南の「時のタマゴ」-敵襲・撃退。
第4話 敵襲。
トキタマの能力を知ったリーンが「ねえ、注意点は何?」と注意点について聞いてきた。
僕は正直にトキタマがはぐらかしている事を告げるとナックが心配してくれてトキタマを睨んでいる。
トキタマは「僕は嘘をついていません」と言うがやはりどうにも白々しい。
だがこのままだと引き下がらないだろうナックの事もあるので「それは明日以降おいおい色んな事を試してみるよ。折角のご馳走が冷めちゃうから食べよう!」と話を切り上げて3人の食事を楽しんだ。
食後、そろそろいい加減夜も更けたので村長が一言締めて終わるだろう。
そう思っていると横に居たリーンとナックが何かを騒いでいる。
その話し方が穏やかではなかったので「どうしたの?」と聞くとナックが「いや、リーンのアーティファクトで俺好みのナイフが出せないかと思って持たせてもらったんだよ」と言うとリーンが「ナックが勝手に取ったんでしょ。私は使っていいなんて言ってない」と言って怒る。
そんな事をしたら怒られるだろうと思っていると話はそれで終わらなかった。
ナックは「そうしたらさ、持つことは出来たんだけど、使おうとすると静電気の強い奴みたいな衝撃が手に走ってアーティファクトを放しちゃったんだよ」と言って右手を見せてきてヒラヒラとさせるとリーンが珍しく目に見えて怒っていて「もう、落とすんて酷い。傷つけないでよね」と言っている。
僕は話の落としどころとして「それは仕方がないんじゃないかな?アーティファクトは授かりものだから持てないんじゃない?」とナックに言う。
ナックは何かに気付いた顔をして「あ!キョロならS級だから持てたりして?」と言ってリーンを見て「リーン、もう一回、もう一回だけ、キョロに使って貰おうぜ!」と言った。
絶賛不機嫌のリーンは「ナックのアーティファクトでもいいじゃない」と言ってナックを睨む。ナックは「俺のは長いから遊んでいると周りに目立っちゃうからさ、な?」と言って引き下がろうとしない。
リーンは自分の授かりものを人に渡すのは抵抗があるようだ。
僕も同じ気持ちなのでナックのおおらかさはよくわからない。
仲裁の意味も込めて「ナック、リーンも嫌がっているからやめようよ」と言ったのだが、嫌がっていたはずのリーンが「…いいよ。一回だけなら許す」と言って何故か僕に持たせることを賛成した。
僕は断り切れずにリーンのアーティファクト「万能の柄」を手に取った。
今、僕の手の中にリーンのアーティファクトがある。
軽いような重いような、何とも言えない存在感が僕の手の中にある。
ここまではナックも出来ていた。
問題はこの後だ。
それにしてもナックは酷い。
使った瞬間に静電気より強い衝撃が手を襲ったと言っていた。
僕もその衝撃に見舞われるのだろう。
…ナックは僕が痛い目に遭えばいいと思っているのか?とちょっと疑ってしまう。
そうでなければ純粋にS級の可能性を見てみたいのかもしれない。
怖くなってきた。
静電気は怖い。
そんな時、トキタマが「お父さんなら大丈夫だと思いますよ」と言ってきた。
何を根拠に言っているんだろう…と思ったがよく考えればトキタマはアーティファクトなので何かわかっているのかも知れない。
トキタマの言葉で覚悟ができた僕はリーンの真似をして頭の中にナイフを思い浮かべて「いくよ」と言って右手の中のアーティファクトに意識を集中した。
そして「【アーティファクト】!」と唱えたが手に衝撃は来なかった。
出来た。
ハッキリと光のナイフの刃が柄から出ている。
ナックが刃を見て「すげぇ!!」と驚いている。
リーンは何だかつまらなそうに「キョロは出来ちゃうんだ」と言う。
それもそうだろう。自分だけの授かりもののはずが僕なんかが使えてしまったのだから面白いはずがない。
僕は心の中でおしまいと念じて光のナイフを消してリーンに返そうとする。
しかしナックがそれを制して「なあ、次!次はたいまつ出せよ!!」と何故かしつこく絡んでくる。
正直手ぶらのリーンが気の毒だ。早く断ってアーティファクトを返そうと僕は思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次はたいまつを出してと言っているナックはちょっとしつこい。
自分のアーティファクトが玩具にされているリーンも面白くない事から、僕がナックに「いい加減にしなよ」と言った時、男性陣の方で誰かが倒れた。
酔いつぶれたのかと思い見てみると、背中に何か棒みたいなものが刺さっていた。
皆がざわめく中、続けて女性陣の方でも誰かが倒れて悲鳴が上がった。
倒れた人を見てみると背中に矢が刺さっていた。
慌てる皆に村長が落ち着くように声をかけた。
パニックになりかけていた人たちは村長の声で少し冷静さを取り戻して女性陣が広場の中央に、その周りを男性陣が守るように固まった。
矢は飛んでこなくなったが嫌な緊張感が広場には充満していた。
倒れた人たちを見てみると最初の人は背中に槍が刺さっていた。
次の人は矢で。どちらも背中に刺さっている。
2人は北を向いていたので南からの攻撃かも知れない。
先ほどまで酔っぱらってヘラヘラしていたナックのお父さんは「剛力の斧」を構えて辺りを見回している。
ナックも「大地の槍斧」を構えている。
男性陣に促されてリーンは広場の中央に連れていかれてしまった。
いけない。アーティファクトを返し忘れたままだった。
これが無ければリーンは心細いだろうに。
数分が過ぎたと思う。
もしかすると一分も経っていないのかもしれない。
この村にくる道は北の道しかない。
みんな北側を見ている。
そんな頃、北の村はずれにある茂みの中から1人の男が歩いてきた。
男は長いフード付きのローブを纏い、フードを深々とかぶっていて表情が読めない。
手にはなにも持たず悠然としている。
ナックのお父さんが「剛力の斧」を構えて「何者だ!」と男に言う。
だが男は何も聞こえないのか黙っている。
もう一度ナックのお父さんが「答えろ!」と言うと男はこちらを見た。
こちらを見ている男をナックのお父さんが睨みつける。
その表情からは返答次第では許さないと言う意思が感じられた。
村長が村はずれに居る男の方に向かって歩き出した。
村人たちが口々に「村長、危ないから行くな」と言っているが村長はフードの男の前まで行き、「私はこの南の一の村の村長だ。あなたは何者だ?今槍と矢を放って私の家族を殺したのはあなたか?」と聞いた。
男は村長の問いに何も答えない。
ナックのお父さんは村長の後を着いていき、怒りに震えながら今にもフードの男に襲い掛かろうとしている。ナックもその後ろをついて行っている。
僕はその更に後ろ、場所にしたら村はずれと広場の間で状況を見ている。
ナックは怒りに震える父親を見たことがなかったのであろう。フードの男よりも父親に怯えてしまっている風に見える。
そんな時、フードの男がフードを取った。
その中の顔は山賊なんかとは違い、高貴な顔立ちをしていてとてもいきなり矢を放つようには見えない。
よく見るとローブも上質の生地で出来ている。
「私は…」
フードの男がようやく口を開いた。
「私は南の国の王の勅命でこの村に来た…」
この言葉にナックのお父さんが話を最後まで聞かずに「王の命令だと!?それで何故攻撃をする!」と怒っている。
村長が話を聞こうとナックのお父さんを制止してフードの男に話を続けるように言った。
「王は力を求めている。強いアーティファクトの力を求めている。村の全てのアーティファクトを要求する。」
フードの男は抑揚なく淡々ととんでもない事を言い出した。
「それは出来ない!アーティファクトは神様からの授かり物、それを奪われたら私たちはどうすればいいのですか!?」
村長が口調を荒くしてフードの男に抵抗をした。
次の瞬間「ぐあぁっ!?」と言う声と共に村長が倒れた。
村長が剣で貫かれていた。
フードの男は何も持っていない。
しかし剣が飛んできて村長を刺していた。
一瞬で絶命したのか村長は何が起きたかなんてわからなかったと思う。
フードの男は村長を見る事なく前を向いたまま淡々と「王はこうも言っていた。命を回す。次の命から更にアーティファクトを貰い受けると…」と言い終わると周りの木々の中から「【アーティファクト】!!!」と言う何者かが一斉にアーティファクトを発動させる声が聞こえた。
そして同時に四方八方から矢が飛んできた。
一部の人はテーブルの下に身を隠し、また別の人は椅子を盾に何とか矢を凌いでいたが防ぎきれない人が何人かまた死んだ。
父さんと母さんは無事であろうか?
僕は心配でたまらなくなり今すぐ確かめに行きたくなった。
だがフードの男は僕が行動を起こす前に「行け!」と声を発した。
その声に合わせてフードの男の後ろの茂みや木々の間から三人の兵士が出てきて広場に走って行った。
1人の兵士は村長の亡骸から剣を引き抜き構えている。この兵士が村長に剣を飛ばしていたようだった。
ナックとナックの父親が兵士を制止するが村長を殺した兵士とは別の兵士が1人、それを振り切り走ってくる。
その兵士は僕に襲い掛かってきた。
後ろでも悲鳴がする、目の前からだけではなくいろんな方向から広場を襲っているのかもしれない。
ナックの父さんが「剛力の斧」を構えて「【アーティファクト】!!」と叫んで兵士に立ち向かっている。
「剛力の斧」は木を切るもので人を切るものではない。
サクサク切れる恩恵はなく木以外のものには切れ味の落ちない普通の斧になってしまう。
ナックの方は覚えたばかりの「大地の槍斧」の能力で兵士と互角に戦っている。
僕には攻撃手段がなく、かわすしかできない!?
今はかわせているが徐々にきつくなるだろう。
トキタマはいつの間にか僕の肩から居なくなっている。
「時のタマゴ」は本当に攻撃力の無いアーティファクトなのだろう。
「【アーティファクト】!」
兵士が能力を使ってきた。
どうやら剣のアーティファクトのようで剣が光っている。
切れ味が上がるタイプの物かと思い注意していると、剣を振るうスピードが飛躍的にアップした。
あわや切られる所だった。
何とかかわせた僕は手の中にあるアーティファクトに気が付いた。
リーンの「万能の柄」だ。
今、正当な持ち主ではなく僕が持ってしまっている。
これを使ってこの場を乗り切るしかない。
兵士がもう一度剣を振るってきた。
今度は剣が思いのほか遅い。
多分、一度使うと次に能力を発揮できるまでに間を開ける必要があるのかもしれない。
「今しかない」
僕は手の中のアーティファクトに武器のイメージを送り込む。
ナイフではあの鎧を貫通できる気がしない。
かと言って神の使いは柄の長さに比例した武器ではないと精製できない場合があると言っていた。
僕の脳内にイメージできた武器はとても剣に比べれば頼りない。
ただ、今できる中では一番なのは確かだと思う。
「【アーティファクト】!」
僕は可能性に賭けることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕が「【アーティファクト】!」と唱えると、リーンの「万能の柄」から出た光とともに武器の精製が成功した。
兵士は一瞬も驚くことなくこちらを見ている。
出来た武器は柄から長く伸びてしなっている。
鞭の精製がうまくいった。
僕の狙いは何とか足を奪い転ばせる事。
そして兵士の剣を奪ってそれで倒す事。
今できるのはそんな物かもしれない。
僕は「行くぞ!」と自分に言い聞かせるように声を出すと、身軽さを利用して何とか横に回り込んで鞭を振るってみるが未経験者の僕に上手に使えるはずもない。兵士には当たるが巻き付けるのが難しい。
それにしてもおかしい、兵士は一撃を食らってもまったく意に介していない。
まるでダメージが無いようにも見える。
だが、頬に当たった一撃で兵士は出血をしている。
どういうことだ?
そう思いながら戦っているとトキタマが肩にとまって「お父さん、鞭は巻き付くことをイメージして使うんです」と言った。
イメージ…そうか、それもイメージの力に左右されるのか。
後でリーンに教えてあげよう。
僕は鞭に意識を集中して足に鞭が巻き付くイメージをしてから「【アーティファクト】!」と唱えながら振るった。
今までとは違い鞭が兵士の足に巻き付いた。
僕は間髪入れずに兵士の足に巻き付いた鞭を思いっきり引っ張るとバランスを崩した兵士は仰向けに転がった。
「今だ!剣を奪って刺してしまおう!」と思った時、ナックが僕の元に来て「大地の槍斧」を兵士に刺していた。
「父さんの仇!!」と言ったナックの声に驚いた僕はナックのお父さんが居た場所を見ると、「剛力の斧」で頭を割られている兵士と刺し違えたナックのお父さんの姿があった。
この事で冷静になった僕はようやく村の事が気になった。
僕は「村のみんなはどうなった!?」と言いながら広場の方を向くと男性陣が茂みにの方に行き、数人がかりで何とか兵士と戦っている。
1対1でなければ何とか勝てるらしい。
ガサガサガサ…と言う音の後で茂みから兵士が出てきた。
まだ居たのか…。
僕はナックに声をかけて2人が狩りで倒そうと思ったのだが、ナックは「ここは俺が戦うからキョロはリーンの所に!」と言いながら出てきた兵士と向き合う。
僕にリーンの所に行くように言っている。
リーン、彼女はどうなっただろう?
僕は父さんと母さん、リーンの事が心配で走り出していた。
「キヨロス君!」
僕は女性陣の所に行くとリーンのお母さんに呼び止められた。
小さい傷があったが大きな怪我はしていない。
リーンのお母さんは「リーンをお願い」と言うとリーンの手を渡してくる。
そしてリーンのお母さんはリーンのお父さんが居たと思う場所に向かって走り出した。
残された僕とリーン。
リーンは僕を見るなり「キョロ!何コレ?どうなっているのコレ?」と色々聞いてくる。
何と答えていいかわからない僕は「僕にもわからない」とだけ言った。
今は僕の父さんと母さんを見つけたい。だから僕はリーンの問いかけに集中しないで辺りを見回した。
「あなた!!」
母さんの声がする。
声の方向を見ると父さんが倒れていて、母さんが必死に呼びかけている。
僕の頭は真っ白になった。
その時遠くから「【アーティファクト】!!!」と聞こえてくる。
声はまた木々の奥からした。
見ると木々の奥が明るくなっている。
火だ。
あれは火だ。
ひと目で火だとわかった。
次の瞬間、生きている兵士の居なくなった広場に矢の雨、火の塊、火の矢が雨のように降り注いだ。
この火はアーティファクトなのか、踏んでも中々消えない。
周りの人を助けるにもどうすることもできない。
躊躇する僕達の耳に火の向こう側から「キヨロス君、リーン!」と僕達を呼ぶ声が聞こえてきた。
この声はリーンのお母さんだ。
リーンが反応をして「お母さん!」と叫ぶと、リーンのお母さんが「ここはもうダメ!あなた達は逃げなさい!」と、僕たちに逃げろと言っている。
何処に逃げる?
僕は酷く混乱していた。
火の向こうで何が起きているかは容易に想像できた、また立ち尽くした僕の耳に「嫌ぁぁぁっ!」と聞こえてきたリーンの声で何とか現実に引き戻された。
僕はリーンの肩を持って顔を向けさせると「今はこの場から逃げるのが先決だ」と言う。涙でボロボロのリーンはなんとか言葉を理解して頷く。
僕はリーンの手を引いて北の村はずれに走って行った。
手は小さく震えている。リーンのお母さんに渡された…託されたリーンの手を離してはいけないと思っていた。
村はずれを目指す僕の前にナックが歩いてきた。
ナックは怖い表情のまま「俺の前に出てきた兵士は全部倒してやったぜ」と言う。
見た感じナックは酷く疲れているが大きな怪我はしていない。それは僕を少しだけ安心させてくれた。
僕はナックが広場の方向に戻ってきた事が気になって「ナックはどうするつもりだったの?」と聞く。ナックは「火の矢を放った奴がまだ居るはずだ、後はフードの男。あいつらを倒さないと…」と答える。
ナックは戦うつもりだった。だからこそ広場から離れてきた僕を見て「キョロは?」と聞いてきた。
「僕はリーンのお母さんにリーンを頼まれたから安全そうな所に逃げようと思っている。安全そうな場所は相手が火だったから<降り立つ川>しか思いつかなかったんだ」
この言葉にナックは「そうか」と言いながらついて来てくれる。
倒したいが多勢に無勢。僕も戦列を離れるのでは行きようがない。
ナックは怒っていても冷静だった。
少し歩くとナックの家を通過した。
最初はナックの家で休むことも考えたが包囲されて火を放たれたり待ち伏せをされてはどうにもならない。
今は<降り立つ川>で火に対抗しながら逃げおおせるのが正解だろう。
朝になったら南の二の村を目指して保護してもらおう。
考えがなんとかまとまった頃、僕たちは<降り立つ川>に着いた。
昼には何気ない日常の中でアーティファクトを授かった。
それなのにたった数時間で世界が激変してしまった。
これはなんだと言うのだろう?
そんな僕たちの前にまた兵士が現れた。
今度の兵士は弓と剣を持っている。
僕が「そうか、遠距離では弓。近距離では剣を使うのか…」と呟くと横のナックが「そんな事知った事か!!」と言いながら勢いをつけて兵士に向かって行く。
その背中を見たとき、僕は何か嫌な予感がした。
だが何で嫌な予感がしたのかがわからなかった。
横にいたリーンもナックに向かって「ナック駄目!!」と急に叫んだ。
リーンも何かを感じ取ったのかもしれない。
だが止まらないナックが「【アーティファクト】!」と言いながら「大地の槍斧」の能力を使って突きを放った。
先ほども思ったがとても今日授かったとは思えない槍さばきだ。
だが先ほど見た動きに比べるとだいぶ鈍い。
疲れているのか?
そう思った時、ここが水辺だと僕は気が付いた。
嫌な予感の正体が判明した。
リーンは水辺に気が付いていたからナックを制止したのかも知れない。
ナック本人ももっと経験を積んでいれば水辺に気づいたのかも知れないが、今日「大地の槍斧」を授かったばかりのナックには無理な話だった。
兵士が「【アーティファクト】」と言うと剣が光った。
次の瞬間、兵士の剣劇で「大地の槍斧」は軽々と弾かれてしまった。
直後、唖然とするナックの胸に兵士の剣が刺さる。
リーンがその状況を見て「嫌ぁぁぁっ!」と叫んだその声でハッとなった僕はナックを助けに行かなければと思い、リーンの手を離しその場に残してナックの元に向かった。
剣が無理でも刃渡りの長いダガーナイフなら精製出来るだろう。
そう思って突っ込んでいった。
「【アーティファクト】!」と唱えたが柄からは何も出ない。
僕は精製に失敗した。
僕のイメージ力が弱かったのか、万能の柄ではダガーナイフが無理だったのかはわからない。
だが無理だったのだ。
そして次の瞬間、僕は兵士に殴り飛ばされて川に落ちて流された。
殴り飛ばされた事でゆっくり流れる世界の中で、胸に剣を突き立てられて悔しそうに涙を流すナックの顔と立ち尽くすリーンが見えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
兵士に殴り飛ばされて川に堕ちる時、立ち尽くすリーンが見えた。
僕は彼女のアーティファクトを持っていて負けた。
彼女は今丸腰だ。
兵士は1人だ、何とか身軽さと地の利で逃げ切ってほしい。そう思いながら僕の身体は川に落ちて意識が途切れた。
…
………
……………
遠くで「お父さん!お父さん!!」と言う声が聞こえる。
この声は聞いたことがある。
トキタマ…?
僕が目を覚ますと、そこは先ほど落ちた場所から少し先にある浅い場所だった。
「お父さん!お父さん!!」と僕を呼ぶトキタマの声が右側からする。
身体中が痛くてうまく動かない。
トキタマの方を向けない。
また右肩に乗っているのだろうか?
目だけで状況確認をしてみると僕の左隣に足が見える。
その人が僕を助けてくれたのだろうか?
でもその人は何も言わない。
次にわかったのは右手にリーンのアーティファクトの感触がある事。
これだけは川に流されても離さなかったようだ。
何としてもリーンにアーティファクトを返さねば。
早く起きなければ。
そう思っていると隣の人間が話し始めた。
「気が付いたか?」
その声はあのフードの男だった。
フードの男は僕の返答を待たずに「右手のアーティファクトがお前のアーティファクトかと思っていたのだが、肩のアーティファクトがお前のアーティファクトだな」と話し始めた。
「珍しいものを持っているな。「時のタマゴ」か…、お前はどこまで知っている?どうせ何も知らないのだろう?知っていたらあんな戦い方はしないはずだ」
何を言っているのだろう?しかしこのフードの男は「時のタマゴ」について何かを知っている。
この間もフードの男は話を続ける。
「流石に「時のタマゴ」は今のままでは王の所に持って帰れない。だからお前から城に来い。ただ街道をまっすぐ来ては駄目だ。
お前は弱い。
まず南の三の村から南に進んだ山に毒竜が住み着いた。そこにS級のアーティファクトが一つある。助力をあおげ。
次は南の四の村だ。そこにはアーティファクト「大地の核」がある。必ず立ち寄れ。
それから城に来い。わかったな」
何をベラベラと喋っているんだ?何で僕が城に行かなければならない?誰が言うことを聞くものか。
そう言い返したくても身体の痛みで声が上手く出ない。
言い切って静かになっているフードの男を僕が睨むとフードの男は「ああ、一つ言い忘れていた。お前が知らないであろう「時のタマゴ」の呪いだ」と言った。
この言葉を聞いたとき急にトキタマがフードの男に向かって行って「やめてください!やめてください!!」と言って必死に喋らせないようにしている。
フードの男は「お前は直接何かができるタイプのアーティファクトではない。この程度の妨害は何にもならん」と言ってトキタマを気にもしていない。
「「時のタマゴ」の呪い。それは死ねないことだ。これから先、お前は何をしても死ねない。覚悟しておくことだ。」と言ったフードの男は僕の右手に握られた「万能の柄」に手を伸ばして来た。
やめろ!!!
これはリーンのアーティファクトだ!
リーンに返さなければいけないんだ!!
持っていくな!
まだ声の出ない、身体も満足に動かない状況だったが必死に名って睨むとフードの男は「ふっ、お前は弱い。武器もなければ生きていけないだろう。感謝しろ見逃してやる」と言うとフードの男は去って行った。
僕は暫くすると動けるようになったのでナック達の所に戻った。
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