第86話 降臨した神の悩み。

俺は倒れ込んだままの魔女にダメ押しで全力の一撃を入れると魔女はうんともすんとも言わずにいてブスブスと火の燻る音が聞こえる。


マリオン、俺は足早にマリオンの元に戻る。

そこには前に見た事のある中年、見守る者も居た。


俺が「悪りぃ、遅くなった」と言うとマリオンは「ううん、格好良かったよ、惚れ直しちゃった。身体が動いたら抱きついてるよ」と言うが、マリオンの身体は下半身と右腕は肘から下、左腕は肩から…、俺が失った箇所が真っ黒のままだった。


キヨロスが不満げに「カムカ、やれるだけはやっているけど、ここから先が良くならない」と言うと俺は「ああ、これは俺が失った箇所だ…」と説明をした。


知らせる者が「ここから先は神様を待つしかない」と言うがキヨロスは違っていた。


「見守る者、マリオンを0と1の間に!今この時でマリオンの時を止めて!神様が来るまでこのままに!!」


そうか、キヨロスが悪魔化した時のように、あの真っ暗な世界に行けばマリオンの時は止められる。


さが見守る者は「うぅ〜ん」と深く唸り、知らせる者が「ダメだ!ここで見守る者まで力を使えば、処罰を免れる神の使いは記す者だけになる!君たちの話の通りなら与える者も処罰の対象だ、これでは神の使いは全滅だ!」と声を上げる。


キヨロスが怒った時の顔で「それが何?今、マリオンを治しながら聞いたけどさ、僕達がしてきたしなくていい苦労は誰のせい?フィルさんの両親やカムカやみんなの家族が流行り病で死んだ原因は誰?二の村が滅ぼされた原因は何?イーストが大変なのは?」と言って知らせる者を睨むと「カムカもマリオンも優しいから我慢してるんだ、僕なら許さない」と言うと知らせる者は「ぐっ…」と言葉に詰まる。


「キヨロス、知らせる者は何もカムカとマリオンを困らせたいのではないのです。知らせる者自身も禁止事項に触れながら私や見守る者、道を示す者に知らせたではないですか?」


授ける者の言葉にキヨロスは「それなら知らせる者は邪魔をしないで、見守る者…、あなたはマリオンを助けてくれるの?神様の判断は神様のものだから僕達はもう一度キチンと頼むよ。

それ以外で見守る者は助けてくれる?」と聞くと見守る者は「ううー…」と唸った後で「僕は君たちが好きだから助けたい!」と言った。

良かった、これでひとまずマリオンは助かる。


後は神様にお願いするだけだ、要求がどんなものでも俺は飲む。

両腕と両足を差し出せと言うなら差し出す。


やはり俺が死ねと言うなら俺は死ぬ。

マリオンだけは助ける。


その事を思案しているとツネツギが「おい!カムカ!!」と俺を呼ぶ。


「何だよツネツギ、集中してくれよ」

「魔女は粉々になったか?消えたか?」


「あ?」

「今までも魔女は死体なんて残らなかっただろ?」


…!!!?

その声に俺はハッとした。

しまった、マリオンが心配でそんな大事な事に気が付かなかった。


慌てて魔女を見ると倒したはずの場所に魔女が居ない!!

死んで消えたか!?


そう思った時に空から「アハハハ」と声がした。

空を見ると魔女は空中に居て「おバカさん。このままノースに行って地獄門を開けてやる!」と言った。


「空を飛ぶ!?」

「だから、アンタたちは甘いのよ。アンタ達の神の使いにできない事でも私には出来るのよ!」


くそっ!俺達に空を飛ぶ事は出来ない。

キヨロスに打ち落としてもらうか!?

ダメだ、マリオンが…

見守る者に時を止めてもらってからならキヨロスに…


俺が「見守る者!」と声をかけた時、見守る者が「間に合ったよ」と言った。


「はぁ?」と聞き返す俺の眼前で魔女が「ぐぅっ!?何!?」と言って空中で身悶えしながら苦しんでいる。


段々と魔女の周りにモヤのようなものが絡まってくると、それは大きな左手になった。


「君は何?僕のガーデンで何をしているの?」

単純な大きさではない声が辺りを覆う。

大きい声ではないのに俺達の耳にしっかりとハッキリと聞こえる声。


魔女が「くっ!?神!!」と言って辺りを見ると辺りを覆う声は「君はあの女の使いだね。よくも僕のガーデンで好き勝手に暴れまわってくれたね。記録は読んだよ。君はこの世界に不要だ」と言うと右手が突如空中に現れて中指を弾いて魔女の首を飛ばした直後、魔女の死体は消えた。



そして空中の手が消えると俺達の目の前に中肉中背の何処にでもいる普通と言った見た目の男が立っていた。


男は知らせる者を見て「知らせる者、連絡ありがとう」と言うと俺達を見て「他の神の使いも久しぶり。人間の君たちも初めまして。そしてお待たせ。僕が神です」と名乗った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は真っ先に神に向かって「お願いします。俺の妻を…マリオンを助けてください!!」と言って頭を下げた。


神は俺を見て「君は、道を示す者が選んだ勇者カムカだね。道すがら君たちの活躍は見ていたよ。そして今「愛」を使って瀕死になってしまっているのは、元人形兵士のマリオンだね。ちょっとじっくりと話がしたいけど、時間があまりない感じだね。ひとまずマリオンの時を止めよう」と言うと神はマリオンの時を止めた。


「これでひとまずは大丈夫。時を止めたと言ってもマリオンに意識もあるし話も出来るよね?」

神が声をかけるとマリオンは「え?あ…はい」と返事をする。


神は「良かった」と言うとニコリと笑ってから、回復のアーティファクトを使っていた皆に「もうやめて平気だ」と告げる。



神は「すまないね、ここに来る最中に記録をザっと見ただけだったから事態が飲み込めていないんだ。記す者も呼ぼう。記す者よ、ここに」と言うと目の前にあの子供の神の使いがやってきた。


「記す者よ、久しぶりだね」

「はい、お久しぶりです神様」


神が「早速だけど、今までのログは全部取ってあるよね?出してくれるかな?」と言うと、神様は記す者が提出した巨大な本をめくって読み進めていく。


「ああ、皆が退屈だろうから、今僕がどの辺りを読んで居るのかを説明してあげてよ」


記す者は「はい神様」と返事をすると神が使い達に任せた後の世界、それも知らせる者と与える者の2人が魔女に拘束された辺りからの部分を熱心に読んで居た。

この辺りは俺達が与える者と知らせる者を見つけてから急ピッチで書いたらしい。


この中には俺を含めて経緯を知らないものも居たので、ガクの母親とアーイの母親が魔女に殺されて戦争が始まってしまった事、イーストに「創世の光」がもたらされて、土地が蒸発してしまった事。

サウスの前王が王子だった頃に「龍の顎」を授けられて、他の家族を飲み込んでその力を得てしまった事、そしてキヨロスの旅、ツネツギが召喚されてから魔女を退けるまでの話、ガクとアーイが再び出会って戦争の終結まで進めた事を読み。

そして最後に俺達がここまでどのようにしてやってきて、どのようにしてアーティファクト・キャンセラーを破壊して魔女を止めたかを読んでいた。


神は「ふぅ…」と一息入れると俺達の方を見て「済まなかった。そしてありがとう。神として感謝と謝罪を述べるよ」と言った。


驚いた、神が人間なんかに礼を言うとは思わなかった。

そしてキヨロスをまず見た。


「キヨロス、君は凄いね、「時のタマゴ」を解脱させただけではなく、今はアーティファクトを深い部分で使いこなしている。その若さで100回も時を跳ぶとは驚いた。記す者はその全ても記録してあるから興味深く読ませてもらったよ。今度時間を用意するからぜひ話をさせてくれないかい?」


キヨロスが「はい、構いません」と言うと神は満足そうにありがとうと言って次にツネツギを見る。


「伊加利 常継くん。君は外の人間だね。普通にはあり得ない事だが「勇者の腕輪」が君を召喚したようだ。僕なら君を満足の行く形で日本に送り返すことが出来る。だがそれは今日ではない。後日改めて話をさせて欲しい。それでいいかな?」

「ああ、俺もお願いとかあるし後日にして欲しい」


神は「わかった」と言って頷くと次にガクとアーイを見る。


「ガク、アーイ…ウエストとノースの子供。よく戦争終結に向けて努力をしてくれた。そしてアーティファクトを正しく使ってくれた事、戦う力を求めながら戦闘用のアーティファクトを授かれなかったのに真っ直ぐに育ってくれた。僕は君たちに何か礼を尽くそうと思う。また後日改めて聞く。それまでに考えておいて欲しい」


神の言葉にガクとアーイは「いえ、俺達は何も…」「戦争終結はそこのキヨロスの力があって…」と謙遜したが「いや、それだけでは戦争は終わらなかった。君たちが手を取り合ったから最良の結果になったんだ。自信を持ちなさい」と言うと最後に俺を見る。


「カムカ、道を示す者が選んだ勇者。君の活躍はこの世界を救った。どれだけの感謝をしても足りないだろう。ありがとう」


神の言葉に俺は「では、妻を…マリオンを助けてください!!」と言ったが神は黙ってしまった。


「神様!出来ない事ですか!?「愛」を使ったら死ぬしかないんですか!?俺は今死んでも構わない!マリオンをマリオンだけは助けて欲しいんです。お願いします!!」


俺は必死になって神に頭を下げるが神は難しい顔をして黙っている。


いたたまれない空気の中、マリオンが「カムカ、いいよ…ありがとう。こうやって少しでも長く居られたんだから。神様に無理を言っちゃダメ。私の居ない世界で元気に生きて?ね?」と言って俺を止めるが、俺は必死になって「駄目だマリオン!お前が居なきゃ駄目なんだ!!」と叫ぶ。



「カムカ…マリオン…」

神が口を開く。


「はい!!何ですか!?」

俺はなりふりなんて構わない。

マリオンを取り戻す為なら何でもする。


「僕が人にアーティファクトを授けたのも、今ガーデンから離れていたのも、君たちの願いと同じものが起因している。「愛」の力を上回る僕ならばマリオンを助ける事が出来る」


マリオンを助けられる?


「是非助けてください!!お願いします!!」

「だが、その願いを叶える事を僕は躊躇してしまう。今少し僕に時間をくれないか?カムカ、マリオン…僕と3人で話をさせてくれ」


神がそう言うと俺の前が真っ暗になった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


目を開けると、大きな部屋に居た。

部屋には四角いテーブルと椅子しかない。

俺の前に神が座っていて俺の右側、神の左側にマリオンが居る。


マリオンの黒ずみは引いていて、椅子に座っても平気そうだ。


「マリオン!!大丈夫か?」

「うん、今は何ともないよ。神様がやってくれたのかな?」

神が「ふふふ、目の前の僕よりマリオン何だねカムカは」と言って嬉しそうに笑う。



神はマリオンを見てから俺を見て「マリオンの症状は一時的に消し去ったよ。この部屋に居る間は無事だ。だから僕の悩みを聞いてくれないかい?」と言った。


「悩み?」

「ああ、悩みだ。その悩みが人にアーティファクトを授け、僕自身がこの世界を離れ、今君の願いを聞くか躊躇させてしまっている」


そうか、神にも悩みがある。それのせいでマリオンを助けられないのか…

では、逆に神の悩みを解消すればマリオンは助かると言う事か。


「してくれ、俺が聞く。そして俺の気持ちを伝える」

「私も聞く」

神は困ったような顔だが嬉しそうに「ありがとう。カムカ、マリオン」と言って頭を下げてきた。



神は話し始めた。

神の力は想像力によるものだった。

想像力が豊かならそれだけ力を発揮すると言うもの。

だから神は創造神の1人として世界を作って人を作ったと言う。


このガーデンは今作った中では最後の世界で、今までに作った世界の数は覚えていないし、もう無いと言っていた。それはまた別の理由になるので関係ないとして話してはくれなかったが、神はどこか寂しげな眼をしていた。


神は「僕の悩みはね、神として人の願いを叶える事に疲れてしまったんだ」と言って言葉を続ける。


昔、火事に見舞われた可哀想な家族が居た。

不幸のどん底に落ちた家族は神に「家を元に戻してください」と熱心に願ったと言う。

幼子を連れた家族が焼きだされるのは可哀想だとして神は奇跡を起こして、家を元通りにした。初めは喜んで神に感謝をして元通りになった家に住んでいた家族だったが数年が過ぎ、幼子が大きくなり、家が手狭になると「あーあ、神様もあの時もっと立派で大きな家をくれればよかったのに」と言った。


神はそれを聞いて愕然とした。

神として愛する自分が生んだ世界の子に奇跡を起こしても感謝はいずれ無くなり、悪態に変わる。それを一度ではなく二度三度…数えきれないほどに見てきた。


不治の病の夫を救いたいと願った妻の為に夫を救ったが、数年して夫が不要になったと言って妻は夫を殺してしまった事件。

人々を守りたいからと言う青年に勇者の力を与えたらその力で人間を支配した事件。

そう言った数々のものを見てしまい、神は人間を助けるべきではないと思ったのだと言う。


だが、やはり人間は可愛い自分が産んだ者。

最後の望みとしてアーティファクトを作って授ける事にしたと言う。


確かにそう言うものを見てしまえば、自分が手を出す事に消極的になるだろう。


「わかってくれたかな?「愛」はそれこそ愛する人の為に自分を犠牲に出来るかを見る事も出来るアーティファクトだ。だが私が知りたいのはその先だ。仮にカムカが右腕を失って、マリオンが右腕を差し出したとする。その場はマリオンも満足をするしカムカも感謝をするだろう。だが、その先も腕の動かないマリオンを見ていてカムカは辛くならないか?自身の腕が動かないマリオンは後悔したりしないか?そう思ってしまうのだよ…」


この言葉に俺は「俺は、確かに申し訳ない気持ちになる。だが同時に感謝もする。ずっと俺が守ろうと思う。マリオンに相応しい俺で居ようと思う」と思ったままを告げるとマリオンも「私も腕の事で困った事があれば悔やむこともある。でもその先でカムカの姿を見たらやっぱりやってよかったと思う」と思いを告げる。



「俺は」「私は」


「マリオンを」「カムカを」


「「そう言う愛おしいと思える存在だからその経験でより一層好きになる」」


2人で同じことを言ってしまって顔を見て微笑んで赤くなる。


そう、俺はマリオンが愛おしくて仕方ない。

俺の為に躊躇なく命を差し出してくれた事。

俺ともっと生きたいと泣いてくれた事。

その全てが愛おしくてたまらない。



神が「ふふ、君たちは素晴らしい夫婦だね」と言うとマリオンが「はい、私はカムカの最高の花嫁です」と臆さずに言うと続けて「だからこれからもカムカと生きたいの。二の村をもう一度立派な村にしたいし、私はカムカの子供をたくさん産んでみんなで生きていきたいの。お願い助けて」と神にお願いをしている。


「君たちは20日前に結婚をしていたね。その中で僕に誓っていた言葉があったよね」


ああ、ザンネが聞いていたな「カムカ、あなたはマリオンを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」って…


俺は頷いて「誓いました」と言った。


「その言葉に嘘や偽りは?」

「ありません」


「じゃあ、ここでマリオンが死ぬとしたら、カムカ…君は死を選んでも許されるとしたら死ぬかい?」

「はい」


「救国の勇者として順風満帆な人生が待っていたとしても?」

「死にます」


「見目麗しい、器量良しの娘が殺到したとしても?」

「死にます」


そう、俺に迷いはない。

この命はマリオンに貰ったんだ。

マリオンの為に使って何が悪い?



「マリオンは俺にとって最高の女です。」

俺の言葉に神が「ふぅ…」とため息をつく。


「そうだろうね。僕はログ…記録で君たちの事を先に全部見た。そこにはそうやって書いてあったよ。君たちの愛は本物だ」と言って神が嬉しそうに俺達を見る。



「他の世界ではねカムカ…、誓いもせずに済ませようとする妻、誓ったのに妻を大事にしない夫なんていうものも居るんだ」

「無茶苦茶ですねそれ」


「うん、本当に大事なものが見えていない、自分の事しか考えてないんだね」

「そうだね、僕はそう言う悪いものを見すぎていたのかもしれない」


そう言うと神は泣いていた。


「え?」

「神様も泣くの?」

「悲しいときや嬉しいときは泣くよ。カムカ、マリオン…、喧嘩をする日があってもいい。でも必ず死がふたりを分かつまで共に生きると約束してくれるかい?」


…!!!


「します!!絶対にします!!」

「はい!!します」


「何だったら、あの…あれです。キヨロスが一度着けた指輪…なんだっけマリオン?」

「「誓いの指輪」!」


「そう、それを着けて死ぬ日も一緒にして欲しいくらいです!!」

「本当カムカ!?」


驚くマリオンに俺が「ああ、マリオンは嫌か?」と聞くとマリオンは席を立って「嬉しい!!」と言って俺に抱き着いてくる。


「こら、見てる。神様が見ていて恥ずかしいから」

「大丈夫だよ、神様は何でもお見通しなんだよ、きっと私の裸もカムカの裸も見ようと思えば見えちゃうよ。だから恥ずかしくなんてないよ」


確かに…神様は何でもお見通しか…


「ははは、まあ僕はそう言う無粋な真似はしないよ。でもその先は家に帰ってから2人でゆっくりやってくれよ。カムカ、マリオン…君達への感謝はマリオンの命を助ける事でいいかな?」

「はい!!ありがとうございます!!!」


「マリオン、ではカムカと共に帰りなさい。「愛」はそのままでもいいし、「誓いの指輪」が欲しかったら授ける者に言うと良い。僕から話しておくし、複数持ちに該当しないようにしておくよ」

「うん、神様ありがとう!!」


今度は部屋が光った。

光が収まると目の前にはみんなが居た。


「カムカ!!」

「帰ってきた!」


「マリオン!!」

「色が元に戻っている!!」


皆が口々にマリオンと俺の帰りを喜んでくれる。


俺は涙を流してマリオンを抱きしめる。

マリオンも俺を抱きしめる。


そして2人で皆に感謝の気持ちを伝えた後で見回すと神の使いは師匠も含めて居なかった。


「あれ?神の使い達は?」

「神様に呼び出されてカムカ達と入れ替わりに居なくなったよ」


「色々やっちゃったから大目玉かもねぇ」

「本当、またキョロが怖い顔したからね…」

「本当、キョロくんは皆の為になると凄く怒るから」


キヨロスが俺の居ない間に何をしたかは今度聞くことにしよう。


俺が「とりあえず帰ろうぜ?キヨロス、城まで一発頼むぜ」と言うとキヨロスは「あ。今日はここに泊まるよ」と言った。


「何?」

「この神殿の1階って部屋は多いし大きなお風呂もあるしご飯もあるって言うから、折角なら泊っていきなさいって神様が言ってくれたんだ」


そう言って俺達は神殿で一泊することになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アーティファクト・キャンセラーの件も4国全部が魔女の差し金として片付けてしまい、全世界に顔を出して宣言をしたカーイは魔女に精神支配をされていた事にしてしまった。


その件で一つだけ困った事が起きた。

最後に魔女を倒して世界を助けたのが神様とは誰も発表できないとして、救国の勇者の俺に全てをおっ被せてきた。


お陰で本当に俺は救国の勇者でマリオンはその花嫁になってしまった。

アーティファクト・キャンセラーを破壊してでも阻止した勇者。

魔女のせいで異常になっていたガーデンの様々な状態を直した勇者。

そんな訳で俺以外の満場一致で俺がガーデンで一番偉い男になってしまった。


まあ、顔はそんなに広くないので二の村で暮らす分には問題はなさそうだが、それでも非常に困ってしまう。


先に俺達の話からする。

俺は二の村に帰還してすぐに授ける者から「誓いの指輪」を貰ってマリオンと魂を共有した。

これで死ぬ時も一緒になったと2人で喜んでいたらリーンちゃんに睨まれた。

滅茶苦茶に羨ましいらしい。


そしてあの日から6か月が過ぎたのだがマリオンが妊娠をした。

与える者の力のせいで今ガーデンは妊婦だらけになってしまった。

俺が危惧していた高齢カップルだが、やはり沢山出来てしまい、三の村の猟師をしていたおじさんの所にも赤ん坊が来てしまうと言う。



この6か月の間にキヨロスと3人のお嫁さんは神に呼び出されて神殿に行ってきていた。

そこで色々とアーティファクトに関して話をしたらしい。キヨロスは世界を救った仲間としてアーティファクトの可能性を見せてくれたものとして神に感謝をされてお礼として数多くのモノを貰ったと言っていた。

そして一年に一日だけトキタマがキヨロスの元に遊びに来る事になったと言っていた。

もう「時のタマゴ」としての効力はなく、単純に死なない鳥として一年に一日だけ遊べるそうだ。


その後はガクとアーイが呼び出されて神殿に行く。

2人は戦争解決のお礼としてお互いの母親や兄たちと一時的に話せると言う権利を貰えると言われたが、死者は死者として心の中でいつも一緒に居ると言って断ったそうだ。

代わりに数個の質問に答えてもらい、もしも許されるのならとしてカーイの健康を願っていた。

おかげでカーイはようやく一日中動き回っても体調が悪くなることも無くなった。

ああ、アーイも妊娠をしたと言っていた。


そして最後に呼ばれたのはツネツギとルルだった。

これは非常に重い話をされたらしく、ツネツギはガーデンが出来た経緯や魔女がどうして居たのか等を聞くことになったと言う。

それは俺とマリオンが聞いた神の悩みなんかよりももっと重い神の苦悩だったのだろう。「あれを聞いたら何も言えない」とあのツネツギは言っていた。

ツネツギがこの世界に来たのは偶然の手違いで地獄門と魔界が関係していると言う。

ツネツギへのお礼は元の世界に帰れる事になった事と元の世界での生活の保障、それとこの世界にいつでも来れるようにして貰った事。

ルルへの報酬は奈落の修復にツネツギが不在の間に寂しくないように、不在時には同じ考え方と同じ話し方をするツネジロウが用意された。

ツネジロウは俺も見たが、黒髪ではなく金色の髪の毛になって目も金色になっただけのツネツギで話し方も話す内容も本人と遜色がなく、凄いのはツネツギが帰ってくるとその瞬間にツネジロウのやった事がツネツギに反映されることだ。



ああ、忘れてた。

神の使いは与える者以外はお咎めなしになった。

与える者も、真剣に魔女を拒んでいるか、魔女に拷問でもされれば不問だったらしいが、20年も毎日イチャイチャしながら酒を飲んで居ただけだったので相当怒られたらしい。

与える者はガーデンの人口が1万5千人を突破するまでは神の使いとしての力を剥奪されてガーデンを放浪する事になったと聞いた。

この二の村に来たら、まあ働くなら住まわせてやってもいいかもしれない。



そろそろ俺の話を終わらせるとする。

何て言っても自慢の嫁さんが俺を待っているからな。


「カムカ!今日の夜は何が食べたい?」

「俺が作るぜ?妊婦さんは無理しない方が良いんじゃないか?」

俺達は子供や妊婦について知らない事が多すぎるのでしょっちゅう他の村に行ってお年寄りに色々と教えて貰っている。俺が一の村で聞いたのは妊婦に無理はさせるなと言う事だった。


「じゃあ一緒に作ろうよ」

「そうだな。それが良いかもな」

後はなるべく一緒に居るようにしろと言う事だった。


「カムカ、ごめんね」

「ん?何が?」


「一緒に修行できなくて…一人はつまらなくない?」

「ああ、平気だよ。マリオンが窓から見てくれているのは知っているから修行に身が入るって奴だな」


心配そうに「本当?」と聞くマリオンに「ああ、本当だ」と言うとマリオンがぱぁっと笑う。

俺の方もマリオンが居るのと居ないのでは修行の身の入りが全然違っていて、この前師匠に怒られてしまった。

そこは今後の課題にさせて貰おうと思う。


マリオンが俺の顔を見て笑いながら「カムカ」と言って俺を呼ぶ。

俺が「何だよマリオン」と返すと、また「カムカ」と言って俺を呼ぶ。

また「どうした?」と返すと、マリオンはニコニコと笑ってまた「カムカ!」と俺を呼ぶ。

俺もそれが嬉しくてついつい笑顔になって「なんだよマリオン」と言ってマリオンを呼び返す。



「カムカ!カムカ!!」

「マリオン」


「嬉しいね、大好きな人が目の前に居て名前を呼べているよ!ずっと一緒に居ようね」

「ああ、嬉しいな。俺の大切な人が俺の前で俺を呼ぶ。それがこんなに嬉しいとは思わなかったよ」


魔女の手で滅茶苦茶になったガーデンはこれから徐々に良くなっていく。

悪意なんてない世界になると俺は信じている。


俺達はこれからもこうして最愛の人と年を重ねるだろう。

そして死がふたりを分かつまで俺はマリオンを愛する。

ああ、「誓いの指輪」の効力で死すら2人で一緒だ。

何であれ、俺達が死ぬ日が来たらその時ようやく俺の長かった旅も終わったと思うだろう。


第4章 救国の勇者 完。

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