第36話 すべて元通り。
僕達を見たペック爺さんはパンをかじりながら「え?もう来たの?」と言った。
ジチさんが「ほら!早いのよ」と言ってプリプリしている。
ここで僕はジチさんに色々と謝っていない事を思い出したので「ジチさん、ゴメンね」と言って謝る。
ジチさんはジト目で「何が?」と聞いてくるので僕は「ここの所の事とか全部かな?」と言うとやっとかと顔に書いてある気がしたジチさんは「もう。…仕方ないわね。いいわよ」と言ってくれた。ちなみにやっとかと顔に書いてある気がしたと恥ずかしがるので言わないようにした。
話している間にガミガミ爺さんの力でマリオンが復活する。
起きてきたマリオンは「おじいちゃん。おはよう」と言っていて可愛らしい女の子にしか見えない。
僕はマリオンのブローチを取り替えるとマリオンが倒れこむ。僕はそれを受け止めると、ものの数秒でマリオンは目を覚ます。
少しの沈黙の後マリオンは僕達を見回して「早くない?」と眉間にしわを寄せながら言った。
「何日目よ?」
「キヨロスくんが張り切っているからまだ2日目よ」
ジチさんが呆れた感じを出しながらそう言う。
「早い!」
えー…、また早いって怒られた。
「僕もまだ来ないと思ったから準備終わってないよ?」
「それなら今からマリーと村長をなんとかしてくるからその間に用意を済ませてください。マリオン、手伝って」
僕は「あー、はいはい」と言うマリオンを連れて村の外に出る。
少しするとマリーが猛進してきた。
「マリオン、危ないから村の中に居て」
「りょうかーい」
マリオンはやれやれと言った感じで相槌を打つと村の中から僕を見る。
僕が「じゃあ、面倒だし同時攻略するかな?」と言うとマリオンが意味不明と言った顔で僕を見て「は?」と言った。
僕は「革命の剣」をかざして光の剣を出す。
12本の剣のうち4本を村長の家に、残りをマリーに向ける。
「え?ちょっと…それ何よ?」
「新しく授かったアーティファクトだよ」
「なにケロッと言ってるのよ!」
「まあまあ…。………行け!」
4本の剣は村長の家に向かい、屋根を突き破って村長を殺さないように服を狙って切り刻む。
村長から制御球が出て来なかったので、致し方ないが僕は村長の家を片っ端から破壊する。
しばらくすると屋根が崩れて家が倒壊した。
ここから見ても土煙が舞ったので家が倒壊したのはわかる。
恐らくこれで制御球も壊れただろう。
まあ、ダメだったらトキタマで跳んでちゃんとすれば良い。
次はこっちだ。
僕は8本の剣を使いマリーを追い詰める。
目で追うのが大変な高速戦闘になっているが、僕は剣の全てに僕が居る感覚なので問題なく追い付いて転ばせたり頭を叩いたりする。
光の剣は高威力なので案外加減が難しい、僕はつい「殺さないようにやるのって難しいな…」と漏らしてしまう。
マリーがアーティファクト砲の発射体制を取ったので光の剣を重ねて受け止めてみることにした。
位置取りを済ませたマリーがアーティファクト砲を発射したが剣でそれを受け止める。
結果に満足して「案外いけるな」と言う僕にマリオンは「嘘でしょ?」と言って度肝を抜かれている。
その後も光の剣でマリーを追い詰めるが痛めつけずに倒すのは結構大変だったので最終的に僕は光の剣をしまって僕自身の力で倒すことにする。
マリーは最高速から赤い光の剣で切りつけてくる。
僕は「瞬きの靴」の高速移動でマリーの動きに合わせてみる。
「万能の鎧」の身体強化に合わせて瞬きの靴の高速移動が合わさると本気にならなくてもマリーの動きについていける。
「余裕だな…」
僕は気分が高まってきて嬉しくなってきた所で「かーお!顔ー!!また楽しい顔になってるよ。私は良いけどお姉ちゃん達に怒られるよー」と言ってくれたマリオンの注意で冷静になる。危ないところだった。
僕は改めて「革命の剣」を構える。
「兵士の剣」は居ないけど、技は残ったと言っていた。
「使わせてもらうよ」
僕はマリーの突進に合わせる。
「【アーティファクト】!」と唱えながら剣を振ると物凄い音がしてマリーの身体が盛大に宙を舞った。
「え?」
「バカ!アンタやり過ぎだよ!」
吹っ飛んでピクリとも動かなくなったマリーをマリオンと一緒に見に行く。
…
……
「うわー…」
マリオンの引いた声。
「やってしまった」
「あーあ、鎧ボロボロ…。中のマリーが見えてて血まみれだよ」
「今のは無しで…」
「仕方ないから内緒にしておいてあげる」
「トキタマさん…お願いします。」
「はーい!」
94回目の時間。
無精は良くない事が分かったので、マリオンと外に出てすぐに「瞬きの靴」で村長の家に瞬間移動をする。
「えぇ!?」
マリオンがすごく驚いている。
「アンタ!さっきから何やってんのよ!?」
「授かったアーティファクトを使ってるんだよ」
マリオンが「シレッと何を言っているの?…………はぁ…なんか、アンタがやるとおかしく思えないのよね」と言ってがっくりと肩を落とす。
「え?ダメかな?」
「良いんじゃない?で、この門はどうすんの?」
僕は「こうするつもり【アーティファクト】!」と言って、「兵士の剣」の技を使う。
マリーの時より力を込めて斬りこんでみる。
門は爆発したような音を立てて吹き飛んで壁に直撃した。
思わぬ結果に「…あー…これはマリーも大怪我するかな?」と言うとマリオンが「するでしょ?」と言った。
「でも、ガミガミ爺さんもペック爺さんも防御を強化してあるって言ってたよ」
「限度ってあるでしょ?」
話していると壊れた壁から「何だ?何事だ!?」と言って村長が出てきた。
「あ、ちょうど良かった」
僕は村長の背後に回って腕を押さえつける。
「おはようございます。村長さん。亡霊騎士の制御球をください」
「な!?なんだお前は?なんでそんな物を…。げぇ!餌!?」
何度聞いてもマリオンを「餌」と呼ばれるのは気分が悪い。
ちょっと腕に力を入れて痛めつけた。
「痛いっ、やめてくれ!!」
苦しむ村長の前にマリオンが顔を出す。
「おはよう、村長さん。私がここに居るってことはわかるよね?じきに……来るよ?」
言葉の意味を察した村長が「くそっ」と悪態をつくがマリオンは気にせずに「制御球はどこ?」と聞く。
「誰が…」
「言わないなら僕が門を破壊した力でこの家を破壊します。その後制御球を探します」
「え?」
「破壊します」
村長は恐る恐る振り返って僕を見る。
「破壊します。今すぐ出さないなら破壊します」
「コイツ、今はまだ優しいけど、怒ると楽しくなっちゃうから早いほうが良いよ」
マリオンが変な事を言う。
僕は別に戦闘狂じゃないし、暴力だって極力振るいたくない。
「わ…わかった」
そう言って、村長は机の引き出しから制御球を取り出して僕に渡した。
「そう言えば、一つ気になっていたんです。何で制御球を使ってすぐに亡霊騎士を停止させないんですか?」
「止めた所でペックに亡霊騎士を取られたら面白くないからに決まっているだろう。奴には更に強力な亡霊騎士を作ってもらって、私はそれを国に売りつけるんだ」
村長のそんな事もわからないのか?馬鹿か?と言う表情がどうにも癪に障る。
「マリオン」
「何?」
「やっぱり殺す?今回なら止める人は誰も居ないけど?」
僕の言葉に村長は「お…!?おい!!話が違うぞ!!」と驚いた声を出す。
マリオンは「だってさ。もう散々殺したから私はやんないよ」と言いながら手をヒラヒラさせて断ってくる。
村長は「さっきから何を言っている?もう良いだろう?制御球は返したんだから帰ってくれ」と言いマリーの接近に怯えている。
そんな時、マリオンが「あ、来ちゃった」と言う。
僕にもわかる。マリーがここまで来ている。
「仕方ない、ここで相手するしかないかな」
「え?お…おい。制御球で停止すればいいじゃないか。それ以前にお前は勝てるのか?」
村長の言葉にマリオンが「さっきやりすぎて殺しちゃってるよ」と僕の代わりに答えてくれる。
…殺してはいないんだけど…人聞き悪いな。
それに僕は機能停止指示を出せない。
出せばマリーの骨がバラバラになると聞いているからだ。
もし、それを言って村長が仕返しなんかを思いついたら面白くない。
まあ、運が良かったのは村長が想像以上のロクデナシで機能停止をこれっぽっちも考えなかった事だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は剣を抜いてマリーを待つ。
マリーは一直線に来たのだろう。また分厚い壁をぶち抜いて現れた。
僕は聞こえていなくてもマリーに「さあ、マリー。お家に帰ろう」と声をかける。
マリーはアーティファクト砲の発射体制に入る。
狙いは勿論マリオンだ。
「マリオン、危ないから動かないでね」
「わかってる。よろしくね」
僕は「革命の剣」に火を纏わせてアーティファクト砲を跳ね返す事にした。
勿論マリーには当てない。
流れ弾は村長の家に直撃する。
村長は直撃した瞬間に「あぁぁぁぁ!私の家が!!」と言って頬に手を当てて悲痛な叫びをあげる。
僕はそんな村長に向けて「あー、仕方ないなー、避けてマリオンや村長に当たったら死ぬもんなー」と気の抜けた返事をする。
続けてマリーは肉弾戦でマリオンを狙ってくる。
「マリオンじゃなくて僕を狙って欲しいな」
そう言いながら剣でマリーを吹き飛ばすと、吹き飛んだマリーは村長の家に直撃する。
「おいぃぃぃぃぃっ!!なんていう事を!!私の家が!!」
「あー、これは仕方ないなー、勢いもあったしなー」
その後もアーティファクト砲を跳ね返して屋根に大穴を開けたり、吹き飛んだマリーで何枚壁を破壊できるかなど、僕の気が済むまで暴れた。
キリのいい所でマリオンが「あははは、顔。また危ない顔になってるよ」と言って僕を諫める。
「おっと、それでは気分も晴れたし終わらせるかな」
僕はそう言ってマリーの背後を取って一気に剣を振り落としてマリーを機能停止させる。
ちなみに村長は「あ…あは…はははははははは…私の家…私の家が…。めちゃ…滅茶苦茶じゃないか…」と言って放心状態で崩れ落ちて笑っている。
その顔を見てようやく僕の留飲が下がった。
「マリオン、帰るよ」
「わかったー」
マリオンは僕の方に来る前に村長の前に立って「仕返ししようなんて思わないでね。もしそんなことしたらコイツが一瞬でこの家吹き飛ばしに来るからね」と言っていた。
まあ、村長が聞いているかは不明だ。
「お待たせ」
マリオンがニコニコしながら僕の所に来ると「アンタ、悪い奴だよな。全部狙って暴れたでしょ?」と言う。
「わかった?」
「わかるよ。顔も凄い事になっていたからね。」
「気を付けるよ」
「まあ、格好いいから私はその顔も結構好きだけどね」
「え?」
「いいから帰ろう」
まあ、壊すだけ壊したし帰ろう。
「じゃあ、お邪魔しました」
僕はニコッと微笑んで手で挨拶をした。
「瞬きの靴」でペック爺さんの家に帰る。
「マリオン、これから今回もちょっと大変だけど頑張ってね」
「平気だよ。でもアンタは回復の力は授からなかったんだね…」
そうなんだよな…これだけ凄いアーティファクトに囲まれても回復の力だけは授かれなかったんだよな。
僕は鎖で縛ることなくさっさとペック爺さんの家にマリーを運び込む。
そして制御球を二個ともペック爺さんに渡す。
「あ、二個とも持ってきてくれたんだ」
「ほら、ペック早くしろ!」
「う…うん。全アーティファクトの機能を停止」
ペック爺さんは制御球に声をかける。
亡霊騎士の威圧感が消えた。
今回は二個とも機能停止させたので前回みたいな事は無いだろう。
試しに外した鎧をマリオンに着てもらったが「今度は大丈夫だよ」と言ってくれた。
「小僧、うまくやれたみたいだな」
「う…うん。」
「どうした?何かあったのか?」
「ううん、大丈夫」
返答に困る僕を見てマリオンが「楽しく暴れてー、村長の家も滅茶苦茶にしてきたしー」と踊りながら茶々を入れる。
この内容にカムカが「何やってきたんだよキヨロス?」と聞いてくる。
「村長がマリオンを餌って言ったのが嫌だったから、アーティファクト砲をわざと村長の家に向けて跳ね返したり、マリーと戦う時に家に被害が出るように立ち回ったり………」
言い返してみると、案外…いや、かなり悪いことをした気になってしまう。
ちょっと嫌な汗が出てきた。
だがカムカは「いいじゃねぇか!家を壊しただけで殺さなかったんだろ?キヨロスは偉い!!」とフォローを入れてくれる。
鎧を脱ぎ終わったマリーをベッドに寝かせると今回もカムカが触診をする。
多分、手足はこの段階でも折れているのだろう。
マリオンが準備をしている。
ガミガミ爺さんは兜の暴走状態の解除を先にやってくれている。
この後は鎧のメンテナンスをして「混沌の槌」に雷の力を蓄えて貰う。
ペック爺さんが「マリオン、マリーの為に済まないね…」とマリオンに謝るとマリオンは「お爺ちゃん、謝らないで。私なら大丈夫だから」と言うとマリオンはマリーの回復をし始める。
ペック爺さんが「ドフ!急げ!!マリオンに何かあったら許さんぞ!!」と言ってガミガミ爺さんに詰め寄りガミガミ爺さんが「うるせーな、今やってるよ!邪魔すんじゃねぇ」と怒鳴り返す。
そんな前回とは全く違う内容に僕たちは笑ってしまった。
今はマリオンは力を使い果たしたので充填中だが、その間にマリーは目を覚ました。手足は少し痛むけど動くと言っていた。
ガミガミ爺さんが鎧のメンテナンスをしながら僕に話しかけてきた。
「小僧、お前が凄くなったのか、その剣が凄いのかはわからんが、前回より鎧のダメージが凄いぞ?お前ちゃんと加減とかしたのか?」
僕はちゃんと加減をしたことを伝えた。
「だとしたら、お前が思い切り放っていたとしたらマリーは死んでいたぞ…。もう無いとは思うが、次に跳んだ時は万一を考えて小童とフィルに任せとけ。わかったな?」
「うん。そうするよ」
ガミガミ爺さんから言われた言葉に僕は少しショックを受けてしまった。
全力ではなかったがあの一撃でマリーは死んでいたかもしれない…
そう考えると、この力は王と戦う以外は過ぎた力なのかもしれないと思った。
その後、マリオンが目覚めて再度マリーの回復をした。
カムカの触診では骨はくっ付いていると言う事だったのでマリオンをベッドに寝かせて再充填をさせた。
ガミガミ爺さんのメンテナンスも終わったようで、マリオンが起きればようやく城に行くことが出来るようになる。
カムカとフィルさんの準備は僕が村長の所に行っている間に終わっていた。
マリオンもすぐに目を覚ましたので鎧を着てもらう。
僕の慌てようにジチさんが「そんなに焦らなくてもいいと思うんだけどねー」と言う。
僕が「ごめんね、もうはやる気持ちを抑えられないんだ」と言うとフィルさんが「キョロくんが行きたいって言うなら私は大丈夫」と言い、カムカも「おう、俺なんか前回より攻撃力も上がっているから任せてくれよな!」と続き、マリオンも「とりあえずやれるだけやってみるからアンタも精いっぱい頑張りな」と言ってくれた。
今回も、ガミガミ爺さんとジチさんには残って貰って僕は4人で行く事にする。
「じゃあ、今度こそ行ってくるね」
「お爺ちゃん、行ってきます」
「おう、小僧…無茶すんなよ。フィルを頼んだぜ」
「バッチリ筋肉で活躍してくるぜ!!」
「ああ、怪我すんじゃないよ」
「マリオン…」
「お爺ちゃん、マリーをお願い」
皆の挨拶を聞いてから僕は「皆、行くよ」と言って瞬間移動をした。
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