第70話 アーイ対ガク。

ガクは擬似アーティファクトの剣を構え、それを見た私も擬似アーティファクトの剣を構える。

お披露目や慣らしは後で徐々にと2人で話していたが、こんなぶっつけ本番になってしまった。


今の私たちに必要なのは悪魔を倒せると言う証明。

擬似アーティファクトの剣を使ってでも短期決戦を仕掛ける事にした。


「アーイ!」

「ガク!」


2人で名前を呼び合い悪魔から視線を逸らさずに頷きあい「【アーティファクト】」と唱えるとマリオンと同じ赤色の刃が何も無い柄から出てきた。

ガクが気にしていた問題は威力とこの状態で何分間戦えるかだ。


私たちは同時に前に出て悪魔に斬り込む。


悪魔は私を狙っていたので会費を選ぶとガクの右腕の剣が悪魔の胴体に当たり「このまま斬れろ!」と言いながら手応えが無い感じでガクが剣を振り抜くと剣は悪魔の深い部分を斬りつけていたようで、次の瞬間に悪魔は黒い血を吹き出しながら膝をついた。


「やれる…」

ガクの顔が高揚してうまく行っている事を思わせる。


「やれる!やれるぞアーイ!!」

「ああ!」


私も重さを調整して剣を振るい、ショートソードを使っていた時と遜色ない動きで立ち回る。


悪魔の身体を抵抗なく切り刻むというのは確かに小気味良い。

戦闘用のアーティファクトで敵を討つと言うことがここまで快感だとは思わなかった。

いや、それは今まで非戦闘用のアーティファクトを持っていた自分が周囲に抱いていた少なからずの嫉妬や羨望が有ったのかもしれない。



今は向かって右側をカムカとマリオンが、左側をガクと私が斬り続けている。

それはさながら舞うような動きだった。


赤色になった体色が徐々に灰色がかってくるとカムカがすかさず後衛の砲兵に一斉掃射を命じ、アーティファクト砲の直撃により悪魔の体色は完全に灰色になり動かなくなった。


倒したのか…


カムカが「よし!勝ったな」と言って動かない悪魔に石を投げる。

石はまるでそこに悪魔が存在しないかのように通り過ぎた後、悪魔は粉々になった。



悪魔化した兵士を何とか退ける事が出来た。

擬似アーティファクトの疲労感に関しても概ね想像通りだった。



カムカは「マリオン、全力で動いてみてどうだった?」とマリオンに聞いていてマリオンは「ん?悪くないよ。前の方が素早さがあった感じだけど、今の身体は手足の長さがあるから思った所に攻撃しやすい」と答える。


「疲れの方は?」

「ウエストは「大地の核」が元気みたいだからまだ平気。それにカムカみたいに最初から動いていた訳じゃないから」


話をするカムカとマリオンを見てみたが問題なさそうだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カムカがマリオンに問題の有無を聞いていた。

マリオンに問題は無さそうでカムカが安心しているのが表情からうかがえる。


むしろ問題はアーイだ…。

俺はアーイの顔を見て「アーイ、お前は城に戻って戦闘には参加をするな」とアーイに伝えた。


突然、俺から戦うなと言われたアーイの困惑も手に取るようにわかる。

俺が「何故だという顔だな、アーイ」と言うとアーイが「ああ」と言って俺を睨む。


「わからないなら言ってやる。まずは最初だ、俺たちは不意を打てる機会があったのにお前が出て行って優位性が損なわれた。次だ、お前はカムカから兵士の腕を斬り落とすように言われたのに躊躇をした。それであの兵士は悪魔化をして襲ってきた。これがどれだけ危険な事かわからないのか?」


ぐうの音も出ない状況にアーイは下を向いて黙っている。

肩が震えている。多分、相手がノースの兵だから戦わないで済むのならばその道を選びたいのだろう。


アーイは苛立ちから厳しく声を上げ「ならばガクは逆の立場の時にウエストの兵を討てるのか!?」と言ってくる。



俺はアーイを見つめ「ああ、斬るさ。俺が求める平和の為になら斬る」と返す。

アーイの目は苛立ちに染まっている。自国民への愛は無いのか?と言う顔だ。


ここに「ちょっと悪い」と言ってカムカが割り込んできた。


カムカは「その話はちょっと後にしてくれ。今はこっちだ」と言うと生き残った4人の元に歩いて行く。

手は上に挙げて戦闘の意思がない事をアピールしている。


「お前達!俺には戦う意思はない!だから力を使うな!剣を抜くな!何もするな!」


そう言って歩を進めると4人の兵士達は顔を見合わせて困惑している。

カムカは止まる事なく話をしている。


「今のが「龍の顎」の末路だ、今はまだ微妙なバランスで奇跡的に悪魔化をしていないだけだ!さっきの奴みたいにアーティファクトを使い続けて成長をしてしまえば悪魔化をしてしまうんだ!」

この言葉に俺と戦っていた兵士が「なら、俺たちはどうしたらいい!?」と声をあげた。


「1番は「龍の顎」を離す事だ」

「…さっきから試しているが無理なんだ!腕から離れない…。貰った時は腕に張り付いて居たのだが…。今見たらもう腕と一体化しているような…」

外せない状況にカムカが「クソっ」と言って怒り、「ガク、少しいいか?」と言って俺を呼ぶ。


「どうした?」

「あの兵士たちはノースに送り返すべきだと俺は思う」


「ああ、カムカの提案は最もだ、俺もそう思う」

「そう言ってもらえると助かる。「龍の顎」に対する処置は…?」


…厳しい選択を迫るしかないだろうな。

俺が「腕を捨ててもらう」と言うとカムカは「そうなるな…」と言った。


俺達はその話を兵士達に伝えた。


「俺からの提案だ」

「いや、俺たちからだ」


カムカの発言に俺が訂正をする。

カムカだけを悪者にはできない。


「1つ目はこのまま原隊には戻らず、行方不明になった事にして、こっそりとノースに帰り、アーティファクトを使う事なく静かに暮らす事」


「2つ目は「龍の顎」が入った腕を切断して原隊には帰り、戦闘不能の兵士としてノースに帰る事」


「3つ目は原隊に帰り、仲間達に「龍の顎」の危険性を伝えて悪魔化をしないで済むように生きる事」


「この中から選んで欲しい。ただ、1と3はその場しのぎにしかならないからいつの日か悪魔化をする事になる」


兵達の困惑が伝わってくる中、アーイが俺に詰め寄ってきて「ウエストでは保護ができないのか!?」と聞いてきた。


それは姫がする提案ではない…俺は少しの落胆を隠さずに「アーイ……」と名を呼ぶと「この者達に戦闘の意思が無ければ悪魔化はしない!ノースにも戻れなければウエストで!!」と詰め寄ってくる。


正直困ってしまうがここで「アーイ、よく考えて」と言ったのはマリオンだった。


俺に詰め寄った勢いのまま「何を…」と聞き返すアーイに「あのな、もしもウエストで保護をして居る所にあの女が来てアーティファクトを無理矢理持たせたりしたらどうなる?」と言ってカムカが割り込んでくる。


カムカの言葉にアーイは愕然とする。

そうなのだ、俺達の敵はあの魔女なのだ、保護することももしかしたら奴の計画に入っているのかもしれない。


ここまで言われてそれがわからないアーイではない。「それこそウエストの中で悪魔化される。その時の被害を考えてくれ、だからあいつらは必ずノースに帰る必要があるんだ」といわれれば困った顔で「…それは…そうだが…」と言って兵士達を見る。


皆、困惑の表情で何も決められずにアーイに救いを求める目をしている。


ここで黙っていたマリオンが兵士達の元に歩いて行くと「困った顔をしているね。もう1つ選択肢もあるわ。それは自害することよ」と言って顔を見る。

兵士達は「龍の顎」の外れない腕とマリオンを交互に見てどうするべきか言葉に出来ずに居る。


見かねたアーイが「マリオン!!」と怒鳴るとマリオンは優しい声色だが怖い表情で「アーイ?アーイは今の状況がわかっていないのかな?アーイの希望だとこの人達もウエストの人も困る事になるよ」と言った。


「だが、私は姫として何かをしてあげたいのだ」

アーイはその気持ちをマリオンにぶつけた。

マリオンは「アーイならそう言うと思う。でもそれは戦争の正解ではないの」と言った。


その後、兵士達は話し合った後で3つ目を選択した。

その選択により俺達はすぐに国境の街を奪還するのではなく、この場で一度休息を取ってから進軍することになった。

街に戻った兵士達が仲間達に「龍の顎」を使わないように説得する時間を見越しての事だ。


そして俺は後衛の砲兵に城に行くように指示を出す。

悪魔化した兵を倒せた事、アーティファクト砲が有益な事を仲間達に知らせる為だった。



そしてもう一度アーイを見た俺は「アーイ、やはり城に帰れ」と言葉をかける。

この言葉にアーイは「私は帰らない。私は戦える!」と言って睨んでくる。


「そう言うと思った。だが今のままだとアーイはみんなの足を引っ張る」

「そんな事はない!私は戦える!」


仕方ない。

この話をするときに覚悟は済んでいる。

俺は「そうか…、なら力を示せ」と言いながら剣を抜いた。


「ガク!?」

「アーイ、戦えるというなら俺を倒してみろ、その実力も無いようなら諦めろ」


アーイは俺を見て「クソっ、そういう事なら…」と言うと抜刀と同時に斬りかかってきた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


私は戦える。

その気持ちを乗せてガクに斬りかかる。

もちろんここで戦力を低下させる気は無い。

ガクに私を認めさせる。


覚悟を見せつける!


私は光の剣ではないショートソードでガクに斬りかかる。

もちろん刃を通す気は無いので当てる形というか打ち込むイメージで戦う。


先程の悪魔との戦いで疲労はあるがそんなことは言っていられない。


右への一撃、そのまま止まらずに左を使った一撃。


ガクは回避をするが動きが思いの外に鈍い。

このままならイケる。

私はそう思っていた。


そのまま続けて下からの攻撃、そして裏側から遠心力を乗せた一撃。


「どうだ!」

私だって、いや…

私抜きでは苦戦は必至だとガクに思わせたかった。


ガクはそれに対し剣を抜いて受け止めた。

悲しげな、辛そうな顔で「アーイ…」と呼びかけるガクに「なんだ!」と聞き返すとガクは「確かにお前は強い…、兵士達の中では群を抜いて居るだろう」と言った。


だったら連れて行くと言えと思い「ならば!」と言いながら私は剣を止めない。

ガクはそれらを全てかわし、受け止める。


「どうだ!私は戦える!!」と言いながら渾身の一撃を入れるとガクは回避せずに剣でそれを受け止めたまま私の顔を見て「いや、アーイは戦えない。いざという時に動けない」と言った。


「まだ言うのか!ガク!!ならば…ならば私は本気でお前を斬る!」


何とかしてガクに私を認めさせる。

私はその事だけを考える事にした。


剣を引き距離を取る。

渾身の一撃でガクを討つ。


「喰らえ!!」


振り上げられた私のショートソードがガクの頭を狙う。

過去最高の勢い、過去最高のキレ…これで勝てる!


そう確信した私の耳に「甘い!」と聞こえてくる。

ガクのロングソードは真正面から剣を受け止めず横から剣を狙ってきた。



次の瞬間、私のショートソードはキィィィンという音と共に折れた。


スローモーションになる世界。

恐らく一瞬のことなのだ、だが世界は緩やかに流れる。


「すまない」

ガクの口がそう動いた直後、私の剣よりも早く振り下ろされた左右の剣が右2回、左1回で私の身体を捉えていた。


想定外の激痛に思わず「ぐぅっ!?」と声をあげてしまう。


勝負アリ。

そう言う事になる。


「だが、私は退かぬ」

「よせアーイ!」


「ダメだ!私は…ガクと戦争を…終わらせる」

「アーイ!戦争は俺が終わらせる!お前は城で待っていろ!」


私は「ガクだけではダメだ!私も行くんだ!」と言って折れたショートソードをもう一度構えるとガクは「よせ!やめるんだ!」と言って止めようとする。


止まる訳にはいかない。

とにかくこの剣を修復する。

そしてもう一度ガクと戦い納得させる。



私が「【アーティファクト】!」と唱えて擬似アーティファクトの剣にチカラを込めた瞬間。

私の意識は無くなっていた。

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