第45話 南の「時のタマゴ」のおまけ「Another Ending」。

前置き

これはキヨロスが優柔不断エンディングを迎えずにキチンとジチ、フィル、リーン(掲載順)の中からヒロインを選んだ場合のAnother Endingになります。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


Another Ending ジチ。

今、僕は夜の三の村に来ている。

夜遅いので外に出ている人は居ない。

もうみんな寝静まっている。


最後にみんなで会ったのは僕の戴冠式の日だった。


その後、今日を入れて5回ほど夜の三の村に来ている。

その目的はジチさんに会うこと。


僕は城での仕事を殆どシモーリに任せていた。

僕自身の国境や海辺の監視の仕事を夜間早朝は兵隊を増員して対処することで、朝城に行って夜帰る生活にする事が出来ている。



ジチさんに会う。


そう、僕はあの後ジチさんを選んだ。

ジチさんはガミガミ爺さんに小さな廃屋を分けてもらって1人で三の村に住んでいる。

あの10人の子分達は空いた場所に家を建てて住んでいた。


僕は家の中に「瞬きの靴」の瞬間移動で入る。

それは2度目に来た時に玄関でノックをしたら「キヨロスくんはバカなの?音立てたらバレるでしょ?」と怒られたからだ。


僕が5回も来ているのには理由があった。

ジチさんは昔から「どうしてもって3回頼み込んできたら」と言っていた。


なので初めてお邪魔した日に2回頼み込んでみたら「あのね?キヨロスくん。そう言うのは日を改めるの!」と口調は優しくて顔も笑顔で赤くなっていたけどダメ出しをされてしまった。


次に行ったのは色々と王様の仕事が立て込んだこともあって3日後だったのだが…。

先に書いたノックの件で注意を受けた所に「あのね?こう言うのは毎日通わないと誠意が伝わらないの。お姉さんはてっきりやっぱ辞めたって思われたんだと思ったのよ」とやんわりと怒られた。


その翌日行くと「今日が1日目だからね」と真顔で言われた。


そして、ジチさんは僕に何で選んだのかを聞いてきた。

僕は年上の余裕を感じた所や料理が美味しいこと。

後は気遣いと優しさに惚れたと言ったら「これだからお子様は」と真っ赤になって言っていた。


その後、「お夜食食べていきなよ」と言って軽いご飯を作ってくれた。

僕が椅子に腰掛けて料理を作るジチさんを見るのは凄く幸せだった。


2日目に行った時は「お店をやりたいんだったら、お姉さんは別にリーンちゃんやフィルを選んでもやってあげるわよ?」と言われたがそうじゃないよと伝えたら照れ臭そうに夜食を作ってくれた。


今日は最終日…なのかな?だと良いんだけど…

僕が部屋の中に入るとジチさんはテーブルに肘をついて遠くを見ていた。


「ジチさん。今日も来たよ」

「やだ、本当に3回も来てくれたの?」


そう言うジチさんは顔を赤くして目には涙を浮かべてくれている。


「僕がどうしてもって3回言えばジチさんは考えてくれるんだよね?」

「お姉さんはキヨロスくんより10歳も年上なのよ?早く死ぬわよ?」


「僕だって魂をだいぶ使っているからジチさんより早く死ぬかもよ?」

僕の言葉に「それはダメよ」とジチさんが怒る。


「それでどうかな?」

「何が?」


「お嫁さんの話だよ」

「そりゃあ…5回も通ってくれていたんだから、キヨロスくんがどうしてもってお姉さんに言うなら…」


ここで口ごもるのがジチさんらしい。


「言うなら?……いいの?」

「……とりあえずさ、お夜食作ったから食べなよ」


すぐにテーブルにパンと細切りにして炒めた肉と野菜が出てくる。

このまま食べてもいいし、パンに乗せてもいいという出し方をしてくれる。


僕は一口食べて「今日のご飯も美味しいね」と言うとジチさんは嬉しそうに「そりゃあお姉さんが作っているんだからね」と言って笑いながら僕の向かいに座る。



僕は黙々とご飯を食べる。

それをジチさんが見ている。

部屋には食器の音しか聞こえない。


「ねえジチさん」

「はい!?」


「どうしたの?声が裏返っているよ?」

「べ…別に何でもないよ。どうしたんだい?」


僕は夜食中なのに「明日の朝ごはんは何?」と聞くとジチさんが「へぇ!?」と言って凄い声を上げている。焦らされたお返しをしてみたが効果は抜群だ。


「帰るの面倒になっちゃった」

「何言っているの?キヨロスくんなら一瞬でしょ。それにお父さんお母さんが心配するわよ」


「城に泊まるかもって言ってあるから平気だよ」

「えぇぇ…、本当にもう…」


「ダメかな?」

「お姉さんのベッドは小さいから…」


「僕は平気だよ。ジチさんが気になるなら城の僕の部屋でもいいよ?あそこならベッドも大きいし。今から行く?」

「い…行かないわよ」


ジチさんがモジモジとしながら「ベッドが一つしかないんだから…泊まるっていう事はそういう事よね…」とブツブツと独り言を言っている。


「ジチさん、ところでお嫁さんの件の返事は?」

「え?」


ジチさんは蒸し返されると思っていなかったのだろう。

顔を赤くして俯いたり、僕を見たり表情をコロコロと変えている。

そして口を開く。


「そう言う事をしつこく聞くもんじゃないよ」

「そうなの?」


僕が真っ直ぐジチさんを見つめる。

10歳年上のお姉さん。

でも僕がお嫁さんになってくれる人は年の差なんて気にならない素敵なお姉さんだ。


「…、……あぁ、もぅ!!」

ジチさんがそう言うと僕にキスをしてきた。


そして「これが返事。これでいいでしょ?」と言って顔を赤くする。

僕は嬉しさに微笑んで「ジチさん」と声をかける。


「何よ?」

「これからよろしくね」

そう言うと赤くなった顔のジチさんは手でハイハイとやってくれた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


Another Ending フィル。

僕は城の仕事を早目に切り上げて三の村のフィルさんの所に来ている。


ガミガミ爺さんの家をノックをすると中から「はーい」という声が聞こえてきた。


扉が開いて顔を見せてくれたフィルさんに「遊びに来ちゃった」と僕がいうとフィルさんは「キョロくん!いらっしゃい」と言って僕を迎え入れてくれる。


フィルさんの声が聞こえたからだろう。

奥の部屋から出てきたガミガミ爺さんが「お、小僧!飯食ってけよ」と言って扉の所まで来る。


「いいの?」

「バカヤロウ、遠慮なんてすんなよ。ほら座れよ」


僕は「うん」と返事をすると言われるままに椅子に腰掛ける。


ガミガミ爺さんに「どうだ?王様の仕事は?」と聞かれて僕が「一日中城でアーティファクトを使うのは結構キツいかな。でも慣れてきたよ」と言っている目線の先でフィルさんが楽しげに鼻歌を歌いながら包丁で何かを切っている。



「そうか。慣れたなら良かったぜ。フィルの奴が毎日小僧の事を気にしてやがってよ。そんなに心配なら城に行けって言ったんだけど、今は新しい事を始めたばかりで大変だからって変な気を回してよぉ。そこにお前が来たからご機嫌で飯作ってるぜ?こりゃあ今晩は期待してもいいかもな」


ガミガミ爺さんもフィルさんの方を見ながら楽し気に話すとフィルさんは「ちょっと、お爺ちゃん!」と注意をしてガミガミ爺さんは「おっと、ヤベェ」と言って首をすぼめる。


僕はそんな2人のやり取りに笑ってしまっているとガミガミ爺さんが「所でどうした急に来て。あれか?フィルを嫁にする気になったか?」と聞いてきた。


僕が「うん」と答えるとしばしの沈黙の後でガチャンと言う皿の割れる音と「えぇっ?」と言うフィルさんの驚いた声がガミガミ爺さんの家に響く。


呆れるように「おいおい、小僧。そう言うのは俺のいない所でフィルに言ってやれよ」とガミガミ爺さんが言うのだが僕は「でも、ガミガミ爺さんにも祝福してもらいたいし、フィルさんはガミガミ爺さんの大切な孫だから、ちゃんとガミガミ爺さんにも言いたくて」と言うとガミガミ爺さんは「おめぇは本当によぅ…」と言って目に手を当てて泣き出してしまった。


その先でフィルさんが「キョロくん…」と言いながら僕の方を見ている。

僕も「ダメかな?」と聞き返しながらフィルさんを見る。


ちょっと恥ずかしい気もするけど見つめ合っているとガミガミ爺さんが「俺はちょっと散歩してくるぜ」と言って外に出て行く。


足音が遠ざかって完全に2人きりになった所でフィルさんが「もう、順番が違うわよ」と言って口を開いた。そのままフィルさんは拗ねた口ぶりで僕の前に来たので「ごめんね。でもやっぱりガミガミ爺さんに認めてもらえないとフィルさんには何も伝えられないと思ったから」と言って謝る。


「そんなの心配いらないのに」

「え?」


フィルさんは僕を見ながらもガミガミ爺さんの座っていた席を見て「だってお爺ちゃんてば「フィルが選ばれなかった時には一緒に頭下げに行ってやるから妾にして貰おうな」って言っていたもの…。キョロくんなら話す順番なんて問題にもならないわよ」と言う。


「じゃあいいのかな?」

「勿論よ」

そう言ってフィルさんが僕に抱きつくと「キョロくん…、私を選んでくれてありがとう」と言ってくれた。



僕はフィルさんに、「ちょっと待って」と言って剥がす。

フィルさんは不思議そうに僕を見て「キョロくん?」と剥がされた意味を測ろうとするのでフィルさんを見て、「フィルさん、僕のお嫁さんになってくれないかな?」とキチンと言葉にした。



フィルさんは何も言わない。

沈黙が流れて僕は「あれ?タイミング間違えたかな?」と思っているとみるみる目を潤ませたフィルさんが「……キョロくん…」と言った後で「嬉しい…。ありがとう。私こそよろしくお願いします」と言って改めて抱きついてくる。


そのままフィルさんが「お皿、割っちゃったから新しいの買わなきゃ」「カップも買い換えなきゃ。キョロくんとお揃いにしていい?」「今度はまだ行っていない王都から八の村まで旅をしましょう」「それからキョロくんは何をしたい?」と矢継ぎ早に色々と話して聞いてくる。


僕が「時間はたくさんあるからゆっくり決めようよ」と返すとフィルさんは「うん、キョロくんが帰ってきたらお湯をいっぱい沸かすから、ゆっくりとお茶を飲みながら決めようね」と言って僕を抱きしめる腕に力をこめる。



少しそうしていると僕は扉の向こうに気付く。


あ、帰ってきてる。

扉の外に気配を感じた。


僕は「この話は後でね」とフィルさんに告げると「何で?どうしたの?」とフィルさんが聞いてくる。


僕が説明をする前にガミガミ爺さんが「所でよー、俺はそんなに時間がねぇんだけど、飯はまだか?」と言って家に入ってきた。


フィルさんは「お爺ちゃん!外で聞いていたの?」と言って慌てて僕から離れて「もう」と呟きながら料理を再開する。


わざとらしく「ヨッコイショ」と席に着いたガミガミ爺さんは僕に「ありがとうよ小僧」と小さく言うとフィルさんに「おーい、俺は老い先短いんだぜ?早くしてくれよ」と煽っていた。


「もう!お爺ちゃんは邪魔しないで!」


僕とガミガミ爺さんは顔を見合わせて笑った。

この日々は続いて行くだろうと思うと僕はそれが嬉しくなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


Another Ending リーン。

ここは城の最上階。

見張りに使われる部屋と言う事で見晴らしは凄くいい。

シモーリに話をして今日は僕の部屋にしてもらった。


シモーリは立派な家具を持ち込もうとしていたので断って、仮眠用のベッドに置かれた布団だけ新しくしてもらった。


なぜここを今日の部屋にしたかと言うとリーンが「星を思い切り近くで見たい」と言ったから。それを受けて僕はあの日の続きをする約束をここで果たす事にしたからだ。


あまり意識して居なかったが、ここは相当高い場所になるので登ってくるのも一苦労だった。


リーンは無事に登ってこれるかな?

難しかったら瞬間移動で連れてきてあげよう。


星を思い切り近くで見る。

僕のアーティファクトで空を飛べたら良かったのだが、僕は飛べないのでこの場所にしてもらった。


サウスの中では1番高い場所なのでリーンも満足してくれると思う。

しばらく待つとリーンが息を荒くして階段を上ってきて僕に「やだ、ここ…遠すぎる」と言って椅子に腰掛けた。


「何が飲みたい?飲み物を取ってくるよ」

「飲みたいって階段を上り下りする…、あ!キョロなら瞬間移動出来るんだ」

その事に気付いたリーンが「なら下で呼べばよかった」と言って肩を落とす。


「飲み物、どうする?」

「飲み物よりもシモーリさんの提案を断ったけどまだ間に合うならそっちがいいな」


リーンがそう言った次の瞬間には「お呼びですか?奥様?」と言って部屋の入り口にシモーリが現れた。


聞き耳立ててるの?と僕は思うがリーンは気にせずに「キョロに運んでもらえるから、さっき話してくれたアレ、お願い出来ますか?」と言っていてシモーリが「かしこまりました。それでは王よ、奥様を下までお連れになってください」と言って先に消えた。



何も知らない僕は「何するの?」とリーンに聞くのだがリーンは「良いから、部屋まで連れて行って」と僕に言う。


僕はリーンを連れて瞬間移動をする。

部屋に入ると「終わったら呼ぶからまた上で景色でも見ていて」と言われるのでまた最上階に戻る。


上に戻り、夕焼け空が暗くなる頃にシモーリが僕を呼びに来た。

僕が部屋に戻ると、そこにはしっかり化粧をしてドレス姿のリーンが立っていた。


リーンは少し照れた顔で「キョロ、どうかな?」と言ってくるりと回って見せる。

ドレスの色はリーンのイメージにぴったりの黄緑色で僕にはよく似合っていると思った。


「似合っているよ。凄く似合っている」

「ありがとう。シモーリさんが私の為に用意してくれて居たんだけど、この格好であそこまで上るのは大変だから断ったの」


確かにこの格好で最上階は無理がある。


僕は「じゃあ行こうか?」と言って手を出す。

普段なら手を繋がなくても瞬間移動は出来るのだが、今は手を繋ぐべきだと思った。



リーンは「ありがとう」と言って手を出してきたので手を繋ぐと同時に瞬間移動をした。

次の瞬間、僕達は最上階に居た。テーブルの上には既に簡単な食事と飲み物が置かれていた。


「シモーリさんって凄いね」

「そうだね」


僕達は食事を後にして外の景色を見る事にする。

見張りに使うバルコニーに出るとまだ空は少し赤みが残っていた。

横にいるリーンが「日が沈むね」と言って僕の方に寄りかかる。


今僕達は西側の景色を見ている。

眼下の王都は夜の灯りに照らされ始めていて、リーンが「下に灯りが沢山あって素敵」と言って嬉しそうに見ている。



その後、完全に暗くなってから僕達は食事を取った。

食事はサンドウィッチと肉を焼いたもの、後は果物が入っていた。


「お城のご飯も美味しいね」

「そうだね」


「汚さないように気をつけなきゃ」

「汚しても許される気もするけどね」


そんな話をしながらゆっくりと食事を楽しんだ後、僕達は東側の空を見る。

僕達に無言は存在しないのは子供の頃から変わらないのでずっと話をしていて今はリーンが「一の村はあれかな?あの端っこの灯り」と聞いてきて僕が「そうだね」と返している。

本当に小さい灯りであの火の中に父さんや母さん達が暮らしていると思うと少し不思議な気もするし、逆に村から城を見ようとしても木々に囲まれていて認識できないから不思議だ。


一の村を見ているとリーンが「私、本当にお妃さまになるんだね」と言うので僕は「うん」と返事をした。


僕は戴冠式の後、日を改めてリーンを迎えに行った。

リーンのお父さんお母さんは快く許しをくれて祝福してくれた。

リーンはまさか自分が選ばれるなんてと驚いて泣いていたがお父さんとお母さんが抱きしめておめでとうと言っていた。


迎えに行った日の事を思い出しているとリーンが「あの日の約束を覚えてくれていてありがとう」と言うので僕は「ううん、あの日を過ごせなくてごめんね」と謝る。


僕はあの後すぐに城と村を行ったり来たりで結局リーンとのあの日は迎えられなかった。

もう月は満月ではなくなっている。


リーンが「いいの、こうやって私を選んでくれたから。ありがとう」と言って抱きついて来て「それにあの日は正真正銘私とキョロだけの思い出になったんだからいいの。うれしい」と言って抱きしめる腕に力を込めてくる。


そのままの格好で空を見る。

空は晴れていて、一面の星空が広がっている。


「あの日見た星空も綺麗だけど今日も綺麗」

「うん」



しばらくそのまま空を見るとリーンが「キョロ?」と声をかけてくる。


「なに?」

「何か忘れてない?」


…何だろう?



悩む僕にリーンが「あの日のキョロは優しかったのになー」と言って思わせぶりな顔で僕を見る。


そのまま「あーあ、あの日見た星空も綺麗だけど今日も綺麗」とまた言った。

この言葉に僕は何となくリーンの言いたいことがわかった気がしたので抱き着いたままのリーンを見て「あの日見たリーンも綺麗だけど、今日はもっと綺麗だよ」と言うとリーンは「ふふふ、ありがとう」と言ってキスをしてきた。


「ねえキョロ?」

「何?」


「あの日したキスの回数を覚えている?」

「え?夢中だったから回数は…」


「なんだー」

「じゃあリーンは覚えているの?」

僕の質問にリーンは「私も数なんて数えてないよ」と言って笑い、僕もつられて笑う。



また僕達は席に戻って飲み物を飲む。

そして色んな話をする。


明日のこと

明日からのこと


そしてまた星を見る。


それを何回も繰り返す。

正直気持ちが悪いのは途中で飲み物が補充されていた事で、シモーリは一週間くらい休ませてあげたい。


夜も更けてきて王都の灯りも消えて先に見える灯りも消えてきたので僕はリーンに声をかけると「何?」と言われる。


「もう遅いよ?今日は寝ないつもり?」

「え?キョロが寝たいのならそれも良いけど、まずはキョロが約束を果たしてくれたらね」


「約束?」

「そう、思い出して」


約束とはなんだろう?

僕は考える。


僕の顔を見てリーンが不満げに「あ、忘れてる?」と聞いてくるので僕は焦って「いや、そんな事は無いと思うんだけど…」と言いながら約束を必死に思い出そうとする。


少しするとリーンが口を尖らせて「まあ、キョロからしたら守りたくない約束だから忘れちゃったんでしょ?」と言って怒る。

怒ると言っても本気の怒り方ではないけど不満ですとアピールしてくる。


リーンは「頑張って思い出してね。私は星を見てるから」と言って北側に出て星を見ると「海がキラキラと綺麗…。今度行ってみたい」と言っている。


海か…「海鳴りの扇」で沖はいつも荒れているんだけどね…とは雰囲気が壊れるので言えない。


約束を思い出さなきゃ…

何だろう?


少しすると海を見ていたリーンが「本当に星が綺麗、手を伸ばせば届きそう!」と言って空に向かって右手を伸ばした。


右手…そうか!


僕はリーンの元に駆け寄るとリーンは嬉しそうに「キョロ、約束は思い出した?」と聞いてくる。


「本当にいいの?」

「私はいいのに勝手に無効化したのはキョロよ?」


僕が「嫌になったりしたら言ってね。すぐに無効化するから」と言おうとした途中でリーンはキスで僕の口を塞いだ後「バカ」と優しく言った。


そしてリーンが右手を差し出して「2人で魂を共にして、2人一緒に死にましょ?」と言う。

右手には「誓いの指輪」が嵌められていた。


そう、約束は決戦が終わった後で魂の共有についてもう一度話をすると言っていた事だった。


僕はリーンの指から「誓いの指輪」を取るとリーンが「え?ちょっと、キョロ?」と驚くので今度は「なにするの?」と言っているリーンに僕からキスをした。



僕は「バカだなぁリーンは。左手を出して」と言って指輪をリーンの左手の薬指に嵌める。

不思議だが、アーティファクトはきちんとサイズが合う。


「キョロ…」

「何?」


「ちゃんと左手に嵌めていいんだよね?」

「そうだよ。リーンは僕のお嫁さんなんだから」


僕も右の指から左手の薬指に「誓いの指輪」を付けなおすと「さあ、左手を僕の左手に乗せて」とリーンに言う。


指輪の使い方は何となく城に来た頃にシモーリに言われていたのを思い出していた。


「僕が唱えていい?」

「え?2人で唱えましょうよ」


「そうだね。…せーの…」


「「【アーティファクト】」」


「誓いの指輪」が発動して僕とリーンの身体が光る。


「これで死ぬ時も一緒になっちゃたね」

「え?キョロは嫌なの?」


僕は「そうじゃないよ。もうこれでずっと一緒だって思ったんだよ」と言ってから夜も遅いから寝ようとリーンに言う。


リーンは少し困った顔で「あ…寝たいんだけど。このドレス…一度脱いだら、1人じゃ着れないかも。さっきもメイドさんに手伝ってもらったの…」と言う。


「じゃあ、折角だけど部屋に帰ろうか?」

「うん、一度着替えて戻ってくるでもいいのかも…」


そう言ってバルコニーから室内に戻ると僕とリーンは2人して声を揃えて「あ」と言ってしまう。なんとベッドの上にリーンの寝間着が置いてあった。

これにはさすがのリーンも「シモーリさんって…ここまでするの?」と言って引き始めている。


僕は追い打ちのように「しかもこれ、多分着替えて寝たら、明日の朝にはドレスが消えていて、普段着が置いてあると思うよ。後朝ごはんも」と言うとリーンは想像したのだろう、「…それはそれで見てみたい気もするけど…」と言ってくるので色々考えて僕は「まあ、多分部屋に帰っても、朝普通に起こしに来るよね」と言った。


「キョロはどうしたい?」

「僕はここって決めたからここでリーンと寝たいかな。次はいつになるかわからないし。リーンは?」


「私は…出来たらここで朝の海を見てみたい」

「じゃあここにしよう」


僕の言葉でリーンはドレスを脱いで寝間着に着替える。

後は寝るだけになったので僕はベッドに入る前に「でも一個だけ、訂正していい?」と言う。


「何?」

「朝の海は起きられたらで、起こしてとは言っていないから」

僕は何処に向かうでも誰に向けてでもなくそう言っておいた。


「ああ、シモーリさん対策なのね」

「うん。これでひとまず安全かな?さあ寝ようか?」


僕達はベッドに入るとリーンが「左手と左手を繋いで寝てもいい?」と聞いてくる。

僕は「いいよ」と言って、リーンの方を向くとリーンも僕の方を向いてきた。


「おやすみ、リーン」

「おやすみなさいキョロ」

そう言って手を繋ぐ。


昼間の疲れもあってか、僕はすぐに眠くなってきた。

朝日が射しこんできたらきっとわかるから、そうしたらリーンと一緒に朝日を見よう。

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