南の「時のタマゴ」-四の村への旅路。

第22話 四の村への道のりとカムカの加入。

村の入り口に着いたとき、二の村の方角から「うおぉぉぉっ」と言う叫び声と共に何かが走ってきた。


走っている何かは僕達に気づくと「ちょっと待ったー!」と声をかけてきた。

確実に挨拶して終わりにはならない気配がする。


ああ、放っておいて旅に出たい。


走ってきた何かは背の高い筋肉質の男だった。


筋肉質の男は僕達を手で止めて「あなた達は村を放棄するつもりだな?だがそんな必要は無い!悪しき毒竜なんかはこの俺が筋肉の力で今すぐに退治してきてやる!」と言う。


…???

何だろう、この熱量は…


フィルさんが対応に困った顔で「あの…」と筋肉男に声をかけると筋肉男は最後まで話を聞かないで「ご安心を、美しいお嬢さん!何、毒竜なんて俺の筋肉でイチコロです!」と言う。


「いえ、毒竜は…」

「ええ、聞き及んでますよ!毒竜はとても危険な魔物で三の村がもう大変な事になっているんですよね!でも大丈夫!俺と筋肉が全てをスピード解決です!!」


困ったフィルさんが泣きそうになって「え?」「違う」と言っているとガミガミ爺さんが「黙れ小童!」と言って筋肉男の頭を「混沌の槌」で叩いた。


「痛い!?何をするんですか?」

「話を聞け!話を!!毒竜はここに居る小僧が一昨日退治した。俺達は村を棄てるんじゃない。四の村まで行く所だ」


ガミガミ爺さんが僕をさして説明をすると筋肉男は「え?そんな…こんな子供が毒竜を?」と言って驚いている。


「倒せたんだよ。小僧の鎧を見てみろ」

「紫色の鱗でできた鎧…紫色…紫…毒竜…」


筋肉男は僕の紫色の鎧を見て愕然とした後で「こんな子供が毒竜を…そんなぁ〜」と言って肩を落としてガッカリしている。


「故郷の二の村は10年ぶりに帰ってみれば壊滅しているし、情報欲しさに三の村を目指せば山で変な男達が現れるし、色々聞きたくて話しかけたら襲いかかってきて、仕方が無いから筋肉でねじ伏せる事になるし。それでようやく聞き出したら二の村は兵士に襲われていて、三の村は毒竜に滅ぼされそうって言うから三の村を助けようと思って来てみればこれかよ…」


落ち込む筋肉男にジチさんが「まあ、そう言う時もあるよ。気を落とさずに頑張りなよ!」と励ます。


筋肉男は救われた表情でジチさんを見て「どうも…」と言った後で「ん?」と言うと「その赤い髪に整った顔立ち。あなたはボス!?俺がねじ伏せた男達からボスをよろしく頼むと言われました!」と言う。


やっぱり襲いかかってきた連中はジチさんの子分達だったか。

子分達が筋肉男によろしく頼んでいた事を聞いて「ああ、そうかい。それはありがとうね」と言うと僕をさして「でも、よろしく言われても毒竜もクマもイノシシも全部このキヨロスくんがよろしくしてくれたから平気だよ」と言う。


筋肉男は僕を見て「またこの子供…、そうか君が男達の言っていた無血戦闘の悪魔…」と言う。


なんだその二つ名は…


その間も筋肉男は「そう考えればこの結果にも納得がいく」と1人でブツブツとうるさい。

僕は正直構っていられないので「じゃあ、そう言う事で。僕達先を急ぎますんで…」と言って背を向けたのだが「待ってくれ!」と言って筋肉男が僕達の前に立つ。


「今この国はどうなっているんだ?どうして二の村は滅ぼされなければならなかったんだ?知っている事は教えてくれ!」

確かに何も知らないのは辛いだろう。

だが、僕は時間が惜しい。


その気持ちを察したガミガミ爺さんが「今日は急がなきゃならねえんだ。歩きながら話してやるから、それでいいならついて来な」と筋肉男に言うと「是非!」と言いながら筋肉男はついて来た…。



四の村に向けて街道を歩く。

ガミガミ爺さんの説明だと日暮れまでに四の村に着かない場合には三の村と四の村の間辺りで野宿をする必要が出てくるらしい。

幸い、村と村の間辺りには温泉も湧いているので野宿もそう悪いものではないと言う。


筋肉男の名前は「カムカ」で25歳。

授かったアーティファクトがA級の「炎の腕輪」で、僕が持つ「火の指輪」の上位アーティファクトになる。

フィルさんの両親と同じ流行り病で早くに両親を亡くし、天涯孤独の身になった彼は成人の儀まで育ててくれた村への恩返しを決めて修行の旅に出かけた。

途中、師匠と呼ぶべき存在に出会い、そのまま10年間程二の村側の山からイーストへの国境近くの山をウロウロしながら修行に明け暮れていた。

そして10年になる今、師匠のお許しを得て下山。

村に帰ると村はまさかの壊滅状態。

情報に乏しそうな一の村ではなく三の村を目指した所、途中で10人組の怪しい連中(ジチさんの子分)を見つけたので二の村の事を聞いたのだがよくわからない事を言いながら襲いかかってきたので筋肉でねじ伏せて事情を詳しく聞くと、10人はアーティファクトを国から奪われて命からがら逃げ出してきたし、三の村は三の村で毒竜の毒霧で壊滅寸前。

とりあえず10人はボスが安住の地を求めて旅だったので帰りを待つと言うので放置。

壊滅寸前の三の村は筋肉で助けに行くしかないと言う事で来てみたが若造の僕に救われていて当面の目標を失ったと言う事だった。

ああ、10人から「もし三の村で髪の毛が赤い目鼻立ちの整った綺麗な女の人が居たらボスだから力になって欲しい」と言われたそうだ。


こちら側は僕の現状に始まり、ジチさんの現状、それにガミガミ爺さんとフィルさんの現状を話した。


カムカは「大体わかった。今の目的地は四の村で、ドフさんはそこに用事があって、フィルさんはその付き添い。ボスさんは新天地探しの一環。そしてキヨロスは何があるか分からないけど、一の村が人質に取られてるから行かなきゃなんないと」と言った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ガミガミ爺さんの説明に「大体わかった」と言ったカムカは「よし!俺も行く!」と言う。

何となくそんな気がしていたので別に驚きはしなかった。


だがジチさんが「え〜、キヨロスくんはいいの?」と言って僕に確認をしてきた。

確かに大所帯は無駄な足止めを食うこともあるので歓迎出来たものではないが、今は立ち止まりたくはない。


「日暮れまでに四の村に着かないといけないのにここで立ち止まるのは得策ではないので…」と言うとジチさんは「そう言うことね。お姉さんは納得」と言う。


話がまとまったのでそれではと先に進む。

健脚の僕とジチさん2人のペースは早かったのだが、どうしてもフィルさんとガミガミ爺さんのペースが遅い。


カムカはずっと修行の身だったからか、人との触れ合いに飢えていてずっとアレコレみんなに話しかけている。



…そんなカムカを見ていて僕は1つ気になった。

「カムカさん」

「カムカでいいぜ」


カムカはニカっと笑って力こぶを見せてくる。


「ではカムカ、修行中の衣食住ってどうしていたの?」

「んあ?ああ、住むところは師匠が見つけてくれた洞窟の中で、飯はランニングの修行中に師匠が用意してくれていたな」


「服は?10年前からその身体なの?」

「バカ言えよ、元々は細身の身体だったよ。師匠との修行の中でどんどん筋肉が付いてきて、今やこんな素晴らしい身体になったんだぜ!」


カムカは今度両腕で力こぶを見せてくる。


「え?服は?」

「ああ、服も小さくなってきたなとか、汚れたな、破れてきたなって思うと、ランニングの修行中に師匠が用意してくれていたな」


…怪しいと思わないのか?


僕は「その師匠って何者?」と聞くとカムカは「俺も知らねえ!」とハキハキと答えるとフィルさんが思わず「え?そんな人のところに10年もいたの?」と口を挟んできた。


「いや、俺だって何回か師匠に聞いたんだぜ?でも何べん聞いても「全ての真実は筋肉と共に」とか「俺の肉体が完成したら教える」ってそればかり言っているんだよ」

それで済ますカムカのおおらかさが凄いなと思った。


ここでジチさんが「あれ?そう言えばアンタお姉さんと同い年かい?」と聞くとカムカはジチさんを見て「25か!」と言う。


ジチさんは「あらー、お姉さんも同い年と旅かぁ」と言うと日頃の仕返しと言わん顔でフィルさんが「新カップルかしら?」と言ってジチさんを冷やかすのだがジチさんはかなり手馴れたもので「やめておくれよ、お姉さんはもう少し物静かで常識的な男が好みだよ」と言ってフィルさんを軽くあしらってしまった。



しばらく歩くと昼時になる。

僕達は木陰で休みながら昼食にする。

昼食は前日にジチさんが仕込んでおいてくれたパンとオカズだった。


カムカは一口食べて「師匠の味に近い」と喜んでジチさんにありがとうと言っている。

ガミガミ爺さんはいい加減うんざりしていて「ああもう、うるせえなぁ」と肩を落としている。


食休みの時、ジチさんが「それにしても今日は少しだけ涼しいねぇ。風が冷たい気がするよ」と言った声にガミガミ爺さんが「涼しい?風が冷たい?マズい!急ぐぞ!!」と反応し歩き始めた。


僕は急な変化が気になって「どうしたのガミガミ爺さん?」と聞くとガミガミ爺さんは憎々しい顔で「雨だよ。雨がくる」と言った。


その横でカムカが「雨がどうしたんですか?俺なんて雨の日は風呂がわりって喜んじゃいますよ」とバカみたいな事を言うとガミガミ爺さんが「バカヤロウ!四の村の付近に近寄れなくなるのはなにも日暮れだけじゃねえ、太陽が隠れる事が問題なんだよ!」と言うとフィルさんとガミガミ爺さんは歩くペースを上げる。


僕とジチさんは問題なく付いて行く。

今はこのペースアップの内容が気になって「フィルさん、何が問題なの?」と聞くとフィルさんが困り顔で「この2年、四の村の周りには太陽の光が届かない時間だけ亡霊騎士が現れると言われているの」と教えてくれた。


僕が「亡霊騎士?」と聞き返すと「私も見た事は無いけど、何人も犠牲になったと聞くし、噂を聞いて若者達が興味本位で近寄らないように大人たちが秘密にしているわ」と説明をしてくれた。


「2年も?」

「ええ、多分お城の人たちは三の村と同じで後回しにしているんだと思う」

それか…それの退治に僕が使われたのだろう。

僕はフードの男の考えを知っていいように使ってくれるなと憎く思っていた。



しばらく進むと、前方から土埃が巻き上がってきた。

よく見ると高速イノシシだ。


ジチさんは「また出た!キヨロスくん、この前みたいにやっちゃっておくれよ」と言うと僕の後ろに隠れる。


フィルさんが兜を被りながら「ジチ!こっちに!」と言ってジチさんとガミガミ爺さんを自分の後ろに下げてムラサキさんを構えている。


戦闘力のないジチさんとガミガミ爺さんがフィルさんの後ろに言ってくれれば僕は高速イノシシに集中できる。僕はフィルさんに感謝をしながら「兵士の剣」を抜いて構えた。



…ん?

なんと高速イノシシは一匹ではなくて三匹いた。


罠の無い状況で三匹同時に倒すのは難しい。

一瞬どうするかと思っているとカムカが「よっしゃ!一匹は俺がやる」と張り切って前に出てきた。


僕がカムカを見て「やれるの?」と聞くと「誰にものを言っているんだよ!この筋肉を見ろ!」と言うとカムカは腰を落として構えを取る。


僕も一匹に向かいながら「フィルさん、ごめん一匹はそっちに行ったら受け止めて」と言うとフィルさんは「ええ!任せて!」と言ってくれた。



段々と近づいてきた高速イノシシは三匹横並びと言うわけではなく、僕の前を走る高速イノシシが一番先頭で次がフィルさん、最後がカムカの前だった。


初めはかわす事も考えたが、何処で何に当たって方向転換をして三の村に行くかもわからない。

高速イノシシが家屋に当たれば木の家は簡単に壊れる。

一の村は周りが森なので殆ど高速イノシシの被害は出ないが、開けた場所にある三の村はどうなるかわからない。


フィルさんもそのことを理解しているから回避ではなく待ち構えてくれている。



僕の前に来た高速イノシシめがけて剣を振るう。

前回と同じように「【アーティファクト】!」と唱えながら高速イノシシに剣を突き立てる。

一撃で高速イノシシを仕留めるとカムカが「流石!!やるじゃねえか!次はフィルさんだな」と言いながらフィルさんを見る。


フィルさんは「任せて!【アーティファクト】!」と言って高速イノシシの突撃を受け止めた。


「ガコン!」と言う音がしたが、フィルさんはあの細身の体で後ずさる事もなく高速イノシシの突撃を受け止める。これがムラサキさんの盾としての能力なのだろう。

フィルさんに「キヨロスくん、お願い!!」と言われた僕はフィルさんの所に駆け寄って高速イノシシの首に剣を突き立てる。


「ありがとう。集中していないと押し負けてしまいそうだったの」

「どういたしまして」


このやり取りを見ていたカムカは「よっしゃ!じゃあ今度は俺の番だな!」と言うと「行くぜ!筋肉!!」と叫ぶ。


これで見掛け倒しならカムカは見捨てて行こうと僕は思っていた。

だがカムカが「【アーティファクト】!」と唱えると右腕の「炎の腕輪」が発動して、カムカの右腕が炎に包まれた。


そしてそのまま高速イノシシの顔面めがけて真っ直ぐに殴ると「バゴン!!」と言う音が辺りに響き、そのまま崩れ落ちる顔面の焦げた高速イノシシ。


カムカは見掛け倒しではなかった。

そのカムカは「筋肉万歳!!」と言いながら勝利のポーズを取っている。


だが、ある種の問題が発生した。

まだ先は長いのに高速イノシシが三匹も手に入ってしまった。

しかも四の村がある方角から来たと思われる高速イノシシは身体が濡れていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



四の村がある方角から来たと思われる高速イノシシは身体が濡れていたことでガミガミ爺さんは「やはりあの雲は雨雲か…太陽が隠れているかもな…」と悔しそうにつぶやくと「小僧、目的地変更だ。今日は温泉の周辺で一日休む」と言う。


これで温泉の辺りで一晩を過ごす事になった。

幸い雨雲は四の村付近のみでこちら側に来る気配はない。


ジチさんが温泉を見たいと言うので温泉周辺ではなく結局温泉まで行く事になり、高速イノシシは一匹を僕が、二匹をカムカが持っている。


二匹を担ぐカムカに「ようやく役立ったな」とガミガミ爺さんが言うと「ウッス!筋肉大活躍です」と返事していた。


温泉は建物の作りは安いが家になっていて安心して入れる物だった。

そのままフィルさんとジチさんは温泉に入る事になった。


「絶対に男どもは覗きに来ない事!」

ジチさんは昨日と大違いな事を言って温泉に入って行った。


カムカが居るからかな?


ガミガミ爺さんは昨日あまり寝ていないそうなので仮眠をとると言って寝てしまったので、僕は夕飯のために一匹の高速イノシシを解体してしまう事にした。


カムカは落ち着かない様子でソワソワしている。

放っておくのも編なので「どうしたの?」と聞くと「いや、10年間も女の人から離れてたから、あんな美人が風呂に入るって考えたら居ても立っても居られなくなってよぉ」と言ってソワソワしている。



「…やめた方がいいよ」

「へ?」


「「混沌の槌」で殴打」

「え?」


「「紫水晶の盾」で殴打」

「お…」


「後はビンタ」

「おい…」


「正座させられてガミガミ爺さんから2回。フィルさんに3回。ジチさんに5回」

「え?え?本当か?キヨロス跳んだのか?」


僕は跳んで居ないが、ナックの時と同じ言葉でやり過ごしてみた。

それにしても跳ぶ事が出来るとは言ったけど、言っただけで実際に見せたわけではない。それなのにここまで信用されるとは思わなかった。


効果は絶大だったようで「走りこんで来る」と言ってカムカは走って行ってしまった。


周りに人が居なくなるとトキタマが近づいてきて「お父さん、試してあげればいいのにー。それでダメなら跳んであげればいいのにー」と言う。

僕が「お風呂を覗くのはダメなんだよ」と言うとトキタマは「ちぇー」と言って不貞腐れた。


しばらくするとガミガミ爺さんが目を覚まして周りを見てカムカが居ない事に気付くと「あの小童は?」と聞く。


僕は何てことなく「お風呂覗かせなかったら走りに行ったよ」と言うとガミガミ爺さんは「仕方ねえなあ…」と呆れながら言って笑っている。


しばらくするとジチさん達が風呂から出てきた。

フィルさんとジチさんもカムカが異なことに気付くと「あれ?カムカさんは…?」「居なくなっちゃったのかい?」と聞いてくる。


僕は武士の情けで覗きの事は言わずに「トレーニングだよ」と言って済まそうとしたが、「風呂が覗けないから走り込みだ」とガミガミ爺さんが言ってしまった。


ジチさんは「本当、仕方のない奴だね」と言って呆れた後で僕を見て「でもねキヨロスくん、それが若い男の当たり前かも知れないからね。少しは見習いなさいよ。フィルだってキヨロスくんなら許すかも知れないよ。ちなみにー、お姉さんはいつだってOKよ」と言ってくる。


またからかうが僕も慣れたもので「それはどうも。それよりもイノシシ肉を夕飯に使いますよね?これで良いですか?」と言って軽く流すとジチさんは「あらら…手強くなって。まあこっちはまだまだだけどね」と言って横を見るとフィルさんが「え?キヨロスくんが覗きに来るのは、恥ずかしい…でもキヨロスくんがどうしても覗きたいなら…」と顔を赤くしてブツブツと言っている。


僕は慌てて「フィルさん、僕は覗かないよ!!」と言うとハッとした顔のフィルさんが「え?…そうよね。キヨロスくんはそう言う事しないわよね」と言って落ち着いていた。


そんな事を話しているとカムカが帰ってきた。

カムカはこそっと僕に「なんで風呂上がりの女の人ってこんなに綺麗なんだ?」と話してきた。


僕はカムカに本当に女性に免疫がないんだ。そのうち女性に騙されそうだな…と心配してしまった。


ジチさんが「さて、後はお姉さんが代わりましょうかね」と言って「キヨロスくんとドフ爺さんはお風呂入っておいで。カムカは私達の護衛ね」と話を仕切る。


カムカは不服そうに「俺は!?俺も汗かいたから風呂に…」と言うのだが最後まで言う前にジチさんに「お風呂上がりのいい匂いのする私達と食材調達」と言われるとカムカは「行きます!是非ともお手伝いさせてください!ボスさんとフィルさんは俺が筋肉でお守りします!!」と言って力こぶを作っている。


カムカは尻尾があったらブンブンと振っているだろう。

そう思っていたら犬に見えてきた。


「肉や道具はこのままにするの?」

「そんなに遠くまで行かないし、こんな所に人なんて来ないでしょ?三の村からは温泉行くなんて話は聞かなかったし、四の村も雨で遠出出来ないし。もし出たら、その時は跳んでやり直してよ」


ジチさんの言葉にトキタマが「そうですねー。仕方ないですねー」と言って上機嫌で話に割り込んでくる。

トキタマをちゃんと見ていなかったカムカは「うおっ!?喋ったよ…。これが、キヨロスのアーティファクトかよ」と驚いている。


トキタマに「よろしくお願いします。筋肉の人」と言われたカムカは「お…おぅ」と引き気味に返事をした。


話の切れ間でジチさんが「さ、夕飯に向けて行動開始だよ。キヨロスくんはトキタマくんも洗ってあげなよ」と言うと僕が返事をする前にトキタマが「えー、僕は別に汚くないですよー」と返す。


だがその瞬間にムラサキさんが顔を出して「汚れアーティファクト」と言ってトキタマに悪態をつく。


そのやり取りを見たカムカは「うおっ!?こっちも喋った!?」とごくごく普通のリアクションをしている。

そう僕達は鳥や盾が喋るのは異常なのに慣れてしまっていた。


トキタマはムラサキさんを見て「別に僕は汚くないです!」と言うとムラサキさんは「私は今さっきフィルに洗って貰ったから綺麗です。あなたは薄汚れたアーティファクトです」と言って勝ち誇った顔をした。


トキタマは「キーッ!」と言って怒ると僕の前にきて「お父さん、お風呂入りましょう!僕をピカピカにしてください」と言う。

あまりの剣幕に僕は「う…うん」としか言えなかった。

ガミガミ爺さんは「ムラサキも大人気ねえなぁ…。別に喧嘩売る必要ねえだろうに」と言って呆れていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ジチさんの采配で僕とガミガミ爺さんとトキタマはお風呂に入った。

僕は昨日みたいにのぼせてしまわないように気をつけながらお風呂に浸かる。

その横でトキタマが自分で器用に身体を洗っている。


僕の横でお湯につかるガミガミ爺さんが「小僧、コイツはずっと小鳥なのかな?」と僕があまり気にしていなかった事を聞いてきた。


僕はトキタマを見ながら「確かに…どうなんですかね?でも鷹とか鷲みたいに大きくなっても困るからこのままが良いですね」と言うとガミガミ爺さんが「鷹や鷲ならまだいいぜ?虹色カラスみたいに大きくなられたらシャレにならねえな」と言った。


虹色カラスは御免だ…

虹色カラスは、大きさはかなり大型で翼を広げると僕の身長くらいになる。

肉食で羊やヤギくらいなら平気で連れ去ってしまう。

そして最大の問題点は特筆して美味しくないという事。


普通の肉と形容するのがピッタリなのだ、それなのに肉は光に反射して虹色に光る。

それも煮たり焼いたりすると余計に虹色が際立つので視覚的に美味しくない。


トキタマがそんな虹色カラスの大きさになるのはやはり御免だ。

そう思いながらトキタマを見ていて「お父さん、跳びましょー」と巨大なトキタマが言う所を想像して身震いしてしまう。

僕が「それはやだな…」と口にするとトキタマが「じゃあなりませーん」と反応する。


え?言わなかったらなれたの?

すごく怖い。


所々でどういう風に成長をするのかを聞くようにしようと思った。



風呂から出ると3人は帰ってきていて、ジチさん主導で料理が始まっていた。


カムカは暗い顔でこちらを見てくる。

何があったと言うのだろう?

また変な事を言ってジチさん達に怒られたのかな?


僕が「どうしたのカムカ?」と聞くとカムカは暗い顔で「あ…いや…なんでもねえ」と言う。

なんでもない顔ではないので「顔が暗いよ?」と聞くとカムカが「本当、なんでもねえんだ」と言ったところで「パコン!」と言う音がしてカムカが「イテッ」と言う。


ジチさんがカムカの頭を薪で軽く叩いた。


「全く、いつまでいじけてんだい。風呂を最後にさせて、薪に火を点けるのにアーティファクトを使わせたからって、イジイジする事は無いだろ?」


成る程、いいように使われたと思っていて不貞腐れているのか、そこに年下の僕が先に入浴をしたのが気に食わないと…


ジチさんがヤレヤレと言う顔で「ちゃんとご飯は待っていてあげるから安心して入っておいで、ゆっくり入っても平気だからね」と言うので合わせるように僕も「ご飯になりそうだったら僕が呼びに行くよ」と言うとカムカは「へへへ、そうか?悪いな」と言って風呂に行った。


カムカが風呂に行ったところでジチさんが「キヨロスくん、お姉さんのお願い聞いてくれるかい?」と聞いてくる。


「はい。何ですか?」

「今日はここで野宿でしょ?だから焚き木拾いと見回りをお願いしたいのよね」


僕は「いいですよ」と言って歩こうとするとジチさんが「トキタマくんも連れて行ってあげなよ。なるべくムラサキさんと離した方がいいんじゃないかな?」と提案をする。


それを聞いていたトキタマは「えー、ババアがどっか行けば良いんです」と言うのだがジチさんに「フィルは料理中だからムラサキさんも一緒でしょ?それにトキタマくんなら空から色々と見れるから安心だしさ」と言われて何も言えないトキタマに僕が「ほら、トキタマ。行こう」と言うと「はーい」と言ってついてきた。



焚き木は僕とカムカが居れば生乾きでもなんとかなる。

木や土を見たが、別に熊の足跡や爪痕なんかも無かった。

カムカが何処まで走ったかわからなかったが聞いておけば良かった。


「トキタマ、空から見た感じは?」

「別に大丈夫ですー。お父さんはこれからもあの人達と度をするんですか?」


「どうして?」

「一緒に跳ぶためにもお父さんはもっとたくさん跳んで僕を成長させないと行けないからです」


トキタマはニコニコしながら説明をしてきた。

確かにリーンを連れている以上、ジチさんにフィルさんとガミガミ爺さん、それとカムカ。

全部で5人と跳ぶのは無理だ。


「それって何回飛べば出来るようになるの?」

「たくさんですー」


簡単に言ってくれるなあ…



ある程度見回りをした僕は薄暗くなってきたので温泉に戻る。


僕に気がついたカムカが「おう、お帰り!」と最初に声をかけてくれた。

僕は「ただいま」と言って周りを見るとしっかりとご飯が出来ていたがガミガミ爺さんは寝ていた。


僕が気にするとフィルさんが「お爺ちゃん?本当は昨日徹夜で鎧を仕上げていたから寝てないの」と言う。

まさかの話に僕が「え?」と聞き返すとフィルさんは困ったような嬉しそうな顔で「余程キヨロスくんの事を気に入ったのか完璧な仕事をするって張り切っていたから朝までやっていたみたい…」と教えてくれた。


それは悪いことをした。

有り難いけど、そこまでして貰っても僕には返せるものは何も無い。


僕は眠っていないならと思って「じゃあ、もう少し寝かせてあげようか?」と聞くと「ううん。これ以上寝て夜中に目が冴えちゃうのも可哀想だから起こすわ」と言ってフィルさんがガミガミ爺さんを起こす。


ガミガミ爺さんの目がしっかり覚めるとジチさんが「さ、今日のメニューはイノシシのステーキ、フィルが採った野菜やキノコで作ったスープとサラダ。後はパンだよ!ステーキのソースはこれもフィルが採った野菜でお姉さんが作ったよ」と言いながら並べられたご飯を見てみるとステーキ肉がかなり多い事に気付く。


僕はかなりの量なので「こんなに焼いて誰が食べるの?」と聞くとカムカが「俺だ!肉は筋肉になる!野菜も筋肉になる!男は筋肉だぜ!!」とさっきの暗い顔がウソのように元気に説明をする。


余程お風呂が気持ちよかったのだろうか?

ガミガミ爺さんも目が覚めて食べられるというのでご飯にする事にした。


いつも通りの美味しさでホッとしてしまう。

だが、内心はあまり進展のない今の状態がもどかしかったりする。

明日には四の村に入って亡霊騎士を倒してしまいたい。

そんな僕の心とは裏腹にジチさんが嬉しそうに話をしている。


「それにしてもさあ、フィルと野菜採りに行くと凄く助かるのよ。お姉さんフィル無しでは生きていけないわ」と言うとフィルさんは呆れた笑顔で「私じゃなくて、ムラサキさんでしょ?」と言う。


ジチさんは「そうなんだけど、ムラサキさんはフィルのアーティファクトなんだから、やっぱりフィルに感謝よ」と言う。

そのまま聞いて行くとキノコ類や野草を採る時にムラサキさんに聞くと毒の有無を教えてくれるのでかなり助かったらしい。


しばらく食べているとカムカが僕の方を向いて真剣な顔をして僕の名前を呼んだ。

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