第72話 俺は目の前で女を攫われてヘラヘラしていられる男じゃない。
まさかここでアーイと再会する事になるとは思わなかった。
自分で追い返しておいて言うのもなんだが、この状況では助かるとしか言いようがない。
恐らく今の状況はこうだ。
カムカとマリオンは西側で悪魔化した兵士と戦っている。
後続のウエスト兵達は南側の出入口で避難した住民の保護にあたって居るだろう。
そうなるとここに近い兵舎で暴れて居る悪魔を止めるのは俺とアーイと言う話になる。
あの悪魔と二人で挑むと言うのが何とも恐ろしいのだが、そんな事は言っていられない。
ここで止めないとウエストにどんな被害が出るかわからない。
俺たちは兵舎へ向かうと、そこには依然として建物を破壊する悪魔の姿があった。
俺はその行動を疑問に思い「建物ばかり…?」と言うとアーイは嬉しそうに涙を流して「忠義だ…」と言った。
そうか、先程アーイが言っていた逃がすために建物を壊してくれた兵士の話。
恐らくこの兵士は最後の強い思い、アーイを逃がすために建物を破壊する事を、自分を失ってもなお行なっている。
「見事だ…ならば後は送ってやる。アーイ、やれるな?」
「ああ、私の手で救う!」
アーイはショートソードを構え左に斬り込む。
俺も後を追うようにロングソードで右に斬り込む。
刃が通るには通ったが硬い。
この前の悪魔とは硬さが段違いだ。
そして痛みで本来の破壊衝動に目覚めたのだろう。
目の色が変わりこちらを睨む。
「硬いな…」
「「龍の顎」と「悪魔のタマゴ」の両方を装備しているからか?それとも「悪魔のタマゴ」で悪魔化したからかも…」
俺が「成る程…、とりあえず前回と違うと言うことか…」と言っている間にも悪魔は殴りつけてくる。スピード自体は避けられない速さではないので下手にカウンターを意識しなければ問題無いだろう。
悪魔の体表の硬さにアーイが「ガク!光の剣で戦おう!」と言った。
「倒れる前に倒せるか?」
「それしかない!さもなくば私が光の剣でガクはそのロングソードでも構わない」
俺もその組み合わせやその逆も考えた。
それ以外ではカムカ達がこちらに来るまで耐えることも考えたが向こうの体色は橙色と言っていた。耐久力は向こうの方が上だ。
「いや、短期決戦だ。2人で斬り伏せるぞ」
「ああ、私たちの本気でこいつを送ってやる」
そう言って俺たちは剣を納めて光の剣を構える。
「行くぞ!」
攻める場所はさっきと同じく、俺が右でアーイが左。
前回の悪魔ほど刃は通らないが、満足の行く内容で刃が通る。
この先は悪魔が俺を狙えば俺は回避に専念してアーイが徹底的に斬り込む。
アーイが狙われればその逆をする。
延々とその動きを続けた。
体色はほぼ灰色に近づいたので後少しだが、消耗が激しい。
アーイだけでもショートソードに戻させるか?
いや、それで持久戦になってもこの消耗具合では保たないかも知れない。
疲れもあるがつい色々と考えてしまっているとアーイの「ガク!」という俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
!!?
一瞬の判断ミスだった。
悪魔の左腕が俺に当たり、俺は壁まで吹き飛ばされる。
「がっ!!?」
くそっ、腕が伸びきっていたのが幸いして意識を失うまでのダメージではないが、十分に痛い。身体が動くまで少し時間がかかる…
殴り飛ばされた俺を見てアーイが「よくもガクを!」と言って悪魔の前に立ち、止まらぬ連続攻撃を加える。
これが剣姫の本気…
強い…
だがアーイももう限界が近いはずだ、俺が立って代わらないとマズい。
「はぁぁぁっ!」
アーイの剣舞が悪魔を斬り刻む。
最後の攻撃で完全に体色が灰色になった悪魔は動かなくなった。
「倒せた…?」
アーイが息も絶えだえにそう言ってこちらを見て泣きながら笑う。
まだ立てぬ俺が「アーイ…助かった」と言うとアーイは「だから私を連れて行けと言ったのだ」と言う。その顔はやり切った顔、吹っ切れて清々しい顔をしていた。
「済まないガク…」
「なんだ?」
「力が抜けてきた…、擬似アーティファクトの限界がきた。倒れる」
「何!?」
アーイがそう言うなり俺の元に倒れ込んできた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
倒れ込んできたアーイを受け止めるために痛む身体をおして前に出る。
だが、アーイは倒れてこなかった。
俺とアーイの間に立ち、アーイを受け止めた奴が居た。
「お前は…ザンネ!」
「やあ、最終王子。アーイと2人がかりとは言え悪魔化した兵士を倒すとは流石だね」
ザンネの意外そうで楽しむような、生意気な表情。
クソっ、タイミングが悪い。
俺の身体はまだ動かない。
それに何処から湧いて出た?
「ん?何処から現れたという顔だね。この靴さ…「瞬きの靴」を神の使い様が人工アーティファクトで作ってくださった試作品。お前達がノースから逃げるのに使ったのを見て神の使い様がその仕返しにと作ってくださった。人工アーティファクトだから回数限定なのが欠点ではあるが城と往復出来れば問題無い。いずれ大量生産が出来たらノースの兵達に履かせて世界中何処にでも兵達を送り込めるようになる」
クソっ、また厄介なものを。
「まあ、いい。今日はアーイを取り返せたし俺は帰るよ。本当は最終王子の首も欲しいところだけど欲張り過ぎは何事も良くない。アーイを攫いにノースまで来るかい?俺はアーイとノースの城に居る。俺が王でアーイが妃。そして最終王子…お前は倒すべき敵だ。お前を倒してアーイの目を覚ます」
そう言うとザンネはアーイを抱き抱えたまま消えた。
立ち上がる事すらできなかった俺は「クソが!」と言って地面と殴る。
しばらくして身体が動くようになった頃、カムカとマリオンが俺の元に来た。
カムカが心配そうに俺を見て「遅くなった!西側で悪魔化した兵士が出てよ」と説明を始めるのを遮って「知っている。逃げるノースの兵達から聞いたよ」と返す。
先に飛んで街の状況を見ていたマリオンは悪魔が居ない事に「こっちの悪魔はガクが1人で倒したの?凄くない?」と聞いてきたが俺は自分の不甲斐なさを恨みながら「いや、アーイと2人がかりだ」と言った。
「アーイ!?」
「何でアーイがここに居るの?」
俺はアーイから聞いた事、2人がかりで悪魔を倒した事、そしてザンネに連れ攫われた事を説明した。
「そうか…。遅くなって済まない」
「いや、そちらは一段階強い奴と聞いていた。カムカ達が無事で何よりだ。今はとりあえず南側の出入口に行こう。ウエストの兵と話をしなければならない」
街の南側から外に出るとウエストの兵が住民の保護をしていた。
部隊長が現れて昨日城に帰した砲兵が1人を残して全滅した事、アーイを守りきれなかった事を報告してきた。
その事は聞き及んでいたので相槌を打って済ます。
その後、通信球を3つ程渡してきた。
「これは?」
「ペック殿からです。1つは王と繋げたそうです。もう1つはカムカ殿達と繋げたもの。そして最後の1つはウエストの各部隊長達と繋がっております」
「どれが王に繋がっている?」
「こちらの赤いしるしが付いているものです」
俺はわかったと言い、部隊長に回復のアーティファクト使いを寄越すように指示をした。
兵士が来るまでの間、俺はカムカとマリオンに図々しい願いをする。
「カムカ、マリオン…。済まないが俺の願いを聞いてくれないか?」
「何だよガク?」
「俺はこれから単身ノースの城を目指したい。アーイをザンネから取り戻す。だが…俺が居なければウエストは…兵達は…。だから2人に兵達を任せられないだろうか?」
俺の言葉にマリオンが目を丸くして「1人で城って…本気?」と聞いてくる。
本気も本気だ。
「ああ、目の前で女を攫われて悠長な事を言って居られるか。回復のアーティファクト使いから治療を受けたら直ぐに出る。身体強化の擬似アーティファクトもあるんだ、休み休み走っていけば明日の夕方までにはノースの城付近に着くだろう」
ノースの方を見ながら言う俺にマリオンが「アンタ…性格違くない?」と聞いてくる。
「こっちが本当の俺だよ。これでも普段はウエストの王子としての役割は理解しているつもりだ。俺は目の前で女を攫われてヘラヘラしていられる男じゃない。なり振り構って居られるか」
「へぇ、いいじゃない。私は応援する。カムカは?」
「俺もだ。だが仲間を無理に死地に追いやったりはしない。ガク、やれるんだな?」
俺は力強く頷いて「ああ、死ぬ気は無い。心配なのはウエストの兵達くらいだ」と言うとカムカはニカっと笑って「よし!俺と俺の筋肉、それとマリオンに後は任せろ!」と言ってくれた。
俺は頭を下げて「2人ともありがとう。感謝する」と礼を言う。
その後、俺は回復のアーティファクトで傷を癒してから父上の通信球を取り出して「父上、俺です」と声をかける。
すぐに父上の反応があり「どうした?」と聞こえてくると、俺はアーイが攫われた事、それを取り戻しに単身ノースの城を目指す事。
後顧の憂いが無いようにカムカとマリオンに後を任せた事を伝えた。
「それでお前は役目を果たした自由の身としてノース行きを認めさせたいと?」
「いえ、これたただのケジメです。父上のお許しを得られなくても俺はアーイを取り戻しに行きます」
「自分の想い人だからか?」
「当然です」
「ふふっ、言うようになった。好きにしろ。後は私がカムカ殿達とうまくやる」
何となくだが嬉しそうな父上の声を聞いた俺は子供の頃のように「ありがとう父上!」と言ってしまう。
「言うとすれば、死ぬな。そしてキチンと彼女を連れて帰ってこい」
「はい!」
俺はカムカ達に後を任せてノースの城までの食料等を揃えて旅立つ。
「済まない。後を任せる」
「いいって事よ。俺も可能な限りやっておく。明後日には国境線までノースを押し返す戦闘をする」
「帰りはノースの敗残兵に気をつけてね」
「最悪の時はイーストを目指せ。俺の仲間がイーストに居る。悪いようにはならないからよ」
「何から何まで済まない」
そう言って俺は夜の街を後にする。
アーイ、必ず助ける。
歩いていると通信球から声がした。
城から離れて居るので期待はして居なかったので声がしたのは驚いた。
「全部隊長へ、私はウエスト王だ。私は王子ガクに密命を与えた。明日以降の戦闘にはサウスの協力者カムカ殿とマリオン殿がガクの代わりに戦ってくださる」
俺が抜けた事を密命と言ってくれるか…
まあ、ザンネとの直接対決は免れないし、うまく行けばザンネを倒してこの戦争も終わりだ。
その直後、今度は別の声が聞こえてきた。
「俺だカムカだ。ツネツギ、聞こえるか?ウエストのガクって王子様が単身ノースの城まで攫われたお姫様を救いに向かっている。もし、城周辺まで行ければ城付近の連中を倒して欲しい。後、連中は「悪魔のタマゴ」まで使い始めた。モノフの助けが必要になるかも知れない。よろしく頼む」
カムカ…これが可能な限りという奴だな?
本当にありがたい。
所で声が全部入ってくるのはなんか変な感じだ。
俺は通信球を持ち出して「カムカ?」と声をかけるとカムカが心配そうに「ガク?どうした?」と返事をくれる。
「いや、声が全部入ってくるんだが、通信球とはそういうものなのか?」
「あ、お前止め方知らないのか…。自分に関係無い時は通信球握って「おしまい」と思えば終わるから」
俺は「そうか、わかった。色々ありがとう」と言って通信球をしまった俺は更に歩みを進める。
ノースの国境は越えた。
後は会敵する事なく城に行ける事を願うばかりだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ザンネが機嫌良さそうに女中達に何かを指示しているので「あらザンネ、ご機嫌ね」と声をかけるとザンネは紅潮した顔で「神の使い様!アーイを取り戻せました!」と言ってきた。
ザンネがウキウキと何があったのかと思えば、剣姫を回収してきたのね。
あの状況で生き残るなんてどういう事かしら?
「そう、それで姫は?」
「今は自室で寝ております」
生き残った剣姫に興味がわいた私は「ちょっと話がしてみたいから行ってくるわね」と言いザンネが余計な気を回さないように「大丈夫よ。逃げたお仕置きで殺したりなんてしないわよ」と言って剣姫の部屋を目指す。
姫の部屋に行くと、一人の兵士と一人の女中が控えていた。
私が「ごくろうさまー」と言うと、かしこまる2人。
ザンネは私をキチンと神の使いとして城の連中に紹介していた。
「姫様は?」
「まだお休みになられております」
まだ?
変ね。どういう事かしら?
「ザンネが姫を連れてどのくらい時間が経ったのかしら?」
「大体2時間といった所でございます」
そんなに?
まるで「奇跡の首飾り」を使った後の昏睡状態みたい。
私は原因を知りたくて「姫の持ち物は?」と聞くと女中が「こちらに」と言って別室から剣と鎧なんかを持ってきた。
「うん、見た感じ普通の剣と鎧…じゃない!?これ擬似アーティファクトだわ」
そうか、姫は擬似アーティファクトの限界を超えて昏睡しているのね。
それで合点がいったわ。
そして私は鎧に付けられていた二組の柄に気付く。
これ…光の剣を出すための柄ね。
あの子、マリオンの勇者の剣の模倣。
もうここまで来ると誰が裏で手を引いているのか嫌でもわかる。
マリオンの製作者ペック。
しかしペック自身にはウエストとのコネクションはない。
マリオンがウエストを目指していたことからマリオン経由でペックに依頼が行く可能性もあるが、あの老人の足で短期間にサウスの四の村からウエストの城まで行くのは無理がある。そうなればサウスの王様に話が行ってペックを「瞬きの靴」で瞬間移動させて擬似アーティファクトを用意させた。
子供でも考え付く話だわ。
忌々しい。
またあの子?
まあ、考えようによっては「悪魔のタマゴ」で悪魔化した兵士も擬似アーティファクト…光の剣にはまだ勝てないと言う事がわかったのは収穫だったけど、私の計画や実験を邪魔するものを私は許さない。
そろそろいい加減お仕置きが必要みたいね。
いきなりサウスの城に行って皆殺しとか、一の村から順に壊滅させるとか…
あー、それは駄目ね。抑止力にならないわ。
どうせやるなら見せしめに大事な人間を一人殺すの。
それでこれ以上邪魔をするなら全員を殺すってやらないとあの子絶対に邪魔してくるもの。
誰にしようかしら?
一番油断している相手が効果的よね。
あの料理自慢のお嫁さんに毒入りの食材を送り付けるとか…
ううん、毒は駄目。
あの「紫水晶の盾」が邪魔をするもの。
紫水晶?
あ、凄くいい事思いついちゃった。
私は駆け足でザンネの元に戻る。
駆け足をする私を不思議そうに見たザンネが「神の使い様?」と呼びかけてくるので私は立ち止まって「あ、ザンネ。私ちょっと出かけてくるわね」と言う。
素直に「はい」と返事をするザンネに「それで、まずはこれあげる」と言って私は二振りの突剣を渡す。
「これは?」
「私の作った人工アーティファクト。「革命の突剣」よ。もし剣姫を奪いに最終王子が来たらこの剣で八つ裂きにしちゃいなさい」
神の使いが授けるアーティファクトという事でザンネは「はっ!ありがとうございます!!」と気持ちのいい返事をする。
「いいのよ。ザンネはいつも頑張っているんだから、これくらいさせて」
私の言葉にザンネは頭を深々と下げて感謝をする。
馬鹿な子。
サウス王が持つ「革命の剣」がS級、その突剣は本来A級。
効果は6本の光の剣が瞬間的に飛び出す事。
注意点はね…「革命の剣」と同じで使用者の魂を削るの。
そこまで真似て作ったの。
「瞬きの靴」も一緒。
いずれ死んじゃうけど、大好きな姫様の為にならやれるわよね。
アハハハハ!!
「後、あの子が寝ているのは擬似アーティファクトを使いすぎたせい。多分一晩以上は目覚めないわ。今のうちにドレスにでも着替えさせて王子様のお出迎えをしなさいな。折角来るんですもの。屈辱的な場面演出は必要よ」
「はっ!ありがとうございます。必ず最終王子の亡骸を見せてアーイの目を覚まさせます。そして私とアーイで新たなノースを作りこの世界を征服してみせます!!」
私は「ふふふ、頑張ってね」と言って城を出る。
まずは地獄門の隙間からアレを取り出して。
国境の街に罠を仕掛けて。
アハハハ、楽しくなってきた。
お仕置きって実験と同じくらい大好きよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨晩、急にカムカから通信が入った。
内容は西の王子様がお姫様を救いに北の城を目指すから露払いをよろしく頼むという内容だった。
あのカムカのお願い事なので無碍には出来ないが内容が内容なので、断ってくれないかと思いルルとモノフに相談をした。
ルルは「カムカの頼みは聞くべきだろうツネツギ?」と言って乗り気だし、モノフは「悪魔のタマゴですか!あれは美味でしたな。私の刀も喜んでおりました!それがまた食べられるならば是非行きましょう!!」と剣の食い意地に頭の中まで乗っ取られていた。
がっくりとうなだれて面倒くさそうにしている俺にルルが「それにツネツギ、姫を助ける王子と言う状況で仲間が何もしないと言うのはどういう事だ?お前の世界にはそう言う話はないのか?」と目を燃やしながら力説してきた。
…ああ、ルルの奴は恋愛経験が皆無だが、そう言う乙女趣味な展開が好きなのか。
理想は自分が助けた王子が傷だらけになりながら姫を救い出してキスをするって感じの内容か…
あー、色々わかってきた。
それでイーストの口だけ王子が嫌いなのか。
理想の王子様とは雲泥の差だもんな。
俺がそんな事を思っているとルルが「ツネツギ?まさかとは思うが、今私を馬鹿にしなかったか?」と言ってきて、背後からでもジト目で俺を睨んでいるのがわかる。
「いえいえいえ、滅相もございません」
「それになツネツギ。もしかしたら王子と姫のハッピーエンドが、お前を元の世界に返してくれるのかもしれないのだぞ?それなのにお前は助けないのか?」
!!!?
そうか、そう言う可能性は考えていなかった。
何事にも首を突っ込んで解決してどれか一つが当たってくれれば俺は日本に帰れるかもしれない。
やる気スイッチの入った俺は「そうだな!それもそうだ!!よしやろう!ルル、モノフ!!」と言って俺達はイーストとノースの国境とノースの城との間で不穏なテントを見かけると襲撃しては水に食料とお金を頂戴する日々を脱してノースの城を目指した訳だが。
なんじゃこりゃ!!?
半日と少し歩いた俺達は小高い丘の上からノースの城を見ているのだが、見た事ない数の兵士が城付近に駐留していやがる。
「ほほぅ、これは随分集めたものだ。吹き飛ばし甲斐があると言うものだ」
「うむ、この中の何割が「龍の顎」と「悪魔のタマゴ」を所持しているのであろう?
刀がもう待ちきれぬと言っている」
ルルとモノフはウキウキと話している。
おいおい、マジかよ。やる気かよ。
俺達も無謀だがこの中に突入しようって言う王子も大概だ。
「ルル、モノフちょっと待て。カムカに連絡を取る」
俺が通信球を持ち出して「カムカか?」と聞くとすぐにカムカから反応がある。
「お、ツネツギ。今どこだ?」
「一応カムカのお願いを聞いてノースの城が見えるところまで来たけど物凄い兵の数だぞ。ここに王子が攻め込むって何人だよ?」
「昨日言っただろ?単身だ。夕方には城が見える辺りに居ると言っていたからよろしく頼む。ああ、この会話ができる通信球を持っているから「ガク」って言って呼びかけてみてくれ。悪いがこっちもちょっと色々あって、更にもう戦闘なんだ済まないがよろしく頼む」
カムカはそう言うと通信を早々に切りやがった。
それにしても単身だと!?
馬鹿か?
いや、普通の神経ならこの軍勢を見たら引くぞ?逃げるぞ?
それなのに会話が聞こえていたルルは「ほほぅ、単身で姫を助けるためにこの中に突入する王子か。嫌いじゃないな!」と言ってやる気になった。
嫌いじゃないって、お前…好きなんだろ?あこがれているんだろ?これが終わったら姫って呼んで冷かしてやろうかな。
俺は「ちょっと待て、その王子に連絡してみる」と言ってルルを制止して王子に連絡を取る。
少しすると、相手が通信に応じた。
「誰だ?」
「カムカの仲間のツネツギだよ。よろしく頼まれた」
「ああ、イーストの!助かる」と聞こえてくるのだが…何かずっと風切り音が聞こえてくる。
まるで暴風の中でケータイを使っているような、自転車とかバイクの後ろで通話しているような…走っているのかコイツ?
「いや、助かるじゃない!城の前の兵士の数が半端ないんだ!百どころじゃないぞ」
「そうか、だが俺は止まれない。アイツを諦める訳にはいかない」
会話を聞いて紅潮した顔で「おおぅ、王子の鑑のような男だ!」と言ったルルは「代われツネツギ!!」と言って俺から通信球を奪い取って「聞こえるかガク!私はルル。イーストの天才アーティファクト使いだ!」と名乗るとガクは「おう、よろしく」と愛想よく返事をする。
ルルが鼻息荒く「で、お前はどうしたい?どう助けて欲しい!?」と聞くと「俺は今一直線に城を目指している。出来たらその通り道の敵全てを薙ぎ払ってくれたら最高だな」と言い出す。
普通に考えてそんな都合のいい話があってたまるか。
だがルルは拒否も否定もせずに「任せておけ!後はお前の場所を確認せねば一直線が難しいな」と言うとガクが「俺か!?俺は今ウエストの方角から高速イノシシの背に乗って城に向けて驀進中だ!」と返してきた。
高速イノシシだと!?
あんな危険な魔物の背に乗るなんて一体どうやったんだ?
俺がギョッとした顔をしているとモノフが「ツネツギ殿!あれでは!」と言って西の方角を指さす。モノフの指さした方向に土煙が見えた。上に人は見えないが西側で響く足音が通信球から聞こえてくる。
本気で乗っているよ。
まだ城までは少し距離がある。俺はとりあえず「お前、どうやって乗ったんだよ」と聞く事にした。
「あ?飛び乗って全力でしがみついた。人間は女の為なら何でもできるって奴だな。で、どうだ。薙ぎ払えるか!?」
「誰にものを申しておる!!私はルル。天才アーティファクト使いだ!今からお前の道筋を照らしてやる!!ツネツギ!!」
まあ、そうなる。普通じゃない事も俺達ならやれる。俺は「あー、照らすのね。わかった」と言ってルルの背後に回りながら「んじゃガク。俺達も頑張るからお前も頑張れよー」と言うと「おう!助かる!!」と聞こえてきた。
ルルは専用のアーティファクトを捻り自身の姿をノレノレへと変える。
ノレノレは登場と同時に「ツネツギ、絶対に成功させるよ!!」と張り切っている。
「はいはい。ノレノレも王子と姫って好きなの?」
「ムッハー、女の子の夢だよ!!」
女の子って子?と思った俺は「いや、ルルって若返らなかったら四十…」と言いかけた所でノレノレが「言っちゃダメ!!」と言って懐から「創世の光」を取り出して構えると「行くよ【アーティファクト】!!」と唱えた。
イーストで使って以来、何回も使っているので失敗の可能性なんかは殆どない。
ノレノレ自体も使うたびにコツが掴めるらしく。発動までの時間が相当短縮された。
未だに問題なのは威力に身体が振り回されるので抑える係の俺が必要な事と、事後に身を守る仲間が必要な事だろう。俺が目配せをすると愛想良くモノフが「ルル殿を襲ってくる輩は私のご飯になっていただきます」と言ってニヤッと笑う。
「今日はノレノレもルルちゃんもノレルちゃんもルノレちゃんも皆燃えているから臨界突破が早いかも」
「え?それってそんな感じなの?その日の気分なの?」
「行くよー!!【アーティファクト】!!」
そう言うと「創世の光」から全てを焼き尽くす光が飛び出す。
光は地面に到着したのだろう。
光の当たった所から兵士が蒸発していき、次々に悲鳴が聞こえてくる。
「ガク!どうだ!!?」
「ツネツギ!感謝する!!これなら城まで行けそうだ!!通信終わる!」
後は俺達に出来る事はギリギリまで敵を焼く。
「ノレノレ、どうせだ城門も焼いておいてやれ」
「うん!!」
ノレノレは城門を焼き、その後はガクに迫る兵士たちを焼き払ってからルルに戻って「創世の光」を終わらせた。仕事を終えたルルは「じゃあツネツギ、モノフ、後は任せる」と言って座ってしまう。
「お前も戦えよ!!」
「ノレノレの反動で無理」
「来ます!!」
モノフの指した方向から沢山の兵士が押し寄せてくる。
「ああ、嫌だイヤだいやだ。あれだけ焼き払っても、まだこんなに居る。半分はガクの所に行ったんだろ?大丈夫かなアイツ」
モノフが「私がたらふく食べますから。ツネツギ殿はルル殿をお守りください!」と言って敵に突っ込んでいく。
まあ、モノフは対アーティファクト戦では無類の強さを誇るから大丈夫だろう…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます