第5話 跳んでやり直す。

痛む身体をおして何とか殴り飛ばされた川辺まで戻ってきた僕の目の前には地獄の光景が広がっていた。

意識せずとも口から漏れ出る「あ、…あ…あぁ…」と言う声が自分の声だとは気付かなかった。


そこには変わり果てたリーンとナックの姿があった。

リーンがナックに覆いかぶさる形で倒れている。

リーンとナック…2人の身体を一本の剣が2人を串刺す形で繋げていた。


そしてその傍らには2人の兵士の死体が転がっていた。

1人は僕を殴り飛ばした兵士だった。



これは想像でしかないが、僕が殴り飛ばされた後にリーンは飛ばされた僕を案じて川に近づいた。

それを兵士が捕まえようとしたのだと思う。

事切れたと思われたナックが力を振り絞って兵士を倒してリーンを守る。

しかし、次の瞬間には新たな兵士が現れてナックに剣を向けた。

リーンはナックを庇い2人まとめて剣で串刺しにされ、ナックも最後の力で兵士と刺し違えた。


多分、そう言うことが行われた感じだった。


僕が川に落とされた時、ナックの胸に突き刺さっていた剣はアーティファクトであったからかどこを見てもなかった。

そしてナックのアーティファクトも無くなっていた。



僕は酷く後悔をした。

もっと考えながら戦っていればこんな結末にはならなかったかも知れない。

もっと力を持っていればナックやリーンを救えたのではないか?


リーンを託されたのに手を離してしまったこと。

重なり合う2人の亡骸。


激しい後悔が僕を襲う。

産まれた時から一緒だった2人の亡骸が目の前にある。

それも無残な姿でだ、その事実が僕の胃を激しく揺さぶった。

そして僕は吐いた。


口から出てくるのは先程食べた母さん達が作ってくれていたご馳走だ…母さん達を思い出す。それを無駄にしてしまったショックからまた更に吐いた。


そうだ、村のみんな…

これ以上は見たくない気持ちと、見なければならない気持ちがごちゃごちゃになっていたが僕は村に向けて歩いた。


村が近づくと焦げた嫌な臭いが鼻につく。

その臭いから嫌な予感がどんどんと増しているが、もしかしたらと言う甘い希望で何とか前へ歩く事が出来る。


しかしその希望も一瞬で崩れ去る。

火を放たれたあの後、追い打ちでかなりの量の矢も放たれたのだろう。

生きている人間は誰も居なかった。

家々もアーティファクトを求めて荒らされた跡がある。


「何なんだよこれ?どうしてこんな…こんな…」

村長、村の人たち…誰1人として欠けて欲しくない。


ナック…何事も勢いが凄くていつも楽しい奴で、これからもずっと一緒に大人になって、僕が狩りをしてナックは木を切ったり、村にきたモンスターや動物を倒して。そうして生きていくと思っていたのに…。


リーン…いつも優しく気を使ってくれていた。僕はその気持ちに報いるためにも彼女を守ってあげなければと思っていた。将来は他の村に嫁ぐのか、ナックと結婚するのかは分からなかったけれど、絶対に今ここで死んでいい人では無かった。


父さん、母さん…もっと色々な話をしたかった。産まれたトキタマを見て喜んで貰いたかった。僕は父さんと母さんの喜んだ顔が見たかった。



…トキタマ……。



そうだ、僕にはトキタマが…「時のタマゴ」が居る。

こんな結末は変えればいい。

村のみんなが生き残る結末になるまで何度でも何度でもやり直せばいい!


僕は声を張ってトキタマを呼ぶ。

トキタマはすぐに飛んでくる。僕はそれに合わせて右手を前に出すと手の上に乗って「ここに居ますよお父さん。どうしましたお父さん?」と言ってきた。

その顔と言い方がおかしくて僕は「トキタマ…?」と聞いてしまう。


何かトキタマから違和感がする。何か変なものを感じる。

口調はいつものトキタマだが、何かまとわりつくような、絡まってくるような何かを今のトキタマから感じる。


トキタマは「どうしましたお父さん?僕の力が必要ですか?」と聞いてくる。

今も違和感があるが今の僕はそんな事はどうでも良かった。


「トキタマ、僕は跳ぶ!」

この言葉を聞いたときトキタマがニヤリと笑った気がした。


トキタマは「でもお父さんは起きた事件をやり直したくても、どうしたら解決できるかを知って居ないから跳んでもまた同じ結果になるかもですよ」と話しかけてくる。


「それでも僕は跳ぶ!解決策?そんなものは奴らを全部やっつければ終わる!跳ぶんだ!」

僕は声を荒げていた。

それを聞いたトキタマは嬉しそうに僕の周りを飛びながら「了解ですー」と言った。



僕が「【アーティファクト】!」と唱えると僕はトキタマの羽根に包まれていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



気づくとそこにはリーンとナックの2人がいた。

今はいつだ?そう思っている僕にトキタマがこっそりと「今はお父さんが2人のお友達に僕の能力を説明した時です」と教えてくれた。


この後、暫くすると南から槍と矢が飛んでくる。

その前に敵を狩ろう。


僕はリーンを見て「リーン、アーティファクトを貸して」と言う。突然の事で驚いた顔のリーンに「そしてなるべく村の中心に行くんだ。もうすぐ敵襲がある」と続けるとリーンは驚きながらもキチンと聞いてくれる。


「一対一では勝ち目がない敵だけど男の人が数人がかりなら倒せるから。後、急に矢が飛んでくるから身を低くして椅子やテーブルで身をも守っていて。ナック!僕ときてくれ。ナックは敵が水辺に逃げたら深追いするのは辞めるんだ!」


いきなり僕が色々と言い出したので2人は驚いていたが、最後に「僕は跳んできた2回目なんだ」そう言うと少し驚いた顔をしながら信じてくれた。


これなら何とかなるかも知れない。



僕は兵士の鎧を貫ける武器をイメージしながら精製をした。

「【アーティファクト】!」と唱えて出てきたものは釘を太くした杭のような武器だった。

神の使いは武器のイメージと言っていたが、慣れてくれば今のように出来上がって欲しいもののイメージから武器が作れるようになる事がわかった。


北の茂みを進むと奥にローブの男と3人の兵士が居た。

ナックにローブの男は丸腰である事を告げて3人の兵士を倒す話をす。


「1人ずつに奇襲をかける。ナックのアーティファクトの方が優秀だから先に倒せると思う。そうしたらすぐに3人目に攻撃してくれ、僕も何とか倒したらすぐに加勢する」

ナックは「大地の槍斧」をもう一度強く握り締めて「わかった!」と言ってくれる。



今更手が震える。

やらなければこちらがやられる。

もうあの地獄は見ない。


そう自分に言い聞かせながら「行こうナック」と声をかけて「3…2…1…」とカウントをする。


僕の「反撃開始だ」の声で2人同時に飛び出した。



結果から言おう。

本来ならそれなりに成功だったと思う。

奇襲は成功、僕の杭は兵士の胸を貫き一撃で絶命させる事に成功した。


僕の杭ではどうしても長さが足りないので、今倒した兵士からアーティファクトとの剣を奪った。この剣は最初に戦った時に食らった剣の速度が向上するアーティファクトだと思う。

あの時きちんと相手の顔を見ておけばよかった。


リーンのアーティファクトを使えた僕ならばこのアーティファクトも使えると思ったからだ。


剣を拾った僕を見た、前の時間で村長を殺した3人目の兵士が僕に「バカめ!既に一つアーティファクトを持って使っている奴が他人のアーティファクトを使えるかよ!」と言ってきた。

さっきは話しなんて出来なかったのに今は会話が出来る。

何か理由があるのかと一瞬気にはなったが今は倒す事に注力する事にして剣を構えると、次の瞬間にはアーティファクトを使った僕の剣で兵士は斬り伏せられた。


3人を倒したところで辺りを見回すとローブの男は居なかった。


今度は広場から悲鳴が聞こえた。

僕は大急ぎで戻ると矢と槍に貫かれた人が居た。

この距離では誰かまではわからないし、生きているかもわからない。

また僕は失敗してしまった。


だが、ここでやめる気はない。

今は残りの兵士の数と武器の内容の確認と誰がトドメの一撃、あのなかなか消えない火の矢をどの兵士が使っているのかを確かめる事にした。


火の矢の種明かしは簡単だった。

フードの男が居た場所、ナックと僕が先ほど兵士と戦った場所が北の村はずれ、そこには弓兵は居なかった。

広場を中心として残りの、東と西と南の茂みに火と弓と剣のアーティファクト使いが3人ずつ居た。

計9人のアーティファクト使いが1人ずつに別れて隠れていた。

剣のアーティファクト使いは店売りの弓を、弓のアーティファクト使いは店売りの剣を装備していたがパッと見はどちらも弓兵に見えた。

火の矢は弓兵の能力ではなく、火のアーティファクト使いが着火している事がわかったので最短最速で火のアーティファクト使いから倒す方法を考える。


奴らは兵士と言う割にはいちいち動きがもたつく所がある。

山で狩をしていたとしたらその行動は命取りだ。


僕はアーティファクトに次の武器のイメージを送り込んだ。

武器はナイフ、だがただのナイフではない。

僕の意思で真っ直ぐ、早く、矢のように飛ぶナイフをイメージした。

いきなり使うのではなく、物陰で少し先の木に向かって使ってみた。

少し怪しい所はあったが十歩先くらいまでは威力が落ちないでかなりの速さで飛ぶ光の刃が出来た。

もちろん飛ばさない時はナイフとしても使える事もイメージしてある。


僕は草むらから走りながら飛び出して火のアーティファクト使いを先に倒す。

奴らは一本、二本火の矢を放った所で消されては意味がないと思っていて三方向全ての矢が着火するまで放たない心づもりなのがわかった。


火のアーティファクト使いは右手に意識を向けて火を出そうとしているのでナイフの刃を右手に向かって飛ばす。

痛みと驚きか衝撃なのかはわからないが手が止まった隙に刃を再び出して首をかっ切る。

弓兵も倒してしまいたいがどちらが剣士なのかわからないので手間取ると大変だし時間が惜しいのでまた草むらに忍んで次の場所に向かう。

これを3回続けてから後は弓兵をやっつけた。


ただ、最後の弓兵に届く前にまた矢が放たれた。

アーティファクトの弓なのだろう。一度の発射で沢山の矢が広場に降り注いでいた。

この弓が1回目の時に村のみんなを全滅に追い込んだのだとわかった。


僕はコイツの顔を忘れない。

次の時間では火のアーティファクト使いの次に殺してやる。

そう誓った。



兵士たちを撃退した。

村人たちはいったい何があったのかと言う顔をしていたが、ナックとリーンが説明をしてくれたおかげで皆何とか納得をしてくれた。


話の中で僕のアーティファクトが授かった今日から一定の条件が整えば時を跳べると言う風に説明をした。そのおかげで全滅の結果を捻じ曲げに戻ってきたと伝えたらみんな口々に僕に感謝を述べてくれた。


今回の襲撃で当たりどころが悪く亡くなってしまった3人の村人とその家族を除いて。



家族を遠目に見ている僕に母さんの主婦仲間の人が「いいのよ、キヨロス。あなたのおかげで村は救われたわ。ありがとう」と言ってくれたが、先ほどの槍で旦那さんは死んでしまっている。父さんと母さんは僕の説明は村の人と一緒になって聞いてくれていたがまだ話せてはいない。今は亡くなった旦那さんのご遺体を綺麗にしている。


そんな光景を見ながら僕の決意は更に固まった。

今みんなを喜ばせておいて申し訳ないが僕の望みは全員が明日もその先も元気で生き続けてくれることだ。


僕のアーティファクトに治癒能力はない。

病気は治せないが、今みたいな無残な死は回避できる。


だから僕は跳ぶ。

もう一度飛ぶ。


次こそ成功させてやる。


その前にしなければいけないことの一つを片付けよう。

父さんと母さんにトキタマをちゃんと見せるのは後ででも出来る。

今したいのはリーンにアーティファクトを返すことだ。


僕は「リーン、アーティファクトありがとう」と言ってリーンにアーティファクトを返す。


ようやくリーンにアーティファクトを返すことができた。

1回目のリーンはどれだけ心細かっただろうか、今もまだ申し訳なく感じる。


リーンは笑顔で「ううん、キョロの役に立てて良かったと思う。それにしてもキョロは私なんかより「万能の柄」を使いこなしていて凄いね」と言ってくれた。


「前の時、リーンが貸してくれたものを返しそびれたまま戦いになったから。「万能の柄」で倒した兵士の数は結構な数になっているんだ」

「そっか、それでかな?キョロがさっきまでと別人に見えているんだ」


僕が別人?人を殺してしまったからであろうか?

それなら次の時間ではどうなってしまうのであるか?

僕はまたあの15人を殺す。可能であればあのフードの男も殺す。


僕はリーンに顔向けができないのかもしれない。

でも僕はやめない。


僕はもう一度みんなを見た後で「ナック、リーン、僕は跳ぶよ」と言った。


リーンが物凄く驚いた顔で「え?」と言っている。

ナックも驚いた顔で「なんでだよ!?」と声を荒げて聞いてくる。


「僕は村の人全員で明日、その先の日々を迎えたいんだ。だから誰かが欠けたままなのは嫌なんだ。大丈夫、今のパターンは覚えたから、覚えている間に跳べばきっと成功するよ。だから行ってくるね」


その話を聞いていた村の人が「そんなに背負い込むものではない」と言ってくれたが僕にしかできない事なら僕は全力でそれに向かいたい。


僕は首を横に振ると「トキタマ!!」と言ってトキタマを呼ぶ。飛んできたトキタマは「はーい!跳ぶんですね?」と聞いてくる。


「そうだ!もう一度全員が助かるために行動をする!!」

「わっかりましたー!」


それを聞いたトキタマは嬉しそうに僕の周りを飛びながら僕を待っている。

僕が「【アーティファクト】!」と唱えると僕はトキタマの羽根に包まれていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



3回目の時間。

結論で言えば今回も失敗であった。

今回も1人目を倒して少しすると村の人が槍で殺されていた。

殺された人も先ほどの人ではない別の人だった。

なんでそうなのかわからなかったが、その場で跳ぶのは間違いだと思い可能な限り倒した。今回は何人かには逃げられた。例の弓兵は真っ先に倒したので矢の雨は降らなかった。

ただ今回は火のアーティファクト使いが苦し紛れに放った火で母さんが火傷をした。



4回目の時間。

今回も失敗した。

どうしても一番最初に南側から飛んでくる槍で誰かしらが傷つく。

もしかすると例の火のアーティファクト使いか別の兵士が槍を何処かに隠しているのかもしれない。

奴らを真っ先に殺すのが正解かも知れないが、ナックに3人の兵士を任せるのはどうしても心配で決断が出来ない。



5回目の時間。

成果はまずまずだが、成功ではない。

手詰まり感が出てきた。

敵の配置も動きも前回もその前とも変わらなかったのにだ、手数だ、圧倒的に手数が足りない。


5回目の時間が終わって苛立つ僕にトキタマが「お父さん、お困りですか?」と話しかけてきた。

僕は苛立ちを隠さずに「手数が足りない。何かあるか?それともまた隠し事?」と言ってトキタマを睨むと「いやだなーお父さん。僕はお父さんの迷惑になることはしないですよー」とトキタマは笑っていた。


その会話で何かがあると思った僕は「何か方法があるんだね?」と聞くとトキタマは僕の右肩にとまって「人間はお父さんしか時を跳ぶ事は出来ません。でも他に跳ばせるものがあります!」と言った。


一瞬何を言ったかわからなかったが直後にトキタマがいきなりとんでもない事を言い出した事を理解した。


僕は苛立つ気持ちのまま「なぜ今までそれを言わなかった!?知っていれば僕は!」と怒鳴るとトキタマは「僕が言わないのは今まではそれが出来なかったからです」と答えた。


意味がわからずに「今までは出来ない?」と聞き返すとトキタマは「はい、お父さんはさっきので5回跳びました。5回跳んでお父さんは成長しました。だから僕が跳ぶ時に持っていけるものが増えました」と言った。


5回…

イノシシのシチューの時と兵士との戦闘で5回か…もうそんなに跳んだのか。


今はそれよりトキタマだ。「それで、何を跳ばせる事が出来る?」と聞くとトキタマは「道具が跳ばせるようになりました!お父さんが手に持ったアーティファクトとかを持って行くと思いながら跳べば一緒に跳べます」と答える。


アーティファクトを…

それならばこの剣を持って跳べば初めに弓兵と火のアーティファクト使いを倒してから北側の兵士に立ち向かう事も出来るかも知れない。

早速僕は剣を持って跳んでみる事にした。



6回目の時間。

ナックには隠れて3人の兵士を奇襲する事を任せた。僕は周りに配置された弓兵の排除に向かう。


居た。

僕の考え通り、南には槍を持った火のアーティファクト使いが待ち控えていた。

おそらくこの槍を投げる事が開始の合図のつもりなのだろう。

槍の後に矢を放ち、皆を混乱させる。

混乱している間にフードの男が北から村に来る。みんながフードの男を見ている間に準備済ませた後はフードの男の合図で村を襲う。そんな作戦だと思う。

今までは火のアーティファクト使いだけを優先して倒してから弓兵を倒していたが今回はナックが心配なので一度に3人を倒す事にした。


結果は散々だった。

ナックは殺され、弓兵も最後の2人に取り掛かる前に2人ともが弓のアーティファクト使いだったようで広場に矢の雨を降らせて村のみんなは傷だらけになった。

火のアーティファクト使いも苦し紛れの火による攻撃で人が傷ついた。


僕はみんなが片づけをしている間にトキタマを呼ぶ。

苛立ちから怒鳴るように「トキタマ!」と呼ぶとトキタマは「なんですかー?」と悪びれる事なく現れた。


僕は身振り手振りでみんなを指して「さっきより酷い結果だ!どういう事だ!!」と怒鳴るとトキタマが「それは僕のせいではないです」と返してくる。


苛立ちながら「それなら何故なんだ!」と聞くと「お父さんのせいです」と言われた。


僕のせい?

意味のわからない僕は「え?」と聞き返すとトキタマは「今までは丸腰のお父さんがお友達のお姉さんのアーティファクトで戦っていて、倒す順番も今とは違いました。今回は最初から剣も持っていました。それが原因です」


この説明には衝撃を受けた。

何という事だ、剣の所持と倒す順番と言う今までと違う要素で結果が変わるのか?


「何で言わなかった?」

「お父さんが聞かなかったからです」


くそ、コイツは何処まで知っている!?


だが、段々とわかってきた気がする。

トキタマは僕にアーティファクトの力を使わせるように仕向けている。

その為に聞かれない限りは有益な情報を開示しないつもりなんだ…

それならばこの機会に問いただしてみようと思った僕は「それなら前回までのけがをした人が毎回違っていた理由はわかるのか?」と聞いてみる。


「お父さん…人間には見る事の出来ない時の流れは、様々な事柄の積み重ねです。

跳んでからの行動、何処を歩いたのか、葉っぱを何枚踏んだのか、踏んだ土の場所、息をした回数。そう言うもので結果が多少変わります。毎回怪我する人や怪我の内容が違かったのはそういうことが理由です」


そうなると手の出し用がない範囲の話しになってくる。

毎回行動の全てを一緒にするなんて言うのは不可能に近い話だ。



僕の表情を読み取ったトキタマが「だから僕はお父さんに解決策が見つかってから跳ぶことをオススメしました」と言ってえっへんと胸を張っている。


そうか…、シチューの時はリーンが転ぶまでに片付けてしまえば僕がどう歩こうが結果は1つなのか。


そう言う事か…

ようやく方向性の見えた僕はトキタマに「それならば僕はどうしたらいい?」と聞くとトキタマは「何回も何回もお父さんが納得するまで跳べばいいと思います!」と言った。


それしかないか…

それにしてもまたこの顔だ…、トキタマがニヤリと笑った気がした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



10回目の時間。

7回目の時間。8回目の時間。9回目の時間と僕の動きをなるべく同じにする事で敵の動きも大体似通ってきた。

それでもやはり細かい点は違う訳で思ったほどうまくは行かなかった。


ここで出てくる問題はどうしても手が足りない事だった。


僕は跳ぶ度にトキタマに変化を確認するようにしている。

今も「トキタマ、何か変化は?」と聞くと「お父さん、おめでとうございます!また持って跳べるものが増えましたよ!」と言われた。


正直増えたところでアーティファクトは剣を持って行っている。

これ以上持って跳んでも使い道がない…

火のアーティファクトを調べて持ち歩くか?


だがそれをするとまた状況が変わってしまう。

そうなれば動きが変わって被害が一時的に増えてしまう。

それでも回数を重ねるしかない…


そう思っていたがトキタマは自慢げに「今回は記憶を持って跳べますよ〜」と言った。

意味がわからない僕は「記憶?」と聞き返すとトキタマは「そうです。決めた人の記憶を持って跳べますよ。その人はお父さんと同じで跳ぶ前のことを覚えています!」と教えてくれた。


今度は記憶が持って行けるのか…

それならば毎回跳ぶ度に説明をして指示を出す必要がなくなる。


「記憶はどのくらい持って行けるんだ?」

「今は1人分だけです。もっともっと跳び続ければ連れていける人数も増えますよ!

ちなみに持って行けるのは今からなので今までの分は無理です!」


「どうすればいい?」

「跳ぶ時にその人に覚えておいて貰おうと思いながら跳んでください!」


僕は迷うことなく、ナックの記憶を持って跳ぶ事にした。



11回目の時間。

跳んですぐに行動しようとしたがナックが状況を見て混乱してしまった。

今回は結局説明に時間を割いてしまった。

結果はまずまずだが死傷者が出たのでやり直しだ。

トキタマに、持っていく記憶を今回のナックと次のナックの間にリーンを挟むとどうなるのか聞いたが「わからない」と答えられた。僕としてはナックの記憶が途切れるのかを知りたかったので今回はリーンに説明をしてリーンの記憶を連れて行く事にする。



12回目の時間。

うまく行けばそれで良し、ダメならやり直す気の回。

開幕でリーンがナックに説明してくれている間に、僕は槍を持った火のアーティファクト使いを倒した。

ナックと合流して北の兵士に向かいたかったのだが、ナックが東の兵士を倒した後に指示待ちをしていた為に連携が取れず、北から攻め込まれて死傷者が出た。


13回目に向けてナックに記憶を持って跳ぶ話、敵の出現位置と内容、そして作戦を話す。

作戦は僕が広場の南側の槍を持った火のアーティファクト使いを倒し、流れで弓兵も倒す、それから西の3人を倒してから北の兵士のところに行く。

ナックは東の3人を倒したら広場のみんなを避難させてから北の兵士のところに向かい奇襲攻撃をする。

僕が到着するまでは出過ぎた行動は控える事となっている。



13回目の時間。

後一歩力及ばずだったが、今回はかなり惜しい所まで行った。

開幕の説明が省けた分素早く行動に移せた。

ナックの避難誘導が少し手間取ったが、コツはわかったはずだ。

ちなみにナックの記憶はリーンを挟んだ影響で消えてしまっていた。

間に他の人を挟むと消えてしまうみたいだ。


避難誘導が遅れた為に挽回しようと無茶をしたナックが今回は左腕に怪我をした。

怪我の度合いが気になる。

左腕が切られたせいで今だけなのか手が動く気配が無い。

本人は大丈夫だからもう跳ぶのはやめにしようと言っていたが僕は諦めない。

全員を無事に明日以降に連れて行くんだ。



14回目の時間。

まさか跳ぶとは思ってなかったナックが開幕早々に混乱をしてしまった。

開幕の優位性が損なわれた結果、槍で村の人は死ぬし、ナックが怪我に尻込みしてしまい悲惨な結果になった。

僕は何も言わず次に向けてすぐに跳んだ。

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