第79話 おまけ・それぞれの夜。
僕が居心地の悪さからサウスに帰ってきた日。
身体はそんなに疲れていないけど、頭とか気持ちは疲れていたのでフィルさんの腕に居るムラサキさんにお願いして明日の昼までサウス中に結界を張って貰って寝る事にした。
シモーリに詳細を話すと「問題ありません」と言ってくれたので安心していると、フィルさんは「私のムラサキさんがキョロくんのアーティファクトになっちゃった…」といじけていた。
よし、今日はたっぷり寝る。
最初は一の村に帰ろうかとも思ったのだけど、今…一の村にはマリーが泊まりに来ているので僕の寝る場所がない。
仕方なく城にある僕の寝室で寝る事にしたので風呂に入ると、案外疲れていたみたいでついついうたた寝をしてしまった。
起きてスッキリした僕は寝室の扉を開けると、扉の向こうには信じられない光景が広がっていた。
寝間着姿のリーン、フィルさん、ジチさんが僕のベッドで横になっていたのだ。
「あ、キョロがきた!」
「さあ、お姉さんの所においで」
「ちょっと、2人とも私は生き返ったばかりでキョロくんと2人きりが良いんです。今日くらい邪魔しないで!」
…確かにお嫁さんが3人とシモーリに言ったら特注のベッドを用意してくれて、大人が4人で眠るのも問題ない大きさなのだが、今までは1人ずつが平和的に持ち回り?話し合いで添い寝と言って来たくらいで3人同時と言うのは無かった。
「今日はたっぷり寝る」といった思いが即座に壊れて愕然とする僕をよそに、目の前に居るお嫁さん達の戦いは続いていて。
「死んだって言っても、本当に数時間の話で、三の村に泊まりに行く方が長いんですけど」
「うんうん、本当そうだよね。それこそお姉さんとリーンちゃんの方が、よっぽどショックだったのよ。それに怖いキヨロスくんを見たから今日はキヨロスくんにくっ付いて安心して眠りたいよね」
「うっ、でもキョロくんは大泣きしてくれたから今日は抱き合って寝たいの!」
今日は、死んだことがあったからフィルさんに分が悪いみたいだ。普通死んで生き返ったのだから優遇とかある気もするのだが3人の仲では違うようで、それを見守る僕をリーンが迎えに来て「ほら、そんな所に立ってないで!キョロも早くおいでよ!」と言ってベッドまで連れて行く。
「えっと…これは何?」
僕は磔にされた人みたいになっていた。
仰向けになった僕の左腕で腕枕をしているのがリーン。
右腕はジチさん。
そして僕を膝枕しながら頭を撫でてくれているのがフィルさん。
左側のリーンが当たり前と行った顔で「え?3人で話し合った位置よ。途中で交代するから」と言うと右側のジチさんが「今日のキヨロスくんは怖かったんだよ。もうあんなになっちゃダメだよ」と言って力いっぱい抱き着いてくる。
普段なら皆の前で抱きついてくることのないジチさんに「ジチさん…ごめんね」と言うとジチさんは「本当だよ。お姉さんの言う事は聞かなきゃダメなんだよ」と言っておでこをグリグリとこすり付けてくると、リーンも「本当、キョロは怖かったよ。それ以上に泣きたいのを我慢している顔を見るのが辛かったよ」と言って抱き着いてくる。
「うん、ごめん。でもあそこで立ち止まったら動けなくなりそうだったから…」
「わかってる。キョロの考えはわかっている。でも辛かったの」
リーンが話し終るとフィルさんが「キョロくん…、助けてくれてありがとう」と言って身体を折り曲げて僕にキスをしてきた。
唇が離れると「ううん、僕こそ怖い思いをさせてごめんね。でも助けられて良かった」と返事をした後で僕は一つの事が気になってしまい、ジチさんとリーンに腕から降りてもらった。
「フィルさん、僕にお腹を見せてくれないかな?」
「え?」
僕が「ダメかな?」と聞くとフィルさんは「良いけど…」と言って寝間着をまくってお腹を見せてくれた。
「触っていい?」
「うん…」
僕はフィルさんのお腹を触る。
そこは前の時間で魔女に真一文字に切り裂かれた場所だ。
触った理由を理解したフィルさんが「あ…、キョロくん…気にしてくれて…。平気よ、私は生きている。もう居なくならないわ」と言うと僕を抱きしめる。
暖かい。
あの冷たかったフィルさんはもう居ない。
そう思うと安心して涙が出てきた。
リーンが「キョロ」と僕の名前を呼んでフィルさんごと僕を抱きしめる。
「私もキョロの前から消えたりしないから」
「うん…リーンも守るよ」
ここでジチさんが「違うでしょ」と言って更に僕を抱きしめる。
「バカね。キヨロスくんはお姉さん達が守るから」
この言葉に僕は思わず「え?」と聞き返してしまった。
「そりゃ、戦う力はキヨロスくんには誰も敵わないけど、そのキヨロスくんの心を守るのはお姉さんとフィルとリーンちゃんなんだよ。だから泣きなさい。お姉さん達は誰も居なくなったりしないから」
僕を守る?
ああ、僕はお嫁さん達に守って貰えるのか…
僕はフィルさんの胸の中で安心した気持ちになった所でリーンが「そうだよキョロ。キョロは強い王様になったから頑張って皆を守っているけど、そのキョロは私たちが守ってあげるから安心して。王様になってからずっと顔が険しいから気にしていたんだからね」と僕に語りかける。
「そうかな?」
「そうよ。ずっと疲れたなって顔に書いてあったわ。これからも王様するなら息抜きできるようになろうね」
「ありがとう。リーン」
フィルさんに抱きしめられながらリーンと話す。
なんか変な感じだけど、これはこれなのかもしれない。
フィルさんが突然「あーあ、前にも3人で話したけど、やっぱりリーンさんには敵わない」と言って僕を離す。
「そうでしょ?」と言って今度はリーンが僕を抱きしめる。
フィルさんとは違う、懐かしい匂いが僕を包む。
「本当、キョロくんの細かい表情の違いとか考えている事とか、私にはそこまでわからないもの」
「ふふ、それは15年ずっとキョロと暮らしてキョロを見てきた私の強みなの。いいじゃない、フィルさんは戦いがあればキョロの横に立てるのだし、それにスタイルだっていいし綺麗なんだし」
「でも…ムラサキさんはキョロくんの方が上手に使えるようになっちゃったから私の意味ってあるのかな?」
フィルさんはそんな事を考えていたのか。
「バカだなーフィルは。全部キヨロスくんに任せる訳にはいかないんだからさ、もう戦い何て無いかもしれないけど、何かの時にはフィルはキヨロスくんの横に居ていいの。お姉さんやリーンちゃんが出来ない事、私達の旦那様を守ってくれればそれでいいの」
「そうかな?」
「そうよ。リーンちゃん、次はお姉さんの番」
そう言うと今度はジチさんが僕を抱きしめる。
今度はジチさんの匂い、上手く言えないけど、リーンともフィルさんとも違う、落ち着く匂い。
「お姉さんはさ、3人の中では一番年上で年の差も凄いけど、その分甘えていいしさ。2人に出来ない事って言えば料理くらいだから沢山料理を作るからさ。お腹いっぱい食べて元気出してよ」
「うん、いつも美味しいご飯をありがとうジチさん」
「どういたしまして、いつも食べてくれてありがとう」
そしてフィルさんが毒竜を倒した後みたいに僕の手を握ってきた。
「さあ、寝て。後は私たちが話しているだけ、キョロくんは返事をしなくていいからただ聞いて。寝たらおしまいにするし、また聞きたかったら言ってね。何度でも話すから」
あの日を思い出しながらここまであっという間だったなと感慨にふける。
「キョロ、世界が平和になったのなら今度は旅に出てもいいね」
「お姉さんが生まれた王都にもいい加減お忍びで行こうよ」
「私はキョロくんと結婚式がしたい」
「あ、私もキョロと結婚式をしたい」
「……」
「ジチ?」
「あー、お姉さんはもう年がアレだからきっとドレスは似合わないかもな」
「「そんなことない」」
「えぇ、2人で言うかね?」
「ジチは自分を過小評価し過ぎ。きっと似合う」
「そうだよ。キョロは見たら喜ぶよ」
「キヨロスくんが?」
「うん、喜ぶよ」
「そうかな?それなら着てみるのも…」
「でも、一番可愛いのは私だけどね」
「リーンさん、一番は私です」
「え、じゃあお姉さんだって一番似合う奴をシモーリに選んで貰う」
「ふふ、じゃあキョロに決めてもらう?」
「えぇー、あー、無理でしょ?きっとキヨロスくんは答えに詰まるよ」
「そうね。キョロくんは優しいから」
「でも結婚って言えばマリオンがあんなにムキになるなんて思わなかった」
「本当、ペックお爺ちゃんを困らせているのよね」
「カムカさんとマリオンってお似合いよね」
「うん、イーストで大人になるまでは心配だったけど帰ってきたらマリオンは大人になっていて似合っていたよね」
結婚式か…
本当に1年して、みんなが僕を選んでくれたら3人と結婚するのかな?
僕はこの後も続く話を聞きながら段々と眠気に襲われて眠ってしまっていた。
起きた時には驚いた。
右腕にフィルさんが居て、僕と手を繋いで寝ていた。
左腕はリーンで、僕の腕を首に巻き付けて寝ていた。
ジチさんは苦しそうな姿勢だったけど僕の足の上に乗って腰に手を回して眠っていた。
僕は磔にされた気持ちで目を覚まして、一日中固まった身体の痛みに悩まされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アイツとお姉ちゃん達がウエストからサウスに帰った夜。
私はガクが用意してくれた客室にカムカと居た。
ガクは私とカムカの仲をちゃんとパートナーとして認めてくれているようで2人で使う部屋をキチンと用意してくれた。
その事がたまらなく嬉しかった。
私が「カムカ、もう寝る?」と聞くとカムカは「んにゃ、もうちょっと自主練をしたいかな」と言って空に向かって蹴りを放つ。
「あんまり暴れて部屋を壊さないでよね」
「わかっている。結婚資金だろ?」
「じゃあ、練習付き合ってあげようか?」
「お?何をするんだ?」
「鬼ごっこ」
「鬼ごっこ?」と聞き返すカムカに「うん、本気で逃げる私をカムカが捕まえたら勝ち。触るのではなくてちゃんと捕まえてよね」と言う。
「部屋の中でか?」
「それでもいいけど、部屋が滅茶苦茶になるわよ」
まあ、部屋でやるなら私は肌着になって柔軟性を活かして逃げるだけだし、外なら鎧を着こんで身体強化を最大限にして逃げ回るだけだ。
「うーん、サウスの城ならキヨロスが許してくれたけど、ウエストとなるとなぁ…ガクは許してくれそうだけどな…周りの目がな…」
「まあ、ここの人たちもアイツの暴れようを見て、その仲間の私達に文句を言う人は居ないと思うけど…」
ここまで話してカムカは「やっぱやめた」と言ってお風呂に行く。
私も今のうちにお風呂に行く。
前にカムカとガク、アーイと温泉に入った時が懐かしい。
だが、今は跳んでしまっているのであの記憶は私たちの中にしかない。
なんだか変な感じだ。
まあ、お姉ちゃんを取り戻す為だったからある程度は仕方ない。
稼げた結婚資金が半分になってしまったのも残念でならない。
そう言えば、怒りに支配されたアイツがノース兵を皆殺しにしたのを見て、私はカムカもこうなってしまうのかな?と思った。
万一私が命を落としたらカムカは悲しんでくれるだろうか?
逆に、カムカが死んでしまったら私はどうなるだろう?
考えただけで悲しくて居ても立ってもいられなくなる。
今すぐカムカの顔を見て安心したい。
そんな事まで考えてしまう私は、カムカが死んでしまったらアイツのように暴れまわる事も出来ずに死んでしまうかもしれない。
「そうならない為に授かったアーティファクトがあるから大丈夫」と独り言を言いながら私は右手の薬指に付けた「愛」と言う名のアーティファクトを見る。
「通常のアーティファクトは「〇〇の〇〇」と言う名が使われますが、このアーティファクトは「愛」と言います。マリオンにはピッタリだと私は思います」
神の使いがそう言っていた事を思い出す。
使い方や効果、問題点なんかの全部は神の使いから聞いてある。
お爺ちゃん達が聞くと心配して使わせなくなるからと言って私だけが教えて貰った。
「これでカムカを死なせない」と言いながらお風呂を出て部屋に戻るとカムカは既にいた。
私は「カムカ」と名前を呼びながらカムカに抱き着いてキスをする。
「どうしたマリオン?」
「カムカがお姉ちゃんみたいに死んじゃったらって考えたら怖くなったの」
そう言って更にキスをする。
お姉ちゃん達がよくアイツにキスをしたがった理由が今なら何となくわかる。
安心できるし、何よりも胸が熱くなる。
そこに居るカムカを感じられる。
カムカが「大丈夫だ、俺とこの筋肉を信じろよ。俺が死ぬ風に見えるか?」と言って笑う。
何て素敵な笑顔なんだろう。
「そうだね、カムカは神の使いが選んだ勇者だよね」
「ああ」
何で神の使いはカムカを勇者にしたのだろう?
今度会う事があったら聞いてみたい。
抱き着いたままベッドに倒れこむ。
「おい、マリオン。お前のベッドはあっちに…」
最後まで言わさない。
私がキスでカムカを黙らせる。
「今日は一緒がいいの」
「だから俺は死なないって」
「私が心配なの。いいでしょ?」
有無を言わせないようにちょっと強めに言う。
「俺は寝相が悪いんだよ」
「私もだから平気」
そう言ってカムカの逞しい腕に抱きついて眠る。
人形の時にはよくわからなかった人の温もりが私を癒す。
「なあ、マリオン」
「何?」
「お前、本当に俺と結婚するか?」
「本当って何?私はずっとカムカと結婚をするつもりだよ」
沈黙。
「そうか、わかった。俺も頑張って金策するよ」
「カムカ?」
「俺、ずっと山で暮らしていたからさお金とか無くて…」
「いいよ。カムカはカムカのままで。私が頑張ってお金稼ぐよ」
修行に明け暮れるカムカと金策に奔走する私、カムカもイメージしたのだろう「格好悪っ」と声をあげている。私は「ふふふふ」と笑うと「そんなカムカも大好きよ」と言ってカムカにキスをする。
「ねえ、カムカ。抱きしめて」
私の声に合わせてカムカが抱きしめてくれる。
「愛しているわ」
「ああ、俺もだ」
そうして私たちは眠りについた。
明日からノースへの進軍だ。
絶対にこの人を死なせたりなんかしない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウエストとノースの戦争が明日終わる。
イーストの代表として俺は今サウスの城に来ていてルルと泊っている。
サウスは何かを勘違いしているのか、俺達を同室にしてしまっている。
俺達は一応年頃の男女なのだが…、それともこの世界ではそれが普通なのか?
目の前には赤い髪のルノレが居て俺を見て微笑んでいる。
「ルノレ?」
「もう、ツネツギ頑張ってよね。これはツネツギがニホンに帰る為に必要な事かも知れないんだよ?」
そう言うとルノレは胸の三角形を回転させると今度は青い髪のノレルになる。
「ツネツギ、くれぐれも言葉遣いに気をつけて。わかった?」
「うーん…」
実はこの会話はノースの城での戦いが終わってイーストに帰ってから結構な頻度で行われている。もう4回目になるところだ。
ルルが俺に惚れている。
これは、ノレル、ルノレ、そしてノレノレが共通して思っている事で、日々ルルが悶々としていて、いい加減くっ付いてほしいと言う事でルルが眠っている間にノレル達がこうして俺の前に出てきている。
この話し合いがなされる時になって初めて知ったのだが、ルル達4人は別に感覚や記憶を共有しているのではなく、お互いがオープンに設定した内容だけが残りの3人に共有されるらしく、イーストでの魔女との戦いにしても「魔女が嫌い」と言う意識は全員が共有したが、ノレノレが「ルルは恋愛経験がない」と言う情報を俺に言ったことをルルは知らないでいたように取捨選択ができる。
なのでルルが寝ている間にノレル達が現れては色々と助言をしてくれる。
一番に言い始めたのはノレルだ。
「ツネツギ、ルルは…あなたの事が好きみたいだ。だが本人は恋愛経験が無いので何も行動が出来ない。このままではまた何もしないままに年を取ってしまう」
俺はノレルに言われて驚いた。
そして冗談を交えて「じゃあルルこそ「時のタマゴ」を手に入れて何回もやり直さないとな」と言ったら「私はいいけど、ルルには言わないで。絶対に怒る」と釘を刺されてしまった。
二番目に出てきたルノレに「ルルは無視してノレルやルノレが彼氏を作ったらどうだ?」と聞いてみたら「絶対ダメ。ルルちゃん本気で怒って何するかわからないよ。この胸のアーティファクトも壊しちゃうよ」と言われた。
壊すとどうなるかはルル自身にもわからず。
可能性としては…
・ルルの人格が残る。
・ノレルとルノレに別れてしまう。
・死ぬ。
そのどれかになると思うと言われた。
ありえん。
勝手に彼氏を作るとルルはそんな危険な事をするくらいに追い詰められるのか…
3回目に出てきたノレノレから「もうさ、ルルちゃんはツネツギの事が好きなんだから彼女になれって言っちゃいなよ」と言われたので、翌日そのままに「ルルって俺の事好きなの?」と聞いたら真っ赤になって否定された。
「ノレノレか!?またノレノレか!!?もう知らん。私は知らん!!」
そして、そう怒鳴った後はずっとノレルになっている。
ノレルは俺を見て「…もしかしてノレノレの言う通りにしたの?」と聞いてくる。
その顔は珍獣を見たときのような顔をしていてなんとも言いがたい。
「いや、ルルは恋愛経験が無いからストレートな方が喜ぶかと…」
「はぁ…。ミシロがツネツギを酷評していた理由を今理解したわ」
そう言ったノレルはやれやれという顔で呆れている。
その後、ルルを除く3人と話をして何となく纏まったのは、
・俺は彼女を作らないと日本に帰れないかもしれない。(本当だとしたら残酷な話だ)
・ルルはロマンティックな展開を待ち望んでいる。
・ノレノレの案は却下。
・日本ンに帰りたいと言うとルルが悲しむから禁句。
だということになった。
え?日本に帰るためにルルと付き合うのに日本に帰るって言えない?なんだそりゃ?
とりあえず明日は終戦の場にイースト代表として呼ばれているのでルルに戻ってもらう。
戻るなり俺を見て「ふんっ」と言ってそっぽを向くルル。
ルルはご機嫌斜めだ。
だがこのままでは良くないので「なあルル」と話しかけると「何だ!むやみに話しかけるな。それに何だこの部屋は?なぜ男女同室なのだ」と言って憤慨している。
俺は「いや、終戦して良かったな。それもお前が王子の恋を助けたからだよな」と言ってルルの好きそうな話題を振ると顔を輝かせたルルが「そうだろ!?ツネツギお前もそう思うか?」と言って俺の方を向いた。
釣れた。
大きな魚ゲットです。
そうしてルルは嬉しそうに自身が持つ理想の王子と姫の恋愛について語り始めた。
俺はそれを聞く。
何回も聞く。
何回でも聞く。
何十回と聞いた。
もうやだ。
「姫の為に王子がな!」
うん、怪我を押しても助けに行くんだろ?
「それで姫がな!」
怪我をした王子を血で汚れる事も気にしないで抱きしめるんだろ?
もうこれがテストなら間違いなく高得点を取れる自信がある。
身の危険を感じ始めた俺は「ルル、もう遅い。明日もあるから寝よう」と言うとルルが「何!?もうそんな時間か?ツネツギと居ると時間が過ぎるのが早いな」と言って笑う。
どうやら機嫌は直ったようだ。
今日はこれくらいで十分だろう。
ルルが嬉しそうに「ツネツギ、そう言えば世界を平和にしたのに帰れなかったのぉ」と言う。
そうだ…
俺は戦争が無くなれば帰れるのではないかと思ったが帰れなかった。
魔女もキヨロスが倒したのに駄目だった。
一体何をすれば帰れるのだろう?
「本当だな、まあ、気長に探してみるよ。それまではルル。よろしく頼む」
その言葉でパアッと明るくなって微笑んだルルが「仕方ないな、ずっと一緒に居てやる」と言った。
ああ、そういう事か…
俺は何となくルルがどういう距離感が欲しいのかが分かった気がした。
俺は「じゃあ、これ」と言って右手を出す。
「何だ?」
「握手だよ、握手。これからもよろしくって言う握手だ」
そう言って俺はルルの右手を持って握手をする。
ルルは真っ赤になったが嬉しそうに笑う。
ああ、疲れた…
寝よう。
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