北の王女、西の王子-反撃。
第69話 勇者の今。龍の顎との戦闘。
休憩を終えた私が訓練所に顔を出すとカムカは誰かと通信をしていた。
別に隠すつもりはないのだろう。
大声で話している。
もしかすると相手は「大地の核」から離れた所にいて声が伝えにくいのかも知れない。
「おーい!聞こえるかー?俺は聞こえているぞー」
「こっちも何とか聞こえる。カムカどうした?」
聞こえてくる声の相手は男だ。
カムカはこれまでの経緯と自分が今はウエストにいる事を伝えた。
そして数日以内に反撃に出る事を伝えて、あの女…魔女がノースに居て、おそらく戦いの最中に出てくる事を話し、こちらに合流するかと聞いている。
「いや、ダメだ。あの女を追い詰めたいのはやまやまだが行けない。俺たちは、今はイーストとノースの国境を過ぎて少し行った所に居る。ノースの奴ら、ウエストと戦争しているのにこっち側にも兵を集めていたぞ、しかも悪魔化したビッグベアも居た。カムカが前に言っていた体色が赤じゃない個体だ。こっちはルルが居るから何とかなったが、俺たちまでウエスト側に行くのは良くないな。行ったとしてもノースの城までだ」
ノースがイースト側にも戦線を拡大している事に私は驚いたがカムカはそこではなく悪魔化したビッグベアに驚き「赤じゃない?何色だったんだよ、ツネツギ…お前達に怪我は?」と聞くと「黄色だ、俺たちは無事だ。遠目に奴らの拠点を見てヤバめ…危険を感じたから離れた所からノレノレに「創世の光」を使ってもらってとりあえず壊滅させてから俺とモノフが残りを片付けた」と聞こえてくる。
「「創世の光」?あれを持ち出したのか?」
「ああ、どの道イーストには使い手がルルしかいないから説得したらウノが一応快く貸してくれたぜ」
「ウノも可哀想に…、そう言えば今さっきモノフと言ったな?モノフも居るのか!ありがたい!奴ら「龍の顎」を人工アーティファクトで再現して兵士に持たせてるらしいんだ!」
そうしてカムカは人工アーティファクト…「龍の顎」の危険性を伝えて右手か左手に龍の顎が埋め込まれて居る筈だから片っ端から切ってしまわないと最後には悪魔化する事を伝えていた。
話が終わって振り返ったカムカは私に気付いて「お、アーイか。イーストの勇者様も勇者様なりに戦争に参加してくれていたよ」と言うと簡単に勇者の話をしてくれた。
「勇者の腕輪」に選ばれた勇者は妹と共に別の世界から召喚されてしまった事。
イーストの地下から「創世の光」を回収する仕事をこなしたが帰れたのは妹の方で本人は多分だがあの女を殺すまで元の世界に帰れない事。
そして今はイースト側からノースに入っていて、ノースのイースト進行を阻止して居る事を聞いた。
私はあの女といるザンネを思い「ザンネ…っ」と言ってしまう。
本当にザンネはこの世界を征服するつもりか?
私は怒りと悲しみに囚われていた。
私達は剣ができてすぐ出発をした。
目的は国境までノースを押し返す事だ。
そして国境に陣を敷いて最終的には城のザンネを倒してノースを取り返す事にある。
後1日も歩けば国境の街といった所で10人の兵士と会敵した。
「私が説得を試みる!」と言うとガクが「よせ!アーイ!!」と言って私を止めるがそう言う訳にはいかない。
私が兵達の前に出て「お前達!」と声をかけると兵たちは私を見て「姫様?ご無事でしたか!」と聞いてきた。
「ああ、心配をかけた」
「ご無事で何よりです。姫様これより我らと共にウエストの城を攻め落としましょう!後続も続々と国境からやってきます」
私は首を横に振って「いや、今すぐに戦争を止めるのだ。謀反を企てたのはザンネだそのザンネも今やあの女にいいように使われている」と言うと兵たちは黙ってしまう。
私は何とか戦闘を回避したい気持ちで「驚くとは思うが真実だ」と言い必死になって兵達を止める。
ようやく兵が口を開き「姫様、今更そのような事を…」と言う。
そう、今更言っても遅いのはわかっている。
だが、無駄な血は流したくはない。
何とか説得しなければと思っている私に「今更なのです。私達は全てを知っておりました!」と言うと兵達の雰囲気がガラリと変わる。
「お前達…?」
「このまま我らとおいで頂きます!」
兵達は言うなり私を取り押さえようとする。
私は当身で兵士を飛ばし距離を取ると兵達は剣を抜いて「ザンネ様からは四肢の欠損さえ無ければ多少お怪我をさせても良いと言われております」と言った。
戦うしかないと言うのか?私はその気持ちで「お前達!」と声をかけたが兵達は剣を向けてきていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノースの兵達を見つけたアーイが目の色を変えて行ってしまった。
俺の制止も聞かずに戦闘回避の為に話し合いを行おうとしているが傍目に難航しているのがわかる。
あ、捕まったよ。
まあ、アーイも「剣姫」なんてあだ名が付くくらいには強いから当身で兵士をいなしているが相手が剣を抜いたのでここまでだ。
俺は話し合いが決裂したと判断をして、連れてきていた4人の兵士とマリオンにアーイに当てないようにアーティファクト砲を撃って貰う。
今回は8人で移動をしていて、俺とアーイ、カムカとマリオンと4人の兵士がいる。
俺、アーイ、カムカが前衛。
4人の兵士がアーティファクト砲を放つ後衛。
マリオンが臨機応変にどちらにも参加できるように考えている。
後衛の4人の兵士にはアーティファクト砲を放つ以外は特に指示を与えない。
乱戦になった時は擬似アーティファクトで俺やアーイがへばった時の守り手と自身の身を守る事を最優先にさせている。
5発のアーティファクト砲が何人かの兵を巻き込んで10人の真ん中に着弾をした。
アーイはその間に距離を取って辛そうな表情で剣を抜く。
俺とカムカはアーイの横に着いて剣を抜いた。
俺は「アーイ、勝手に動くな!」と注意をしたがアーイは「だが!」と言って話にならない。
苛立つ俺にカムカが「こうなっちまえば仕方ないぜ、やるぞガク!」と言い、そのままマリオンに「マリオン!そっちの指揮を任せるぜ」と指示を出す。
マリオンは「うん、危なくなったら助けに行くね」と返事をして指示だしをしている。
今、俺たちの状況としては敵は前衛3人、中衛4人、後衛3人の10人で、アーティファクト砲が当たった4人が動けなくなっていてその後ろの3人がアーティファクト砲に阻まれてこちらに来られずにいる中、前衛の3人が敵として立ちはだかっている。
「カムカ!」
「ああ、多分例の「龍の顎」を装備した兵士だろうな。とりあえず全力で行くぜ!」
「アーイ!」
「くっ…、仕方ない。やるさ!」
俺たちは目の前の3人と1対1の感じで向かい合う。
「唸れ筋肉!」と言ってまず動いたのはカムカだ。
炎を纏わせた大ぶりの一撃が兵士を直撃した。
兵士はきりもみをしながら倒れている4人の兵士にぶつかるとそれを見たカムカが「あれ?」と言いながら自分の拳を眺めて首を傾げている。
マリオンが「カムカ、イーストから帰ってきて力加減間違えているから、そうなって当然だよ」と声をかけるとカムカは「それか!」と言って納得をする。
マリオンはカムカが殴り飛ばした兵士に向かってアーティファクト砲を一斉掃射する。
直撃した兵士はピクリとも動かなかった。
ここで一つの小さな問題が生じた。
見ていられなかったアーイがマリオンに向かって「わ…我がノースの兵士に何を!」と言って怒鳴り、マリオンが冷たい眼差しで「今は敵なの。そこから話を始めなきゃアーイはダメなの?」と言ってアーイを見る。
一瞬の間の後で「くっ、そんな事はない!」と言ってアーイが目の前の兵士に斬りかかるが、アーイの剣は兵士に届く前に強力な一撃で叩き落とされていた。
すぐに体制を整えたアーイの前に左手を突き出した兵士が更に「【アーティファクト】」と唱える。
左手から現れた火球をアーイは何とか防ぐ。
だが、次の瞬間にはまた剣の一撃がアーイに放たれていてアーイは「くそっ!」と言って回避をした。
あの剣姫が劣勢だ。
俺はアーイの実力が噂だけではなく、確かなものであるのを悪魔熊との戦いでこの目で見た。
そのアーイが劣勢なのだ、これがアーティファクトの複数持ちをした兵士の実力か…
俺の前の兵士が「くくく、驚いているな?」と言って斬りかかってくる。
「仕方ねえって、アイツは神の使い様に選ばれてからずっと自主練もしてる真面目な奴だ、筋肉に殴り飛ばされた奴や俺なんかよりずっと使いこなしているんだからよ」
話している間も剣撃は止まらない。
だが、この程度の相手なら問題にもならない。
俺はアーイの所に行くためにロングソードを両手に持って斬りかかる。
あっという間に相手の剣を弾き飛ばして全身を斬りつけると、斬りつけられた兵士は「ぐぁぁぁっ」と言う声をあげて膝をついている。
これで終わりだと思ったが、右手を自身の身体に向けて「【アーティファクト】」と唱えるとみるみるキズが治ってしまった。
兵士は自慢げに「へっへっへ、さあもう一回だぜ」と言うと挑発するように「俺はすぐに怪我を治す。お前が疲れて動けなくなるまで付き合ってから殺してやるよ」と言う。
実力差は圧倒的だというのにこの態度。
時間が惜しいのに面倒くさい。
これが「龍の顎」の面倒くささか…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前の兵士が止まる事のない連続攻撃で私を攻め立てる。
「ナメるな!私は剣姫だ!」
放たれた火球を左手ではたき落としてそのまま斬りかかると左右のショートソードが全て兵士の身体を斬り裂いて赤い鮮血を噴きださせる。
兵士は膝をつくがすぐに回復のアーティファクトで傷を治して立ち上がる。
「アーイ!」と私の名を呼びながらカムカが援護に来る。
これで長期戦になっても何とかなると思った私は「カムカ!」と呼び返す。
カムカは構えを取ると「アーイ、マズい。コイツは短期で潰さないと悪魔化するかも知れない」と急に恐ろしい事を言い出した。
「何!?」
「ガクの相手が言っていた。アーイの敵が1番自主練をしているってな」
「それがどうした?」
「アーティファクトは成長するんだよ!もしこれで火や回復のアーティファクトが成長して複数持ちのバランスが崩れてみろ、すぐに悪魔化だ!」
アーティファクトの成長?
そんな事も知らなかった私は驚いてカムカを見る。
カムカは「アーイ、俺は少し離れる。ちょっとだけ耐えろ」と言ってガクの方に行き、敵に向かって戦いを止めるように言っている。
「お前の「龍の顎」は右か?左か?言いたくなければ言わなくてもいい!だがその腕に電気が走るような痛みがあるのなら戦闘を止めろ!人ではなくなる!」
カムカの言葉に「へっ、お前何を?」と呆れるように聞き返す兵士。
カムカは必死になって「人間ではなくなると言っている!もう戻れないんだぞ!!」と言うとガクを見て「ガク!必要以上に刺激するな!アーティファクトを使わせるな!バランスが崩れたらコイツは人に戻れなくなる」と叫ぶと私の元に戻ってくる。
「マズいな…最悪の状況を覚悟しよう」
「最悪?」
「ああ。マリオン!砲兵も一度全員手を止めろ」
そうしてカムカは目の前の兵士に「とにかくアーティファクトを使うな、痛みがあるなら何もするな!」と説得をした。
兵士は止まらなかった。「悪魔化?それがとうした?」と言うと「そんなものは全部ザンネ様と神の使い様から聞いている。俺が人で無くなっても戦争が終わってウエストを手に入れたら父と母に恩赦が出るように約束もして貰えているんだ」と言うと剣を振りかざしてアーティファクトの一撃を放つ。
「カムカ!戦うしかない!」
「くそっ、それなら気絶させるしかねぇ!アーイ!合わせてくれ!」
カムカはそう言うと兵士に向かって行く。兵士の剣をかわした所を私が手を狙って斬りつける。
左手は傷を付けられたが右手には刃が通らなかった。
その事に驚き、「刃が!!?」と言う私に「「龍の顎」は右手か!アーイ、肩からでも肘からでも構わない!腕を切りおとせ!」と言ってそのまま顔面を殴りつけるカムカ。
「腕を…?」
「人で無くなる前に止めてやるんだ!」
我がノースの兵の腕を切り落とす。
その事が私の剣を鈍らせた。
その隙を見逃さずに兵の放った火球が私を襲う。
慌てて「くそっ」と言ってかわす私にカムカが「アーイ!」と声をかけてきた瞬間、「ぐあっ!」と言う声を上げて兵士が震えた。
先程斬りつけた左腕の傷からは赤ではない黒い血が流れていた。
「間に合わなかった、悪魔化だ…」
右腕がグニャリと肥大してマリオン達のアーティファクト砲で倒れた兵を飲み込み、そのまま自身の身体も飲み込む。
「マズい、残りのアーティファクトも取り込まれた!」
生き残った兵達はその光景に動けなくなっていた。
「お前達!アーティファクトを使わずに離れろ!取り込まれたら死ぬぞ!」
カムカの声で今までガクと戦っていた兵士とこちらに寄りつけなかった兵士は尻餅をつきながら遠くに離れて行った。
飲み込まれた兵士の居た場所には橙色の体色の悪魔がいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最悪の展開だ。
アーティファクトを使って成長すると悪魔化する?
それじゃあ、戦闘中にウエストで悪魔化をする可能性が高いと言う事じゃないか。
魔女め、それも見越しての「龍の顎」か?
なんであれ、目の前の悪魔と戦うしかない。
カムカから聞いた通りだと、赤が最弱で橙色はその次だ。
その上には黄色と青が居ることまで聞いている。
橙色を倒せないとこの先は話にならないと言う事になる。
「ガク、一個言い忘れた。コイツらはアーティファクトの一撃を放ってくる」
「なんだそれは?剣か指輪か?」
「そうじゃねぇ、単純に取り込んだアーティファクトを力に変えて放ってくるんだよ。サウスの前の王様は全方位に閃光と爆発を起こしていた」
「何!?それをどうやって防いだ?」
冗談じゃない。
俺達に防御のアーティファクトは無いぞ?
「あー…、盾使いが居て防いでもらってた。この前居た嫁さんの1人だよ」
確かに紫色の鎧姿の妻は左腕に盾を装備していた。あれはアーティファクトをだったか。
俺が「盾使い?ここにそんな奴はいないぞ!最悪じゃないか!」と言うとカムカは「そうなんだよな。後は攻撃される前に畳み込むしかないよな」と言って殴りかかりに行く。
「喰らえ筋肉!!【アーティファクト】!!」
カムカの強烈な一撃が悪魔の顔面に決まる。
クリーンヒットした拳を見てカムカが「あれ?」と言う。
「どうしたカムカ!」
「何か、前の王様より手ごたえがないんだ。マリオン!そっちは4人に任せて一緒に戦ってくれ!!」
マリオンが「わかった」と言って高台から降りてきて、砲兵達に一斉射をさせた後に斬りこんでいく。
マリオンも斬りこんだ剣を見て「あれ?」と言う。
「な、何かおかしいよな!」
「うん。コイツ弱い気がする」
マリオンも驚いた顔で悪魔を見ている。
カムカが「ガク、ちょっとアーイと斬りこんでみろよ」と言って見てみたいと言い出した。
アーイとか…、だがアーイはなぁ…
「我が兵が…悪魔になってしまった…」
御覧の通り放心状態に近い。
そんなアーイにカムカが「アーイ!自分の国の兵を楽にしてやれよ!」と言って檄を飛ばす。
「楽に?」
「ああ、そうだ。もう悪魔化したら元には戻れないんだ、こうなったら人を襲わないように楽にしてやるのがお姫様の仕事だぜ!」
その言葉の何処が響いたのかは俺にはわからなかったがアーイのやる気に火が付いた。
「わかった!私に任せろ!!いくぞ!!」と言って剣を振り回すアーイ。
確かに刃が通った。
そして悪魔が黒い血を流しながら苦しむと口を開いて「よくも」と言って構えを取る。
「やべぇ、攻撃が来る。アーイ!逃げろ!!」
カムカが叫んだ時には悪魔は右手をかざして「【アーティファクト】」と唱えていた。
眩しい閃光…
閃光…
眩しいだけだった。
「あれ?何だこれ?」
カムカは驚きながら悪魔に殴りかかっていた。
悪魔が思ったより弱かった事に驚いたのはカムカだった。
カムカが言っていた大気を引き裂く爆裂も無ければ、閃光も焼ける光ではなく目潰し程度の力だった。
アーイのショートソードも刃は問題なく通る。
だが違和感はずっとある。
いくら切り刻んでも命に届く気配がない。
そして弱いと形容したが、決して腕力等は弱くなく、殴りかかって来た腕をかわした時には当たった木が根から倒されてしまった。
カムカとマリオンは流れるような連携攻撃で悪魔を攻撃している。
「マリオン!無理に俺に合わせなくていい、速度を上げていいぜ!」
「え?本当に大丈夫?」
「ああ、俺がマリオンに追いつく」
「嬉しい!いくよ!」
マリオンが更に速度を上げてカムカがそれに合わせる。
次第に橙色だった体色が赤色になってきた。
「アーイ!俺たちも行くぞ!」
俺はそう言うと光の剣を構えていた。
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