第52話 ルル。
俺達が酒場へ向かうとサンバグはご機嫌でバーテンに酒を頼もうとしていた所だった。それをちょっと止めて路地裏まで来てもらう。
裏路地に連れてこられたサンバグは「あ…あれ?もう帰ってきたんですか?16階は?」と言いながらへこへこと頭を下げて挨拶をしてくる。
俺が「16階行きはまた後日だよ」と言うとサンバグは「じゃあ何の御用で?」と聞いてきた。
「16階への階段で宝石を手に入れたろう?」
「いえ?あっしはそんなもんは手に入れてません」
サンバグはシレっと言う。
本当に持っていない訳はないが一瞬疑ってしまう。
俺が次に何を言おうかと思っているとルノレが「あれを返して、あれは私たちにだけ必要なものなの!」と言うとサンバグはニヤッと笑って「へぇ、あっしはそれがどんなもんかは知りませんが、あの三角のがお嬢さんたちに必要なものなら取引したいものですねぇ」と言った。
証言ゲット。
俺が「俺達は一度も三角って言ってないぜ?」と言うとサンバグは口元を押さえて「あ!!?」と言い慌てるが、カムカが真剣なまなざしで「お前には無価値なんだから交換してくれ」と言うとサンバグはカムカを見て再度ニヤけた。
「お前さん、どっちが上かわかってんですか?」
「なんだと?」
急に高圧的になったサンバグの言葉にカムカの表情が変わるとサンバグが「馬鹿みたいにベッピンはべらせて奈落探索なんてしてるから頭が緩くなるんだって言ってんだよ。あの宝石は俺が持っている。だとしたら立場は俺が上だ。アーティファクトでも女でも差し出せって言ったら差し出すよな?」と言って嫌らしい目でマリオン、ノレル、ルノレ、フィルさんを見る。
コイツ、調子に乗ってやがる。
一層の事ぶん殴ろうと思った時にマリオンが「あーあ、言っちゃった」と口を挟む。
サンバグはマリオンを見て「何だって嬢ちゃん?俺は別にお前だっていいんだぜ?」と言いマリオンにまで絡み始めたので、俺は殴ろうとした時、テツイが「もめ事は困ります」と言って止めてくる。
サンバグはもう一度ニヤリと笑って「そうそう、そこの城仕えのアンちゃんの言うこと聞いて大人しくしていろって言うんだよ。馬鹿が!」と言って俺達の事を馬鹿にした目で睨みつけてくる。
あー、殴りたい。
どうせ勇者様なんだから何やってもよくね?
人の家のツボ割ってもよくね?
箪笥からコインとか貰ってもよくね?
ムカつく男を一人ボロ雑巾に変えてもよくね?
そう思って居たらカムカが一歩前に出た。
そして俺達の方を見て「みんな、暴力は駄目だ」と言った。
サンバグはいよいよ紅潮した顔で「へへっ、そうそう。このデカいのの言う通りだぜ?」とか言っている。
殴りたい。
「コイツには言葉が通じないから、俺が最も得意とする言語でちょっと話そうと思う」
「へへへへ、そうそ…へぇ?」
「ちょっと傍目には誤解されそうな言葉だからな、酒場で飲み物でも飲んで休憩して待っていてくれ」
「ちょ…お…おい!待てよ」
不穏な空気にサンバグが青くなるがカムカは容赦なく「俺にはコイツが何を言っているかわからない」と言うとニコニコ笑顔でサンバグを見て「なので拳と言う肉体言語でみっちりと語り合おうと思う」と言う。
蒼を通り越して白くなり始めるサンバグが「ふざけんな、おい!宝石がどうなってもいいのか?」とカムカに詰め寄るがマリオンが割り込んできて「はじめまして、私通訳のマリオン。よろしくね」と言った。
カムカが驚いた顔で「マリオン」と言いながらマリオンを見るとマリオンは笑顔で「きっと命乞いとかカムカには伝わらないかもしれないから、私が通訳してあげる」と言う。
カムカが「え?いや、多分わか…」とわかるといいたいのにマリオンはカムカを無視してサンバグに話しかける。
「私は通訳のマリオンです。私の言っている事わかりますか?おじさんがもし宝石を持っていたとしたら、それがあるからおじさんの命は助かるの。宝石がどうにかなったら?おじさんは言葉が通じなくなって死んじゃうね」
可愛い仕草と甘えるような顔で話すマリオンだが殺気は駄々洩れでサンバグは震えながら「ひぃ…、や…やめてくれ。話し合おう」と言う。
「さっき話し合いを放棄した奴が何か言ってるぞ、通訳のマリオン」
「ごめん、私の語学力もまだまだみたい。私も肉体言語で話したい」
この提案にカムカが自分の拳とマリオンの拳を見ながら「え?俺の拳とマリオンの拳?」と聞くとマリオンはニコニコと微笑みながら頷いて「大丈夫、殴ればみんな一緒。カムカと私でお揃い。デートみたいで楽しい」と言うと2人で頷き、カムカとマリオンはサンバグを路地裏のさらに奥へと連れて行ってしまった。
正直俺もまじりたかった。
手持ち無沙汰になった俺達は酒場で飲み物を注文する。
フィルさんは旦那に操を立てるとか言って酒は飲まなかったがノレルとルノレは酒好きなのか喜んで飲んでいた。
二杯目を飲もうかと言う時にマリオンが呼びに来る。
「改心したって」
「それは良かった」
そう言って俺達はマリオンの後をついて行く。
マリオンの顔には返り血がついていたので拭くように言っておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
路地裏に行くと顔の形が変わったサンバグが「大変申し訳ございませんでした」と言いながら土下座で俺達を迎え入れる。
あの短時間でここまでやれるカムカとマリオンの手腕に驚く俺だったがカムカは容赦なく「何が申し訳ないんだ?言ってみろ」と問い詰める。
サンバグは震えながら涙目で「そちらの綺麗なお嬢さん方をイヤらしい目で見てしまいました。申し訳ございません」と言って額を地面に擦りつけながら謝るとカムカは「他には?」と言う。
サンバグは必死になって「はい!後は…」と言ったが長くなりそうなので俺は「もういい」と話を切る。
カムカが「いいのか?」と言って勿体ないと言うが正直先に進みたいのでサンバグの謝罪は無視をして「とりあえず商談と行こう。まずはお前の持つ宝石をくれ。話はその後だ」と言うとサンバグは「ハイ!」と元気よく返事をしながらポケットから三角の宝石を出してくる。
こんなもん、壁に埋め込まれていたら普通気付かないと思うのだがサンバグは気づいた。
腕は確かなようだ。
宝石を見たノレルは「私の宝石!!」と言って飛びつくとノレルが「私のではない。私ではない私のだ」と注意をするが顔はとても嬉しそうだった。
ノレルがルノレから宝石を受け取ると「私が私ではない私になる時が来た」と言って宝石を左手で持って自身の胸に着ける。
そしてルノレを見て「ルノレ」と呼びかけるとルノレも「うん」と返事をして手を出す。
ノレルは右手でルノレの左手と手を繋ぐと2人同時に声を揃えて「【アーティファクト】」と唱えた。
一瞬の光の後、二人の居た場所には紫色の髪をして紫色の服を着た女が立っていた。
女は「よし、実験は成功だ」と言って一人で満足している。
そのまま女は自身の手と腕を見ている。
右腕にはノレルの装備していた火、水、氷、雷のアーティファクトが、左腕にはルノレの装備していた風、解毒、回復、時のアーティファクトが装備されていた。
一通りのチェックが済んだのだろう。女は俺達を見て「初めましてだな。私はルル。かつてはこの国で最高のアーティファクト使いだった女だ」と名乗った。
紫色の女、ルルはそのままサンバグの所に近寄る。
サンバグは目の前の出来事に対応できずに居て「へぇ?」と情けない声まで出している。
ルルはサンバグを睨みつけて「下郎が、よくも私のアーティファクトを盗んでくれたな。これは天罰だ。【アーティファクト】」と言うと、右手から放たれた火、水、氷、雷が一斉にサンバグを襲う。
突然の攻撃にサンバグが「ひぎぃぃぃ!?」と声をあげて苦しむがルルは「まだだ【アーティファクト】」と言うと左手に装着した風のアーティファクトで小石を巻き上げてぶつけてから時を止めて最後に回復をした。
あっという間の出来事にフィルさんが「凄い…」と思わず口にするとルルは「凄い!?そうだろ!そうなのだ!!これが私の実験の成果!一度身体を二つに分けて再度身体を合わせる事でアーティファクトを多重装備してしまう方法なんだ!!」と言いながらフィルさんに近寄って嬉々として語り始める。
この出来事を見たテツイが驚いた顔でルルを見て「あなたが国一番のアーティファクト使い…」と言った。
ルルはテツイを見て「そうだ。私が国一番のアーティファクト使いだ」と言って胸を張る。
だがルルはすぐに「あ、忘れるところであった」と言うと時のアーティファクトを解除しサンバグを自由にする。
サンバグの奴は完全にパニックになっていて「い…今のは何だ?ひぃぃ!?」と言って怯え震えている。
ルルはサンバグの前に立つと高圧的に見下ろしながら「気にするな。怪我は治っているだろう?」と声をかける。サンバグは一瞬の間の後でルルの言葉が届いたのか身体をさすってみて外傷も何もない事に気付くと「へぇ?ほ…本当だ」と言って驚いていた。
「この男ツネツギだったかな?言っておったろう?取引だと。これを受け取れ」
そう言うとルルは一枚の紙とペンを取り出してスラスラと何かを書いて渡す。
紙を受け取ったサンバグが「こ…これは?」と聞くとルルは「奈落の奥から出口までを一瞬で移動する人工アーティファクトだ。私が造ったんだ。擬似アーティファクトと違って「大地の核」を使わないんだぞ!凄いだろ!な?凄いだろ!!」と言いながらサンバグに詰め寄る。
サンバグはルルの顔と紙を見て「はい、そりゃあもう」と答えるとルルは満足そうに「この宝石は私が私の為に造ったアーティファクトだから私にしか意味がない。だがそれは奈落に行くものなら全てが使えるアーティファクトだ。必ずお前の助けになろう」と告げるとサンバグはお礼を言いながら走って行ってしまった。
俺達はこの後どうするのかと思っているとルルが「さて、私はノレルとルノレから全てを見ていたから大体状況はわかって居るが、お前たちは何が何だかさっぱりだろうな。よし、今から城に行って全部説明をしてやる。着いてこい」と言って先頭を歩き、俺達はその後をついていき城に向かう。
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