第28話 亡霊騎士の正体。

マリーは居なかった。

多分、マリーであったカケラは沢山あった。

マリーと別れた場所の少し後方に真っ赤な水たまりが出来ていて、そこに様々なカケラは沢山あったが、顔や髪などは無かった。


今までの僕なら跳ぶ事を優先したが、今回はマリーとの約束があるので僕は村に戻る事にした。


わかり切っていた事だがやるせない。

それは僕だけではない。

カムカもフィルさんも同じで皆無言になっている。

どうしてあんな幼い子がこんな目に遭う必要があるのだろうか?


途中、6人の中年男女に会った。

村長の協力者という連中で、遠くの相手と話ができると言う擬似アーティファクトで村長に連絡を取ったが返事がないので心配になって今から村長の家に向かう所だと言う。


実際には「お前達は!!」と言って襲いかかってきたので軽く返り討ちにしてから話を聞いた。

カムカは相当頭にきていて、そもそもマリーが誘拐された事も、告げ口した事も協力者の密告が原因だからと言って男女関係なく、等しく両脚を殴り折った。


悶絶する中年男女にカムカは「そのまま生きて村に戻ってこられたら、俺はお前たちにこれ以上何かをすることはない。だがまだ亡霊騎士は居るんだ。お前らは殺されても文句は言えない」と言い放つと、中年男女は口々に「酷い」「助けてくれ」「痛い」「心が痛まないのか?」と言っていた。

だがカムカは優しいくらいだと思った。


カムカは最後に「幼い女の子を村長に売ったお前らに慈悲や慈愛なんかはない」と言って僕達に「さあ村に行こう」と言った。


僕達は再び村を目指す。

帰り道に亡霊騎士は出なかった。

恐らく、今晩は探して彷徨う必要が無いのだろう。


四の村に戻ってきた。

僕は無言でブローチと制御球をガミガミ爺さんとペックに見せる。


ペック爺さんが探るように「マリーは…?」と聞いてくるので僕は「言わなくてもわかりますよね」と言った後で「2人とも、説明してください」と言うと、ガミガミ爺さんとペック爺さんは顔を見合わせて黙ってしまった。


僕は少しため息をついて「黙っていてはわかりません。マリーは…あの子はあなた達を怒らないでと言っていましたよ」と言うとガミガミ爺さんは衝撃を受けた顔をしてペック爺さんが「…あの子は…本当にいい子だ…」と言いながら目頭を抑えた。


僕達はペック爺さんが泣き止むのを待つ。

その間にガミガミ爺さんが「小僧…、俺たちがした事で怒られる事も覚悟している。だが、今はもう一つ頼まれてくれないか?」と言ってきた。

それは想像通りならマリーの言う次の次に行くための話だろう。


「もう一つ?僕の予想だと、まだあと4つありますよ」

「そうかも知れねえ、だがとりあえずこの一つがうまくいかないと何も始まらねえ」

ガミガミ爺さんの申し訳なさそうな言い方に僕は仕方ない気持ちにはなっていた。


僕は聞き返す事なく「時間が惜しいので、早速準備をしてください」と言うとガミガミ爺さんが驚いた顔で「小僧、お前どこまでわかって居るんだ?」と言いながら僕を見る。


僕は「漠然とですよ。ただ、出来たら僕の想像は外れていて欲しいと思っています」と返す。今の僕はどんな顔をしているのだろう。僕の顔を見たガミガミ爺さんは小さくため息をついて「すまねぇな」と謝った。


ガミガミ爺さんが泣いているペック爺さんに「ペック、呼ぶぜ?」と言うとペック爺さんは泣きながら「あ…ああ、よろしく頼むよ」と言った。



ガミガミ爺さんは制御球を握りしめて「四の村の入り口に来い」とつぶやいた。

そして僕に「さあ、小僧…村の入り口に行ってくれ」と言う。

僕は言われた通り村の入り口に向かった。



村の入り口には亡霊騎士が居た。

相変わらず佇んでいる。

先ほどと違うのは両腕が真っ赤に染まっていると言う事だ。

その手を見て、カムカとフィルさんは言葉を失っている。


もうすぐ日の入りだ、そうなれば暴走状態になる。

僕はついてきたペック爺さんに「ペック爺さん、倒した後はどうするんですか?」と確認をするとペック爺さんは「家に運ぶ為の鎖を用意してあるよ」と言ってガミガミ爺さんとペック爺さんは鎖を見せてきた。


僕が村の外に出ようとするとカムカが「俺も手伝うぜキヨロス!」と言ってついて来た。

僕は少し困りながら「一応任せるけど、カムカは手を出さない方がいいと思う。アーティファクト砲は火のアーティファクトで跳ね返せるからそれだけは覚えておいて」と言う。

カムカはこの戦いをしない方が良い。でもまだ理由は言えない。確証がない。でもそうだった時はきっとカムカは僕以上に怒る。


「お…おい、なんだよそれ?」

「とりあえず鎖で縛りあげる方をお願いするよ」


そう言うと僕は剣を抜いて亡霊騎士に向き合う。


「お待たせ、約束を果たしに…助けに来たよ」


亡霊騎士の攻撃は相変わらず素早いが、もう僕には当たらない。

僕は攻撃を見切ると慎重に剣を振り抜く。

切断することは無いと思うが万一が無いように、だが少しでも油断をすると攻撃を食らってしまうので手は抜けない。


戦闘中に4回程アーティファクト砲を撃ってきたが全てを跳ね返して直撃させた。


4回のアーティファクト砲による雷の攻撃と剣による数回の攻撃で亡霊騎士は吹っ飛んだ。

それを見た皆が驚きの声を上げる。


それだけ僕は跳び続けてしまったと言う事だ。

今は戦っていても高揚感なんてものは無かった。

悲しい気持ちしかない。

早く決着をつけよう。


亡霊騎士はまた肉弾戦をやめて5回目になるアーティファクト砲の発射体制になった。

僕も息を整えつつ剣に火を纏わせる。


今回もアーティファクト砲を打ち返して亡霊騎士にぶつけると亡霊騎士は膝をついて身動きが取れなくなった。

僕はそこにすかさずトドメの一撃を食らわせる。


剣は綺麗に頭部を直撃した。

亡霊騎士は低いうなり声とともに仰向けに倒れる。

額の制御球を見ると赤から黒に変わっていた。


ガミガミ爺さんが「今だ、小童、鎖で縛れ」と言うとカムカが鎖で亡霊騎士の上半身を縛り上げて荷物のように担ぐ。


ペック爺さんの「すぐに僕の家に連れて行ってくれ!!」という声に合わせて皆で走ってしまったので家にはすぐに着いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ペック爺さんの家に着くとジチさんが「とりあえずさ、お水飲みなよ」と言ってお水を持って来てくれた。


僕の表情が険しいのかジチさんが優しく「キヨロスくんは頑張っているって、マリーちゃんの事は悲しいけど、そんなに君が落ち込むこともないってお姉さんは思うよ?」と言ってくれるので僕は「ジチさん、ありがとう」と返事をして安心して欲しくて笑顔を見せた。


僕はこの後もう一度跳ぶ事になる。

落ち込んではいられない。


そんな時、ガミガミ爺さんが亡霊騎士の鎖を解いて「ペック、やるんだ」と言いながら制御球をペック爺さんに渡す。


ペック爺さんは暗い声で制御球に向かって「全アーティファクトの機能を停止」と言うと、途端に亡霊騎士の威圧感のようなものが消えた気がした。


ペック爺さんは途方に暮れた顔で「これで完全に機能停止したよ」と言うとガミガミ爺さんが率先して指示を出す。


「よし、じゃあ脱がせよう。小童は邪魔な鎖を巻き取れ、フィルと俺は鎧。ペックは薬箱、姉ちゃんは飲み物と食べ物の準備を頼む。小僧、お前はここで見ていろ」

ガミガミ爺さんの指示で皆が一斉に行動する。


カムカが鎖を外している間に、ガミガミ爺さんとフィルさんが足の鎧を脱がせると中から足が出てくる。

水を持ってきたジチさんが立ち止まって「おや、人形兵士って言っても人間みたいな足に作ってあるんだねぇ」と言う。


フィルさんたちは、そのまま手の鎧を外す。

中から出てきたのは人間の手だ。


この段階でカムカが息を飲む。

フィルさんの顔は真っ青になり手が震えている。


僕は見ていられない気持ちで「フィルさん、僕が変わる。フィルさんは椅子に座っていて」と声をかけるとフィルさんは震える声で「キョロ…くん、これって…」と言う。


僕はフィルさんを落ち着けてあげたくて「大丈夫だから、ね」と言って僕はフィルさんと変わって残りの鎧を脱がせる。

胴体の鎧からは柔らかな丸みを帯びた女性の身体が出てくる。


鎧の中身が見えて予想が確信に変わると「おい…これって…」と言ったままカムカも言葉を失う。


ガミガミ爺さんが「この兜は装着するのは簡単だが、一度着けた後は外し方を知っている者じゃないと外せない」と言うと耳がある部分の下あたりを何やらいじっている。


カチっという音がした。


ガミガミ爺さんは亡霊騎士から離れると「………小僧、頼めるか?」と言ってきた。

そのガミガミ爺さんの顔面も蒼白になっている。


僕は「わかったよ」と言って兜を脱がせる。

中から出てきた顔は僕が外れて欲しいと思った予想通りだった。


フィルさんが目を丸くして「え…これって、マリーちゃん?」と言うとペック爺さんが泣きながら「そうだよ、この子が本物のマリーだよ」と言った。

ペック爺さんの返答に「どういう事だよ、さっきまで一緒に居たあの子は何なんだよ!!」とカムカが声を荒げる。


フィルさんやカムカは亡霊騎士の中身が人間だと言う事は鎧を脱がせていて気付いたが中身がマリーだとは気付かなかったようで驚いている。


僕が「あのマリーが人形兵士だったんだ」と告げると、驚いた顔のペック爺さんは「君は本当にすごい子だね。どこでわかったんだい?」と聞いてきた。


所々に違和感はあった。

初めて会った時のとても13歳には見えない容姿と言動。

村長から餌と呼ばれていた事。

亡霊騎士から執拗に狙われていた事。

村を出て亡霊騎士に出くわしてからの流暢な話し方。

そして僕が自分を見失って一対一で亡霊騎士と戦った時のことを知っていた事。


それらから、もしかしたら亡霊騎士の正体がマリーなのではないかと思い始めた事を説明した。


極め付けはあのマリーが命を投げ出した事を挙げた。

ペック爺さんが「君は本当にすごい子だね」ともう一度驚いている。


「今度こそ話してくれますよね?」

「うん、話すよ。でもその前に」

そう言うとペック爺さんはマリーを抱きかかえて奥の部屋に連れて行く。


「済まないが付き添いを頼めないかな?」

そう言うとガミガミ爺さんが「俺が行く」と奥の部屋に行った。



1人戻ってきたペック爺さんが話し始める。

「マリーが拐われた話はしたよね。あの時は亡霊騎士が暴走して命からがら逃げてきたと言ったけれど、真実は違うんだ」


ペック爺さんの話はこうだ。

そもそも、人形兵士を作るときに思い入れを持って大切にできるようにとマリーそっくりの人形を作った。それでマリーと人形のマリーは同じ顔をしている。


所作や常識云々を一から教え込むのは大変だし、大人が子供の身体に常識を教えるとうまくいかないケースもあるかもしれないという事で、あの青いブローチ…擬似アーティファクト「記憶の証」を作って人形のマリーに持たせる事で人間のマリーが近くにいる時には人間のマリーと同じ思考や行動を簡単に教える事が出来るようになる。


途中で人形のマリーが流暢な話し方になったのは一年半ぶりに人間のマリーが近くに来た事でブローチに今のマリーが持っている情報が届いたからだと言っていた。


そして、そもそもなんで人形兵士が装着するはずの鎧を人間のマリーが装着したのかと言えば簡単な話だった。

それは今の亡霊騎士を打ち倒して孫を無傷で取り返す為に更に強い亡霊騎士を作らせようとした村長の悪巧みだった。


だが人形兵士作りは難航した。

どうやってもあの力を上回る力、無傷でマリーを取り戻すような力は実装出来ずにいた。

村長や6人の賛同者がバラしている可能性はあったが村人からマリーが成長しない事をおかしいと悟られないように最初の数ヶ月以降は極力の交流を絶った。

その為にガミガミ爺さんはフィルさんも連れて来なくなったと言う。


あの赤い液体も村人からおかしいと思われないようにペック爺さんが仕込んだらしい。


亡霊騎士が人形のマリーを狙った理由は人間のマリーが「記憶の証」を介して唯一存在を認識できる人形のマリーに助けを求めているからか、本来人形のマリー用に調整した鎧と人形のマリーが呼び合っているのかもしれないと言っていた。

ただ、こればかりは推察でしかない。


初めは外にマリーを出すと亡霊騎士が村の辺りに寄り付いていたことから「人形マリー=餌」と村長が言うようになったと言っていた。


村長の餌発言にカムカが怖い顔をしている。


大体の事はわかったし想像通りだった。

わからないのは村長の所に行くのになんで人形のマリーも同行をさせたかと言う事だ。


僕は改めてその質問をした。


「「記憶の証」に一年以上ぶりのマリーの知識を受け取らせたかったんだよ。何年も変わらないあの子を見ていると辛かったんだ。

君たちは初見で死ぬ事なくマリーをやり過ごせた。

そしてあわよくばマリーを止めてもらえるのではないかという期待もあったし、もしかしたらマリオンも助けて貰えればと思っていたんだ」


初めて聞くマリオンの名前に僕が「マリオン?」と聞くとペック爺さんは「人形のマリーの名前だよ。2人ともマリーだと分からなくなるから、マリーがマリオンって名前を付けてくれたんだ」と言った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



これで欲しい話は終わった。

ただ、トキタマはまだ跳べるとは言わない。


まだ何か必要なのか?


そう思っているとガミガミ爺さんが部屋に戻ってくる。


「マリーが目を覚ましたぜ」と言われるとペック爺さんが駆け出す。


その後ろ姿を見る僕達にガミガミ爺さんが「お前たちも着いてこい。もう見られて困るものはないからな」と言って奥の部屋に通された。

奥の部屋には試作品だろう、亡霊騎士と同じ形の鎧やアーティファクト砲が何個か置かれていた。

そして奥にはベッドが三つあり、一番右のベッドには樽が併設されていた。


僕の視線に気付いたガミガミ爺さんが「あの樽が雷の力を溜め込むもので、雷の力で人形兵士は動いている。俺が来ない間、雷の力が切れたマリーはここでずっと寝ていた」と教えてくれる。


僕はマリーがマリオンである事を知っていると伝えた。

「そうか…、ならマリオンはずっと寝ていた。さっき動いたのは2ヶ月ぶりの事だ。さっき小童に回復の力を使っただろう?あれでもマリオンの力は減ってしまうんだ。それでペックは一度マリオンをここに寝かせて再度力を蓄えさせたんだ」


ガミガミ爺さんが話しているとペック爺さんが「マリー!!」と呼びかける声が聞こえる。

声の方を向くとマリーが「お爺…ちゃん?」と言って話し始めた。


「私、怖かったの。ずっと怖いオバケから逃げるのだけど気がつくと目の前に色んなオバケが来て、無我夢中で追い払うの。

「やめて、こないで」って声を出すけどオバケには聞こえないの。

でも怖いオバケはそんなに強くないから手で払うと居なくなるの」


この話にガミガミ爺さんが「「悪夢の兜」の効果だ…多分暴走状態になると周りが全て敵や怖いものに見えるのだろう」と僕達に説明をする。

カムカがマリーを見ながらガミガミ爺さんに「そういえばよう。亡霊騎士って言うかこの子は一年半も動き詰めていたんだろ?どうやって食事とか摂っていたんだ?」と質問をした。


カムカの質問は最もだ。

ガミガミ爺さんは「待機状態だ。あれは正確には休息状態だ。陽の光をエネルギーに変える事が出来たし、四の村の付近にいる限り「大地の核」の恩恵でエネルギーが補給されるようにしていた。先に作ったマリオンには着けていない機能だ。マリオンは本当にただの女の子として作っていたんだ」と言った。


そうか、休息と言って僕達が勘ぐらないように「待機」と呼んでいたのか。

マリーは僕達の声が聞こえたのか僕達の方を見て「お爺ちゃん、あの人達は?」と聞く。ペック爺さんはマリーを怖がらせないように優しく「フィルお姉さんとそのお友達だよ。お友達の人がお前を助けてくれたんだよ」と言った。


「フィルお姉ちゃん?」

「ええ、そうよ。マリーちゃん久しぶり!」

フィルさんは泣きそうな顔でマリーに話しかける。


「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」

「いいのよ。気にしないで」

フィルさんは本当に女神さまといった感じでマリーに話しかける。


マリーは再び視線をペック爺さんに向けると「お爺ちゃん、マリオンは何処?」と聞いた。

マリオンを壊したのがマリーとはとても言えない。

ペック爺さんが言葉に困っているとマリーは再度「お爺ちゃん?」と聞くがペック爺さんは何も言わない。


そこにガミガミ爺さんが割り込んで「それよりも、身体の調子はどうだ?変な所は無いか?」と聞いて話をそらす。


「あちこち痺れていてよくわからないの。手も足も動かないし…」

「ようやくあの鎧から助け出せたからまだ身体がビックリしているのかもな。一度寝てみよう。起きたら動くようになるかも知れない。それよりもご飯食べるか?食べさせてやるぞ?」


ガミガミ爺さんの言葉にマリーは「ううん、いらない。寝るね」と言う。

その声に合わせて僕達は部屋を後にした。


少し後をガミガミ爺さんとペック爺さんが出てきた。

そしてガミガミ爺さんの第一声は「マリーはダメかも知れない」だった。

続けるように「あの鎧は物理攻撃や一定のアーティファクトには強いが、弱点のアーティファクトがあった」と言う。


「雷の力ですね」

「そうだ…。そして今はまだわかっていないが、おそらくさっきの戦闘で雷を当てすぎたんだろう。鎧と兜を着ていれば身体なんて飾りだ。言い方を変えれば身体はただ鎧と兜が動くための道具に過ぎない。本人の意思なんて関係なく身体は無理矢理動かされる。骨が折れていようが麻痺で動かなかろうが…」


そう言うとガミガミ爺さんは黙ってしまった。

2時間後、やはり目を覚ましたマリーは指一本動かせずにいた。


薬を飲んでみようと薬を飲ませて誤魔化したがその薬は睡眠薬だった。



絶望感が漂う部屋の中でペック爺さんが「マリー…可哀想に…」と言って泣き、ジチさんが肩に手を置いて慰めている。


ガミガミ爺さんが僕を見て「小僧…、普段は無理すんななんて言っているクセにこんな事を願うのは間違っていると思う。それでも俺の願いを聞いてくれないか?」と言う。


もう、その願いはマリオンに頼まれている。

僕が何も言わないとガミガミ爺さんが「マリーの為に、マリオンの為に跳んでくれ。そして雷の力を使わずにマリーを助け出してくれ」と言った。


「うん。マリオンにも頼まれているから。僕は跳ぶよ」

そう言うとペック爺さんがすがる目で僕を見る。


「本当かい?頼んでしまってもいいのかい?」

ペック爺さんの必死さに僕は快諾をした。

ただ一つ条件を付けさせてもらった。


僕は「マリオンのブローチを貸してください」と言う。


「マリオンの?」

「本当はペック爺さんに判断を委ねたいとマリオンは言っていた。けれど僕は僕の意思でマリオンも助けたい。だからマリオンのブローチを貸してください」


ペック爺さんはマリーの事があまりにもショックだったのだろう。

意味がわからないという顔をしている。


意味がわからなくてもマリーの為になるのならとブローチを渡してくる。

僕はブローチを受け取った時に「後、制御球も借りていきますからね」と言って制御球も受け取る。


必要なものを持った僕は部屋の隅に居るトキタマに「トキタマ、ここに居る全員を今の僕は跳ばすことが出来る?」と確認すると「んー、ちょっと難しいですね。あんまり無理をするとお父さんが倒れてしまいます」とトキタマが返してきた。


やはりそうか。

そんな気はしていた。


「誰なら跳ばせる?」

「村のお姉さんもですよね?そうなると盾のお姉さん、筋肉の人、元気なお姉さんとガミガミの人ですかね」


…それじゃダメだ。

マリオンが連れて行けない。


僕が真剣な顔で「後1人、僕が無理をしたらなんとかならない?」と聞くとトキタマは「えー?無理ですか?出来ないことはないですけどー。いいんですか?」と聞いてきた。


だがトキタマの顔は悪い顔をしていた。僕の事を心配して居ると言うより、僕が無理をする事で得られる旨味を意識して笑いを堪えられない。そんな感じだ。

もしかすると何回も跳ぶくらいの負担があるのかも知れない。

だが、僕にはマリオンとの約束がある。


僕は構わないと言おうとして「かまわ…」とまで言ったところで「構うわよ!!」と言われてしまった。


ジチさんだ。


ジチさんは呆れ顔で「まーた、キヨロスくんは色々背負い込む!お姉さんは、今回は役に立って居ないんだから置いていきなさい!そうしたら無理しなくていいんでしょう!」と言うと合わせるようにフィルさんが「キョロくん、ジチに感謝して今回はそうして?ね?私とカムカは戦闘になった時の為に跳ばして貰いたい。お爺ちゃん達はお爺ちゃんが居れば何とかなるから」と言う。


このやり取りで定員がなんとかなった事でトキタマが「お父さん良かったですねー、それなら無理する必要も無くなりますねー」と言うがトキタマの顔は全然良さそうじゃない。

残念一色だった。


僕はやる事が決まったので「じゃあ、僕は跳ぶよ」と言うとフィルさんが「キョロくん、どこに跳ぶの?」と聞いてくる。


「一度やり過ごしてここに来た時にするよ。マリオンとの約束もあるし」

「そう、わかったわ」


「小僧、済まない。よろしく頼む」

「うん」


僕が「トキタマ!」と呼ぶとトキタマは「はいはーい……」と言ったまま動きが止まった。


そして直後に「お父さん、跳べるよー」と言う。

何かタイミングがズレた感じだが、トキタマが跳べると言い出した。

恐らく足りなかった最後のコマは、後遺症の話とブローチの話だと僕は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る