救国の勇者-最後の戦い。
第84話 アーティファクト・キャンセラー。
アーティファクトが無いのでやや苦戦をする。
奈落で見た時はスライムを俺は火で焼いてしまっていたのだが、今は火が無いので全部を蹴り上げて無防備になった所をマリオンに斬り刻んでもらっている。
魔女は意外そうに「へぇ、結構やるじゃない!スライムとキノコはもう残り僅かになっちゃった。凄いのは、最終王子と剣姫の所ね。あの2人は蟷螂と斬り合っているわ」と言っていて、確かに目線の端で見かける二人は二刀流で蟷螂と斬り合いをしている。
暫くすると、スライムと蟷螂が居なくなっていて、俺はゴブリンの頭を奈落でしたように握りつぶしている。
「小さくて狙いにくいぞ」と言ってガクが多少苦戦をしているが問題はないと思う。
ナックは「俺だって!やれるんだ!!」と言ってマリーの傍に来た魔物だけをアーティファクトの力を失った「大地の槍斧」で倒している。
全体の6割を倒したころだろうか魔女が動き出した。
俺は「まあ、そうくるよな」と言って魔女を見る。
「まあね。このまま待ってから戦ってもいいんだけど5対1は不利だもの。それに手にこの王子まで持っていたら盾にはなるかもしれないけど邪魔でしかないわ。あ、だからって人質を取るような真似はしないわよ。しなくても今は勝てるしね」
俺もそんな気はしていた。
この女、負けないように今みたいに途中で割り込んできたりはするが、最初から人質を取るような真似はしない。
「じゃあ、何をする気だ?」と聞く俺に魔女が「アハハハ、こうするのよ。あ、下手に動かないでね。動いたら流石に王子様は殺すわよ。別に生贄はノースの城に行けば王様もザンネも居るんだからね」と言うと、カーイを持ち上げて最上階の端へと進む。
「何をする!?」
「別に神殿から落として殺そうなんてしないわよ。最後には生贄にするんですから」
生贄にするから殺さない…確かにそうだ。
では何をするんだ?
魔女が「剣姫、こっちに来て一緒に下を見てみる?」と言ってアーイを誘い、「何?下だと?」と聞き返したアーイが魔女の後をついて行って下を見ると「!!?何だこれは!!?」と声を荒げた。
魔女は楽しそうに「伏兵よ伏兵」と言って笑う。
伏兵?何が居るんだ?
俺が「アーイ!何がある!?」と聞くとアーイが「…最上階の端はそのまま地上に落ちる形ではなく、建物で言う1階分下にバルコニーのようなものがある……。そのバルコニーにそこの小さな魔物、ゴブリンが所狭しと居る」と答えてくれた。
魔女は「はい!良く言えました!あのね、5対1は不利じゃない?だからこうするのよ」と言うとカーイを階下に突き落とす。
カーイの「わぁぁぁぁっ」という悲鳴とどさっと言う音の後でゴブリンのキィキィと鳴く声が聞こえ、魔女は「まだだめよ、待てよ」と階下に向けて言っている。
「アハハハ、わかるかしら?私は今から下のゴブリン達に「その人間を好きにしていいわ」と指示をするの、そうしたら王子様はどうなっちゃうかしらね?」
「何…くそっ!」
アーイの顔色が一気に悪くなる。
「そう、そうしたら弟想いのお姉さんは飛び込むしかないわね。そうすると、今度は奥さん想いの旦那様が見て居られなくて飛び込むわよね。ハイ、これで3対1に早変わり。そして私は身軽になったから今度は戦えるわ!3対1って言っても一の村の子は彼女が心配で来ているだけだから戦力外」
魔女は嬉しそうに「ゴブリンとキノコから彼女を守りながら私と戦うのって大変ね」と言った。
くそっ、それは少々厄介だ。
だが魔女は待つことなく「じゃあ、始めましょう。みんなー、やっちゃいなさい!!」と言った。
魔女の声に階下のゴブリン達がキィキィと嬉しそうな声を上げ、すぐにカーイの悲鳴が聞こえてくる。アーイがガクを見て「ガク!」と呼びかけるとガクが「ああ、行くぞアーイ!!カムカ済まない!!」と言った。
俺が「いいから行け!!」と言っている所でナックはマリーに近寄ってきたキノコを「マリーに近寄るな!!」と言って槍斧で突き殺していた。
「カムカ!」
「俺が魔女を止める。マリオンはマリーとナックを援護してアーティファクト・キャンセラーに行ってくれ!」
マリオンは「うん!」と言ってナックの前のゴブリンを斬り飛ばすと「ナック、マリーの後ろを守って、マリーは私の後についてきて!」と指示を出した。
魔女が「アハハハ、行かせないわ」と言って大ぶりの剣を構えてマリーを目指す。
俺は「行かせるかよ!!」と言って魔女に向かって跳び蹴りを放ちながら道を塞ぐ。
「あらあら、この剣の前に素手で躍り出てくるなんて無謀な筋肉さんね」
「言ってろ、剣との戦い方も師匠から教わっているんだよ!!」
俺は引くことなく拳を振り上げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この魔女は強い。
俺の拳が当たらない。
魔女は「アハハハ、私って強いでしょ?まあそれには二つの理由があるんだけどね」と言って大ぶりの剣で俺に斬りかかってくる。
中々鋭い攻撃にカウンターを入れる余裕がない俺は思わず「くっ」と声を漏らす。
魔女は「一つ、貴方の拳はイーストで見たから対応済みなのよ、私。アハハハ」と言いながら更に斬りかかってくる。
止まったら斬られる。
守りに入っても斬られる。
俺は動きが止まらないように、そして攻めを諦めないでいると「もう一つ、私以外の5人が死んだ今、全ての力が私の元に集まっているの。だから今の私は強いわよ」と言いながら魔女の剣が更に速くなる。
ギリギリ対処出来た俺に魔女は「あら、これもかわすのね。凄いじゃない」と言いながら俺に向かって何回も斬りこんでくる。
そう長くはかわせない。
直感でそうわかる。
あんまり情けない事は言いたくないが、マリオン達はどうなった?
魔女の攻撃をかわしながら何とか姿を追う。
マリオン達は向かってきたゴブリンを殆ど倒していて、あと少しでアーティファクト・キャンセラーの所に行くと言う所だ。
これでアーティファクトが使えるようになればまだ何とかなる気がする。
それは階下で戦うガクとアーイの事もあるが、「勇者の腕輪」を装備したツネツギと「創世の光」を持つルルが居てくれれば何とかなるからだ。
だが、一つの不安が俺を襲う。
魔女もこの状況下でマリオン達の動きは見ているはずだ、なんで邪魔をしに行かない?
アーティファクトが使えるようになれば困るのは魔女だ…何故だ?
俺を見て「あら?集中しないと死んじゃうわよ。あっちはもうすぐアーティファクト・キャンセラーの元に到着するわよ」と魔女が言う。
「そりゃあ、ご親切にどうも」
「アハハハ、じゃあ、ちょっと休憩しましょ?あの子たちが無事にアーティファクト・キャンセラーを停止できるかここで見守りましょう」
突然魔女はそう言うと手を止めた。
くそ、忌々しいが息が上がりつつあった俺には嬉しい提案だ。
マリオンが最後のゴブリンを切り伏せて、ナックは背後から来たキノコを串刺しにして「これで全部だ!」と言った。
マリオンが「マリー!」と言うとマリーが「うん、マリオン、私やってみる!!」と言ってアーティファクト・キャンセラーに手を置く。
「お願い…。【アーティファクト】!」
バチッ!という激しい音に光、「きゃっ!」と言って吹き飛ぶマリー。
「マリー!!」と名を呼びながらナックとマリオンがマリーに駆け寄る。
その姿を見て魔女が「アハハハ、やっぱり駄目だったわね。そうだと思ったのよ」と言って高笑いをする。
「やっぱり?」
「ええ、そうよ。あなた達はアーティファクト・キャンセラーが発動してから「授ける者」には会ったのかしら?会ってないでしょ?会っていたらきっと止められていたわ」
「…何?」
「アハハハ、私も授ける者だからファーストアーティファクトかどうかはその人間を見ればわかるのよ。だから初めからその娘は失敗するってわかっていたの」
…この魔女は何を言っているんだ?
俺達の苦労が失敗するってわかっていて遊んでいたと言うのか…
それよりもこの状況だ。
師匠から聞いていた状況になった。
このままでは、俺達は魔女に殺されて全滅だ。
そうしたらカーイかノース王、それにザンネの命で地獄門を開かれてこの世界は終わってしまう。
師匠から聞いたあの方法をやるしかない。
俺は一瞬躊躇をしてマリオンを見る。
マリオンは泣きそうな顔でマリーを見た後、心配そうに俺を見る。
マリオンを、俺の女を守るためだ…覚悟を決めよう。
俺が「マリオン!!交代してくれ!!俺がこの状況を打開する!!」と言うとマリオンは「カムカ!?」と聞き返してくる。
「ナックはマリーを守って端に居ろ。もし追加で魔物が来たら何が何でもマリーを守れ!!」
「ハイ!わかりました!!」
「マリー、お疲れさん!!後は俺が何とかする!!」
「ハイ…ごめんなさい」
泣き顔はマリオンに似てるな。
あの顔は見たくない顔だ。
俺が全部やるしかない!!
俺は前に出ながら「やるぞマリオン!!」と声をかける。
背後から魔女の「あら、まだ何かするの?頑張るわね」という呆れ声が聞こえたが知るか、ほえ面かかせてやる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
師匠から万一の時の方法として、打撃によるアーティファクト・キャンセラーの直接破壊の仕方を託された。
この方法には世界の危機と比べたら若干の問題があるが、今はそれしかない。
とにかくこの状況を打開する。
後の事は後の事。皆に任せる。
俺は走ってアーティファクト・キャンセラーの元に向かう。
途中でマリオンとすれ違う時に見えたその横顔がたまらなく愛おしかった。
俺は昨日の寝る前を思い出していた。
あの温もりが俺に力をくれる。
「唸れ筋肉!!」
その掛け声で俺は力を増す。
これは師匠から教わった攻撃法の一つ。
声を出して掛け声で自分を鼓舞して攻撃を成功させる。
俺はアーティファクト・キャンセラーを全力で殴る。
硬い!たった一発なのに腕がおかしくなりそうだ。
だが止まらない。
止まれない。
止まる訳に行かない。
「吼えろ筋肉!!」
続けて殴る、二発、三発、四発、いつの間にかドフさんに作って貰った手甲は割れていて、中から生身の拳が出てくる。
後ろから魔女の「あの筋肉の子、まさか打撃でアーティファクト・キャンセラーを破壊するつもり!?無理よ出来っこないわ!」と言う声がした。
無理なんて決めているんじゃねぇ!
俺は師匠を信じる。
俺自身を信じる。
筋肉を信じる。
マリオンの為ならやれる!!
マリオンの「私のカムカはやる。カムカならやれる」という声がして剣と剣がぶつかり合う音がする。マリオンが魔女を足止めしてくれている。
俺は「ありがとうよ!マリオン!!」と言って更に力を籠める。
痛みに怯えた自分を叱りつける。
痛みに怯えるな。
あのマリオンの笑顔が曇る事を怯えろ!!
八発、九発、十発!!
アーティファクト・キャンセラーは俺の血で真っ赤になっていた。
だが今聞こえた。
確かにアーティファクト・キャンセラーに「ピシッ」というヒビの入る音がした。
師匠は間違っていなかった。
俺がこのまま殴ればアーティファクト・キャンセラーは破壊できる。
魔女の「嘘でしょ!?」と驚く声。
ザマアミロと思っていると「ほら、私の旦那様は凄いんだ」という嬉しそうなマリオンの声が聞こえてくる。
魔女が「させない!!」と言って俺を止めようと迫るが「カムカの邪魔はしないで」と言ってマリオンが魔女の邪魔をする。
俺はその間もアーティファクト・キャンセラーを殴り続けている。
手の感覚はもうない。
俺はこの時になってひとつの事に気付いた。
俺はそれをマリオンに伝えたくて「わかったぞ!師匠が何で俺に筋肉をつけさせたのか!何でA級のアーティファクトしか授かれなかった俺を勇者に選んだのか!」と言った。
「カムカ!?」
「きっと今日の日の為だ、世界中からアーティファクトが消えた今、キヨロスは弱くなった。それはアイツがアーティファクトに頼りきりだったからだ。だが俺は違う、師匠に会ってからずっと筋肉とこの拳で戦ってきた。だから今もこうして世界の為に戦えている!!」
マリオンが「うん、そうだね!!」と言って俺の声に答えてくれている。
もう、目の前のアーティファクト・キャンセラーはヒビだらけであと少しで破壊が出来る。
その時になって魔女が「人形のお嬢ちゃん!どきなさい!貴女の旦那様が死ぬわよ!」と言いマリオンが「死ぬ?」と動揺をする。
ちっ、あの魔女知っている!!?
魔女の声が聞こえてくる。
「そうよ、筋肉さんも知らなきゃ教えてあげる。アーティファクト・キャンセラーは仮に破壊が出来た場合、破壊した瞬間に衝撃波が発生するの、その範囲こそ狭いけど威力はあの悪魔化した国王の攻撃の比じゃないわ!貴方死ぬのよ!!」
この発言にマリオンが涙声で「カムカ!!」と俺に呼びかけてくる。
くそっ…
俺は覚悟を決めて「マリオン!俺は知っていた!」と告げる。
「マリーがダメだった時にもしもの方法として師匠から破壊の仕方を聞いていた。決まった角度で休まずに連続して拳を打ち込むことで破壊できる事を聞いていた。そして破壊出来た時に衝撃波で俺自身が死ぬことも聞いて居た!!」
俺の言葉にマリオンが取り乱して「いやぁっ!やめて!カムカやめて!!」と叫んでいる。
剣の音が聞こえない所を見ると魔女は多分ニヤついて俺達を見ている。
この先にマリオンが取る行動、魔女が取る行動は何となく想像がつく。
アーティファクト・キャンセラーのヒビは限界まで広がっていて、後数発で破壊が可能だ。
魔女が親切心を見せるように「ほら、止めないと旦那様が死ぬわよ」と言うと「いやぁぁっ!!カムカ!!」と聞こえてくる。
まずい、思った通りマリオンがこっちにくる。
「ナック!マリオンを止めろ!!」と言うとナックが慌てて動き出すが、「邪魔しないでナック!!」という声と共にマリオンに一蹴されてしまう。
俺の横に来たマリオンが「カムカ、やめて!!死なないで!!」と言って俺に縋る。
俺はマリオンを見ながら「マリオン、俺は覚悟が出来ている。もう決めたんだ!ごめんな」と言うとマリオンは泣きじゃくって「いやっ!子供の話は?二の村の話は?」と叫んでいる。
「俺はツネツギみたいな事は言えない。言えるのは、マリオン…俺の居ない世界で幸せになってくれ!!」
その声に合わせて俺はマリオンをマリーの方へ突き飛ばすと最後の一撃の為に「うぉぉぉぉっ!!」と叫びながら力をこめる。
「カムカ駄目!!」と聞こえてきたが「俺の筋肉!最後までありがとうよ!!最後の一撃だ!全力で行こうぜ!!!」と言った俺の一撃でアーティファクト・キャンセラーは粉々に砕けた。
キィンという音の後、物凄い衝撃波が俺を襲った。
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