北の王女、西の王子-戦争を終わらせる者。

第73話 介入者。

ガクさんとアーイさん、それにカムカとマリオンちゃんの活躍で国境の街は解放されたと聞いた。

アーイさんは擬似アーティファクトの反動で動けなくなったところをザンネと言うノースの敵に連れていかれてしまいガクさんは単身ノースに乗り込んで行く。

カムカ達がウエストの兵を率いて国境線までノースを押し返す戦闘に出かける朝、街では正体不明の毒がまん延していた。


それは長時間吸っていると倦怠感や頭痛、微熱に苦しめられると言った症状と、もう一つ別で疲労が回復しなくなると言う。


私はそれを聞いた時に毒竜の毒を思い出した。

恐らくノースが毒竜の毒を街に持ち込んだのだろう。


戦闘に出かけたカムカから連絡を貰った私とキョロくんは国境の街に瞬間移動をした。

出がけにリーンさんとジチがヤキモチを焼かずに「気を付けるんだよ」「ちゃんと帰ってきてね」なんて言っていて珍しいってキョロくんと笑っちゃった。


キョロくんは毒の発生源を探しに行った。

本当は12本の光の剣で空から探したいと言っていたのだけど、サウスの王様がお忍びで来ているので目立てないと言う事で、仕方なく足で探すことになってしまった。


私はその間にムラサキさんの力で毒を浄化してしまう。

毒竜の毒は慣れたものであっという間に街の浄化が終わる。


「ふぅ、これでおしまい」と言った私の背後から突然「くると思ったわ。猛毒の解毒となれば貴女しかいないものね」という声がした。


私が振り返るとそこには女の人が立っていた。

長い赤茶色のロングヘアでボディラインを強調した格好の女性。

目鼻立ちなんかは整っているけど整いすぎていて何処か違和感がある。


私は警戒をしながら「何か御用ですか?」と聞くと女の人は「ああ、私と貴女は初対面ね第一婦人さん。私は神の使い」と名乗った。


私は驚いて「神の使い!?貴女が!!?」と言いながら防御態勢に入る。キョロくんが戻るまで時間を稼げば何とかなる。


魔女は私を見るだけで動こうとせずに「それにしてもホイホイとサウスの人間が他の国の事にまで首を突っ込んで、ああ面白くない。そう言うのってイライラするのよね」と言う。


目の前の神の使い…カムカ達の言葉で言うなら魔女が苛立っている。


そのまま「私、筋肉の人に伝言で警告したわよね?あんまり私の邪魔をすると王様の大事なものを滅茶苦茶に壊すわよって?」と言って魔女は光る剣を抜いた。


私が「キョロくんの大事なもの?」と聞き返すと魔女は「ええ、大事なもの」と言い「私の実験を散々邪魔するんですもの、それ位の報いは受けて貰わなくちゃ」と言って自分の剣を眺めた後に私を睨みつけてきた。


「ああコレ?貴女はイーストにも行っていたのよね?なら「創世の光」って知っているわね、この剣は「創世の光」を人工アーティファクトで再現してみて、更に剣に転用してみたの。なかなかでしょ?そうね、名前は「創世の剣」にしましょうか?」


「創世の光」…ツネツギさん達が奈落の底で探していたアーティファクトだ。

サウスに帰ってきたカムカから聞いたが、扱いが非常に難しくて、何とか発動させることが出来て、その一撃は悪魔化した狼を簡単に蒸発させたと言っていた。


魔女はもう一度剣を見てから私を見て「で、実験」と言ってから私…というよりムラサキさんを見て「果たして「創世の剣」は「紫水晶の盾」に勝てるかしら?」と言って私を見ながら「言っている事、わかる?」と言った。


魔女は剣を構える。

あの剣で斬りこんでくるつもりなんだわ。


「ムラサキさん!【アーティファクト】!」

ムラサキさんの力で光の壁を展開する。

光は普段と変わらない優しくて強固な壁になる。


「そうそう、防御には定評のある「紫水晶の盾」それを無事に切り裂けるか…勝負よ。第一婦人さん」


大丈夫、ムラサキさんの力は凄くていつも守ってこれた。

今回も余裕で防げる。

そうしたらキョロくんが、私の旦那様が帰ってくるから一緒に戦おう。

私が防御で彼が攻撃。

他のお嫁さん候補には出来ない私だけが出来る事、それは戦闘。

キョロくんの気持ちを汲むのはリーンさんには敵わない。

美味しいご飯で喜ばせるのはジチには敵わない。

だから私は戦闘で頑張る。

この力で彼の横にこれからも立ち続けるの。



「フィルさん!」


キョロくんの声がする。

毒の発生源を見つけたのかな?

私を迎えに来てくれたのかな?

沢山役に立ったらまた2人きりの日をおねだりしちゃおう。




あれ?

何で私は空を仰いでいるの?

ガラスみたいな綺麗な光が粉々に散って私に降りかかる。


「アハハハ!私の勝ち」


魔女が喜んでいる声が聞こえる。

え?勝ち?ムラサキさんと私が負けたの?


どうしよう?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


物凄く嫌な予感がした僕は毒の発生源探しをやめてフィルさんの所に戻っている。

毒を浄化したフィルさんが一か所にいるのもおかしい。

普段だったら僕の名前を呼んで終わったよと飛び込んでくるはずなのにそれもない。


何かあったに違いない。


街中で高速移動は使えない。

仕方ないから普通に走ることしかできない。


この角を曲がればフィルさんと別れた場所だ。

僕は「フィルさん!!」と名前を呼びながら角を曲がる。



…僕は目を疑った。粉々に散った光の欠片が降り注ぐ中、女がフィルさんに斬りつけていた。

ムラサキさんの光の壁が粉々の散り散りになって霧散して、フィルさんの身体を女が持つ光の剣が横一文字に切り裂いていた。


「フィルさん!!」

僕はフィルさんの元に駆け寄ると女が後ろで「あら、王様の登場ね」と言ってベラベラと話しかけてくるがそんな事はどうでもいい。



「フィルさん!フィルさん!!」


僕は必死にフィルさんを呼びながら前にシモーリから貰った回復のアーティファクトをフィルさんに使う。


普段なら傷はすぐに塞がるが傷が塞がらない。

突然の事に僕は「傷が…塞がらない?」と呟いてしまう。


いや、違う。塞がった先から崩れていっている。

この得体のしれない状況に「何だこれ?」と言うと、フィルさんが目を開けて「キョロ…くん…」と僕の名を呼んだ。


「フィルさん!!」

「ごめんね。私負けちゃった…」


「喋らないで!今回復しているから!」

「暖かい…、でも何となくわかる。駄目じゃないかな?」


フィルさんは僕が一番聞きたくない事を言う。



「アハハハ!!もしもーし、ちょっとー、聞いてるー?王様―」

後ろの女がまだゴチャゴチャと言っている。


「私、神の使いよ。神の使い。散々「あんまり私の邪魔をすると王様の大事なものを滅茶苦茶に壊すわよ」って警告したのに邪魔するんですもの。お仕置きよ、お仕置き。わかるー?」



お仕置き?

何言っているんだこの女…

神の使い?

知るか。


僕はフィルさんを抱きかかえて「フィルさん、待ってて、今サウスに帰ろう」と言うとあの女が「あらー、無視するの?酷―い。でももうその子助からないわよ。私の「創世の剣」で斬られたんですもの」と言って手に持った剣を自慢してきたが剣はボロボロに壊れた。

あの女は少し楽しそうに「ってあら。剣の出力に柄が耐えられないで壊れちゃった」と言って残った柄を投げ捨てた。


「お前、うるさいよ」

「アハハハ、やっと反応した。その子との最後の時間もお仕置きで邪魔しちゃおうかしら?全部私の声でかき消しちゃうの?アハハハ」


最後?

邪魔をする?


今も回復のアーティファクトを使い続ける僕に「ほら、もっと悔しがってよ。お仕置きにならないじゃない。その死にかけ女よりこっちを…」と言ってあの女が話しかけてくる。


うるさい。

最後まで喋らすかよ。

次の瞬間、僕の12本の剣はあの女に突き刺さっていた。


「嘘、一瞬で12本の剣を出して私に突き立てたの?凄い!見えなかった!!実験成功ね。最愛の人を亡くしたサウスの王は壊れる!」


亡くした?亡くしていない。僕は「黙れ!!!」と言いながら剣で女を細切れにした。


「フィルさん、お待たせ。サウスに帰ろう」

だが、回復のアーティファクトの力を全力で使っても傷は塞がらず出血が止まらない。

僕の身体はフィルさんの血で真っ赤になってしまっている。



フィルさんは弱々しい声で「お爺ちゃん…」と言った。


僕は「わかった、三の村に行こう」と言って三の村に飛んだ。

三の村でガミガミ爺さんに会うとガミガミ爺さんは事態を察してくれて無言で着いてきてくれた。


そのまま城に飛ぶ。


城で僕とフィルさんの帰りを待っていたリーンとジチさん、シモーリは慌てて手伝いをしてくれた。

僕はシモーリからありったけの回復のアーティファクトを借り受けて全開で使っている。

出血がやや収まって、傷は塞がる事はないが、拮抗している状態になった。


ようやく口を開いたガミガミ爺さんが「小僧、これは…」と話しかけてくるが僕は話を聞かずにうわ言のように「…治すんだ。僕が全力で治すんだ」と言って回復の力を使い続ける。


フィルさんが目を開けてガミガミ爺さんを見て「お爺ちゃん…」と声をかける。

ガミガミ爺さんが「フィル!!」と声をかけるとフィルさんが「ごめんね、ウエストで魔女に負けちゃったの。特別な剣で斬られたから治らないって…」と説明をするとガミガミ爺さんは「そんなこたぁ、いいんだよ。謝んじゃねぇよ」と言って泣いている。


フィルさんは困った顔で僕とガミガミ爺さんを見て「キョロくんは悪くないの、責めないであげてね」と言うとガミガミ爺さんが「おう、おう!!わかってる。俺は小僧を責めたりなんかしねぇよ」と言う。


嬉しそうな顔で「良かった。お爺ちゃん。いつもありがとう」と言ったフィルさんはジチさんとリーンの方を見る。


「これから、キョロくんをよろしくね。第一婦人が居なくなっちゃうと大変だと思うけど、今度は2人がキョロくんを助けてあげてね」

「何言ってるんだい!こんな傷治すんだよ!3人でこれからもキヨロスくんを奪い合うんだろ?」

「そうだよ!3人で足りない部分を補ってキョロを幸せにするって約束したじゃない」


辛そうに目を瞑ったフィルさんの「ごめんね。もう無理だから。だから2人で頑張ってね。私、この暮らしが好きだったよ」と言ったその言葉でジチさんとリーンが泣きじゃくる。


フィルさんは僕を見て「キョロくん」と声をかけてくれる。声に元気がなくて話すだけでも辛そうで僕は「何、喋らないでもいいよ。今こんな傷僕が全部治すから」と言う。


「無理しないで、キョロくんがおかしくなっちゃうよ。それに今しか話せないから。最後に沢山話をしましょ?」

「最後って何?そんな事ない。そんな事ないよ!僕がアーティファクトの力を全部使ってもフィルさんを治すから」


「無理しないで、アーティファクトが悲鳴を上げている。壊れてしまうわ」

「それでもフィルさんが助かるなら何でもするよ!!」


「嬉しい、本当にキョロくんは私を大切にしてくれる。それが凄く嬉しいの。本当は死ぬのって怖いの。嫌なの。でもキョロくんが居てくれると不思議と安らいだ気持ちで居られるの。キョロくんは凄いね」


「僕は凄くなんかない。僕はフィルさんに何もできていないよ」

「そんな事ない、キョロくんは私に沢山のモノをくれたわ。私幸せよ」


いつの間にか周りには誰も居なくなっていて、僕とフィルさんだけになっていた。

2人きりになった部屋でフィルさんが「ふふ、キョロくんを独り占めできちゃったね」と言う。

僕はそれだけで泣いてしまい「治ったら明日も明後日も独り占めしていいよ。リーンにもジチさんにも僕から言うから」と言う。


「キョロくん…泣いてる。泣かないで」

「泣くよ!大切な人を助けられなければ泣くよ。どうしてトキタマが居ないんだ。トキタマが居ればこんなのやり直せるのに」


取り乱す僕にフィルさんが「キョロくん、もう「時のタマゴ」…トキタマちゃんはないの、だからこれからもこういう事はこれから沢山あるから…だから今を大事にしてね」と言って優しい笑顔で微笑む。

僕は涙が止まらない。


そんな僕を見てフィルさんが「ねえ、キョロくん。お願いをいくつかしていい?」と聞いてきた。当然僕は「何?言って!!」と聞き返す。


「キスして欲しい」

「いいよ」


僕は回復の力を途切れさせる事なく使いながらフィルさんにキスをするとフィルさんは嬉しそうに微笑んで「ありがとう。今幸せよ」と言う。


僕は泣きながら「治ったらもっと出来るよ」と言うとフィルさんは首を横に振って「それは無理なの。次のお願いね」と言った。


無理…その言葉が僕に重くのしかかる。

そう、僕も心のどこかで無理と言う事がわかり始めていた。


「お爺ちゃんの事、よろしくね」

「うん、ガミガミ爺さんは僕の親友だから何の心配もいらないよ」


僕の返事にフィルさんが安心した顔で「良かった、何から何までキョロくんが居てくれて良かった」と言う。


「次のお願いね。ムラサキさんをお願い。キョロくんなら私よりも上手に使えるし、あの「創世の剣」にも負けないと思う。私の想いも乗せて一緒に戦って?」

「うん、うん」


もう僕は何も考えずに返事をして頷く。

とにかくフィルさんの心配を取り除きたかった。

そして出会った日からの事を思い出してしまっていた。


その事に気付かないフィルさんは「良かった。昔ね、リーンさんがねキョロくんがリーンさんのアーティファクトで戦ったって言っていたの、それを聞いてずっとヤキモチ妬いていたの。キョロくんがムラサキさんを使ってくれたら私の勝ちね」と言ってまた笑う。



「最後のお願いね。いい?」

「いいよ」


フィルさんは深呼吸をするとひときわ力強い声で「次は私とだけ逢って、そして私とずっと一緒に居て」と言った。



「うん。そうだね。そうしたらこんな別れ方しないで済むよね」

「私、4人で暮らすのも楽しいけど、やっぱり2人で暮らしたかったの。それで子供が沢山出来たら、お爺ちゃんに面倒見させて私とキョロくんはのんびりお茶してって言う生活もしてみたかった」


この言葉で僕は更に泣いてしまい「うん、うん」と言いながらうなずいて「だから死なないで」と言う。フィルさんは涙を流しながら「ごめんね。それは無理なの」と言った。


「沢山泣いてくれてありがとう。キョロくんが力を使ってくれたからちゃんとお別れが言えたわ。ありがとう」

僕はフィルさんを助けたい一心で助けること以外何も考えられなかった。


「死なないで!!」と言った僕は何べんも「【アーティファクト】!!!」と唱えて回復の力を強めた。


だが、次の瞬間、フィルさんが悲鳴を上げていると言った回復のアーティファクト達は粉々に砕け散ってしまった。


そこからはあっという間だった。

傷口が再び広がる。

徐々にフィルさんの体温は低下し、顔は血が抜けて白くなっていく。

声も弱くなる。


「キョ…ロ…く…ん、寒…いわ…。手…握って…いて。声を…聞かせ…て」


僕は思い切りフィルさんの手を握ると声の限り「フィルさん!フィルさん!!フィルさん!!!」とフィルさんの名前を叫ぶ。


「愛し…てい…るわ」


その言葉を最後にフィルさんは起きなくなった。

僕の中で何かが壊れた音がした。


僕はフィルさんの腕に着けられていた「紫水晶の盾」を見て「ムラサキさん」と声をかける。

ムラサキさんは「はい」と返事をしてきた。


「いいよね。使うよ」

「どうぞ」


僕はムラサキさんに手を伸ばした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


僕はムラサキさんを装備して部屋を出る。

部屋の前ではリーンとジチさん、それにガミガミ爺さんが立っていた。

皆泣いている。


僕があれだけ呼んでいたフィルさんの名を呼ばなくなった事で皆は事態を察していた。


ガミガミ爺さんが前に出てきて「小僧…」と僕を呼ぶ。

だが今はガミガミ爺さんじゃない。フィルさんだ。

僕はガミガミ爺さんを一瞬だけ見て「待ってて…」と言う。


「あ?」と聞き返すガミガミ爺さんに「僕は今すぐこのくだらない戦争を終わらせて、フィルさんを生き返らせる方法を探すから」と言うとリーンが泣き顔のまま「キョロ!?」と聞き返してくる。


僕は邪魔をされたくない一心で「リーン、邪魔しないで!」と言うと今度はジチさんが「落ち着きなよ、そんな方法無いよ!!」と言って僕を止めようとする。


「もう一度、きっとこの世界にある「時のタマゴ」を見つけてでも何とかする!!」


そう、きっと方法はあるはずだ。

僕は散々トキタマで最悪の結末を書き換えてきた。

今度もきっと何か方法がある。


フィルさんは死んでいい人なんかじゃない。

僕がこの手で蘇らせる。



「その前に僕はこの戦争を終わらせる」


そのまま僕は瞬間移動で城の屋根に上ると通信球を取り出して知りうる全員に向けて叫ぶ。


「僕はサウスの王キヨロス!今すぐ武器を捨てろ!武器を持つものはノースの人間とみなして今から皆殺しにする!!」


即座にカムカの「おい!?キヨロス!!どうした!!?」と言う声が聞こえる。

続けて「皆殺し!!?」と聞こえてきた。この声はイーストのツネツギだ。

ウエストのガクも「何を!!?」と言って僕の真意を探ろうとしている。


だが今はそんな暇はない。

構ってなんていられない。


「いいから全員武器を捨てろ!!警告はしたぞ!!!」



そう言った僕は「革命の剣」を構えて「【アーティファクト】!!!」と叫んだ。


12本の剣全てを出す。その全てに注げるだけの力を注ぐ。

剣は金色を通り越して見た事ない色に輝きを放つ。


僕の「行け、滅ぼせ」と言う声で12本の剣が6本ずつ右と左に分かれて高速で世界を飛んだ。



そして僕は殺した。

ノースの兵士とわかると殺した。


お前達が戦争なんてしているからフィルさんが死んだんだ!

殺してやる!!

そしてお前たちの居なくなった大地でフィルさんをもう一度助ける方法を探すんだ!!!


足りない気がした。まだ足りない。

その気持ちのまま僕は「僕の全てを使え「革命の剣」よ!!【アーティファクト】!!!!」と更に叫ぶ。


ノースの兵士は可能な限りバラバラにした。

近くに居る武器を放棄した兵士が二度と戦闘をする意思なんか持たないようにしてやった。


カムカが連絡をくれていた「悪魔のタマゴ」や「龍の顎」を持った兵士もいたが、関係なくバラバラにした。


途中でカムカとマリオンが居た。

イーストのツネツギとルル、後は見た事ない奴が居た。

ウエストのガクも居た。


顔がわかる人間、仲間の人間は見逃した。


僕の12本の剣は世界を何周もした。

中には剣が通り過ぎて戦闘を再開した愚かな奴も居た。


そいつは次の周で念入りにバラバラにした。


1時間もすると戦争をしている奴はみんな居なくなったから剣を呼び戻す。

これで僕はフィルさんを助ける手立てを探しに行ける。

僕は瞬間移動で部屋に戻る。



戻ってきた僕を見たリーン、ジチさん、ガミガミ爺さんの3人が「キョロ…」「キヨロスくん」「小僧…おめぇ…」と言って化け物を見る目で僕を見る。


言いたい事はわかるけどフィルさんを取り戻すためなら人殺しも厭わない。

僕が「みんなごめんね」と言った時、「あらやだ。本当に1時間で戦争を終わらせちゃったわ、この子」と憎々しい声が聞こえた。


僕が声の方を向くと目の前にフィルさんを殺したあの女が居た。

女は「は~い。元気~って元気じゃないわよね」と言ってヘラヘラしている。


「さっきはよくも殺してくれたわね。最愛の奥さんを私に殺されちゃったんですものね。しかも「時のタマゴ」は解脱しちゃってもういない。奥さんを取り戻す方法もない。可哀想~。アハハハ」

「コイツがフィルを…」と言って笑う女をガミガミ爺さんが睨む。



僕は努めて冷静に「何しに来た?」と聞くと女は「え~、お礼とか苦情とかかしら」と言って僕の方に歩いてきながら指を出してきた。


「まずはお礼ね私は戦争で沢山人を殺したかったの。代わりにやってくれてありがとう。まさか1時間でノースの兵士を殆ど皆殺しにするとは思わなかったわ」


半分呆れたような顔をした女が顔を醜く歪ませて「次が苦情、アンタが手を出すと色々実験にならないのよ!「あんまり私の邪魔をすると王様の大事なものを滅茶苦茶に壊すわよ」って言っておいたでしょ。まだやるなんて、次はどっちの女を殺してほしいのよ!!」と言って僕達を睨む。


強烈なプレッシャーが発せられているのだろう。

リーンもジチさんも、ガミガミ爺さんも何も言えていない。


僕は何も感じない。

どうやって悔しがらせてから殺すかしか考えていない。

あの女は僕たちが一言も発しないのを恐怖におののいたと勘違いしたのだろう。

顔をコロッと変えてまた醜い笑顔を晒してきた。


「あらら~、怯えているのかしら?じゃーん♪これなーんだ?」


あの女が取り出したもの。

忘れるものか…、あれはフィルさんを殺した剣だ!!!


「王様は覚えているわよね?そう「創世の剣」よ。さっきは最愛の奥様を殺した時に出力に負けて壊れちゃったんだけど、予備を作っていたの。こっちはすこし強化してきたから出力に負けて壊れるなんてヘマはしないわよ」

「やってみろよ。今僕の腕には「紫水晶の盾」が居る。お前がフィルさんにやったように斬りかかってこい。僕にはそんなものは効かない」


僕がムラサキさんを見せるように言うと女は「アハハハ、馬鹿じゃないの?おかしくなっちゃったのね!最愛の奥さんと同じ、真一文字に斬ってあげるわ」と言って剣を構えた。


「ムラサキさん」

「はい」


「いいよね。使うよ」

「ええ」


「僕はフィルさんみたいに優しくないから全開で力を引き出すから」

「どうぞ、やってください。私の中にはフィルの想いもいます。きっとあの子の想いがキヨロスを守ります」


「ありがとう。【アーティファクト】!!」

僕はムラサキさんの力を解放する。

ムラサキさんの光の壁はフィルさんが出していた優しい色とは違い、紫色の光の壁だった。


「アハハハ、それが本気なのかしら?また壊してあげるわ!!」


高笑いした女が「行くわよ」と言って剣を振りかぶる。

その瞬間、僕の12本の剣が峰打ちで女を滅多打ちにした。


「ちょ!?何…!?」


僕は女を喋らせない。徹底的にいたぶる。

散々いたぶって動かなくなったところで剣を止めて「寝たふりだろ?立てよ。今のは僕からフィルさんを奪った怒りだ」と言うと、肩で息をした女が憎々しそうに僕を睨んで「アンタねぇ…正々堂々とかそういうのは…ないの!!?」と言ってくる。


「ただ僕が勝ってもフィルさんを失った喪失感は埋まらない。後悔させてから殺してやる」

「アハハハ、たかだか女一人殺されてその物言い!本当子供ね!」


女が「じゃあ私だっ…」と言った所でまた剣で殴る。


「喋っていないで早く回復しろよ、待っていてやる」

僕に言われた通り回復をしたあの女が睨んでくる。


「私を怒らせたわね!!」と言った瞬間に女が消えた。

瞬間移動で多分一の村に行って父さん達を殺すとかそういう事だろう。


消えた瞬間にガツッと言う音が聞こえて部屋の隅で女が尻もちをついている。


おでこを抑えながら「な…何!?」と言う女に僕は「やる事は読めているんだよ。ムラサキさんの力をこの部屋全体に拡大して、瞬間移動だろうが何だろうが通さなくした」と言うと女が愕然とした表情で「そ…そんな事…?」と言いながら僕を見る。


「出来たんだからそれでいいだろ?僕は出来た。お前は逃げられない。どうせ一の村に行って僕の大切な人を殺そうと言うんだろ?」


まだだ、まだフィルさんの分も仕返しは済んでいない。


「きぃぃぃぃ!!だったら今すぐアンタを殺してやるわ。本気で動けばアンタの光の壁なんて壊せるんだから!!」

「やってみなよ」


多分、次にやるのは…

ガキッ!っという音がして僕の横…リーンの目の前であの女が剣を振り切れないでいた。


「何!!?」

「思った通りだ、どうせ僕の目の前で僕の大切な人を殺すと思ったよ。だから、身体のすぐそばにムラサキさんの光の壁を薄く硬く、そして見えにくく張っておいたんだ」


女が狼狽えながら「う…嘘よ!そんな、何かの間違いだわ!!?」と言って頭を振ると消える。


直後にガキッ!と言う音がジチさんの方でする。

女が今度はジチさんを狙った。


僕は動じることなく「無駄だ。この部屋の全員に張ってある。もうお前の剣は何にも通らない」と言って一歩前に出る。


「そんな!!?これが「紫水晶の盾」の本当の力!?」

「そうさ、フィルさんは優しすぎたんだ。ムラサキさんを酷使したくなくて出力を抑えていたんだ。僕は違う。全部の力を引き出してお前の攻撃を無効化した」


「嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!」

「嘘じゃない。これが「紫水晶の盾」を馬鹿にされたフィルさんの哀しみと怒り」


僕は更に前に出ると女が後ずさりをする。どうにか時間を稼いで打開策を見つけたいのだろう。


だがそんな事をしてやる義理はない。

「そしてお前は懲りずに僕の大事な人を襲おうとした。フィルさんの痛み、僕の怒り、リーンとジチさんの哀しみ。ガミガミ爺さんの苦しさ。これが全てだ!!」と言った僕は瞬間的に放った12本の剣全てであの女をバラバラに切り刻む。


女は斬られた事も気付かずに「ちぃぃくしょぉぉぉう!!」と言いながらバラバラになって消えた。

人間ではないからか死体は残らなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


魔女を殺した僕を見てリーンとジチさんが悲しそうな顔で「キョロ…」「キヨロスくん…」と僕の名を呼ぶ。


僕は2人の胸に吸い込まれそうになってしまうが、今はその時ではない。

2人に抱きしめられたら僕は泣いてしまう。

僕は泣いたら思いの丈をぶつけてしまう。

そうなったら立ち止まってしまう。


「じゃあ、ちょっと世界を回って探してくる」


僕は皆にそう伝えて、部屋の中で眠るフィルさんに「行ってくるね。すぐに助ける方法を見つけてくるから」と言ってから外に出た。


だが正直行くあては無い。

そんな時、僕の頭に一つの言葉がよぎった。


「私はアーティファクトに関しては造詣が深い。聞くことなく、その鎧と剣、それに靴。後は奥様達がそれぞれ持っているS級アーティファクトに関しても知っています。その他のアーティファクトに関しても詳しいので何か知りたいことがあればいつでもいらしてください。今日のお礼に知っている事は全て伝えさせていただきます」



ウエスト王だ。

あの人ならフィルさんを蘇らせられるアーティファクトを知っているかもしれない。

注意点や問題点がどんなものでも問題はない。

僕にはトキタマが残してくれた「究極の腕輪」がある。これさえあればどんなアーティファクトでも使ってみせる。


僕は瞬間移動の先をウエスト王の所にした。


ウエスト王は僕の来訪…僕の格好や顔つきで全てを理解したようだ。

この時は気づかなかったが僕の服はフィルさんの血で真っ赤だった。


ウエスト王が辛そうに「魔女が…現れましたか?」と僕に聞き、僕は敬意も何もなく「ああ、フィルさん…僕の奥さんが殺された」と返す。


「それで、サウス王はどうするおつもりで?」

「当然、蘇らせられるアーティファクトを探す。もう戦争は終わらせた」


「戦争を?」

「魔女は2回出てきたが2回とも殺した。それとは別で1時間かけて戦争をしていたノースの兵士は全部殺した」


ウエスト王は驚きながらも僕と腰に装着している「革命の剣」を見ながら「その「革命の剣」で、ですか?」と聞いてきた。やはりこの男は知っている。僕は確信を得ながら「そうだ、あなたはアーティファクトに詳しいと自分で言っていた。だから教えてほしい。死者を蘇らせられるアーティファクトを…」と言うとウエスト王は黙っている。


その沈黙が僕をいらだたせる。


「大変申し上げにくい事ですが、この世界に死者を蘇生させるアーティファクトが出現したことは一度もありません。死者を蘇らせた者はいないのです。そのようなものがあれば18年前に私やノース王が愛する妻の為に何が何でも手に入れていたでしょう」



……僕の希望を打ち砕くような現実が出てきた。

蘇生のアーティファクトがない?

じゃあ、フィルさんを取り戻せない?

助けられない?


一瞬のうちに何べんもフィルさんの様々な顔が思い浮かび、ウエスト王の言葉がそれを壊していく。


いや、違う。

この男が何も知らないだけだ!

僕は何回もフィルさんを助けた。

みんなの死を無かった事にした。



僕は「違う!!」と叫ぶ。

周りの兵士達が一瞬身構えるのをウエスト王が制止して「何が、違うと申すのですか?」と聞いてきた。


「僕は今までも死の結末を変えてきた。だからこの世界には死を回避するアーティファクトが存在する」

「死を?それは…まさか…」


ウエスト王が凄い顔で僕を見る。


「そうだ「時のタマゴ」だ。僕は最初に授かったアーティファクトは「時のタマゴ」だ、「時のタマゴ」で何回も死の結末を書き換えてきてここに居る」


この言葉でシンとなる中、ウエスト王は「では、その「時のタマゴ」で今回も結末を変えられればよろしいのでは?」と聞き返してきた。

僕が首を横に振って「ダメだ、僕の「時のタマゴ」は解脱をした。今はもう神の所に帰ってしまったんだ」と言うと解脱が相当珍しかったようでウエスト王は僕に色々と質問をしてきた。

僕は「時のタマゴ」を乱用した事で奇跡的に「万能の鎧」「革命の剣」「瞬きの靴」を装備できた事。

そしてトキタマが解脱した際にくれた「究極の腕輪」についても説明をした。



ウエスト王は僕の腕にある「究極の腕輪」を見て「なんと…、そんな事があったのですか。それなら…可能性はあります」と言った。



…今、今この男は何と言った?

可能性があると言ったのか?


僕は外聞も何も関係なく「それはどういうことですか!!?」と言ってウエスト王に詰め寄るとウエスト王は「サウス王が戦争を治めて下さった事への敬意で可能性の話をお話はしましょう」と言った後で「ただ、その可能性を使うべきタイミングに関しては私のワガママを聞き入れてもらいたい。そうすれば全てをお話ししましょう。お約束いただけますか?」と言ってきた。


何でワガママを聞く必要がある?

僕は苛立ちを隠すように「内容にもよる」と返すとウエスト王は残念そうに「では言えません」と言い、睨む僕に「感謝はしています。だからこれは言いましょう」と言うと深呼吸をした後で…


「私に協力してくださって、サウス王のお力添えがあれば奥様を取り戻せると」


そう言ってのけた。

僕は苛立ちから腕の一本でも切り落として素直にしてしまおうかと思ったがそれで何も言われなかった終わる。

戦闘力は僕が持っている。

だがこの場を支配しているのはこの男ウエスト王だ。


これが王…単純な力のみではない交渉力という奴だ。

ここで問答をする暇が勿体ない僕は「まずは言ってください」と言うとウエスト王は「どちらに転んでも貴方には損のない話です」と言って語り始めた。



ウエスト王は「アーイ殿、ノース姫のアーティファクトは「奇跡の首飾り」です」と話し始めた。


「「奇跡の首飾り」は完全に正しく見聞きしたアーティファクトの能力を再現します。現に我々は私の知る「瞬きの靴」の能力でノースの城から九死に一生を得て撤退をすることが出来ました」


…「奇跡の首飾り」…じゃあそれがあれば…。

トキタマが無理でも「時のタマゴ」が再現できる。

僕の表情を見たウエスト王が「ですが、今は使わせません。その時ではないのです」と言った。


「噂によると「時のタマゴ」も完全解決を出来るようになるとアーティファクト自身が時を跳ぶように勧めてくるとか、それと同じだと思ってください。全ての準備が整った時、そのお力を貸していただきたいのです」


その後ウエストの王が言った事を僕なりに纏めた。

・ガクは今、攫われたアーイさんを救うべく、単身でノース城に向かっている。ガクが無事にアーイさんを救うことが出来れば、その時に僕がその場に赴きアーイさんにアーティファクトを使ってもらって約1か月前のノースで行われた会談の場に跳ぶ。

失敗をした場合、もしくはアーイさんが死んでいた場合には僕が「奇跡の首飾り」を使用して会談の場に跳んで欲しいと言われた。

何であれ、「奇跡の首飾り」で1か月以上前に戻れればフィルさんは生きている。


・1か月前以上前のその日に拘っているのは、兵士たちに「龍の顎」等を使わせる前に戻すことで兵士の命を出来るだけ救いたいと言う王の意思。

後は、アーイさんが初めてアーティファクトを使えた日以前に戻っても物事の辻褄が合わなくなると言う判断だった。


・「奇跡の首飾り」の注意点は使ったものが30日昏睡してしまうものだと言うので、僕がその効果を無効化する手はずになった。


・ガクのアーティファクトも僕が居れば使えることが出来ると言う事でウエスト王はガクにアーティファクトを使わせたい。


・跳べる範囲、記憶、気持ちに関しては関係者全員と後は僕の采配に任せると言われた。


最後にウエスト王は照れながらこう言った。

「済まない。世界の為やサウス王の為からすれば、遠回しな筋道にさせてしまっているのは重々承知しているのです。ただ、私は父親として、男として息子の成長を遂げさせてやりたいのです。

申し訳ないのですが…息子が、ガクが大切な女性を守り切れるか…あと少しで決着がつくでしょう。それまで待ってもらいたい。

後、出来るだけ手出しは無用でお願いしたい。

サウス王なら数分で片が付く事でも息子には数時間かかってしまうのです。

傷心の所にこんな事を言って本当に申し訳ない」


大切な女性の為と言う言葉が僕を動かした。

今僕を動かしている気持ちはフィルさんを取り戻すため…大切な女性の為だ。

今ガクがその立場なら僕は可能な限りそれを応援しよう。


僕は首を横に振って「じゃあ、僕は行きます」と言うとウエスト王は「すみませんがよろしくお願いします。次に会うのは大体40日前にこの城でと言う事になりますかな?」


僕は首を縦に振って「ええ、僕の意思が反映されるならあなたの記憶も一緒に時を跳ばします」と言うとウエスト王は申し訳なさそうに「その時は改めてお礼を言わせてください」と言った。


呆れ顔で「そんなものはいりませんよ」と返す僕にウエスト王は「そうはいかないのですよ。サウス王」と言って僕を見送る。


僕は会釈をした後でノースの城に瞬間移動をした。

ノースの城はさっき光の剣で見てきたから問題なく飛べる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る