第43話 完全解決、成人の儀の宴。

僕はペック爺さんの家から外に出ると城の広場へ瞬間移動をする。

到着した広場には今回も王が待っていた。


まだ僕に気付かない王をみて僕は最初で最後の人殺し…違う、これは人助け…と一瞬考えてしまう。


僕に気付いた王は僕を見て「よこせ…寄越せ!!」としか言わない。


今回も話しは通じないのがわかっていたが僕は一度謝る。


「ごめんなさい。僕は全力で貴方を倒します。それはあまりにも残酷な戦い方だから…ごめんなさい」


返事は無い。

あるのは「寄越せ」と言う言葉だけだった。




僕は「【アーティファクト】!」と唱えて12本の剣を全て出して光の剣全ての能力を開放する。


もし能力の開放も完全解決の条件だったらリーンと跳べた事も感謝しかない。

あの戦いで能力の使い方が更にわかったのだから全ては無駄ではなかった。


今出ている光の剣は凄い力で剣が光っている。おそらく「究極の腕輪」無しなら、リーンと繋がっていても5分ともたないだろう。



王が僕の元に突進をしてくる。それに合わせて「行け!」と指示を出して剣を放つ。

僕はこの後、最後の一撃まで一歩も動かないだろう。


1本目の剣が王を斬り飛ばす。

そこに2本目、3本目、4本目の剣が加わり、両手両足を床に縫い付ける。


王が身動きの取れなくなった所に残り8本の剣が永遠と思える時間をかけて、一瞬の間に何べんも突き刺さったり切り裂いたりする。


王の身体は、はじめは再生が追いついていたが、徐々に再生が追いつかなくなる。

前の時は、これ以上効果がない感じだったがあれは僕が剣の全力を出し切れて居なかったからで今は違う。


このまま押し切れると今ならわかる。



途中から左腕の剣を抜いて攻撃に参加をさせる。

抜いてすぐはバタついていた左腕も徐々に力が弱くなって最後には動かなくなった。


僕は全ての剣で右腕の「龍の顎」に攻撃を集中させる。

攻撃のイメージは「人の腕を切る」のではなく「アーティファクトを破壊する」にしていた。


中々破壊できないが構わない。

今の僕に限界は無い。


しばらく攻撃を続けるとひじから先、「龍の顎」の本体に亀裂が入ってきた。

もう少し、もう少しで破壊ができる。



右腕のひじから先の殆どに亀裂が入りヒビまみれになった。

僕はここで攻撃をやめて光の剣を戻す。


少しすると悪魔化だろう。

右腕が膨張を始める。


だが僕はそれをさせない。

その為にも準備をしてきた。


「龍の顎」が身体を飲み込む瞬間を狙い、僕は「兵士の剣」の技を出す。


「最後はこれでと決めて居たんだ…【アーティファクト】!」

剣を振るう僕の身体は僕が思うより速く力強く動いた。



この状態で使っていなかったからこんな事になるなんて…!!

自分でも想像していなかった速さで初めは景色がゆっくりと後ろに流れ、後から高速になって流れた。


次の瞬間…

僕の振り下ろした剣は王のひじから先「龍の顎」を斬り裂いた。

「龍の顎」からは前回の戦闘中に王が捧げていた「雷鳴の杖」「晴れの玉」「海鳴りの扇」「千里の眼鏡」に「支配の王錫」が飛び出してきたのが見えた。そのまま剣の衝撃で広場の奥にある今まで散々王を磔た壁には大穴が空いてしまった。

穴の向こうにはまだ行ったことのない王都の外壁が見えている。



「龍の顎」もなく、取り込んだアーティファクトが無くなったとはいえ、申し訳ないが蘇られると怖いので一応心臓に剣を二度ほど突き立てさせてもらった後で僕はフードの男を呼ぶ。

フードの男は「前の王を止めてくださってありがとうございます!そしておめでとうございます。王よ!」と言ってすぐにやってきた。


「回復のアーティファクトって持ってる?」

「は?ございますが…」


「僕がこの人の見た目の傷を消すから、この人は病死にしてあげたいんだ。その為にも僕は人のままで終わらせたかったから…」

僕の説明に「それはありがとうございます!」と言ったフードの男は「癒しの短剣」と言うアーティファクトを僕に差し出してきた。


短剣を刺したところから回復の力が入り込むというのだが何か使っている姿を想像すると気分が乗らない。

でも仕方ないので使う事にする。

一応治る見込みの無さそうな右腕に剣を刺して傷を塞いだ。


直しながら見た王の顔はやつれていて、病気と言っても嘘には聞こえない顔だった。

そんな時、フードの男が聞いても居ないのに「この方も哀れな方でした」と語り始めた。


王は、母親である王妃と父親である王、兄である王子と暮らしていた。

王以外は全員S級で国を守るのに適したアーティファクトを授かったが、王だけは天気を晴れにするだけのアーティファクトしか授かれなかった。


その事で酷く落ち込んだ王の元に「あの女」が神の使いの1人として現れて王を篭絡していく。

「あの女」はS級のアーティファクト「龍の顎」を、危険が伴うがと言って王に授ける。


王は目の前に現れたS級のアーティファクトの存在に泣いて喜び使った。

身の丈以上のアーティファクトは激痛を伴う。

激痛が起きたが「龍の顎」は右腕に食い込んで、すぐに一体化をしてしまい手放すことも叶わない。


その結果、王は人を辞めた。

まずは自身が授かった「晴れの玉」を吸収し、そのまま流れるように家族を襲い、家族の身体ごとアーティファクトを取り込んだ。

結果、前の王が自身のアーティファクトの他に持っていた「支配の王錫」の効果はそのまま王に引き継がれてしまい今に至る。


「もう、15年も前の話です。私だけは、自分で言うのも恥ずかしいのですが、並外れた忠誠心が有りますので、多少性格がおかしくなって、王の為に動く事を最優先に考えるだけで済みました」


フードの男が話している間に王の傷はなくなっていたので僕は治療を辞める。


「そのまま王は永い眠りにつき、つい先日目覚めました。それまでこのサウスが無事だったのも、前の王が国の民の為に「龍の顎」を手に入れたように、初めは民を一番に思っての事です。ただ起きた時には「強いアーティファクトを取り込む」ことだけしか考えられなくなっておりましたが…」


そう言ってフードの男は飛び散ったアーティファクトの中から「支配の王錫」を手に取ると僕の前に持って来て「さあ、王よ。勝ったあなた様にはその資格があります。「支配の王錫」を持ってください。そして兵隊達に新たな命令を…。あなた様の思う命令を授けてください」と言う。


僕が「支配の王錫」を見るとフードの男は「使用するの際には【アーティファクト】と言ってくださいませ」と言った。


僕は頷いてから「支配の王錫」に手を伸ばす。

僕が王錫を手にすると僕の身体ごと光を放った。

恐らくこれで「支配の王錫」は僕のものになったのだろう。


そのまま僕は「僕の思い…僕の命令は…」と呟く。


そう、もう思いも命令も決まっている。

その事を思いながら僕は「【アーティファクト】!」と唱えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



僕は城のことを全てフードの男…名前を聞いたらシモーリと言われたシモーリに任せてペック爺さんの家に帰ることにした。

城には後日ちゃんと顔を出すから城の全員が人間らしい生活を送れるように尽力するように指示を出した。



僕は「支配の王錫」を手放すことはやめた。それは兵士達の暮らしもあるので元々は城の全員が人間らしい生活を送れる事になった時に手放すつもりだったが、僕が「支配の王錫」を手放すとイーストやウエストからの侵略があるかもしれないとシモーリから言われたからだ。


だが、何事も急すぎる。

僕は長い旅をしてきたが、みんなの中ではまだ1日目なのだ。


今から帰れば一の村の宴にも間に合うだろう。なんか、色々あってグダグダになった感じはするが、皆と一の村に帰っても良いかなと言う気になってしまった。



僕はペック爺さんの家の扉を開けて「ただいま!」と言うとペック爺さんが何か新しい擬似アーティファクトを作りながら「…本当に君は早いね」と言って、奥から料理中のジチさんと手伝っていたフィルさんが出て来た。


部屋の隅っこでガミガミ爺さんはカムカの手甲をもう一度作っていて、そのカムカは両肩にマリオンとマリーを乗せてクルクルと回っている。マリオンとマリーは年相応にキャーキャーとはしゃいでいた。



僕を見て笑顔のフィルさんが「キョロくん!」と僕の名を呼んで抱きついてきて、ジチさんはフライパン片手に「お帰り、キヨロスくん。もうすぐお姉さんの特製ご飯の時間だよ」と言う。


ガミガミ爺さんが「小僧、首尾はどうだ?」と聞いてくれたので僕はバッチリだよと笑顔で答える。この回答にカムカはガッツポーズで「やったな!さすがは俺の弟だ!キヨロス、お前はこの先筋肉つければ完璧だぞ!」と言う。

そんなカムカの腕にぶら下がりながらマリーとマリオンが「お帰りなさい」「お疲れー」と言ってくれて、窓際に置かれたムラサキさんも顔を出して「お疲れ様でしたキヨロス」と声をかけてくれた。


皆を見て「みんな、ただいま」と言った時、僕はホッとしたのか涙が出た。

泣いた僕を見て「あれまぁ…」とペック爺さんが驚く。


抱きついたままのフィルさんが「お疲れ様。大変だったんだもの、沢山泣いて良いのよ」と言って僕の頭を撫でてくれて僕は安らいだ気持ちになってしまうとジチさんが僕とフィルさんの間に割って入ってきて「ほらほら、イチャイチャしない。もうすぐご飯よ」と言う。



そうだ、ご飯だ!


「ジチさん!」

「はい?」


「ご飯ってもうすぐ出来る?」

「え?ええすぐよ」


僕はご飯が出来上がると聞いて「じゃあ!みんな、お皿を持って!!」と声をかける。

皆は「はぁ?」「どうした小僧?」「何するんだ?」と言いながらも僕の言った通りジチさんのご飯を入れたお皿を持つ。


見てみるとジチさんは僕の分もご飯を作ってくれていたので嬉しくて「ありがとうジチさん!」と声をかけるとジチさんは真っ赤になって「お…お姉さんだけじゃないよ。フィルが一番に言い出したし、みんなキヨロスくんのご飯も作ろう。帰ってくるまで待とうって言っていたんだよ」と言うとフィルさんは嬉しそうに「言い出したのは私が最初だけど、ジチは最初から8人分の材料を出していたわよ」と教えてくれる。


「ちょっとやめてよフィル!」

「いつものお返しよ」

そう言って皆が笑う。

僕は笑い声が途切れたところで「みんな行くよ!【アーティファクト!】」と声をかける。




僕の目の前には一の村の広場が現れた。

<成人の儀>の宴は始まってしまっていたが、まだなんとか間に合った感じだ。

フィルさんが辺りを見回して「ここって?」と言っているので「一の村だよフィルさん」と話す。


「え?何で?」

「今日の夜は宴だから、皆でお祝いがしたかったんだ。ジチさんのご飯も食べてご馳走も食べよう!」


広場の端とは言え、いきなり僕達が現れて近くに居た人たちは騒然としてしまう。

遠くで僕に気付いた村長の「あれはキヨロスか?」と言っている声がする。


だが、僕は村長は後回しにして父さんと母さんを探す。

母さんはオロオロとして泣きそうな顔をしていて、父さんが母さんを落ち着かせている。

そこから少し離れた所にリーンが居た、リーンはナックや周りの人達に僕の事を説明しているみたいだ。



ジチさんが「ほら、私達はこのままでいいから、先に安心させてあげてきなさいよ」と言って僕の背中を押す。


僕は頷いて「うん。ちょっと行ってくる。すぐ戻るから食べないで待っていてよね」と言い、「はいはい。待ってるわよ」と言うジチさんの声を聞きながら僕は父さんと母さんの所に駆け出す。


僕が近づいて「父さん!母さん!ただいま!!遅くなってごめん!!」と言うと父さんも母さんも驚いた顔で僕を見て「キヨロス!?」「ああ、良かった…無事で良かった…。リーンちゃんから話を聞いてずっと心配していたのよ」と言う。僕が「ごめんね」と謝ると父さんと母さんは「無事に帰ってきてくれたんだ、それでいいさ」「ええ、本当にそうね」と言ってくれる。


ホッとした僕に父さんが「ほら、もう父さんと母さんはいいから、リーンちゃんの所に行ってあげなさい。さっきから気丈に振る舞って皆に説明してくれているんだぞ」と言ってくれる。

確かにリーンは僕に気付かないで皆に今も説明をしてくれている。


僕は父さんに「うん!」と言って駆け出して「リーン!!」と名前を呼びながらリーンの所に駆け寄る。

リーンは「…キョロ?」と言って動きを止めると振り返る。


そして僕を見つけたリーンが「キョロー!!」と名前を呼びながら走ってきて飛び付く。

周りのどよめき、ナックの「嘘だろ?」って声、遠くの方でフィルさんの「あーっ!」って声が聞こえるが気にしない。

ようやく僕は帰ってくることが出来た。


リーンは僕にくっ付いたまま「終わったの?」と聞いてくるので僕は「うん」と答える。


「本当?」

「うん」


「お疲れ様」

「ありがとう」


その後もリーンは「身体は大丈夫?」「痛い所は?」と聞いてくる。

僕は「大丈夫だよ、それよりも皆と来たんだ」と言って皆を指差すとリーンは驚いた顔で「え?…本当だみんな居るのね」と言い、周りの人達がどんどんカムカ達に気付いてざわついている。


リーンは「私が行ってくるよ。キョロはナックと話していて」と言うとジチさん達の所に駆けていく。


僕は横に来ていたナックの方を見ると「キョロ!お前どうしたんだよいきなり」とナックが言い、僕が「ナック、色々ごめん」と謝る。


「いいんだけどさ、リーンに聞いてもタマゴから出て来た鳥が、兵隊が来るのをキョロが倒して、毒竜倒してって何だかよくわからないんだよな」

「ごめん。でもリーンは本当の事を言っているよ」


「え?お前…この半日でそんなに色々やったのかよ?」

「んー、半日なんだけど10日くらい…もっとかな?」


「なんだよそれ?それにお前授かったタマゴはどうしたんだよ」

「旅立ったんだ」


「旅立った?何だそれ?それにその鎧に剣に靴まで新しいじゃないか!」

「これも授かったんだよ」


確かにナックからしたら授かったばかりの「時のタマゴ」がなくなっていて、別のアーティファクトを身に纏っていたら意味が分からないだろう。

ナックは「何だよそれ?お前ばっかり…」と言っていて見慣れた顔が嬉しくなった僕は「後で全部話すよ。僕お腹空いちゃったよ」と言って笑う。


僕の笑顔を見たナックが「お前、何か変わったな」と言う。

自覚のない僕が首を傾げると「うん、変わったよ。今の方が凄くいいぜ」と言ってくれる。


僕が「そうかな?ありがとう」と言った所でリーンが皆を連れてこっちに来る。

ジチさんが「おじさま達~、ちょっとごめんなさいね~」と村の男性陣をどかして席を作って座っている。


あ、ナックのお父さんがデレデレになっている。


僕は皆とご馳走を食べようと思って座ろうとすると村長が来て「キヨロス、この方たちは?」と聞いてくる。


村長と話をするのを忘れていた僕は皆を紹介する為に「えっと、僕と一緒に旅をしてくれた僕の大事な仲間です」と言う。


カムカが一番に立ち上がって「こんにちは!俺、カムカです!二の村のカムカ!あ、二の村はもう無いんだった…」と言うと村長が「二の村がない!!?それは一体どういう事ですか!!?」と言って卒倒している。


僕は自分が知っていて、前の時間の村長が知っているものは説明がいらないと勘違いしてしまっていたので「あ、しまった…村長はそこからだった」と言った後で「とりあえずひとまずご飯を食べさせてください。そうしたら全部話しに行くから」と言ったのだが、村長が「いやそれは…」「国の一大事…」とかもごもご言ってしまう。


ここで見かねたガミガミ爺さんが「小僧もこう言っていることですし、すみませんね。一の村の村長」と言って間に入ってくれるのだが…。


「あなたは三の村の村長!?」


僕とジチさんとカムカが「「「えっ!!?」」」と声を揃えて驚く。


「え?ガミガミ爺さんって村長なの?」

「ああ、別にそんなガラじゃないから普段は言わないけどな。驚いたか?」


「驚くよ、じゃあフィルさんは村長の孫なの?」

「ごめんね。あんまりそうやってかしこまられるの好きじゃないから黙っていたの。村長の孫だから毒竜の毒霧からも逃げなかったのよ」


世界は僕の知らないことでいっぱいだ。

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