救国の勇者-ガーデンの危機。
第82話 与える者。知らせる者。
三の村までの道のりは結構過酷だった。
武器のアーティファクトは全てただの武器になり、指輪はただの装飾品になった。
今まで簡単に倒せていた高速イノシシですら苦戦をし、ビッグベアに至っては命がけになっていた。
今、俺たちは二手に分かれていて、それは出発前に師匠、神の使いから指示が出たからだ。
ノース王とザンネはノースに残る。
ウエスト王はウエストに残る。
ウノとテツイはイーストに残る。
キヨロスと3人の嫁さんはサウスの城に残る。
それ以外の戦えない人も各地の城に身を寄せる。
洞窟に入るのは
俺、マリオン、ガク、アーイ、ツネツギ、ルル、それとマリー。
後はマリーが心配だと一の村のナックがついてくる事になった。
アーティファクトが使えない以上、ツネツギとルルは足手まといかと思ったのだが、師匠から異世界の知識、アーティファクトに対する造詣の深さが役立つかも知れないと言うことで付いてくることになった。
キヨロス自身はついて行きたいと言っていたが師匠からアーティファクト・キャンセラーが停止した瞬間に光の剣を全力で飛ばして世界中の魔物を一度に退治する仕事があるからダメだと言われていた。
各国の王達はキヨロスが倒した魔物の死骸駆除があるので城で陣頭指揮が求められた。
二手に分かれた俺達は、ウエスト王を送りながらサウスに帰還するキヨロスと他のサウスの人たち。
イーストを経由してウノとテツイを送りながら洞窟を目指す俺たちと師匠。
と言う面子分けになった。
こんな時に言うのも変な話だが、散々世界を歩いていて良かったと思う。
10日もしないでイーストとサウスの国境まで来られたのだ。
恐らくキヨロス達はまだウエストとサウスの国境には着いていないと思う。
国境から約2日、ノース出発から11日目にしてようやく二の村俺の家に着いた。
師匠が家を見て「んー、ここがカムカの家だ。素敵だね」と言ってくれる。
俺は身を乗り出して「ありがとうございます師匠」と言ってしまう。
「済まない、邪魔をする」
「お邪魔するぜ」
「マリオンのお家だ!」
「綺麗だなマリー」
「こう言う家も悪くない」
「羨ましいならそう言えよルル」
「おかえりカムカ」
「ただいまマリオン」
皆が口々に感想等を述べながら家に入る。
本当、子沢山を意識して大きな家にしておいてよかった。
今晩はウチで休んで明日洞窟を目指す。
師匠の話では洞窟から神殿までの道のりは俺たちの足で4日程かかると言っていたので、その分の食糧も用意しておく。
食事は師匠が用意をしてくれた。
なんだか修行時代を思い出してしまう。
俺が懐かしんで食べていたからだろう、マリオンが「これがカムカの思い出の味だ。お爺ちゃん作り方教えて」と言って師匠に作り方を教わったりと、何処か余裕を感じた。
その夜、寝る前に少し修行をしている俺の元に師匠が現れて、これからの話をしてくれた。
その中には万一マリーが失敗した時の事も含まれていた。
それは誰にも…マリオンにも……
いや、マリオンには絶対に相談出来ない話だった。
まあ、アーティファクト・キャンセラーがマリーのファーストアーティファクトと認めてくれれば問題ないし、俺たちがマリーを連れて行く事に失敗しなければいいだけだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺たちは今、三の村の南にある洞窟にいる。
唯一の救いは魔女がこちらを見るアーティファクトを使えなくなった事だろう。
お陰で普通に魔物との戦いはあったが妨害は受けていない。
洞窟の入り口までは師匠が着いてきてくれて洞窟の入り口、入ってすぐの壁を指差して俺に殴れと言うので殴ったら階段が出てきた。
何でもここはなんとなく掘ろうと言う気にならなくなる仕掛けがしてあったらしいし、稀に掘る奴が出てくると師匠が何も知らない老人のフリをして止めにきたらしい。
洞窟の入り口で師匠が「んー、じゃあねカムカ。私はここまでなんだ。後はサウスの城で待たせてもらうから頑張ってね」と言って俺達を見送る。
「え?師匠はここまでなんですか?」
「うん、権限って面倒だよね。ごめんね」
「いえ、ここまでありがとうございました!またサウスの城で会いましょう!!」
「うん、待ってるよ」
俺は師匠と握手を交わす。
昔と変わらない師匠の手に、つい子供の時の事を思い出して居るとマリオンが「お爺ちゃん、全部終わったら二の村に住む?」と突然言い出し、「私とカムカの家はダメだけど、横に家を建てて貰ってお爺ちゃんはそこに住むの。それで私とカムカの子供達と仲良く暮らすの。どうかな?」と続けてくれた。
「んー、ありがとうマリオン。それも悪くないね。全部終わってから考えるよ」
「うん、いつでも良いから待ってるね」
そう言うとマリオンと師匠も握手を交わした。
俺は「皆、待たせた。行こう」と言って皆に声をかけて洞窟に入る。
洞窟の中は始めこそ洞窟だったが、途中から何処か奈落を思わせる作りになっていて、ツネツギと奈落の日々を懐かしんだ。
「奈落に似ているって事はアーティファクトなのかもな」
「何を言っているツネツギ。今はアーティファクトが使えないだろ?」
「だが、この雰囲気は普通じゃない。多分、アーティファクトに似た力を持った場所なんだ」と言いながら恐らく2日ほど歩いた所で小部屋が見つかった。
小部屋に近づくと中から男と女の話し声が聞こえる。
「そろそろ仕事に戻らないと怒られちゃうよ〜」
「まだ宴は始まったばかりでしょ〜」
「えぇ〜、楽しいからよくわかんないけど~、もう何十年も過ぎた気がするんだけど〜」
「まだよ、まだ2年しか過ぎてないわ。人間にはこれくらいの試練を与えないとダメよ」
「そうかな〜、そうかもね。ウヘヘ」
そんな話し声が聞こえる中、女の方の軽薄な話し方と声には聞き覚えがあった。
「魔女!?」と驚くツネツギと俺がコッソリと中を覗く。
中は1人で住むには十分な広さの部屋。
大きめなソファーに男女が座っていて女が男にもたれ掛かりながら酌をしていた。
顔かたちと髪型こそは魔女ではないが、話し方と雰囲気は魔女のそれだった。
魔女は俺とツネツギが背後から忍び寄って、俺が羽交い締めにしてツネツギが首を掻っ切った。
血飛沫が魔女の横にいた男に掛かったが知った事ではない。
男は突然の事に放心状態になっているのでひとまず拘束をさせて貰い皆を部屋に呼ぶ。
マリーとナックには刺激が強いかと心配をしたのだが、そんな事もなく普通にしている。
ナックは「別にイノシシと変わらないし」と言い、マリーも「うん…、前にキヨロスくんがウチでイノシシ解体したの見たから平気」と言った。
動かなくなった魔女を見てルルが「何でこんな所にあの女が居るんだ?」と言っていたので魔女なのだろう。
これでカーイの所には魔女はもう居ないのか?
すっかり酔いの冷めた男が慌てながら「お…お前たちなんなんだ!?」と俺たちに聞いてくる。年は俺たちくらい、同年代に見える。
ツネツギが「お前こそ誰だ?」と聞くと男は「お前だと?俺は神の使い「与える者」だ!」と名乗った。
ん?与える者って行方不明の神の使いじゃないか?
与える者は「お前らはなんなんだ?ここを知っているって事は「道を示す者」に教わったんだろうが、あのジジイ…、人間にここを教える時はキチンと通知する決まりになっているだろう…、全く…だからジジイは耄碌しやがって…」とブツブツ言っている。
行方不明の神の使いはよりによってお師匠様を侮辱しているようだ。
これは久し振りに言葉が通じなそうな奴だ。
拳と言う名の肉体言語でミッチリとお話し合いをしなければならない気がする。
さもなくばこのまま永遠に行方不明になって貰ってもいい気がする。
そんな俺を見てツネツギが「おい、神の使いだかなんだか知らんがやめとけ、殺されるぞ!」と与える者を止めるし、「そこら辺にした方がいいよ。きっと悪いのアンタだよ」とマリオンまで与える者を止めた。
不服そうに「あ?何でだよ?」聞き返す与える者に「アンタ、ずっと他の神の使いが連絡とっていたのに無視したでしょ?」とマリオンが言うと一瞬の間の後で「え?」と与える者が聞き返した。
「少なくとも2年前に4人の神の使いが集まった時にアンタ行方不明で来なかったんだよ」
「嘘…」
与える者が青くなって「え?だってこの彼女がまだ2年過ぎていないって…」と言って魔女の死体を指差す。
「じゃあ、アンタに通知が来るのはどんな時よ?」
「簡単なのは世界の状況がやばい時、疫病や不作、少子化なんかそれだ。後は「道を示す者」が勇者になる弟子を取った時や、この場所を人間に知らせた時、6人全員が集まる必要がある時だ…」
俺は手を上げて「俺のお師匠様はその「道を示す者」で10年以上前に俺を勇者にするために弟子にしてくれたよ」と割り込むと与える者は「う…」とか「え…」「あ…」とか言いながら何とか「10年…以上…前?」と聞き返てきた。
更にツネツギが会話に割り込んで「なあ、通知ってどうやってくんだ?」と与える者に聞く。
もう半分放心状態の与える者は「そ…そこの…へ…部屋の隅に、端末があってそこに…、音が鳴る」と説明した後で「……ってお前らは端末って意味がわからないよな…」と勝手に納得している。確かにわからない。何だそりゃ?
ツネツギは「いや、俺の居た世界には端末あるぜ?部屋の隅?これか?」と言うと部屋の隅にあった鏡が付いた石板みたいなモノに手を伸ばして「うわっ、通知178件だって」と言った。
与える物は真っ青な顔で「178!?み…見せてくれ!!」と言ってツネツギを呼ぶが、ツネツギは無視をしているとルルが「ツネツギ、凄いな。使い方がわかるのか?」と言いながらツネツギの元に行く
「ああ、多分それを見越して「道を示す者」は俺にも行くように言ったのかもな」
「私も見てみたい!」
「お、おい!早く俺に見せてくれよ!!」
与える者が情けない声を出すが俺達は全無視でツネツギとルルを見る。
「これ、消音になってるな」
「消音?」
「通知音を消すんだよ、音を出すのはどれだ?」
「これなんか怪しくないか?」
ルルとツネツギは「お、ルルもわかるじゃないか!」「そうか?」と言いながら楽しそうにガサガサと端末とやらをいじる。
「お、音量マークが出た感じだ。てかなんでここだけ俺の住んでる世界風なんだ?」
「……事態です。非常事態です。人口減が深刻です。ただちに操作をしてください」
「非常事態です。非常事態です。疫病状態が長期化しています。自動で緊急停止します」
「非常事態です。非常事態です。長期間子供が産まれて居ません。ただちに操作をしてください」
「非常事態です。非常事態です。成人の人口減が深刻です。ただちに操作をしてください」
「非常事態です。非常事態です。魔物の発生頻度が長期間「強」になっています。自動停止します」
通知を聞いて「いっ!?」と声をあげた与える者は器用に縛られたまま飛び跳ねたそのまま泡を吹いて倒れた。その後も通知は鳴り止まず、最後の方に聞き覚えのある神の使い達の声でキヨロスの事について話があったり俺たちが結婚する事が入っていた。
俺達はとりあえず気絶した神の使いを起こす事にした。
満場一致でぶん殴って起こす事になり、代表でツネツギが殴る事になった。
嫌そうな顔で「なんで俺が…」と言うツネツギにルルが「ツネツギがこの世界に一番思い入れが少ないからだ、万一皆の家族を襲った流行り病や魔物の事、生まれてこない子供の原因がコイツだとしたら私達なら殴り殺すかも知れんぞ?」と言って説得をする。
確かに俺の両親も流行り病で死んだ。
もしかするとコイツが原因かもしれない。
そう思うと殴る力も加減が効かなくなる。
「じゃあ…、失礼して…」と言ったツネツギはゴホンと咳払いをしてから与える者の胸倉を掴んだ。
「起きろコラァ!お前が仕事しねーで何十年も酒かっくらってっから召喚されたのかも知れないんだぞコラァ!こっちに来てもうすぐ2年だコラァ!結婚したのは良いが、俺が帰ったら嫁さん寂しいだろコラァ!全部お前のせいだコラァ!!」
ツネツギは「コラァ」のタイミングで与える者を殴る。
初めは平手打ちだったが、ルルのことを話した時から握り拳だった。
最初はあまりの剣幕に引いていたルルだが終わってみればツネツギの言葉にニコニコとしていた。
ようやく目を覚ました与える者が涙目で「サーセン…やめてくだひゃい」と言って止めてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺達は与える者の拘束を解いて端末を渡すと「ありがとう…ごじゃいましゅ…」と言う与える者にとりあえず現状分かっていることを確認させた所、与える者が見ていなかった通知は約20年前からだった。
ツネツギが高圧的な態度で「おい、それ履歴とか追えるだろ?やれよ」と与える者に命令を出している。
俺にはよく分からないがツネツギのニホンではわかる話なのかも知れない。
「はい…。それで何の履歴を?」
「全部だよ全部。お前が最後にやった操作から先の話全部だよ」
そう言われて端末を目で追う与える者はまた青くなりプルプルと震えて涙目になる。
涙目で震える与える者が「一通り見ました…」と言うとツネツギは「説明しろ」と言った。
「殴らないでくれますか?」
「殴られる事が書いてあるんだな?」
「ひっ、勘弁してください」
とりあえず俺達は「今のところ」は殴る気は無いと伝えて説明をさせた。
それはもう散々だった。
コイツの仕事は神の代わりに人間に試練として不作や病気、後は魔物を与えたり、人口減にならないように子供が産まれやすい年にしたり豊作にしたりと祝福を与える事であった。
だが、魔女に騙されて酒に溺れて寝ている間に端末は勝手に操作されていて疫病はこれでもかとばら撒かれ、「大地の核」の力は最低限にされ、不作や凶作が当たり前にされ、そしてここ10数年に至っては子供が絶対に生まれないようにされていた。
人口はガーデンには命の絶対数で2万人までの人が住めるようになっていて、それ以上はコイツが増えないよう自然に管理をする事になっていたのだが、怠慢の結果、ガーデンの人口は半分以下の6000人に届かないくらいまで激減していた。
説明の直後、ツネツギが「コラァ!」と言いながら大きく振りかぶってこのバカを殴り飛ばしていた。
マリーは両親を流行り病で亡くしていたらしく涙目になっている。
その他の者たちも怒り心頭だ。
「ご…ごめんなさい!」
「謝って済むかコラァ!」
ツネツギが更に殴る。
俺も殴りたい気持ちを抑えてこのバカに話しかける。
「今すぐ師匠や他の神の使いに連絡を取れ」
「で…出来ません」
与える者が出来ないといった瞬間、ツネツギはもう無言で殴っていた。
「ひっ、殴らないでください。今アーティファクト・キャンセラーが実行されてますよね?そうなると俺たち神の使いは連絡が取れなくなるんです」
「…本当だろうな?お前がただの無能って訳じゃ」
「違います!違いますぅ!!」
バカは泣いて否定する。
それにしてもツネツギは質問も容赦が無くなってきている。
「じゃあ、今すぐ設定をし直せ」
「そ、それなら今すぐに!!」
そう言って、端末を操作して「大地の核」の出力を上げて、何年も豊作が続くようにして、疫病をとめて、子供がバシバシ生まれるようにしたと言っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの、それですみません」とバカが俺たちに話しかけてきた。
「あ?何だよ」
「さっき、集まった神の使いは4人って言ってましたよね?もしかして集まらなかったのは俺と「知らせる者」ですか?」
ツネツギの「あ?それがどうし…」というツッコミを俺が「ああ、そうだ」と遮って答える。
バカは「やっぱり…」と言うと真剣な表情で「すみません、こんなこと言うのも申し訳ないのですが、「知らせる者」を助けてやってください!」と言った。
「どう言うことだ?」
「そもそも、俺と「知らせる者」はここに万一人間が迷い込んだ時の為に住み着いて、人間に帰るように促す事にしたんです。そして、集まりに俺だけじゃなくて「知らせる者」も行かなかったと言うと…、多分この先で俺みたいになんかのトラブルに見舞われていると思うんです」
…そう言うことか…。
俺は何となく確信めいたものを感じていた俺が「また魔女が居るだろうな」と言うとマリオンが俺の顔を見て「カムカ?」と聞き返してきた。
「神の使いは6人、神の使いを名乗る女も6人なんじゃないかと思ったんだよ。そうすると…イーストでツネツギ達と倒した魔女、キヨロスが倒した二体、カーイを騙して神殿にいる奴、今俺たちが殺した奴、これで5人。ここまでくると6人居てもおかしくないだろ?多分、イーストに「創世の光」をもたらした魔女とカーイを騙した魔女が同一なんだ…」
「なるほど、それで2回目にツネツギの妹…いや、私の義妹を人質にした魔女は顔かたちが違っていたと」
ルルが合点のいった顔をするがわざわざ義妹と言い直すところが面倒くさい。
ツネツギが握り拳を作りながら「で、その「知らせる者」ってのは何よ?」とバカに聞く。
「し…「知らせる者」は世界に問題が起きて神の使いでは解決不能な時に天界の神様に知らせる係です。本来なら俺が仕事をしていなかったら神様が降りてきて解決してくれていたハズなんです」
「それが無いから「知らせる者」もトラブル中だと…」
「はい」
俺が「そう言えば「龍の顎」が出ても「創世の光」が出ても神様だんまりだったな」と言うと「え?それマズいですよ…、あ、ダメなやつです。世界が滅びますよ」とバカが一丁前に意見してくる。
俺は「人口減の一助だからな。お前がさっさと対応していればここまで酷くはなかったからな?」と言ってニコッと笑ってから睨むとバカは「すみません」と小さくなっていた。
俺達はそのままここで一晩を明かす事にする。
魔女の死体はいつの間にか消えていた。
与える者は「食べ物はしっかりあるんで好きに食べてください」と言うと部屋に散らばった酒瓶を片付け始める。
代表でマリーが料理を作る。
中々に旨い。
マリオンの料理に似ている気がする。
流石は元が同じ存在、今や姉妹なだけはある。
ルルが流石に我慢できなくなって「私たちが不作で苦しんだ年もコイツはこうやってちゃんと食べてた訳か」と言って睨む。
「そ…それは…」と言う与える者にアーイが「それは?」と言って睨む。
「いえ…申し開きもございません。これからは心を入れ替えて仕事をさせていただきます。人口が15000人を超えるまで不要な不作にもしません。疫病も流行らせません。子供も下世話な話ですが、子作りの成功率を90%にします」
ほぼ子供ができると言うのは良い事なのだろうが、高齢の人達のところにも子供が産まれて今から育児と言うのはどうなんだろう?
アーイはそれなら良いと言う顔で満足そうに「心しろ」と言うと食事に戻る。
食後、あまりにも不憫に感じた俺は部屋の掃除を手伝ってやる。
マリーも一緒になって手伝うと、ナックにマリオンも手伝い最後にはみんなも掃除を始めた。
翌朝、俺達は与える者の部屋を後にして先に進む。
与える者は「ここから1日の場所に「知らせる者」は居ます。よろしくお願いします」と言って俺達を見送った。
空が見えないので時間が分からないが相当歩いた頃に小部屋がまた出てきた。
「ここに「知らせる者」が居るのか…」
今度はどんな奴がどんな目に遭って居るんだろうか…部屋に近づくと「ぐぁぁぁっ」と言う苦しそうな悲鳴が聞こえてきた。
俺達はそっと部屋に近づく。
中には拘束された初老の男が魔女から拷問を受けていた。
拷問はフォークを身体に突き立てるもので男の身体中が傷だらけで血を流していた。
ツネツギが「…あっちは酒責め接待でこっちは拷問かよ…」と言って苛立った声を出す。
「ねぇ、もう20年よ?あんた達神の使いはこれくらいの怪我じゃ死なないし食べなくても平気だけどソロソロ嫌にならない?いい加減神様がどこに居るのか教えなさいよ」
「知らぬ!言わぬ!貴様なんぞに誰が言うものか!」と強く言う「知らせる者」に魔女が更にフォークを突き立ててグリグリと痛め付ける。
「ぐぁぁぁっ」
「もう、悲鳴ばかりうるさい。喋るなら神様の事にしてくれない?本当、もう何年もアンタを殺したいけど、殺すと神様の所に連絡が行くんでしょ?そうしたら異変に気付いた神が準備して着ちゃうから、私としては無防備な神に近付きたいの?わかる?」
魔女の発言にアーイが「20年だと?」と思い切り不機嫌な声で言うとガクも我慢ができない声で「カムカ、助けていいよな?」と言う。
俺が「ああ」と言って頷くと「じゃあ、最初はカムカとツネツギだったんだから今度は俺とアーイだ」とガクが言い「ああ、そう言う事だ!」とアーイは頷いた。
ガクとアーイは部屋の中に飛び込むと「何よあんた達!?」と言う魔女の声を無視して左右から必要以上に斬りかかり、あっという間に魔女を殺して知らせる者を助け出す。
「もう入ってきていいぞ」
その声に合わせて俺達は部屋の中に入る。
20年振りに拘束を解かれたと言う「知らせる者」が俺たちに感謝をする。
その中でツネツギが「アンタの所には端末はあるか?」と遠慮なく聞くと知らせる者が「ああ、これだ…」と言って部屋の隅から端末を出してくる。
ツネツギが「ひとまず通知を読んでくれ。それが済んでから俺たちの紹介をする。そしてアンタじゃなきゃできない事をやってくれ」と言うと知らせる者は20年分の通知を一気に読み進め、途中で「むぅ…」「何だと?」「まさか」と言っていた。
全て読み終わった知らせる者は「先に神様に連絡をさせてほしい」と言ってきた。
神が降り立てば事態は好転するかも知れない。
俺はその事に少し期待してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
神様に連絡をすると言うのは大変ありがたかった。
だが知らせる者が告げた言葉はあまりにも非情だった。
「神様が不在だ」
「不在?」
「どこかの世界にお出かけになられているのかも知れない。だが、連絡はした。神様の元には私からの知らせが行き続ける。神様がその知らせを見れば私の元に連絡が来る」
ツネツギが「この非常事態に神様はどこに行ってんだ?」と言って苛立つが知らせる者は「それは致し方ない」と言って首を横に振った。
「私からの知らせが無ければ神様は異常無しとして今もこのガーデンが健やかに育っていると思われているのだ。後は私以外の神の使いにも今の状況を知らせておいた」
ツネツギは「え?そんなこと出来んの?あの役立たずは出来ないって言っていたぜ?」と言って与える者が出来なかったことを知らせる者が出来た事に不満を漏らした。
「それは役割の問題だ。私は知らせる者。知らせる者は世界の問題点を知り、神様や他の神の使いに知らせるのが仕事だ。与える者はこの状況でも世界の管理が出来ただろ?」
そう言った知らせる者を見てツネツギは少し唸った後で納得をしていた。
俺が待ちきれずに「それで、通知の内容は?」と聞く。
「主だったもので言えば、「創世の光」と「龍の顎」が外に出た事。アーティファクト・キャンセラーが発動させられた事。他では与える者と私と連絡が取れない事と世界が危うい事になっている通知が来ていた。後はカムカ、君の事と君の仲間の事が他の神の使いから通知が来ていたよ」
「そうか、わかった」と言った俺に知らせる者が「さて、君達はこの先はどうする?」と質問をしてくる。
「どうするって、何を?」
「神様に通知を出したのだ、神様がガーデンの異変に気付いて助けに来てくれる事を待つ道もあると言う事だ」
「それはいつだ?明日か?明後日か?」
「うっ…それは…」
「その間に命を落とした者はどうなる?怪我をした者はどうなる?神様の力で治るのか?生き返るのか?」
「それは…わからない。全ては神様のご判断だ…」
だろうな。
「じゃあ、悪いがやる事は一つだ。俺達は先に進む。神殿で待ち構えている魔女を殺して、ここのマリーがアーティファクト・キャンセラーを解除する」
「そうか…、わかった」
そう言って「知らせる者」はせめて今日はここで休んで行ってくれと俺達を泊めてくれた。
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