第25話 亡霊騎士の出自。

ペック爺さんが奥に行って戻ってくるまでの間に「ガミガミ爺さん、ここには毎月何しに来ていたの?亡霊騎士が出てて危ないのになんでくるの?」と思った事を聞いた。


ガミガミ爺さんは「混沌の槌」を見せながら「そりゃあ、ペックの奴が雷の力を必要としていて、俺も「混沌の槌」に溜まった力の使い道に困っていたからよ」と言う。

横で聞いているフィルさんが「ペックお爺さんの所なら、私を連れてきても良かったじゃない?なんで2年もの間、お爺ちゃん1人で出かける必要があったの?」と疑問を口にする。


確かに言われてみればそれはそうだ、何故ガミガミ爺さん1人だったんだ?


ガミガミ爺さんはフィルさんを見て「おめえ、そりゃあ亡霊騎士が居て危ないからだよ」と言うのだがフィルさんに「お爺ちゃん1人の方が危ないでしょ?」と返されてしまう。


なんかガミガミ爺さんの理由は苦しい言い訳に聞こえてくる。

そんな所でジチさんがガミガミ爺さんに助け舟を出す形で「ところでさあ」と話し始めた。


「ところでさあ、お姉さんはあの雲を撃ち抜いたアーティファクトが気になって居るんだけどさ、あれは何?」

この質問に「お、アレか!あれはな、俺がペックと一緒に作ったアーティファクト砲よ」と言ってニカっと笑うガミガミ爺さん。


アーティファクト砲?

詳しく聞こうかと思ったが、これ幸いとフィルさんから逃げる為にガミガミ爺さんが勝手に話し始めた。


「メインは雷の擬似アーティファクトで、筒の中に雷の球を発生させるんだよ。一個じゃ威力が弱いから4個使ってな」

この言葉にジチさんが「ふーん、雷ねえ…雷はなんでそんなにあるの?わざわざ用意したの?」と聞く。


「まあ、ちょっと色々あって必要だったんだが、今はいらなくなったから使い道を考えて閃いたわけだ。それがあのアーティファクト砲よ。4つ分の雷をな、風の擬似アーティファクトを6個で一気に打ち出すって寸法よ。更にそれを一度の発動で全部行えるように制御する為の擬似アーティファクトを入れてだな」


誰かに話せることが嬉しいのか、助け船に乗って安心したのかガミガミ爺さんが饒舌に話すとジチさんは「へー、風のアーティファクトも何かに使ったの余りなの?」と相槌を打つ。


ガミガミ爺さんが「いや、アレは雷を飛ばしたくて考えついた」と言ったところでフィルさんが「ひょっとしてお爺ちゃんは、それが楽しくてしょっ中来ていたの?」と合点の言った顔で聞くとバツの悪いような表情で「あ…ああ。バレちまったら仕方ない。そう言う事だな」とガミガミ爺さんが嫌にあっさり認める。


そしてそれを見抜いていた人がいる。

ジチさんだ…


ジチさんはジッとガミガミ爺さんを見つめて「おかしい」と言った。

ガミガミ爺さんは「何がだよ、姉ちゃんよお」と言って少しトーンダウンしている。


ジチさんは僕の顔を見ながら「お姉さんさぁ、さっきから気になってる事があるんだよね。多分キヨロスくんもおかしいって顔していたから少し気付いていると思うんだ」と言う。


フィルさんが意外そうにジチさんと僕を見て「え…キヨロ…キョロくんは変なとこあった?」と聞き、僕が答える前にカムカが「俺は気になんなかったな」と言う。


僕が話す前にジチさんがフィルさんとカムカを見て「まあ、素直で疑わないフィルとカムカにはわからないかもね」と言ってから僕を見て「キヨロスくんはさあ、最初に亡霊騎士の鎧を見たときに変な顔してたよね?どうしてあんな顔していたんだい?」と言った。


僕は素直に「あれは、何故か見覚えがあって…」と言うとジチさんが「そう、お姉さんもそこが気になったんだよね。てっきり既製品で良く出回っている物なのかとも思ったんだけどさ…どうやら手作りみたいだしさ」と言う。


手作り?

……。


「あ!」


そうだ、見覚えがあるはずだ。


「僕の鎧にも似ているし、何よりフィルさんの鎧が色違いなんだ!!」


僕は自分の言葉が正しい事を確認するようにフィルさんの鎧を見る。やはり亡霊騎士の鎧に似ている気がする。


「そう、お姉さんも見た時に変だなーって思ってさ、そしたら亡霊騎士の使うアーティファクトもさっきのアーティファクト砲に似ていたし、そうやって考えるとガミガミ爺さんは妙に亡霊騎士について詳しくて…、フィルを連れて行かない理由まではわからないけど、確実にドフ爺さんが関わっているのはお姉さんにもわかってさ」


ガミガミ爺さんは「むぅ…」と困った声を出してたじろいでいる。


ジチさんはジト目でガミガミ爺さんを見て「さあ、ドフ爺さん。どういうことだい?」と詰め寄る。

必死に顔を背けて誤魔化そうとしているガミガミ爺さんに「バレちゃっているなら言うしかないよ。ドフ」と言いながら奥からペック爺さんが出てきた。


ペック爺さん一人だった事を気にしたフィルさんが「マリーちゃんは?」と聞くとペック爺さんは奥の部屋を見ながら「マリーは、ここの所ちょっと気分が優れない日があってね。今も気分が優れないって言うから少し寝るように言ったんだよ」と言う。



「じゃあ、子供抜きで話が聞けるね」と言ってジチさんは全部聞く気だ。


全てを諦めたガミガミ爺さんはようやく口を開く。

「亡霊騎士は俺とペックの合作だ」

「僕はね、元々は義肢や人形を作る職人なんだ。僕のアーティファクトはA級で「命のヤスリ」って言ってね、それで削り出したものは本物そっくりに見えるし、命が与えられたように滑らかな動きをするんだ」

そう言うとペック爺さんは一本のヤスリを出してきた。


「俺は昔からよく四の村にも武器や防具のメンテナンスや販売に来ているから、その流れでペックとは付き合いもあってお互いに情報交換もしていた仲だったんだ」


「そのうち、僕が1つのことを研究し始めるんだ…。それがさっき話した擬似アーティファクト」

「そしてそれに俺の作った武器や防具を合わせて、全く新しいアーティファクトを作ろうと思った」


この先も2人が交互に話すので、僕がまとめると…

最初に作ったのはアーティファクト砲で、そもそもは電の力を使いたくて沢山作った雷の擬似アーティファクトが予想まで威力が出なかったので再利用として始めたらしい。

それはさっきのガミガミ爺さんの話と合致する。


そして、なぜそんなに雷の力を必要としていたのかと言う話だ、「かりそめの命」…ペック爺さんの人形職人としての力で人間そっくりの人形兵士を作って国に頼ることなく村を守らせようと言う事になった。だが動くための力として雷の力を用意した物の、擬似アーティファクトの雷では何個組み合わせても力が発揮されずに人形は動きださなかったそうだ。


そこで出てくるのが「混沌の槌」に溜まる雷の力だ。

この力は相当なもので、毎月来てはアーティファクトで作った雷を貯めておく樽に力を蓄えていたそうだ。


そして人形兵士にめどが立ったが、人形兵士の身体はあまり頑丈ではなく、命を与える前に実験として腕と同じものを殴ったり剣で切りつけたり火を放ってみたが、あっという間に壊れてしまった。


そしてその打開策として、全身鎧が用意された。

全身鎧には無数のくぼみを用意して無数の擬似アーティファクトで重さが気にならないくらいの風のアーティファクトや身体強化に防御力を強化。さらには感覚を鋭敏にするアーティファクトを付ける事で人形兵士の能力を跳ね上げていく。


全身鎧だが、フィルさんのモノと決定的に違うのは、アーティファクトの数と腕の部分だそうだ。

擬似アーティファクトには唯一の欠点があって、他のアーティファクトのような注意点はないものの、使うと疲れてしまうと言うものがある。

なのでフィルさんの鎧には今まで他の擬似アーティファクトは装着されていなかったそうだ。

今回の身体強化は1個ならまだ大丈夫と言う判断と、亡霊騎士に敵わなかったと言う点からつける事にしたらしい。


腕の部分はフィルさんの鎧は普通の鎧だが、亡霊騎士は腕にアーティファクト砲を仕込み、更に噂で聞いたイーストにあると言う「勇者の腕輪」と言うアーティファクトを模した光の盾と光の剣が出せる擬似アーティファクトが付いていると言う事だ。


「そんな事が…それでも何で亡霊騎士になって人を襲っているの?」

フィルさんがガミガミ爺さんに聞いている。

「…」

ガミガミ爺さんは答えたくないようで黙ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ガミガミ爺さんが黙ってしまうとペック爺さんが「あれはまだとても完成形なんかじゃなかったんだよ」と口を開いた。


これにはジチさんも思わず「完成形じゃない?じゃあなんであんなに動き回っているんだい?」と口を挟む。


ガミガミ爺さんが辛そうな顔で「村長だ…。この村の村長が俺とペックのやっている事に興味を持ち出して、出来上がった人形兵士を国に高く売りつけようとしたんだ」と言うとペック爺さんも「最初は僕たちも拒否をしたよ。まだ、未完成で各部の調整も済んでいなかったからね」と言う。


ここで言いにくそうなペック爺さんの代わりにガミガミ爺さんが「でも村長は早く国に売りつけたかったんだ。奴らはとんでもない手段に出た」と言ったところでペック爺さんが「マリーをね、誘拐したんだよ」と言った。


何となく想像は付いていた。

ペック爺さんの弱点と言えばそこだろう。

別に人形兵士を奪われてもまた一から作り直せばいい。

それは村長もわかっている。


ガミガミ爺さんは「俺たちは急ピッチで鎧を仕上げた。そして…あの兜を作った」と言うとジチさんが「ああ、あの兜はフィルの兜とは雰囲気が違うね。なんなんだい?」と聞く。


「「悪夢の兜」だ…。あの兜には当初の想定以外にも能力を付与した。当初は視野が狭くても攻撃に反応できるように、感覚強化と認知強化だけだったが、そこに外部からの命令を声の他に手のひらサイズの制御球で行えるようにした。次は暴走状態…さっきは戦闘状態と呼んだが、本来は外部から意図的に暴走をさせられるようにした。そして四の村に対して、襲ったり近寄ったり出来ないようにした。最後に陽の光を浴びるとその力でアーティファクトの力を回復できるようにした」


暴走状態…僕の想像通りならガミガミ爺さんとペック爺さんはとんでもないことをしようとしたのだろう。僕はその先の答えを言わせたくなくて「ガミガミ爺さん、それって…」と言って口を挟んでしまった。


ガミガミ爺さんは困った顔で「小僧…」と返す。その顔で大体の想像がついた僕はフィルさんに「フィルさん、これ以上は聞かなくてもいいんじゃないかと思うよ…」と言って注意を促した。だけどフィルさんは首を横に振って「大丈夫よ…キョロくん。私だってお爺ちゃんの孫だもの、お爺ちゃんが何を考えているかは想像がつくわ」と言っていたフィルさんの手は震えていた。


僕はフィルさんの手を握って「本当に大丈夫?」と聞くとフィルさんは僕の方を向いて微笑んで「ありがとうキョロくん」と言う。そしてガミガミ爺さんの方を向いて「お爺ちゃん、続きを話して」と言った。


「ここで村長に人形兵士を渡しても、もっと作れと言ってくるだろう。そしてその度に要求は過激になるし、断るたびにマリーを人質にされる。もしかしたら二度と帰ってこないかもしれない。だから俺たちは意図的に暴走をさせることにした」


やはりそうだった…

ガミガミ爺さんとペック爺さんは村長を亡き者にしようとしていた。


ペック爺さんが「この村の村長はね、村には住まないで、山に自分の家を建てて住んでいるんだ」と言って窓の外を見る多分村長の家はあっちの山の方角にあるんだと思う。


「だから山の上でなら、人形兵士を暴走させても問題ないと俺たちは思った」

「そして期日に僕たちは人形兵士を渡しに行った」


「そこまでは良かったのだが相手は村長だ」

「村にスパイを紛れ込ませていたんだろうね。村長の家に着いた時に制御球を奪われてしまって、逆に僕たちが殺されそうになったんだ」


「後は、もうこの通りよ。俺たちは命からがらマリーと逃げてきた」

「幸い、亡霊騎士は村を襲わないし、村人も村長の報復を恐れて何もしないし、僕が倒れたら亡霊騎士を止める手立てがなくなるから何事もなかったかのようにこの1年半は過ごしているよ」


ガミガミ爺さんとペック爺さんが交互に話していると気になる言葉が出てきた。

僕はそれを知りたくて「1年半?」と聞く。


ガミガミ爺さんは「ああ、作っている時間があったからな」と言うとジチさんが「ああ、そういう事ね。それで爺さん達は対抗策とか考えていたのかい?」と聞く。


ガミガミ爺さんはくらい表情で「一応」と言うと部屋の隅に置かれた完成品の擬似アーティファクトの山を見て「今も2人で次の人形兵士を作ろうとはしていたが、どうしてもあの人形兵士程の能力が出そうになくて、作っても良くて相打ち…悪くてボロ負けだからな。中々先に進んでいない」と言った。


シーンとなる部屋の中で僕が「フィルさん、ガミガミ爺さんは優しいね」と言うと、フィルさんは「え?」と驚いて僕を見る。


「フィルさんまで連れてきていたら村長に誘拐される可能性もあったんだと思うよ。だからガミガミ爺さんは危険な道のりを毎月1人で来ていたんだよ」

そう言うとフィルさんは「そうかな?そうなのかもね」と言って少し表情を柔らかくした。




そんな僕達を見てジチさんが「へぇ~。仲良しだ~」と言ってきた。


フィルさんが「え?ジチ…なんで?急に?」と慌てるとジチさんは僕達の手元を指差して「え~、手なんか繋いで見つめ合っちゃってさ~」と言う。


「あ、これは違うの!!」と言うとフィルさんは真っ赤になって僕の手を放すがジチさんは「別に~、もっと繋いでいればいいんじゃない?」と言ってこれでもかとフィルさんをからかう。


僕はガミガミ爺さんの方を向き、「亡霊騎士はどうすればいいかな?」と聞いた。


「小僧、おめえ…」

「え?本当に奴を止めてくれるのかい?」


「それの為に僕はここに来たから」

そう言うとペック爺さんは目頭を押さえて「ありがとう…」と言った。

その表情からペック爺さんの、責任感の強さを感じる。


「奴を止めるには二種類の方法があって、1つは物理的に行動不能まで殴って黙らせる方法と、もう一つは村長の所から制御球を取り返して奴に向かって機能停止の命令を出す方法になるよ」


僕達は現状勝ち目があるとはとても思えないので村長から制御球を取り返す方を選択した。


ガミガミ爺さんとペック爺さんは大急ぎで僕とフィルさんの鎧に身体強化の擬似アーティファクトを埋め込んでくれている。

カムカは外で身体強化の腕輪を試したがったが、また内通者に見られても良くないからと言って断られた。



ペック爺さんが「できたよ」と言うと僕に鎧を渡してくれた。

そして僕に「いい鎧だね。ドフの気遣いが細部にまで行き渡っている。君は余程ドフに気に入られているようだ」と言った。


「うるせえ、サッサと用意をしてこい。ほらフィル、こっちも出来たぜ。着てみろ」

「うん、重さも何も気にならないわ」


ガミガミ爺さんは「当たり前だろ、誰だと思っていやがる」と言って笑う。


「さて、行くのはフィルとカムカと小僧で俺と姉ちゃんは留守番な」

「わかってるよ。キヨロスくん、お姉さんの分もやってきてね。後フィルの事もよろしくね」


僕は「はい」と答えて出かけようとしたのだが、ガミガミ爺さんからまだ最後の用意が出来てないと呼び止められてしまった。

最後の用意とは何だろう?


そうしていると奥からペック爺さんとマリーが出てきた。

ペック爺さん「マリー、気をつけてな」と言うとマリーは「うん。いってきます!」と元気良く返事をした。


僕は「え?」と驚きフィルさんも「マリーちゃんも連れて行くの?」と聞いている。

ペック爺さんが「うん、村長の所にはマリーを連れて行く事になっているんだ。それが亡霊騎士を止める方法の一つでね」と言うのだがさっきの方法と違う。


僕が「さっきの2つの方法とは違う…」と言うのだがペック爺さんは「いいから、行けば全てわかるし解決するから」と言うし、マリーも「だいじょーぶ。お兄ちゃんたちがけがをしたらわたしが治してあげるから」と言って僕達の元に来てしまう。


フィルさんが心配そうに「でも…」と言うが遂にはガミガミ爺さんは問題なんか無いように「日が落ちる前に村長の所に行ってくれ」と話を続ける。


釈然としない中、とりあえず時間が惜しいので今は言われた通りにする事にした。

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