第88話 サンドボックス ガーデン。

俺とルルの所に神の使いが来たのは最後だった。

皆、律儀に呼ばれる度に呼ばれた事だけ話して詳しい事は神様に悪いと言って話さなかった。


ルルは奈落の実験室と研究室がアーティファクト・キャンセラーで壊れた事を未だに引きずっている。

研究内容が別に頭に入っているのなら今のうちに書き記せばいいのに、それも面倒くさがってやらないでいる。


コイツ…神様のお礼で奈落を取り戻すつもりだな?


広い部屋に呼び出された俺達に向かって神様は「うん、いいよ。ルルのお礼はそれで良いかな?」と言ってあっという間に奈落を復元させてくれた。


目を輝かせたルルが「本当に奈落は元に戻ったのですか!?私の研究室も実験室も!?」と聞くと神様は「うん、全て君達の結婚式当日に戻しておいたよ」と言う。


ルルが「ありがとうございます!!」と感謝を告げると深々と頭を下げると神様は「いやいや、お礼がハッキリしているだけ僕も助かるよ」と言った。


神様を困らせるなんてキヨロス達は何を願ったと言うのだろう?


「ルル、君の知識と行動力は称賛に値するよ。是非ともアーティファクトに関して君の見解を聞きたいのだがいいかな?」

「はい、アーティファクトは人の可能性、人が手を取り合って助ける為の掛け橋になります。

アーティファクト自体は想像力の強い者程威力を発揮できると思っています!」

ルルがハキハキと答えると「素晴らしい答えだよルル。ありがとう」と神様は言った。


「そう、僕はアーティファクトで人の得手不得手を補い合ってもらってさらなる幸せを目指して欲しかったんだ」

神様もニコニコとルルを見ている。

教え甲斐のある生徒と言った所か?


「神様、失礼ついでと言うか質問をさせてください。人工アーティファクトで「勇者の腕輪」や「瞬きの靴」が私には再現出来ませんでした。あの魔女には「瞬きの靴」を回数制限の条件つきとは言え再現出来ていて…、その辺りについて御指南いただけないかなと…」

ルルの奴がここぞとばかりに頼み始めた。


「構わないけど、口にするのは難しい概念的な話になるけどいいかな?」

「はい!」


「マリオンが持つ擬似アーティファクトの「勇者の腕輪」はツネツギの「勇者の腕輪」とは全く別物なのは理解出来ているかな?」


そう言って神様はルルに説明を始めた。


俺の出来の悪い頭で聞いた事をまとめると、擬似アーティファクトの方で出す光の剣は「腕輪から光の剣が出ると聞いたから光の剣を真似てしまおう」という立ち位置で作った物でルルが目指して作ろうとした物は「光の剣を出す腕輪」を自らの手でいちから作ろうとしたからうまくいかないだけと説明をされていた。

俺の理解力で言えば、マリオンの方は腕輪でなくて剣と盾を作り出す光のアーティファクトと言うことかな?


「瞬きの靴」に関しては、神様は自分を目的の位置に瞬間移動をさせるのではなく、自分の位置座標を世界に対して認識させて世界に移動をさせると言っていた。自分で動くか世界に動かしてもらうかと言う事で良いのだろうか?


この説明にルルは「そうか、そう言う柔軟な考え方が必要だったんですね!!」とありがたいと言って凄く感謝をしていた。



神様はルルに「いや、僕もこういう話を人間と出来る日が来るとは思っていなかったから嬉しいよ。一応言っておくと、「時のタマゴ」「奇跡の首飾り」「愛」はどうやっても複製は不可能だからね。あれは神の領域に触れて初めて実現可能なアーティファクトなんだ」と言って釘を刺しはじめ、俺が疑問に思うと「何でそんな事を言うんだろう?と言う顔をしているねツネツギ。これはルルの貴重な時間を浪費させたくない僕の気持ちだよ。その時間があれば更に凄い事をルルならできるかもしれないからね」と言った。


そう言えば、神様にはお見通しって言ってたな。

流石だ。


「さて、話を戻そう。ツネツギ…、伊加利 常継くん」

「ここじゃツネツギでいいですよ」


「そう、ツネツギ。では君の話に入ろう。まずは謝らせてくれ。君がこのガーデンに来たのは全くの偶然、奇跡だった」


俺が「「勇者の腕輪」が俺を召喚したんだろ?」と聞くと首を横に振った神様が「本来、「勇者の腕輪」はガーデンの中から勇者を召喚するんだ。しかも道を示す者が選び出して育て上げた勇者カムカが居た。本来なら召喚の儀式にアーティファクトが反応をするのなら君ではなくカムカがその場に呼び出されるんだ」と言った。


「何?どういう事だ?」

そう聞いた俺に神が物凄い顔をして申し訳なさそうにしながら「それを説明するにはガーデンの成り立ちから話す必要がある。そこから聞いてくれるかい?」と言う。


俺は頷いて「ああ、話してくれ」と言ったが神様の話は長かった。

そして大変な話だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


神様は創造神としての力に目覚めてから数多くの世界を作ってきた。

ガーデンのように剣と不思議な力の世界もあれば争いの無い世界。

心穏やかな魔物だけの世界。

だが、運悪く神様の周りには邪神が多く居た。


「邪神…と言っても、僕と反する存在なだけで向こうの神々は自身を邪神だとは思っていないよ。中には僕よりも力を持った創造神も居たんだ。彼たちの独創性は見事だった。僕は創造神の本能に従って沢山の世界を作った。出来るなら他の創造神と切磋琢磨したかった。基本、作った世界は誰でも閲覧可能な環境で神々には丸見えだったしね」


そう言って話す神様の顔はとても悲しげで思い出すのも辛いと言う顔だった。

神様が自身よりも力を持っていたと言う創造神は、早々に創造の大変さ、時間と結果のコストパフォーマンスの悪さに世界を作る事を放棄してしまったらしい。

だが、作る事を放棄したのならそれだけで済ませばいいのに、他の創造神は神様の作った世界を批判する事で創造神の本能を満たそうとしたと言う。


神様は泣きそうな顔で「彼らは散々批判した後でいつもこう言うんだ。「自分がやればお前よりいいものが作れる。ただ…今はやらないだけだ」と…」と言う。

俺からすればやらない奴がいくら偉そうに言っても無駄だと思うのだが、この神様は実直で真摯なのだ。

自分の子供たちとも言える世界が認められないのは自分の創造神としての力が悪いと思ってしまったと言う。


そして他の創造神はいつの頃か、創造を忘れて怠惰や快楽に捕まって邪神になっていく。

それらを司る神も居るのでそれ自体が悪い事ではないと言う。

だが、神様に言わせれば、別の神になったのであれば未練がましく創造神の場所に居るべきではない。

それは俺もそう思った。


「流石にね「まだお前は創造なんてやってんのか?暇だな」と言われた時はショックだったよ。他の神々が創造神から別の神になっていくのは仕方ないと思うんだけど、僕の本能を自身の尺度で測ってまるでそれが正しいように批判をしてくると言うのは辛かったよ。見まわしたら大半が批判をする邪神になっていて、批判する事で本能を誤魔化している神々ばかりだったんだ。

僕の世界を正当に評価してくれた神は数名しかいなかったよ」


改めて周りを見た神様は周りの創造神の大半が創造をやめていて邪神になっていて更にその大半が批判をする事で自身の存在意義を確認するようになっていた事に愕然として、その場を離れる事にしたと言う。


「そして僕は全ての世界を捨てる事にしたんだ…。それなりに手は入れていたんだけど、他の邪神が周りに向けて力を誇示する為に滅ぼされた世界もあったしね。そして古参の神の所に身を寄せる事にした」


そう、それが日本だった。

地球を作った創造神は古い神様で、ガーデンの神様が心に負った傷を癒す為に身を寄せる事を許可してくださった。

まあ、条件は多少あったが、その条件は「必要以上に神の力を行使しない事」だったので願ったり叶ったりで日本に住む事にした。


「僕は日本では、東 京太郎と言う名前で生活していて、そこでプログラマーをしているよ」


ん?聞いた事ある名前だなと思っていると俺の心を読んだ神様は「そうだね、ツネツギ。直接話したことはないけど、僕は君を知っている」と言った。




話を戻そう。

神様は神の力を2度ほど使ったと言う。

勿論地球の神様の許可は得ている。


1度目は自分を日本人「東 京太郎」として周りに認識させるため、住民票、保険証等を作るために神の力を使ったと言う。


そして2度目が問題だった。

東 京太郎として生きていても世界を創造したいと言う本能はずっと湧き上がっていた。

プログラマーと言う仕事上、モノづくりをする事で多少は気が紛れたが、それでも日増しに世界を創造したい気持ちは大きくなっていく。

だが、神々の世界に帰って世界を創造したとして何になる?

また無駄に批判をうける事になる。

素晴らしい世界だとしても作った神が自分だと分かった瞬間に掌を返して批判してくる邪神たち。



話していて神様は「素晴らしい子供たちを批判されるのは何より辛いんだ」と言って遂に泣いてしまう。


ちなみに俺は批判の内容を聞いて愕然とした…と言うか呆れてしまった。


「この世界、見てみろよ、どこかでみた世界だと思わないか?」

「この勇者の髪の色を見てみろよ、別の神が創造した世界に居た勇者と同じだ」

「この世界の名前も見たことあるぜ」

とにかく何かにつけて寄ってたかって別の世界の模倣だと決めつけて批判する。

他の創造神が模倣をやっていても「仕方ない事だ」「間違っていない」


などと邪神たちから決めつけられる日々だったと言う。


「おかげで僕は村の名前一つ付けられない神になってしまったよ」


神様自身も愚かな事だとわかっているし、気にする事もない事だとわかっているのだと言う。だが名付けすら出来なくなったと言う。


そして日本で別の神と出会ってしまった。

それは女型の神で同じ創造神だった。



そう、あの魔女を作った神だ。

魔女の神は「2人で世界を創造しましょう」と言って神様を誘った。

2人で一つの世界を作るのではなく、2人で世界を同時に作って切磋琢磨をしようと持ち掛けた。


それは神様が夢見たものだったのでつい返事をしてしまったと言う。


「だが、やはり誰でも閲覧可能な環境に世界を置くことに抵抗があった。でも僕は世界を作りたかったんだ」

その顔は思い出を話しているはずなのに目の力は強かった。

本当に神様は世界を作りたかったことが伺える。


「ツネツギ、君たちの世界に「サンドボックス環境」と言うものがあるのは知っているかい?」

「ああ、PCの中で隔離された安全な空間だ…あ」


「そう、僕はPCの中にサンドボックス環境を構築してその中で世界を創造することにしたんだ」

え?…じゃあ俺は今PCの中に居るのか?

いや、それよりも横で俺達の話について来ようと努力しているルルはどうなる?

「おい、じゃあルルは?カムカは?キヨロスは!?みんなは!!」

俺は自分の事よりもルル達の事が気になってしまった。


「安心してくれツネツギ。ガーデンの人間、その命は皆本物だ。ただ他の神々に見つからないように、地球の神様の世界の中で閲覧不可能な世界を作っただけなんだ」


良かった、ルルもみんなも人間だと言う。

俺はひとまずそこに安心をした。



それが2度目に神の力を使った時だという。


ここまで聞いて俺の疑問の大半が埋まっていて、その後は答え合わせのように神様に対して確認作業をした。


「じゃあ、命の絶対数って…」

「ああ、サーバーの負荷から考えてそれ以上の人間が増えるとマシンが壊れてしまう。だから僕は人間を守るために動物類はかりそめの命しか与えていない。基本ルーティンに沿って生きている。そして死んでも一定時間でリスポーンするように設定をした」


「世界地図が無茶苦茶だったのも…」

「世界を創造した時の僕は疲れてしまっていて世界地図も作れなかったんだ。

だからこんな形になっている」


「もしかして言語も日本語か?」

「そうだね。新しい言葉を作っても良かったのかもしれないが、万一他の邪神に見つかって「見覚えがある」と言われても辛いから、今身を寄せている日本に合わさせてもらったよ」


話に熱の入った神様は「おっと、脱線してしまったね。話を戻そう。話はあの女と世界を作った時になる。僕は完全なサンドボックス環境で世界を作りたかった。安心に安全で皆が笑顔で過ごせる世界を夢見ていたんだ…」と言ったが、作り始めてから魔女の神は豹変する。


俺の直感だが、魔女の神は神様の力を過小評価していたのだろう。

最初は上から目線で近づいて自己評価の低い神様を助ける事で優越感に浸ろうとした。

だが、実際に世界を作ってみると精度や内容が真似できないクオリティだった。

それで神様に対しての態度を変えた。


まず、これは神様の落ち度だが、切磋琢磨しようとしていた相手が作っている世界は魔物の世界…魔界だった。

そしてそれをガーデンに繋げたいと言い出して、ダメなら世界を滅ぼすし、今後も付きまとって邪魔をすると言うものだった。


「なあ、神様。何とかうまい事共存の道は探せなかったのか?」

俺は同じ日本の人と言う事で徐々に敬語が無くなってしまっている。


「無理だよツネツギ、僕はこの世界をガーデンと名前を付けたように、あの女も自身の作った世界…魔界に名前を付けていたんだけど「パラダイス」って名前だったんだ。もう出だしからここまで感性が違うと話にならないよ」


魔界をパラダイス?

それは理解不能だ…


そして魔女の神はアーティファクトにアレコレ口を出し、この世界に「龍の顎」「創世の光」「暴食の刀」を半強制で作らせた。

そして神様が6人の使いを用意して管理を任せると、自身も6人の分身を作り出して「ガーデンを滅茶苦茶にしろ」と命令をしたようだった。


「イタイ奴に目を付けられましたね」

「うん、日本でテレビを見ているとそう言う危険な奴って結構いるね」


で、俺がサンドボックス環境だったこのガーデンに呼ばれたのは魔界と地獄門が影響をしていると言う。


「本来、サンドボックス環境が正しく機能していれば「勇者の腕輪」に召喚されるのはカムカだったんだ、だが魔界はサーバーには置かれていたがオープンな環境だった。

ツネツギ、君は僕の勤務先にバイトでVRのテストに来ているだろう?

君の行き先はVRではなく魔界を通じてこのガーデンになってしまった」


何という事だ…俺は外の世界でどうなっているのだ?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


VRで意識だけがガーデンに来ている?

では俺は外の世界でどうなっているのだ?

そう言えば俺が召喚されて随分と経っているが御代はどうなった?

大学受験は成功したのだろうか?


俺はその部分を神様に聞くと「君がガーデンに入って本当なら3か月が過ぎた」と言われた。


「約2年の日々が3か月?」

「ああ、僕はガーデンの発展を早く見たくてね。時間の流れを早めているんだ」


「それはわかった。俺の肉体はどうなっているんだ?」

「原因不明の意識不明で病院に搬送されて今も昏睡しているよ」


「マジかよ…、じゃあ御代は?妹はどうなった?」

「ツネツギ、落ち着いて聞いてくれ。妹さんは…彼女はそもそもガーデンに来ていない」



神様の言葉に俺は「はぁ?何を言っている?妹は…御代は魔女の毒で昏睡になって、それでサウスからフィルさんに来てもらって…ルルだって会っていて…」ともう敬語も何も無くなっていた。そんな俺に神様は「その妹さんはツネツギ、君が作り上げた者だ」と言った。


「俺…が?」

「ああ、恐らく君の魂は1人でガーデンに来た場合に君が耐えられなくなると感じたのだろう、そして妹と一緒に召喚をされたことにしてガーデンに順応をしていったんだ」


「じゃあ、「創世の光」を取った時に光に飲まれて消えたのは?」

「あれはそういう演出だと思う」


「んぎぎぎぎぎ、なんだそりゃ!?」

俺はもう無茶苦茶だった。


「本当に俺の苦労は何だったんだ?」

「うん、ガーデンは救われたよ。ありがとう勇者ツネツギ!」

神様が満面の笑みで俺に感謝を述べる。


うっせー、ばーか。と言いたかったが心を読むというので思っておくだけにした。


「さて、ようやくお礼の話が出来る。まず1つ目だ。元の世界に帰れるようにした。帰ると念じてごらん。念じれば君は元の世界に帰れる」


ここでルルが俺を見て悲しげな顔をして「ツネツギ…」と俺の名を呼んだ。


そう、俺からの願いはまた別にある。それを告げるべく「神様」と言うと神様は「ああ、それはルルへのお詫びで考えてあるよ」と言った。


俺は驚いて「え?」と聞き返すと神様はルルの方を向いて頭を下げて「ルル、この度は僕の手違いで異世界の人間をガーデンに召喚することになってしまった。そしてその人間を最愛の人として結婚をした君の事を考えると、何て言って謝っていいかわからなくなる」と言った。

ルルは「いえ…、神様。私はツネツギを、この男を愛した時からこの日を覚悟していました」と言って気丈に振舞うが大粒の涙が止まらない。


居てもたってもいられない俺は席を立って「ルル!」と名前を呼びながらルルを抱きしめると、ルルは俺の胸で「ツネツギ…ツネツギ…」と言いながら泣く。


「ルル、話を続けていいかな?」

「はい…」

そうは言ってもルルは泣いている。


「ツネツギを元の世界に帰す。これはツネツギへのお礼の一部だ。そして向こうでの生活を保障する。そこも含めて1つ目のお礼にする。先にツネツギへの2つ目のお礼を言わせてほしい。ツネツギ、君はこれからもガーデンに来れるようにした」

俺より先にルルが「え…?それって…」と言い泣き止んで神様を見る。


「いいのかよ?」

「ああ、そこは向こうの世界で話そう。時間の流れが違う事とかも体感してもらいたい」

ルルがまた泣きだして「ツネツギぃ…」と名を呼びながら俺に抱き着く。


「離れないでいいのだな?私はツネツギと離れ離れにならないでいいのだな?」

「ああ、神様はそう言ってくれている」

俺も嬉しかった。

嬉しさのあまりルルを抱きしめる手に力が入ってしまう。


「さて、ツネツギ…邪魔をしてしまうが、一度元の世界に帰ってみてくれ。僕はその間にルルに話がある」

「え?今帰るの?こんなに仲良く抱き合っているのに?」


「そっちの方が都合がいいんだ」と神様が言うので俺は渋々元の世界に帰る事にした。


「ルル、すぐに戻る。待っていてくれ」

「うん、待ってる」


そして俺は帰ると念じた。

一瞬意識が遠のいた俺は気が付くとVR装置の中に居た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ツネツギが行ってしまって、今私の目の前には神様が居る。

神様は私を見て「うん、無事に帰れたよルル。安心して欲しい」と言ってツネツギの無事を知らせてくれた。

また来れると言ってもガーデンとツネツギの世界は時の流れが違うと言う。

次にツネツギが来るまで私は1人だ。


そう思うと途端に寂しくなってしまい涙が出る。

おかしい、奈落での生活はずっと1人だったのに、なんで今更1人が嫌なのだろう?



涙を拭った私に神様が「ルル、話していいかな?君へのお詫びの件だ」と言った。


「2つある。まず1つ。ツネツギの世界とこの世界の時の流れを同じにしたよ。これで君がツネツギを待つのは少しの時間になる。」

「本当ですか!?」


私は嬉しかった。

住む世界の関係で多少離れてはしまったが同じ時を生きられると言うのは嬉しい。


頷いた神様は「そして2つ目だ。目を瞑って」と言った。

私が「え?」と聞き返しても「いいから早く」としか言わない。



私は素直に「はい」と言って目を瞑り、5秒もしないで神様が「もういいよ」と言う。

目を開けた私の前にはツネツギが居た。


表情は普段通りを装い、「ツネツギ…もう帰ってきたのか?早すぎないか?」と言ったが、私は嬉しくなって抱き着いてしまった。


「ルル、ただいま」

その話し方も声もツネツギのものだった。

だが、このツネツギは目の色と髪の色が金になっていた。

どういう事だ?


神様は「うん、大丈夫そうだね」と言って満足そうに微笑むと「ルル、これはツネツギの約2年間の積み重ねから作った「ツネジロウ」だよ」と言った。


「ツネジロウ?」

「ああ、これからツネツギが不在の時はツネジロウがツネツギとして君の隣に居る」

…なんだ、これはツネツギではないのか…。

いくら姿かたちがツネツギと同じでも違うものだとすればそれは違うのだ。

私はついがっかりしてしまう。


「ルル、ちょっとツネジロウをよく見て待っていて」

神様がそう言うので私は言われた通りにツネジロウを見ている。


一瞬、ツネジロウが揺れた風に見えた後、目と髪が徐々にツネツギの黒色に染まっていく。

そして完全に黒色になった時「よう、ただいま」と言った。


「ツネツギ?」

「ああ、何だルル…寂しかったのか?抱き着いて泣くなんて。可愛い所があるじゃないか」


何故それを知っているのだと思い「え?」と聞き返すと神様が「そっちも成功だね。ルル、これが君へのお詫びだ。ツネツギの不在時にはツネジロウとして行動を共にする。そしてツネツギが帰ってくるとツネジロウの時に起きた情報は一気にツネツギに反映される。だからツネジロウをツネツギと思っていいんだ」と途方もないスケールの話をしている。


よくわからなかったが、ツネツギが帰るとツネツギはツネジロウになる。

ツネジロウはツネツギと同じ考え方の人間で、ツネツギが帰ってくるとツネジロウはツネツギに戻る。そしてそれまでの話等を全部ツネツギが知ることになると言う事なのは何とか理解が出来た。


ツネツギは「これで寂しくないよなルル。俺もツネジロウのお陰でお前との距離が広がらないで済んで嬉しいぜ」と言って笑う。



私は改めて「ツネツギ!!」と名を呼びながら抱き着いて泣く。

もう2度と一緒に居られないと思ったツネツギが目の前に居てくれる。

その事がたまらなく嬉しかった。


神様が「ツネツギ、あっちの世界でもこっちの世界でもこれから宜しく」と挨拶をする。


ツネツギが「ああ、俺の方こそよろしくお願いします」と言うと神様は頷いて「じゃあまた」と言って私達を神殿に帰らせる。

何があったかは帰ったらツネツギに聞くとしよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


神様の指示でガーデンを出た俺はVR装置の中に居た。


「おはよう伊加利 常継くん」

そう言って機械の外から声をかけたのは神だった。


「お前!!?」

「しーっ、ここでの僕は東 京太郎だからね」


そして、今までの経緯を聞いた。

俺が昏睡だった3か月に関しては、地球の神様と東京太郎の協議で無かったことにされた。

一応はあの女の邪魔が無ければ起きなかった事故だからだ。

東京太郎はこの世界で3回目の神の力を使って時間を戻し、俺はバイトから東京太郎の助手でそれも正社員と言う位置づけになっていた。


VR環境のテストプレーヤーの仕事は昏睡前と変わらないのだが、俺がテストをするのは「ガーデン」と言う名のVR世界でのテストプレーヤーと言う事で、ガーデンでルルと暮らす日々が仕事になってしまった。


「いいのか?」

「構わないよ。このガーデンは外には出さないが、仕事で結果を出さないとガーデンのサーバー代が賄えないから致し方なくガーデンをコピーしたガーデンを作ることになったんだ。

「フリーライフゲーム」というジャンルで売り出す事になった」


「何?コピーされるのは何だ?ルルやみんなも居るのか?」

「いやいや、僕だって可愛い子供たちを見世物にはしないよ。コピーするのは世界だけで、地図から何から新規で作るよ。人間も1から始めるんだ。基礎設計をコピーして引き継いで、後はツネツギが体験した物とかストレスに感じたものとかを参考に世界を作るんだ。だから君はガーデンの為にガーデンで暮らす。それがこっちでの仕事になったんだ」


何という事だ…


「さて、早速ガーデンに帰って貰えるかな?ルルが泣いている」

「…あ、ああ」

俺はそうして装置の中に入る。


目の前に広がる景色を見ていると自分自体がよくわからなくなる。


そして次の瞬間、目の前には俺を見つめるルルの姿があった。


俺の不在時にルルが寂しくないようにと神が「ツネジロウ」と言う存在を用意してくれていた。

ツネジロウは俺が戻ると、ガーデンでした事や話した内容何かを覚えていて俺に反映してくれる。


これならガーデンと日本での二重生活もなんとかなりそうだ。









そしてガーデンと日本の二重生活が3年過ぎた。

今、俺の腕の中には産まれたばかりの赤ん坊が居る。


…結婚をしていればそういう事もある訳だし。

こういう事にもなる。

一応、神様兼上司様は俺の立場を加味して俺とルルだけは子作りの成功率を50%にしてくれていたのだが、この度めでたく俺はパパになった。


この3年でカムカの所は、男の子の次に女の子の双子が生まれ。

ガクとアーイの所は男の子が生まれた。

キヨロスの所はリーンが男の子。フィルさんが女の子と男の子、ジチさんが女の子を2人生んだ。

つい先日結婚したナックとマリーのところはもう妊娠している。

着実にガーデンには新しい命が増えている。


地獄門は俺が来る関係とやはり魔女の神の仕返しが怖いので残してあるが、出てくる魔物は小物ばかりだし、ザンネに鍛えられたカーイのいい練習台になっている。



遂に去年売り出した「ガーデン」と言う名の日本限定のゲームは非常に評判が良く売れ行きも好調で20年分のサーバー代があっという間に稼げたと神様は喜んでいた。

それはそうだと思う。AIと言う事になっているがゲーム内の人間は全て神様が作った次の世界の人間で、外の世界からくるプレイヤーを楽しませるスタッフとして世界中の人間がテーマパークのスタッフのように働いてくれているのでつまらない訳がない。


神様は今回の成功で命の絶対数を増やしたりガーデンの地図を大きくしてもいいかもと言っていたが、俺は反対した。

あくまで俺達のガーデン、サンドボックス ガーデンはこのままでいいと思う。


ルルが「ツネツギ、何をボーっとしている?」と言いながら俺の元に来る。

今日は3人でサウスの温泉に遊びに来ている。


妊婦に温泉はNGと言われていたのでルルは出産まで温泉を我慢していたのだが、今日はようやく温泉に入れるとあってルルは朝からご機嫌だ。


「ほれ、ルル。一人でのんびり入って来いって。ツネノリは俺が見ているからさ」

「うむ…だが、それもそれで申し訳ない」


「3人で入るにはもう少しツネノリが大きくならないと無理だろ?だから気にすんなって」

「ではお言葉に甘えさせてもらおう」


そう言ってルルは嬉しそうに風呂に入って行った。

中からノレルやルノレ、ノレノレの声も聞こえる。

一応万一を心配してノレル達への変身も禁止しておいたので今日はようやくあの3人も外に出られたのでご機嫌だ。



俺は腕の中で眠るツネノリを見る。

「俺達が平和に導いた世界だ。ここでお前はしっかり生きて立派な男になってくれよな」

そう言いながら俺はルルを待つ事にした。


サンドボックス ガーデン 完

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