第63話 「奇跡の首飾り」。

結局、会議室に着いたのは私が最後だった。

父からは「体調が芳しくないとは言え、あまりそういう態度は望ましくない」と言われたのでウエストの前だが私は素直に謝った。


だが、そこにウエストの王が「お気になさらずに、ずっと体調が優れなかったので心配をしていましたが、最終日に元気な姿を見られて私も大変喜ばしく思います」と言って助け舟を出してきた。


父は「そう言ってもらえて助かる」と言って和平交渉が始まった。


和平交渉はほぼ最終段階になっていた。

父とウエスト王の話では、

・焼け落ちた村や町の復興支援を第一に執り行う。

・ノースが占領した村や町を解放し、18年前の状態に戻す。

・お互いの国民に手厚い補償をする為にお互いに足りないモノは可能な限り援助し合う。

と言うものになっていて、ウエストの王も素直に喜んでいた。

私としてはノースが占領していた村や町があったのに対し、ウエストが占領した町が無かったことに違和感を覚えた。


父が今まで済まなかったと言い、ウエストの王は水に流して未来を求めて行こうと言っている。


私は夢でも見ているのか?

散々、周りから聞かされた話では、ウエストは極悪非道でとても和平なんかを結ぶような人間ではないと言われていた。


それが何と言うことだ?

たかだか3日の交渉でこんなにも纏まるのか?



父が「では、これまでの犠牲に哀悼の意を捧げましょう」と言うとウエストの王も「そうしましょう」と言って民や志半ばで倒れた兵と最愛の息子達にと言って祈りを捧げた。



目を開けた2人、父が「ようやくこの日が来た」と言い、「ようやく会って落ち着いて話せる日が来た」とウエストの王も言う。


2人の王がもう一度目を閉じて感慨に耽る。


何なのだ一体?


混乱する私の前で今度は「握手をしませんか?」「是非」と言うと王達は握手を交わす。

父は私に「お前も王子と握手を」と言い、ウエストの王も最終王子に「握手を」と言っている。


私は混乱してしまっているが、父の言う通りに最終王子と握手を交わした時、最終王子が「良かった。ようやく10年前の約束が果たせそうだ」と言った。


約束?何のことだろうか?


そんな不思議な時間の中、ザンネが「王達よ、和平条約の変更を進言します」と言った。

その言葉と共に突然現れたメイドが父とウエストの王、そして私達の前に一枚の紙を差し出してきた。


紙に目を向けるとそこにはまさかの内容が書かれていた。

・ウエストはノースが征服し支配する。

・取り込んだウエストの力も用いてイースト、サウスも征服しノースがこの世界を統一する。

・この世界を統べるのはノースの王子カーイ。


私は紙の右側を、左側を最終王子が持っていた。

どちらの手が震えているのかわからないが紙は震えていた。



父が激高し「ザンネ!これはどう言うことだ!」と真意を問うと「どう言うこと?こう言うことですよ」と言ってザンネが王達の前に飛び、二本の突剣による素早い一撃が2人の王の胸を突いた。


一瞬の出来事、直後に聞こえるザンネの「【アーティファクト】」の声。

父は雷撃に、ウエストの王は炎に胸を焼かれ膝をついた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


目の前で父上とノースの王が剣に貫かれて膝をついていた。

ふざけた内容の新しい和平条約の文面に呆気に取られている間の一瞬の事で対応が出来なかった。


剣姫…、アーイが先程までの話し方ではない、女性らしい話し方で「お父様!」と言ってノースの王に声をかける。



先程突然現れたメイドが「大丈夫ですよ。死んでいませんわ。意識もあります。ふふ」と言いながらザンネの横に立つ。


突然現れた?

その事が酷く俺を動揺させる。

もしかして、コイツが母上を殺した女か?


「ザンネ、ちゃんと意識を残して倒すなんて本当に優秀。それに決断も早いし思い切りもいい。誰かさんとは大違いね。アハハハ」と言って笑う女を見て父上が怒りのこもる眼差しで「お前は…」と言う。


「ウエストの王様、久しぶり。18年振りね。私、あの日に言いましたよね「斬られた事はチョット許せないかも。いずれ後悔させてあげる」って。だからね私、貴方の子供達を殺したの。そうしたら貴方は後悔すると思ったし、全面戦争になればもっと人が死ぬって思ったの」

そう言った女は「なのに…」と続けると、バカにするような顔で「貴方って本当につまらない人。私の思惑に気付いたのか、この18年間ずっと防戦一方なのよね。だから考えたのよ。和平条約が締結される直前に台無しになったらどれだけ悔しいかなって。うふふふ」と言った。


…コイツが母上だけでなく兄上も…。


驚く俺の隣で剣姫が「ウエストが防戦…一方?」と呟いて青くなっている。

もしかするとこの戦争の正しい認識を持たされて居なかったのかも知れない。

俺は剣姫に「今は集中を切らすな。反撃の機会を伺うぞ」と小声でそう話しかけた。


女が今度はノースの王の方を見ると「18年間お疲れ様。でもアンタみたいな屁たれはもう要らないの。途中で何度も何度も心挫けちゃって、その度に和平交渉をしたいなんて言い出して。まあ、それも仕方ないかしら?」と言って笑うと「私が殺した…、あら、これは言ってなかったわね。その奥様を生き返らせる為にウエストの人間200人の生贄が必要って教えたから最初は目の色を変えたけど、明らかに死者が200人を超えても蘇らないんですものね。それで嫌になっちゃって、戦争辞めたくて。でも周りからは辞めるなんて認められないし相当な重圧よね。それでもまた和平に持ち込むなんて、その点では凄いわよね。途中から私の作った「精神支配の指輪」の効力も無視していたものね」と一気に言うと最後に「ねえ、教えて?何で最愛の妻の為に200人も殺せたの?アハハハ」と高笑いをした。


最悪だ…、コイツは先に父上にそれを持ちかけて振られたからノースにやったのは父上の読み通りだが、精神支配の指輪?そりゃあ話し合いも通用しなくなる。


俺はそれ以上にアーイが気になって横を見るとアーイは顔面蒼白で「え……、あ……」と言っている。


ダメだ…完全に放心状態だ。

この状況でどうやって逃げ出すか倒すか、それも1人で3人も守りながらか…

時間と隙が欲しい。


考えるんだ俺。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さっきから何が起きているの?

この女は何?

お母様を殺した?

お母様の為にお父様が戦争を起こした?


身体が震える。

足元が揺れる。


そんな中、「…たかった」というお父様の声が聞こえる。


「なーにー?王様?」

「妻には生まれたばかりのカーイを育てさせてやりたかった、まだ2つのアーイの成長を見させてやりたかった。子供達に妻の愛情を一身に受けてもらいたかった…」


お父様はそう言うとうなだれてしまった…。


その姿を見て女が「やだー。格好悪いー。何これ?憤死ー?アハハハ」と下卑た笑いでお父様を見る。



許せない。



動け、動いてくれ私の身体よ。

何のための訓練だ?

今こそ動け!


その時、私の左側から「なあ…」と声がした。

最終王子だ。



「そのカーイってのは何でここにいないんだ?」


………はぁ?

今それか?今それなのか?

本当にウエストの奴は何を考えているのかわからない。


先程話しかけられた時の安心感は何だったのだ、私はおかしくなっている。


最終王子の質問にザンネが「カーイ様はお身体が弱いので今日もお部屋でお休みになられていますよ」と正直に話す。


そう、カーイは昔から身体が弱い。

お陰で私のように、私以上に酷くなっては困るとアーティファクトにも触れさせていない。


「俺たちは存在すら知らなかったな」

「ええ、病弱な王子の話など敵国にするべきではありません。生まれた話も王妃様の訃報で有耶無耶になりましたしね」


「その病弱な王子がこの世界の王?」

「はい。ただあくまでお身体に差し障りのないように、私と神の使い様でフォローはさせていただきます」


「お前らが国を乗っ取るのか?」

「人聞きの悪い、あくまでこの世界に疎い王子に世界の事をお話しして、正しい採択をしてもらいます」


「剣姫にしたようにか?」

「アーイには何もしていません」


!!?

私?私に何が?

更に混乱する私の耳に「「には」ね」と聞こえてくる。


「なら何で彼女は真実を知ってこんなに動揺している?ノースが始めた戦争という事すら知らないぞ?」

「それは余計な迷いが出ない為です」


には?

ザンネは私にはと言った。

カーイにはするの?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺はタイミングを伺うべくザンネと言う男を挑発しながら話しかける。

剣姫は大分落ち着いたか?持ち直せるか?


そこに女が割り込んでくる。

コイツ、神の使いとか言われていたけど魔女としか思えない。


魔女は「そんな事どうでもいいのよ王子様」と言って鼻で笑うと「今回の会談に何で王とその子供だけが必要だったかわかるでしょ?貴方達はココで死ぬの」と言って手を首に持って言って横に引くジェスチャーをする。


「筋書きはそうね、会談が拗れてノースの王様がウエストの王様に斬りかかる、ウエストの王様がそれを返り討ち。それに激高した剣姫がウエストの王様を殺して最終王子と死闘。最後には剣姫と最終王子は相討ちに近い形だけど、最終王子はまだ生きて居たからザンネに討ち取られる。そんな感じかしらね?」


まあ誰でも思いつきそうなシナリオにザンネが「はい!神の使い様!」と気持ちのいい返事をしている。太鼓持ちめ。


太鼓持ちの返事に気をよくした魔女は「ふふふ、いい返事。ザンネって私好みよね」と言い、ザンネは「ありがとうございます」と返す。

勝手にザンネと魔女は盛り上がっている。


俺は煽るように「何が神の使いだよ、魔女が…」と言うと明らかに気分を害した魔女が「なに?今何か言ったかしら?言ったわよね。王子様?」と言って俺を睨む。


煽りに効果があることがわかったので「魔女って呼んだんだよ」と言うと魔女の眼光がさらに鋭くなる。


「私は神の使いよ!魔女なんかじゃないわ!!」

「おかしな魔女だ。神の使いなら俺相手に激高しないで普通にたしなめれば良いだろう?何か?お前、自信ないんじゃねえの?」


俺の煽りに青筋を立てた魔女は「私は神の使い!魔女と神の使いの違いもわからないなんて愚かな子!」と言うと「ザンネ!この男を殺して!」と言った。ザンネはすぐに「はっ!」と言って剣をコチラに向けてくる。


隙が出来た!!

俺はすかさずアーイに「アーイ!お前は父上とノースの王の所に行け!!」と言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


力強い声。

最終王子が私に声をかける。

何と言った?


お父様とウエストの王の所に!?

私は2人の元に駆け出して2人の前に立ち剣を構える。



ザンネが驚いた顔で私を見て「アーイ!?」と呼びかけると「よそ見すんなよ!」と言って

最終王子がロングソードを抜いて斬りつける。ザンネの剣は細身の突剣なのでまともに受け止めれば折れる。


やれる!

最終王子のロングソードなら折れる!


そう思ったのだが魔女が「だめよ!」と言って最終王子の邪魔をした。

何か光の壁のような物を出してザンネを守っている。


ここでザンネが「アーイ!コイツを!最終王子を止めるんだ!」と言って私に命令をしてくる。今までなら真っ先に動いていた身体も動かない。


動かない私を見てザンネが「何故だ!?アーイ!どうした!?」と言うとそこに再び最終王子が斬り込みながら「バカかお前は!誰がこれから殺すって言った奴の命令を聞くんだよ!」と言う。

また直撃の剣はあったが今度は魔女ではなくザンネが二刀でうまく剣をさばいていた。



「ほら〜、もう諦めなさいよ。どうせ逃げられないんだから」

いつのまにか平静さを取り戻した魔女が出入り口の扉の方へ移動してニヤニヤしている。


確かに逃げ場はない…

このまま殺されるしかないと言うのか?


その時、「ひ……姫」と聞こえてきた。

ウエストの王が私を呼ぶ。


私はウエストの王に駆け寄って「何だ!?しっかりしろ!」と言うとウエストの王は首を横に振って「私達のことより貴女だ。先程の私の話…覚えておいでですね?」と言い、私の返事を待たずに「「瞬きの靴」です。今貴女の仲間はノースの王と私、それと貴女とガクです。そして思い出せなくてもいい…昔会談を行った土地…そこはウエストの城です」と言った。


「な…何を言っている!?」

「いいから…今は私の話に耳を傾けて…」

そう言うとウエストの王は同じ話をした。


「それが何なんだ!?」

「次に貴女は自身のアーティファクト「奇跡の首飾り」に意識を向けて…「瞬きの靴」と言ってからアーティファクトと唱えなさい」


段々と苛立ち混乱する私は「何?」と聞き返すとウエストの王は「いいからやるんだ!!それが起死回生になる」と声を荒げた。


何だかわからんがふざけているわけではないのは顔や声から伝わる…

ならば私は言われた通りにする!



「「瞬きの靴」、【アーティファクト】!」


次の瞬間、私のアーティファクトが光り輝いた。

それまでどれだけ意識を集中しても発動しなかった「奇跡の首飾り」が発動した。


今まで発動しないのは私の修練不足や記憶喪失が原因だと思っていたがそうではなかった?


ウエストの王はどこまでこのアーティファクトを知っていると言うのか…


光は首から足に動いた。

光はそのまま足全体を覆ったので私は思わず「靴…?」と呟いてしまう。


「何!?何であの娘が「奇跡の首飾り」を使えるの?ノースの王には使い方を教えるなと言っておいたのに!」


魔女の声が遠くで聞こえる。

ザンネも遠くで私の名を呼ぶ。


!!?


変な言葉だが私の周りだけ景色が流れていく。

お父様とウエストの王、そして最終王子はそれに着いてきている。

ザンネと魔女が取り残された。


次の瞬間、私は外に居た。

見覚えのあるような無いようなこの場所は何処だと言うのだろう?


「アーイ!」

私を呼ぶ声がする。

何故だろう、こんな時なのにその声を聞くとすごく安らぐ。

そして何故か私はフラついて立っていられない。


遂には倒れてしまう。

ガッシリとした腕が私を抱き抱えたのがわかった。


これは最終王子か?

仮にも一国の姫を抱き抱えるとは…けしから…ん…


…私はこのまま眠りについてしまった。

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