南の「時のタマゴ」-完全解決。
第39話 再び1日目へ。
「記す者」がこの結果を記すとキヨロスの魂は幾分か戻り、その次に悪魔化の解除が行われた。
元に戻ったキヨロスを見て皆が安堵の息をつく中、「授ける者」が「これでキヨロスを動かしても平気です」と言い、身体の傷は「道を示す者」が治していた。
その姿にカムカが「そうだ、俺も修行中に怪我をすると師匠がこうして治してくれてさ!」と懐かしむと横でジチが「あんた、怪しまないの?」と聞くが、カムカは「いや、師匠だし。こんなもんかと思っていた」と言って笑う。
カムカの笑顔にジチは「あ、そう。もうお姉さんは何も言わないわ」と呆れ顔で言っていた。
授ける者が「それでは時を動かす前に誰がキヨロスと魂を共にするかを決めてください」と言う。
キヨロスと魂を共にするもの。
性別も年齢も関係なく出来るのなら全員が名乗りを上げたいだろう。
ジチが場を回し、「この場合、フィルかリーンちゃんよね」と確認をするとフィルが「ジチはいいの?」とジチに聞く。
「え?お姉さんは別に…」
「そう?いつも結構キョロくんを心配している風に見えたから言ってみたの」
フィルはさっきまで泣きはらしていたのに今は落ち着き払っている。
この会話にマリオンが「それ、人形でも出来るなら私もしたい」と名乗りを上げた。
フィルが以外そうに「え?マリオンちゃん?」と聞き返すとマリオンは「私、結構コイツの事が好き。真剣に助けてくれたこととかいつも考えて行動してくれる所とか、後は戦いを楽しんでいる時の危ないコイツがたまらなく好き」とハッキリと答えた。
マリオンはマリオンで真剣に考えていたようだと皆が思っていた。
ここでリーンが「私がやる」と名乗り出る。
そして周りを見た後で「キョロとずっと生きてきたのは私。この先は確かにわからない。みんな綺麗な人だし、格好いいし、素敵だし。でも今日までずっと一緒だったのは私。私はキョロが好き。キョロを助けたい。だから私が魂を共にしたい」と言った。
ここで黙っていないのはフィルで「それなら私だって、この命全部使ってもいい。今までの話ではリーンさんに勝てないけど、これからなら私にだってチャンスがある。私もキョロくんが好きです」と言い返す。
このやり取りを離れた所で見て居るドフが「小僧、モテモテだな」と言い、カムカがキヨロスを見て「寝てますけどね。これ起きたら教えましょうか?」と言うとカムカとドフは悪い顔をしている。
その横ではマリーとペックは「マリオン素敵!」「マリオン、立派になって」と、また別のベクトルで喜んでいる。
そんな間も女性陣の話し合いは続き、今度はマリオンが「私と、リーンとお姉ちゃんの3人で決めればいいの?」と場を回す。
リーンとフィルが頷きかけたところで「…あー!もう!!お姉さんも参加するよ!!」とジチが言う。
これにはフィルがやっぱりと言う顔で「ジチ…」と言い、ドフが「え?姉ちゃんもか?」と驚きを口にする。
ジチは赤い顔で「別に私はフィル達程本気じゃないさ、ただ前から言っているようにキヨロスくんがどうしてもって3回頭下げてきたら考えてあげない事もないような感じだから…さ…」と言って顔を逸らす。
見ていたドフは「かぁー、こりゃあ小僧は起きたら卒倒するな」と言うと横でカムカが「おかしいな、俺も男なんだけどな…」と言って肩を落とす。
「小童、おめえは十分に格好いいよ。安心しな。ただ小僧の方がちいっと勝っていただけさ」
「そうですね。俺も兄弟としてキヨロスを助けたいですもん」
この後も話をするリーン達を見ていたドフが「所でよぉ、あんまり待たせっと神の使いさん達に悪いんじゃないか?」と思ったことを口にするが「いえいえいえ、気になさらずに。ここは一瞬で永遠。それに神の使いは色恋話が結構好きですから」と言うとその横で「「記す者」、ちゃんと書いておいてよね」「わかってますよ!「見守る者」こそちゃんと見ていてくださいね」と2人の神の使いが話していた。
「…楽しそうで何よりです」
「はい」
少しして神の使いが女たちの戦場に首を突っ込む。
授ける者の「あの、一つよろしいですか?」の言葉に4人は声を揃えて「なんですか?」と聞き返してくる。
「完全解決をしてからキヨロスに共にする者を決めてもらうのはどうでしょうか?」
この言葉に「はい…?…なんですって?」と言ったのはジチで、フィルは不安げな顔で「あの、それってどういう…」と聞き返してくる。
授ける者はニコニコと笑顔で「いえ、今考えたんですけど、多分この状況って一の村から始まるので、リーン以外のお嬢さんたちだとちょっと都合が悪くなるなと思ったんです」と言った。
しばしの沈黙の後でフィル、ジチ、マリオンが「はぁぁぁぁ?」と言って授ける者の顔を覗き込んだ。
「じゃあ何?お姉さんはしなくてもいい告白をここでしてしまったの?」
「え?嘘ですよね?」
「都合とかどうでもよくない?」
授ける者は「はい、気づくの遅くてすみません」と言ってニコニコ笑いながら「申し訳ない」と謝っている。
「なあ、あの神の使い、わざとだろ?」
「ええ、あの笑顔が怖いですよね」
ドフとカムかが話している間にニコニコしたリーンが「じゃあ、今回は私って事ですね!」と聞き返すと授ける者は「はい、リーンにお願いします」と言った。
「それで完全解決した暁に、キヨロスが選んだ子が改めて魂を共にする。それまではリーンが肩代わりすると言う事になります」
この説明にリーンがキラキラした笑顔で「はい!」と返事をする。
「幼馴染ってずるいわよねジチ」
「でしょ?でもお姉さんからしたら命の恩人ってシチュエーションも結構ずるいと思うの」
「そもそもあなた達人間でしょ?羨ましいんだけど」
それを見ながらフィル、ジチ、マリオンの3人は不満一色だった。
「それでは魂を共にしていただきましょう」
神の使いがそう言うと「見守る者」がフードの男を動かす。
「ああ、王よ…」
フードの男はキヨロスの横に行って悲しんでいる。
「シモーリよ、貴方はキヨロスを助けたいのですか?」
「おお、神の使い。無論です。私は王を補佐するのが仕事です」
「それでは貴方が持つ「誓いの指輪」を彼女に渡しなさい」
「は…?…はい!」
フードの男からリーンにひと組の指輪が渡された。
「リーン、これはA級アーティファクトの「誓いの指輪」です。これはつけた者同士の魂を足して二で割るのです。貴方とキヨロスの魂を足して2で割れば容易に二連戦が可能になります」
授ける者の説明にリーンが「A級…」と言っておののく。
「リーン、貴方もフィルもジチも…マリオンも問題なく装備できますよ。貴方達全員にはその素質がある。ダメだったら強制的にカムカになる所です」
カムカが「俺ですかー?」と口にするが授ける者は答えずに「さあ、1つをキヨロスの指に。もう1つを自分の指に着けて2人の手を合わせなさい。そして唱えるのです。「アーティファクト」と」
頷いたリーンが「はい」と言って指輪の片方を自分の指に着けようとするとフィル達からは「リーンさん、右手ですよ右手!」「まだ本決まりじゃないんだから右だよ」「右ー」という言葉が飛んでくる。
「外野うるさいっすね」
「本当だよなあ。あのフィルがガツガツしてるし、姉ちゃんもなんだかんだムキになってやがる」
もうカムカもドフも呆れながらのんびりと見守っている。
リーンは「キョロは私を選んでくれるよね?だから今は右でいいかな?」と言うと一応外野に気を使ったのか右の指に「誓いの指輪」を嵌めた。
続けてキヨロスの右手にも指輪を嵌める。「火の指輪」は右中指だったので自然と薬指に嵌める事になる。
指輪をつけた後、リーンは2人の指に嵌まるお揃いの「近いの指輪」を眺めてニコニコと笑った。
突然リーンが「あ、そうだ!」と言ってジチ達のところに行く。
「ごめんね。跳んでからの事、この二日間の事を教えて」
この質問にジチがカムカを指しながら「カムカとお姉さんは歩いて三の村に行って合流したよ」と言うとフィルが「私とお爺ちゃんは三の村の山小屋でキョロくんが来るのを待つの。キョロくんが来たら毒竜の角を飲ませて貰って、効果が出るまでの間にキョロくんが毒竜を退治して、みんなで三の村に帰る」と続けた。
「全員合流したら一晩待って、次の朝に四の村をめざす」
「村長をやっつけて、マリーちゃんとマリオンちゃんを救う」
「それから城に行って悪魔を退治して終わり」
ここにフードの男がすっ飛んで来て「あ、王は私が連れていた兵隊だけを光の剣で皆殺しにしてました!」と報告していた。
リーンは話す人間の顔を見ながら話を聞き終わると「うんうん、何となくわかった」と言う。
「ダメな時はお姉さん達が修正入れるよ」
「ありがとう!私頑張るね」
ジチとリーンの仲良く見える会話に「こうして見てると仲よさそうですよね」とカムカがドフに言う。
「馬鹿野郎、ああして油断させといで、背中を見せたら後ろから首筋にガブリよ」
「ガブリっすか、おっかないですね」
その証拠にリーンはフィルの顔を覗き込んで「あ、フィルさんでしょ?」と言ったあとで「キョロとキスしたの?」と聞いた。
最初は「え?」と躊躇したフィルも、すぐに「はい。………大好きですから」とリーンの目を見ながら答えた。
「私、すぐにわかって。すごいヤキモチ妬いちゃった」
「私だってキョロくんの服からリーンさんの匂いがしてヤキモチ妬きました」
ニコニコ笑顔で話し合う姿にドフが「怖え…」と言い、カムカが「ヤバいですね」と言った。
「全部解決した後で、キョロが誰を選んでも恨みっこ無し」
「はい」
「恨みっこ無しはキヨロスくんには内緒にしようね」
「内緒」
「そして祝福する」
「ええ、負けませんよ」
「あら、お姉さんとキヨロスくんの相性の良さは凄いんだから」
「私が…一番包容力があると思う」
仲睦まじく話す4人。それを見ながらドフが「小童、見えるか、女どもの後ろに見える獣が…」と言い、カムカが「はい、鷹に虎と狼と龍が見えます。…怖いっすね」と返す。
「さて、キョロを起こしてサッサとやってくるね」
「行ってらっしゃい」
「よろしくね」
「任せるわ」
リーンが横たわるキヨロスのところに戻って「キョロ、お待たせ」と言いながらキヨロスの手を取って繋ぐ。
深呼吸の後で「行くよ………。【アーティファクト】」と唱えるとリーンの身体とキヨロスの身体が同時に光った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キヨロスの身体が光ると授ける者が「「見守る者」よ!」と声をかけ、見守る者が「よしきた!」と言うとキヨロスの時が動き出した。
キヨロスは目を開けると辺りを探る。
「……………………………あれ?」と言ったあとで手を繋ぐリーンを見て「リーン?」と声をかける。それだけで嬉しかったリーンは「キョロ…良かった…生きててくれて良かった」と言ってキヨロスに抱き着く。
何が起きたか理解不能のキヨロスは「僕は生きているの?これは夢?」と聞く。リーンは首を横に振ると「ううん、ここは生と死の狭間よ」と言い「キョロが悪魔になったり死んだりしないように皆で頑張ったのよ」と続けた。
未だに状況がわからないキヨロスが「皆?」と聞き返すとリーンがキヨロスの身体を起こしながら「ほら見て」と言って皆を指差す。
キヨロスは見えた順に口にする。
「神の使い、フードの男?」
「そうよ」と言ったリーンは「あの人達も助けてくれたのよ」と言いながら別の方向を指さした。
そこには目を潤ませて嬉しそうなフィルの姿があった。
「あ、フィルさん。良かった…泣き止んでる。ごめんね悲しませて。また沢山話しが出来るね」
フィルは口元に手をやって声を震わせながら「キョロくん…いいの。キョロくんが無事なら私それでいいのよ。また沢山話しようね」と言うとまた泣いてしまう。
その横にはカムカが居てガッツポーズを取っている。
「カムカ…、さっきはありがとう」
ガッツポーズのカムカは「弟の願いを聞くのは兄貴の仕事だからな!」と言って笑っている。
カムカの横にはドフ。
「ガミガミ爺さん、こんなトコまでゴメンね」
ドフは呆れ顔で肩を落としながら「小僧、いつも言ってるけどよぉ、お前が一番大変なんだから謝るんじゃねえって」と言って笑う。
そんなドフの横にはジチがいる。
「ジチさん、お昼食べなくてゴメンね」
優しく微笑んだジチは「本当だよ、内緒ででかけるなんて。お姉さんこれでも怒っているんだからね!」と言う。口調は強いが普段よりも優しく聞こえるジチの声。
そして横にはペックとマリー。
「ペック爺さん、マリー、もう動いて平気なの?」
「ありがとう、君のおかげでマリーも無事だしマリオンも1人前の女の子になれたよ」
「いつもありがとう!私元気だよ」
2人の笑顔と声にキヨロスは「良かった。これでマリオンが帰れる場所が出来た」と思いながらそのマリオンを見るとマリオンは少し面白くなさそうな声をしていた。
「マリオン、何か怒ってる?」
マリオンは人間と遜色ない顔で「怒ってない。私が一番アンタを理解してるんだからもっと頼りなよ」と言って呆れ顔で笑う。
全員を見たキヨロスの前に授ける者が出てくる。
「キヨロス」
「神の使い…」
「貴方は悪魔化をして死にかけました。今は特例処置で何とか状況を免れているに過ぎません」
悪魔化と死は意識していたキヨロスは「はい」と返事をする。
「これから、また貴方は1日目に戻って王を倒すところまで行ってもらいます。そして「時のタマゴ」が問題解決の合図を出して、一の村を救う筋道が見つかったらそれを解決しなさい。それのみが貴方の助かる道です」
「わかりました」
「恐らく、1日目に戻った貴方は反動で前後不覚です。なので今回はリーンを連れて行くのです」
「え?リーンが来る?」
キヨロスが慌ててリーンを見るとリーンは「私は了解済みよ」と言ってニコリと笑う。
キヨロスは「そんな、危ないよ」と言って思い直させようとする。
それは毒竜、亡霊騎士、悪魔になる王との戦いで横にリーンが居るイメージをしたからで、リーンを傷つけないで上手に戦えるか?と言う疑問があったからだった。
リーンはニコニコと「キョロが守ってくれるでしょ?」と聞き、キヨロスが「それはそうだけど…」と返すと。
「けどなに?私は行くの。私が行かないとキョロが大変な事になるでしょ?」
リーンは笑顔のままで圧を放ってキヨロスに説得を諦めさせる。
幼馴染ということもあり、リーンはキヨロスが諦めたことを察して目を輝かせながらキヨロスに抱きついて「だから、早く終わらせましょう!」と言うとキヨロスが「うん、わかったよ」と返す耳元でリーンは「あの日の続きもね」と言った。
キヨロスは「ここでそれを言うの?」と思いドキっとしてしまう。そんなキヨロスの目にはジチたちの目が光った気がしたが見なかったフリをした。
授ける者が「さあ、行きなさいキヨロス」と言ったあとでリーンに「リーン、これが旅に必要な道具です」と言って毒竜の角、制御球にマリオンのブローチを渡す。
これにキヨロスが「僕じゃないと持って跳べない…」と言うが授ける者は「特例処置です。安心しなさい」と言う。キヨロスは複雑な表情をしていて、顔には「何ださっきから特例って?」と書いてあった。
「特例処置と言えば、ドフ、貴方の「混沌の槌」も雷の力を最大まで入れておきましょう」
「そりゃ助かります。ありがとうございます」
「さあ、キヨロス、リーン。お行きなさい」
「はい」
「行ってきます」
キヨロスが「じゃあみんな、また後で。僕は最短最速で行くから待ってて」と言うと皆、口々に「了解」「わかってる」「無理すんなと」「待っているからね」と言う。
その後でキヨロスがフィルを見るとフィルもキヨロスを見る。
「フィルさん、すぐに行くからゴメンね。また少しの間苦しいけど…」
「うん、心配してくれてありがとう。私ちゃんと待っているね」
キヨロスもフィルもこれで十分だった。
「リーン、行くよ」
「うん」
キヨロスが「トキタマ!」と呼びかけるとトキタマが「お父さーん!良かったですー!」と無事を喜びながらキヨロスの元に飛んで来る。キヨロスが何かを言う前にリーンが「トキタマちゃん、私の思うところに跳んでね」と声をかけるとトキタマも「はいです!」と返事をする。
驚いたキヨロスが「え?そうなの?」とトキタマに聞くと、トキタマより先にリーンがキヨロスに「そうなの」と言いながら微笑むとトキタマに「【アーティファクト】」と唱えた…
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