第2話 「時のタマゴ」。

光が収まると目の前には心配そうに僕を待つナックと涙目のリーン、そして少し意外そうな神の使いが居た。


リーンが「帰ってきた!!」と言って僕の帰りを喜んでくれて「良かった!無事か!!?」とナックが心配をしてくれた。


ここまで喜んで心配されると不思議な気持ちになる。

表情に出ていたのだろう、リーンが「ナックの倍以上時間がかかったのよ」と教えてくれた。

倍?あれだけ長い間行っていたのに倍?なんだか変な感じだ。


ナックが「散歩道の紅葉に見とれていたのか?」と冗談を交えて聞いてくるので「いや、僕のは冬だった。それに上り坂と下り坂、崖なんかもあったんだ」と説明をするとナックは「なんだそれ?俺の時とは大違いじゃないか」と自分との差に驚いている。

この説明で心配になったリーンが「怪我はないの?」と聞きながら僕の身体を見る。


「ありがとう、大丈夫だと思う。走った時に枝とかに引っ掛けたかもしれないけど大きな怪我はないよ」

この説明でリーンがホッとしてくれると神の使いが「無事で何よりです。私もあまりに帰りが遅いので中を見させてもらいましたがまさかあんな事になっているとは…」と驚きを口にしながら話しかけてきた。


「それにしても意外でした。あれだけのモノに追いかけられて一度も振り返らずに走りぬく子供が居たとは…」

神の使いの驚きに自分で言っておいて何をと言う気持ちで「振り返ったら禁止事項で散歩道が迷宮とかに化けたら困るから頑張って振り返らなかったんです」と説明をする。


「そうでしたか、振り返るのは問題なかったのですが、今回は振り返っていたら恐怖で足がすくんでいたかもしれないので結果正解でしたね」

この言葉にナックが「え?お前何か出てきたのか?」と驚きながら聞いてくる。

僕が「うん、僕は見ていないから何だかわからないけどね」と答えるとまだ箱庭に入っていないリーンが「え?私の時も出るかな?」と不安そうにこっちを見ている。


しまった、安全確認に行ってこれでは話にならない。

どう説明しようかと悩んでいると神の使いが「いえ、大丈夫だと思います」と言ってくれた。


「キヨロスが何故か迷路と散歩道の間のような場所に紛れ込んでしまっただけで、通常は散歩道に行けますし、何より私も心配になりましたので次は初めから箱庭の中を注意しておきます」

この説明で安心したリーンは「良かった、ありがとうございます」と言う。


僕は正直追いかけてきたアレが気になったので「あの、それであれは何だったのですか?」と聞いてみることにした。神の使いは僕の質問に「ああ、あれは鬼です」と言った。


「鬼?デーモンとかそう言う魔物ですか?」

「いえ、あれは鬼ごっこの鬼です。姿は見る人によって異なりますが、箱庭の鬼はあの状況で出てきてほしくないものの姿を模して現れます」


捕まったら僕が鬼になっていたのかな?

それにしても出てきてほしくないものか…


そう聞いた僕は「それで四つ足の何かだったのか…」と納得をするとナックが「キョロは山でイノシシに追いかけられた事があったしな」と昔の事を思い出して話す。


そう、子供のころ父さんの後を追いかけて山に入って子供のイノシシに追いかけまわされた事がある。それを箱庭の鬼が読み取って模してきたというみたいだ。



リーンが僕の手を見て「で、キョロは何を持っているの?タマゴ?」と聞いて来た。



タマゴ?

何を言って…


アーティファクト!


あまりの事態にアーティファクトの存在を忘れていた。

僕は慌てて手の中を見ると大き目な10センチくらいの白いタマゴがあった。


「なんだこのタマゴ?」

僕はタマゴを見回してみる。

タマゴは光の受け方によって薄い紫に光っている。


「これがキョロのアーティファクトか、効果はなんだろうな?飼ったニワトリが卵をバンバン産んでくれるとかかな?」

ナックは自分のアーティファクトの方が格好いいからと調子に乗っているのが表情から読み取れて正直面白くない。


「うーん、キョロに撫でてもらうと動物がいっぱい赤ちゃんを産むとか?」

リーンもナックに合わせて本気か冗談かよくわからないことを言っていてここで止めないと悪ノリされそうな気がする。


そしてタマゴトークはここで終わらずに「何回食べてもなくならないタマゴとか?」とナックがまだ言っている。


いい加減止めようと思った僕は「産むとか食べる関係から離れてよ。僕は家族の暮らしが便利にさえなってくれればいいんだからさ」と言うと神の使いが僕を見た。


「キヨロス、いいですか?落ち着いて聞いてくださいね。これはS級アーティファクト「時のタマゴ」です」


神の使いの言葉に僕は耳を疑う。

S級?アーティファクトはA級までじゃないのか?


それにしても僕にS級アーティファクトが授けられるなんて思いもよらなかった。

そんな僕の驚きよりもナックとリーンの驚きの方が凄かった。


「すっげぇぇぇ、Sなんて聞いたことないよ!凄いなキョロ!!」

「本当、キョロのお父さんたちの言った通り凄いアーティファクトを授かったのね!」

正直、僕でもS級と言う名の凄さはわかったが価値が全くわからないので僕は2人の言葉に「2人ともありがとう。でも驚きすぎだよ。」と答えた。


そして時間と共に段々と疑問の方が勝ってきた。


「S級?A級の上があるんですか?」

僕は神の使いにそう聞いた。


「A級の上にS級が存在します。嬉しいですか?」

「でも僕はそんなことは実はどうでもいいんです。僕のアーティファクトは家族の暮らしが便利になりますか?」

神の使いは少しだけ困ったような顔をして「この「時のタマゴ」は家族の暮らしが便利になるのは難しいアーティファクトです」と言った。



ハズレだ。

なんという事だ、このアーティファクトでは暮らしが便利にならないのか…。


「ではせめて村のみんなの役に立ったり、みんなを笑顔に出来ますか?」

縋るように聞いてしまう僕に「ええ、それは出来ます。きっとあなたのアーティファクトはみんなの事を幸せにしてくれますよ」と言ってくれた神の使いは僕からリーンに顔を向ける。


「さあ、遅くなってしまいましたね。次はリーン、あなたの番ですよ」

「はい」

リーンが覚悟を決めた顔で前を向いている。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、予定より時間が大分過ぎてしまっていますので、簡単にですが二人にアーティファクトの使い方を説明しますね。個別の使い方もあるので今のうちにナックとキヨロスには説明をしてしまいます」


リーンが箱庭に入ると神の使いが待ち時間を使って説明を始めた。


ナックは早く使いたいようでさっきから何かと手で槍斧を触ったり小さく振ったりしていて神の使いの言葉に「はい!よろしくお願いします!!」と前のめりで返事をする。


神の使いは僕の返事は聞かずに説明を始めた。

「まず、基本的な事ですがアーティファクトの力を使うにはアーティファクトに意識を向けて使いたい能力を思い浮かべながら【アーティファクト】と呼びかける事で発動します。あ…ナックはまだ使わないでくださいね」


横を見るとナックが槍斧を構えている。

僕はまだどんな能力があるのかわからないのに早速使おうとする辺りがナックらしくて可笑しくなってしまった。


「次にアーティファクトの能力ですが、これは同じアーティファクトを持つ人が近くにいれば教えてもらう事も出来るのですが、生憎村に「大地の槍斧」の持ち主は居ません。なので3つの能力と注意点を説明しますね」


「うおぉっ、すげえ!3つも能力があるのかよ!父さんの「剛力の斧」は切れ味が増して硬い木もサクサク切れるだったのに!?」

ナックがいちいち反応してて話が進まない。

正直神の使いは怒るのではないかと思ったが気にすることなく話を続けている。


「まず、能力ですが…」と言って神の使いが話したのは…


1.刃こぼれなどをして切れ味が悪くなってきた時に切れ味を元に戻す事

2.槍斧の重さを感じなくなる事

3.槍斧の威力を増す事


この3つが能力で、「大地の槍斧」には注意点が存在していてそれは…

1.海や川、湖などのそばでは発揮される力が半分以下になる事

2.痩せた土地や毒沼などの汚れた大地では全く力が出せなくなる事

だった。


正直それを聞いた僕はこれでは注意点と言うより欠点ではないのかと思ってしまう。

「剛力の斧」よりいくら強くても限定された条件でしか能力が発揮されないのはどうなのであろうか?


「え!?欠点あるんですか!?」

ナックも注意点ではなく欠点と思っているようで思わず神の使いに欠点と聞いてしまっていた。


そう、村の誰もが持っているアーティファクトを見る限り欠点なんて聞いたことがない。

確かに能力は木をサクサク切れる斧とか切れ味の落ちないナイフやご飯の美味しくなるフライパンだが注意点なんて話は聞かなかった。


父さん達が隠し事をするとも思えない。

コレは何でだろう?


神の使いが少し困った顔で「ナック、あなたのアーティファクトはB級なのです。アーティファクトはC級以外、B級以上のものには何かしらの注意点が伴います」と僕たちの疑問に答えるように説明をしてくれる。


これに驚いたのはナックで「え!?俺のアーティファクトはB級なんですか!?キョロを除けば俺のアーティファクトが村一番…」と言って嬉しそうに「大地の槍斧」を見て驚いている。


そんな話をしながら僕はリーンの事が気になった。

神の使いはまた僕の心を読んだのだろう、僕を見て「リーンはまだ半分にも到達して居ません。今彼女は箱庭の景色を楽しんで鼻歌を歌っていますよ」と言ってリーンの現状を教えてくれた。



「さてナック、あなたは川のほとりでは「大地の槍斧」の力が半分以下になってしまいます。川の側と川から離れた場所の両方でアーティファクトの力を試してみてください。ただし熱中しすぎてあまり周りを壊しすぎないように注意をしてくださいね」


神の使いのこの提案にナックは「はい!!わかりました!!」と返事をして駆け出していく。

1秒でも早く試してみたいのだろうから仕方ない

だが、今このタイミングでの神の使いの提案は多分…。


最後まで思う前に神の使いは「その通りですよキヨロス。私はあなたと2人で話さなければならないのです」と言った。


分断をして説明をする…。S級アーティファクトには一体どんな能力と注意点があるのだろうか…。

僕には考えも及ばないことだった。



「まず、初めに伝えなければいけない事があります。私はあなたに「時のタマゴ」の能力と注意点を告げる事は出来ません」

身構えた僕にそう言った神の使い。

何と拍子抜けだろう。

僕は身構えていただけに思わず転んでしまいそうになる。



「ただ、どういうものかと言う事は伝えられます。「時のタマゴ」は人間には触れることが不可能な時を司るアーティファクトの1つです。この能力は家族の暮らしを便利には出来ませんが、村のみんなを幸せにすると言う事は可能です」


時…。

目に見えない時が見えるようになって何かできるようになるのだろうか?

そしてここで神の使いの説明は終わらず「次に、このアーティファクトはまだ完全体ではありません。後数時間もすれば本当の姿で貴方の前に現れます」と言った。


僕は手に持っているタマゴを見ながら本当の姿があると言うことを考える。


「いくつかのS級アーティファクトには[自立型]と言う、話しをしたり意思の疎通が可能なアーティファクトがあり、この「時のタマゴ」も真の姿は自立型のアーティファクトです。能力は「時のタマゴ」自身に教わるといいでしょう」


いきなり色々と話をされて僕は面食らってしまったが、数時間後にはタマゴから何かが現れて僕と意思疎通が出来るらしい。

そして、その力は村のみんなを幸せにできるらしい。

今の僕は何も考えずにそれだけで十分だと思ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、そろそろリーンが戻ってきますよ」と言った神の使いの言葉と共に箱が光ると中からリーンが帰ってきた。

リーンは手に何か持っているがあまり大きくない、手にすっぽりと収まる物のようだ。

そして見た感じ怪我もない。

安心した気持ちで僕は「おかえり」と声をかける。

ニコニコと上機嫌のリーンは「キョロ!ただいま」と言った後で周りを見て「あれ?ナックは?」とナックの不在に気付いた。


神の使いが「お帰りなさいリーン。ナックは少し離れたところでアーティファクトの力を試してみていますよ」と話すと「そうでしたか」と納得をしたリーンは「あ、アーティファクトと言えば私のアーティファクトは何なのでしょうか?」と言って手に握られたアーティファクトを見せてくれた。


リーンのアーティファクトは長さが10センチくらいで幅が4センチくらいで少し厚みがある。

色は赤い。何かの柄のようにも見える。

神の使いは優しく微笑むと頷いて「これは「万能の柄」です」と言った。


「B級アーティファクトですよ。あなた方3人は凄いですね。C級しかアーティファクトがなかった村にB級とS級のアーティファクトが授けられました」

神の使いは優しい笑顔で僕たちを見ている。

本当に祝福の気持ちがあることが表情からも伝わってくる。


「「万能の柄」ですか…」

名前からはどう言うものなのか想像もつかないアーティファクトを前にリーンは少し困った顔をしていると神の使いが「大丈夫ですよ。今から能力と注意点を説明しますから」と言った。


その神の使いの説明はナックの時とは違っていた。

「このアーティファクトはナックの「大地の槍斧」のように能力の数が3つあるわけでも、水辺や汚れた土地では能力が発揮されないと言う注意点もありません。

このアーティファクトの能力は[万能]です」


万能、これはまた凄い言葉が出てきた。

空を飛んだり食べ物を生み出したりするのであろうか?

それにナックのような注意点が無いと言うのも凄い。

同じB級でもこれだけ違いがあったらナックは何を言い出すだろう。正直考えるのも恐ろしい。


「万能…ですか?私には益々わからなくなりました」

リーンがかなり困惑しているのが声と表情からよくわかる。

神の使いは優しい声で「万能と言ってもできる事には限りがあります」と言った。


神の使いはそのまま「このアーティファクトはあくまでB級ですのでA級やS級でできるような事はまず出来ません。ただ……そうですね」と言うと一瞬何かを考えて「論より証拠ですね」と言って「万能の柄」を指差して「リーン、アーティファクトを構えて意識を向けてください。そして、頭の中にろうそくをイメージしてください。ろうそくの長さは…そうですねアーティファクトと同じくらいをイメージしてくださいね」と続けた。


リーンが少し困った顔をしながら神の使いに言われた通りにアーティファクトを構えた。


「準備ができたら【アーティファクト】と呼びかけてください」


「はい、【アーティファクト】!!」


リーンが呼びかけた瞬間、リーンの赤いアーティファクトは光を放った。

光が収まるとリーンのアーティファクトの先からろうそくと同じ大きさの火が出ている。

神の使いは満足そうに火を見て「成功ですね。これがあなたのアーティファクト「万能の柄」の能力です」と言った。


リーンが火の出た「万能の柄」を見て「火が出るのが能力ですか?それもこんなに小さな火…」と言ってがっかりしている。


「いえ、それでは万能などと名前は付きませんよ。火を消すときは[もうおしまい]とアーティファクトに念じてください。それで今の効果は終わります」


リーンが念じたのだろう神の使いが言い切る前に火は消えた。

リーンの顔つきが暗い。余程ショックだったんだな。

そう思っていると神の使いは「今度はナイフをイメージして」と言った。

一瞬慌てたリーンが「万能の柄」を見てイメージをしたのだろう、神の使いは「【アーティファクト】と呼びかけてください」と言う。


「え…はい、【アーティファクト】!!」

今度はアーティファクトの先に鈍い光が見える。光の形はナイフの形になっている。


「成功ですね。もうお分かりでしょう。これが「万能の柄」の能力。イメージした物の具現化になります。」


なんという事だ。3人の中でリーンが一番凄いアーティファクトを授かったのではないか?


「さて、注意点を説明します。リーン、今のナイフでそこの葉っぱを切ってみてください」


リーンが神の使いの指さした葉っぱを切ってみる。


「わかりますか?切れ味は並みのナイフと同等くらいの切れ味しかありません。アーティファクトで精製した武器と言う扱いにはなりますが、武器のアーティファクトが持つ性能には届きません。これが注意点の一つ目。次の注意点はイメージ力がそのまま精製に繋がるのでイメージに失敗すると何も精製できません」

確かに万能ではあるが、秀でたものはないしイメージする力に左右されるのか…


そう思って聞いていると神の使いが「それとあと一つ」と言うとリーンが「まだあるんですか?」と言ってどんどん顔を曇らせていく。


神の使いが模すし分けなさそうに「精製できるものの種類と大きさの話です」と言った。


「柄の大きさは一般的な剣の柄より短いですよね?この万能の柄で剣のようなものを精製しようとしても最大でも鉈くらいの長さのモノしか精製できません。あとは飲み物や食べ物は精製できませんので注意してください」


確かにそれ以外ならイメージする力と知識があれば何でも作れるので「万能の柄」と言う名前なのも頷ける。

だが、リーンの顔色は優れない。きっとイメージする力に自信がないのだと思う。


僕はそんなリーンに「リーン、今度僕と王都の図書館に行ってみよう。あそこになら色んな物の本があるって聞いたから、きっとリーンの力になると思うよ」と言うとリーンは嬉しそうに「キョロ…ありがとう」と言った。


神の使いは僕達を見た後で空を見ると「さて、説明も終わりましたし私はそろそろ帰る時間ですね。リーン、ナックを呼んできてくれますか?あちらでまだ槍斧を振るっているみたいですし、近くに行けば声がするはずです」と言う。

リーンは何も疑わずに「あ、はい」と返事をすると素直に言われた方向に歩いて行った。



このタイミングのこの流れ、これはまた2人きりになるのが狙いなのかな?

そう思った時、一瞬の沈黙の後で神の使いは「キヨロス、何回目ですか?」と聞いてきた。

何のことかさっぱりわからない僕は「…何の話ですか?」と聞き返す。


「いえ、忘れてください。それよりも何か聞いておくこととかはありますか?少しなら時間はありますよ」

そう言われた時、僕の中に疑問が浮かび上がった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



神の使いは「何か聞いておくこととかはありますか?」と言った。僕は浮かび上がった疑問を聞いてみることにした。


「それではいいですか?神の使いは僕が箱庭に入っているときに僕の事を見ていたんですよね?」

「そうですね。見ていました。途中からですが帰りが遅かったので気になって見始めました。あなたが入ってからの足取りは私の力で追いましたので結果的に全てを見ました」


神の使いが見ていたと言う事で僕は聞きたいことは決まった。


「なぜ冬だったのか、二人が散歩道だったのに僕は迷宮のような場所だったのか教えてください」

「季節は箱庭が選ぶのです。キヨロス、あなたの中の何かを箱庭が察したとしか言えません。場所に関してはあなたがS級の所有者の素質があったからだと思います」


季節は箱庭が決めるのか…迷路の部分に関しては何となく想像はついていた。

やはりS級が原因だったようだ。


「もう一つだけ、いいですか?」

「なんでしょう?」


「仮に最初の分かれ道で雪の積もった石畳を選んでいた場合、僕が授かっていたアーティファクトは変わっていましたか?」


この質問に神の使いは少し困った顔をしてから「そうですね。もしも違う道を行っていたら貴方のアーティファクトは「時のタマゴ」ではなく別のS級アーティファクトになっていたと思います。あまり言いたくはなかったのですが、あなたの可能性の数だけアーティファクトがあの場にはあった。アーティファクト達があなたを待っていました」と言った。


その話の通りならナックは「大地の槍斧」以外のアーティファクトはなかったのであろう。

リーンは…ああ、聞き忘れていた。リーンの入った箱庭はどんなところだったのだろう?あとで聞いてみよう。


丁度と言うべきか「さあ、2人が戻ってきましたよ」と神の使いが言った。


振り向くと2人が息を切らせながら走って帰って来ていた。

ナックは真っ赤な顔で嬉しそうに「キョロ!聞いてくれよ。俺のアーティファクト凄いんだぜ!木々をバッタバッタと切り倒してさ!!」と話し始めるがリーンは「もう、その話は後にして、神の使い様が帰られるんだから」と言ってナックを止める。


僕達が息を整えて整列をすると神の使いは「ナック、キヨロス、リーン。今日あなた達に会えてよかった。新しく成人になるあなた達に神より与えられしアーティファクトが幸せを運びますように。それではさようなら」と言うと祭壇の光を使って天に帰っていった。




さて、大分遅くなってしまった。早く村に帰ろう。

そう思っていると僕の右手を何かがノックしている。



コツコツコツ…コツコツコツ…



これはあれか「時のタマゴ」が真の姿を現すのかもしれない。


遅くはなったけど村長への報告は後回しにして一度家に帰ることになった。

ナックとリーンはお互いのアーティファクトの特徴を話し合っている。


「え?注意点ないのかよ!いいなぁ」

「その代わり私はイメージが出来ないと何もできないんだからね」


ナックとリーンはそんな事を言いながら歩いている。

ナックは早く家族にアーティファクトを見せたいと言っていた。

リーンも家族にアーティファクトを見せたいけれど、両親の前で失敗しないようにと歩きながら何度もイメージしたものを形にする練習をしている。

今も「ろうそくだと感動が薄いと思うの、同じ火なら松明かしら?」と言っている。



僕の方といえば正直気が重い。

「時のタマゴ」がS級のアーティファクトという事は分かったが、この「時のタマゴ」がどういうものかもわからないのだから。


コツコツコツ…

またこの音だ。

音は確かにアーティファクトからする。

ナックやリーンにも確認してみたら音は聞こえたので僕の聞き間違いではない。


神の使いが真の姿になるまでにはもう少しかかると言っていたのを思い出す。

夜の宴までには真の姿になっていて貰いたいものである。


「これ、本当にタマゴで孵化するのかもな」

ナックが音を聞きながらそう言って居たのを思い出す。


中から出てくるタイプのアーティファクトか…。

僕はそんな事も考えず、寝て起きたら姿形が変わっているのかなくらいにしか思っていなかった。



僕の家まであと少し、リーンは松明の出来にようやく満足している。

僕が「もう使いこなしているんだね。凄いや」と言うと上機嫌のリーンは「私のは所詮B級ですから、きっとS級よりも簡単なのよ」と普段あまり言わない軽口を言って笑う。


僕もそれが不思議と可笑しくて笑ってしまう。

2人で笑った後で「じゃあまた夜」と言うとリーンが「キョロのお父さん達がどうだったか後で教えてね」と言う。


「わかってるよ」と言った僕は両親の顔を思い浮かべてますます気が重くなりながら家の扉を開けた。



ものすごかった。

あの時のことは僕が年を取ってもそう言うだろう。


家に帰ると、待ちくたびれた父さんと、宴の準備を中抜けした母さんが居た。

母さんは他の女性陣から「さっきからソワソワして、気になるんでしょう?行ってきなさいよ!」と中抜けを勧められたらしい。


どれだけ顔に出ていたのだろうか?

まあ、この顔だろう。今も僕の手元やポケットの辺りをチラチラと見てアーティファクトを探している。



帰宅の挨拶もそこそこに、箱庭での景色、僕のアーティファクト、リーンやナックのアーティファクトの事を矢継ぎ早に質問された。


父さんと母さんが気にしているのは僕のアーティファクトだと言う事は分かっていたので、あえてナックとリーンの話からした。


「ほー、あの二人がB級とは…」

「凄いわね、村で始めての事じゃない」

二人は普通にナックとリーンのB級の件を凄いと驚き喜んでくれる。


父さんはチラチラと僕と母さんを見て「ところでほら?な?」と言うと母さんが「あなたはどうだったの?お母さんもう気になって気になって…」と言って父さんと僕をチラチラと見ている。


もう少し、この過保護の親がソワソワする所を見ていたい気持ちもあったのだけど僕はキチンと告げることにした。

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