第27話 マリーの変化、制御球回収。
72回目の時間。
僕は亡霊騎士の制御球が赤に変わる間際を選択して着地をした。
もっと前にするとフィルさんが邪魔をする気がした、僕は何が何でも自分の力で亡霊騎士を何とかしたい。
アーティファクトの一撃ももっと効率的に同じ箇所を何度も狙ってダメージを与えて行きたいし、あのアーティファクト砲も無効化をしたい。
その為に僕は何度跳んででも1人で戦う必要がある。
亡霊騎士が吠えて赤い剣を出す。
あの赤い剣も擬似アーティファクトだ、「兵士の剣」を見て本家が擬似に負けてて恥ずかしくないのか?と話しかけるように思った。
赤い剣を叩き折る為に攻撃を誘っては剣ばかりを狙ってみた。
効果はあったのかも知れないが、少しすると亡霊騎士は剣を収納して殴りつけてくるようになった。
剣を叩き折るのは悪手に近いのかも知れない。
亡霊騎士の攻撃が殴る蹴るになり、リーチこそ短くなったが両腕が使える分だけ手数が増えてしまった。
次はアーティファクト砲を無効化したいので僕は少し距離を取りアーティファクト砲を誘う。
アーティファクト砲を撃ってから次のタイミングまでの時間を知りたい。
なのでこの一撃は何としてでもかわして距離を保ち続けて次弾を撃たせる必要があった。
攻撃はかわせたが、なかなか次弾を撃ってこない。
時間がかかるアーティファクトなのか、はたまたかわしてしまう僕には無駄な攻撃として使う事を拒否しているのかも知れない。
人形がよくそこまで考える。
つくづくペック爺さんのこだわりの強さ、技術力の高さが伺える。
そもそも人形にどうやったらそこまでの事が出来るんだ?
まあ専門外の事だからいくら考えても答えなんて出ない。
僕は段々と亡霊騎士の攻撃を見切り始めている。
速度と威力は並ではないが、大概大振りだし、そもそもあまり考えられた攻撃ではない事がわかれば速度にさえ対応できれば何とかなる。
亡霊騎士は獣とあまり変わらないのかも知れない。
もしかすると将来的には攻撃方法とかを教え込んで兵士並の動きも可能になるのかも知れないが今の亡霊騎士はまだ獣で攻撃も大振りだ。
そこに打開への道があると思う。
僕は疲労が出てきたので跳ぶ事にする。次からは攻撃の狙いを定めて行く事にした。
僕がトキタマを呼ぶとトキタマは「はーい!お父さん、もっと僕を使ってくださいね」と言って僕を跳ばした。
73回目の時間。
僕は左腕を重点的に攻める事にした。
目的はアーティファクト砲の無効化だ。
やはりあれはかわせない事は無いが、かなり厳しいので、かわさないで済むのならかわしたくは無い。
僕は腕に併設されている筒型の部分を重点的に狙う。
30回くらい打ち込んだがビクともしない。
それならばと足元の石を3個拾って筒に入れたりしてみる。
あわよくば暴発をしないかと思った。石はいい感じに筒の中で引っかかっている。
これで暴発でもして腕が吹き飛べば幸いなので僕はアーティファクト砲を誘う。
亡霊騎士は狙い通りアーティファクト砲の構えになった。
僕は顛末を見届けようと左腕に集中する。
亡霊騎士の「【アーティファクト】」の声と共に左腕が光った後、僕は目の前が真っ暗になった。
次の瞬間、僕が見たモノは、空…真っ赤な空が見えた。
赤?血?
色々なモノに気付いたところで身体の痛みを感じる。
マズい…
しかしどうなったのかは知りたい。
僕は「トキタマ、発射の直前に跳ぶ」と声をかけて時を跳んだ。
74回目の時間。
目の前に左腕を構えた亡霊騎士がいる。
腕の筒の中には石が入っている。
僕はその場から走り始める。
どうなったのかを見る為に動き回りながら亡霊騎士を見ると亡霊騎士は僕の方に腕を向けなおしている。
そして狙いが定まった亡霊騎士は「【アーティファクト】」と声を発した。
来た!
僕は発射の瞬間を見る為に亡霊騎士の左腕を見た。
筒の中の石が攻撃に干渉して、正しい球体にならずそれが予想もできない動きを生み出して飛んでくる。
これではかわしようがない。
しかも亡霊騎士は直後に再び「【アーティファクト】」と声を発した。
!!?
連発できたのか?
しかも今回は中の石が更に悪い方へ干渉し光の玉が細かく拡散して飛んできた。
これはかわしようがない。
もし、顔があれば亡霊騎士は満足げに笑って居るだろう。
このままでは話にならないので僕は剣で筒の中に入った石を取り除く事にした。
だが、亡霊騎士は僕に距離を詰めさせずに延々とアーティファクト砲を放ってくる。
これでは勝ち目がない。
まだ戦いらしい戦いはしていないのだが、これは跳ぶしかないのであろうか?
それは非常に勿体無いし悔しい。
諦めるな。
そう聞こえた気がした。
そうだ、諦めていられない。
僕は剣を構える。
考えろ、今出来ることを考えろ!
「どうせ試すなら、全部試してやる!」
僕は剣に火を纏わせる。
カムカが鉄の門を破壊したように僕にも出来るかも知れない。
僕は亡霊騎士の攻撃を交わしながらチャンスを伺う。
三発のアーティファクト砲をかわして、ようやくチャンスが訪れた。
僕の狙いは左腕だ、そこに炎の剣で一撃を食らわせる。
振りかぶりながら「喰らえ!【アーティファク…】」と僕が言った時、亡霊騎士も「【アーティファクト】」と言う。僕が「兵士の剣」を発動させるよりも先に亡霊騎士がアーティファクトを使った。
一瞬で後方に距離を取る亡霊騎士。
今のは身体強化のアーティファクトだろう。
そして間髪いれずにアーティファクト砲を放って来た事で僕は自身の攻撃を止められず、アーティファクト砲の光球に向かって剣を振るう形になってしまった。
ゴォォンと言う轟音、光球の眩しさに目が眩む。
さっきと同じなら次に見えるのは真っ赤な空だ。
僕の目が元に戻って来た。
目の前に広がるのは真っ赤な空なんかではなく、倒れた亡霊騎士だった。
何が起きた?
もしかして僕は跳ね返したのか?
剣も指輪も薄ぼんやりと光っている。
もう一度剣に火を纏わせる。
亡霊騎士はゆっくりと立ち上がると叫んだ。
初のダメージかもしれない。
そう言えば四の村で戦った時も、亡霊騎士はアーティファクト砲だけは盾を張っていた。
雷の力は防げないのかも知れない。
亡霊騎士はもう一度アーティファクト砲の体制に入る。
左腕にはもう石はなかった。
「【アーティファクト】」の声と共に亡霊騎士の左腕から光の玉が発射される。
石が無くなった事で変則的な動きは収まり、真っ直ぐこちらに跳んでくる。
「【アーティファクト】ーっ!」
僕は光の玉に向かって火を纏った「兵士の剣」をぶつける。
手応えがあまりない。
失敗したのかと思ったが、前を見ると亡霊騎士のはるか上を跳ね返した光球が飛んでいく。
やれた!
跳ね返せた!!
まだ亡霊騎士に向けて完璧に打ち返す事は出来ないが、いずれ打ち返せるだろう。
亡霊騎士にこれ以上の隠し球さえなければこの勝負は勝てる。
そう確信した。
この後はパターン化した。
剣と指輪が回復するまでは普通に切り込んだり回避に専念をする。
回復をしたら距離を取って息を整えるついでにアーティファクト砲を誘い打ち返す。
何回か繰り返してわかったのは、僕だけかも知れないが打ち返すのは縦振りより横に振り抜いた方が亡霊騎士に当てやすいという事だ。
とても胸のすく思いだ。
今までの不満が洗い流されていく。
徹底的にやってやる。
楽しくなってきた。
だが、気付くタイミングが良くなかったのだろう。
身体強化のツケが回ってきて身体が重だるい。
時間切れだ。
まあいい、次で倒してやる。
僕が「トキタマ!!」と言うとトキタマの嬉しそうな「はーい」という声と共に時を跳んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
75回目の時間。
開幕からずっと順調そのものだ。
俺の打ち返しの半分は亡霊騎士に当たるようになってきた。
とても楽しい気分だ。
「ほら、撃ってこいよ」と言った俺の挑発に亡霊騎士がアーティファクト砲を放つ。
だが脅威もなにも感じない俺は「怖くねえなぁ!!!」と言って打ち返すと見事に亡霊騎士に当たる。
亡霊騎士はヨロヨロと揺れた後に膝をついた。
これで勝てたな。
後は村長の家に行った連中が無事に帰ってくるかだが……まあいい、ダメなら跳ぶ。コイツもアッチも全部俺が片付ける。
あの門だけはカムカにやってもらう必要があるけどな…
そう思った瞬間、ふと考えが過る。
やれない事があるのは気分が悪いな。
亡霊騎士にしてもそうだ。
何が剣は通用しないだ。
切れなくても滅多打ちにすれば良い。
この先も切れ味が落ちて切れなくなった時にピーピーと泣くわけにもいかない。
そうだ、俺は一の村で待つ皆の為にも1人でやり切る必要がある。
俺は亡霊騎士に向かって「やめだ」と投げかける。
「俺は今から剣で戦ってやる。お前も肉弾戦に切り替えてこいよ。お人形さんよ」
この挑発に「グオォォォォッ!」と震える声で雄叫びを上げる亡霊騎士。
そのまま急加速した身体で殴りかかってくる。
「丁度いい練習台だ…。滅多打ちにしてやる」
俺は狙いをつける事をやめて、その都度打ち込みやすい場所に全力で切り込むことにした。
ガギンッ!という音と手に響く衝撃、俺は「固いなぁオイ!」と言いながら攻撃を辞めずに30回程切り込んだ所で亡霊騎士がよろめいた。
これにより手ごたえを感じた俺は「わかってきた!」とつい喜ぶ。その後20回程切り込んで段々と思い通りの打ち込みが出来るようになった所で身体が重だるくなった。
折角の所で時間切れになるのが勿体名が仕方ない。
俺が「時間切れかよ。トキタマ!跳ぶぞ!」と言うとトキタマは「はいはーい!やっと僕の大好きなお父さんになってくれましたねー」と言いながら時を跳んだ。
76回目の時間。
流石に開幕の亡霊騎士は活きがいい。
思い通りに切り込むのも大変だ。
だがわかった。
今までは剣を当てるまでが大事で当てた先は剣の切れ味に任せていた部分があった。
だが、それでは亡霊騎士には通用しなかった。
だから振り切る最後まで力を入れ続ける。
毒竜の時に身につけたのはどちらかと言うと鱗の裂き方だったのだろう。
大体10回くらい打ち込んだ所でようやく亡霊騎士が吹き飛んで地面に手をつく。
見えた。
剣でも吹き飛ばしてアーティファクト砲も打ち返した。
機能停止まで持ち込める。
ようやくここまできた。
ああ、胸がスッとする。
だが起き上がった亡霊騎士が思わぬ行動に出た。
俺を無視して全速力で山道を走っていってしまった。
「逃げるのか!!?」
走って追いかけたが追いつけない、初速から最高速の亡霊騎士にはとても追いつけない。
この次は逃げる前に倒すしかない。
俺はさっさと跳ぶ為に「トキタマ!」と呼ぶと遠くから「わかりましたー」と聞こえてきた。
77回目の時間。
目の前には制御球がまだ緑色の亡霊騎士が佇んでいる。
俺が「今度は逃すかよ」と言って剣に手を置く。
もうすぐ制御球の色は赤に変わる。
そうしたら攻撃再開だ。
そう思った瞬間「ダメ!」と聞こえてきた。
んぁ!?
突然聞こえた声に振り返るとそこにはフィルさん達が居た。
その後ろでカムカが慌てて「バカ!目を逸らしたら!」と言っている。
亡霊騎士が「グオォォォォッ」と唸り声をあげて俺に突っ込んでくる。
ああ、暴走するか…、だが今の俺には何の問題もない。
「引っ込んでろ!!」と言いながら振り抜いた俺の一撃で亡霊騎士は盛大に吹き飛んでまだ起きられない。そんな亡霊騎士を見てカムカがあんぐりと口を開いて「嘘だろ?すげえ」と言っている。
俺はすぐにフィルさんの方を向き直す。
兜のせいで表情は見えないが目だけは心配してくれている事がわかるフィルさんが俺をジッと見る。俺が「フィルさん、何で?」と聞くとフィルさんはすぐに「キョロくん、跳んで!!」と言った。
「何で?俺、勝てるよ?」
「いいから!作戦会議よ!!早く!!!」
有無を言わさぬ厳しいまなざしでそう言われると致し方ない。
俺は「トキタマ」と呼ぶとトキタマが嬉しそうに「はいー、勿体無いですねー」と言って時を跳んだ。
78回目の時間。
俺はこの状況に少し困りながら「フィルさん、どうしたの?折角勝てるところまできたのに」と言うとフィルさんは「キョロくんがおかしくなっているからよ!」と言う。
おかしい?
「俺が?別に何も…」と言った所で両肩に手を置かれて「俺?キョロくんはそんな呼び方しないでしょ?」と言われる。
俺?
ああ、俺って言っている。
そうか、戦っているうちに楽しくなってきたんだ。
僕は深呼吸をしてからフィルさんに「ありがとう。ごめんね。フィルさん」と声をかけるとフィルさんが「ううん、元に戻ってくれたらそれでいいの」と言ってくれて、カムカが話をまとめるように「そうだな!これは良しとして、もう一回行こうぜ」と言ってくれる。
僕が「そっちはどうだったの?」と3人に聞くとフィルさんは「一応、制御球は2回確保したわ」と教えてくれて不服そうなマリーが「その後ですぐに跳ばされてやり直しになったけどね」と言う。
カムカが場の空気が悪くならないように「俺なんか毎回門を破壊しているから、さっきなんか腕輪の力だけで破壊できちゃったんだぜ」と話しながら自分の腕をマジマジと見ている。
僕はカムカの疑問に答えるように「ああ、それは70回目に跳んだ時の成長で、僕だけじゃなくて一緒に跳んだ人も経験を持てるようになったらしいから、それで強くなったんだと思うよ」と説明をするとフィルさんが心配そうに「…今日始まってから何回くらい跳んでいるの?」と聞いてくる。
僕が「10回くらいかな」と答えるとフィルさんは「そんなに?倒れちゃうよ」と言う。
「ありがとう。でも跳んだおかげで何とかなりそうだから」
「そういうことじゃないの」
そう言ってフィルさんは悲しげな顔をしてしまった。
またカムカが話を逸らしてくれて「それにしてもあの亡霊騎士を圧倒していたよな」と言いながら驚いている。
「うん、アーティファクトをうまく使ったら、あのアーティファクト砲も打ち返せたんだよね」
「本当かよ!?かー、すげぇなお前」
カムカが感動していると横のマリーが意味深な笑顔で「ボンボン打ち返して膝を付かせて、今度はガンガン打ち込んで吹き飛ばして、本当楽しそうだったわよね」と口を挟んできた。
僕が驚いて「え?」と言うとマリーは「ニコニコしながら暴れてて、楽しかったでしょう?」と言う。
確かに僕は亡霊騎士を圧倒したのは楽しんでいた。
でも何でマリーがそれを知っているんだろう?
僕が「何でそんな事を知って…」と言いかけた所でフィルさんが怪訝そうな顔をして「どうしたの?」と言ってこちらを見ている。
僕が答える前にマリーが「こっちの話~、フィルお姉ちゃんは気にしないでコイツを見てればいいの」と言う、その顔はフィルさんも見覚えが無かったのだろう、怪訝そうに「マリー…ちゃん……?」と言っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先に進む僕達、最後尾のマリーが「さ、次は私の番だね」と言う。
カムカが驚いてマリーを見て「え?何でだよ、俺とフィルさんで村長、キヨロスが亡霊騎士で問題ないだろ?」と聞くとマリーは「ん~、さっきまではそれでも良かったんだけど、アイツのアーティファクトが凄くってさ。だからお爺ちゃんは私について行くように言ったんだなってわかったんだ」と話す。
マリーが流暢に喋った事でフィルさんが先程より怪訝そうな顔をしている。
その顔を見たマリーが穏やかな表情で「そんな顔しなくて大丈夫だよ…お姉ちゃん。全部うまくいくから」と言ったまま僕の方を見て「次の次もアンタなら勝てるんでしょ?」と聞いてくる。ここで何となく何が起きるかを予感めいていた僕が「次も勝てるよ」僕がそういうとマリーはニコッと笑った。
笑ったマリーは「それならやっぱりこの方法がいいと思う。アンタさ…暴れてる姿、ちょっとおっかないけどなかなか格好良かったよ」と言いながら洋服に着いていた青いブローチを外して僕に渡してきた。
マリーは一気に「これ、必ずおじいちゃんに渡してね。渡せばわかるから。もしお爺ちゃんにもう少し持っていてって言われたらその通りにして」と言う。
「どうして?」
「いいの、どうしても。多分お爺ちゃんが言わなくてもアンタならすぐにわかると思う。そして万一お姉ちゃんやカムカに何も無くて私にもしもの事があったときには跳ばないでお爺ちゃんのところに行って」
「それって…」
僕は「死ぬ前提なのか?」と聞けなかった。そんな僕にマリーは「それが一番いい方法だから。ただ、私が居なくても私も跳ばしてね。いい?約束よ」と言う。
マリーはずっと笑顔だ。
清清しい、晴れやかな笑顔。
マリーの笑顔を前に僕は「ああ、わかったよ」と言われる通りにする事しか出来なかった。
「ありがとう。あ、忘れてた。後はお爺ちゃん達を怒らないでね。悪いのは全部村長だからさ」
マリーは本当に村長の事をいう時は憎らしそうに言う。ペック爺さんとマリーの事は勘繰れば勘繰れない事も無いが、今は言われた通りにしよう。
「もし、結果が気に入らなかったら僕は勝手に跳ぶからね」
「それでもいいよ。でも一回はさ、辛くてもお願いね」
僕が「わかった」と返事をすると、マリーは「ありがとう」と言ってはにかんだ。
話を聞いていたカムカは辛そうな表情、出来るなら代わりたいと言う顔でマリーを見ていると「じゃあ、行こう!ほらお姉ちゃんもカムカもそんな顔しないの!私なら大丈夫だからさ」と言った。
亡霊騎士が佇む。
もう僕は怖いとは思わなくなった。
未だにフィルさんはマリーに考え直すように言っている。
だがマリーは「さ、行って」とケロッとした感じで僕達を見送る。
フィルさんが「すぐ戻ってくるからね!」と言い、カムカが「無理すんなよ!」と声をかけるとマリーは「仕方ないなあ」と言いながら困り笑顔で「はいはい。わかってるよ」と言った。
マリーは僕を見て「後のこと頼んだからね」と言う。
「わかってる。大丈夫だよ」
「そうだね、アンタならやってくれるね。私しっかり見てたからさ、わかるよ」
もう一度マリーは僕達を「さ、行って」と言って見送った。
フィルさんが「絶対、絶対に…すぐに戻ってくるから」と言って走り始めた。
そのすぐ後ろをカムカが追う。
最後尾を走る僕は「さ、お待たせ」と亡霊騎士に話しかけるマリーを見ながら山に入っていく。
入山してすぐ「早く登らねえと亡霊騎士が来ちまうな」とカムカは言ったが僕はそうならない気がしていた。
僕の表情を見てフィルさんが「キョロくん?」と言う。僕は「多分、多分だけど亡霊騎士は来ないと思う」と答えた。
「何でだよ?」
「まだわかった訳じゃないから説明は控えるけど、多分亡霊騎士は餌、マリー目当てでここに来たんだと思う、ただ…だからってゆっくり行っていい理由にはならないから急ごう」
そう言って僕は山道を駆け登る。
村長の家は最早何の問題にもならない。
門はカムカが破壊したし、毒の部屋はフィルさんが綺麗にしてくれた。
カムカは「この顔見てるとイライラする」と言いながら像をまた壊していた。
僕は毒の部屋を綺麗にしたフィルさんを心配したが、この程度の毒なら一晩休めば問題無いとムラサキさんが教えてくれた。
毒の部屋の先、廊下に村長は居た。
今回はマリーが居ない事に対して村長が反応していた。
「村の協力者からはお前達と餌が出たと聞いたが餌はどうした!!あれか!途中で奴が出て襲われたか!?」
僕はマリーを餌と呼ぶ村長のこの顔がどうにも気にくわない。
黙っていると村長は「ペックの奴め、私に餌を差し向けるなんてとんでもない奴だ。目をかけてやった恩を忘れやがって!!」と言葉をつづけた。
恩?
僕の想像通りならコイツのやった事は到底許されるものではない。
黙っている僕達に村長が「まあいい、このボウガンを受けてみろ!このボウガンにはな…」と言ったが、言い終わる前にカムカが動いた。
カムカは一瞬で距離を詰めると「毒だろ?知ってるよ。お前はすぐ制御球を壊すからその前に殴る」と言って村長を殴り飛ばした。
「ふべっ!?」と言って吹き飛ぶ村長。
普段のカムカからは想像もつかない怖い顔、怖い声で瞬く間に村長の前に立って顔面を殴りつけると「おっと…、行かせねえよ」と言い、完全に吹き飛ぶ前に村長の足の甲を踏みつけて押さえつける。
「小さな女の子を餌って呼ぶな…ってさっきも言っただろ?」
「小さな女の子を人質に取るんじゃねえ」
「村長が村人を脅迫するな」
多分村長は聞こえていない。
速さを優先したカムカの連続攻撃が右や左から繰り広げられ話している最中も村長の顔面に叩き込まれて行く。
多分、村長は意識を失って身体は倒れようとしているが、カムカの連続攻撃で倒れることすら許されない。
最後に村長の頭を鷲掴みしたカムカが「制御球は俺たちが貰う」と言うと慣れた手つきで胸元から制御球を取り出し僕に渡してきた。
「キヨロス。お前が持っててくれ」
「うん」
カムカを弱いとは思わなかったが、この事で見る目が変わってしまう。
格好いい。
兄とはこんな存在だろうか?
僕がそんな事を想っているとフィルさんが「カムカ、後はお願いね」と言う。
「わかってる。もうあんなのはゴメンだ。フィルさんもよろしく頼むぜ」
そう言うとカムカは村長を奥の部屋に向かって投げつける。
気絶した村長は部屋の扉を壊しながら奥の部屋に入って行く。
それに合わせてフィルさんが僕とカムカの前に立ちムラサキさんを構えると「【アーティファクト】」と唱えた。
ムラサキさんから光が発せられて僕達三人を守る壁が出来た。
その直後、奥の部屋が光の壁を通してもわかるくらいに光った。
そして赤い色、青い色、見覚えのある光、三色の玉が飛んできた。
「アーティファクト砲?」
「そう、村の協力者がペックお爺さんのアーティファクト砲を調べて村長に教えたんだろうってマリーちゃんが言っていたわ」
この返答にカムカが「赤は火、青は水、光は雷だ」と説明をしてくれて、フィルさんが「4回目かしらね、村長が命乞いをしてきたから助けたら部屋を開けて攻撃してきたの」と続ける。
最後にカムカが「部屋を開けると発動するように改造していたんだろうってマリーが言っていたよ」と教えてくれた。
ここまで清々しい悪党も居ない。
この展開を見るとまともに跳んだ分だけフィルさん達は嫌な思いをしたのだろう。
制御球も手に入れた。
さあ、マリーのところに戻ろう。
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