第71話 国境の街での再会。

マリオンが倒れたアーイを見て「折れた剣の再生なんて無理しすぎ。戦闘前でも倒れずに済んだか…」と言っている。

そのアーイの手には元どおりになったショートソードが握られていて折られた剣を再生してまだ戦おうとしたのだろう。



カムカが「で?どうすんだガク?」と俺に聞いてくる。

どうすんだはアーイのことだ。


「城に帰らせる。アーイはなまじっか強いから周りはどうしてもアーイを頼る。だがアーイはノース相手では満足に戦えない。それで仲間もアーイ自身も傷付く。だから帰らせる」


俺の言葉に「それで納得するならいいけどね」と言ったのはマリオンだ。

彼女は含みのある言い方をする。

俺はアーイを見て「納得はしなくていい。上に立つ者として全体を見てアーイを外しただけだ」と返す。


「途中で起きて追いかけてくるかもよ?」

「その前にノースを倒せばいい。その先はその時になって考える」


「そう…。そうね、でもアーイの気持ちは本物だと思うから辛いのよ。きちんと受け入れてあげてよね」

「ああ、わかっている」


俺たちはアーイを城に戻る兵に任せて前進をする。


少し歩くとカムカが「ガクはそれだけ強いんだから「アーイは俺が守る!」とか言うのかと思ったぜ」と話しかけてくる。一昔前ならそうも思ったが世の中は広い。上には上がいる。「いや、この前サウスの王様を見て懲りたよ。俺に出来る事なんてそう無いからな。そんな事は言えないさ」と返事をして笑った。


俺の返事にカムカが「ガクは大人だな」と言って俺の肩に手を置く。

カムカの方が俺より年上なのだがな…。


しばらく歩くと程よく休める場所が見つかったので今日はここで休む事にした。

焚き火を囲みながら俺は「すまなかったな」と言ってカムカとマリオンに謝る。


「んあ?何がだよ」

「後衛を城に戻した事、アーイとの戦闘で時間を取った事だ」


「そんなもん問題にもならねえよ。俺とマリオンはやれる。お前もやれる。そうだろ?」

「ああ。頼りにしている」


俺の言葉にカムカは「任せろ」と言いながら笑う。

この笑顔にマリオンが惹かれたのだろうと俺は思った。



翌朝、国境の街に着いた。

本来ならノースとの交易に使われていた街だ、大きさはかなり大きい。


「作戦は?」

「そろそろ後続の部隊が来るはずだ、その前に数を減らす」


「後続が来なかったら?」

「その時は無理を感じた所で撤退する」


「問題は「龍の顎」だな」

「ああ…」


そうだ、街の兵全てが悪魔化をしたら話にならない。

そんな怖い考えを払拭したくて首を振って「さあ、行こう」と言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


私が目を覚ますと何処かの部屋に居た。


なんだここは?

見知らぬ天井だ。


起き上がりつつ自身に起きた事を思い返す。


そうだ…私はショートソードを直そうとして意識を失った。

だが、そうなるとここはどこなのだろう?

ウエストの城にしては建物の作りが質素だ。

何処かの街か村に立ち寄ったのか?


そう思っていると見張っていたかのようなタイミングで「お目覚めですか?」と言いながら兵士が入ってきた。

その姿はノースの兵士だった。


状況が理解できない。

だからこそ冷静になる必要がある。


私は慎重に「お前は?」と聞くと「私は国境の街に駐留している部隊の隊長で御座います。昨日、斥候部隊とウエストの部隊が戦闘状況になりました。その際、兵士3人を倒しましたが1人は戦闘前に逃亡。戦闘後に辺りを調べた所、姫様を発見しましたので保護をさせていただきました」と返された。


なんと、自分はあの後ノースに捕らえられて居たのか。


「ここは?」

「はい、ここは国境の街にございます」


奇しくも目的地に着いてしまったと言うことか、そして、この静けさはまだガクの襲撃は始まっていない。


状況を整理していると兵士が「しかし驚きました。ウエストに連れ攫われた姫様があの様な所にいらっしゃるとは…、まさかウエストから逃げているところをあの4人に捕まったという事でしょうか?」と話しかけてくる。


私は首を横に振り「いや、それよりも戦闘で逃げ帰った兵達は居ないか?」と聞くと「は?なぜ姫様がそれを?それではあの者達が言っていたウエストと姫が一緒に居たと言うのは本当の事だと言う事でしょうか?」と言い空気感が変わる。


…選択を誤ったかも知れない。

だが、無駄に嘘などつきたくない。


「そうだ、今私は謀反を働いたザンネを止めて民を導くためにウエストと共にいる」


私の回答に兵士は「おいたわしや…」と言って涙を流した。


「なっ!?」

「姫様、ザンネ様がおっしゃっていた通り、裏切り者のノース王の手引きでウエストに連れ攫われた上に姫様は騙されていらっしゃるのですね」


何を言っている?

ノースではそう言う話になっているのか?


「何!?お父様が裏切り者だと?」

「はい、ノース王は戦況が芳しくなくなるとノースと姫様をウエストに売り渡して自らの保身に走ったのです。それを察したザンネ様が会談の場で看破した所、ウエストがアーティファクトの力で姫を誘拐したと聞き及んでおります」


ザンネめ!

謀反を企てるだけではなくお父様の事を貶めるなんて許しがたい。


「いや、真実は違うぞ!」

「いえ、私のような者にはその話は不要。全力でザンネ様がいらっしゃるまでここで姫をお守りさせていただきます」


ザンネが来る?

ここに?


「ザンネが来るのか!?」

「はい…昨日、姫を保護した際に急ぎとして風のアーティファクト使いを伝令に出しております。風のアーティファクト使いの移動速度は群を抜いております。もう城に着いてザンネ様に姫様の事を伝えていると思われます」


まずい…、ガクとカムカにマリオンの3人に対して街に駐留している兵だけではなく、更にザンネも来るとなると勝ち目がない。


私はどうすれば良いのだ?

考えた私は話を受け入れてザンネと話をして討ち倒す事も視野に入れる。


「わかった…、ではザンネが来たら事の真相を聞かせて貰うとする」

「わかっていただけましたか!それはザンネ様もお喜びになるでしょう」


安堵の表情を浮かべる兵士は「それでは私はこれで」と言って下がろうとしたので私はそれを引き留める。


「何か?」

「いや、逃げかえってきた兵と話がしてみたい。駄目か?」



考えこんだ兵士は「……問題ないかと思います。すぐに連れてまいります」と言って部屋を後にする。


数分して、昨日ガクと剣を交えた兵士が後ろ手に縄を着けられて部屋に通された。


兵士は目を丸くして「姫様、なんでこんなところに?」と聞いてくる。

私が「色々あってな、お前はどうしてそんな事になっている?」と聞くと兵士は自嘲気味に「ははは」と笑い、「いえね、昨日言われた通り、部隊に戻って「龍の顎」の危険性を訴えたらコレですよ」と言った。


「残りの3人は?」

「俺と同じです。逃げ帰ってきて「龍の顎」の危険性を訴えたら捕まりました」


「そうか、もし戦闘になったらお前はどうする?」

「どうなるんでしょう?あんな悪魔化なんてモノを見せられた後じゃ、もうアーティファクトを使って戦えません」


兵士の言葉に「あら、戦うのよ」と聞こえてくると部屋の入り口にあの魔女が居た。

兵士は初見の魔女を見て「え?」と言うと魔女は「あなたね、部隊で「龍の顎」の危険性をペラペラ話しちゃった子って言うのは…」と言ってニヤニヤと笑う。


「お前、その兵に何をするつもりだ!」

「あら、お姫様お久しぶり~、やっとノースに帰ってきたのね。ああ、何をするつもりか?って言わなきゃわからないかしら?もうそこまで最終王子とサウスの2人が来ているの。折角だから戦ってもらわなきゃ」


魔女はそう言うと真っ赤な宝石のような鉱石のようなものを取り出した。


「それは!?」

「これ?これはね「悪魔のタマゴ」よ。お姫様」


「悪魔のタマゴ」…前にカムカが言っていた人や動物、魔物を悪魔に変えてしまう人工アーティファクト。それを使って強制的に人を悪魔にするつもりか?


私は声を荒げて「やめろぉぉっ!!」と言うと魔女は嬉しそうに「あら、姫様はこれが何か知っている口ぶりね」と言う。


「そう「龍の顎」を使わない、戦えない兵士なんて無駄だもの。だからこの悪魔のタマゴでね。強制的に悪魔化してもらうの」


兵士はようやく会話の意味を悟って「ひっ!?」と言いながら後ずさりをしたが魔女は「逃げないの」と言って兵士の手を縛っている縄を引く。


「や…やめてくれぇ!!」

「そういって止める人っているかしら?もうね、色々片付けたくなっちゃったのよね私」


魔女は男の叫びを無視して私に向かって話し始める。


「「悪魔のタマゴ」の人体実験でしょ。後はね、お姫様が生きているとザンネが今一つだらしないって言えばいいのかしらね?それとも踏ん切りがつかないって言うのかしらね?思い切りが悪くなるのよ」


魔女は「だからね…」と言うと兵士の服を剥いで「悪魔のタマゴ」を胸に押し付けて「【アーティファクト】」と唱えた。


魔女が唱えた途端、「悪魔のタマゴ」は光を放ち兵士の胸に食い込む。見ているだけで痛々しい。兵士は痛みから「ぐぅぁぁぁっ」と声をあげている。


私は魔女に向かって「やめろ!ノースの兵を傷つけるな!!」と叫ぶが、魔女は「だから、やめろって言われてもやめないわよ」と呆れ顔で言う。


「あ、さっきの続きだけど、姫様が生きているとザンネが今一つ踏ん切りがつかないの。だからここで死んで」


魔女はそう言うといやらしい笑顔を私に向けて「悪魔化した兵士が暴走して姫様が巻き添えだったらザンネも怒らないと思うのよね。それに思い切りが良くなって一気にウエストに攻め込んじゃうかもしれないし」と言うと「いい考えでしょ?」と続けて魔女が笑う。


「じゃあね、お姫様。私はノースの城に帰るから。その子…大体後10分で孵化するようになっているから。せいぜい頑張ってね。それと悪魔のタマゴは孵化するまでほとんどの攻撃が効かなくなって死ねなくなるから。じゃあねー」


魔女は言うだけ言うと消えた。



私は苦しんでいる兵の傍によって「大丈夫か!しっかりしろ!!」と声をかけると兵士が「大丈夫じゃ…ないですね」と返事をする。



「くそ、何とか引き剥がせないのか…」

「なんか、どんどん胸の奥に食い込んでくる感覚があるから無理ですね」

私は自国の兵が目の前で苦しむ様、何も出来ないことに泣いてしまった。


「姫様…泣いてくださるんですか?」

「当たり前だ!自国の民が苦しんでいて泣かない王族が居てたまるか!!」

私の言葉に兵士が俯いて黙ってしまうので「どうした!しっかりしろ!!」と急に言葉を失った兵士に声をかける。

兵士はゆっくりと「へへ、俺達みたいな使い捨て相手に姫様は優しいですね。俺は命の使いどころを間違ったみたいだ…」と言った。


「何を言っている!?せめて死ぬならノースの大地で死なないでどうする!ここはウエストだぞ!!」

「それもそうですね。でもここで姫様まで死ぬ必要はない。俺の…今初めて芽生えた忠誠心を見届けてくれませんか?」


「何を言っている?」

「もしも、悪魔化しても俺に心が少しでも残ったら、姫様の前にこの建物を破壊して逃げ道を作ります。心が無くなるまでにせめてもの行動に出ますから姫様は逃げてください」


「お前!無理をするな!!」

「これくらいしなきゃ、姫様の涙に報えない…俺の意地と忠誠心。見届けてください」


兵士がそう言うと10分経っていないのに体が赤く光り、兵士の居た場所に赤い体毛の悪魔が居た。


悪魔は「…………うぅ………」と苦しそうなくぐもった声をあげた。

私が「おい!」と声をかけると「離………れ……て……」と聞こえる。


確かに離れてと言った。

私は言われた通り離れると兵士が大きく振りかぶって壁を殴る。

殴られた壁は見事に吹き飛んで、私の前に外の景色が広がった。



私は「ありがとう。お前の忠義に感謝する!!」と告げると壁の穴から外に出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


もう少し後続部隊を待っていたかったのだが、急に爆発音のようなものが街から聞こえた。

そしてその後に続く悲鳴。

俺は目を凝らし街の様子を伺うがロクに見えてこない。


「なんだ!?何が起きた?何かが起きた?」


くそっ、ここからでは何も見えない。


俺は待ちの状況がわからずに苛立っているとマリオンが「カムカ、手伝って」と言うと助走を付けてカムカに走り寄る。


カムカが驚きの声で「お…おい、マリオン?」と言った時、マリオンが「カムカが台になって私を飛ばすの」と言うとカムカが「そう言うことか!」と言いマリオンに反応する。


頷いたマリオンが「行くよ」と言って飛ぶと、カムカがマリオンの足を両腕で天に向かって打ち上げる。

カムカの「唸れ筋肉!!」の声に合わせてマリオンが更に高く飛ぶ。上空に飛び上がったマリオンが「!!?マズいよカムカ!」と言って降りてくるのをカムカがキャッチする。


この状況のマズいは確実に街に何かがあったことになる。カムカより先に俺が「どうしたマリオン?」と聞くと「ガク、街の北側で赤毛の悪魔が暴れている。暴走しているみたい!ノースの兵を襲っている」と言った。


「何!?悲鳴はなんだ!?」

「街の人が悪魔と兵士の戦闘に巻き込まれてる!」


くそっ、ノースの奴ら住民の避難誘導をする気は無いのか!?


「ガク!どうする!?」

「戦闘もするが優先は避難誘導だ」


俺はそう言いながら街に入り、「カムカとマリオンは街の西側を、俺は東側に行く!南側に避難誘導する事を優先してくれ!そろそろ後続の部隊が来るはずだ!」と指示を出す。

カムカは西側を見ながら「わかった!」と言い、マリオンが「アーイが居ないんだから無理しないでよ」と言うと2人は西側に行く。


俺も走って東側を目指す。

戦闘になる事も考えてはいるが剣は抜かない。

住民たちが不安がる。今はとにかく混乱している住民を誘導する。


「街の南側から外に出ろ!

間もなくウエストの兵士が来る!

そこで保護してもらえる!!

女と子供、それと怪我人や病人、老人を優先的に逃せ!

男はその後だ!

歩けないものは男が担いでやれ!」


俺の言葉に女に肩を貸した男が「あんたは?」と聞いてくる。

俺は首を横に振って「俺は良い!俺はここから北側を目指して逃げ遅れた人間を助ける!まずはお前達が逃げろ!」と指示をしながら再度声掛けをしながら街の奥を目指す。



とにかく住民の誘導に専念する。

東側の逃げ遅れに関してはあらかた片付いた。

次に北側を目指す。


北側が近付く度に音が大きくなる。

悪魔が暴れているのだろうか?


気にはなるが、今は逃げ遅れた住民の避難誘導が先だ。

俺は声をかけながら街の最北を目指す。



「ガク!!」


背後から俺を呼ぶ声。

俺はこの声を知っている。


だがまさか、何故ここに彼女が…

俺は振り返り彼女を見た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


悪魔化した兵士に促された私は壁の穴から外に出る。


悪魔化した兵士は「自分で…居られる間に…時間を…稼ぎます。お逃げ…ください」と言うと壁に続き建物を殴りつけて破壊する。


この音と衝撃で扉の向こうからは「何事だ?」「姫様の部屋だ!」という声が聞こえてきて扉を開けた兵士達は悪魔化した兵士を見て驚いている。


「これ…、アイツの言っていた悪魔化じゃないのか?」

「腕に縄が残っているぞ!やっぱりアイツだ!」

「アーティファクトを使い続けると悪魔化するって話は本当だったのか!?」


兵士達は口々に悪魔化した兵士の憶測を叫び混乱している。

この状況でも隊長の男が「姫様は?」と言って私を気にして探す。


壁の外の私に気付いた隊長が壁の穴から出ようとしながら「姫様!こちらに来てください!ザンネ様がいらっしゃるまで我々が守ります!」と声をかけて迫るが悪魔化した兵士は「ガァァァッ」と吠えながら隊長を殴り飛ばす。


隊長は上半身が千切れ飛び壁に当たる。

その姿を見た残りの兵士達はもう滅茶苦茶だった。


剣を抜いて戦おうとする者。

逃げる者。

剣を抜いた者の悪魔化を危惧して止める者。


その間にも悪魔化した兵士は壁を殴り建物を破壊する。


建物の破壊音に驚いて外に出て来た住民が悪魔化した兵士を見て驚いて逃げ出し、騒ぎはますます酷くなって行く。


まるで地獄絵図だ…


悪魔化した兵士は止まることなく建物を破壊している。

破壊された壁の向こうに見覚えのある剣が見えた。



「あれは!?」


そう、あれは私の剣。

私は剣に駆け寄り回収をする。

そこには光の剣もあった。


ひとまずこれでこの場を離れられる。

そう思った私は街の北側を目指す。

もし、逃げる兵達が混乱していたら私が主導して無事にノースに帰らせよう。


北側に向けて走り出した時、背後から聞き覚えのある声がする。


「街の南側から外に出ろ!

間もなくウエストの兵士が来る!

そこで保護してもらえる!!

女と子供、それと老人を優先的に逃せ!

男はその後だ!

歩けないものは男が担いでやれ!」


この声を私はよく知っている。

心地よい声、私は行先を変更して声のする方に向かう。




彼が居た。

彼はこの国境の街を奪還するための戦闘よりも住民の避難誘導を第一に考えて動いている。

もし、私が同じ立場なら避難誘導は別の者に任せて戦闘を行っていたと思う。


これが彼と私の違い。

だから彼は私に城に帰れと言ったのかも知れない。


彼の戦いは守る為のもの。

その中には私も含まれているのだろうか?


出来るなら私は彼の横で彼の戦いを支えて行きたい。

その戦いを私にも手伝わせてくれ!!


私は精一杯の声で「ガク!!」と呼ぶ。


彼は動きを止めて驚いた顔で私を見て「アーイ!?何故ここに?」と聞いてくる。


私を連れて居た後衛部隊が斥候と会敵した話。

1人を残して全滅し、私は保護という形でここに居る事。

魔女が現れて兵士を悪魔化させた事、その兵士が最後の力で私を逃してくれた事を伝えた。


「そんな事になって居たのか…」

「だが、この状況のお陰で私はガクを助けられる!ガクは住民の避難誘導をするのだろう?私も手伝う!!」


ガクは何かを言いたそうにしながら少し悩んだ後私を見て「ああ、頼む」と言った。


頼まれた。

ガクに頼まれた。

私は嬉しくなり、子供のようにはしゃいでしまう。


「何だ?アーイ。嬉しそうに」

「ガクに頼まれたのだ!嬉しいさ!さあ、行こう!」


そう言い、北の外れまで住民の避難誘導をしながら走る。

ノースの兵達は避難誘導どころでは無かったのだろう。

まだ家の中には数多くの住民達が居た。


一通り避難誘導は出来ただろう。


「これで、西側を頼んだカムカ達と合わせれば街全体はカバー出来たな」

「ああ。それは良かった、後は悪魔か…」


まあ、カムカ達と合流出来れば前回同様に勝てるだろう。

その間にも北の出口からノースの兵達は街を放棄して逃げ始めていた。


その中の1人がとんでも無い事を口走っていた。


「西側に現れたウエストの奴らと戦って居た仲間が悪魔になっちまって、俺は怖くて逃げて来たんだ!他の奴らは喰われちまった!!」


私は「おい!待て!!」と言ってその兵士を慌てて捕まえた。

こちらを睨みつけて「何だよ!悪魔が来ちま…」と言った兵士は「姫様?どうしてここに?」と聞いてきた。


「そんな事はどうでもいい!西側にも悪魔化した兵士が出たのか!?」

「は…はい。紺色で鎧姿の女と筋肉男がいたから戦っていたら仲間の1人が悪魔化して、暴れ出して動けなくなった仲間を食っちまったんです!」


カムカとマリオンだ…

西側は戦闘になっているのか…


「悪魔の体色は?」

「はぁ?」


「いいから答えろ!」

「だ…橙色でした…。姫様も早く逃げましょう!」


橙色…赤色より一段階上の強さか…

だが、カムカとマリオンなら時間はかかるかも知れないが問題なく倒せるだろう。


「私はまだ逃げない。それよりもこの北側に近い兵舎になっていた建物があっただろう、あそこの兵士も悪魔化して暴れて居る」

「えぇぇぇぇっ!?それならなおのこと姫様もお逃げに…」


「いや、逃げない。いいか、悪魔化の原因は「龍の顎」と「悪魔のタマゴ」だ。お前、「龍の顎」は?」


兵士の腕を見ながら質問をすると兵士は「私は初回生産分に間に合わなかったので次回の話になっています」と言った。


「そうか、くれぐれも着けるな。「悪魔のタマゴ」は赤い宝石みたいなアーティファクトだ、それを付けられたらあっと言う間に悪魔化するからな。ノースに帰ってからも「龍の顎」は着けるな!「龍の顎」を付けた兵にはアーティファクトさえ使わなければ悪魔化しない事を伝えろ」


そう言うと兵は「わかりました」と返事をして逃げて行く。


よし、これでやれる事はやった。


私が「ガク…」と呼びかけるとガクは「覚悟はあるか?」と聞いてきた。

私は頷いて「ああ、最初に悪魔化した兵士の忠義に報いるためにも私が止めたい」と返す。


「そうか、なら俺も一緒に行く。今回はカムカとマリオン抜きだがやれるか?」

「ああ、任せてくれ」


そう言って私たちは悪魔化した兵士の元へ急いだ。

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