第40話 リーンと一緒。
98回目の時間。
ここは…見覚えがある。1日目だ…。
それも風呂に入ってリーンが乾かしてくれた服を着たところだ。
僕は考えることが出来るが、頭と身体が別々になってしまったみたいに身体はピクリとも動かない。
初めは立てていた僕だが、すぐに立つこともままならずそのままその場に座り込んでしまうとリーンが僕の側に寄り添って身体を起こしてくれる。
リーンは僕を起こしながら「キョロ、聞こえる?大丈夫だからね。私の声が聞こえたら右手を動かして?」と声をかけてくれる。
リーンの声はとても優しくて動かない身体の不安感を払拭するように僕に澄み渡る。
僕の身体はリーンの言う事を聞いて少しだけだが右手を動かす事ができた。
動かした僕の手を見てリーンが「ありがとう。キョロ」と言ってくれる。
それにしても跳んだ感覚が軽い。
今までと違う。
誰か跳ばし損なったかな?
僕はその事で少し不安になる。
リーンは僕の不安を察して「キョロどうかした?心配そうな顔をしているよ?皆なら大丈夫。ちゃんと跳んでるわ。今までより負担が少ないでしょ?それも特例処置よ」と言ってくれた。
特例処置?だから本当になんなんだろうソレ?
何も知らない間に何かが決まっていて不安になるが仕方ない。
その後はリーンの声に僕の身体が反応して動くことの連続だった。
「立てる?」
「光の剣を出して?そう、ありがとう。二の村とここの間に兵隊が見える?見えたら右手を動かして?」
「うん、見えたのね。そうしたらフードの男以外を倒して。終わったら右手を動かして教えて」
「え?もう倒したの?キョロは早いね。じゃあ次はその靴でフードの男の所まで連れて行って」
僕の意思には関係なく身体は動き、景色が流れると目の前にはフードの男が居る。
フードの男は僕に気づくと「あなた様は王!良かったお会いできた!私は城でお待ちしております。ただ…今は王の支配もありますので私は何もできないのです。申し訳ありません」と謝ると「え?いつの間に貴方も跳んだの?」とリーンが聞く。
フードの男は鼻息荒く「はい、あの後神の使いから話を持ちかけられまして二つ部返事でお受けさせていただきました!」と言った。
「あ、そうなんだ。じゃあそっちもよろしくね」
「はい!」
リーンと話し終わるとフードの男は消えた。
「キョロ?次は三の村の山小屋だったよね。そこまで私を連れて行って」
また景色が流れる。
次はフィルさんとガミガミ爺さんが待つ山小屋に来た。
毒竜が居るので辺りは霧がかって居た。
リーンは話を聞いていたので「これが毒の霧?はやく家の中に入らなきゃ」と言って中に居たガミガミ爺さんと2人で僕を中に入れてくれた。
山小屋に入ると奥から「キョロくん?」と弱ったフィルさんの声が聞こえる。
リーンが「キョロ、待っていてね」と言うと奥に駆け込んで行く。
奥からは「フィルさん!お待たせ!」と聞こえてくる。
「リーンさん…ありがとう。お爺ちゃんに角を砕いて貰わないと」
「大丈夫!【アーティファクト】!」
「それがリーンさんのアーティファクト」
「そうだよ、キョロもこれで戦っていたこともあるんだよ」
「キョロくんも使ったアーティファクトか…いいな。私のムラサキさんもキョロくんに使って貰えないかな?」
「また悪魔化しちゃうって」
フィルさんが「そうね」と言うとリーンとフィルさんが2人で笑って居る。
その後フィルさんは薬を飲んで眠りについたのだろう。
静かになった。
ガミガミ爺さんが横たわる僕の横に来た。
「小僧、おめぇモテモテだな。この後大変そうだけど、男冥利だと思って頑張れよ。話ならいくらでも聞くからよ」
僕はこの言葉にガミガミ爺さんは優しいなと思った。
もし、リーンとフィルさんの想いが本当だとしたら、ガミガミ爺さんはフィルさんのお爺ちゃんなのだから「俺の孫だよな?」とか言ってきそうだが、ガミガミ爺さんはそれをしない。
すぐにリーンが僕の所に戻ってくるとガミガミ爺さんに向かって「ガミガミ爺さんさん!キョロを外に出すの手伝って!」と言う。
ガミガミ爺さんは肩を落としながら「爺さんさんって…嬢ちゃんよぉ…。まあ良いけどよ…。まったく…」と言いながら僕を担いでくれた。
2人が肩を貸してくれて僕は外に出る。
後はリーンの指示に従う。
「キョロ、光の剣を出して」
「毒竜は見えた?」
「前の倒し方を覚えている?」
「うん。そうよ倒して。」
リーンの指示で僕の身体は次々に動く。
今回はガミガミ爺さんとリーンと僕で毒竜の頭を取りに行く。
毒竜の頭を回収して山小屋に戻ってきた僕達はフィルさんが起きるまで待つことになる。
僕はベッドに寝かせられていて何もできない。
遠くでガミガミ爺さんとリーンの言葉を聞くことしかできなかった。
「嬢ちゃん、身体は無事か?」
「はい。大丈夫です」
「あんま無理すんじゃねえよ。小僧は自分以上に周りを心配するからよ」
「そうですね」
しばらくするとフィルさんが起きてガミガミ爺さんのところに歩いていく。
フィルさんの「お爺ちゃん、リーンさんおはようございます」の声に「おう、起きたかフィル」とガミガミ爺さんが返事をした。
「キョロくんは?」
「あ?おめえの隣のベッドに寝かせておいてやっただろうに」
「嘘?見て来なきゃ!」
「そんなもんはいいから急いで用意しろや。きっと村で姉ちゃんがカンカンになって待っているぞ」
ジチさんの名前が出たからだろう。
フィルさんは「はーい」と言って身支度を始めた。
フィルさんが準備を終わらせた。
そしてリーンとフィルさんが僕の肩を持っている。
「小僧の身体が痛そうに見えるんだが…」
そう、リーンとフィルさんには身長差があるので僕の身体は斜めになってしまっている。
「リーンさん、ずっと大変でしょ?今くらい私が1人でキョロくんを支えるわよ」
「大丈夫!キョロは私が1人で支えます」
2人は笑顔なのにゴリゴリした雰囲気で僕は怖いなと思った。
ガミガミ爺さんも同じ気持ちだったのだろう「…やれやれだな」と言うと「嬢ちゃん、小僧に言って三の村まで頼む」と続けた。
「はい。キョロ?聞こえる?私達を三の村まで運んで」
この言葉で景色が流れて三の村の入り口に出ると村の入り口で腕組みをしたジチさんが「遅い!!」と言って怒っていた。
困り顔のフィルさんが「ジチ…」と言うとジチさんは最後まで聞かずに「何で前回は早すぎて今回は遅いのよ」と返す。
「姉ちゃん、仕方ないだろ?前回はフィルを小僧が抱っこしたから来れたけど、今回は小僧はコレだし、嬢ちゃんも居るし。フィルが回復してからじゃねえと…」
「そりゃあお姉さんだってそれくらいはわかっているけど…」
ジチさんとガミガミ爺さんが話してる横でリーンが「フィルさんを抱っこ?」と呟く。
「しかもお姫様抱っこだったのよ。キョロくんってガッシリしていない風に見えるのに案外力強いのよね。私のこともなんの苦もなく抱き抱えてくれたの」
フィルさんがリーンに変な事を言い出してリーンがそれに反応して「キョロがフィルさんをお姫様抱っこ?」と呟く。
動けない僕の身体はリーンから出る何かを察したのか汗が滝のように流れ落ちる。
するとジチさんに説明の終わったガミガミ爺さんが「おいおい、やめてやれよ。小僧はおんぶするって言ったのに、お前が抱っこをせがんだんじゃねえかよ」と言ってくれる。
フィルさんは余計なことは言うなという顔で「お爺ちゃん!それは言わなくていいの」と注意をしてようやくリーンの機嫌は直ってくれた。
とりあえず身体が自由にならないと言うのはもどかしい。
この後もカムカが集まったり皆楽しそうにワイワイとしていたが僕はまだ動けずにリーンとフィルさんに肩を借りていた。
カムカはリーンとフィルさんが動けない僕を奪い合って居るのを見かねて荷物の様に担いで歩いてくれた。
頼れる兄貴万歳。
筋肉万歳。
身体が動いたら感謝しようと思う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ペース配分と言うか、毒竜関係は解毒の点とかで時間がかかるので三の村で遅い昼食を食べて風呂に入ってから四の村に行くことになった。ここに僕の意見はない。
お昼ご飯はジチさんが作ってくれていたのだが、僕はほとんど口が動かせず食べられないのでリーンがスープを口に運んでくれる。
ジチさんの料理だから美味しいのだろうけど、まったく味がしないので勿体ない。
僕に食べさせる合間にリーンが自分の分の料理をひと口食べて「凄い!美味しい!!キョロは毎日こんな美味しいの食べていたの?」と顔を明るくして喜んでいる。
料理を褒められて嬉しいジチさんはニコニコと「まあ、大体ね〜」と言ってからリーンの顔を覗き込んで「リーンちゃんもお姉さんの凄さがわかったかな?」と聞くとリーンはうんうんと頷いている。
ガミガミ爺さんがひとしきり食事に満足すると「ま、飯じゃあ姉ちゃんに軍配だな」と言って笑う。
すぐにフィルさんが「お爺ちゃん!キョロくんは聞こえてるんだからやめてあげてよ」と注意するがガミガミ爺さんは「良いじゃねえか、小僧も男冥利に尽きるってもんだぜ。それにな?全員に一長一短があって良いだろ?」と言って笑う。
そんなガミガミ爺さんの説明は「この中で一番綺麗なのはフィルさんだけど、料理は普通。年も離れているし付き合いも浅い」だが「ジチさんは料理が上手いが、年は一番離れているし付き合いも浅い」そして「リーンの料理は知らないけど、この感じだと普通。年は同い年だし付き合いも深い」だった。
「ほらな一長一短だろ?」
「じゃあ、マリオンは何さ?」
ジト目のジチさんがガミガミ爺さんに詰め寄る。
「んあ?あー…マリオンは自称一番の包容力で唯一の年下って所が長所で人間じゃないって言うのが短所じゃねぇか?」
ガミガミ爺さんがテキトーに流す。そもそもマリオンって何?
その後、リーンは僕のご飯をそっちのけでジチさんからアレコレ勧められて「美味しい」「凄い」と喜んでいると僕の横にフィルさんがきて「食べさせてあげるね」と言って甲斐甲斐しく食べさせてくれた。
満腹感とかもわからないので僕はただ出されるがままに口を開けていて、フィルさんも嬉しそうに食べさせてくれていたが、それにしても食べすぎじゃないかなと途中から心配になってしまった。
案の定、食べすぎた僕は真っ青になっていたらしく、ガミガミ爺さんが慌てて止めてくれた。
「フィル!お前小僧を殺す気か?」
「え?ごめんなさい…。キョロくんが出したら食べてくれるから私嬉しくて…」
半べそのフィルさんを見たガミガミ爺さんは「だからって…はぁ…。加減が無いのかよ…」と言って呆れていた。
僕はしばらくすると体調が良くなったようで普通にしていた。
今回思ったことは早く動けるようになって自分で何でもやりたい。それに尽きる。
僕が体調を崩している間に風呂の支度が出来ていた。
食事の次は毒抜きの風呂だ。
服を脱ぐ前にお風呂を見たリーンは「わぁ、三の村のお風呂って素敵!」と、旅行気分で喜んでいた。
あの生と死の狭間で見せた真剣な表情はなんだったのか?
僕の気持ちを感じたのか、ガミガミ爺さんは「女って言うのはすげえな。こんな状況でも楽しもうとしているな」と話しかけてくるので僕は素直に頷いた。
その後は誰が僕を風呂に入れるかで一騒ぎあったけど、最終的にはカムカとガミガミ爺さんがやってくれることになった。
この頃には僕もだいぶマシになっていて、言われたとおり後をついて歩けるし、立っていても突然倒れるようなこともなくなっていた。
「キヨロス、待て」
カムカの声に合わせて僕が歩みを止める。
「待て、って犬じゃああるめぇし…」
ガミガミ爺さんが呆れる。
「いや、中々ハマりますね。キヨロス、来い」
僕はカムカの言うとおりに動く。
「よーしよし、偉いぞー。肩まで浸かれよー。数は数えられるか?」
僕はコクンと頷く。
「じゃあ500数えたら出て良いぞー!」
僕はまた頷く。
僕とカムカのやり取りにガミガミ爺さんは「こりゃあ、こっち側で良かったな。女性陣に任せていたら、小僧は完全に玩具にされてたぜ?」と言って笑う。カムカが「ムッハー!!玩具って何ですか玩具って!!?」と言って興奮している。
「別にいやらしい意味じゃねぇよ。嬢ちゃん達だってこの死にかけの小僧になんかしようなんておもわねぇだろ?」
僕もそうであって欲しいと思う。
カムカも大人しく風呂に入る僕を見て「まあ、実際、生き返ってくれてよかったですよね」と言う。
「ちげぇねぇ。ただ神の使いが言うには少なくとも後1回は跳ぶらしいからな。小僧の身体も魂も無事に済んで欲しいな」
「そうですねぇ」
男性陣がしみじみと風呂に浸かっているのだが、女性陣は相変わらず煩い。
始まりは、肌とスタイルで盛り上がり、リーンやフィルさんの肌と比較して年齢の壁に直面したジチさんが落ち込んでいた。
その後は誰が僕の服を洗うのかでもめている。
これはガミガミ爺さんが「この後すぐ出発なんだからそんな暇ねぇよ」と言って場を収めてくれた。
ジチさんが「家族風呂しちゃう?」と恐ろしい提案をし始めた頃。
「さ、キヨロスー、おいでー」
僕達は風呂を出ていた。
「お、自分で拭けるか?」
コクン
「服は着れるか?」
コクン
「偉いなー、やってみろー」
コクン
「惜しいなー、ボタンが間違っているぞー」
カムカとそんな事をしている間、風呂場では「もしもーし、いいのー?開けちゃうよー!!」とジチさんの声が響いていた。
少しして出てきたジチさんは「もう、出るなら出るって言ってくれればいいのに」と言ってプリプリしている。
「そりゃあ、言ったら誰が小僧を拭いて服着せるかでまた揉めるじゃねえかよ。だからさっさと出たんだよ」
「うっ…鋭いわね」と言うところを見るとどうやら勝手に盛り上がっていたようだ。
まあこの3人なら10歳くらいまでナックと3人でお風呂に入っていたリーンが適任だと思う。
「とりあえずさっさと行こうぜ」
ガミガミ爺さんの声に合わせて皆が立ち上がる。
ジチさんの「リーンちゃん、よろしく」の声に頷いたリーンの「キョロ、準備はいい?四の村までお願い」と言った言葉にあわせて景色が流れると目の前には四の村が現れた。
現れたのは四の村だけではなくて亡霊騎士もそこに居た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前にいた亡霊騎士を見てフィルさんが「マリーちゃん!!?」と驚き身構える横でガミガミ爺さんがカムカに「小童、お前がやれ。小僧じゃ加減が効かなくてマリーを殺しちまう」と指示を出す。
カムカが「了解です!」と言って構えを取ると「行くぜマリー!!【アーティファクト】!!」と言って一撃を入れる。
いきなり殴られたマリーはきりもみしながら吹っ飛んで行った。
殴り飛ばされたマリーを見てガミガミ爺さんが「おいおいおい!お前もやり過ぎだよ!」とツッコむとカムカは殴った腕を見て「あれー?前戦った時はこれでもあまり通用しなかったんですけど…」と返す。
「その後も悪魔と散々戦って居るんだから強くなってるだろうよ!気をつけろよ!」
「うっす!!」
マリーが起き上がってアーティファクト砲の体制になる。
身じろぐジチさんとムラサキさんを構えるフィルさんの横でカムカは「俺なら打ち返せる!唸れ筋肉!」といって力を籠める。
マリーが「【アーティファクト】」と唱えてアーティファクト砲を放つとタイミングをはかったカムカが「うぉらぁ!【アーティファクト】!」と言ってアーティファクト砲を天高く打ち上げた。
天高く打ち上がる光弾を見て「出来たぜ!俺すげえ!!」とカムカが大喜びしていて、ガミガミ爺さんは「アイツ大丈夫か?」と首をかしげる。
ガミガミ爺さんはマリーが迫ってくる前に気を取り直して「まあいい。俺たちは先にペックの所に行くからな、マリーをのしたら連れてこいよな」と言って四の村に入り。カムカはこっちを見ずに「はい!」と言って前に進んでいく。
ガツガツと聞こえてくるマリーとカムカの殴り合いを聞きながらガミガミ爺さんは「やり過ぎんなよー」と声をかけていた。
僕達はペック爺さんの所に行くと今回の今回のペック爺さんはシチューを食べていた。
「これはまた早いね」というペック爺さんに「マリオンを起こすぜ」と言ってガミガミ爺さんが奥に行く。
ジチさんがハッと気づいて「リーンちゃん、ブローチをフィルに貸して!」と言うとリーンがブローチをフィルさんに渡すとフィルさんもガミガミ爺さんの後を追う。
シチューを食べ終わったペック爺さんは「なになに、何でこんなに急いでいるの?」と言っていて状況を飲み込めていない。
ジチさんが村の外を見ながら「外でカムカとマリーがもう始めてるんだよ」と言うとペック爺さんは「えぇ!もう?」と驚く。
ジチさんは「だから皆急いでるの」と言った後で「あ、そうだ!」と言ってリーンの方を向く。
「リーンちゃん、次!外に出てキヨロスくんに言って村長の制御球を破壊してきて」
この言葉にリーンが「わかりました」と言って僕の手を引いて「キョロ!行くよ」と言って外に出る。
村人たちが僕達を訝しむがそんな事は言っていられない。
リーンは村人たちまで敵だと知らないので周りを気にせずに「キョロ、村長の家はわかる?」と聞いてくる。
僕がコクンと頷くと「制御球の場所はわかる?」と聞かれる。
また僕がコクンと頷くと「光の剣でソレを壊せる?」と聞かれる。
更にコクンと頷くと「剣は何本出す?全部はいらないよ。キョロがこれでいいと思った数にして」と指示を出される。
僕は頷く代わりに光の剣を2本出した所でリーンが「じゃあ、始めて」と言った。
次の瞬間、光の剣は飛び上がり村長の家を目指す。
前回みた場所と同じ場所に制御球があったので僕はソレを破壊する。
意識はしていなかったが、僕の本心がついでに村長の家を風通し良くしていた。
光の剣が僕の元に戻るとリーンが「キョロ、終わったの?」と聞いてくる。
僕が頷いているとカムカが「お、そっちも終わったか?」と言いながら戻ってくる。
そのカムカはまた荷物みたいな持ち方をしてマリーを抱えている。
僕達がペック爺さんの家に戻るとマリオンが起きていた。
マリオンが「おはよう。早くない?」と言うとカムカが「これが最短最速だよな!」と返事をする。
マリオンはカムカの横に居る僕を見て「うわー、前後不覚って聞いていたけど、私より人形みたいだね」と言うとフィルさんが「これでも随分マシになったの」とマリオンの言葉に返事をする。
そのまま皆は手慣れた感じでマリーの鎧を脱がしてマリオンが試着するとマリオンは嫌そうな表情で「ん?これ、まだじゃない」と言う。
ジチさんが「あ!忘れてた!リーンちゃん制御球をペック爺さんに渡して頂戴!」と言うとリーンが制御球をペック爺さんに渡す。
機能停止をするとマリオンが「これで大丈夫」と言っていた。
この後はマリーの治療とマリオンの充填だが、僕達は待つ必要が無い。
僕は力を振り絞ってリーンに声をかける。
「…リ…リーン」
「キョロ?喋れるの?」
リーンの言葉に皆が僕を見る。
「ま……だ……。もう……行こ…う」
「まだ喋れる訳じゃないのね?」
返事は言葉より頷くことにする。
リーンは僕を見て言いたい事を察してくれて「もう城に行きたいのね?」と聞いてくれた。
僕が頷くとそれを見ていたカムカが「確かに、この先はマリーの回復の確認とマリオンの充填だけどよう。待てないのかキヨロス?」と声をかけてくる。
僕が頷くと呆れたカムカが「仕方ねぇなぁ。じゃあ先に行ってろ。こっちもマリオンが復活したらまた運んでもらうからよ」と言うとマリオンが「うげぇ」という顔をする。
「…また?カムカは重いから走ってよ」
「無理だろ!追いつけねぇよ」
カムカとマリオンは仲良く掛け合いをしている。
それを見ている僕に「もう行くの?」と聞いたのはフィルさんだ。
僕が頷くとフィルさんはリーンを見てから少し残念そうに「私が一緒に行きたかったけど、今回はリーンさんだから我慢するね。お願いだから無理はしないでね、ちゃんと帰ってきてね」と言う。
僕はフィルさんを安心させたくて頷くとフィルさんは「ちゃんと………、ちゃんと私の所に帰ってきてね」と言って僕にキスをしてきた。
僕は顔も赤くならなかったが、何もできずに頷く事しか出来なかった。
横のリーンが「あ!またキョロにキスをした!」とフィルさんにツッコミを入れる。
また?
あれ?バレている?
僕は何処でバレたかを考えているとフィルさんが「いいんです。私もキョロくんが好きだからいいんです」と赤くなりながらリーンに言う。
僕はフィルさんの顔を見ながらフィルさんってそう言う顔もするんだなと思う。
今は自分の意志ではどうする事も出来ないので静観することにした。
話が終われば城に行けるだろう。
そうしているとフィルさんがマリオンの方を向いて「マリオンちゃんは?いいの?」と聞くとマリオンは「する」と言うと僕に寄ってきてキスをした。
なんで?
表情には出ないが驚く僕にマリオンは「私は、人形だけどさ…この中の誰よりもアンタを理解できると思ってる。私はアンタが好き。戦いを楽しんでいる時の危ないアンタがたまらなく好き」と言った。
…告白をされた。
正直、動けたら戦いを楽しむ危ない僕の部分は訂正させたかったが、それよりもキスをされて告白もされたことが衝撃だった。
本当にマリオンは人間になる日が来る気がしてきた。
僕がそんな事を思っているとフィルさんが「もうお見送りでいい?」と言い出した。
まだ何かあるの?
もしかしてカムカやガミガミ爺さんにキスさせるつもり?
それは止めて欲しい。
恐る恐るカムカ達を見ているとリーンが「もうおしまいでいいよね?キョロ」と僕に聞く。
僕が頷こうとすると「ああ、もう!」と聞こえてくる。
それはジチさんの声だった。
流石にここまで続けばこの先を想像してしまう。
この流れはまさか?
いやまさか…
しかし僕はつい期待してしまった。
空気に出ていたのだろうか?
「キョロ、顔」と低い声で言ったリーンが僕の尻をつねっていた。
痛みはよくわからないが恐怖はわかる。
このリーンは怒った時のリーンだ。
ジチさんはそんなリーンを見て「リーンちゃん、お姉さんにも時間をおくれよ」と言うと
僕の前に来た。
「キヨロスくん、お姉さんは…その…あれだよ。前から言っているけど、キヨロスくんがどうしてもって3回お願いにきたら考えてあげない事もないんだよ…」
この言葉を言ってくれたジチさんは真っ赤で普段から僕やフィルさんを冷かしてきた人とはとても思えない。
そのままジチさんは「だから、こう言うのは奇跡なんだからね!」と言って僕にキスをしてきた。
とは言え、僕はまだ自分ではどうする事も出来なくて赤くもならない。
僕の唇から顔を離したジチさんは赤い顔を隠しながら「ほら、もう済んだよ!さっさと終わらせて来なさいよ!」と言った。
「ちゃんと2人で帰ってきなさいよね。後でカムカとフィルとマリオンを迎えによこすから無理しないでよね」
僕が改めて頷くとリーンが「もう、みんなしてキョロにキスするんだから…」と言ってキスをして「これで良し。さあキョロ行こう」と言って僕を外に連れ出す。
皆も見送りに来てくれて全員で外に出るとリーンは「キョロ、この先は危ないよね?私の腰に手を回して」と言うので、僕は言われた通り腰に手を回す。
リーンは僕と自身を見回して「この格好で行こう。みんな、行ってきます」と言った後で僕の耳元に口を近づけて「一気に行かないでちょっと先で一度止まって」と言った。
僕は頷いて高速移動で皆に見えない場所まで移動をした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕はリーンの指示に従って四の村と城の間辺りで止まると僕の左腕の中に居るリーンが僕に話しかけてきた。
「キョロ、私もキョロが好きだからね。」
リーンの言葉に僕は頷く。
リーンの気持ちは貰っている。
知っているし、今の僕は嘘も何もなく正直に答えてしまう。
その時リーンが「落ち着いて聞いて」と言った。
僕が待っているとリーンは「今、私とキョロの魂は繋がっているの」と続ける。
その言葉の意味を理解した僕は激しく動揺する。
僕の変化を察したリーンは首を横に振って「いいの。それが…私があの場に呼ばれた理由だから」と言う。
リーンは僕が何を言うのか何を考えているのかをわかっているのだろう。
まるで僕が話したことの返事のように言葉を繋いでくれる。
「だから私が一緒に行動をしているの」
僕はここでようやくリーンがここに居る意味を理解する。
リーンは僕が理解した事を察してくれたようで次の言葉を言う。
「悪魔と戦う時、私は邪魔かもしれない。でも私の魂も全部使っても構わないから私を離さないで」
僕はその言葉に応えるように左腕に力を入れるとリーンは「ん……キョロ…。ありがとう、でもちょっと苦しいよ」と苦しそうに言うので慌てて力を緩める。
このやり取りにリーンは「ふふっ」と笑って「キョロは本当に優しいね。だからみんなキョロの事を好きになっちゃうんだよね」と言った後で「ごめんね。今は戦いの話だよね」とリーン自らが話を切り替えた。
リーンは真面目な声で「キョロ、全力で戦って」と言った。
僕は返事に困る。全力で戦うと言う事は残り少ない僕の魂の他にリーンの魂も消費してしまう事になる。
僕が返事に困っているとリーンは「頷いて」と言う。
それでも返事をしない僕に「いいの。私はいいの。私の全部を使って勝って。ね?」と諭すように優しくリーンが語り掛けてくるが僕は返事が出来ない。
僕が返事をしないでいるとリーンがキスをしてきた。
普段よりも長いキス。
唇が離れるとリーンは「あの日の続きだってしてないし、そもそもあの日も来ていないのよ。私の魂を使って一緒に勝って、あの日とその続きを手に入れよう!!」と言い、最後の方でリーンは泣いていた。
泣いたままリーンは僕に抱き着いて「1人で死なないで!なんで呪いの事を言ってくれなかったの?なんで魂を使っている事も教えてくれなかったの!酷いよ!!」と泣き叫ぶ。
「だから一緒に生きたいの。私の魂も使って、一緒に最後を迎えさせて?」
僕は悩んだ、返事に悩んだけど最後に頷いた。
僕が頷くとリーンは嬉しそうに微笑んで「じゃあ行こうキョロ。私の全部で戦いを終わらせよう!」と言う。
その声に僕は頷いた。
そのまま城の広場へと「瞬きの靴」で瞬間移動をした。
広場には王が居た。
リーンは僕に「王様?」と聞いてくるかと思ったが、何も言わずにただ僕に「いいよ。始めて」と言った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王との戦い。
僕は可能な限り身体に指示を送る。
思い通りに動いてはくれないが「万能の鎧」の付与は自動防御を3枚にして、身体強化に関しては「瞬きの靴」の高速移動で対応することにした。
王は前回同様に寄越せと言いながら迫ってくる。
今回はリーンが居る以上、接近戦は可能な限り避ける。
高速移動のお陰で、リーンを抱きしめながらでも僕の動きは俊敏で、リーンも僕の事を考えてくれているのだろう。邪魔にならないように力を入れて振り落とされないようにしてくれているのがわかる。
反撃を思案する僕にリーンは「いいよ、使って。遠慮なんてしないで」と言ってくれて、僕はリーンの声にあわせて6本の剣を出した。
出てきた剣の本数にリーンが「12本でいいよ」と言ったが僕自身6本で戦いたかった。
そのまま6本の剣で王を切り刻み、再生が遅れた所で手を止めると王はその場に崩れ落ちる。
リーンが居てくれるからだろう、光の剣を6本出し続けても辛くならない。
ここで王は「雷鳴の杖」と「晴れの玉」を捧げたので僕は再度攻撃をしかけた。
僕の攻撃で王は変身すらままならない。
しばらく斬り続けたが、王の再生は止まる気配がないので悪魔化をさせる事にした。
悪魔化した王の体毛は橙色だった。
橙色でもやる事は変わらずに王は殴って来たり「【アーティファクト】」の連続攻撃をしかけてくる。僕は直接攻撃は高速移動で回避して3連続は3枚の防壁で防ぎ、すかさずカウンターで6本の剣を出して切り刻む。
遂に王は再生が止まり膝をついて肩で息をし始めると前回同様「海鳴りの扇」と「千里の眼鏡」を捧げて立ち上がると体毛は赤色になっていた。
この後、最後の攻撃が来る。
僕が言葉を話さなくてもリーンは僕の気持ちを察して「キョロ、いいよ使って。全部を使って」と言ってくれたので、僕はその声に従って目の前に12本の剣を並べて防御姿勢を取る。
前回の魂を使い切る前の僕とは違い、リーンの力もある。
きっと防ぎきれる。
悪魔は「喰らえ我が最後の力」と叫んだあと5連続攻撃を仕掛けてきた。
最後に聞こえてきたのは悪魔の発する、「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱える声だった。
閃光と衝撃で何が何だかわからなくなるが僕の身体にしがみつくリーンの感触が僕を現実につなぎとめてくれる。
衝撃の中リーンが声にならない声で「キョロ!!」と言って僕を呼ぶ。
僕はリーンを安心させたくて喋ってみたら声が出て「大丈夫だよリーン」と言えた。
そこからは手も足もやや怪しい部分があったが動くので「ごめん、もう少しだけ使わせて!」と言うとリーンは「いいよ、私の全部をあげるから勝って!」と言ってくれた。
僕は12本の剣に力を籠める。
今までとは全く違う剣の感触が伝わってくる。
「これなら防ぎきれる!!」
防ぎきれる確信のあった僕はリーンを掴む左腕に力を入れて「リーン、僕から離れないで」と声をかけるとリーンも「うん、私離れないよ!」と返してくれる。
一瞬リーンを見た後で光の剣に意識を向けて「【アーティファクト】!!」と力を込めると光の剣は金色に発光し衝撃が来なくなった。
しばらくすると、光が晴れて目の前にはボロボロの広場と灰色になった悪魔が居た。
僕は念の為に光の剣で悪魔にとどめを刺すと悪魔は粉々に砕け散った。
僕は勝った…、いやリーンのお陰で勝てたんだ。
僕が「ありがとうリーン。僕は勝てたよ」と言うとリーンは「キョロ、良かった。後はトキタマちゃんが完全解決の筋道を見つけてくれればいいんだね」と言う。
そうだ、これで一の村の皆が助かる筋道が出来ればトキタマが「跳べる」と言ってくれる。
それで僕の旅は終わることが出来る。
僕はトキタマが「跳べる」というのを待っているとリーンが「キョロ…」と僕を呼ぶ。
「何?」
「トキタマちゃんで完全解決をすれば浪費していた魂が戻るって。だから今までの浪費していた分が戻ればキョロは生き永らえることが出来るって神の使い様が言っていたの」
僕はリーンが何で一緒に戦ってくれていたのかをようやく完全に理解をした。ただ魂を繋げるのではなく、浪費分が戻るまで付き合ってくれていたリーンに「そうか、その為にリーンが付き合って跳べるようになるまで魂を共にしてくれたんだね」と感謝を伝える。
だが、この後いくら待ってもトキタマは何も言わない。
しばらくするとフードの男が戻ってきた。
手にはあの「支配の王錫」が握られていて「王よ、おめでとうございます。さあ「支配の王錫」を手にしてください」と言った。
ここで手を伸ばせばまた元の木阿弥になる。
…なんだ?何が足りない?何でトキタマは何も言わない?
リーンが「支配の王錫」を手にしようとしない僕に説明を求めてきた。
僕は「支配の王錫」を手にしないと兵隊たちが死んでしまう事。だが前の時間で僕が「支配の王錫」を手にしたらアーティファクトのバランスが崩れて悪魔化してしまった事をリーンに伝えた。
僕の説明を聞いたリーンが「そっか、でもこれを持たないと駄目なのかもね?」と言う。僕は前回の事もあるので「でも試すにはリスクが大きすぎるよ」と返す。
周りを見て「うーん」と悩んでいたリーンは僕を見て「ふふっ」と笑う。
「どうしたの?」
「これを持ったらキョロは王様かーって思ったの。そうしたら私をお妃さまにしてくれる?」
リーンはやはり女の子でお城でお姫様やお妃様というものに憧れがあるのかも知れない。
でも僕はお城暮らしなんて性に合わない。
「僕は王様なんて嫌だよ。普通に狩りをして父さんや母さん達みたいに暮らしたい」
「そっか残念。でもさキョロが王様になればもう誰も死なないで済むと思ったんだけどな」
「誰も?」
「ううん、ごめん。倒した王様はもう悪魔になっちゃっているから駄目だけど、村に来ようとしていた兵隊たちは殺さないで済むのになって…」
この言葉にフードの男が「はい、王がそのように命じてくだされば兵隊たちは誰も命を落としません」と割り込んできて「ですから、さあ!」と迫ってくる。
この時僕は別の事を考えていた。
…
……誰も?
そうだ。
この旅…今回の状況ではあの村に迫った兵隊以外は誰も殺していない。
僕は何かが気になって「リーン、僕が村を守るために人を殺したのは嫌だった?」と聞くとリーンは「え?…うん。それは…嫌だったよ。キョロには人殺しなんてして欲しくないよ」と言う。
その時、成人の儀の宴で殺した兵隊達の事、怯えたナックの事、後で泣いていた母さんと父さんの事を思い出して僕は呟くように「そうだ、母さんも泣いていた。父さんも辛そうだった」と言った。
リーンが不思議そうに僕を見て「キョロ?どうしたの?」と聞いてくる。
僕はリーンを見て「僕が次に跳んだら誰も殺さない」と言う。
そのまま「村に来た兵隊も、四の村のあの憎らしい村長ももう殺さない。この王様も殺すんじゃない、助けるんだ。もう人を辞めているから助け出せないけどこのまま生きて罪を重ねないように悪魔化する前に助けてあげたい!」と続けるとリーンは「キョロ…。凄いよ。それが出来たらキョロは誰も殺してないよ!」と言って泣いた。
僕はリーンの涙を見て何かがわかった気がして「リーン、ありがとう!!僕頑張るよ!」と言った時、トキタマが「お父さん!跳べるよー!!」と完全解決の合図をくれた。
そうか、誰も殺さない事が足りなかったんだ。
僕は全てを解決した後、1人で消えるつもりだった。
だから人を殺しても平気だったんだ。
でも僕自身もリーンも、父さんや母さんもみんな僕が人を殺す事が嫌だったんだ。
僕が人を殺せば、みんなは本当の笑顔になれない。
その事に気付いた僕は今ようやくこの旅の終わりが見えた。
僕はフードの男に「もう一度僕はこの時に戻ってくる。その時に何とかして「支配の王錫」を使う。もう少し待っていてくれ」と宣言をする。
この言葉にフードの男は「はい!わかりました」と返事をする。
フードの男が一歩下がった時、リーンが「キョロ、1人では無理でも私が居るよ。私が一緒に居るから」と言ってくれる。僕はリーンを見ながら「そうだね、きっとそれなら何とかなる」と返事をした。
僕はトキタマを見て「トキタマ!!」と呼ぶとトキタマは元気よく「はい!」と返事をする。
僕はもう一度あの場所をイメージして「跳ぶよ!」と声をかけた後で「【アーティファクト】!」と唱えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます