第81話 カーイの願い。

結婚式が終わって外に出る。

外でそれぞれがそれぞれの知り合いと結婚について話しているとアーイが心配そうに兵士に「居ないだと?」と声を荒げていた。


俺が近づいて「どうした、アーイ?」と聞くとアーイは「カーイが居ないんだ」と泣きそうな顔をする。ガクも心配そうにアーイを見ているが、ガクとアーイから聞いているカーイは遠くに行ける程元気ではない。


ノース王が「この場はとにかくキチンと終わらせて、それからカーイを探そう」と言って纏めていた。

そうしていると突然「ご結婚おめでとうございます」と声が聞こえた。


俺たちが周りを見回すと空にカーイと女中が映し出された。

アーイは「カーイ…?」と言って心配そうに空を見て、横のガクが「なんだありゃ?」と空を見て呟く。



女中が「カーイ様、映し出されました」と言うと椅子に腰掛けたカーイが話し始める。


「姉さん、ガクさん。他の国の方々、ご結婚おめでとうございます。僕はノースの王子カーイです。今日は僕から皆さんにご報告があります」


カーイは無垢な顔、無邪気な顔で淡々と話す。


「僕はこの世界にアーティファクトは不要だと思うんだ。アーティファクトが無ければ戦争も起きない。だけど、僕はここに居るジョマにノースがアーティファクトを先に放棄して徐々に世界でもアーティファクトを放棄してくれたら平和にならないかと相談をしたんだけど、ジョマはノースが放棄した瞬間に他の国から攻め込まれてノースは無くなると言っていた」


そう話すカーイの横でジョマと呼ばれていた女中を見てウノとテツイ、それとルルがどよめく。


「パーン!?」

「僕の胸に「悪魔のタマゴ」を取り付けた女?」

「あの女、魔女?何故生きている?」


魔女だと?

アイツは確かに俺たちの前でキヨロスに斬り刻まれたはずだ。

だが空に映し出された女は顔こそ違うがあの嫌な雰囲気を纏っている。


「なので、私がカーイ様にご提案したの」と話したジョマと言う女中…魔女が顔をいやらしく歪ませて「世界中のアーティファクトを無くしてしまいましょうって…アハハハ」と笑った。


俺の全身が危険を訴える中、空中の魔女が「あ、そろそろ気付くかしら?お久しぶり、私でーす!」と続けた。


魔女の豹変具合にカーイが「ジョマ?」と声をかけると魔女は女中の顔に戻って「カーイ様は気になさらずに。さ、アーティファクト・キャンセラーにお手を、そして最初で最後のアーティファクトをお使いください」と言った。


その言葉でカーイは立ち上がると自分の胸くらいの大きさの水晶玉が乗った台に向かって手を出した。


「ジョマ?これは世界中にも聞こえているんだよね?」

「ええ、見えてもいますわ」


「世界中の皆さん、改めて…僕はノースの王子カーイです。今から僕はこの世界からアーティファクトを無くします。これからはアーティファクトの無い世界で皆が手を取り合って人の手で一つずつやって行きましょう。僕は病弱でこの歳になってもまだアーティファクトを持った事がありません。ですがこの生活に不便はありません」


それはお前が王子だからだ。


「今、世界はアーティファクトの優劣で色々なモノが決まります。食糧を無限に生み出せるアーティファクトを持った父を素晴らしいと僕は思います。ですが、サウス王のように圧倒的な武力を持った王も同時に存在していて、仮に戦争になればノースはあっという間に滅ぼされます。そう言った不平等を取り除くべく、僕はこの世界からアーティファクトを無くします。初めは不便で僕を憎むかもしれません。しかし僕は王族として全てを受けます。その先に夢見た、僕の願った世界があると信じて!」


高揚した顔で演説をするカーイ。

マズい、カーイのこの雰囲気はアーイがノース相手だと冷静な判断が出来なかった時に似ている。

姉弟はよく似ている…。


カーイは水晶玉に向かって「今ここに、アーティファクトの停止を命じる。【アーティファクト】」と唱えた。


その直後、キィンと言う音の後で世界が静まり返った気がした。

テツイが恐る恐る何らかのアーティファクトを使ってみたのだろう、「ダメです、指輪が反応しません!」と叫んでいて、ルルも「ダメだ、ノレル達になれない」と言っている。



しかし空中の映像は映し出されたままだ。


映像の魔女は「あー、聞こえるー?もう何人かアーティファクトを試したかしら?使えないでしょー?アハハハ。これは私の神の使いとしての力なの」と言ってニヤニヤしている。


神の使いと聞いてカーイが困惑して「ジョマ?」と呼びかけた瞬間、カーイは魔女に平手打ちで殴り飛ばされていた。


起き上がって頬を押さえるカーイが「ぐぅっ!?ジョ…ジョマ?どうしたんだい?」と聞くと魔女は「私は神の使いなの?気安くジョマなんて呼ばないで欲しいわね。あの日、姫様があんたの所に来た時にイーストの人間が居て、正体を見破られたらその場で計画を実行するつもりだったのに姫様1人で顔を出すから今日まで女中のふりをして我慢して散々アンタのお世話をしていたけど、それも今日まで。ザンネは私に気づかないでアンタの世話係に私を充てがったし、誰かしら私に気付くかと思ってジョマって名乗ったけど、誰も気づかないで馬鹿ばっかり」と言ってヤレヤレとポーズを取る。


ジョマ→マジョ→魔女か…

と言うか顔を見たのがアーイとザンネ、それにノース王にガクだろ?

見破れない気がするぜ…。


ジョマは映像に向かって「聞いてるかしら?この力の残念な所は双方向ではなくて一方向な事なのよね。そっちの悔しがる顔が見えないのが残念だわ。アハハハ」と言ってヒラヒラと踊るように笑っている。


くそっ、楽しんでいやがる。


「えーっと、とりあえず喋るから聞いておいてくれたらそれで良いわ」


そう言ったジョマが話し出した。


「ひとつ、何で今日実行したか。それはねー。今日は散々私の実験を邪魔してくれた連中の結婚式が今日だからよー。人生最高の日に邪魔をしてやったのよ。アハハハ」


「ふたつ、今起きている事ね。世界中のアーティファクトが停止したから、まあ、イーストの奈落の人達は…死んだかも。良くて生き埋めかしらね?もしかしたら入り口に向かって強制的に排出されたかも。私はここの王子様のお願いを聞いて世界からアーティファクトを排除してみたの。魔物相手に生身で戦う日々、火を起こすのも大変な日々を生きてみるといいわね。アハハハ」


「これはおまけ。私の持つアーティファクトもゴミクズになっちゃったからもう魔物の召喚も「悪魔のタマゴ」を使った悪魔化も出来ないの。でもまあ別に関係無いわよね。そっちの被害の方が大きいしね。アハハハ」


「そしてみっつ、これからの事よ。私ね、アーティファクト無しの生活もそんなにずっと見ていたい訳じゃないの。せいぜい…40日と言ったところかしら?そうしたらノースの地獄門を開けるわ」


地獄門と聞いた時、ノース王が「何だと!?」と言って反応をした。

地獄門はノースの最北にあると言われている場所で、門の向こうは魔界に繋がっていると昔話に良く出てきたので俺でも名前を知っている。


魔女は「ノースの王様なら知っていると思うけど、門を開けるにはノースの王族を生贄に捧げる必要があるのよ。あら?こんなところに王子様がいるわ!アハハハ」yp言ってわざとらしくカーイを見て微笑む。

その顔は悪意にまみれていて嫌らしい。


「40日、40日経ったら王子様を使って地獄門を開けるわ。そうしたら、サウスやウエスト、ノースなんかじゃ見た事ないような魔物が大挙してくるわ。イーストは奈落に降りた人なら見た事あるような魔物よー。魔物達がアーティファクトを使えなくなった人間を軒並み襲って殺すの。楽しみね」


くそっ、最悪だぞ…。

苛立つ俺の耳に魔女の「ああ、私って優しいから解決策を教えてあげる。アハハハ」と言う声が聞こえてくる。


「この場所に来て、さっき王子様が使ったアーティファクト・キャンセラーに触れてもう一度アーティファクトと唱えるだけ」


…あの魔女が勝ち目の無い事を言う訳がない。


「でも、この場所は内緒。アハハハ。頑張って40日で探してね」


ほら見ろ。


「そしてこのアーティファクト・キャンセラーは一個だけ条件があるの。その人のファーストアーティファクトである事。初めて使うアーティファクトでないとダメなのよ。ふふっ、この人の減ったガーデンの中でまだアーティファクトを使った事ない人って居るのかしらね?」


魔女はそう言ってから「アハハハ。頑張って人を探してこの場所を探してって大変ね。じゃ…頑張ってねー」と続けると項垂れるカーイを軽々と持ち上げて「さあ、王子様、今日から40日だけ神の使いがお世話をしてあげるわ」と言うと空に映し出された姿は消えた。


俺達はどうしたらいいか一瞬では決めかねて誰も口を開けられずに居た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


少しすると皆口々に「どうするのか」と話している。

どうするのかと言っても早く魔女を見つけて殺さなきゃ、カーイを助けてあのアーティファクト・キャンセラーをどうにかして止めると言う前向きな「どうするのか」だ。


まあ1人怒っているのも居る。

しれはルルで「奈落が消えた!?私の実験室と研究室は?まとめあげた書類たちは!!?」と言って姿の写っていない空に向かって吠えている。


ツネツギが呆れ混じりに「落ち着けってルル、世界がそれどころじゃないんだぜ?」と言うとルルは「そんなことはわかっておる!だが私の研究室と実験室が…」と言って肩を落としながら奈落に作っていた自分の実験室と研究室が消えたことに怒っている。


その時、「あのね…」と言って小さな声で俺を呼ぶ声がする。

マリオンと声の方を向くとマリーが居る。


マリオンが「マリー?」と言って「どうしたの?」と聞いている。


マリーは自身を指さして「私、まだアーティファクトを使った事ないよ」と言うと起こるどよめき。


確かにマリーは今年14歳でまだ成人の儀が来ていない。

授かったアーティファクトは無い。


一瞬皆が明るくなったがキヨロスが「だけど、亡霊騎士の経験があるから五分五分だよ」と言った。キヨロスは冷静に判断をしている。


そう、マリーはマリオンの代わりに亡霊騎士にされていた。

その際に擬似アーティファクトを使った戦闘を経験してる。

これが初めてに該当するかが問題だ。


皆が黙ってしまう中、ガクが「だが現状はこの子に頼るしか無いだろう?マリオンの妹…じゃなかったな、お姉さんだな。俺はガク。よろしくな」と挨拶をするとマリーは「はい!」と言った。


この流れはマリーが危険な目に遭う事になるのでマリオンが心配そうに「マリー…」と声をかけると「マリオン、私だって仲間なんだから大丈夫!」と言ってマリオンに微笑み返すマリー。こう言う時はやはりマリーが姉に見える。


ツネツギはマリーが居てくれた事でアーティファクトの方が何とかなった事で「後はあそこが何処かと言うことか…」と言うので俺が「そうだな…、ガクやウエスト王はなんか知らないのか?」と聞くと「すまん、知らん」「私もだ…、あんなモノがこの世界にあったとは…」という返事が返ってくる。

王様と王子様はアウトか…


俺はアーイ達を見て「ノースは?」と聞くとアーイが首を横に振って「すまないカムカ、私達も何も知らない」と言う。

こっちの王様とお姫様もアウトか…


そう思った時、皆の中から「私、知ってるよ」と声がした。


誰だ?

聞いたことはあるが聞き覚えのない声がした。

俺は声の方を見る。


声の先には薄汚れた老じ…もとい…師匠が手を振っていた。

「師匠!!?」と俺が言うと久しぶりの師匠は「久しぶりー」と言って俺の方へと歩いてきた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


師匠がここに居た。

それにはかなり驚いたが、こう見えて師匠も神の使い。

この状況を打破出来るかも知れない。


俺が「師匠、今日は一体どうしたんですか?」と聞くと「えー、愛弟子のカムカが結婚って聞いたからコソッと参列者に紛れていたの。そしたらこの騒ぎでしょ?私驚いたよー」と言って身振り手振りで驚く。


何と、師匠は俺の結婚式に来てくれていた。

更にマリーが居る。


これはなんとかなる気しかしない!


俺はあのーティファクト・キャンセラーを停止する為に「で、師匠!あそこは何処に有るんですか?サウスですか?ノースですか?ウエスト?イースト?」と聞くと師匠は「ううん、世界の真ん中だよ」と言った。


真ん中と言う声にどよめきが起きる。

ノース王が兵士に世界地図を持ってこさせる。

世界地図をみると4等分された世界の真ん中は海になっている。


「師匠、真ん中は海ですよ?」

「それ、普通は人間が立ち入り出来ないから地図を作った人は諦めて海にしたんだよねー」


まさかの新事実にルルが「なんだと?」と言って反応すると、師匠は海を指差して「海の魔物は、陸地の人が簡単に真ん中の島に行けないように守ってるの。アーティファクトが使えれば別だけど使えないと難しいよね」と言って説明をする。


「真ん中の島?そこに何が有るんですか?」

「んー、神殿だよ。そこにアーティファクト・キャンセラーがあるの。元々はアーティファクトを使った戦争が激化して人々の戦争を嫌がる気持ちが最高になった時、2人の人間を私が選んでアーティファクト・キャンセラーに導くの」


「2人?」

「うん、2人。1人はアーティファクト・キャンセラーを発動してアーティファクトを停止する人。それでもう1人は戦争が無くなって人々の話し合いとか終わった頃にアーティファクト・キャンセラーを停止してアーティファクトを再開する人」


成る程、それで2人か…


「師匠、ですが海がダメならどうやってその神殿まで行くんですか?」

「んー、サウスから行けるようになってるよ。だからサウスにはアーティファクト・キャンセラーを使える人間を確保する意味もあって成人の儀があるんだよ。その場所をキヨロス君は知っているよね?」

そう言った師匠は「ああ、この時間では使ってないか」と言って自答していた。


キヨロスは身に覚えが無いので「え?僕が使った?」と言って驚いていると師匠が「三の村の南に山があって、そこに洞窟があったでしょ?あれ、地下に道があるんだ。簡単に見つけられると困るから上に目が行くように宝石とか金とか埋めてあるんだけどね」と言って微笑む。


「え?あの山小屋の?」

「そうそれ、あの地下から神殿までの直通通路があるからそこからなら今でも行けると思うよ」


なんとか目処が立った。

マリーに師匠。

この奇跡に感謝をするしかない。


「よし、じゃあ早速三の村を目指そうぜ」

俺は率先して皆に声をかけた。

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