第83話 ツネツギとルルの戦い。
翌朝、俺達は知らせる者の元を経つ。
「私はここで神様からの知らせを待つ。知らせが来次第、神様からの許可を貰って君達に知らせる為に神殿に行く。申し訳ないが、権限があって神殿に行くことが許されていないのだ」
「ああ、わかった。期待して待っているよ」
「神殿まではここから1日のところにある。アーティファクト・キャンセラーは神殿の最上階に置かれている。神殿に着いたら周りを気にする事なく最上階を目指すんだ」
「わかった」
「今、このガーデンに必要なのは君達のような若者だ、こんな所で命を落とさないでくれ」
そう言うと知らせる者が手を出してくる。
俺はその手を取って握手を交わす。
「行ってくる」
「気をつけてくれ」
そうして俺達は先に進む。
空が見えないので時間の概念が無くなっている。
今が夜なのかどうなのかわからない。
だが全体を見て疲労が溜まってきたと感じたので休むことにする。
無用心ではあるのだが固まって休むのではなく少し離れて座る。
座るメンバーは、俺とマリオン、ガクとアーイ、ツネツギとルル、ナックとマリーの恋人同士で座る。
「カムカ、やっと神殿だね」
「ああ、ノースの城から随分と歩いたな」
多分、18日前後が過ぎたはずだ。
一度俺たちの家で休めた事、後は2人の神の使いの所で休めたのがデカいと思う。
おかげで疲労はそこまでではない。
「40日には全然間に合うね」
「ああ、カーイは身体が弱いからな、何とか早く助け出してやらないとな」
「そうだね」と言ったマリオンが「カムカ」と俺の名を呼んでキスをせがむ。
「おいおい、皆いるんだぜ?」
「大丈夫、みんなもしてるよ」
え?と思った俺はそれとなく周りを見る。
マリオンの言う通り、皆それぞれ…思い思いにパートナーとの時間を過ごしている。
「マリオン…よく気付いたな」
「私は普段から感覚強化の能力も付けていたからその部分が養われたの」
そう言うマリオンの今着ている鎧は軽装でアーイの鎧に近い。
アーティファクトが使えない以上、あの全身鎧は邪魔でしかない。
剣も普通のショートソードを持っている。
半年前のアーイとの訓練以降、マリオンは普通の剣を使う練習も積んでいた。
まるでこんな日が来る事を予見していたみたいだ。
そう思いながら俺はマリオンにキスをして抱きしめた。
「全部終わったら早く帰って沢山子供作ろうね」
「おいおい、照れるから」
赤くなる俺を見て「何で?」と聞いてくるマリオンに「そう言うのは2人きりの時に言うんだよ」と説明すると「ふーん、カムカは子供嫌い?」と聞かれた。
「いや、大好きだ。ましてや俺とマリオンの子供なら好き過ぎるくらいだ」
「嬉しい。私も子供が好き」
マリオンは自身が子供だったマリーの記憶と子猫とかを見ての感想で、今の子供が生まれないガーデンでマリオンとして人間の子供を見た事は無いはずだ、それでも子供が好きと言ってくれるのが俺も嬉しかった。
「なあマリオン、そう言えばさ…なんで剣の練習なんてしていたんだ?こんな日が来るのを知っていたのか?」
マリオンは「そんな訳ないよ」と言ってはにかむ。
「私は何がなんでもカムカに死んで欲しくないから守るの。もし家で襲われたら?いちいち鎧を着る?間に合わないよ。この先、悪魔熊とかが逆にアーティファクトが効かない身体になったら?そう思って剣を使い始めたの。今度アーイに勝ったら、師匠のお爺ちゃんから拳法を習って武器の効かない敵とも戦えるようになるね」
そんな事を考えていたのか…
俺の嫁さんはすげぇな。
「ありがとなマリオン。だが俺は死なないしお前は俺が守るから安心しろ。俺と俺の筋肉を信じろ」
「うん」
俺達はこの時間を大切に過ごす。
それはガクもツネツギもナックも同じだろう。
横を見るとマリオンはいつの間にか眠っていた。
俺はマリオンを抱きしめながら横になる。
マリオンの暖かさを感じながら眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
起きて少しした俺達は先に進む。
しばらく行くと、地上に上がるための階段が現れた。
「この先が…神殿…」
「そこにカーイが…」
「カムカ…」
「ああ、さっさと終わらせようぜ」
「今度こそ魔女を倒さないとな」
「ああ、あの顔はもう見飽きた」
「ナックくん…」
「大丈夫、マリーは俺が守るから」
皆、思い思いに階段の先を見ている。
俺の「行こうぜ」の声に皆が「おう!」と応えてくれる。
俺達が階段を上がると目の前に白い石造りの建物が現れた。
「これが…神殿」と言う俺にマリオンが「階段を探して上に行こう!」と言った。
俺達は神殿の中に入ると真ん中に階段が見える。
「あれだな!」と言って俺達はマリーの速度に合わせて走るとツネツギが「周りの部屋って何なんだろうな?」と疑問を口にして、ガクが「案外、当初の使い方なら戦争が無くなるまでここで暮らすから部屋とか風呂とかかもな」と答える。
風呂と聞いたツネツギが「風呂か!終わったら皆で入ってスッキリしたいな。ルルは皆より俺と入りたいか?」と聞くと横を走るルルが「バ…バカ者!何を言う!?」と驚いた声を出す。
ツネツギが不満げに「だって俺達は夫婦になったんだから風呂くらい別に…」と言うとルルが赤くなりながら「私はマリオンやアーイほどスタイルが…、ええぃ、何でもダメだ!」と言って夫婦風呂を否定する。
階段をしばらく登ると上の少し開けた場所に何かが見える。
それはビッグベアで、ガクとアーイが「ビッグベア?」「何でこんな所に…」と言って辟易とする。
俺が「魔女だろ?嫌になる念の入れようだ」と言って構えをとるとツネツギが「ダメだカムカ!」と言って俺を止める。
「ツネツギ?」
「多分全員で時間をかけたらダメな奴だ。魔女がカーイを連れて別の抜け道で地獄門を開けに行くかも知れない。ここは俺がやる。だからカムカ達は先に行け」
ツネツギの言う事も一理ある。
この発言にルルが必死の顔で「「勇者の腕輪」も使えないのにか?」と言ってツネツギを止めるとツネツギは「普通の剣と盾はアーイの所で貰ったから武器も防具もあるって」と返すがルルは「だがお前はこの中で一番弱いではないか?」と必死になって意見をする。
「俺が死ぬまでにアーティファクト・キャンセラーを停止してくれれば大丈夫だって、俺も何もビッグベアを倒そうだなんて思ってないって、ここで時間稼ぎをするだけだから」
ツネツギの言葉にルルは「だが、だが…」と言って遂に泣いてしまった。
実年齢は40代でもルルはルルなのだろう。
普段は不器用でもツネツギをいつも見ていて、こうして案じている。
「ああ、もう…泣くなよ」と言ってやれやれと頭をかいたツネツギはマリーの方を見て「マリーちゃん、そんな訳でよろしく頼むわ」と言う。マリーは「はい!」と元気良く返事をした。
「すまんね、急かしちゃって…、俺の嫁さんは案外泣き虫らしい」
「頑張ります!」
マリーは頑張ると言ってそれを聞いたツネツギはニコッと笑って「よろしく」と言う。
そしてまたルルを見る。
「そう言う訳だからルルも先に進んでマリーちゃんを助けてやってくれよ」
「死ぬ…、死んでしまうぞ?本当にそれで良いのか?」
「死なねぇって、ちょっと切りつけて怒らせたらひたすら逃げ回るって」
「だが、だが…、一撃でも貰ったら死ぬぞ?」
ルルはメソメソと泣いてツネツギの胸に顔を埋める。
ツネツギは少し困った顔をした後に「ああもう」と呟くと再びルルを見る。
目があったルルが「ツネツギ?」と声をかけるとツネツギは「じゃあ、俺が死ぬなら一緒に死ぬか?」と聞いた。
「え?」
「だから、ここで一緒にビッグベアの足止めするかって聞いてんだよ。
ルルはアーティファクトが使えなきゃただの運動不足のインドア女なんだから、俺が死ねばあっという間にお前も死ぬだろ?」
「それって…」
「だから俺が死なないように、ここでビッグベアに石の一つも投げて、それでも俺が死んだら一緒に死ぬかって聞いてんだよ」
ツネツギを見上げるルルは大粒の涙を溜めて「うん、死なせて」と言うとツネツギに抱きつく。
ルルに抱きつかれたままのツネツギは「悪い、皆…、俺達はここでビッグベアの足止めをする。マリーちゃん、さっきはルルも手伝うって言ったけどゴメン」と言ってマリーに謝るとマリーは「いえ、これが一番良い形です」と言ってツネツギ達に微笑む。
「よし、じゃあ進むか…。一番槍は俺とアーイが入れる」
ガクの申し出に俺が「ガク?」と聞き返し、ツネツギが「え?」と言っている。
ガクとアーイが「次はマリオンだな」「深く入れるな?抜けなくなるぞ」と指示を出すとマリオンが「わかってる。ガクとアーイこそツネツギ達が生き延びやすい所を狙ってよ?」と言って剣を構える。
ガクは俺を見て「そして最後はカムカ、力一杯吹っ飛ばせ」と言うので俺は「ああ」と返す。
「そしたら後はツネツギとルルに任せる。死ぬなよ」
ガクの言葉にツネツギが「皆…すまない」と言う。
頷いたガクが「ナックはマリーを守る事だけ考えろ。余計な攻撃はするな!」と指示を出してナックが「はい!」と返事をした。
全員が武器を構えると「準備はいいな?行くぞ!」と言ったガクの掛け声でビッグベアに向かって走り出す。
「アーイ!行け!」
「ああ!!」
アーイがこちらに気付いたビッグベアの右足を狙う。
走りながらの攻撃なので二回だけ斬りつけると次の階段に向かって走り抜けると「ガク!」と言い、
「任せろ!」と言ったガクはアーイの方を向いたビッグベアの左目と左腕を狙ってロングソードを振るうとそのまま走り抜けて「後は任せる!マリオン!!」と言う。
マリオンは「じゃ、ツネツギ、ルル…行くね」と言って一気に走り抜けるとガクを追おうとして背中を向けたビッグベアの右足に剣を突き立てて3回ほど連続で刺してから走り抜けながら「カムカ!!」と俺に声をかける。
「おう!」と応えた俺はマリーとナックを見て「俺がアイツを吹っ飛ばしたら声をかける。全速力で駆け抜けろ」と言うと2人は「「はい!」」と返事をした。
「じゃ、2人とも後は任せたぜ」
「ああ、ありがとな」
「すまんな」
「行くぜ熊公!唸れ筋肉!吼えろ筋肉!」
俺は足を引きずってマリオンを追うビッグベアの後ろから右足に向かって蹴りを打ち込む。
そして膝をついたところに正面に回り顔面に向かって殴りつけ「ウォオルァッ!」と言って力をこめるとビッグベアは見事に大の字に吹っ飛んだ。
「今だ!」
この声でマリーとナックは全速力で走り抜ける。
殿は俺がつく。
後ろからは「ルル、今のうちに石でも何でも集めろ!」と声が聞こえてくる。
「ツネツギはどうする?」
「俺は今のうちに左目と右足を使えなくするからよ、そうしたら少しは長生きできるだろ?」
後ろからこんな会話が聞こえてきた後、ビッグベアが起き上がって吠えたのだろう。
「グオオオォッ」と言う物凄く大きな声が聞こえてきた。
これは魔女の元にも届いたかも知れない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
階段を上り続けていると空気が変わってきた。
恐らく外が近いのだろう。
俺の「もうすぐ外みたいだな」の声に「ああ、そこに魔女とカーイが居る」とアーイが反応をする。
アーイはアーティファクト・キャンセラーの事も大事だが、その前にカーイの事もある。
光が見えてきた。
外だ。
外に出た俺たちの前に信じ難い光景が広がっていた。
広めの最上階を埋め尽くす勢いの奈落の魔物。
マリオンが「カムカ、これって!?」と言って慌てると「そう、奈落の魔物よ」と聞こえてきて声の先には魔女が居た。
魔女はカーイの腕を捻り上げながらこちらを見ている。
「あら、ビッグベアの声がしたから誰か来たと思って一応魔物達を配置したけど、早くない?そんなにすぐにビッグベアを倒せるかしら?」
魔女が疑問を口にする中、アーイが「カーイ!!」と呼んでカーイが「姉さん!」と呼び返すと魔女は「今、お話中でしょ?空気の読めない姉弟は黙っててくれるかしら?」と言ってカーイの腕を更に捻り上げる。
激痛に「グッ!」と言うカーイを見て「カーイ!?よせ!」とアーイが言うと魔女は「なら、お姫様も王子様も黙っていてくれる?」と言ってから「どうやってここまで来たの?」と聞いてきた。
俺が「三の村の山からだよ」と言うと「まあ、そうなるわよね。入口はあそこにしかないし、海は魔物ばかりで命がけだものね。折角毒竜を置いたのにサウスの坊やに倒されちゃったしね。毒竜を地獄門から出すのって案外手間なのよね」と言った魔女が「そう言えば途中に居た私達はどうしたの?」と更に聞いてくる。
「アイツらなら殺したよ」
「あらそう、やっぱりそうなるわよね。それにしてもアーティファクト・キャンセラーを使うとこっちも連絡が取れなくなるから嫌なのよね。とは言えあの2人は使いを騙す為に半分人間に近づけてあったから連絡も向こうからしか出来ない状態だったのよね。斬ってみた?血とか出たでしょ?」
魔女の言葉でなんとなくだが合点がいった俺は「俺からもいいか?」と聞くと魔女が「あらなに?せっかく会えたからいいわよ」と言って「ふふふ」と笑いながら俺を見る。
「お前は与える者か?知らせる者か?授ける者か?それ以外なのか?」
俺は6人居ると考えた時からその事が気になっていた。
俺の問いに魔女が「ああ、そこに気付いたのね。中々ね筋肉さん。私はね…全部よ」と答える。
「全部?」
「正しくは全員が全部よ。あの男の神の使い達は多分神が必要以上の力を持たないように、6人に世界を見る為に必要な能力、世界を記録する為に必要な能力、世界に祝福と試練を与える為に必要な能力、アーティファクトを授ける為に必要な能力、神に知らせる為に必要な能力、そして勇者や人々を導く為に必要な能力を一つずつ授けたのよ。
でもね、私達の神様は違うの、神様はこの6つの能力を6人の私達に下さったわ。だから一人の私はサウスに「龍の顎」を授けたし、私もイーストに「創世の光」を授けた。やり方に意見もあるでしょうけど、ノースで戦争に導きもしたわ」
1人が全部の能力を持っていて、それが6人も居ただなんて、それはこちらに分が悪い。
「じゃあ、全部が同じ人間なのか?」
「ええ、そうね。意識もある程度共有しているから、私自身は貴方に会うのは初めてでもイーストで会った事もウエストで会った事も知っているわ」
ここで一つの事が気になった。
何でこの魔女は落ち着き払っている?
何があると言うのだ?
「…もう少し聞きたい」と言う俺を見て「何?時間稼ぎ?アハハハ、意味ないわよ」と魔女が言う。
俺が「時間稼ぎ?何だそれは?」と聞くと魔女は「あら、違うの?じゃあそれは最後に話してあげる。先に質問をしなさいよ」と言ってきた。
「この魔物はどうした?「地獄の門」も使えないはずだ」
「ああ、これ?これはね、私が何年も何年も地獄門の隙間から連れてきた子達よ。隙間は小さいからこのくらいの魔物なら結構楽に連れてこられるの。でもね毒竜とかになると大変で、あのサウスに飛ばした毒竜も何年もかかってようやく連れてきたのに倒されちゃった」
それで奈落の外でも活動をしているのか、コイツらは本物の魔界の魔物たち。
奈落で見たキノコの魔物、蟷螂の魔物、スライム、それにゴブリンとか言ったか?凶暴な小人みたいな魔物も居た。
「あと一つ、何でそんなに落ち着き払っている?」
「アハハハ、別にあなた達くらいじゃ驚きもしないし、今はアーティファクトも使えないじゃない。そこの人形の子も普通の剣に普通の鎧。恐れる事もないわ。そうね、それに後は…私が言った時間稼ぎの話に繋がるわね」
さっきから言っている時間稼ぎとは何だ?
「時間稼ぎって何だか気になるでしょ?簡単よ、知らせる者が神に通知を出したでしょ?だからアンタ達は時間を稼いで神が来れば事態が解決すると思っているの。でも駄目よ。神は来ないわ」
!!?
何だと?神が来ない?
それはどういう事だ?
驚きが顔に出ていたのだろう。魔女が「あら、驚いた?」と言って笑うと「私もね神の使いなのよ。私は私の神様に連絡を取ったのよ。「アーティファクト・キャンセラーを発動させました。これでガーデンは滅茶苦茶になります。更に地獄門を開けて魔界と繋げます」ってね。でもあれから何日経ったと思う?明日で20日よ。でも神様からは何の言葉もないわ。だからね、私達はもう神に見放されているのよ。もう神は来ない。あなた達人間は滅ぶしかないの」と言った。
…それが本当だとしたら神は来ない?
…だが俺は言うほどショックではなかった。
「元々俺達は神様なんて期待していないんだよ。だから待たずにここに居るんだ」
「あらそう、じゃあこれからどうするの?そこの疑似アーティファクトをファーストアーティファクトにしてしまった子で試してみるの?それで私も倒すの?バカな王子様も助けるの?」
そう言った魔女が「アハハハ、無理よそんなの」と言って顔を歪ませた。
「やってみなきゃわかんないだろ?」
「まあ、いいわ。私と王子様はこのアーティファクト・キャンセラーの前で待っててあげる。今は魔界の子達を頑張って退けなさいよ」
そう言うと、魔女が空いた手を俺達に向けて魔物たちに「お前達、あの人間を殺してしまいなさい!!」と言った。
俺は「みんな、行くぞ!」と言って前に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます