第93話 セカンドに降りる。

くそっ!何が起きた。

今日は一体何なんだ!?


何でツネノリが何処かに召喚されなければならない?


慌て憤る俺はその気持ちを一度置いて泣いているルルを見るとルルは俺を見て「ツネツギ、ツネノリは…ツネノリは無事だろうか?」と聞いてくるので俺が「大丈夫に決まっているだろう?俺が探しに行ってくる」と言ってルルを安心させる。


ルルが「アテはあるのか?」と聞いてくるので「神様の所に行って探させるさ」と言ってルルに行ってくると伝えると、次の瞬間俺は日本に居てVRの端末を頭に付けていた。


「東!東っ!」と呼びながら開発室を見回すが住人、もとい土地神になりつつある神様の姿はない。


くそっ、普段は帰れって言っても帰らないのに何で居ない?

俺は出入口のホワイトボードを確認すると東の予定が書かれていた。


ああ…、VRテストのイベント参加、事前準備に駆り出されているのか…。

俺はスマホを手に取る。

スマホには千明…俺の嫁さんからの着信が入っている。


千歳の事で着信だと思ったのだが、今は娘もピンチだが息子もピンチなのだ、スマホには映し出された千明の名前に「すまん」と言ってから東に電話をかける。


多分、イベント中でセカンドの中に居るかも知れないが東は電話に出る。

そう言う仕様になっている。


「はい?どうしたの?珍しいね常継」


明るい東の声。

いつも通り他所行きの声が俺を出迎える。


「緊急事態だ!仕事中なのはわかるが同時進行してくれ!」

「その慌てよう、かなり珍しいね。いいよ。じゃあ今からそっちにも行くから」

そう言うと目の前に東が現れる。


「どうしたの?」

「俺の子供が召喚されちまったんだよ!」


「召喚?」

「ああ、あの召喚のされ方は「勇者の腕輪」と同じ感じがした」


「でも、腕輪は君の腕に装着されているだろ?」

「だから変なんだよ、それに俺の子供が何処に召喚されたのかもわからねぇ」


「なるほど、だから僕にログを追えと言うんだね」

「すまない、よろしく頼む」


東は会話の後でモニターに向かう。

これは半分フリで更に同時進行でガーデンの中に入っている。


東 京太郎。

これがガーデンを作った神様が日本で生きていく為の仮の姿。

紆余曲折を経て地球の神の所に身を寄せた神は外敵からガーデンを守る為にPC上に作られたサンドボックス環境に世界を創造した。

PC上と言っても命は本物だ。


東の後ろ姿を見守る俺の元に再び着信が入る。

妻の千明からだった。


普段から俺の仕事を理解している千明が何度も電話をかけてくるのは珍しい。

そのことから俺は電話を取り「もしもし」と言った瞬間、千明が慌てる声で「あなた!大変なの!千歳が…千歳が!!!」と言った。


千歳?

千歳はツネノリの事を知ってしまって荒れてしまって…


何があったかわからない俺は「どうした!?」と聞き返すと千明は震える声で「今、帰宅したら千歳が…」と言って言葉に詰まる。

その間と言い方のせいでどうしても悪い考えばかりが出てくる。


だが俺は次の瞬間、千明の言葉に想像の遥か上を行く衝撃を覚えた。

「千歳がVRでセカンドに入ってしまっていたの!!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



千明の言葉を聞き、千歳がセカンドに入った事を知った俺の中には「千歳がセカンドに入った?」「VRで?」「何故だ?」という考えが出ては消えていた。


千明の言葉に俺は困惑する。


そもそもVRはまだテスト段階で残酷描写と言った刺激の面やセカンドの住人との接し方の部分で成長にどんな影響が出るかわからない点から18歳未満は参加できない。

モニター募集のアンケートに関しても、年齢を再三確認する事にしていたし、本人確認書類の提示を求めていた。

そして最もおかしいのは関係者の家族はアンケートに参加をしたとしても抽選段階で弾かれる事になっていたし、テスト段階で千明に募集を試してもらった時も無事に弾かれたし、PC上でリストから除外される動作も確認している。


俺は「わかった、こちらで確認してみる。ログインIDとパスワードを写真にしてメールしてくれ」と千明に指示を出すと「わかりました、すぐやります」と千明は言って電話を切る。


東が呑気に「そっちもトラブルかい?」と話しかけてくる。

俺は苛立ちを隠しながら「ああ、そっちは?」と聞くと「うん、こっちもようやく足取りが追えそうだよ」と東は言った。


その時、俺のスマホが鳴る。

キチンと写真にはIDとパスワードが写し出されていた。


俺はスマホの画面を東に向けながら「東、済まないが追加だ。今度は俺の娘が何故かVRでセカンドに入っている。このIDとパスワードだ足取りを追えるか?」と聞く。


「え?常継の娘さんってまだ14歳だろ?何でVRが?」

「俺も知らないよ。突破不能のアンケートを突破して本人確認書類も何故か通ったからVR端末が娘の手元にあるんだろ?」


東は「とにかくこの国の18歳未満にあの刺激は強すぎる。早く見つけて保護をしてあげよう」と言うとスマホから目を逸らして再び端末に向かう。



俺は必死になって「同時進行させて済まない!ツネノリと千歳を見つけてくれ!」と東に頼む。

少しして東が「見つけた……これは…」と呟いてから俺を見て「常継、良いニュースと悪いニュースだ」と言った。


コイツの悪いニュースは半端なく悪いニュースだ。

俺は先に良いニュースを聞く事にした。


「良いニュースから頼む」

「だと思ったよ。とりあえず2人とも見つけた。2人とも無事だ」

俺は安堵と共に「本当か!?ツネノリは何処にいる!?」と聞くと俺を真顔で見た東が「そこから先はとにかく悪いニュースだ」と言った。


「ツネノリ君もセカンドに召喚されていた。千歳さん…娘さん共々「イベントを盛り上げる初心者限定特別招待枠」でだ」

「なんだと…」


俺はイベント担当では無いのでどういう事が行われるのかまでは知らない。

だが、東が悪いニュースと呼ぶのだ。それはきっと良く無い事だ。


「そしてまだまだ悪いニュースは続く。2人のログを追った。常継、君はツネノリ君に「勇者の腕輪」を装着するように言ったね?」

「ああ「勇者の腕輪」に呼び出されたなら危険が周りにあると思った」


東は仕方ないという表情で「ツネノリ君は君の言いつけ通り「勇者の腕輪」…まあレプリカだろうね、これを装備している」と言うと一瞬画面に目をやって「そしてもう1人、千歳さんのログだ。ログインしてすぐに何処かの部屋に通されている。恐らく運営がセカンドの中に所有する建物だ。誰かがそこに千歳さんを呼んだのだろうね?本来、このVRお披露目イベントでは時間前にログインをすれば端末プレイヤーのキャラクタークリエイト等があったとしても終わってからイベント開始まで眠っていてもらう事になっている。だが、千歳さんは起きていて食事に入浴を済ませている」と言った。


なんだ?何が起きている?

普通と違う流れに俺が困惑する中、東は「会話のログを拾ったよ。千歳さんと話している運営の者は「ジョマ」と名乗っている女だ」と言った。


…!?

ジョマ?

散々ゼロガーデンで暴れ回った魔女。

俺の背中に嫌な汗が吹き出す。


「あの女か!?」

「もしかしたら使いではなく神の方かもね。いつの間にか帰ってきていて、今日この時に何かを仕掛けてきたのかもね」


あの女だと何が起きてもおかしくない!

俺は東に向かって「すぐにログアウトを!!」と言ったが東は申し訳なさそうに「手遅れだよ、常継…」と言った。


「何!?」

「イベント開始で今から強制ログアウトをするにしてもツネノリ君はまだしもこの世界の住人の千歳さんが顔を晒した状態で強制ログアウトをしたらどうなる?もしかしたらあの女がSNSで個人情報を晒すかも知れない。さらにあの女は狡猾で巧妙だ…レプリカの「勇者の腕輪」にロックを付けている」


「それって…」

「ああ、イベント終了までセカンド内でも売買不能になっているアイテムだから「勇者の腕輪」は外せない。ログアウトもゼロガーデンへの帰還も不可能だ…」


なんと言う事だ、あの凶悪な魔物の住み着くセカンドガーデンに俺の子供が2人?

それもあの魔女の手引きで?

最悪だと思っている俺に東は「更に悪いニュースだ」と言った。


「普通プレイヤーが魔物に倒されてもプレイ時間が減るペナルティだが、この2人に関しては「死」になっている」

「ふざけんな!」


俺は思わず声を荒げる。

あの女は何を考えている?

何で今このタイミングで行動を起こした?

狙いは何だ?

何でツネノリを狙う?

何で千歳を狙う?


考えてもわかるのはたった一つのことだ。

俺が何をしてでも子供は絶対に死なせない。


「管理者権限でセカンドに降りる。東はパラメーターの調整をしてくれ」

俺はそう言って再びガーデンに降りる事にした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



俺は世界を回る関係上管理者権限でガーデンに降りる事が出来る。

主に瞬間移動がそれに当たる。

ガーデンの中で言うとすれば魂を削らない「瞬きの靴」だ。


「パラメーターって何するつもりだい?」

「とりあえずセカンドで販売する予定のアイテムを無限に持てるようにしてくれ。最悪意識だけの千歳は薬漬けにしてでも生かし続ける。生身のあるツネノリには回復のアーティファクトを持たせても生き残らせる」


なり振り構っていられるかと思っている俺に東が「落ち着け常継。アーティファクトをアーティファクトとして持ってはいけないんだぞ?」と言って俺に注意をしてくる。


「なら何でセカンドに「勇者の腕輪」があって召喚が出来る?」

「それは…」と言った東が「多分あの女が、運営として潜り込んで設定を変更したんだ…」と言う。


神と神の話だから出来る事だろう。

だがそれは人の俺にはどうでもいい話で、やる事はただ一つだ。


「俺はルルからアーティファクトを受け取ってセカンドに行く。後は出た所勝負だ。今、イベントは?」


俺が時計を見ると午後3時20分を過ぎた所だった。


「運営の挨拶、社長がキャンペーンガールと談話中だよ。多分司会進行の運営があの女だね。話し方に特徴があるよ。イベントはこの先VRの機能紹介とセカンドの住民とのコミュニケーション機能の紹介。それから進行表で行けばセカンドで午後11時、こっちでは午後3時40分からアンケートで集められた初心者を使用した戦闘になる。行くならそれまでにセカンドに行くんだ」


「野郎、余裕かましやがって」

「ツネツギ、もう一つパラメーターを弄った。君には戦闘の制限時間はない。死ぬ事もない。無敵の身体で子供達を守るんだ」


俺は「それは有難い。助かる!」と言ってスマホを出して千明にかける。

すぐに千明は電話に出てくれた。


「千明か?」

「あなた…、千歳は?千歳の事は何かわかった?」


「ああ、千明も知っている魔女が現れた。魔女が運営に潜り込んで悪さをした。お陰で千歳とツネノリがセカンドの世界に連れ去られた」

「そんな!!?」

電話先の千明は涙声だ。


「ツネノリ君まで…?」

「ああ、魔女の狙いが何かはわからない。だが安心しろ、俺が何とかする。俺は今からセカンドに降りる。その間は東を頼ってくれ」


千明は「わかりました」と言ってから「あなた、気をつけて…無事にツネノリ君を助けて、千歳と一緒に帰ってきてくださいね」と続けた。

俺は「ああ、行ってくる」と言ってスマホを切りながらVRの装置に向かう。


「東、千明のことを頼む」

「こっちで動きがあったら手伝ってもらうよ」


そして俺はゼロガーデンに行く。

目の前には食事も摂らずに心配そうに俯くルルが居た。


ルルはツネジロウから俺に変わった瞬間に「ツネツギ!!ツネノリは?ツネノリは何処だ?」と言って飛びついて聞いてくる。


俺はルルの肩を持って「ルル、落ち着け。落ち着いてくれ。説明がある」と言う。

ルルは酷く不安げな顔で「説明?」と聞き返してくる。


「ああ、まず一つ。今のところツネノリは無事だ」

この言葉だけでルルの張り詰めた顔が和らぐ。


「そうか…良かった。それで?ツネノリは何処だ?」

「それが問題だ…」


そして俺は魔女が外の世界に戻ってきた事、魔女の手引きでツネノリと千歳がセカンドに召喚されたこと。

そしてセカンドとファーストではプレイヤーに存在しないはずの死を与えられた状態でイベント終了までセカンドで生き延びなければ帰って来れない事を伝えた。


「そんな…、神様の力で何とかならないのか!?それに何故千歳も召喚されておる!?」

「神様…東の奴も可能な限り手を出してくれている。ただ…奴が潜り込んでいる以上、表立って行動出来ないんだ。万一行動を起こして何かされてからでは遅い。だから俺がセカンドに行って2人を守り抜く」


ルルは説明を聞いて「だが、そんな…」と慌てふためく。

戦闘力を持つルルは自身が参加できない事を不安に思っているのがわかる。


俺はそんなルルを抱き寄せて落ち着かせながら「ルル、落ち着け。安心しろ、俺が何とかする」と言うとルルは弱々しく「ツネツギぃ…」と言って泣きながら抱きかえしてくる。



ルルが落ち着いたところで「それでなルル。お前に頼みがある」と話を進める。


「頼み?」

「ああ、ツネノリの為に回復のアーティファクトを持って行きたい」


「だがセカンドやファーストではアーティファクトは…」

「試すだけだ、それに「勇者の腕輪」が発動したんだ、きっとアーティファクトは使える」


そう言うとルルは納得をした顔をして俺にアーティファクトを渡してくる。


「後、何かできそうな事があれば何でもいいから考えてくれ。魔女のいいように子供達をやられてたまるかって言うんだ」

「ああ!そうだな!任せておけ!!」


そうしていると胸の端末が震える。

相手は東からですぐに「急げ常継!バトルイベントが始まるぞ!」と声が聞こえてくる。


俺はルルを放しながら「マズい!ルル、行ってくる!!ツネジロウも連れて行く事になるけど、しっかり食べて寝ろよ!!」と声をかける。


「待てツネツギ!」

「何だよ、急いでんだよ!!いってらっしゃいのチューでもしてくれるのか?」


ルルは「それは望めばいくらでもだ」と言って俺にキスをしてきた後で「違う、違くはないが違う!イベントとやらはどれだけ続くのだ?」と聞いてきた。


おっと、それを伝え忘れていた。

「俺たちの世界で7日間だ」

「何だ、それくらい私達のツネノリなら…」


この言葉にルルはパァッと明るくなる。

だが残念。そうじゃない。


「ダメだ、ファーストとセカンドはこことも外とも時間の流れが違う。セカンドではこっちの1日は3日になる」


「何!?」

「だから千歳とツネノリを約20日間守る必要があるんだ!!」



俺の言葉に「バカ者!!さっさと行かんか!!」と言ったルルに蹴り出される形で俺はゼロガーデンを後にした。

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ガーデン。 さんまぐ @sanma_to_magro

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