第38話 死と0と1の間。

遠くで声がする。

これはカムカの声だ…

カムカは必死に「どうなってんだよ、どうすんだよ!」と言っている。

フィルさんも「ムラサキさん!!どうしたらいいの?キョロくん!!」と叫んでいる。



僕は何とか目を開けた。

僕の目線はとても高くなっていて、カムカより背が高かった。

フィルさんが真っ青になって泣いている。

僕は泣いているフィルさんに「どうしたの?泣かないで」と言いたかったが声が出なかった。



ムラサキさんの声が聞こえる。

「アーティファクトの複数持ちの限界が来たのです。今までは「時のタマゴ」の乱用と魂の消費のバランスが奇跡的な状況だったので「万能の鎧」「革命の剣」「瞬きの靴」を装備しても何とかなっていました。そもそもこの新しい3つのアーティファクトも魂を消費するアーティファクトだからこそ、奇跡が続いたのです。でも、その均衡が崩れた。あの「支配の王錫」です。あれを持った事でキヨロスは限界を超えてしまった…」


ムラサキさんの説明にカムカが「そんなのは良いんだよ!元に戻んのかよ!」と叫び、ムラサキさんが答えられずにいるとフィルさんが「ムラサキさん!!」と強い口調で呼びかけるとムラサキさんは少しの後で「……もう、変わってしまったら元には戻れません」と言った。


トキタマが「お父さん!お父さん!!」と僕を呼び、フィルさんがトキタマに「トキタマちゃん!キョロくんが…」と言っている。


…僕は何とか目を凝らし、手を動かす。

赤色と灰色の間のような色をした体毛。

高い目線…

アーティファクトの限界。


ああ、僕は悪魔化してしまったのか。


こうなってしまったら仕方ない。

それに僕の魂は残り僅かだった。


何とか口を開こうとする。



力を籠めると「う…ぅ…」と何とか声が出ると僕の声を聞いたフィルさんが「キョロくん!!」と呼んでくれた。


「…し……て……」

「何?大丈夫!?」


「…を…して…」

うまく声が出ないが頑張る。

僕の意識のあるうちに言葉を伝えるんだ。




「僕を…殺して」


僕はちゃんと気持ちを言葉に出来た。

その言葉は正しくフィルさんに届く。

フィルさんは真っ青な泣きはらした顔で目を見開いて「………何を…言っているの?」と聞き返してくる。



「自分…の…身体は…わかる…から…………もう…助から…ない…から……」



僕の言葉にフィルさんはフィルさんは顔をぐしゃぐしゃにして「嫌!!諦めないで!!」と言って泣いてしまう。



「カムカ……、お願い…だ…。僕が僕で…いられる間に…殺してくれ…」

少しずつ言葉が続くようになってきた。

カムカは物凄く辛そうな顔で僕を見ている。



「頼むよ…カムカ…」

カムカは動けない。

固まってしまっている。



今度はマリオンを見て「マリオン……、君の…光の剣で…、頼む…」と言った時、フィルさんが「嫌!!やめて!!」と言って僕の身体に手を伸ばして泣きつく。



「私、まだキョロくんに何も言っていない。何のお礼も出来ていない!お願い!諦めないで!!」

「ごめんね…フィルさん…。僕はもう…無理なんだ……。それにもう……僕の魂は…残り僅か…だった…から…」



「嫌、何で死ぬはずの私が助かってキョロくんが死ぬの?もっと話がしたい。お礼だってしたい。もっと色んな所に一緒に行きたい。ジチから料理を教わるから食べて欲しい。ウチに置くカップも一緒に選びたい!それで何時間もお茶をしたい!!」

泣きながら必死に想いを口にしてくれるフィルさんに僕は「ごめんね…」と言うとフィルさんは「謝らないで!!諦めないで!!」と言って崩れ落ちて泣いてしまった。



「カムカ…。頼むよ。兄貴は弟分の後始末を…してくれるよね?」

「兄貴…?」


「前に…言ってくれたよね?「兄貴みたいな感じで助けて」って…」

「ああ、言った」

カムカも目を真っ赤にして涙をこらえている。


「僕がこのまま…あの悪魔みたいに…なって皆を襲う事だけは…嫌なんだ。助けると…思って…」

「助ける…」



「うん…、頼むよ。兄貴だろ?」

カムカは泣きながら僕を見る。


「…、……、………仕方ねえ弟分だ!この俺と俺の筋肉に任せろ!!!」

「ありがとう…」


カムカは決断をしてくれた。

これで僕は大切な人を傷つけないで済む。


ホッとした僕にマリオンが「アンタ、泣いているよ」と僕に話しかける。僕は「ああ、そうか…泣いているんだ…。嬉しいから…。皆に…止めて貰えて…。皆を傷つけないで…済んで……」とマリオンに返事をした。


その間もカムカは意を決して集中している。

カムカの顔を見て本気だと察したフィルさんが「カムカやめて!!」と言って僕とカムカの間に立ちはだかろうとする。それをマリオンは「お姉ちゃん、止めちゃダメだ!!」と言ってフィルさんを羽交い締めにして止める。


マリオンに止められてもフィルさんは「させない、キョロくんを殺させない!!ムラサキさんを使ってでも私が止める!!」と泣きじゃくりながら叫ぶ。


フィルさんはマリオンに止められても左腕を前に出して「【アーティファクト】!!」と唱えるが何も起きない。


その後も何回も「【アーティファクト】!!」と唱える。


フィルさんが「【アーティファクト】!!【アーティファクト】!!【アーティファクト】!!【アーティファクト】!!」と唱えてもムラサキさんは発動しない。


「何で!?ムラサキさん!!お願い!私はキョロくんを助けたいの!!」

左腕のムラサキさんを自分に向かて必死に語り掛けるがムラサキさんは返事をしない。


そんな時、カムカが普段のカムカとは違う声でフィルさんに「フィルさん、キヨロスを見送ってやろう」と話しかける。


「見送…る……?」

「そうだ、このまま悪魔になるんじゃなく、キヨロスのまま見送るんだ」

この言葉にフィルさんが天を仰いで「あぁぁぁぁぁ……」と言いながら声をあげて泣く。


「お姉ちゃん、このままじゃコイツはお姉ちゃんが心配で安心できないよ」

「マリオンちゃん?」


僕もマリオンに合わせて「フィルさん…笑って…」と言うとマリオンはいつの間にか兜を取って涙目で僕を見て「お姉ちゃんは笑ってる。だから安心しろ!」と言ってくれている。

本当にマリオンはいつか人間になるんじゃないかと思う。



「ありがとう…みんな。カムカ…一の村に行ってみんなに話を頼んでもいい?」

「仕方ねぇ弟だ!任せろ!!だからお前は安心して逝け!!」



「ありがとう…、父さん…母さん、村長…ナック…。………リーン」

僕はそう言うと目を瞑る。

見えると言うのは案外恐ろしい。

ましてや僕は何回も死んでいる。

普通の人より死に対して恐怖があるのかもしれない。


目を瞑ると皆の笑顔が見える。

僕はきっと笑顔を守れた。

やり切れた。


「いくぞ!キヨロス!!【アーティファクト】!!」



物凄く熱くて痛いものが僕の胸に当たった。

そこで僕の意識は無くなった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



私は、彼に何をしてあげられたのだろう。

毒竜の毒で死を覚悟した時。

とても怖かったけど、お爺ちゃんが居て、ムラサキさんが居て、弱音なんてはけないと思ってグッと堪えていたあの日々。


自分の身体は自分がよくわかる。


本当にそうだ。私はもって後2日だろうと思っていた。

だが、あの晩彼が来た。


私なんかより全然年下の幼い彼は、優しい顔つきに似合わない剣と指輪と一羽の小鳥を連れてやってきた。


そして、私を唯一治せる薬、毒竜の角を持って現れた。


最初の彼は打ち解けていない他人行儀な喋り方で「僕が明日から持ってきたんだ。さあ!これを飲んで!」と言ってくれた。

次に薬が効いて起きた時は「今から、明日をちょっとだけ良くしに行ってきますね」と言って毒竜を退治しに行ってくれた。


私はそのお礼をずっとしたかったのに何もできなかった。


彼は年相応に繊細で傷ついた。

自身が授かったアーティファクトに翻弄されて、記憶を改ざんされ、戦いを好むようにされたりもした。

その事で泣いた時に抱きしめてあげることくらいしか出来なかった。


彼はアーティファクトを使う事で魂をすり減らすことがわかっても使う事は止めなかった。

沢山使った。人の為、自分の為に沢山使った。


彼の目的、自身が育った村を守る。

その目的の達成はとにかく困難だった。

この国の王は悪魔になっていて、それを止めない限り彼の目的は達成されない。


一度戦ったが勝てなかった。

そして一からやり直すことになる。


また私は毒に侵された身体に戻る。

彼はそんな私を心配して最善を尽くしてくれた。


いつの頃からだろう?

ひょっとすると、出会ってすぐかもしれない。

私は彼に惹かれていた。


二度目の毒の中、彼が数時間で駆けつけて謝りながら薬をくれた時、不謹慎だが嬉しくて仕方がなかった。



二度目の悪魔との戦い。

私たちはまた勝てなかった。


彼は私たちが傷つくのを良しとせず、単身で乗り込み死闘の果てに悪魔を倒した。

そして彼自身も身体に限界を迎えて、悪魔の姿になり、殺してくれと頼んできた。


仲間が意思を汲んで彼を殺した。


私は何とか彼を助けたかった。


また一緒に旅をしたり、ご飯を食べたり、話をしたかった。


もうそれも叶わない…


私がそう思った時、「叶うよ」と声が聞こえた。

突然の事に驚き、「え!!?」と言って私が目を開けると、そこは城の広場ではなく、真っ暗な場所だった。


全ての景色は止まっていて、彼を…キョロくんを殺したカムカは泣きながら殴った格好のままで停止していた。


彼…、キョロくんは悪魔の身体から人の身体に戻って横たわっている。


原因を作ったフードの男は混乱した面持ちで立ち尽くしている。

私の横には命を持った人形のマリオンちゃんが立っていた。


私は何も考えずにキョロくんのそばに駆け寄ると「キョロくん…キョロくん…」とキョロくんの名前を呼ぶ。


名前を呼んでも反応は無い。

愕然とする私の耳に「今は無理だよー」とまた聞こえた。


またこの声だ。


私が辺りを見回すとそこには1人の中年男性が居た。

「僕は神の使いの1人「見守る者」」

「「見守る者」?」


「そう、彼…キヨロスは神の使い「授ける者」から見守るように言われていてね。見守っていたんだ」

「神の使い…」

そう、その話は昨日聞いた。


「神の使いならキョロくんを助けて!!」

「それは権限外なんだよね。とりあえず全員揃うまでちょっと待っててよ。一瞬だったり永遠だったりだからさ」


神の使いはそう言って微笑んでいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



突然、私の前に神の使い様がやってきた。

昨日、<成人の儀>でお会いしたばかりだ。


「リーン、キヨロスが大変な事になっています。一緒に来てくれますか?」


神の使い様は私の大切な人の名前を出してきた。

仮にこの人が偽物の魔物でも私はついて行くと言う。


「行きます。連れて行ってください」


私の言葉に神の使い様は「ありがとう。少し寄り道をします」と言って、二の村付近の山に行く。

移動は全て瞬間移動だ。寄り道と言われても私はただ立っているだけ。



「「道を示す者」!連絡をした通りこの国の危機です。一緒に来てください!」

穏やかな神の使い様が大きな声を出していらっしゃる。


すると遠くの方から凄い速さでお爺ちゃんがやってきた。


お爺ちゃんは私を見て「この娘さんは誰?」と聞く。神の使い様は「「道を示す者」、こちらは一の村のリーンです。今回の切り札になると思われる人です」と紹介をした。


切り札?私が?


「リーン、こちらは神の使いの1人「道を示す者」です。さあ、時間が惜しいので先に進みます。次は四の村です」

四の村ではジチさん、ドフお爺さん、マリーちゃん、ペックお爺さんにキョロが大変だと告げて着いてくるように神の使い様は頼んでいた。


私は昨日、キョロからこの人たちの名前を聞いていたので少しなら知っている。

多分、ドフお爺さんがガミガミ爺さんさんなんだろうなと思った。


皆、キョロの危機と聞いて二つ返事で着いてきてくれる。

私はそれが自分の事のように嬉しかった。



「リーン、覚悟を決めてください。キヨロスは死の淵に居ます。彼を助けるために皆が集められたのです」


神の使い様?今なんて言ったの?

キョロが死の淵?

昨日から何回も跳んでいたから大変なのはわかって居たけど、死ぬなんて考えもしなかった。

私の頭は真っ白になってしまった。


ジチさんが「あなたがキヨロスくんのいい子か!初めまして!お姉さんはジチ。よろしくね」と言って話しかけてくれる。でも私の頭の中はキョロが死の淵に居るって事で頭がいっぱいだ。


「大丈夫、キヨロスくんならいつも何とかしちゃっているんだから、今回もきっと大丈夫よ」

その事は私が一番知っている。そうだ、キョロなら大丈夫だ。だから私も「はい」と返事をした。


「小僧め、こんな可愛い子がいるならもっと堂々と自慢すればいいものを」

ドフお爺さんが私を見てやれやれと言っているとジチさんが「そりゃあ、あの年頃は恥ずかしいんだから言える訳ないでしょ」と言って笑う。


「だったら姉ちゃんも小僧をからかうんじゃねぇよ」

「それはそれなの」

神の使い様が「さあ、行きますよ」と言うとジチさんが「城にですか?」と聞く。


「いいえ」

「じゃあどこに?」


「生と死の狭間、0と1の間です」


神の使い様の言葉にあわせて景色が変わる。

辺りは真っ暗な場所だ。


向こうに人が見える。

あそこにキョロがいる?


私が駆け出そうとした時、ジチさんが私の肩に手を置いて「はやる気持ちはわかるけどさ、リーンちゃんは最後においで、お姉さんが場をとりなしておいてあげるからさ」と言った。


「え?」

「大丈夫、お姉さんは悪いようにはしないから。神の使いさんリーンちゃんが最後に来れるようにここで一緒に待っててよ。準備が出来たら声をかけるからさ」


「…わかりました。よろしく頼みましたよ。ジチーチェ」

「もう、その名前は嫌いなの、お姉さんの事はジチって呼んで」

ジチさんは神の使い様にも物おじせずにそう言うと1人先に走って行ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



いやー、驚いたね。

まさかキヨロスくんのいい子があんなに可愛らしい子だとは思わなかったよ。

お姉さんは断然フィルを推していたんだけど、リーンちゃんも応援したくなる。

こりゃあ静観するのが正解かもね。


そして、お姉さんが修羅場を回避するためにこうして走って一肌脱ぐわけだ。


とりあえずキヨロスくんが死の淵に居るってなると…。

あー、フィルがべったりくっ付いて泣きじゃくっているよ。


あれ?カムカとマリオンは動いていないね。何か知らないおじさんが2人いるけど…

まあいいや。


私は「フィルー!!」と呼ぶとフィルはすぐに私を見て「ジチ!!」と言いながら駆け寄ってきて私の胸で泣く。


「キョロくんが、キョロくんがね」

「よしよし、泣かないの。何とかする為にお姉さん達は呼ばれたんだし」


「そうなの?」

「だからちゃんとして」


目を潤ませて「うん、わかった」と言うフィルの可愛い事と言ったらなかった。

同じ女でもそう思ってしまう。


かぁーっ、なんでもうこの子はこんなに可愛いの?

あー、やっぱり推したい。

キヨロスくんにフィルを推したい!!


でもダメ、今は駄目。

皆で力を合わせてとかだとこのままだと失敗しちゃうから駄目。


「フィル、落ち着いてよく聞いて」

「何?」


「今、あっちにドフ爺さんと、マリーにペック爺さん、後はよくわかんないお爺さんと神の使い、後は一の村の子、キヨロスくんのいい子が居る」

「え?何で!?」

フィルは凄く驚いた顔で必死にリーンちゃんを探している。


「何でって…助けるために必要だから神の使いが連れてきたんでしょ?」

「そうだけど…」


「フィルはどうするの?キヨロスくんは私のって言って戦うの?」

この問いにフィルは無言で困っている。拗ねないの…なんて顔しているのよ。


「違うよね。今はキヨロスくんを助けるのが先だよね」

「うん」


「相手はキヨロスくんと同い年の15歳。私たちは大人だから一歩引いて見守ろうね」

「………やだ」

全く、20歳が15歳とそんな所で張り合わないのよ。

私は呆れながら「フィルー?」と呼びかけるとフィルは「…頑張る」と言った。


「よろしい。じゃあ呼ぶね。いい?」

「うん。頑張る」



「おーい、いいよー」

その声にあわせてドフ爺さん達がやってくる。

皆キヨロスくんを見てショックを受けている。


あ、誤解のないように言うけど、お姉さんもショックは受けてますから。冷血とかじゃないですからね。


ドフ爺さんが「フィル、大丈夫か?」と優しく声をかけるとフィルは「お爺ちゃん…私…私…!!!」と言ってドフ爺さんの胸でもう一度泣く。

うんうん、何べんでも泣きなさい。


マリーとペック爺さんはキヨロスくんにショックも受けていたけど…「マリオン、可哀想。泣いている」「おお、本当だ、マリオンはマリーと一緒で心の優しい子だね」って言って2人でマリオンを見て泣いている。


こっちの2人の方が冷たくない?

まあ、皆より接点が少ないって言うのもあるのよね。



神の使いがおじさん2人のうち中年のおじさんに「集まりましたか?」と声をかける。


「いや、まだ「記す者」が来てないな」

「じゃあ、待ちますか」


「一瞬だったり永遠だったりだからすぐだよね」

「そうですね」


何か訳わかんない会話をしていると後ろから真打登場。


「キョロ?」

顔面蒼白で今にも倒れそうなリーンちゃんが登場です。

お姉さんはフィルのフォローよりもあっちかな?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ドフ爺さん、フィルをお願いね」

「おう、姉ちゃんも大変だな」


「お姉さんは出来る女だからいいの」

私はそうやってリーンちゃんのそばまで行く。

あくまで話しかけずにやや後ろで待ちます。



リーンちゃんが大粒の涙を流して「キョロ?ねえ、キョロ?どうしたの…何があったの?何で倒れているの!!」と言って倒れたキヨロスくんに詰め寄っている。


「起きて、起きてよ。私、ずっと待っていたよ。いっぱい跳んで大変だった日も全部心配だったけど待ったよ。昨日みたいに話せる日を信じて待っていたんだよ。起きて、起きてよ!キョロ!!」

リーンちゃんはキヨロスくんに抱き着いてワンワン泣いているとそこに中年のおじさんが空気を読まずに「起きたら死んじゃうんだよー。死んだらこの苦労が台無しになるんだよ」と言って割り込んでくる。


「ちょっとおじさん。今はそう言うのいいから」

「おじさんって…僕も神の使いなんだよ。一応偉いんだよ?」


「「見守る者」、先に停止している者を動かしてあげてください」

よく知っている方の神の使いがおじさん神の使いに命令している。

神の使いは私の心を読んだのか「命令ではないですよ?」と言うので私はすぐに「ああ、失礼しました」と謝る。


中年神の使いが「うん、じゃあ動かすよー」と言うと何か奥に居たローブ姿の男が一番に動き出して「ああ、王よ…何故こんな事に」とかキヨロスくんを王とか言ってる。

それを見たリーンちゃんがとっても怖い顔で「あんたはフードの男、あんたがキョロに何かしたの!?」と言って睨んでいると中年神の使いが「僕は見ていたけど、この人は関係もしているししてもいないから放っておいていいよー」と言って間に入る。


そして中年神の使いは「あー、この人…今はあんまり関係ないしうるさいから止めよう」と言ってフードの男?の動きを止めて端っこに追いやってしまった。


次に動き出したのはマリオンで周りを見て「あれ?みんな居る。アイツの横の子は?」と言ったがマリーとペック爺さんが説明をしていくれているので放っておく。


最後に動いたのはカムカだった。

カムカは「キヨロス!俺はきちんとお前との約束を果たして一の村に…って、あれ?何かいっぱい居る」と言っていると、神の使いが「カムカ、大義でした。私たちはあなたの覚悟を見守っていました。「道を示す者」も喜んでいますよ」と挨拶をする。


「え?ああ、どうも…これってどう言う状態ですか?「道を示す者」?って師匠!!師匠じゃありませんか!!二の村に行くお許しを貰って、二の村が滅茶苦茶でとりあえず師匠の所に戻ったら急に居なくなっていて、何処に行っていらしたんですか!!」

カムカの声に「久しぶり~」と手を振るお爺ちゃん神の使い。


何と、謎のお爺ちゃん神の使いはカムカのお師匠さんだった。

何でもカムカは神の使いに「身寄りがない」って理由と、「A級のアーティファクトを授かった」って事で選ばれた「勇者になる男」で、国のピンチとかの時に権限で神の使いが介入出来ない事柄に人として介入してくれる正義のための男だったらしい。


…でもそれっていいように使われてない?と思うんだけど…まあカムカ自身、今初めて聞いて感動しているし水をさすのは良くないわよね。



落ち着いたカムカがリーンちゃんに「君が…、キヨロスの…」と言って寄って行く。

優しい顔で「最後までキヨロスは君の名前を呼んで居たよ。俺の事を兄貴のようなって言ってくれて君たちに話に行くように頼んで逝ったんだ…」と言って何があったかを説明しようとする。


「…だ………でない」

「え?」


「キョロはまだ死んでない!!」

「でも、悪魔化して…俺がキヨロスに頼まれてとどめを…」


「キョロは助かるの!その為に私はここに来たの!!」


一瞬の間の後でカムカがリーンちゃんを抱きかかえて「え?本当?キヨロス助かるの!!?」と言って喜んでいる。


やれやれ…

「やめなさいよ」と言いながらお姉さんキックでカムカを止める。


カムカは「いててて、ごめん。俺すっげー嬉しくてさ。つい舞い上がっちゃったんだ…」と言って動きが止まった。


「どうしたの?」

「で、ここ何処?」


はぁ~…、カムカはカムカなりに傷ついていて周りも見えていなかったと。



「ここは生と死の狭間、0と1の間ですよカムカ」

神の使いが説明をする。


「ここだとキヨロスが助かるんですか?」

「ここじゃないと助からないって方が正解かな?あ、僕も神の使い「見守る者」ね」


「じゃあ、どうすればキヨロスは助かるんですか?」

カムカが詰め寄る。


「落ち着いて、それは「記す者」が来たら話せるから」

どうやらあと1人神の使いが来るみたいだね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「お待たせしました」という声とともに、マリオンより小さな眼鏡の男の子が0と1の間に居た。


「遅いよー「記す者」」

「ごめんなさい。書くことが多すぎて。今日だけでも彼の活躍、消えたアーティファクトなど書くことが沢山ありましたから」

この説明に神の使いが「確かに、ご苦労様です」と言う。


「いえ、ありがとうございます。ところで、やはり「知らせる者」と「与える者」は連絡がつかないのですか?」

「そうなのです。なのでこの4人で話し合いを行います。ここでの決定は過半数を越えますので神への報告も問題ないと私は思います」


その言葉に3人の神の使い、子供、中年、老人は「異議なし」と言った。

まず最初の議題に上ったのは王に「龍の顎」を授けた「あの女」が神の使いを名乗って居た事だったが、こちらは結局それ以上の情報がない事で話は打ち切りになった。


ただ、その女が現れて「龍の顎」が現れたことで国が滅茶苦茶になった事、「知らせる者」が神への通知を怠った事で事態が悪化してキヨロスがこんな状況になったと言う事を再認識していた。


次に子供の神の使い「記す者」が神の使い達に紙を配って説明を始めた。

内容はキヨロスが跳んだ理由と回数と内容だったが、あまり好ましくないと言うか年相応のプライベートな部分は周りに配慮して口ごもっていた。

他の神の使いは「悪用」って呼ぶには可愛すぎますし、全然マシなので問題にもなりませんなと相槌を打っていた。中にはこの内容は素晴らしい。これなら最良の結果になるでしょう。と言っていた神の使いも居た。


「見る者」が今の状況を説明した。

ここからはキヨロスの仲間たちも話し合いに参加をすることになる。


「今、キヨロス君の身体は生と死の狭間。0と1の間に居ます。後一秒で死ぬって状態です」

この説明にリーンとフィルが声を上げて泣くが神の使いは淡々と説明を続ける。


「ただ、このまま彼を死なせると、彼の「時のタマゴ」の能力で少し前の時に戻される。しかし魂とアーティファクトのバランスが一度崩れた彼は跳んだ先でまた悪魔化をして今度こそ彼の守りたい存在を傷つけるし、戻った先には王、一番目の悪魔も居る訳で国が大混乱になるのは必至」

カムカは「あの悪魔が二体に?」と青ざめていた。


「なので、この場でキヨロスの時間を止め、今助けるか否かを我々神の使いが採択し、助けるとなった場合には特例処置として神の使いが権限外の行動に出る。

そしてその手伝いをするかどうかを仲間たち1人ひとりに委ねると言うものだった」


「では、「記す者」「見守る者」「道を示す者」よ。私はキヨロスを救う事に賛成です。あなた方の意見は?」

「問題なし」

「賛成です」

「賛成」


「それでは、キヨロスを助けましょう。次は仲間たちに問います」

「ですが、その前に僕から説明です」

子供の神の使い「記す者」が説明を始めた。


「今現在、キヨロスの魂は残りわずかになっている。それは全員よろしいですか?」

この問いに「何それ!?」と言ったのはリーンだ。

リーンが声を上げて子供の神の使いに詰め寄る。

子供の神の使いはリーンに事情を説明した。

そして、その中で一緒に旅をした仲間たちは既に知っている事を伝えた。


「私、知らなかった…キョロがそんなに大変な状況だったなんて」

リーンが顔を覆う。


「キヨロスくんはリーンちゃんに告げられなかったんだよ。まだ他にもあるんだ。聞いてあげられるかい?」

ジチがリーンの頭を撫でながら優しく聞く。


「聞きます」

「キヨロスが不死の呪いにかかっていることは…リーン以外は知っている顔ですね」


リーンが「呪い?」と慌てるので神の使いが説明をした。

その流れで解脱の話もし、「じゃあキョロはその解脱が出来れば呪いが解けるんですか?」と聞き、神の使いはそうだと答えて納得させた。


「話を戻します。そして新たに手に入れた3つのアーティファクト、あれも全てキヨロスの魂を削って能力を発揮するものです」

またリーンが驚いた顔でジチを見る。

ジチはリーンを抱きしめてあやしている。


「これから神の使い4人の力で「支配の王錫」の効果を無かったことにし、悪魔化を止めます。これが権限外の特例処置です」


「問題はこの後です。それでもキヨロスの魂は残り僅か。魂を消費する条件は一緒に跳ばした人やもの、アーティファクトによって変わります」

発言の度にリーンが激しく動揺している。

「私、キョロの為になればって思って一緒に跳んでいたの…、それも良くなかったの?」

自身が彼の為を思って取った行動がことごとく裏目に出ているのだから仕方ない。

今はジチが慰めているだけでなく、フィルまでもリーンを慰め始めていた。


「ここからが本題です。仲間のあなた達に問います」


その問いは以下のモノだった。

・キヨロスが今までその人を連れて跳ぶ為に使った魂をキヨロスではなくその人が差し出すことでキヨロスの魂を戻すことが出来るが差し出せるか。

・この後もキヨロスが跳ぶ際に自身の分の魂を差し出すことが出来るか。


「答えは後で聞きます。先に話しますが、時のタマゴが跳ぶと言うのは、跳んで戻すと言う情報を世界に上書きしているだけなのです。

決して過去に戻って全てをチャラにしてやり直しているものではない。

なので跳んで魂が戻るのではなく魂が消費される」

この説明にみんな何だかわかったような、わからないような顔をしている。


そして、この先の話が始まった。

この先、魂の返却がなされたとして、それはキヨロスからすればわずかばかりのもの、もう一度一から始めて悪魔と戦闘をすれば一度で使い切ってしまうかもしれない。

なのでキヨロスと魂を共に出来る者が必要になる。


そして、キヨロスの旅で大変素晴らしかった事がある。

キヨロスは、必ず「時のタマゴ」から完全解決の合図を貰ってから跳んで解決をしていた事。

完全解決をすると、魂の消費が最低限に抑えられてそれまでに浪費してしまった分が戻ってくる。


そもそもこの旅は、故郷の一の村を守るためのもの。

まだその意味では「時のタマゴ」から完全解決の合図を貰っていない。


この後、一度悪魔を退治した時に時のタマゴから合図が出たとして、その時に解決をすればキヨロスの魂は大分手元に戻ってくるだろうと言うものだった。


この知らせに仲間たち全員は沸いた。


「では問います。あなたは魂を差し出せますか」


「人形でも平気?平気なら差し出したい」とマリオンが言う。

「これくらいしか、お礼が出来ないけど」とマリーとペックが言う。

「当たり前だろ?お姉さんの魂は気にせず使っておくれよ!」とジチが言う。

「小僧を助けるのに躊躇なんかするかよ、さっさと使ってくれ」とドフが言う。

「俺は兄貴だからな、何だったら余分に使ってくれてもいいんだぜ?」とカムカが言う。

「当たり前です。私の命はキョロくんにあげられます」とフィルが言う。

「私の命でキョロが助かるなら使えるだけ使って」とリーンが言う。


誰も拒否をしなかった。

神の使いはこの事に驚いていた。


この状況に冗談すら出てきて「あと何年残っているか聞かなくていいの?」とジチがドフとペックをからかっていた。

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