第44話 そしてこれから。

収拾のつかない、この状況で立ち上がったのがジチさんだ。


「えー、報告が変な順番なので皆さんには誤解をさせてしまっていますが、キヨロスくんが今日からこの国の王になりましたので、別にお嫁さんが3人居ても問題ありません」


ジチさんは言うだけ言うと着席してリーンたちと仲良さそうに話をしている。

皆が処理不能になってしまっていて、僕はキョロキョロと周りを見て

しかもタイミングが悪い時というのは続くもので…


広場にフードの男、シモーリが現れた。


シモーリは「王!こちらにおいででしたか、帰られるのは結構なのですが、この王錫はお持ちになっていただかないと困ってしまいます。それでは後日、必ずお城までいらしてくださいね」と言って僕に王錫を握らせるといそいそと城に帰って行った。


どよめきと共に聞こえてくる「王様!?キヨロスが?」「え?本当?」「嘘じゃないの?」と言う言葉達。


口々に皆が騒ぐ。


もう収拾のつけようがない。

どうするべきか肩を落として思案する僕が周りを見ると、この事態を見て腹を抱えて笑っている集団が居た。


「あ、神の使い!!」


「どうも。キヨロス、大義でした」

「ちゃんと見せさせ貰っているよ」と「見守る者」が居て、「僕もちゃんと記しています」と「記す者」が言い、黙ってひたすらご馳走を食べている「道を示す者」が見える。


これに気付いた村長は「皆静まれ!」と声をかけてくれた。


「キヨロス、ここから先は私が説明しましょう」と言って神の使いが僕の旅を全て説明してくれた。

王の話、王によって二の村が滅んだ話、一の村も狙われたのを僕とトキタマ、ナックとリーンで何とか撃退した話。

僕が旅に出る事になった経緯、旅の中でジチさん、ガミガミ爺さん、フィルさん、カムカ、ペック爺さんにマリーとマリオンに出会った話。

毒竜、亡霊騎士、悪魔、それを何回も戦った話。

僕のアーティファクトの話も全部してくれた。

そして最後にどうして「支配の王錫」を持たなければならなかったのかと言う話もしてくれた。


神の使いの話は全員が静かに聞いてくれた。

僕の旅の過酷さや魂の事なんかが全部伝わって、村の人たちが僕を白い目で見る事もなくなったし、父さんと母さんも落ち着いてくれた。


「以上がキヨロスの行った行為です」

「きっと説明できなくて混乱してるとおもって見に来たんだよねー」

「「見守る者」は色恋沙汰がどうなったか見たかっただけでしょう。僕はちゃんと記していますよ」


神の使いがワイワイと話をしている中、「道を示す者」だけはカムカに用事があって伝えに来たらしく今もカムカに何かを話している。


神の使いは僕の前に来て「それでは、我々神の使いがいつまでも居続けるのはよくないのでそろそろ帰りますね」と言ってくれるので僕は「ありがとうございました」と言って見送る。


「いえ、今回の事でお礼を言うのは我々です。ありがとうキヨロス。そしてナック、リーン、ジチ、カムカ、フィル、ドフ、ペック、マリー、マリオンもありがとう」

神の使いは僕達に声をかけた後で「ごきげんよう」と言うと帰って行った。



ようやく僕たちは遅いご飯にありつけた。

ジチさんの料理は「道を示す者」が全部食べて行ってしまったらしい。


村の女性陣が「キヨロス、ごめんよ」と言いながら僕達にご飯を振舞ってくれる。

ひとしきり食べたが、急に神の使いも入れて人が沢山増えると食事が足りない。


カムカはナックと何かで盛り上がり、ペック爺さんとガミガミ爺さんはナックのお父さん達とお酒を飲み始めている。


食べ足りないと思っていると「よーし!お姉さんが料理を作るよ!」とジチさんが言ってくれてリーンが喜ぶ。


「お母さん、厨房使わせてもらってもよろしいですか?」


母さんにわざわざ「お母さん:と言う所がジチさんらしい。

母さんが出してくれた肉を見て「キヨロスくんが解体したお肉ですね」と言って盛り上がる。嬉しくなった母さんは父さんが処理した肉を見せる。



ジチさんは「これは!キヨロスくんより丁寧な仕事ですねお父さん!!これならきっとおいしいご飯が作れます!」と言うと母さんの愛のフライパンを借りて料理を作り始めて、フィルさんは今になって恥ずかしくなってきたと言ってマリーとマリオンと黙々と配膳されたご飯を食べている。


今、僕の横にはリーンが座っている。

「キョロ、王様になるの?」

「王様かどうかはわからないけど王錫を管理して国を良くするよ」


僕の言葉にリーンは城の方角を見て「うん。じゃあこの前の話が本当になったら私はお妃さまだ」と言ってニコニコと笑う。

僕はその顔が気になって「お城に住むの?」と聞いてしまう。


正直僕は城住まいは嫌だ。

リーンは僕の気持ちをわかってくれているのか「それもいいんだけど、キョロと居ればひとっ飛びだから夜は村に帰ってきて星を見ながら寝るのもいいかな?」と言う。やっぱり見慣れた空が一番いいから僕は「そうだね」と返して空を眺める。

今晩の空も澄み渡っていて星が綺麗だ。


「キョロ?」

「何?」


「みんな驚ていたね」

「王様の話?」


まあ、小さい頃から知っている僕が南の王様なんて皆驚くよねと言おうと思うとリーンは「ううん、違うよお嫁さんの話」と言ってきた。

僕は先程の事を思い返して「途中から胃が痛かったよ」と言って困り顔をする。


リーンが呆れるように「それはキョロがはっきりしないのが悪いんでしょ?」と言うので僕が「ごめん」と謝ると「ううん、まだ決められないよね。仕方ないよ」と言ってくれた。


少し救われた気持ちで「そう?そう言ってもらえると嬉しい」と言いかけた僕は「…うわ」と言ってしまう。

僕達の席の向かいでフィルさんがジト目で僕達を見ていた。

マリーとマリオンはお腹がいっぱいになったからか眠ってしまっていた。


ジト目で「2人でイチャイチャしないで」と言うフィルさん。

ジト目が怖い。


何かおかしい。


「キョロ…あれ…お酒?」


リーンが指さした場所、フィルさんの横にはお酒が入っていたコップが空になっていた。


「フィルさん、お酒飲んだの?」

「知らない。2人がイチャイチャしていて悔しかったからそこにあったのを食べて飲んだの」


「フィルさんはお酒飲めるの?」

「私はそんなものは飲まないの」


…駄目だ。

気付かずにヤケ食いヤケ飲みをして酔ってしまったというのがわかった。


僕はリーンに「リーン、ガミガミ爺さんを呼んできて」と言い、リーンも「わかったわ」と言って席を離れる。


「あ、また2人でこそこそ話してる」

リーンが席を離れるとフィルさんが僕の横に来た。

そして僕の腕に身体を絡めてくる。


僕は「フィルさん?」と聞くとフィルさんが酒臭い息をはきながら「私もお妃さまになりたい」と言う。


「キョロくん、私の事嫌い?」

「え?」


「嫌いじゃないなら私もお妃さまにして」

「も?」


「だってキョロくんは選べないでしょ?だから私が第一婦人で、リーンさんとジチが第二と第三婦人なの」

そう言うとニコニコしながら僕に頬ずりをしてくる。


ヤバいヤバいヤバいヤバい。

ドキドキしてしまう僕がどうするべきか困っているとリーンが「はいそこまでー」と言って僕とフィルさんを離す。


僕は助かったと思い「リーン、ガミガミ爺さんは?」と聞く。

この場を全部ガミガミ爺さんに任せてしまいたい。


だがリーンの言葉は「「面白いからやらせておけ」だって」だった。


嘘だろ?


困っている所に「さあ、お姉さんのご馳走が出来たよ!!」と言ってジチさんが追加のご飯を持ってきてくれた。


そしてジチさんは僕の方を見て「あ、フィルってばお酒飲んでキヨロスくんに抱き着いてる!」と言って大騒ぎを始める。


前の時とは違い今晩は別の意味で長くなりそうだ。


でも僕は本当に幸せだ。

最初の宴は途中で邪魔が入ったけど、今度は皆笑顔だ。



「キョロ」


ジチさんの焼いた肉を一切れ食べながらリーンが僕に話しかけてきた。

僕はリーンの顔を見ると「皆じゃないわよ」と言われる。


「え?声に出てた?」

「出ていなくてもキョロの考えならわかるわよ。キョロ完全解決の時に言っていたじゃない。皆が笑顔にって、その皆の中にはキョロも入っているんだからね」


相変わらずリーンは凄い。

僕も含まれる…僕はリーンの言葉を聞いて嬉しい気持ちになった。


僕は自然と笑みが浮かんでいたのだろう。

リーンが嬉しそうに「キョロ、今笑顔だよ。良かったね。完全解決したね!!」と言ってくれた。


そうか、僕も笑えているんだ!


「ありがとうリーン」

「どういたしまして。それにしてもジチさんの料理はおいしいね。早くしないと無くなるわよ」


ジチさんの料理は飛ぶように行き渡ってしまった。

父さんと母さんも感動している。


せめて最後の一切れだけでもと思い動こうとするがフィルさんが「ダメ、離さない」と言って僕を掴んで離さない。


ああ、最後のお肉にフォークが刺さった…

無残にもそんな僕の目の前で刺さったフォーク。

それはジチさんで「はい。食べたがっていたキヨロスくんが食べてくれないでどうするの?」と言って僕の口にお肉を入れてくれた。


お肉美味しい。

本当に美味しい。


感動している僕の耳元でジチさんが「お姉さんが第一婦人でいんだよね?」と囁く。



…トキタマ…やっぱり君が居ないと大変かもしれない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


成人の儀から一か月後。


僕は今日、城に居た。

先日は戴冠式と言うのを執り行った。

王が悪魔に取りつかれて僕がそれを討ち取ったと言う事が国に発表されて、僕が救国の王になった事が通達された。


その日は僕を知っている全ての人に来てもらった。

父さんと母さんは城に居る僕を見て本当だったと驚いて腰を抜かした。


僕はこの一か月間、城と村を行き来していた。

主だった城の仕事はシモーリが全部執り行ってくれるので僕は知らない事の方が多い。

更に僕の指示で城を住みやすく整えたので大分雰囲気が変わった。


15年間「支配の王錫」で支配されていた兵隊たちは食事も睡眠も不要だったが、ちゃんと三食を食べて睡眠をとるようにしたので城に再び食堂と宿舎を用意した。

僕達が寝泊まりする時の為に大掃除もさせた。


あの荒れ放題の城はもうない。


王の仕事としては国境に外敵や魔物が迫った際に王のアーティファクトで探したり迎撃をすると言うものだ。


「雷鳴の杖」で国境に雷の結界を張り陸沿いの侵入を防ぐ。

「海鳴りの扇」で海を自在に荒れさせて船での侵入を防ぐ。

「千里の眼鏡」で国の端から端までを見渡して侵入者が居ないかを見張る。


これが結構キツい。


なので僕は「究極の腕輪」の力やペック爺さんの助けを最大限に使うことにした。

ペック爺さんには四の村の村長が使っていた遠くの場所の相手と話ができるようになる擬似アーティファクト、別名通信球を沢山作ってもらい、国境と城の連絡を簡単に取れるようにした。


これで前の王達みたいにずっと城で結界を貼り続ける必要が無くなったので僕は頻繁に家に帰れるようになった。


後はリーンとフィルさんとジチさんに手伝ってもらっている。

僕のそばにいる限り、誰でも問題なくS級のアーティファクトを使えているのでリーンが国境を見張ってジチさんが攻撃というのも可能になっている。



そう、僕はお嫁さんを選べていない。

ガミガミ爺さんからの提案で1年間は様子見で、1年後にもう一度彼女達に僕との結婚の意思があるかを確認して、意思があれば全員と結婚をすると言うことになった。


そこに僕の意思がないのが気になるのだが、僕の意思を待っていたらお婆さんになってしまうと全員から言われた。


リーン達は誰が第一婦人なのかと言う事を張り合うばかりで別に僕が誰とキスをしようが構わない所まで行ったと言っていた。



後はこの一か月の変化で言えばカムカが神の使いの頼みで昨日から旅に出た。

僕の戴冠式の後すぐの予定だったのだが、マリーとマリオンに出かけないでとせがまれて延び延びになっていた。


あの一の村の宴で「道を示す者」から話しかけられていたのはこの旅の話だった。

男しか居ない神の使いに何故女が居たのか?

他のガーデンにも「あの女」は出てきているのか?

相変わらず連絡がつかない残りの神の使いの探索や他のガーデンがどうなっているかをカムカの目で見て来てほしいと言う事だった。


神の使いに選ばれた真の勇者はカムカだった。


カムカには通信球を持って行って貰った。

各地の「大地の核」を通じてサウス以外でも通信が出来るようになるらしい。


カムカとの最後の夜に今までの事、全ての感謝の気持ちを伝えたら照れ臭そうに笑って「俺は兄貴だからな、兄貴は弟分の為に頑張るもんだからよ」と言ってくれた。


別れはアッサリしていて「キヨロス!行って来るからな!」だった。


城の兵隊に命じたのは、無駄な暴力行為を禁止すること。

後は定期的に休みを取って家族の元に帰ること。

それと「支配の王錫」で洗脳するのではなく、きちんと国の為に働く意思のあるものに働いてもらうことにした。


この先の問題はまだ多い。

二の村の復興、

前の王の為にアーティファクトを取り上げられたものへの擬似アーティファクトの配布。

増えない人口、後は僕自身がまだ行ったことのない王都から八の村までの国の西側の視察。


先日まで猟師の息子だった僕には気の遠くなる話だ。



城にできた僕の部屋で休みながらそんな事を考えていると、横に居るリーンが僕の表情を読み取って「キョロ、焦らないで少しずつやって行こう」と声をかけてくれた。


僕は「ありがとう」と返すとリーンは「キョロ、今日は城に泊まる?村に帰る?」と聞いてくる。


僕は自分の意思よりもリーンの意志を尊重したくて「リーンはどっちがいい?」と聞くとしかめっ面になったリーンが「私?」と聞き返してくると話の途中でフィルさんが「あ、また2人きりで何か話してる」と言って部屋に入ってきて、直後にジチさんも新作メニューを持って「おーい、新作作ってみたから食べてみてよ」と言って部屋に入ってきた。



そんなフィルさんとジチさんを見たリーンが「私はね、キョロ。2人きりになれればどこでも良いの。もう、なかなか2人きりになれないじゃない!」と不満を口にする。


あのしかめっ面の理由はこれか…。


僕が返事に困っているとジチさんが「それはお姉さんも同じだよ」と言いフィルさんも「私もですよ」と言う。


「キョロの第1夫人は私なんだから優先してよ」

「第1はお姉さんだよ?」

「私ですよ」


またいつものやり取りが始まった。


トキタマ。

今僕はこんな感じだよ。

君は神様のところで幸せに過ごしているかな?


君のおかげでこの国は少しずつ良くなっていくよ。

ありがとう!!



「お父さん!僕こそありがとう!!お父さんのアーティファクトで良かったです!」

そう聞こえた気がした。


第1章 南の「時のタマゴ」完。

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