南の「時のタマゴ」-四の村の亡霊騎士。

第24話 亡霊騎士。

[7日目]

起きると空はあいにくの曇り空だ。

ガミガミ爺さんは曇り空を見て四の村に入れるかを心配している。


僕の視線を感じたガミガミ爺さんは「多少でもお天道様が射し込んでくれれば、そのうちに村に入っちまえるんだがな…」と言ってため息をつく。

とりあえずこの場で待つのも得策ではないので四の村を目指すことになった。



昨日、ムラサキさんにハメられて朝まで寝ていたトキタマだが、起きぬけから大激怒であった。

怒ったトキタマが「お父さん!僕はババアに毒を盛られました!」と言いつけに来るとムラサキさんに「私が飲めないお酒で潰れた時に喜んで居たのは誰ですか?その仕返しです」と軽くあしらわれて「ムキーーー!」と言って怒ってわめき散らすトキタマ。



見ていられないとカムカが「まあまあ、そこは俺の筋肉に免じてだな」と割り込んでくるとトキタマが睨みつけながら「筋肉の人はうるさいです!そもそも筋肉の人が食べさせなければ僕は寝ませんでした!」と言う。

一瞬たじろいだカムカだったがすぐにムキになって「お前だって食べる時に貸しだの何だのって言ってただろ!」と言い返す。


それで昨晩カムカは一瞬固まったのか…


僕はトキタマのその発言に引いて「え?そんな事を言っていたの?」と確認をする。

トキタマは普段通りのテンションで「え?僕はそんな事言っていませんよー」と言った後で僕の肩にとまると「所でお父さんは僕が寝ている時に何をしていたんですか?跳びたくならなかったですか?」と聞いてきた。


来た。

みんなが一瞬緊張したのがわかる。


僕は「え…、特に跳びたくなるような事件は無かったよ…ははは」と言ったのだが自分でも白々しくなってしまったことに気付き、困った瞬間にジチさんがニヤニヤ顔で僕の前に出てきて「トキタマくん、それはねぇ…知りたい?」と聞く。

ジチさんの演技は見事の一言でトキタマは楽しそうに「知りたいですー」と返事をする。


「全部終わったらお姉さん達が一の村に遊びに行こうって話で盛り上がったんだよー。キヨロスくんの故郷の人達によろしく挨拶をするって話になったんだー!」


説明を聞きながら情景を思い浮かべたのだろう。トキタマは嬉しそうに「あー、お父さんはその場になったら跳んで逃げたくなるかも知れないですねー」と言って気を良くしていた所に僕とガミガミ爺さんとの会話で、これから四の村の近くに行って亡霊騎士が現れて危ない時にはここに跳んで戻ろうと相談をしていたら「それはいい考えですねー」と上機嫌になっていた。



温泉を後にして歩いていると所々雲間から光が射してくるので、この分なら問題なく四の村に行けるかもしれない。


遠くに村が見え始めた辺りでガミガミ爺さんが「あれが四の村だ」と言って指差して教えてくれたのだが、まだ所々は雲が出ていて太陽が射し込まない。

話しながらガミガミ爺さんの緊張が伝わってくる。

亡霊騎士とはそんなに危険な存在なのか?



徐々に四の村が近付いてくる。

もう少しといった所でガミガミ爺さんの足が止まる。


視線の先には濃紺色の全身鎧の人が佇んでいた。

ガミガミ爺さんがそれを見て憎々しく「亡霊騎士…」と言う。


あれが亡霊騎士…。

何故か初めて見る気のしない姿だ。

ただそこに存在していないかのような人型なのに人に見えない雰囲気についつい見入ってしまう。


僕達の視線を察したのかガミガミ爺さんが慌てて「見るな!目を合わせるんじゃねえ!!」と言う。

全員不思議そうにガミガミ爺さんを見ると「奴は目を合わせた相手が目を逸らした瞬間に襲いかかってくる」と言った。


「額の制御球が今は緑色だから多分さっきまで陽の光があったんだ、制御球が緑色のおかげで今はまだ待機中だが、あれが夜になったり陽の光が無くなって…光の力が力尽きて赤色に変わると戦闘状態になる。そうなったら近くに居る生き物全てに襲いかかってくる…」


僕は亡霊騎士の事を考える前にガミガミ爺さんが詳しいことが気になった。

ガミガミ爺さんはなんでこんなに詳しいんだ?


僕がそんな事を思っている間にもガミガミ爺さんは指示出しをする。

「小僧、剣はまだ抜くな。攻撃の気配を察知したら奴は昼間でも戦闘状態になる。フィルはいつでもムラサキを使えるようにして、奴の動きに注意しておけ。小童、お前は気を抜くな。奴の動きは早い、動き始めたら真っ先に姉ちゃん担いで村まで走れ。姉ちゃん、今はフィルの後ろにいろ、奴が動いたら小童にしがみつけ」


この指示に全員が頷くとガミガミ爺さんが続ける。

「全員、奴は村の中までは追ってこない。万一の場合は村まで走れ。そして奴を見るな、だが意識は奴に向けて集中しておけ」

この言葉にもう一度全員が頷くとガミガミ爺さんが「小僧、もしもの時は頼む」と言う。僕は「わかりました」と返事をしてガミガミ爺さんの言う通りにした。



四の村まであと少し、走れば何とかなるかもしれないと言うところまでやってきた。


僕の気持ちを察したのかガミガミ爺さんが「無理だ、奴は高速イノシシよりも速く走る。しかも徐々に速くなるんじゃねえ、一歩目から最高速だ…」と言った。


だが、亡霊騎士は騎士とは言っているが、武器は何も持っていない。

これなら何とかなるのではないかと思った僕は「ガミガミ爺さん、亡霊騎士は丸腰だよ」と言う。だがガミガミ爺さんは「いや、奴は全身が武器だから油断するな」と返す。


そんな時、ジチさんが「ちょっとアレ!」と慌てた声を上げる。

亡霊騎士を見ると額の制御球が緑色から黒色に変わっていく。



「マズい!陽の光が足りなかったんだ…戦闘状態になるぞ!走れ!!」と言ったガミガミ爺さんの声で全員が一斉に走り始める。

カムカは指示通り真っ先にジチさんを担いで走り始めた。


そのカムカの後ろを走るガミガミ爺さんが「小僧、フィル、奴から目を離さずに走れ。勝ち目はない。村にたどり着く事だけを優先しろ!」と言い僕とフィルさんは目配せをした。



俯いていた亡霊騎士が顔を上げる。

額にあった緑色の美しい球は血のような赤い色に変わっていた。

亡霊騎士は鎖から解き放たれた獣のように全身を身震いさせてこちらを睨みつけている。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



それは一瞬だった。


たまたま盾に当たったと言える状況で救われたが、あの高速イノシシの突撃を受け止めたフィルさんが簡単に殴り飛ばされた。

その衝撃でフィルさんが村の入り口から遠ざかってしまった。


ガミガミ爺さんは足を止めて「フィル!無事か!!?」と聞く。

フィルさんは体制を立て直すと「大丈夫、お爺ちゃんは早く村に入って!!」と言って構えを取る。


今、僕たちの位置関係は目の前に四の村がある。そしてガミガミ爺さんはあと少しで村に入れる。ジチさんを抱いたカムカは村に入ったところだ。

村と僕の間に亡霊騎士が居て、亡霊騎士は僕から見て右側に飛ばされたフィルさんを睨みつけている。


ここから見た感じ、フィルさんにダメージは無さそうだ。

何とか奴の気を引いてフィルさんを村に逃がさねばならない。


やってみるか…

僕は「兵士の剣」を抜き亡霊騎士を見る。


「小僧、やめろ!!」と言うガミガミ爺さんの声が聞こえる。

だが、やめて何になる?フィルさんを助けないといけない。


僕は一気に勝負に出る。


剣を振りながら「【アーティファクト】!」と唱える。


だが、僕の剣は当たらなかった。

次の瞬間には亡霊騎士はその場に居なかった。

視野の狭い頭まで覆う兜の全身鎧で、しかもフィルさんを睨みつけていた状況で僕の攻撃に対応できるなんて想像していなかった。


「危ない!!」と言うフィルさんの声がした瞬間、僕の身体は殴り飛ばされた。


運よくと言うかフィルさんの居る方に飛ばされた僕はフィルさんに受け止めて貰えた。

かなりの激痛が右肩に走る。

折れてはいないだろうが、あの鎧で殴られるのは痛い。



これで2人とも村の入り口から遠ざかってしまった。


カムカが「キヨロス!合わせろ!!」と言って村から飛び出してきた。

背後からの不意打ちだ。これは亡霊騎士でも対応できないだろう。

仮に振り向いて対応できたとしても僕が後ろから斬りかかる。



「アーティフ…ぐあっ!?」

「くっ!?」


背後からのカムカの不意打ちも、僕の攻撃にも亡霊騎士は対応をして見せた。

カムカに至っては飛びかかっていた所を蹴り飛ばされたせいで四の村の入り口まで吹き飛ばされていた。


これは正直まずい。

朝一番に跳んで、亡霊騎士に出会わないようにするしかないか?

いや、ダメだ。そもそも四の村に来た理由が亡霊騎士の排除だった場合に今のままだとどうすることもできない。


すると、亡霊騎士が僕たちの方に左腕を向ける構えを取った。


何をするんだ?

そう思った時、亡霊騎士が「【アーティファクト】」と唱えると左腕についている穴から光の玉が物凄い速さで吐き出された。


フィルさんがいち早く反応をしてくれて「【アーティファクト】!!」と言いながら前に出てくれたお陰で何とか攻撃は防げた。


だが、なんだ今の攻撃は?どういうアーティファクトの力なんだ?

僕は未知の力の前に本格的に勝ち目がない事を痛感してしまった。


その時、ガミガミ爺さんが村の入り口から「小僧、フィル!待たせたな!!」と僕達に声をかける。

ガミガミ爺さんの手には見たことのない筒がある。


ガミガミ爺さんが筒を構えて「【アーティファクト】!」と唱えると筒から今さっき亡霊騎士が放ったモノと同じものが飛び出してきて亡霊騎士に迫る。


あの速さにはかわすことが出来ないのか、亡霊騎士が防御態勢を取ると「【アーティファクト】」と唱えた。

今度は左の腕に赤色の光の盾が発生してガミガミ爺さんの攻撃を防いでしまった。


ガミガミ爺さんが「姉ちゃん!!」と呼ぶとジチさんがガミガミ爺さんと同じ筒を持って「わかってるわよ!【アーティファクト】!!」と唱えて空に向かって光の玉を放つ。

空に向かった光の玉は雲を打ち抜き、僕や亡霊騎士の居るところに光が射しこんだ。


事態を見ていた僕にガミガミ爺さんが「小僧、剣をしまえ!!」と言い僕は慌てて剣をしまうと亡霊騎士は最初に見た時のように俯いて動きを止めた。


額の制御球は赤色から緑色に変わっていた。


今のうちだと言うガミガミ爺さんに促され、僕とフィルさんは肩を貸しあって四の村にたどり着いた。




四の村にようやく着いた。

亡霊騎士は陽の光を浴びて動かなくなっているのを見ているとガミガミ爺さんが「ああやって待機状態になって休息を取っていやがるんだ」と説明をしてくれる。


本当にガミガミ爺さんは亡霊騎士について詳しい。

それに先程ジチさんも使った筒型のアーティファクトは一体何なのだ?

亡霊騎士も使っていた…



奥から1人の老人が現れてガミガミ爺さんに「どうやらうまく行ったようだね」と話しかけた。


「おう、助かったぜ」と言うガミガミ爺さんに「こっちこそ助かったよ。返すね」と言うと老人はガミガミ爺さんに「混沌の槌」を渡していた。そのままフィルさんを見て「おっ!フィルちゃんかい?」と嬉しそうに声をかける。フィルさんも「ペックお爺さん、お久しぶりです」と言ってキチンと挨拶をした。


「随分と綺麗になって、今は…19…20歳かい?」

「はい」


よくある会話をしているとガミガミ爺さんが「そうだ」と言って僕達をさして「こっちが今俺たちと旅をしているキヨロス、この姉ちゃんはジチ、この筋肉男はカムカだ」と言って紹介をするので僕たちは老人に会釈をするとガミガミ爺さんが「コイツは俺の友達でペックだ」と紹介してくれた。


ペックと呼ばれた老人は僕たちに「よろしくね」と挨拶をしてきた。


ペック爺さんは村の入り口で動かない亡霊騎士を見ながら「それにしても災難だったね、まさか村の入り口辺りで奴に出くわすなんて…。さ、今はとりあえずウチに来てよ。詳しい話はそれからしよう」と言うので僕達はペック爺さんの家に向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



村の人たちは日常茶飯事なのか、誰も亡霊騎士に危機感を持ったり驚いたりしないでいる。

ペック爺さんにお友達が無事で良かったねーと言うくらいで後は普通に挨拶をしている。


ペック爺さんの家に入ると小さな女の子が居た。

女の子はペック爺さんに「お帰りなさい。おじいちゃん」と言った後でガミガミ爺さんに気付くとペコリと頭を下げて「あ、ドフおじいちゃん!いらっしゃい!」と挨拶をした。


このやり取りを見たフィルさんが「マリーちゃん?」と言うと女の子は「フィルおねえさん?」と言っていてどうやら2人も顔見知りらしい。


フィルさんが「わあ、久し振り!2年半ぶりね」と声をかけるとマリーは「うん!」と言ってフィルさんに駆け寄った。


フィルさんがマリーの頭を撫でながら「マリーちゃんは今年13歳だったわよね?」と聞くとマリーは「そうだよ」と言ってニコニコと笑う。


マリーは13歳にしては幼く、そして小さく見える。

それは服装のせいかもしれない。

青い大きなブローチが体の小ささを引き立たせていて、白いシャツにピンク色のフリフリのスカートを履いている為に10歳と言われても違和感がない。


そのやり取りを見ていたカムカは蹴り飛ばされた時に背中を打ったらしく「いてててて」と言いながら背中をさすっている。

怪我に気付いたマリーが「ケガしてるの?みせて!」と言うとマリーはカムカの背中を見て赤くなっている箇所に右手を当てる。


ペック爺さんの「やめなさいマリー!」という制止を無視してマリーは「だいじょーぶ!【アーティファクト】!」と唱えてアーティファクトを使った。


優しい光がマリーの右手にはめられた指輪から発せられた。

マリーが「これで大丈夫!」と言うと、確かにカムカの背中にあった赤みは引いている。


「おっ!痛くねえ!ありがとうな!!」

「どういたしまして!」

カムカがマリーに感謝をしてマリーがニコニコとしている。


変だ…僕は今の出来事に違和感を覚えていた。



マリーの雰囲気?

カムカの傷?

治癒の指輪?

アーティファクト?


そうか…違和感に気付いた僕がマリーを見て「君は13歳なのに、なんでアーティファクトを持っているんだ?」と言うとカムカとジチさんが一瞬の間の後で「確かに!」と驚く。


そこにペック爺さんが「これはね、擬似アーティファクトなんだよ」と言って口を挟んでくる。


「四の村には「大地の核」と言う村が授かったアーティファクトがあるんだ。まあ、逆だろうね。アーティファクトの傍に村を作ったが正しいかもね。その核の側に居るとアーティファクトの威力が上がったりするんだけど、僕はこれを使って人の手でアーティファクトを再現出来ないかと思ってね。もう10年くらい、ずっとコレの制作に没頭してるんだ」


擬似アーティファクト…それがあれば13歳でもアーティファクトを使う事が出来るのか…


「まあ、威力はまだまだで、さっきのアーティファクトもA級アーティファクトの力が出て欲しくて試行錯誤をしているんだけどね、Bに少し届かない感じかな?」


この説明を聞いた後で「アレがあれば私もアーティファクトを持てるのかい?」と聞いたのはジチさんだ、ジチさんは自身のアーティファクトを国に取られた事。

元々のアーティファクトの能力をペック爺さんに事情を話す。


「それは大変だったね」と言ったペック爺さんはさも簡単と言う顔で「出来るよ。前程ではないけどコレあげるよ」と言って緑色の石を出して渡して来た。


緑色の石を手に取ったジチさんはマジマジと見ているとペック爺さんが「これ、まだ装飾前のむき出しアーティファクトで今度はコレで何かを作ろうと思って居たんだよね。風の力を「大地の核」から授かってあるから、以前持っていた「風の羽」りに近い能力が出るように調整しておくよ」と説明をする。


余程嬉しかったのだろう。ジチさんは「本当かい?ありがとう!!」と言うとペック爺さんに抱きついてしまった。ペック爺さんは頬を赤くして「悪い気はしないんだが、孫の前だと恥ずかしいね」と言って照れ臭そうにする。


カムカもペック爺さんと話をしたそうだったが、ガミガミ爺さんが「とりあえず一度落ち着いて話をしようぜ?」と言う事でみんなテーブルを囲む事になった。


ガミガミ爺さんがまずは2ヶ月ぶりになってしまった理由を説明した。

ペック爺さんは驚いた顔で「毒竜が?そりゃあ大変だったね。毎月きてくれていたドフが来ないから何かあったのかとは思ったけどまさか毒竜だったとは…。知っていたら何かアーティファクトを作って持って行ったんだけどね…」と言う。

…そうか、ムラサキさん以外の解毒のアーティファクトや毒を焼ける火のアーティファクトもなんとかなるのか。


「いや、俺こそ遅くなってすまねえな」

「まあ、こうして来てくれたからいいんだよ」


次に僕の経緯を説明するとペック爺さんは「国も亡霊騎士退治は難しいのか、ずっと放置しているから君に任せたのかもね」と言ってきた。


「それにしてもS級のアーティファクトが2つもあるなんて凄いね」と言うとペック爺さんは好奇心からトキタマをジロジロと見ている。


僕は話を進める為にも「僕の目的は亡霊騎士を倒す事だと思っています。ただ、今のままだとかなり厳しいですね。せめて、今使っている「火の指輪」や「兵士の剣」の能力発動から次の発動までの間隔が正確になってくれれば少しは楽になるかも知れないのですが…」と話すとペック爺さんはサラッと「なるよ」と言ってのけた。


そして驚く僕の顔を見てニコッと笑うと「要は視認…かな?わかればいいでしょ?」と言って「これあげる」と言って出してきたのは小指の爪サイズの透明な石だった。そのままの流れで「ちょっと貸して」と言い、剣と指輪に小さな穴を開けて今の石をはめ込む。


装飾が付いただけの剣と指輪にしか見えないが「持ってみてよ」と言われたので言われるままに装備をする。


ん?


剣に付けられた石が薄ぼんやりと光っているのがわかる。


僕と剣の変化を見てペック爺さんはニコニコと「成功だね。発動が可能な時は光っているからね。後は…あー、家の中で剣は困るから指輪にしてね。かまどに向けて火の玉を放ってみてよ」と言う。


指輪と言われて見てみるとやはり指輪も薄ぼんやりと光っている。


僕は言われた通り火の玉を出す。

すると指輪に着けられた石は光を失った。


待っている間にペック爺さんが「間隔が大体何秒か知っているの?」と聞いてくる。僕は「大体は20秒です。…もうすぐですね」と言うと約10秒してから指輪から「カチッ」と音がして、また薄ぼんやりと光り始めた。


「うん、こっちも成功だね。これで音と光で発動が可能かどうかわかるようになったよ」

難しい事も簡単にやってしまうペック爺さんに感動をした僕は「凄いですね!ありがとうございます」とお礼を言った。


うまく行ったからか、感謝をされたからかペック爺さんは嬉しそうに「いやいや、お安い御用さ」と言って「それ隠れたい時とかに邪魔だったら「つくな」「光るな」って念じれば大丈夫だから」と教えてくれた。


僕の後にはカムカが「俺にもなんかないですか!」と言ってペック爺さんに詰め寄る。

2人でアレコレ話をした結果、ペック爺さんが「君はこれだね。身体強化…大地の力を借りたアーティファクトの腕輪と火の指輪をあげるよ」と言って今度は腕輪と指輪が出てくる。


カムカは本当に嬉しそうに「本当ですか!ありがとう!!」と言う。


「これであの動きに少しでも対応できるし、「火の腕輪」に指輪の火力を上乗せしてA級以上、S級以下の火力を実現させよう。他にも風のアーティファクトと併せて熱風攻撃とかでも良かったんだけど、熱風は仲間を巻き込みかねないからね」


当たり前のように話しているが、擬似アーティファクトの可能性は凄い。


そのままペック爺さんは「…いや、あえて水のアーティファクトとぶつけて水蒸気爆発でダメージとか…」自分の世界に入り込んでしまう。

ガミガミ爺さんがヤレヤレという顔をしているとマリーの「おじいちゃん!!」という声でペック爺さんはハッと気がついた。


ペック爺さんがカムカに渡す指輪と腕輪を持って「危ないところだったよー。すぐに用意するから待っててね」と言うとガミガミ爺さんが「ペック、身体強化は全部で3つだ」と言う。


3つ?数を持てば効果が出るのか?

僕が疑問に思っているとペック爺さんが「それは…誰が使うんだい?」と聞いている。

ガミガミ爺さんはペック爺さんの質問には答えずに「小僧、鎧を脱げ」と言った。


…?


僕は言われた通りに鎧を脱ぐ。

よく見ると鎧の内側、右胸の辺りに窪みがある。

ガミガミ爺さんはペック爺さんに「ここに1つを嵌めてくれ。もう1つは…フィル、お前も鎧を脱げ」と言ってフィルさんに鎧を脱がせるとフィルさんの鎧の内側にも窪みが沢山あった。


この事はフィルさんも知らなかったようで「この窪みってこのためにあったの?」と感心していた。


ガミガミ爺さんが「まあな」と言うと納得をしたペック爺さんは「OK、OK。じゃあちょっと待っててね」と言ってマリーと奥の部屋に行ってしまった。

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