第68話 会談。
僕は困っている人の治療をしたら話し合いをカムカに任せて帰るつもりだったのだが、ウエストの王子であるガクにお願いをされてしまった。
真剣な表情を見ると断れる雰囲気ではない。
困った僕はカムカに目配せをしたら「ごめん」ってやられた。
仕方ない…
僕が「この全員で行っていいなら。駄目ならカムカに任せて帰りたい。後は僕が使うアーティファクトの事、特に複数持ちに関しては話したくない。ウエストの王様がそれでよければ会うよ」とガクに伝えると、ガクは「わかった!」と行って一足先にウエストの王様の所に行って確認を取ってきた。
ガクから「それでいいから会って欲しい」と言われたので僕達はウエストの王様の所に行く事になった。
通された部屋の真ん中でウエストの王も寝込んで居た。
ガクの話では起きられる日と寝込む日があるらしい。
挨拶の前にガクを呼んで事情を聞いたところ、先ほど助けたノースの王様は雷、こっちのウエストの王様は火で刺されたところから焼かれたらしく傷の治りがノースの王様ほどではないが良くないと言うので先に治した。
ウエスト王は深々と頭を下げてきて「急に呼びつけて、ノースの王に続き私まで治してくださってありがとうサウスの王よ」と言ってきた。僕は「いえすみません。僕はつい先日まで村の猟師の子供だったので礼儀作法とか何もしらないので失礼な事とかあると思います」と返す。
これはシモーリからもしも王と会う事になったら先に身元を明かしてしまおうという話になっているからさっさと言ってしまう。
「いやいや、そんな事は誰も気にしない。それよりもあのノースの王を治したお力には感動しました。もう一度お礼を言わせてください」
「いえ」
「後ろの方々が奥様とお仲間で?」
「ええ」
そう言って僕は特使のカムカとマリオンを紹介し、その後奥さんとしてリーンとフィルさんにジチさんを紹介した。
ウエスト王は「サウスの王様は本当に奥様が3人も居るんですね」と言って驚いていた。
当たり障りのない挨拶が続いた後で本題に入った。
「この度の戦争を早く終わらせるためにもサウスのお力を貸していただけませぬか?」
…僕が最も気にしていた話だ。
僕自身、サウスは敵にはならないという宣言をして、後はカムカの判断に任せたかったのだ。
それはサウスの人口問題や前の王にアーティファクトを取られた人たちへ擬似アーティファクトを配ったりとまだまだやる事が多い。
それに僕自身、王になったばかりで他の国に構っている余裕はない。
ここでガクが慌てて「父上、それは先ほど申した通り、その助力を願わない約束で特使のカムカにマリオン。そしてノース王の為にキヨロス…サウス王がいらしてくださったのです」と言って仲裁に入る。
ウエスト王はガクを一瞥するだけで「それは聞いておる。聞いたうえでお頼み申しているのだ」と言った。
何というか一筋縄では行かない感じがしてこの場に来た事が間違いだったかと思っていると「ちょっと待てよ」と言ってカムカが怖い顔で前に出た。
カムカは僕の横に来て「その話、蒸し返すなら俺達は今すぐ帰るぜ。ガク、アーイ。わかっているよな?」と言うとアーイさんが「あ、ああ。すまないカムカ」と言い、ガクが「父上、何を言っているのですか!」と言って必死になってウエスト王を諫める。
ウエスト王は2人に反論するのではなく「何も前線で戦って欲しいと言っているわけではございません。息子の…ガクの聞くところによれば、サウス王が本気を出せば1時間で戦争が無くなると魔女が言っていたそうですが、同時に万一手出しをすれば大切なもの…奥様方に危害が加えられる恐れがあるとか」と言いながらリーン達を見た後で「私もノース王も妻や最愛の子供たちをあの魔女に殺された身。家族に危害が及ぶ状態で助力を願ったりはしません」と言って僕に説明をする。
僕が話す前にカムカが「だったらなんだよ?」と言い依然として怖い顔でウエスト王を睨んでいる。
ウエスト王はカムカを見て「息子から聞きました。サウスには擬似アーティファクトと言うものがあると。それで遠くの者と話もできるとか…」と言い、僕を見て「後はガクとアーイが戦ったと言う悪魔と呼ばれる魔物とも戦ったことがあり、今もアーティファクトの複数持ちをして我が国に侵攻をしてくるノース兵が装備している「龍の顎」とも戦ったと言う経験。それらの面で協力をお願いしたいのです」と言った。
どうやらウエストの王は擬似アーティファクトで「龍の顎」や悪魔化と戦うつもりらしい。
カムカが口を開く前、カムカが介入の必要は無いと判断してくれたので僕は「そういう事なら問題はありません。では僕は今から擬似アーティファクトを作ってくれる人を連れてきましょう」と言った。
僕の言葉を聞いてマリオンが駆けてきて「ちょっと、お爺ちゃんを呼ぶ気?」と聞いてくる。
僕は頷いて「そうだよ」と返すとマリオンは「なら。ハイハイ!!王様!!ガクでもいいの、アーイでもいいよ」と言ってウエスト王、ガク、アーイさんに向かって挙手をしている。
代表でガクが「どうしたマリオン?」と聞くとマリオンは「擬似アーティファクトを作れるのはうちのお爺ちゃんなの!お爺ちゃんは有料だからね。ちゃんとお金払ってよね。うちの生活は私が人間になっちゃった事でカツカツなんだから」と言った。
…なんと逞しい。
そっか、言われてみれば人間の…それも大人になったマリオンの食費もかかるようになった訳だからペック爺さんは生活が大変だ。
僕が「だそうです」と言うとウエスト王は「それは可能な限り善処させてもらいますよ」と言った。
この言葉に顔を輝かせたマリオンが「やった王様の言質取れた!カムカ!これがうまく行ったらお城で結婚式も出来るよ」と言って喜び、アーイさんが「マリオン…」と言いながら頭を押さえている。その横でガクが「いいじゃないか、お金は大事だよなマリオン」とマリオンに言う。
何となくカムカとマリオンのおかげでガク達ともうまくやれている事がわかった僕は「じゃあ、戦い方とかは知っている限りでガクに説明します。擬似アーティファクトに関しては今から連れてきます」と言って行動を開始しようとした。
ウエスト王は「ええ、ありがとうサウス王」と言った後で「私の方からも一つ…お礼と言うか役に立てればの話ですが」と言い始めた。
「なんでしょう?」
「私はアーティファクトに関しては造詣が深い。あなたから聞くことなく、その鎧と剣、それに靴。後は奥様達がそれぞれ持っているS級アーティファクトに関しても知っています。その他のアーティファクトに関しても詳しいので何か知りたいことがあればいつでもいらしてください。今日のお礼に知っている事は全て伝えさせていただきます」
それは僕にメリットがあるのだろうか?
僕はこれ以上のアーティファクトを持つ気は無いのだが…
まあ、とりあえずお礼だけは言っておこう。
「ありがとうございます。ウエストの王。それではこれで失礼します」
そう言って僕は部屋を後にした。
その後、ちょっと大きめの部屋に通された僕はガクに先にペック爺さんを連れてくると言って4人+マリオンで瞬間移動をする。
四の村で今日も擬似アーティファクトを作るペック爺さんが僕を見て「どうしたの?マリオン連れて奥さん全員連れて」と聞いてきて僕が答える前にマリオンが「お爺ちゃん!大口の仕事だよ!今すぐ行くよ!!」といきなり本題を話してしまうのでペック爺さんが困惑している。
そんな中、奥からマリーが出てきて僕に挨拶をする。
フィルさん達にペック爺さんへの説明を頼んでいる間に通信球でシモーリに確認をしたが、特に城では異常は無かった。
女の神の使いに関しては考えすぎなのかな?
僕が思っているとフィルさんが「キョロくん、説明終わったよ」と迎えに来てくれる。
「で、ペック爺さんはウエストのお城で仕事してくれる?」
「いいよ!お金出るんでしょ!行くよー。僕行っちゃう!!ありがとうね仕事持ってきてくれて。ついでにさ、ここにある余っている擬似アーティファクトも買って貰ってもいいかな?」
ペック爺さんはウハウハしている。
だが、戦争している所に行きたくないと言い出したのはまさかのマリーだった。
マリオンが「マリー、お城だよ?」と言うがマリーは「お城は嫌」と返す。
僕は「え?じゃあ、お城が嫌だとサウスのお城も」と聞くとマリーは「嫌」と言った。
それは困った。
だが、13歳のマリーを置いて何日もウエストにペック爺さんを行かすわけにもいかない。
フィルさんが「どうしよう?三の村でお爺ちゃんと生活してもらう?」と提案するとマリーより先にペック爺さんが「そうだな、ドフに頼むか。マリー?ドフの家…」と言ったがマリーは「嫌」と言う。
これにはペック爺さんが「えぇ…困ったな」と言って腕を組んで唸っている。
うーん、どうしたらいいんだろう?
マリーの希望を聞いてみよう。
「マリーは希望とかあるの?」
「うん」
即答された事でマリオンとペック爺さんが「え?」と驚いている。
「それってどこ?」
「一の村!」
まさかの一の村で今度は僕とリーンが「えぇ?」と言って驚く。
僕が「…マリー、うちに泊まる?」と聞くとマリーはようやく「うん!」と言った。
「……じゃあ、一回全員でうちに行って、マリーを預けたら、またここに戻ってきて荷物を持ってウエストに行くって流れかな?」
「そうだね。でもキョロ、何でマリーちゃんは一の村なんだろう?」
リーンがこそっと疑問を僕にぶつける。
それは一の村に行ったらすぐにわかった。
父さんと母さんはマリーの宿泊を「娘が出来たみたい」と喜んでくれていたので何の問題もなかった。むしろ全然帰ってこない放蕩息子のせいで退屈だったから何日でもいて欲しいとチクリと言われてしまったほどだ。
別に僕は遊び歩いている訳ではなくて、最近は遅くまで城に居る事が多いだけだ。
マリーは「お散歩行ってきまーす」と外に出ると数分で外から、「ナックくーん!!」「あれ!?マリー?どうしたんだよ!」と言う声が聞こえてきた。
リーンが呆れた顔で「ああ、マリーちゃん、ナック狙いなのね」と言って窓からあの2人を見ている。これにペック爺さんは怒るかと思ったが「マリーも大人になって」と感涙していた。
ここで僕に問題だったのは「いいなぁ、2人きり」「本当よね」と僕の奥さんは母さんの前でわざわざ余計な事を言っていたので僕はさっさと瞬間移動をした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サウス王、キヨロスが城を経って30分くらいが経過した頃、部屋に大量の荷物と一緒に一人の老人が現れた。
サウス王が「ペック爺さん、ここがウエストのお城だよ」と言って、職人のペック殿を紹介してくれた。
この方がマリオンを作った人かと思って見ていると自己紹介もそこそこに、ペック殿が相談があると言ってきた。
ペック殿もさすがはマリオンの親だ。
この大量の荷物、作りすぎて始末に困った擬似アーティファクトを手付金代わりに売り込んできた。
それにはガクも驚いていたが、どれもゴミではなく実用性に富んでいたので即軍備増強となった。
中でも興味深かったのがやはりあのマリオンの腕に装備されているアーティファクト砲だ。
私は弓兵の練習場でアーティファクト砲を試射させて貰った。
ペック殿が「結構、反動があるからちゃんと構えてね」と言うので言われた通り筒を構えた私はアーティファクト砲を放ってみた。
「【アーティファクト】!」と唱えると轟音と反動はあったが、筒から飛び出した光の玉は狙い通りの場所に飛んでいき的を粉々に破壊した。
…初めて手にした戦闘用のアーティファクトの威力と魅力に私は泣いて喜んだ。
泣いた私の扱いに困ったペック爺さんが「あれあれ、このお姉さん泣いちゃったよ。おーい、マリオンー」とマリオンを呼んでしまっていた程だった。私がアーティファクト砲を試している間にガクはサウス王から悪魔化と「龍の顎」について教えて貰っていた。
夕刻になった頃、ガクが「アーイ、キヨロス達が帰るぞ」と私を呼びに来る。
ペック殿とマリオン、カムカと一緒にお見送りに行く。
ガクが「キヨロス、色々助かった」と言うとサウス王が首を横に振って「ううん、ここまでの事ならするよ」と言い、私が「お父様の事、本当にありがとう」と言うとサウス王が「良かったねアーイさん」と言ってが私に笑いかけてきた。
私は何とも思わなかったが、奥様方は気分を害したようで「キョロ?」「キョロくん…?」「お姉さん、そう言うの好きじゃない」と低い声で言われていた。
何がいけなかったのかあまりわかっていないサウス王はカムカ達を見て「カムカ、マリオン。後お願いね」と言うとカムカは「ああ、悪かったなキヨロス」と言い、マリオンは笑顔で「沢山稼いでくるね」と言っている。
カムカとサウス王は多くは語らないがキチンとコミュニケーションを取れていていい関係だなと思った。
マリオンは…何としてでも稼ごうと言う意思が見えてちょっと引いた。
サウス王は「じゃあみんな!」と言って消えていった。
居なくなった場所を見てガクが突然「あ!」と言って騒ぐ。
「どうしたガク?」
「あれだよ!キヨロスのアーティファクト。あれ「瞬きの靴」だ!アーイがノースの城から撤退した時に使ったやつ!」
ああ、言われてみれば。
あれがオリジナルの瞬きの靴だったのか。
今度会ったら靴に感謝をしようと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キヨロス達が帰った後、アーイは俺の元に駆け寄ってきて涙を流して喜びながら「アーティファクト砲が撃てた!私にも戦闘用のアーティファクトが使えた!」と喜んでいた。
俺も撃たせてもらったが問題なく発射できた。
これはかなり喜ばしい。
ペック殿が持ってきてくれた擬似アーティファクトを確認したのだが相当量があった。
全て擬似がつくが、
火の指輪、水の指輪、氷の指輪、雷の指輪、回復の指輪、風の指輪が全部合わせて40個。
大地の力を使った身体強化の擬似アーティファクトが20個。
アーティファクト砲は16門もあった。
これらは即金で買い取らせてもらう。
マリオンが結婚式!と大喜びしていた。
…まあ、この城で結婚式をして貰ってそのお金が回収出来たら俺も嬉しい。
この擬似アーティファクトはうまい具合に再配備して、敵の「龍の顎」兵に対応をする。
「龍の顎」の対策はとにかく早いうちに切断をすることを勧められ、悪魔化は体色が強さの表れなので戦闘不能の灰色になるまで徹底的に攻撃するように言われた。
ダメージは通って無さそうでちゃんと通っているので諦めない事が肝心と言われた。
ペック殿が「僕はこの先、何を作ればいいのかな?」と言ってくれたので本題に入る事にした。
「剣を作って貰えませんか?」と言って俺はこの前の悪魔熊との戦闘に関して伝えた。
ペック殿は流石だったのは伝えただけで「ああ、普通の剣だと威力不足で困ると」と言った後で「方法は何個かあるよ。まずは指輪を装備して剣にその効果を上乗せするの」と言った。
それはあのノースのザンネと同じ戦い方だ。
それ以外について聞くと「他だと、マリオンの「勇者の腕輪」と同じ感じで光の剣になるかな。でもあれすごい疲れるよ」と言われた。
あの赤い刀身が手に入ると聞けば尻込みすることはない。「体力には自信があるので是非!」と言うとペック殿は「そう?」と言う。
「後はね…、擬似「兵士の剣」とかどうかな?刃こぼれがなくなって延々と戦って居られる剣。まあ剣は既存の剣で柄に修復の意味で時の擬似アーティファクトを着けるんだけどね」
「それも悪くないですね」
そう話しているとアーイがやってきて希望の剣の話になった。
光の剣に関しては軽過ぎると遠心力を使う剣術には不向きと言う感想だったのでペック殿は重量を重くするアーティファクトで重くしたい時だけ重くする事を提案していた。
結局、俺とアーイの今の剣に修復の能力を持たせた剣と、光の剣を作ってもらえる事になった。
初めは嬉しそうだったペック殿だったが「2人とも二刀流なんだね…じゃあ僕は沢山作る事になるわけだ…」と言って遠い目をしていた。
後は城の技術者にアーティファクト砲の製作補佐として手伝いをさせつつ技術供与を頼んだ。
剣だけでも終わらせて貰いたいと伝えると3日かかると言われた。
3日なら何とかなるかも知れない。
とにかく今は数が揃うまで今ある擬似アーティファクトで疲労がどの程度か経験をする事にした。
カムカとマリオンには3日間は教官として訓練に参加してもらった。
カムカが装備する擬似アーティファクトは火の指輪と身体強化を装備していて「大地の核」周辺では常人にはあり得ない動きを見せてくれた。
本人は「イーストの時は「大地の核」が弱っていて満足に動けなかったんだけどこれならやれるな」と頼もしい事を言ってくれた。
俺の主観だが擬似アーティファクトは使いようだが1時間以内に戦闘を終わらせないと疲労で動けなくなるのがわかる。
まあ、周りと同じく身体強化のみに絞れば良いのだが、俺はそこにプラスして剣を二振り持つ。そうなると1時間がいい所になる。
小隊を5人1組にする場合、2人は擬似アーティファクトを使わせない事も視野に入れよう。
カムカがこれからの話を聞いてきた。
剣が出来次第、こちらも進軍を始める事を伝えた。
その後は擬似アーティファクトが一定数出来次第、後続の部隊に持たせる手はずになっている。
それを聞いたカムカは「んじゃ、俺も頼もしい援軍を呼ぶ事にするか」と言って通信球を取り出した。
サウス王に援軍は頼めないのだ、何処に援軍を頼むのだろう?
俺は気になってカムカに聞くとカムカは「そりゃあ勇者様と天才アーティファクト使いだよ」と言った。
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