第3話 トキタマ。
そわそわとしながら僕をチラチラと見る両親に「S級のアーティファクトを授かったよ」と言ってみた。
父さんも母さんも何も言わず無言で僕を見る。
何故かの沈黙。
あまりの出来事に考えが追いつかなかったのかも知れない。
ただ、それは僕も同じで「時のタマゴ」がまだ真の姿にならないのでなんとも言えないが名ばかりのS級の可能性だってあるからだ。
ようやく口を開いた父さんがニカっと笑うと「こら、いくらなんでもこんな時に親をからかうものではない。父さんはS級なんて聞いた事がないぞ」と言った。
その言葉で優しく微笑んだ母さんも「恥ずかしがらないで本当の事を教えて?お母さんはC級でも嬉しいわよ」と言う。
思ったリアクションと違う。
僕が言葉を発する前に父さんと母さんの言葉が続く。
「父さんはA級だと思うのだが、あれか?ナックとリーンちゃんに気を使ってふざけているのか?」
「キヨロスは優しいのね」
そう言った両親を見て確信した。これは本当にS級を知らない顔だ。
多分、今頃ナックとリーンも同じ目に遭っているのかと思うと少し申し訳なくなる。
僕は意を決して「父さん、母さん」と強めに声をかけると母さんが「はい?」と思わず返事をした。
僕はキチンと真面目な顔で両親を見て「僕は本当にS級のアーティファクトを授かったんだよ」ともう一度言った。
数秒の沈黙の後「何だってーー!!」と言う父さんの大きな声で家が震えた気がした。
母さんが信じられないという顔で「S級だなんてそんな、本当なの?」と聞いてくる。
僕は信じて欲しい気持ちから「神の使いが教えてくれたよ」と神の使いの名前も出した後で「S級のアーティファクトだからか箱庭は迷宮みたいになっていて大変だったんだよ」と言った。
父さんは真っ赤な顔で嬉しそうに母さんを見て「母さん!!聞いたか?」と言うとお母さんは嬉しさを隠しきれない感じで「聞いていますよ」と返す。
「俺たちの息子が、息子が…S級だ!」
「ええ、そうですね。本当にありがたい事ですね」
父さんは興奮から吐く息が白くなっているし身体がプルプルと小刻みに震えている。
その横で母さんは空にお祈りを始めてしまった。
しばらくすると2人とも歓喜の涙を流している。
…このタイミングで言うの辛いな…。
正直早く言い出せばよかった。
意を決して「父さん、母さん、……あのね…実は1つ言いにくい事が…」と言うと「どうした!?何だ!?言ってみろ!」「そうよ、水臭いわよ」と涙を拭いながら2人がそう言ってくれた。
「あー……、実はまだ……どんなアーティファクトかわからないんだ」
この言葉に父さんは「…え?」と言って目が点になった。
母さんは「…それって…どう言う事?」と心配そうな顔で聞いてくる。
僕は神の使いとの話をしながら「時のタマゴ」をテーブルに置いた。
「これがアーティファクト…」
「綺麗なタマゴね、白色にも紫色にも見えるわね」
2人とも僕のアーティファクトをいろんな角度から見まわしている。
「母さん、これはもしかしたら安産のアーティファクトでキヨロスがお腹を撫でると…」
父さんがナック達と同じ事を言い出した。
僕はちょっと呆れながら「タマゴ型から離れてくれるかな?」と言う。
「それにまだ真の姿になっていないから真の姿によっては安産とは無関係かも知れないんだよ」
「タマゴ型から離れてくれるかな?」の言い方がキツかったからか、父さんがしゅんとして「あ、ああ…そうだな」と言った。
「自立型のアーティファクトって初めてだからお母さん心配しちゃうわ」
母さんの心配事のポイントはどこにあるんだろう?
中から犬とかオオカミが出てきて家中滅茶苦茶にしてしまう事かな?
父さんが自分を納得させるように「うむ、だがアーティファクトが使い手を貶める事は無いだろう」と言うと母さんの方を見て「きっと大丈夫だ」と言った母さんもその言葉に納得するように「そうね」と言う。
父さんと母さんはそのままひとしきり話すと「良かった」と勝手に満足してくれた。
「キヨロス」
急に落ち着いた声の父さんが僕を呼ぶ。
僕は父さんを見ると父さんは「お前は凄い子だ、そのアーティファクトが何であれ私たちはお前を誇りに思うよ」と言ってくれる。
「改めてありがとう。私たちの子供で、…生まれてきてくれてありがとう」
母さんがまた涙を流しながら僕にありがとうと言っている。
少し照れくさくてむず痒いが両親が本当に喜んでくれている表情を見て僕は嬉しくなり思わず
「父さん、母さん、僕の方こそありがとう。このアーティファクトは暮らしを便利には出来ないらしいけどみんなの役には立てるらしいから、その力で頑張るよ」
僕の返事にまた父さんが大声で喜んで母さんが泣いた。
ものすごかった。
だが僕はこの両親の子供で本当に良かったと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宴はもう滅茶苦茶だ。
父さん達がまるで主役のようにみんなに囲まれて楽しくお酒を飲んでいる。
そうなったのも僕のアーティファクトが原因なので何も言えない。
通常の宴だと村長の挨拶の後に成人の儀を終えた子供達がみんなの前でアーティファクトを披露して使う事になっていたらしい。
だが、僕の「時のタマゴ」は夜になっても真の姿を現す事は無かった。
父さんと母さんがその事を村長に告げるとアーティファクトのお披露目はまた後日改めてと言う形になり、級の発表だけになった。
村初めてのC級以外のアーティファクトの出現に村は大きく沸いた。
僕のS級アーティファクトは真の姿も現していないのに級だけ先に発表をすると皆に無駄な期待をさせたり、真の姿が気になって僕自身も気負ったり気まずい思いをするだろうと村長の配慮からまだ発現前のA級という事にされた。
その配慮も僕の両親やナックやリーンの両親、それと村長はS級と知っているのであまり意味はないかも知れない。
村長は僕たちの級を聞いた時にも大泣きして喜び、挨拶の時にまた勝手に感動して大泣きしていた。
本当に干からびてしまうのではないかと思ったのだが、誰かが僕の級を聞いた時に「じゃあ村長はキョロにやってもらうか!」と言うと村長は泣き止んで焦った表情をしていたのには笑った。
リーンとナックと3人で並んでテーブルに着くと「本当、大変だったんだぜ!」と言ってナックが僕に絡んでくる。
この話は三度目だ。
僕のS級をA級までしか聞いた事がない親に説明するのが大変だったらしい。
更にどういう事ができるアーティファクトなのか説明が出来ないから余計に大変だったらしい。リーンも同様に少し手を焼いたと言っていた。
コツコツコツ…
変わらず「時のタマゴ」はコツコツ言っている。
さっきより音は力強くなっているので、孵化はそろそろなのかも知れない。
そう思って耳をすませてタマゴから出る音に集中してみると、音の切れ間が殆どない事がわかった。
初めは数分間隔で聞こえてきた音が力強く断続的になってきた。
これは真の姿になるのか!?
そう思うと、この人の多い場所での発現はもしかすると問題になるのかも知れない事に気付いた。
「2人ともごめん!」
僕はそう言って村はずれの方へ駆け出した。
村はずれにつく頃には、コツコツコツと言う音は更に断続的に力強くなっていた。
「もう産まれるんだ…」
産まれる?
僕は今産まれると言ったのか?
そうか、産まれるのか。
僕は直感で「時のタマゴ」が真の姿になることは産まれる事だと察したのか。
変な理屈だが、一人で納得してしまった。
「さあ、僕のアーティファクト!村のみんなの為に!僕自身の為に産まれてきてくれ!!」
今まで感じたことのない高揚感を感じた僕は「時のタマゴ」を天にかざしてそう言った。
…!!?
掌の中の「時のタマゴ」が一瞬震えた。
その後、震えた「時のタマゴ」は熱を帯びて熱くなってきて光り始めた。
「産まれる。産まれるんだ。」
世界が一瞬光った?
世界が光ったのか僕がめまいをおこしたのかよくわからない。
ただあまりの光に僕はめまいをおこした気がした。
よくわからない。
ただ今だけは倒れてはいけない、直感がそう言っている。
僕は直感に従って意識を集中し倒れないように踏ん張った。
光が収まるとき、目の前に一羽の小鳥がこちらを見ながら羽ばたいているのが見えた。
「お父さん、僕を産んでくれてありがとう」
お父さん?
このアーティファクトが喋っているのか?
よくわからない。
思考がまとまらない。
そう思いながら僕は倒れた。
ああ、やはり光ったのは世界が光ったのではなく僕がめまいを起こしたからか。
昼の疲れが出たのか、実はアーティファクトが真の姿になる時に物凄く疲れるのか、原因はわからない。
困った、意識が薄れてきた。
この状況で倒れるのは良くないのがわかる。
何故かはわからないがわかる。
そう思っていると、足音と僕を呼ぶリーンの声が聞こえてきた。
助かった。
これでひとまず倒れても何とかなるだろう。
そう思い終わる頃に僕の意識は闇に落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ました僕は周りを見渡す。
場所はさっきの村は外れで、リーンが膝枕をしてくれているのがわかる。
ナックがリーンを気遣って「疲れたら言えよ、俺も膝枕やってやるからさ」と膝枕を代わると言っている。ナックの膝枕はリーンと違って硬そうだな。
「うん、でも平気」と言うリーンに「それともウチが近いからウチに連れていくか?」と提案をするナック。
リーンが楽しそうに「ナック、槍斧持ちながらキョロをおぶえる?」と聞くと「大丈夫だって、キョロはイノシシより軽いんじゃね?」と何故かイノシシ基準で言われているなと思っていると中々諦めないナックに「後、槍斧がキョロのお尻に刺さったりしない」とリーンが追求しているのが聞こえてくる。確かに斧の部分が刺さりそうで怖いしそれは困る。
そんな事を思っていると、仰向けになった僕の胸に先ほどの小鳥が降りてきた。
「かわいい子鳥」
「珍しい鳥だな、初めて見る種類だ」
リーンとナックがそんな事を言っている。
「お父さん、起きた?」
小鳥が僕に話しかけてきた。
やはりこの小鳥が自立型のアーティファクトなのだろう。
僕は小鳥に向けて「ああ、今起きたよ…」と言って上を見て「リーン、膝枕ありが…」と言ったところで「小鳥が喋った!?」「はっきりと喋った!!」と驚いている。
ナックとリーンが驚きの余り僕が目覚めたことに気づいていない。
王都にいると言う九官鳥と言う鳥も話をすると聞いたことがある。
それと変わらないと思うのだが、2人にはショックが大きかったようだ。
「ナック、リーン、落ち着いて」
僕がそう言うと2人は僕が目覚めたことに気が付いた。
「大丈夫か?お前急に倒れこんだんだぞ」
「本当、走っていったと思ったら倒れて驚いたわ」
やはり光ったのはめまいだったのか。
リーンの膝枕から降りて起き上がった僕は胸から右手にとまった小鳥に目を向ける。
「お父さん、初めまして。僕を産んでくれてありがとう」
小鳥は流暢に喋る。
これが自立型アーティファクトで意思疎通ができるという事か。
後ろでナックとリーンの2人がまた騒いでいるが、僕は2人に構うことなく僕は話を続ける。
「君は、僕のアーティファクト「時のタマゴ」だね?」
「はい。無事に産まれてきました。きれいにタマゴを開けられたんですよ。見てください」
そう言うと地面に落ちたタマゴの殻?を見ると確かに奇麗に横一文字でタマゴが開いている。割れているのではなく、開いているという方が的確で本当に開けたというのがわかる。
「もっと早く産まれてこられたんですが、そのタマゴの殻はこれから僕のお家になるので奇麗に開くようにずっと突きました」
この言葉で僕は「そうか、あのコツコツと言う音は奇麗に殻を開くための音だったのか」と納得をした。
「お父さん、なので殻はきちんとくっつけてポケットに入れておいてくださいね」
僕は「時のタマゴ」の小鳥に言われた通りに殻を拾ってくっつけてみる。
多少のがたつきは感じるが箱のように綺麗に合わさった。
そしてそれをポケットにしまう。
触った感じは頑丈だったので割れないとは思うが、もう少ししまう場所に関しては考えた方がいいかもしれない。
殻をしまうと今度は「時のタマゴ」の小鳥から「お父さん、ありがとうございます。それでは次に僕に名前をください」と名付けを頼まれてしまった。
正直、ここまで意思疎通ができると思っていなかったので名前とか考えていなかった僕は急遽名前を考えることにする。
「「時のタマゴ」から産まれてきたから…[トキタマ]でどうかな?」
これを聞いていた後ろの2人が「安直!」「もう少し格好いい名前を付けてやれよ。」と突っ込みを入れてきたが僕の語彙力ではこのくらいが限界です。本当にごめんなさい。
だが当の本人は「トキタマ!僕はトキタマ!!」と喜んで僕の周りを飛び回っている。
ナックが少し呆れた感じで「あー、本人が喜んでいるんだったらいいんじゃね?」とリーンに話しかけている。リーンもトキタマを見て「そうね」と言って受け入れてくれた。
トキタマは僕の肩にとまると「お父さんのお友達の人、はじめまして。僕はトキタマです」と2人に挨拶をした。
トキタマに話しかけられた2人は「は…はじめまして」「よろしくお願いします」と面食らって挨拶を返している。確かに、自立型のアーティファクトが小鳥で喋って話しかけてくるって言うのは珍しいよな。
「とりあえずもう大丈夫だろうから宴の場に戻ろうか?」
僕がそう言うと2人とも「賛成」と言ってくれた。
トキタマにはどんな能力があって、どんな注意点があるのだろう?これは宴に戻ってからトキタマに聞いて見よう。
僕はそんな事を思いながら宴の場所に戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宴に戻った僕は席について水を飲みながらトキタマがどんなアーティファクトなのかを考えていた。
リーンが「もう、これからは1人の身体じゃないんだからちゃんと2人分食べなきゃダメよ!」と冗談なのか本気なのか悩む事を言いながらナックとを連れて僕の為に食べ物と飲み物を取りに行ってくれた。
何故こんな話になったかと言えば2人は僕が倒れたのは疲れと空腹だと決めつけていたからだった。
生まれてこの方疲れや空腹で倒れた事は無いのでそう言ったのだが、2人はS級のアーティファクトを授かったのだから疲れるかもしれないしお腹だって空くかもしれないと言うことを言っていた。
目の前の小鳥…トキタマ。
僕のアーティファクト、まだどんな能力があるのかわからないがこうして眺めていると小鳥にしか見えない。
そして驚いた事にトキタマは宴のご馳走を肉や魚、野菜などを問わずに食べている。
僕の「君は、なんでも食べるんだね」という問いかけにトキタマは「僕は美味しいものが大好きです。でも別にご飯は食べなくても平気ですよ」と返してきた。
それを聞くとやはり倒れたのは空腹が原因ではない気がする。
そろそろトキタマの能力が気になった僕は「ねえ、君の能力は何?神の使いは教えてくれなかったんだ」と質問をするとトキタマは嬉しそうに「ふっふっふ、お父さんは僕の能力を知りたいんですね?」と言った。
トキタマと話している時、僕の後ろの方で酔っ払った男性陣の誰かがとろみのついたイノシシのシチューを器ごと地面に落としていた。
それを見たナックのお父さんが「よくも俺の仕留めたイノシシのシチューを!」と叫んだが、すぐさま「まあいい、今日は息子の晴れの日だ!気にすんなー!」と言い笑っていた。
酔っ払った男性陣は全員がつられて笑って誰もシチューを片付けなかった。
僕はトキタマに視線を戻す。
視線を感じたトキタマは「うーん、お父さんに僕の能力を知ってもらうには説明するより体験してもらうのがいいのですが、いいのがないなぁ…」とブツブツと言っている。
いいのがない?
それはどういう事なのだろうか?
時の力でモンスターを一瞬で退治するとかそう言う能力なのであろうか?
そんな事を考えていると「きゃぁ!!?」というリーンの声が聞こえたので振り返ると、リーンが先ほどのシチューに滑って転んでしまった。
手に持っていた飲み物は全てこぼれてしまっている。
…男性陣がイノシシのシチューを片さなかったからリーンが滑ってしまった。
まったく、すぐに片づけをしないからと思っていると突然トキタマが「それです!!」と言い出した。
トキタマはそのまま「さあ、お父さん準備ができました。僕を使ってください」と言って僕の手にくる。
何のことかはわからないが、トキタマが自分を使えと言っている。
言われるがままに使っていいのであろうか?
普段の僕なら絶対に使わないと思う。
先ほどの父さんの「うむ、だがアーティファクトが使い手を貶める事は無いだろう。きっと大丈夫だ」と言う言葉が思い出された。
それは言い訳でしかない。
僕は自分のアーティファクトを使ってみたいのだ。
何が起きるのだろう?
ワクワクした気持ちを抑えながら意識をトキタマに向けて「【アーティファクト】!」と唱えた。
その瞬間、小鳥サイズのトキタマの羽根がみるみる大きくなって僕を包んだ。
何が起きるのだろう?それとも何かが既に起きているのであろうか?
そう思った瞬間、僕の意識は一瞬遠のいた。
ふと意識が戻った。
僕は席についていた。
「もう、これからは1人の身体じゃないんだからちゃんと2人分食べなきゃダメよ!」
リーンがそう言いながら去って行った。
この後姿は知っている。
ああ、食べ物と飲み物をナックと撮りに行ったのだ。
…これは先ほどあった事だ。
僕は夢を見ているのであろうか?
目の前のご馳走を食べているトキタマに目を向けるがトキタマは居なかった。
さっきは確かにご馳走を食べていたはずのトキタマが居ない。
不思議な気持ちの中でトキタマを探すと「お父さん、僕はここですよ」と僕の右からトキタマの声がした。
右を向くとトキタマは僕の肩に止まっているので僕は「これは夢?」とトキタマに問いかける。
トキタマは自慢げに「違いますよ、これが僕の能力です。時を跳んで過去に戻る事ができるんです」と言った。
僕の頭はトキタマの言葉に付いていけなかったので「え?」と聞き返してしまう。トキタマは何を言っているのだろう?
僕の混乱はお見通しでトキタマは「お友達のお姉さんを見ましたよね。お父さんが跳ぶ前は転んで食べ物と飲み物で汚れていました。でも、今ここに居たお姉さんは汚れる前のお姉さんですよ。お父さんは時を跳んだんです」とこの先に起きたことを話しながら説明をしてくれる。
トキタマの言っていることが本当だとすると、これは夢ではなく確かに時間を跳んでリーンが転ぶ前に戻ってきたのだろう。
「お父さん、僕が跳ぶ事を勧めるのは事件と解決の条件が揃うことです。お父さんはお姉さんが転ぶのを見ました。お姉さんが転ばないで済む方法、解決策はお父さん自身が「男性陣がイノシシのシチューを片さなかったからリーンが滑ってしまった」と言っていました。イノシシのシチューがこぼれない、もしくはこぼれた後、お姉さんが来る前に片づければいいのです」
この説明で何をすればいいかわかった。
僕がシチューを何とかすればリーンは転ばないで済む。そういう事か…。
ここで一つ疑問が出てくるので僕はそれを聞くことにした。
「トキタマ、もしここで僕が何もしなかったらどうなるの?」
「どうにもなりません。さっきと同じことが起きます。でも、お父さんが後になって「やっぱり助けてあげたい」って思った時の為に僕は今の場所を覚えておきます」
「トキタマが覚えていれば跳べるの?」
「はい、それ以外でもお父さんが思い出したり僕を使えば跳べますし、ほかにも色々跳べます。ただ、確実に事件に対して結果を変えられる条件が揃った時は、僕からお父さんに「跳べるよ!!」って教えます。でもそれ以外だと確実じゃないから跳んでも失敗することもあります」
大体言っていることは理解できた気がする。
トキタマは時間を戻してやり直すことができるアーティファクトで、僕が事件を見て確実に結果を変えられる場合にはトキタマが教えてくれるらしい。
これは確かに、生活は便利にはならないが村のみんなの為になるアーティファクトだ。
ここで僕は一番気になっていることを聞くことにする。
「トキタマ、君を使う時の注意点は何?」
だがトキタマは即答で「そんなのないです」と言った。
それはない、神の使いも注意点はトキタマから聞くように言っていた。
だから必ずあるんだ。
でもなんでトキタマは言ってくれないのだろう?
「B級以上のアーティファクトには必ず注意点があるんだ。だからトキタマ、君にも何か注意点があるんだ。それを言ってくれ」
この時、トキタマの目は面倒くさそうに僕を見ている気がした。
だがここで引く訳にはいかない僕が黙っていると少しの間の後で「わかりました。言います。何回跳んでも解決できない出来事があったりします」とトキタマが言った
「それはどういうもの?」
「相手が相当強くて何度戦っても勝てない場合とかです」
「それだけ?」
「そうです。僕が万能じゃないとお父さんが僕を使わないんじゃないかと思って黙っていました」
トキタマの言葉は確かで不確かな感じがする。
トキタマはS級アーティファクトだからまだ何かある気がするが、今はこれ以上トキタマを追及しても教えてはくれないだろう。
何となくそういう確信がある。
少しずつ試していけばいい。
とりあえず今はイノシシのシチューだ、リーンが無事に転ばないで済むかやってみよう。
僕は男性陣の席に近づいてシチューの器を男性陣から離した。
酔っぱらったおじさんが「何やってんだ?」と言ってきたが「落としそうだったよ」と言うと「そうか?ありがとな、流石A級さんはよく見ているな!」とからかってきたので僕は謙遜してその場を離れ席に戻る。
これでシチューがこぼれる状況は回避した。
見ていると怪しまれるだろうから頑張って振り向かないようにしているとトキタマが「後は待っていてください」と言ってくる。
足音でわかる。リーンがきた。
今男性陣の横を通った。
当然だがシチューが無かったのでリーンは転ばずに飲み物を持ってきてくれた。
後ろから食べ物をもったナックが帰ってきた。
僕は結果が出たことに満足しながら「おかえり」と言う。何も知らないリーンは「ただいま。少しは元気になった?」と聞いてくる。
「ありがとう、今は大丈夫だよ」と言う言い方でピンときたナックが「お、なにかいい事あったのか?顔がすっきりしてるぞ?」と聞いてきた。
僕はトキタマの能力を2人に説明するかを悩んだ。
言って信じて貰えないのも仕方がない事で、トキタマと僕は跳んだことを知っているが2人は知らない。リーンが転んで汚れてしまった事実はもうないのだ。
だが、期待してくれている2人に何も言わないのは失礼にあたるとも思った。
僕は2人にトキタマの力を説明した。
2人はとても驚いていた。
リーンの話をしたが信じられない感じだったのだが、トキタマが「本当です。お父さんは嘘なんかつきません」と言った辺りで信じてくれたようだ。
だが正直これをあと数回するのかと思うと厄介さから気が重くなった。
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