第37話 悪魔との再戦。

僕は「瞬きの靴」で城に行くと門番にフードの男を呼ぶように言う。


しばらくするとフードの男が出てきた。

フードの男は僕を見て「お前の口ぶりだと昨日来るものだと思ったのだがな」と言う。僕だってそう思っていた。だから僕は「僕もそう思っていたけど色々あるんだ」と言った。


「…」

「……」


「まあいい。着いてこい」

僕達はフードの男についていく。

今回も庭のように天井の無い広場のような場所に出た。


王は広場の真ん中に居た。

フードの男が「S級のアーティファクトが来ました」と告げると、王は前回同様に「寄越せ」と走って向かってきた。


まずはマリオンがアーティファクト砲を当てて王を押し返す。

きりもみした王が起きるタイミングでカムカが強烈なパンチを打ち込み壁際に吹き飛ばしたところで僕は12本の光の剣を出して王に攻撃を加える。


5本の剣が両手両足と胴体を壁に括り付け、1本の剣で右腕を切り落とす。

残りの6本の剣がまずは王の胴体をめった刺しにして、動かなくなったところで右腕を集中的に狙う。


あまり長時間出した事が無かったので油断をしたが、結構消耗が激しいので剣を仕舞う。

そのタイミングでマリオンが赤い光の剣で王の身体を壁に括り付けて、カムカが右腕に猛攻撃を仕掛ける。


しばらくすると王の身体が動き始めたのでマリオンと交代をして12本の剣で再度攻撃をする。

その間にカムカとマリオンには息を整えてもらう。


何回か繰り返したが、これ以上ダメージが通っていない気がしたので一度攻撃を止めてみた。


すると即座に王が起き上がって右腕の元に走る。

右腕も形を変えて王を飲み込んだ後、また裏返り悪魔の姿になった。


前回、前々回と違ったのは悪魔が肩で息をしていると言う事だ。


どの段階までが攻撃が届いていたのかはわからないが、確実にダメージは通っていた。

そして早く来た事で前回より弱体化をしているのだと思う。


「アイツ、肩で息をしているぜ?今回は行けそうな気がするな」

「だけど、この先が問題じゃない?」


「カムカはフィルさんの後ろに、僕は「万能の鎧」を試す。マリオンは光の盾を出すんだ」


「わかったわ。キョロくんは大丈夫?」

「多分だけどね」


悪魔の息が整う。

「皆、来るよ!!」


悪魔が「【アーティファクト】」と唱えるのと同時に僕達はそれぞれ防御を試す。

それに合わせるかのように閃光と衝撃が僕達を襲う。


閃光と衝撃が弱まったので周りを見る。

僕は立っていた場所からかなり後ろに押されていたがダメージはそんなにない。


フィルさんは立っていた場所から随分と後ろに押されていたが、カムカ共々無事だ。


「フィルさん、大丈夫!?」

「ええ防げたわ」



マリオンは…!?

マリオンは何とか耐えはしたのだが、体重の問題かもしれない。

壁に吹き飛ばされてうずくまっている。


「マリオン!!」

「生きてるよ…何とかだけどね。まあ、次は耐えられないと思う」


「マリオンごめん。このまま戦ってもいいかな」

「いいよ、毎回一回食らうたびに跳んでたらいつまで経っても終わらないよ」


王を見ると王は力の放出後に放心状態になるかのように無反応だ。


「次がいつかはわからないけど総攻撃をしよう!」

「おう!!」

カムカが一番に飛び出してアーティファクトの一撃で顔面を殴る。


「私だって…」

マリオンがアーティファクト砲を放つ。


「何の役にも立たないかもしれないけど!」

フィルさんが槍で攻撃をする。


「皆離れて!【アーティファクト】!!」

僕は光の剣ではなく「兵士の剣」の能力で斬りかかる。


「ぐあぁぁ」

悪魔の身体に深々と剣が刺さる。


行けるか!?

多分その瞬間、皆そう思ったと思う。


だが、次の瞬間…


「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」


悪魔は3連発で閃光と衝撃を放ってきた。


何秒気を失ったのだろう…

僕が目を開けると広場は滅茶苦茶で柱も折れて壁に穴が開いていた。


どうやら僕は「万能の鎧」に付与した「自動防御」が効力を発揮したようで何とか生きていた。

フィルさん…

カムカ…

マリオン…


皆を探すべく、身体を起こした。


僕の目の前には地獄が広がっていた。

悪魔はフィルさんの遺体からムラサキさんを奪い取って食べていた。

カムカの遺体は「炎の腕輪」が着いていた右腕が肩から先が無くなっていた。

マリオンは姿もなく、残骸…食べかすが散らばっていた。



僕は絶望の気持ちの中「………トキタマ」と呼びかけるとトキタマは「はい!」と元気よく反応してくれて時を跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



95回目の時間。

僕達はペック爺さんの家に居た。


あたりを見まわしたカムカが「なあ、俺死んだんだよな?」と聞いてくる。

僕はあの3連発でみんな死んだ所までしか見ていない、その後僕もすぐに死んでしまったと伝えた。

いくらなんでもあの地獄は伝えられない。


それもあってか僕を気遣ってかカムカ、フィルさん、マリオンの3人は「惜しかったな。きっと後もう少しだったんだぜ」「そうね、次はもっと慎重に戦えば大丈夫だと思うわ」「私も頑張る」と言って気丈に振舞ってくれる。

だが正直、仮に4人で挑んで勝てても、僕以外の誰か一人が傷を負う可能性があって、あの地獄を目にした僕はそういう問題ではないと思っていた。



「どういう作戦で行くよ?」とカムカが話しかけてくる。


僕は「うん、少し考えたいから…」と言ってジチさんに「ジチさん。もうすぐお昼ご飯だよね?」と聞く。正直まだ朝なのでお昼ご飯の話をするのはおかしい。

ジチさんも「え?一応作り始めているけど…食べるかい?」と聞いてくる。


「じゃあ、お昼ご飯を食べながら話そう。僕もそれまでに作戦とか対策を考えるよ」

「そうね、それがいいかもね」

フィルさんが僕を見てそう言う。


その後でフィルさんは「でもね、キョロくん…私たちは仲間なの、あんまり自分1人を責めないでね」と言ってくれた。

僕は「うん、ありがとう」と言いながら、ちょっと川で顔を洗ってくると言ってペック爺さんの家を出た。



…駄目だ。

絶対に3人は連れていけない。


刺し違えてでも僕1人で倒すしかない。

僕は川に向かいながら「トキタマ」と呼ぶとトキタマは僕の肩に「はい?なんですかー?」と言いながら降り立った。


「僕に付き合ってくれるよね」

「はい!僕はお父さんのアーティファクトですよ!」


「ありがとう。勝つまで何回でも僕は跳ぶ」

「はい、その意気です!!」


僕が何回も時を跳ぶと言ったからだろう。

トキタマは嬉しそうにしている。

だからこそ僕はこの質問をする。


突然僕が「前にムラサキさんに聞いたんだ」と言うと嬉しそうだったトキタマは動きを止めて「え?」と言った。


僕はトキタマの返事を待たずに「トキタマが僕の意識に介入して戦いを楽しむようにしたって。それは本当?」と聞くとトキタマは無言になってしまう。

おそらく最適解を考えているのだろう。僕は聞き返さずに「今もできる?」と続けるとトキタマは「出来ますよ」と言った。


そのトキタマの声はいつもの幼子、可愛い感じの男の子の声ではなく落ち着いた大人といった感じの声だった。

僕は驚くこともなく「じゃあ、2回。2回跳んでも勝ち目が無かったら、僕の意識に介入して何が何でも勝つように仕向けてくれるかい?」と続けるとトキタマは「いいですよ。後悔しませんか?」と聞いてきた。


「しないさ、あんなのを野放しにする方が余程後悔するよ」

「流石はお父さん。僕も全力で応援しますよ」


「行こう」

「はい」



僕は「瞬きの靴」で瞬間移動をした。

門番と会うのも手間なので直接広場を目指した。


広場には王が居る。

そしてフードの男も居た。


王ではなくフードの男が「まさかとは思ったが、思った通り直接現れたかS級アーティファクト使い。それにしても昨日来ると思ったのだがな…」と言って僕を見る。


「仲間の準備をして居た」

「ほう、ではその仲間はどうした?」


「仲間が居たら勝ち目がないから1人で来たんだ」

「そうか「時のタマゴ」か…。諦めて献上すれば良いものを、王の「龍の顎」ならば呪いも何もまとめて飲み込んでくださるというのに…」


「こんな奴を野放しに出来るわけが無い」

「ではどうする?」


「決まっている」

「そうか…、ではやるが良い。そして諦めがついたら王にアーティファクトを献上するがいい。」


そう言ってフードの男は姿を消した。

僕の目の前には王が居る。

王はこちらを見てブツブツと何かを言っている。


聞かなくてもわかる。「寄越せ」だろう。


僕は先制攻撃で「【アーティファクト】!」と唱えて剣を振り右腕を切り落とす。

そのまま更に「【アーティファクト】!」と唱えて12本の剣を出すと右腕も身体もめった刺し、めった斬りにする。


やはりカムカとマリオンが居ないのは手数が足りなくて苦しい。

息継ぎのタイミングが取れない。

息継ぎを行えば連続攻撃に穴が空く。


可能な限り攻撃をした僕は最後に王を壁際に吹き飛ばすと肩で息を整えながら動向を見守る。

王はやはりすぐに動き出す。

そして右腕とくっ付いて再び僕のアーティファクトを狙い始めた。


「まだダメか…」

僕は1人の限界を思い知り、脳裏にフィルさん、カムカ、それにマリオンを思い浮かべてすぐに首を横に振る。


「ダメだ、みんなを連れてきたら死なすかもしれない」

僕は光の剣ではなく剣で王を斬りつけるが、すぐに傷は塞がる。


しかも動きが止まらない。

しばらくすると「寄越せぇぇ」と言う声と共に僕の「万能の鎧」に左手が伸びた。


右手だったら喰われていたかも知れない。

だが左腕を出した王は「バキッ」と言う音と共に光の壁に弾かれる。

自動防御だ…

そして次の瞬間、3本の光の矢が王の身体に向けて飛ぶ。

これが自動反撃か…


倒れる王の体に向けて僕は再度光の剣を放つ。

12本全てを胴体に刺して床に縫い付けたままに僕は斬りかかる。


光の剣を出したままの攻撃は尋常じゃない消耗具合だが僕は手を止めない。


いい加減、キツくなってきたので光の剣ごと「兵士の剣」の技で吹き飛ばす。



そのまま僕は膝をついて再度肩で息をする。

少しでも距離を稼ぐ為に壁際まで吹き飛ばした王を見ると黒色の血まみれになって動かない。

ようやく自動再生を上回るダメージを与えた証拠だろう。


出来ることならこのままトドメを刺したいのだが、僕も今は動けない。

どちらの回復が早いかの勝負になる。



僕の回復は遅れている。

多分、その時が近づいているんだと思う。


トキタマだけならばそんな事も無いのだろうけど、僕の手元には今4つのS級アーティファクトがある。神の使いから注意点を聞かなかったが、例え聞いても答えてくれなかったと思う。


恐らく、4つ全てが僕の魂を必要とするアーティファクトだからだ…。


何となくわかったのはリーンの前で剣と靴を使った時。

あの時の感覚はトキタマを使った後によく似ていた。

そしてフィルさんがジチさんとムラサキさんとした女子会の話で見せた顔。

あれで予想は確信に変わった。


恐らく10回前後…いや、今の半分、50回くらいの時ならこんなに待たなくても回復出来たし、光の剣での攻撃ももっと長距離、長時間の物になったと思う。


「僕の魂は残りわずかなのだろう」


つい呟いてしまう。

リーンとキスをした事、ナックに誘われて風呂覗きに付き合った事、マリオンの復讐を手伝った事を一瞬悔やまれたが、あれだけ跳んだおかげで助かった事も勿論ある。


「人生とはままならないな」

こんな時なのに自嘲気味に笑ってしまう。

大分身体が動くようになってきた。


僕はようやく立ち上がり王のところへ足を進める。


「さ…捧げる」

王が何かを言っている。


王が「「雷鳴の杖」を捧げる」と言うと王の身体の傷が塞がり流血が止まった。

続けて「「晴れの玉」を捧げる」と言うと服からなにもかもが綺麗になり王が立ち上がる。

最後に「国民を守る為に私はアーティファクトすら神に捧げる」と言った。


その言葉と共に右腕が全身を覆う

次の瞬間…そこには黄色の体毛の悪魔が居た。


見た目は青い悪魔より一回り小さい。

それ以外は、色以外は変わらない。


「国を脅かす国賊め。民を守る為に私は戦う!」


悪魔は腕を大きく振り上げて殴りかかってくる。


僕はそれをかわしながら剣で斬りつける。

アーティファクトの力は使って居ないのに刃が通る。


確実に青色の時より弱い気がする。



苦痛に苦し気た声を出した王の「ぬぅ…やらせん」という言葉と共に始まった怒涛のラッシュが僕に迫る。

捌ききれない部分もあったが、自動防御と自動反撃がそれに対処をする。


有効打がない事で「ならばアーティファクトの力を知れ!」と言って悪魔は僕に向けて手をかざすと「【アーティファクト】!」と唱えた。


閃光と衝撃が僕を襲うが自動防御が僕を守る。


「ぬぅ…。耐えるか…ならば…」

そう言うと悪魔は再び手をかざして「【アーティファクト】!」と唱えた。



閃光と衝撃。

一回なら問題なく防げる。


僕は「万能の鎧」でそれを防ぎながら剣を構えて攻撃の準備をする。

光が収まり始めた頃、目の前には拳を振りかぶる黄色い悪魔の姿があった。


「!!?」


僕は慌てて剣で攻撃を防ぐ。


そのまま悪魔はラッシュを仕掛けてくる。

眩しさで姿がまだよく見えない。

何回かに一回かは攻撃を食らう。


だが自動防御が攻撃を防ぎ、自動反撃が攻撃をする。

何回かのラッシュの後、悪魔がニヤリと笑った気がした。


!!?

嫌な予感がする。

その予感はすぐに確信へと変わった。


ラッシュ中、自動防御のタイミングで悪魔が手をかざし「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱えた。



自動防御は悪魔の拳に対してだったので閃光と衝撃を全て受けてしまう。

激しい痛みの中、僕の意識は薄れていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



96回目の時間。

まだ僕は時を跳んでいた。

トキタマが「お父さん、2回目ではなく今からお父さんが変わった方がいいと思います」と話しかけてくる。

話し方はいつもの幼子に戻っていた。


「…残り時間の話かな?」

「はい。本当は戦わないで僕以外の3つをアイツに渡して僕とお父さんだけでやっていくのが一番ですけど、お父さんはそれをしませんよね」


「そうだね」

「そうすると残りわずかだから、後何回も跳べません」


「そうなんだ」

「僕はお父さんのアーティファクトです。お父さんに生きていて貰いたいんです」


人間とは違う、アーティファクトの倫理観。

トキタマはトキタマで色々考えてくれていたのだろう。

なので素直に提案を受ける事にした。


「ありがとう。じゃあお願いするよ」

「はいです」


少し頭痛がした。

そして強烈な眠気。

段々と僕が僕でなくなっていく感じ。

その感じに流されていく。


そうして時を跳び終わる。

俺は跳んできた。


俺が着地に選んだ場所は広場でこれから王とやりあうところからだ。


俺は王に向かって「さっきまでとは一味違うからな。覚悟しておけよな」と言う。

だが王は「寄越せ…寄越せ…。力あるアーティファクトを寄越せ」としか言わない。


会話にもならねぇな。


戦いにあたって一つ変更をした。

「万能の鎧」に付与をした自動反撃をやめにして自動防御を二重にした。


無駄に手を広げすぎだ。

鎧は鎧らしく攻撃なんて言うものは考えなくていい。


俺は「行くぜ」と言いながら「瞬きの靴」の高速移動を使い、一気に距離をつめて左腕を切断してみたが、即時に再生された。


「回復力は健在。…再生しないでくっ付くのは右腕だけか…」

切り落とした方の腕を見ると消えていた。


俺はそれを見て「どうなってんだ?」と言いながら有効打を見つける為に続けて攻撃をする。

両足胴体、右腕…。

一番身じろぎするのは右腕だが、前進を阻むという意味ではやはり両足が効果的だ。

「革命の剣」の能力を使う為に「【アーティファクト】!」と唱えて光の剣を3本だけ出す。


「12本は出しすぎなんだよ…。行け!」


1本が背後から身体に刺さり、王の身体を床に押さえつける。

残りの2本と自分自身で王に連続攻撃を仕掛ける。


1本目の剣は右足だけを狙い、2本目が左腕。

そして俺自身が右腕を狙う。


3本くらいなら12本に比べて消耗も激しくない。


単純計算で4倍の時間を切り刻める。

だが、それをして動けなくなっては元も子もない。


ただ斬り刻むのではなく王の再生速度を見極める。

最初は一瞬で再生していた部分も再生に手惑い始めたので、黒い血が止まらなくなるまで攻撃をする。


一度剣をしまい動きを見る。

うつ伏せで倒れたままの王がまた「天気の玉」と「雷鳴の杖」を捧げて立ち上がると変身をした。

今回の悪魔の姿は橙色で青色の時より一回り以上小さかった。


「やっぱりだ、コイツはダメージで色が変わる。青が知る限り最強で、次が黄色、そして黄色の次が橙色だ!」

悪魔は俺の言葉に反応し「おのれ、国を脅かす国賊め…。私の正義の一撃を受けてみろ!」と言う。


「そのくせ、小さくなればなるほど知能が付いてきやがる」

悪魔の攻撃は今までよりは早くないが、小さく賢くなった分だけ小回りが利く。そこに蹴りや体当たり、フェイント等も追加されたので一筋縄ではいかなかった。


だが、今の俺にはそう大した問題にはならない。

圧倒的に基本能力の差がある。

俺は隙を見逃さない。


「【アーティファクト】!」と唱えて振り下ろす勢いを乗せた一撃が悪魔の右腕に決まると剣は深々と刺さり悪魔は「ぐぅぉぉぉっ!!?」と辛そうな声を出した。



「ん?もう右腕が弱点って訳でも無さそうだな」


剣を抜いて距離を取ると悪魔は「おのれ国賊め…許さん!喰らえ!!!」と言って力を溜めて「【アーティファクト】」と唱えた。


閃光と衝撃が俺を目指してくる。

だが問題はない、俺は「甘い!【アーティファクト】!!」と言って自動防御が閃光と衝撃を難なく防いだ瞬間に光の剣を2本出してカウンター攻撃をする。

カウンター攻撃が直撃して後ずさった悪魔は「ぐぅ…、ならば…」と言った後で「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱えてきた。


俺は呆れながら「おいおい…。また三連続かよ…」と言う。前回は脅威だった三連続だが、今回は自動防御を二重にしているので1枚目の光の壁は突破されたが、何の問題もなく2枚目の光の壁が攻撃を防ぎきる。


「おら!お返しだ!!【アーティファクト】!」

大きく振りかぶった「兵士の剣」の一撃が悪魔の右肩から真っ直ぐに振り下ろされると悪魔は「ぐぁぁぁぁ……」と苦し気な声を出し膝を付いてこちらを睨みつけてくる。

すぐには立ち上がらず「おのれ…、おのれ国賊め…」と言っている所を見ると、おそらく傷の再生も追いつかないのだろう。その証拠に悪魔は「私は…私は民の為にも負けるわけには行かないのだ!!」と叫ぶ先から、肩の出血先から黒い血が噴出している。

俺は「もう、終わりだな。せめて苦しまないように止めを刺してやる」と言って剣を構え直した。



「まだだ、まだ!捧げる!!捧げるぞ!「海鳴りの扇」と「千里の眼鏡」を捧げる!!だから私にこの国賊を倒す最後の力を!!!」

そう悪魔が叫んだ瞬間。悪魔の身体が発光した。

身体は更に一回り小さくなり、体色も橙色から赤色に変化し傷もふさがっていた。


「戦える。私はまだ戦える!!行くぞ国賊!!」

悪魔はそう言うとまた突進をしてきた。


「馬鹿の一つ覚えが…」と言いながら放つ俺の剣が悪魔を迎え撃つ。

剣は更に脆くなった悪魔に簡単に突き刺さった。


このままひるんだ所に止めを刺すつもりでいたのだが…悪魔は歩みを止めない。


俺は驚いて「くそっ、何を!?」と言ってしまう。


壁にでも押し付けて殴ってくるつもりか?

そう思ったが悪魔はまったく別の方法を取ってきた。


小さくなったとは言え、カムカよりも大きな巨体で俺に抱きついてきた。


「ちっ!何だ!!」

「私はこの悪魔と刺し違えて国を守る!皆のもの後は任せたぞ!!!」


自爆!!?

冷たいものが背中を走る。

俺は光の剣を出して悪魔に突き立てる。

せめて片腕だけでも切り落として振りほどいて距離をとらないと零距離での自爆攻撃は自動防御では防ぎきれない可能性がある。


123…456…789…順調に剣が腕に突き刺さる。だが悪魔の腕は切り落とせない。


悪魔は痛みに苦しみながら「ぬぐぅぅ…。民よ、私に最後まで戦う力を!!」と言って更に力を込めてくる。


何が力をだ…ふざけるな!

そう思った時、悪魔は「さらばだ民よ!!」と言うと「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱えた。



四連撃!!?

流石の二重防御でも4発目は防げずに閃光と衝撃が俺に直撃した。



激痛に苦しむ俺は「ぐあぁ…」と声が漏れてしまう、目もくらむ閃光と衝撃に呑みこまれながら悪魔を見た。

悪魔は体色が灰色になり上半身が吹き飛んでいた。

恐らく赤が戦える最後で、その後は灰色になるんだろう…。


「トキタマ…しくじった。跳ぶぞ。…跳べるな」

「はい。もう少しなら大丈夫ですよー」

そう言ってトキタマの力で時を跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



97回目の時間。

俺は最初に戻るのではなくほんの少し前を選択した。

着地するなり悪魔は「まだだ、まだ!捧げる!!捧げるぞ!「海鳴りの扇」と「千里の眼鏡」を捧げる!!だから私にこの国賊を倒す最後の力を!!!」と言って勝手に盛り上がっている。

盛り上がった後、悪魔の身体が発光し、傷も治り赤く小さくなって立ち上がる。



悪魔はまた突進をしてきた。

恐らくこれは何をしても止まらないだろう。

下手に止めようとすれば抱きつかれて自爆に持ち込まれる。


なので消耗戦にすることにした。

メインを「瞬きの靴」での高速移動に切り替え、斬っては離れるヒット&アウェイを繰り返す。

もう、この赤い状態の悪魔は俺の高速移動について来られないので成すがままに切り刻まれるだけだ。


悪魔は必死に「くそ…近寄れん…」と言いながら迫ってくる。

こちらもいつ自爆されるかわかったものではないので、しっかりと距離を取り躊躇なく斬り続ける。

しばらくするとダメージが再生力を上回ったのだろう、全身を黒い血が染め上げる。


赤い悪魔は自爆攻撃を諦めたのか「ぐぅ…。ならば、最後の力…命を燃やしてでも国賊を討つ!」と言うと力を貯め始める。


一番可能なら望ましいのは発動前に倒すことだろう。

だが、先ほどの例がある。ここは諦めて攻撃を受け止める方向に持っていく。

一瞬逃げる事も考えたが、暴発しないで済んだ場合には回復もされるし俺の魂の方が限界を迎えてしまう。


俺は一瞬で色々と思案をした結果、一つの方法を選択した。

「やってみるか…」と言いながら光の剣を12本全て用意してアーティファクト砲を受け止めたときと同じ要領で目の前に展開をする。

そして後は「万能の鎧」に付与した身体強化を解除して全てを自動防御にする。

三重の自動防御で待ち受けながら、後はなるべく吹き飛ばされないように床に剣を突き立てて待ち構える。


悪魔は力を溜めながら「民よ、今私はお前たちの力を感じる。この力ならこの国賊も討ち滅ぼせよう!!喰らえ国賊!!」と言ってこちらを睨みつけてくる。


そして一瞬の間の後で「【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】【アーティファクト】」と唱え攻撃を放ってきた。


やはり四連撃以上の攻撃だった。

閃光と衝撃が連続で襲い掛かってくる。


最初の一撃目は12本の剣で殆ど防ぎきる。

二撃目は一枚目の自動防御を破れずに終わり、三撃目で二枚目までの壁が破られた。

四撃目は三枚目の自動防御を破れず五撃目はほぼ相打ちだったが何とかギリギリ防いだ感じでこちらも剣ごと壁に吹き飛ばされた。


ギリギリ防げたが壁に飛ばされ身体を打ち付けた俺は「くそっ」と悪態をつき、痛む身体を引きずりながら悪魔を見る。悪魔の体色は灰色になり、ピクリとも動かない。


俺は最後の力で悪魔に剣を振るう。

何の抵抗もなく剣が悪魔の身体に通っていき、悪魔は粉々に砕け散った。


「終わった…」そう呟いた俺はトキタマを呼び、寝るから前みたいに元に戻しとけと伝えた。


酷く疲れた。

あっという間に眠気が押し寄せてくる。

もうこの身体に魂は殆ど残っていない気がする。


「まあ、いいや…やれるだけやった訳だし……」

俺はそう呟きながら眠気に任せる事にした。





遠くで僕を呼ぶ声がする。

誰だろう?

起きて返事をしなきゃと思うのだが身体が重い。

瞼もくっ付いてしまったように開かない。


そう言えば悪魔はどうなったんだろう?

僕は勝てたのか?

それとも魂を使い切ってしまったのかな?


そんな事を考えながらいると、段々と声が近づいてきた。


「キョロくん!!」

「キヨロス!!」


「死なないで!!」

「起きろよ!!」


これは聞き覚えのある声。

フィルさんとカムカだ。


「息してないの?」

遅れてマリオンの疲れ切った声が聞こえてきた。



「生きてる!!息してるわ」

そう聞こえながら僕の顔に何かが落ちてきた…。


「じゃあ何で起きないんだよ?」

「わからない!!生きている、けど起きないの!」


また僕の顔に何かが落ちてくる。

沢山落ちてくる。


「疲れて眠っているんじゃないの?あの化け物を1人で倒したんでしょ?」


そう…すごく疲れている。

瞼すら開けられない。


「でもどうしよう!このまま起きてくれなかったらどうしよう!」

「泣かないで、落ち着いてよお姉ちゃん」


泣いている?

フィルさんが泣いている?


「そうだぜ、とりあえず落ち着けよ。フィルさんの涙でキヨロスの顔が凄い濡れてるぜ?」

カムカの声にフィルさんは「でも、でも!」と言っている。


フィルさんの必死さにマリオンが少し困ったような声で「あー、わかったから。お姉ちゃん離れて」と言う。



マリオン?


マリオンが何を言い出したか気になった時、「カムカ、帰りは2人担いでよね」と聞こえてきてカムカが心配そうに「おい、マリオン?」と聞き返す。その直後にマリオンの「【アーティファクト】」と唱えた声が聞こえてきた。


暖かい…。

僕の身体の痛みが和らぐ。


和らぐ?


「マリオン、やめろ!倒れるぞ!」

カムカが怖い声を出している。


「仕方ないでしょ?お姉ちゃんが泣き止まないんだから」

「だからって回復の力を使うなよ。自分を大事にしろ!キヨロスだって怒るぞ」


回復の力?

擬似アーティファクトを使ったのか?

ダメだマリオン…倒れる。


「怒るなら起きるって事でしょ?それなら良いじゃない」


起きなきゃ…

フィルさんが泣いている。

マリオンが無理をしている。


起きなきゃ!!


僕はいくら思っても体は動かない。その間もカムカが「起きろよキヨロス!!お前が起きないとマリオンもフィルさんも大変だぞ!!」と怒っている。


カムカ…怒っても仕方ないのになぁ…

なんだかおかしくなった。

それでも起きない僕に「いいのか?ジチさんも怒るぞ!」とカムカが言う。

それはやだなぁ…


「ガミガミ爺さんも泣くぞ!」

ガミガミ爺さんか、確かに泣きそうだ…


「ペック爺さんもマリーも悲しむぞ!」

あんまり話をしていないけど悲しんでくれるのかな?


「三の村のおじさん達だってなぁ、一の村の人達だって悲しむぞ!」

おじさん…、父さん…母さん…、ナック…、村長…

何故か悲しむ顔ではなく皆の笑顔が眼に浮かぶ。


でも僕はやり切った。

もう村のみんなは無事だよね?


悲しむかな?

よくやったと笑顔で褒めてくれないかな?



「一の村に居る、お前の彼女はどうすんだよ!!」

リーンは彼女じゃないってい…


リーン…


リーンは泣くよな…泣いて怒って悲しんで…。

フィルさんより泣いて、ジチさんより怒って、父さん母さんより悲しみそうだ…



それは嫌だ。

僕は皆の笑顔が見たくて頑張っていたのに、僕の大事な人達が悲しむのは嫌だ。


起きなきゃ…

僕の大事な人達の為に起きるんだ!



カムカとフィルさんの「起きろ!!」「起きて!!」という声に合わせるかのように僕は目を見開いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



僕が目を見開くとカムカが「うぉぅ!!?」と驚いてフィルさんが「起きた!!キョロくん!!良かった!」と抱き着いてくる。


「フィルさん、悲しませてごめんね。カムカ、沢山呼びかけてくれてありがとう。マリオン、無理させてごめん。僕は大丈夫だから」


「ホント?やめた途端に死なないでよね」

マリオンは兜で顔が見えないが涙声だった。


「何でこんな無茶をしたの?」

フィルさんが優しい口調で聞いてくるけど目は凄く怒っている。


「そうだぜ?1人で行っちまいやがってよ」

カムカも呆れている。



僕は素直に「死なせたくなかったんだ…」と打ち明けた。

この返答にフィルさんが「そんな…なんで急に…?」と聞き返した時、マリオンが「わかった、アンタ実は吹き飛ばされた後に私たちが死ぬのを見たんでしょ?」と言う。


マリオンは鋭い。



「え?そうなの?」

「うん…カムカは腕ごとアーティファクトを喰われて、マリオンは全身…。フィルさんもムラサキさんを奪われていた…」


「だったらそう言えよ!そうしたらもっと色々考えたぞ」

「そうよ、何でも背追い込まないでって言っているでしょ?」


僕はやや困りながら「うん、ごめんね。でも死んでほしくなかったから…」と言うとフィルさんが「キョロくんのバカ…」と言ってまた泣く。


何て言おうか悩んでいるとマリオンがわざわざ僕の顔の前に来て「バカ」と言うので僕は「それ、酷くない?」と言った。



「所で起きれるか?」

カムカに聞かれたが、手は何とか動くが、まだ足腰に力は入らない。


「ごめん。まだちょっと無理」と言うとフィルさんが膝枕をしてくれた。

鎧は脱いでいないからちょっとゴツゴツしている。


「所で、どうやってこんなに早く城に来たの?」

僕が聞くとマリオンが睨み付けてくる。


「お昼になってもアンタが戻ってこないから、皆で城に1人で行ったって気づいてそれで追いかけたの。お姉ちゃんもカムカも早く走れないから私が2人を担いで走ったのよ!お陰で足がガクガクよ!」

「それでこんなに早く着いて、マリオンは疲れた声だったんだね」


僕は笑ってしまうと「笑えないから」と言ったマリオンが「アンタこそどうやってあの悪魔を倒したのよ?」と言う。


どうやって…

トキタマに任せた部分を思い出さなきゃ…


思い出そうとしている僕にマリオンは「また暴れたんだ。それで覚えてないんでしょ?」と聞くとフィルさんが怒り口調で「そうなの!?」と言って覗き込んでくる。


僕は「うん、今回はトキタマに頼んだんだ。多分僕1人だと無理だろうって思って…」と言うと「もう、そんな無理しないでよ…」と言う声と共に、また僕に涙が落ちてくる。


「フィルさん、泣いてばかりだ」

「誰のせいよ」


「ごめん」

僕はどうやって倒したかを思い出した。

悪魔の色が青から黄色になって橙色、赤色になった話、最後は灰色だった話を伝えた。


攻撃は光の剣でアーティファクト砲を受け止めた感じでやった話と鎧の能力を自動防御だけにして耐えたことを伝えるとカムカは「ひょぇ〜」と驚いていた。



「ああ、後は追い詰めても体内の特定のアーティファクトを何かに捧げて全回復してたよ。その度に縮んで弱くはなるんだけどね」

僕の説明フィルさんが「うん、ありがとう。わかったからもう大丈夫」と優しくそう言ってくれた。


「とは言え長居は無用だな。俺がキヨロスを背負うから帰ろうぜ」とカムカが立ち上がってそう言った。

そこにフィルさんが「帰ったらジチが凄く怒ると思うわ」と言って笑い、マリオンも「帰るの楽しみね」と言う。酷い。



皆で帰ろうとした時、「お待ちください」と急に声がした。

横を見るとフードの男が僕に跪いていた。


そして「王を打ち倒した新たな王よ」と言った。


「王?」

「はい、あなたこそ次の王です」


そう言うと、粉々になった王のカケラの山から何かを掘り出してきた。


「王よ、これをどうぞお持ちください」

「これは?」


「王の証「支配の王錫」でございます」

「えー、あー…いりません」


「…」

「……」


「なりません!王を打ち倒したあなた様こそが持つべきモノです」

「それでもいりません」


僕がいらないと言っても引き下がらないフードの男にカムカが「あー、あのさ、いらないって言っているんだから諦めて帰ってよ」と止めに入ってくれる。

そうするとフードの男はカムカを見て「御付きの人」と呼び、カムカが「誰が付き人だコラ!」と返す。


「貴方からも言ってください。このままでは城の者が皆死んでしまいます」


死ぬ?

何だその死ぬは?


「どう言うことですか?」

「今この城の兵隊は全て前の王により操られています」


それは前に聞いたから知っている。


「その王が討ち取られ、新たな王が王錫を持って改めて支配を行わないとそう遠くないうちに皆死にます」


「なんですかそれ?」

「仕方のない事なのです。せめて王錫を一度持って改めて支配をしていただいた後に兵隊に自由をお与えになってくださっても構いません」


死ぬと言われると無下には出来ない。

僕は王様なんてやりたくない。

フードの男の言う通り、さっさと支配をして自由になって貰おう。


「わかりました」

「王よ、ありがとうございます」


「でもすぐ自由にしますよ」

「それで構いません。全ては王の決断です」


このフードの男も王相手だと態度が随分と変わるものだな…。僕はそんな事を思いながら手を伸ばすと遠くからトキタマの声がする


「お父さんダメですー!!」

膝枕をしてくれているフィルさんの腕についたムラサキさんも突然「いけません!キヨロス!!」と言い出した。


僕は驚いて「え?」と言った時、「さあ、王よ!お受け取りください!!」と言って2人が止める声より先にフードの男が僕に王錫を掴ませた。



僕の身体が光った所で意識が途切れた。

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