ様。これでこの国はきっと救われる事でしょう」

ウノの話を聞きながら俺は一つの事を気にしていた。


そう言えば、この世界って変だったよな?

日本語で文字が書いてあるし、あの変わった世界地図の形も…

ああ、御代に見せて感想を聞けばよかった。


そんな事を考えて居ると「おお、勇者様のご帰還だ」とウノが言う。


俺は帰れる喜びから改めて御代を見た。

御代の足元は輝き、御代は光に包まれた。



ん?

御代が光に…



俺は?


「お兄!?何で私だけ!!?」

「知るか!俺も連れて行ってくれ!」

そう言って御代に手を伸ばすが、光が邪魔をして御代に触れることが出来ない。


「お兄!もし私だけ先に帰れたら、お父さんとお母さんに、お兄はニートじゃなくて勇者しているって言っておくよ!安心して!!!」

「その説明で安心できるか!!」


そのやり取りを最後に御代の姿は光となって消えた。


ウノがしみじみと「おお、勇者様がご帰還なされた」と言い、アインツとイーが一緒になってウンウンと頷いている。


俺はウノの所に駆け寄って「待てよ!俺!俺はどうしてまだこの世界に居るんだよ!!おかしいだろ!救国しただろ?「創世の光」も手に入れて渡しただろ!?勇者なんだろ?」と言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


置いてけぼりを食らってウノの所に駆け寄った俺の耳に「ははははは」と言う笑い声が聞こえたので振り返ると、ノレルはルルに変わっていた。


「ルル!?」

「ツネツギ、お前帰りそこなったんだな」

ルルはそう言うと涙を流しながら笑っている。


俺は「笑い事じゃない!俺はどうしたら帰られるんだよ!」と言うとルルは「流石の私もそれは知らん。とりあえず帰れないのならみんなに「この先もよろしくお願いします」と挨拶したらどうだ?」と言ってまた笑う。


皆にと言われて周囲を見ると皆の憐れむような目が痛い。

挨拶したくないと思って居るとテツイが「あのー」と言いながら手を挙げて俺の所に来た。


「何だよ?」

「もしかしてですが、勇者はミシロ様とツネツギ様両方だったんじゃないでしょうか?」


「はぁ?だって「勇者の腕輪」は俺に反応しただろう?」

「はい。最初に試したツネツギ様に反応しただけで、次にミシロ様が試したらミシロ様も反応をしたのではないかと思ったのです」


俺が最初で反応したが御代も反応したかもしれない?

物凄いインパクトで俺の中にその言葉が入ってきた。


「………嘘だろ?」

「仮説ですが、もし「創世の光」を取ってくる勇者がミシロ様だとすると、今回帰れた理由がハッキリするなと思いまして…」


テツイが自信なさげに言ってくるが、俺もだんだんとそんな気がしてきた。


「じゃあ、俺は?」と聞くとテツイは「それこそ、ツネツギ様は別の目的を達成されないと帰れないのではないかと…」と申し訳なさそうに言う。


…マジかよ。

俺が今までした苦労は御代の代わりで、俺の苦労は別にあると言うのか?



「………奈落で何を取ってくればいい?「地獄の門」か?」


壊れたように聞く俺にテツイは「いえ、今は別に何も求めていません」と返してくるので胸ぐらを掴んで「じゃあ、何をしたら俺は帰れるんだよ!!」と詰め寄ってしまうとこのやり取りを見たルルがまた腹を抱えて笑う。


腹を抱えて涙まで流して笑うってどれだけ性格が悪いんだ。


だが、こうなってしまっては仕方がない。

俺は皆の方を見てきちんとしてから「これからもよろしくお願いします」と言った。


目的がわからない以上前途多難だな…とほほほほ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


あの御代だけ日本に帰って俺が残された日から1週間後。

俺は城の小屋と当面の生活費を今回の謝礼として受け取り。この先の生活に関してはいまだに「勇者の腕輪」が装備できたと言う事で、イーストの勇者として国で働くことになった。


言い方はあれだがこれは公務員という奴だろう。

日本では就職浪人なのにこっちではあっさり働き口が見つかった事に対してちょっと不満もあるが、このままコッチの生活も悪くないと思い始めてしまっている。


今は奈落の探索と奈落から帰ってこない冒険者の救助をやっている。

奈落だが、現状冒険者たちによって18階まで踏破されている。

ルルが20階を越えたら複雑にするか、毎日形が変わるように再設定しようかなと言い出したので止めた。

そのうちルルの人工アーティファクトを撒いてもいいかもしれないが、ルルが驚いていたのだが国に届いたアーティファクトの量とルルが投棄したアーティファクトの数が合っていないので増えている?俺は勝手に生えてきていると思っているがそこら辺を含めて探索している。


そのルルは小屋に荷物を持ち込んで自分の家にしてしまった。

1人暮らしは味気ないのでルルが住み着いた事は歓迎している。

何だか懐かれているのは良くわかるのだが、恋愛経験がないルルが何処で何にキレるのかわからないので困っている。


昨日は食事の時に旨いと自慢してきた魚をルルのフォークからそのまま貰っただけで顔を真っ赤にして怒ってしまった。言いかえれば経験が無いのでどうしていいのか困っているのだろう。



テツイだが、3大臣の下で3大臣それぞれから仕事を教わっているので、とてもではないが俺の相手が出来ないと言う事で今の俺はルルと組んでいる。

そう言えば、最初は「私」だったのが慣れてきたら「僕」だったのをいつか弄ってやろうと思ったのに忘れてたな。まあどうでもいいや。


ルルも特別枠で城に復帰したのだが、これと言った仕事はせずに俺の後をくっ付いているのとたまに研究室で「創世の光」の毒を綺麗にする方法を考えている。



準備を終えたルルが「ツネツギ、奈落に行く時間だぞ」と声をかけるので俺は「ああ」と言って立ち上がる。もう奈落への道も慣れたものだ。


今はまだ、日本に帰れる方法がわからない。

わからないで言えば、御代が無事に帰れたのかもわからない。だがこれは帰ったと思う事にしている。そうでないと心配でたまらないからだ。


俺はここでの生活も悪くないと思い始めてはいるが日本に帰る事は諦めない。

それまではルルと奈落のある生活を楽しんでみようと思う。


奈落に向けて歩く道すがら、町で一人の女とすれ違った。


すれ違った時、その女が俺に向けて言葉を発した。

「あら、勇者様は元の世界に帰れなかったんですね。それってどうしてですかね?アハハハ」


俺は慌てて振り返ったが女の姿は無かった。

前を歩いていたルルが俺の異変を感じて「ツネツギ、どうした?」と聞いてくる。


「あの女だ…」

「何?」


あの女でルルはあの女の話だと理解をした。


「あの女、どうやったかわかんないが生きている。今すれ違いざまに話しかけられた」

「まさか…「創世の光」を食らって死なないだと…」


「ああ、俺が帰れなかった理由が分かった気がした。あの女がまだ生きているからだ」

そう確信めいたものが俺の中にはあった。

テツイの話の通りだとすると、俺があの女を倒す事。御代が「創世の光」を回収する事だったのかもしれない。


日本に帰る為にはあの女を倒す。

あの女はサウスでも目撃をされていた。

そうなればウエストにもノースにも居るかもしれない。

世界中を歩いて探す事になると思う。


俺はルルを見て「ルル、俺はあの女を探して旅に出る。この世界の事を何も知らないから一緒に来てくれないか?」と言うとルルも「ああ、お前が言わなくてもそうするつもりだった」と言ってくれた。大変心強い。


ルルにひとまず奈落行きをやめる事を提案する。

ルルもそれを了解してくれた。


俺はそのまま「大地の核」へと行き、カムカに分けて貰った通信球を取り出した。

呼びかけるとすぐに声が聞こえてくる。


「カムカか?」

「おう、どうした?」


「落ち着いて聞いてくれ、あの女が生きている」

「本当か!?」

カムカの驚く声は通信球越しでもよく分かる。


「ああ、今さっきすれ違いざまに話しかけられた」

「そうか…。わかった、こっちでも調べてみる。ツネツギはどうする?」


「俺はルルと旅に出る。一日も早くあの女を見つけて倒す」

「わかった。無理はするな。何かあったらすぐに連絡をくれ。こちらからも連絡をする」


俺とルルは通信を終えると旅の支度を始めた。


第2章 東の勇者 完。

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