第87話 おまけ・神との対談。

僕達は授ける者が城まで迎えに来たので世界の中心にある神殿にやってきていた。

最上階に行くと知らせる者が僕を待っていた。


僕は「この前はどうもありがとうございました」と言って普通に接してお辞儀をすると、知らせる者が困惑をしている。


ジチさんが「あらら、キヨロスくんがやりすぎたから神の使い様は引いてるわよ」とそんな事を言うので僕が知らせる者に「え?そうなんですか?僕ってそんなにひどい事をしましたっけ?」と聞くと知らせる者はため息をついて頭を抱えてしまう。


僕は頭を抱えている知らせる者を見て困惑の表情を浮かべると、リーンに「キョロ、駄目だよ神の使い様をいじめちゃ」と注意をされる。


あれ?そんなに何かしたっけ?

あの時はカムカとマリオンが心配で苛々していたけど…、あれ?


僕はあの日の出来事を思い出そうとしているとフィルさんが「キョロくんが「カムカが戻ってこない!」って言って怒って光の剣を出したから…」と僕に説明をしてくれる。


そこに続くようにリーンが「それに「もしもの事があってみろ!その時にはお前たちを何が何でも斬り刻む」って脅していたんだよ」と僕の口真似をして、ジチさんが「本当、キヨロスくんは怒りっぽくて怒ると容赦がなくなるからねぇ…」ととどめを刺してくる。



僕が逆上して脅したことがわかったので僕は「…すみません、頭に血が上ると駄目みたいで…それにアーティファクトを沢山使った日はどうしても性格が荒っぽくなってしまって…」ともう一度知らせる者に謝ると「授ける者たちから「時のタマゴ」を持った影響が少なからず残ってしまったと聞いてはいる。だがこうも落差を目の当たりにしてしまうと言葉に詰まるな」と

知らせる者は言い、改めて「神様がお待ちだ。行こう」と言うと目の前が暗くなる。



目の前が明るくなるとカムカから聞いていたテーブルがある広い部屋に出て、目の前に居た神様が「やあ、キヨロス。よく来てくれた。そして3人の奥さんもようこそ」と言ってくれた。


カムカの時はテーブルが四角だと言っていたが、今日は大き目な丸だ。


「キヨロスは奥さんと来るからテーブルを丸いものにしておいたよ」


神様の気づかいという奴だった。

そして僕が座って左隣がリーンで右隣りがフィルさん。そしてフィルさんの横にジチさんが座る。

神様は向かいに座っている。


神様は「君の活躍、改めて読ませて貰ったよ」と言って僕を見てニコニコとしている。

「君の記録だけはすごく多かったから読むのが大変だったけどね、まあ「時のタマゴ」を持っていたのだから仕方ないね。「奇跡の首飾り」を使った時間移動を含めて100回も跳んだのだしね」

「はい」


「さて、キヨロス…、君のアーティファクトへの思いを聞かせて貰えるかな?」

「思い?」


「そう、アーティファクトは必要か否か、もっと言えば限定的にこのアーティファクトは要らないとか、これは残して欲しいとかかな、君は全ての級のアーティファクトを使ったのだから君の意見は貴重だ」


「僕にそう言うものはありません。僕の指に未だつけたままの「誓いの指輪」も僕はこう言うアーティファクトがあってもいいかなと思えるくらいですが、リーン…彼女は凄く大切なアーティファクトだと言っていました」

横で聞いているリーンは僕を見るとウンウンと頷く。


「ただ、僕から聞きたい事もあります」

「なんだい?」


「何故、級によって問題点や注意点が増えたり、厳しい物になったのですか?」

神様は「ああ、それか…」と言うと「僕は何の責任もなく力を使うと言うことが嫌なんだ。凄い力には凄い代償がある。これが好きでね」と言うと少し困った顔の神様は話を続ける。


「僕はこの前カムカとマリオンを救ったよね。それは2人からすれば最良の話だ。だが、別の女性の目線で行けばどうだろうか?もしもカムカと結ばれたいと思った女性はマリオンが生き残る事でカムカと結ばれる可能性はほぼ無くなる。助けてしまった僕はその恨みを向けられることになる。これが僕の代償だよ」


そう言う事か、問題点が明らかになれば頼む方も明確に意識するようになる。


「キヨロス、君もだ…、時を跳んでそこのフィルを含めて仲間達を何回も助けた。

だが世界の何処かでは時を跳んだせいで確定された未来以外に向かっていた人は成功が失敗に、失敗が成功になったのかも知れない。そう言うモノを背負ってしまっていた。だから「時のタマゴ」を使う者には重たい代償をいくつも支払って貰ったんだ」

「分かりました。ありがとうございます」


神様は「いや、いいさ。今度は僕だ、君は随分とアーティファクトを独創的な使い方をしたみたいだね、光の剣で攻撃を防いだり、「瞬きの靴」を使って離れた場所から人や物を瞬間移動させる。更には「紫水晶の盾」には世界を守らせたり結界を張ってしまった。その使い方をしてきて、君はアーティファクトの使い方をどう思った?意見を聞かせてくれないか?」と言って真っ直ぐに僕を見る。


「僕は全て想像力だと思います。光の剣で攻撃を受け止めたのも離れた場所から瞬間移動をさせたのも、ムラサキさんに皆を守って貰ったのも、全て結果をイメージする事で出来たからです」


「素晴らしい。僕の理想の答えだよ。アーティファクトの適性はその実、君達流に言うならカップと水の関係の他にイメージの問題があるんだ。カムカが何で、炎のアーティファクトを授かって氷のアーティファクトでないかはイメージの問題だ、カムカは本質的に炎がどう言うものかイメージが出来ていた。だが氷に関しては氷と言うものを知っていても実際にはどんなものか理解が出来ていない。炎だから魔女の剣を熱で曲げるまで行けたが、氷だったらたいした攻撃も防御も出来ずに死んでいたかも知れない。キヨロス、今後は世界の人たちにアーティファクトの鍵はイメージだと伝えて欲しい。頼めるかな?」

「はい、でも僕はカムカみたいに世界を回って教えたりなんて出来ませんよ?あくまで近くで困っている人に伝えるくらいです」


「構わないさ、キヨロスが仮に3人の人間に伝えて、それがまた3人に広がり、それが更に広がればあっという間に世界に広がっていく」

「分かりました」



話が済んだからだろう神様が「後は何かあるかな?無ければお礼の話にしたいのだが…」と言ったとき、僕は話の中で疑問に思ってしまった事をぶつける事にした。


「1つあります。何で神様は僕達人間に向けてそれだけ色々な事を考えてくださるのに、「龍の顎」や「創世の光」なんてアーティファクトを作られたのですか?」


僕の質問で空気が変わると神様の顔つきも暗くなる。


「そうだね。疑問に思うだろうね。簡単に言えばアーティファクトを作る際に他の神から意見を貰ったんだ。「龍の顎」も「創世の光」も「暴食の刀」もその神の提案さ。僕のガーデンにはそんな力は必要無いと言ったのだけれど、親が何でも決めるのではなく子供達に取捨選択の自由を持たせてあげてと言われてね」


「その神って…」

「ああ、君達が魔女と呼んでいた神の使いを生み出した存在。彼女もまた元は僕と同じ創造神だったのだろうね。目指す方向性は僕とは違っていたようだけどね」


カムカは深く話さなかったが、神様は神様として悩んでいたと言っていた。

多分、その部分につけ込まれたのだろう。


「そうだね、今キヨロスが思っている事はあながち間違いではないね」


驚いた。

考えが読まれていた。


神様は「さあ、そろそろお礼の話をしよう」と言った。


「キヨロスとリーン、君達には失った魂を補填する事でどうかな?「誓いの指輪」を使って魂の共有をして「時のタマゴ」で完全解決をしたと言っても2人とも魂は随分と減っているからね。このままだとリーンは40歳くらいまでしか生きられないし、キヨロスは完全解決で少し浪費した分を取り戻せたけどそれでも46歳くらいだ。補填すれば2人とも80歳を目指せるよ」


この話にリーンが「え!?私ってそんなに魂が減っていてキョロより少なかったんですか?」と思わず口にすると神様が「そうだね、完全解決の前に無効化されてしまったからね」と説明をしてくれた。


あ、確かにそうだ。

僕はてっきりリーンの魂は元通りになるものだと思って「究極の腕輪」を使ってしまっていた。


そしてその後でトキタマの完全解決で僕だけ6年分の魂を取り戻したのか…

リーンもその事に気付いたのだろう。不満げに「キョロ〜…」と言ってくるので僕は「ごめんなさい…」と謝る。


神様は楽しそうに笑うと「じゃあ2人には魂の補填をお礼にするよ」と言って「次はジチだね」と言った。


「ジチにはアーティファクトを授けるよ。「愛のフライパン」「愛の包丁」「愛の寸胴鍋」

これで料理をもっと楽しんで。そしてこれ「嵐の羽」だ。君は「風の羽」を取り上げられてしまったのだろう?今の君なら一段上のアーティファクトでも使いこなせると思うよ」

「いいんですか!?うわぁ、ありがとうございます!!これで沢山料理も作るし頑張って歩きます!!」


神様はジチさんの喜びようにとても満足そうに頷いている。


「さあ、最後はフィルだね。僕はフィルのお礼が一番悩んだんだ。3つ、3つのお礼をしよう。1つ、ドフの寿命を少しだけ延ばすから沢山子供を産んで顔を見せてあげなさい」

「はい!ありがとうございます」


「2つ、これは君と言うよりキヨロスとドフだが、箱庭で落とした毒竜の鎧があったよね?アレを少し強化してA級アーティファクトにする事にしたよ。名前は「紫水晶の鎧」で、能力は「紫水晶の盾」に近い防御力で自分だけだだが毒の無効化も可能にした」

「お爺ちゃんの鎧がA級のアーティファクトに…、喜びます!ありがとうございます!」


「そして3つ、「紫水晶の盾」を半分解脱に近い状況にしようと思う」

「ムラサキさんを?」


「ああ、解脱をしてしまうと「紫水晶の盾」は僕の所に帰ってきてしまうだろう?そうしたら寂しくならないかい?だからね、解脱を果たした「紫水晶の盾」が「究極の盾」になって「毒を無効化する際に使用者の身体を使わずに浄化する」と言う部分だけを「紫水晶の盾」に付与しようと思う。この力でこれからも解毒を頼むよ」

「はい、ありがとうございます」


喜んだフィルさんだったが「でも、どうして私だけ3つも頂けるのですか?」と質問をすると神様は「1つはお礼。残りの2つはお詫びだよ」と言った。


「お詫び?」

「ああ。フィル…君は2度死んだ。1度目はあの女が招き入れた魔界の生き物…毒竜によって、そして2度目はあの女の手で「創世の剣」によって…。確かにキヨロスの活躍でこの世に生きているが、それはかなりギリギリの…奇跡と言っても良いくらいの事だ。私とは違うが、神の使いを名乗るものが人に手を下すとは許せない。だからお詫びとして君は3つにしてある」


フィルさんは恭しく頷くと「わかりました。ありがとうございます。ありがたく頂戴致します」と言った。


リーンが「良かったねフィルさん」と声をかけてフィルさんが「ありがとうリーンさん」と返すと、ジチさんが「本当、フィルがいつも頑張っているのを神様は見てるしお見通しって奴だね。だからお姉さんはいつも自信を持てって言ってるの。それなのにキヨロスくんとの事ばかり自信を持っちゃってさ」と呆れるようにお姉さんのように言い、フィルさんが嬉しそうな照れくさそうな顔で「ジチ」と返す。



そのやり取りを見ていた神様が「ふふ」と微笑んだ。


「どうされました?」

「いや、カムカ達にも言ったが私は悪いものばかりを見過ぎていたようだと思ったんだ。いいものだね」


僕は何が良いのか返事に困った。


「ああ、済まない。僕が見てきた世界では、今の状況でフィルの苦労なんかを一方的に無視をして「フィルばかりズルい」「なんでだ?」「どうしてだ?」と自分の利益…損得ばかりを気にする者達ばかりだったんだ。それがリーンもジチも不平を感じることもなく、喜んでいて…それが嬉しくてね」


「そうだったんですね。3人とも凄く素敵な女性です」

「そうだね。ありがとうキヨロス。君たちのお陰でこの世界を失わなくて済んだよ」


そして神様は僕を見て一つの事を言い出した。

「もう1人…1人?今回の件で自分が功労者として褒美を求めてきた者が居てね。僕の一存では決めかねていてキヨロスの意見が欲しいのだが、いいかな?」

「はぁ……、誰だろう?」


そもそも神様に直接言える人って誰だろう?と思っていると「僕ですよー!」と言う声と共に僕の肩に止まった一羽の小鳥。僕を散々助けてくれた僕の相棒。


「トキタマ!?」

「はい!僕ですー」


「え?君が神様に褒美を求めたの?」

「はい!お父さんが頑張れたのは僕が一緒に沢山跳んだからです!」


何という事だ…、何かトキタマは最早アーティファクトを超えた気がする。


「そうなんだ…キヨロス。もう、この「時のタマゴ」は「時のタマゴ」ではなくトキタマと言う存在になったと言える。それで、この者は褒美として毎年1年に1日だけキヨロスの元に遊びに行きたいと申したんだ…」


「はい!神様が用意してくれた所は凄く暮らし易くていい所なのですが、僕はお父さんの所にも行きたいのです!」


神様は「無論「時のタマゴ」としての能力は無しにしてだが、どうだろう?受け入れてはくれないか?」と聞いてきた。


トキタマが1年に1日だけでも帰ってきてくれる?

僕はとても嬉しい気持ちになった。


「はい!是非!!」と言うと「それは良かった。それでは行く前には連絡が行くようにする。よろしく頼むよ」と神様が言った。


そのまま神様が「では今日はありがとう。さらばだ」と言うと僕たちの周りは光に包まれて神殿の最上階に戻されていた。皆神様からの贈り物に満足していて幸せな気持ちになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺達は神様からの呼び出しで神殿に来ている。

歩いていく話をしていたら授ける者が瞬間移動で連れてきてくれた。

神殿に着くと知らせる者が立っていて挨拶を交わした所で目の前が暗くなる。



目を開けるとカムカが話してくれた広い部屋に居て、目の前には「よく来てくれた。ガク、アーイ」と言っている神様と四角いテーブルに椅子があった。


神様から「さあ、座ってくれ。僕からお礼の話をさせてくれ」と言われた俺とアーイは言われるままに席に座る。


「君達へのお礼は散々考えたのだけど、ありきたりなものしか思い付かなかったのでやめたんだ。僕が君達にするお礼は一時的にだが死者と会話と言うのはどうだろうか?」


この提案に「死者と?」「会話ですか?」と俺たちが聞き消すと「ああ、アーイで言えばお母様やザンネの両親、ガクはお母様と2人のお兄様だ。どうかな?」と神様が言った。


だがどうかと言われても困る。

俺は「アーイ、俺は断るつもりだ、アーイはどうする?」と聞くと「ガク、私もお断りをするつもりだった」と言う。アーイも俺と同じ気持ちだったようだ。



俺が「神様すみません。死んだ者は死んだ者で俺たちの中に居ます。今更会って話すのも何か違う気がしてしまうのです」と断ると穏やかに頷いた神様は「ガク、君の考えはわかったよ。アーイ、君は?」と聞き「私もガクと同じ考えです」とアーイは申し訳なさそうに言う。


神様は気分を害することなく「そうか、それは悪い事をしてしまったね。では僕にできそうな事はあるかな?」と聞いてくれたので俺は「それでは…何個か聞いてもらえますか?その中で可能なものや答えられるものがあれば答えてください」と言った。


「ああ、それでいいよ。何でも言ってくれ」


「では、今死者の話が出ました。死者の世界では母や兄達は、アーイの母達は幸せに暮らしていますか?」

「ああ、それは安心してくれ。何事もなく暮らしているよ」

この言葉にアーイが「良かった…」と言って涙ぐむ。


「次の質問です。ウエストとノースが和平を結ぼうとすると王族が暗殺された件です。あれはすべて魔女の手によるものですか?ウエストとノースの人間は無関係ですか?」


「それを聞いてどうするんだい?」

「ウエストのものが暗殺をしていたのならノースに正しく謝罪をしたいです」

「ノースもウエストの王族を暗殺していたのならキチンと謝罪をしたいです」


「全てあの女がやった事ではダメなのかい?」

俺とアーイは「はい」と答えると神様は「素晴らしいまでに実直だね。だが安心して欲しい。全てあの女がやっている。暗殺に人間は関わっていないよ」と言ってくれた。


「ありがとうございます。ホッとしました」

「私もです」


「それは良かった。他に何かあるかい?」

この言葉にアーイは心配そうに「地獄門はどうなりますか?」と聞いている。

俺も気になったので「そもそも地獄門はなぜこの世界に存在をしているのですか?」と聞く。


「その事か…、まずはガクの質問に答えよう。地獄門は君達が魔女と呼ぶ者達を作った神がこの世界と自身の作った世界を繋げた為に僕が置いたもの。先日、キヨロスには話をしたが彼女にはアーティファクトの創造の時に意見を求めていたんだ。彼女自身も僕に触発されて新たな世界を創造した」


神様はとても辛そうな顔でそう言う。


俺が「それが魔界…」と呟くように聞くと神様は「ああ、そして彼女は出来た世界を繋げたいと言ってきた。だが、彼女の世界はこちらで言えば魔物の世界。この世界とは全くの別物だ…。門の向こうにいる生き物達がこちらに自由に来られたら困るから地獄門を作って勝手に入ってこられなくした」と言った。


深呼吸の後で神様が「彼女はそれを良しとしないで門の廃棄を求めてきた。だから限定的にだが「地獄の門」のアーティファクトを作って納得してもらった」と続けた。



「それが地獄門…」

「ああそうだ。そして今その処遇に関して僕自身もすごく悩んでいる。1つ目はツネツギの存在、彼は地獄門…と言うかあの女の世界とこの世界が繋がっている事が作用して偶然この世界に呼ばれてしまった存在で…地獄門やあの女の世界との繋がりを消すと言う事は彼をこの世界から消すと言うことになるかも知れない」


アーイは黙って話を聞いている。

てっきり1人と世界を比べないで欲しいと言うかと思った。


「2つ目はあの女の存在。この世界と彼女の世界が繋がっているから大人しいだけで繋がりを消した場合には暴れ回ってまたあの手この手で世界を滅ぼしに来るかも知れない」

神様は目を瞑り、首を横に振る。

本当に悩まれて居るのだろう。


「地獄門の事でもう一つ良いですか?」

「いいよ、何?」


アーイの「何故神様は門を開けるのにノースの王族を使う事を選ばれたんですか?」という問いに神様は「…僕は選びたくなかった」と言うと頭を抱えて机に向かってうなだれてしまった。


「魔女…いや、魔女の神ですか?」

「ああ、「地獄の門」以外にも要求された。門を閉じるのは構わないから開ける方法を用意しろと、そして僕はノースに門を設置したのでノースの王族を、門を開けるのに必要な存在にした。せめてそうすれば王族は無闇に殺されないと思った」


その後の神様の説明は聞いていて辛くなった。

魔女の神は別に自分が作った魔界に愛着なんてなく、どちらが優れた創造神かを証明する為に魔界を使ってこの世界を滅ぼす事を目的としていた。

よって神様が解決に乗り出したとしても世界は滅ぼされる事になる。

「お前が俺の世界を壊すならお前の世界を壊す」と警告をしても「ご自由にどうぞ、私にそんな脅しは通用しないの。あなたの世界を滅ぼすわ」と飄々と答えられてしまう。

守るものがある者は強いが、その守るものが弱点にもなる。

もし、神と神の戦いになれば余波でどの道世界は滅びる。

神様には打てる手は一つしかなかった。


地獄門を受け入れさせる為に鍵となるノースの王族を用意して、そして魔物と戦う為に戦闘用のアーティファクトを作る事だった。

ただ、本来は用意すらしたくなかった戦闘用アーティファクトの用意をする事は苦渋の決断であった事。魔物の強さとアーティファクトのバランスを持たせる事が辛く厳しい作業だったと言っていた。


アーイは何も言えないで居た。


「後は何か聞きたい事はあるかい?」

「いえ、特には」

「私もありません」


「そうか。後はお礼の件だね。この話がお礼になるとはとても思っていないんだ。何か希望はないかな?」


俺は思い付かなかったのだが、アーイは神様を見て「もしも許されるのならお願いを聞いていただけますか?」と口を開いた。


「なんだい?言ってみてくれ」

「弟を…、カーイの身体を健康にして貰えませんか!?」


「君の弟を?」

「はい!今からでも遅くないので外の世界へ出してあげたいんです!次の王として立派にして、アーティファクトを授けて貰えるようにもしたいです!そして、今神様から聞いた地獄門の成り立ちを話して王としての自覚と強さを身につけさせたいです」


ニコニコと笑顔で優しい面持ちの神様。


「そうだね、カーイはとても優しいいい子だけど、まだ世間を知らない所がある。

そして理想に向かうだけの力も体力も足りない。いいよ。アーイの願いがカーイの健康なら僕はそれをアーイへのお礼にしよう!今すぐ突然にだと驚いてしまうから、明日の朝…目覚めた時にしておくよ。今日帰ったら知らせてあげるといい」

明るい笑顔で目に涙を浮かべて「ありがとうございます!」と喜ぶアーイを見て俺も嬉しい気持ちになる。


しかし同時に、そういう願いも許されるなら俺にも一つあったな…と思ってしまうと神様が「ふふ、いいよガク。その願いを叶えよう」と言ってくれた。


俺は驚いて「え?神様?俺の心を?」と聞くと神様は「ああ、読ませて貰ったよ。素敵な願いじゃないか」と言って俺に微笑む。


アーイが興味深そうに「ガク?何をお願いしたの?」と聞いてくるが、アーイに関わる事なので俺は恥ずかしさで「あー…、そのだな…」と言って困ってしまう。


「ガク、照れずに言えばいい。言いにくければ僕が言おうか?」

「いえ、自分で言います」

俺は照れて真っ赤になってしまうとアーイが心配そうに「ガク?」と聞いてくる。


「アーイ、お前…前にウエディングドレスを試着した時に戦闘でついた傷を気にしていただろ?それを取って貰って綺麗にして貰えたら喜んでくれるのではないかと思ったんだ」

そう、アーイは俺に肌を晒す時に姫なのにボロボロの肌、細かい切り傷や、矢を受けたような傷を気にしていた。

俺はもしも、俺の願いでその傷が無くなればアーイが喜んでくれるのではないかと思ったのだ。


「いや、無論戦う者として剣姫として、傷は勲章でそれを取り除くなんて馬鹿にして居ると思われても仕方ないと思う。だが、もし本当に気にしているのならと思ってだな」

俺は最低限、アーイのプライドが傷つかないように配慮した。


…つもりだ。



アーイは嬉しそうに俺を見て「ガク…」と言う。その姿を見た神様は「どうやらその願いをお礼にする事でいいみたいだね」とニコニコと笑顔で言うとアーイに「心の準備はいいかな?」と聞いた。


「はい」と言ったアーイは俺を見て「ガク…折角の願いなのにいいのか?」と聞いてくる。俺は頷いて「ああ、アーイが喜んでくれるならそれ以上のモノは思い付かない」と言った。


アーイが「ありがとう」と言うと、その言葉を待っていたかのようにアーイの身体は光り輝き、直後に傷ひとつない姿になったアーイがそこに居た。


アーイは細かい傷の多かった腕を見てみるが傷は一つも無かった。


目を潤ませてアーイは「ありがとうございます神様!」と嬉しそうに言い、俺にも「ガクも願ってくれてありがとう」と言う。俺は嬉しい気持ちで微笑んで「いや、アーイが喜んでくれて俺も嬉しい」と返した。



神様が「じゃあ、これでおしまいかな?2人とも、今日はありがとう」と言い、俺達が「いえ、こちらこそありがとうございました」「本当にありがとうございます」と言うと目の前が光り、光が収まると俺たちは神殿に居た。


とりあえず帰ったらカーイに連絡をしよう。

明日の朝を楽しみにしろとアーイと言いたい。

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