第26話 vs亡霊騎士。

僕達はペック爺さんの家を出ると「こっちよ!」と言ってマリーが元気よく歩きながら「村長の家は村の南にある山の中にあるよ」と説明してくれる。

今の心配は亡霊騎士が追いついてきて足止めされることだ。

僕達は村の裏口からこっそり出て村長の家を目指している。


カムカには亡霊騎士がまだ村の入口に居るのか見てきてもらっている。


暫く歩くとカムカが走って追いついてきた。

僕が「どうだった?」と聞くとカムカが「大丈夫だ、亡霊騎士の奴はまだ村の入り口で佇んでいた」と言う。


よし、それなら出くわす前に村長の家を目指す。


僕達は暫く歩いて、山の入り口が見えてきた頃だ…

目の前にまさかの光景が広がる。




亡霊騎士…



亡霊騎士が佇んでいる。

置物のように佇んで天を仰いでいる。


僕はもう一度さっき見てきたものが本当だったのかを確認するように「カムカ?」と聞くとカムカも愕然とした表情で「アイツ、さっきまで村の入り口に居たんだぜ?」と言う。


フィルさんが「でも額を見て、制御球は緑色よ」と言い僕とカムカも亡霊騎士を見る。


確かに緑色、待機状態だ。

それならなんとかやり過ごせないか試すべきだ…


僕達は村に来た時と同じく、目は向けないが意識を向ける歩き方で亡霊騎士をやり過ごす事にした。


時間はかかったが、何とか亡霊騎士をやり過ごした僕達は山道に入る。


少し進むと後方から獣の咆哮のようなものが聞こえて来る。


まさか…


亡霊騎士が動き出した可能性を考えているとフィルさんが「キョロくん、今!」と言う。

僕は「うん、聞こえた」と返事をするとカムカも「急がねえと!」と相槌を打ってマリーが「来るよ!」と言った次の瞬間、真横に亡霊騎士が現れていた。


一瞬でこの距離を詰めてきたのか…


フィルさんが僕に指示を求める意味で「キョロくん!」と僕を呼ぶ。


僕は剣を手にとって「戦うしかない、ダメだったら跳ぶよ」と言うとカムカは僕を跳ばしたくないのだろう憎々しい顔で「それしかねえのか」と言って戦闘準備に入る。



戦闘は勝ち目がなかった。

身体強化のアーティファクトは確かに効果を発揮してくれて、何とか亡霊騎士の動きにも反応する事が出来た。

音と光が教えてくれるお陰でアーティファクトの効率的な連続使用も可能になった。


だがそれだけで、最後には手詰まり…ジリ貧になってしまう。


そして亡霊騎士は何故かマリーを集中的に狙ってきた。

おかげでフィルさんはマリーを守る事に割かなければならなくて、実質僕とカムカの2人で戦うしかなかった。


そして、身体強化のアーティファクトもやはり使っていると疲労感の蓄積はしっかりとされてしまうらしく、1時間もすると僕達は強烈な疲労から膝をついてしまった。


これ以上は無理だと思い、僕は跳ぶ事にした。



68回目の時間。

僕はここに居る全員とリーンの記憶を持って跳んだ。

マリーは初めて跳んだことに驚いていたが、僕のアーティファクトの能力だと伝えたら納得してくれた。


次の手を考える必要がある。

みんなでどうするかを話した時。マリーが「…目を合わせるしかないと思うの」と言い始めた。

僕達がマリーの顔を見ると「目を合わせて居る限りはにらみ合いになるから亡霊騎士も無用な暴走はしないはずなの」と説明をする。


…急に大人びた話し方になるマリーに驚く僕を尻目にマリーが話を続ける。


「だから私が残るから、その間にフィルお姉ちゃん達は村長の所に行って」と言ったマリーにフィルさんが「そんなのダメよ!」と声を荒げる。


マリーは嬉しそうでいながら申し訳なさそうな顔で「この中で一番役に立たないのは私だから…」と言うとフィルさんは「そう言う話じゃない!」ともう一度声を荒げる。


マリーがフィルさんを見て「ありがとう」と言ってもう一度「でも、私が一番…」と言ったところでカムカが胸を張って「俺が残る!」と言った。


突然の事に驚くマリーが「え?」と聞き返すとカムカが「こんな小さな女の子を残して行くくらいならまず俺だ!3人でサッサと行ってきてくれよな。俺は死なないようにかわす事に専念するからよ!まあ、運良く倒せたら褒めてくれ!!」と言って笑う。


言葉に詰まるマリーに「マリーちゃん、ね。行こう」とフィルさんが言う。

フィルさんに促されたマリーは「ありがとう」と、カムカに感謝を伝える。

カムカは「おう、任せとけ!」と言ってマリーの頭を撫でた。



前回と同じ位置に亡霊騎士は佇んでいた。山道に入る所までは前回と同じだ。


山道に入るとカムカは僕たちに「走れ!」と言う。

僕たちが走り出すと同時に「やい!亡霊騎士野郎!!」と声をかけて睨むカムカを最後に見ながら僕たちは山道を走る。


山道はそこそこ険しい。

僕は憎々しい思い出どうして毒竜といい山の中に居を構えるんだ…と心の中で悪態をつく。

僕の顔が険しかったのかマリーが「後もう少しで村長の家だから」と言って僕達を励ます。


しばらく進むと村では珍しいレンガで出来た壁が現れた。


「あそこが村長のい…」とマリーが言った所でゴツッと言う音とともにマリーの身体が横に吹き飛んだ。


マリーの居た場所には拳を振り抜いた亡霊騎士がいる。


亡霊騎士がもう追いついて来ていた。


くそっ、亡霊騎士がここに居ると言う事はカムカは突破されたのか…

飛ばされたマリーを見てもピクリとも動かない。


マズい…


僕がフィルさんに目配せをして「フィルさん、跳ぶよ」と声をかけるとフィルさんが心配そうに「キョロくん…」と言う。


兜で顔は見えないが悲しそうな声でどんな顔をしているか容易に想像がつく。

僕は「悲しい顔をしないで。仕方ないよ。」と言ってから「トキタマ!」と言うと「はいはーい」と言って跳んできたトキタマの力で僕は跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



69回目の時間。

カムカが跳んだ事に気付き、開口一番に「いやー、死にました」ととんでもないことを言った。

僕がカムカの顔を見ると「目の前がどんどん暗くなって、力が抜けていくんだよ。本当嫌な感覚だったよ」と僕も味わった事のあるあの感覚を話す。



僕は同じ感覚を味わった仲間が出来た事でちょっと嬉しくて「それ、死んだね」と言うとカムカも「やっぱりそうか!」と言って笑う。


僕とカムカは変な話で盛り上がってしまった。


カムカは悔しそうに「いい線行っていたんだけどな、段々と追い込まれて行ってズドンな」と状況を話す。

ズドンは殴られたのか、アーティファクト砲を食らったのかどちらだろう。


また進もうとするとフィルさんが「次は私の番ね」と言い出す。

カムカが驚いた顔でフィルさんを見て「え?俺の話聞いてた?死ぬぜ?」と言う。


フィルさんは「それでもマリーちゃんを置いていくわけには行かないでしょ?」とカムカに言うので僕は「僕が残るのもいいと思うんだけど…」と提案をするとフィルさんは首を横に振って「ここは防御力優先で行くべきじゃないかな?私とムラサキさんならカムカより耐えられると思うの」と言う。


確かにそう言われればそうかも知れない。


だがカムカでも死んでしまう状況にフィルさんを置いておけないと思って僕は他の事を何とかならないかを考えてしまうとフィルさんは少し嬉しそうな困った表情で「そんなに心配そうな顔をしないで?私のこと心配してくれているの?」と聞いてくる。


僕は即座に頷いて「それは心配だよ!折角毒竜から助かったのにまた怪我なんてしたら嫌だよ」と言うとフィルさんは嬉しそうに「ふふ、ありがとうキョロくん。私もキョロくんを悲しませないように頑張るから!少しは頼ってね」と言った後で「さ、行きましょう」とみんなを励ましながら前進をする。


再び亡霊騎士の前までたどり着く。

僕は「フィルさん、気をつけてね」と言ってフィルさんをその場に残す。

フィルさんは「ありがとうキョロくん」と言って僕達を見送った。



前回の失敗があるので僕はなるべく駆け足で山道を進む。

マリーは途中からカムカに抱きかかえられていた。


着いた…

ようやく着いた村長の家は高いレンガの壁と門に阻まれていた。

またマリーが流暢な話し方で「この門の中が村長の家。門を開けて中に入らないと…」と説明をする。


カムカが「すいませーん」と声をかけるが返事はない。

僕たちは当然鍵なんてものは持っていないし、呼びかけても開けてもらえなかったので門を破壊する必要がある。


とりあえず剣で斬りつけてみたがビクともしない。

毒竜の身体は切り刻めても、鉄の門は難しいのか?


カムカは「俺に任せな!【アーティファクト】!!」と言って「火の腕輪」の力も乗せて門を殴りつける。

僕の剣よりいい感触だが今一歩足りない感じだ。


だが諦めないカムカは「まだまだ!【アーティファクト】!」と言って今度は擬似アーティファクトの能力も合わせて使用する。

門は熱と力で変形したが、壊れる気配がない。


その時に力を込めていたカムカが「筋肉を…ナメるな!!」と言う言葉と共にドゴォォンと言う音の後で門がひしゃげ飛んだ。


納得の結果にカムカは「筋肉最高!!!」と言ってガッツポーズを決めると「さ、中に入ろうぜ」と言う。

そんなカムカの声に合わせて僕たちは門をくぐる。

よく見るとレンガは四層構造でしかも二層、鉄板、二層と言う完全防備になっていた。

壁を破壊しての侵入は難しそうだ。


吹き飛ばされた鉄の門も近寄るとレンガでいうと三個分の厚みがある事がわかった。

これを殴り飛ばせるカムカの膂力が信じられない。

モンスターみたいな男だな…と僕は思った。

さっきの状況だったら、ここまで来てもカムカ抜きでは侵入も出来なかった事がわかる。



村長の家は普通の家なら6軒分の広さがある。

正面玄関をくぐると普通の家で言うひと部屋分のスペースの玄関があり、よくわからない絵とか像が飾られていた。

それを見たカムカがとりあえず壊してしまおうか?と僕に申し出たが今は時間が惜しいので我慢させた。


2つ目の部屋に入る。

2つ目の部屋は何の調度品もなく、窓も何もない部屋だ。


僕は「何だこの部屋?」と言って辺りを見渡すとマリーが「お兄ちゃん達、変な臭いがするよ」と言う。

言われてみれば卵が腐敗したような臭いが微かにする。


カムカが「こっちだ、部屋の左側かりゃしゅ……ありぇ?」と呂律が回らなくなって倒れ始める。


もしかして有毒ガスか?

山には毒ガスか出るポイントが稀にあると父さんが教えてくれたのを僕は思い出した。

村長はそれを部屋に引き入れているのか?

そんな事を思っている間にもカムカは泡吹いて痙攣し始めている。


僕もこのままでは無理だ…とりあえず跳ぼう。

トキタマに心の中で呼びかけると「跳びまーす」と声が聞こえてきた。



70回目の時間。

村長の家に入る手前に跳んだ。

戦闘の邪魔にならないようにフィルさんは跳ばさずにカムカとマリー、後はリーンを連れて跳んだ。


気付いた瞬間の「またまた死にました」というカムカの挨拶もなんだかなと思えてしまった。


僕達を見ながらカムカは「ガスで死ぬのも嫌だな。まあ死ぬのが嫌なんだよな。うん」と1人で言って1人で納得して1人で笑っている。


あの毒ガスの部屋は入る前に扉を壊そうとカムカが提案してきたので僕はそれに賛成した。

そして扉の破壊後はすぐ次の扉を破壊して毒ガスをやり過ごす話になった。


僕はトキタマに70回目の成長があるのかを聞いた。

トキタマは「お仲間の人も経験を持って跳べるようになりましたー」と教えてくれる。

仲間も…これはうまくいけばゴリ押しで亡霊騎士を止められると言うことか。


ただ今回は戦闘メインではないからあまり意味がない。


僕たちは先を急ぐことにした。

カムカは玄関で「よくも殺してくれたな!」と偉そうな男の像を破壊していた。


ガス部屋のドアは開ける事なくカムカが「筋肉最強!!」と言いながら破壊する。

次の部屋のドアも破壊して先に進む。


僕達3人が廊下に出てすぐ、矢が飛んできた。

矢はカムカをかすって後ろに飛んでいく。


「よくも私の家を!」と言いながらボウガンを構える男が居た。


この男が村長か?

どこか見覚えのある顔をしている。


…あ、玄関の偉そうな男の像の顔だ。

この男はどれだけ自分大好きなんだ?


マリーが「村長…」と言って睨んでいるので村長なのは間違いない。

僕は「あなたが村長ですね。亡霊騎士の制御球を渡してください」と言うと村長は返事もせずに「ペックめ、餌をよこすとは何処までもふざけた真似を…」と言って僕達を睨む。


僕が「餌?」と聞き返すと村長は「お前たちは何も知らされていないんだろう?」と返す横でドサッと言う音ともにカムカが倒れた。

まさか毒ガスか?


カムカは「ありぇ?まら…どひゅひゃ?」と言って痙攣している姿を見た村長が「この矢には毒ガスから取った毒が塗られているんだ!かすっただけでも死ぬぞ!」と勝ちほっこった顔で言う。


この際、カムカは一度見捨てて制御球を奪って跳べばいい。

僕は剣を構えて村長を見据えもう一度制御球を渡すように言う。

カムカが倒されても逃げる素振りも慌てる素振りも見せない僕に村長が憎々しい顔をしながら懐から拳サイズの球を取り出して「これか?」と聞いてくる。


僕が「そうです。それを早く返してください」と言うと村長は「こんなもの!!」と言って制御球を床に叩きつけて壊してしまった。


突然の展開に僕が「何を!!?」と驚くと村長は「これでもうおしまいだ、じきにあの騎士が餌に惹かれてここに来る。そうすれば私は殺される!!みんな死ぬんだー!!」と狂ったように叫び始めた。


何を言って居るんだろう。

そう思って居ると、外から爆音が聞こえ、次の瞬間家の壁が吹き飛び、煙の中から亡霊騎士が姿を現した。


ああ…フィルさんは食い止められなかったんだ…

亡霊騎士の背後を見ると大きな穴が開いていた。

亡霊騎士はあの分厚い壁も破壊したのか…


とりあえずフィルさんが心配だ、4人が揃って居るタイミングに戻ろう。

僕は心で「トキタマ」と呼ぶとトキタマが「はーい!」と返事をして僕は時を跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



71回目の時間。

今回も気付いた瞬間に「毒で死ぬのキツい!」と言うカムカ。

カムカの身体を張った解説で始まるのも板についてきた気がする。


フィルさんは「え?あれ?どうなったの?」と言って周りをキョロキョロと見回している。


僕は「フィルさん、亡霊騎士がこっちに来たから僕はフィルさんが心配で跳んできたんだ」と言うとハッと気づいたフィルさんが「…あ!そうよ、私ずっと攻撃を防いでいたの。身体強化のお陰で最初は防げていたのだけど、段々とキツくなってきて最後に膝をついたの、そしたら亡霊騎士はトドメを刺さずに走っていってしまって、私も追いかけたかったんだけどそのまま気絶してしまったの」と思い出しながら説明をする。


そうか、フィルさんは無事だったのか…それならここまで跳ばなくても良かったのか…

僕がそう思っているとマリーが突然「制御球、あの段階で奪えば良かったのに」と言う。


この言葉にカムカが「キヨロス、お前…制御球を見たのか?」と聞いてくる。

僕は「うん」と答えた後で「村長が持っていたんだけど、もうおしまいだって言って床に叩きつけて壊していたよ」と説明をする。


ここでまたマリーが「壊す直前に戻って壊される前に剣で村長を切っちゃえば良かったのに」と言う。先程からマリーがいやに饒舌に話して来るが確かにそうだ。


その事に気付いた僕はショックで膝から崩れ落ちる。

そんな僕を見てカムカが「お…おいおい、そう気にすんなよ、また行こうぜ、な?」と優しい言葉をかけてくれる。


だがマリーは「あーあ、勿体無い」と言う。何だかとても辛らつだ

見ていられなかったのだろう。フィルさんが「ちょっと、マリーちゃん…」と言ってマリーを止めながら僕を見て「でもキョロくんがそんなミスをするなんて珍しいね。何があったの?」と聞く。


僕は思ったまま「フィルさんが亡霊騎士にやられたと思ったら戻んなくちゃって思って…」と肩を落としたまま言うとフィルさんは「え?そんな事で?」と言いながら赤くなる。


そんな横でマリーが「カムカの時は冷静だったのにね」と言う。

本当にマリーのツッコミが色々と痛い。


この事でちょっと悲しげだったのがカムカで「…うん!まあ良いじゃねえか!また行こうぜ!!」と言って僕を励ましてくれたがよく見ると涙目だった。


カムカごめん。


後でカムカがこっそりやってきて「そりゃあ男よりは女だ、お前は間違ってないぞ!」と言いながらガッツポーズをしてくれた。


カムカは頼りになる兄さん風だ。



そして今回は僕が残る事にした。

カムカとフィルさんには反対されたが「最悪死んだら戻るからお試しくらいに思って」と言ったら怒られた。

だが、色んなパターンを試す事は大事だと思う。


門の破壊や毒の処理は2人にしか出来ないしうまくいけば最良の結果になると思った。


僕が「マリー、全てを知っているのは君だからよろしくね」と言うとマリーは「頑張る。アンタも気をつけてね」と返してきた。

数時間前のマリーだったら「うん!まかせて!」と言ったと思う。

やはりマリーは性格が変わった気がする。



僕はカムカを見て「カムカ、毒にはくれぐれも気をつけて」と言うと「もう毒で死ぬのは嫌だからな!キヨロスこそ気をつけてくれよな」と言って優しくも力強い笑顔で「頑張ろうな」と言ってくれる。

兄とはこういうものかも知れないな。



カムカの後でフィルさんを見て「フィルさん、毒の処理をお願いするね。でも本当村長の家も危ないから気をつけてね」と言うと「ありがとうキョロくん。私のお願い聞いてくれる?」と言う。


お願い、この状況ではあまり良い予感はしないが一応「なに?」と聞く。


フィルさんは真剣な表情で「1人で跳ばないでね。跳ぶ時は私も……、……私達もちゃんと跳ばしてね」と言った。

フィルさんは僕が「試し」と言ってしまった事が気になるのかも知れない。

だから僕は「うん。大丈夫だよ」と言うと「約束してね」と釘を刺された。


「みんな、気を付けて」と僕が言うとフィルさんとカムカは頷いた後でマリーを抱きかかえて走り始めた。


僕の目線の先には亡霊騎士がいる。

「僕を見ろ!」と言うと俯いていた亡霊騎士が僕の方を見る。


目が合った。


兜越しで亡霊騎士の目はわからないが確かに目が合った。

これが亡霊騎士と目が合うと言う事か、底知れぬプレッシャーが僕を襲う。

ムラサキさんと一緒のフィルさんはまだしも、よくカムカは1人で耐えたなと思った。


しばらく見つめ合いが続く。

このまま見つめ合っていれば暴走状態にならない気すらしてきた。


今、フィルさん達はどこら辺だろう?

もう帰って来る頃ではないだろうか?

僕はどれだけ待ったのだろう?

もしかしたらまだ殆ど時間が過ぎていないのかも知れない。


そんな事を思っている時に額の制御球の緑色が暗く黒ずんできた。

そうか日照不足で睨み合いだけではダメになるのか…


段々と暗くなり……赤くなった。

亡霊騎士は「グゥオオォォォオっ」とまた鎖から解き放たれた獣のように震えながら吠えたる。


さあ、少しでも長く生き延びてやる。

僕は剣を構えて亡霊騎士の動きに注意する。


亡霊騎士が「【アーティファクト】」とくぐもった、とても人のものとは思えない震える声で唱えると亡霊騎士の右腕に赤い光の剣が現れた。


これがガミガミ爺さん達の話していた擬似「勇者の腕輪」が作る光の剣だろう。


亡霊騎士はその剣で僕に斬りかかって来る。

光なので受け止められなかったら僕は真っ二つになるかも知れない恐怖があったが、「兵士の剣」でそれを受け止める。


ガキっと言う音がして僕はかなりの重さに身じろぎしてしまったが光の剣は無事に受け止められた。


そのまま次の攻撃が始まる。

僕はそれを何とか捌きながら反撃を試みる。


「火の指輪」を使い「【アーティファクト】!」と唱えて顔面ファイヤーを試す。

しかし「悪夢の兜」の能力なのかビクともせずに顔を燃やしたまま亡霊騎士が迫って来る。

火は効かないか…もしくは効き目が弱いか…よくわからない。


続いては剣だ。

僕は剣で斬りかかる。

身体強化の恩恵で亡霊騎士当たりはするものの刃が通る感覚がない。


毒竜より硬い?

いや、そもそも次元の違う感じがする。

これはもしかすると何かアーティファクトの力が作用しているのかも知れない。


それで殴って機能停止なのか…殴るってカムカなら通用したのかな?

とりあえず切れなくても諦めずに剣を打ち込み続ける。


中身が人間ではないので亡霊騎士は一定の動きをしてくるが、こちらはそうは行かない。


息をつくタイミングが欲しい。

僕は一旦距離を取り息を整える。


距離が離れ僕が息を整えると亡霊騎士は左腕をこちらに構える。

しまった、アーティファクト砲がくる。

カムカもこうして息を整えた所をズドンとやられたのだろう。


亡霊騎士が「【アーティファクト】」と唱えた瞬間に僕は「トキタマ!」と呼ぶとトキタマが「はい!」と言いながら力を使った。


僕は諦めて跳ぶことにした。

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