第66話 サウスからの援軍。
突然の光弾により悪魔熊を排除できた。
魔女は「誰よ!邪魔するのは!って…この光弾、この威力!!一人しかいないじゃない!!」と言い納得の行かない結果に憤慨しながら振り返る。
魔女の視線の先には、濃紺の兵士とここからでもわかる筋肉質の男が居た。
2人を見た魔女が「また、邪魔をして~」と言って見せたことのない顔で怒っている。
「アーイ、ここは静観だ。動くな」
「ああ」
アーイも俺の意見に乗ってくれた。
俺はこのまま状況を見守る。
まあ、どっちが味方でどっちが敵かなんて言うのは見るまでもないんだがな。
筋肉質の男は「お前、あの熊をまた回復するつもりだったろ?だから邪魔をさせて貰ったぜ」と言いながらこっちにくると「平気か?」と言って俺達の心配をする。
その後に遅れてきた濃紺の兵士が「平気?」と聞いてくる。声は女だ。
俺は素直に「ああ、助かった」と答える。
この間に魔女は平静さを取り戻して「あら~、だって自分の可愛いクマちゃんが殺されたら嫌じゃない?」とヘラヘラと笑いながら話す。
男が「それでよく実験とか言えるな。正々堂々と負けを認めろよ」と言うと魔女は気にしていないという顔で「まあ、結果は上々だから、クマちゃんの負けは認めてもいいわね」と言って男の言葉をあしらう。
魔女はそのまま男の横に居る濃紺の女に向かって「それよりも~、ねえ貴女、人間になった感想はどう?」と聞いた。濃紺の女は「悪くないわ」と答える。
人間になった?なんだそりゃ?
「そう、良かったわね。でも人間って不便じゃないの?」
「そんな事ない、音も綺麗に聞こえるし、景色も輝いて見える。ご飯も美味しいし、触れた感触がよくわかるもの」
「そうなのね。そうなのね!!私、そうやって疑問に答えてくれる子って好き。貴女の事は好きよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
魔女と濃紺の女は普通に話をしている。
何だ、本当にこの状況の意味が分からない。
そんな中、今度は濃紺の女が「私からも聞いてみてもいい?」と質問をすると魔女が「なに?いいわよ。私貴女の事は好きだから特別に答えちゃう」と言った。
「ありがとう。貴方は神の使いなの?」
「ええそうよ。なんで?」
「私の前に現れた神の使いは男しかいないって言っていたから」
「ああ、それはアイツらがダメな神様の使いだからよ」
「じゃあ、貴女は別の神様の使いなの?」
「あら、乗せられちゃった?ええそうよ。あの男より高位のね」
「そうなんだ、ありがとう。もう一個聞いてもいい?」
「何?」
「貴女は人間になりたくないの?」
「アハハハ。面白い事聞くわね。私は人間にはなりたくないわ。今のままなら世界中どこにでも行けるし、ずっと生きていられるから沢山実験が出来るもの」
「そっか、ありがとう」
「いいえ~。いいのよ~。じゃあ、本当はちょっとイラっと来たから皆殺しにしてから帰ろうと思って居たんだけど、今は気分がいいから帰るわね」
魔女が手をヒラヒラさせると筋肉男が「お、おい!」と言って困惑している。
「命拾いしちゃったね。彼氏さん。アハハハ。あ、でもさ王様に伝えておいてよ。あんまり私の邪魔をすると王様の大事なものを滅茶苦茶に壊すわよって」
魔女はそう言った後で筋肉男に向かって「後、貴方がゴチャゴチャ引っ掻き回すのも迷惑なのよ?」と言う。
「俺は神の使いに世界を見て回るように頼まれたんだよ」
「ああ、そういう事。それで貴方はイーストのゴタゴタにも首を突っ込んで、今回はウエストに来たと言う事ね。無能な神の使いの下にいると大変よね。同情するわ」
魔女はそう言うと俺達を見て「命拾いしたわね、王子様に姫様」と言った後で一度濃紺の女を見て「マリオン、楽しかったわ!!バイバイ!」と言った。
濃紺女…マリオンが「うん、バイバイ」と返事をすると魔女は消えた。
辺りに漂っていたプレッシャーが無くなったので本当に魔女は居なくなったのだろう。
だが、共通の敵が居なくなっただけで、まだこいつらが味方とは限らない。
俺もアーイも戦闘態勢を解けずに居る。
居たのだが…
マリオンが「カムカ!見てくれた!?私あの距離でちゃんと当てたよ!!凄い!?」と言いながら筋肉男、カムカと言うのか?カムカに抱き着いている。
カムカは「ああ、助かったぜマリオン。俺がイーストから戻ってからの45日間みっちり修行した甲斐があったな!」と言いまんざらではない表情でマリオンに話しかけている。
ペースを乱された俺達、アーイは「何だ、この男と女は、人前でベタベタと…」と言って2人を睨みつけている。俺もいずれアーイと…おっと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前の男女は人目もはばからずに仲睦まじくしている。
だが、魔女の仲間の可能性は捨てきれない。
私はいつでも攻撃が出来るようにしている。
「大丈夫だったか?助けに来るのが遅れてゴメンな!」と言って筋肉男が溌剌と謝ってくる。
先程の濃紺女の言う通りならカムカと言う名なのであろう。
私が「私はノースの姫、アーイ。サウスに助力を頼む為にここまできました。貴方達の事を教えて」と言うとカムカは「ああ?ノース?ここはウエストだぜ?しかもお姫様って…」と言って私の存在に驚いている。
ガクが前に出て「混乱させたか、悪かった。俺はウエストの王子ガク、こちらは本物のノースのお姫様だ」と言って私を指した後で「今ノースとウエストは先程の魔女の手により滅茶苦茶だ。それで姫と協力して戦争終結に向けて尽力を始めたところだ」と言い国境を見て「まずはサウスに協力をお願いしに来たところだったんだ。さっきの魔女との会話を聞くところ、王の関係者か?」と問いかける。
カムカは「ああ、そう言うことか。俺はカムカ、こっちはマリオン。サウスからの特使だ」と言った。
私は「特使?」と聞き返しながらカムカをつい睨んでしまう。
カムカはガッカリとした表情で「あれ?ウエストの王様に手紙届いてない?もしかしてまたか?またイーストみたいに城に着くまで信用されないやつか?」と言ってブツブツ言い出してしまった。
横でガクが「カムカ…カムカ…」と呟いたと思ったら「そうか!聞いた名だと思ったがサウスからの書状にあった、王が信頼を寄せる特使だ!それがお前か!」と言って合点のいった顔をしている。
カムカは顔を明るくして「そうそれ!俺がそのカムカだ!良かったー、今回は面倒にならなかった!!」と言って喜んでいる。
時間が足りない私は「話中に済まない。私たちは王に謁見を…」と言うとカムカが「あ、それ要らないやつ」とケロっとした顔で言う。
私はカムカの返事に思わず「はぁ?」と反応してしまう。
カムカは「サウスの王様は俺を信じてくれているから、俺が決めた通りにしていいって言ってくれているし、何よりあの女が敵なんだろ?だったら問題ないよ」と言った後でニカッと笑って「サウスはお前達の敵にはならない」と言ったが私は納得が行かなかった。
敵にならないではない。
共に戦えという話だ。
私は「だがあの女が言っていた!サウスの王ならこの戦争を1時間で終わらせられると!!敵にならないだけではなく、一緒に戦ってくれ!」と思ったままを口にした。
その瞬間、カムカは急に怖い顔になって「それはダメだ」と言った。
理解できずに「何故だ!?」と聞き返す私に「じゃあよ。王がサウスを離れているその1時間にあの女が瞬間移動してサウスで暴れたら?それこそあの女の言う「大切なものを滅茶苦茶に壊す」を実践したら?」と言ったカムカは私の目を見て「アンタは責任を取れるか?」と言った。
私は責任を取れない…確かに言っていることは間違っていない。
間違ってはいないのだと思う…だが…こうしている間にもノースの民は、ノースの兵は死んでいく…
「それでも!!」
「それでもなんだよ?それにサウスの王はまだ15歳だ、子供に戦争をさせたくない。アイツは本当なら猟師の子供で猟師になりたかったんだ、それを村の為、国の為、家族の為…みんなの為に色んなもんを我慢して王様なんてやってくれている。これ以上、必要以上の事を俺はやらせない」
カムカが私に殺気…いや、怒気を向けてくる。
先程までの笑顔が嘘のような顔だ。
その横のマリオンも「カムカがやるなら私もやる」と言った感じで一気に戦闘状態になっている。
何も言えない私に「これ以上ゴネるのならこの話は無しだ。俺はサウスに帰る。そして王に…アイツにウエストの結界を解く必要はないと言う」とカムカが言い、横のマリオンが「それとも何?力ずくって奴?カムカと戦うなら私も戦うよ」と言うと右手から赤い光の剣を出した。
あれはアーティファクトか…
だが、ここで私が退けばノースの民は…
引き下がれないと思う私の横に居たガクが「いや、俺たちの都合ばかり言って済まなかった」と言って割り込んできた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「敵にならない」と「味方にならない」は全くの別物だ。
特使と名乗ったカムカの言っていることは間違っていない。
アーイの言う1時間で戦争を終わらせる力を欲してしまう事も間違っているとは思えない。
止めに入った俺を見てアーイが驚いた表情で「ガク!?」と言いながら俺を見る。
アーイは俺の真意を探ろうとしているので「アーイ、カムカは間違っていない」と諭し、そのまま「俺たちは世界平和の前に自国だ。サウスが結界を張って国を守るには理由があるんだ」と言った後でカムカに向かい「カムカ、違うか?」と聞くとカムカは苦々しい表情で「ああ、その通りだ」と言った。
「サウスもあの女の手で滅茶苦茶にされた。王は国が安定するまでは他国に構えないと思っている」
やはりか…
そうでなければあんな雷の結界を常時張り続けるなんて言うのは異常な事だ。
「あの女は何なのだ?こちらも知っている事を話すからカムカも知っていることがあれば教えてくれないか?」
「いいぜ、さっきの話が蒸し返さないなら、俺はお前達の敵じゃない。ウエストの城まで案内してくれ、王に話をさせてくれ。サウスの王様ともその時話ができるようにするからよ」
「ここに王は居ないのだろう?どうやって話を?」
「ああ、「大地の核」ってウエストは何処にある?大地の核の力で話が出来るんだけどさ、あんまり離れると声が聞き取りにくくなるんだよな」
カムカの言葉に俺は「「大地の核」?あれは城にあるが…あんなもんが役に立つのか?」と聞くとマリオンが「何も知らないの?私のこの剣も「大地の核」から作られた擬似アーティファクトよ」と言って赤く光る剣を見せてきた。
「擬似…アーティファクト?」
初めて聞く言葉だが、酷く魅力的な話だ。
ここは何としてもカムカとマリオン、サウスの助力を得る必要がある。
「済まない!道すがらあの女の事、それと擬似アーティファクトについて教えてくれ!」
「いいぜ!じゃあ城を目指そう」
カムカはまたさっきの笑顔に戻ってそう言った。
ウエストまでの3日間の間にカムカはサウスで起きた事を教えてくれた。
前の王があの女にもたらされた「龍の顎」と言うアーティファクトで無理矢理アーティファクトを複数装備して悪魔化した結果。アーティファクトを求めて国民を殺すだけの存在に成り果てた事、それを紆余曲折で複数のアーティファクトを授かった15歳になったばかりの今の王がカムカ達と共に打ち倒した話。
途中、アーイが「龍の顎」と言うアーティファクトに反応しこちらの説明をした。
カムカはこちらの事態も察してくれた。
そして次にカムカは特使としてイーストに赴く。
イーストでは13年前に大破壊と呼ばれる出来事で国が疲弊していた。
俺はその事には疎かったが、アーイは隣の国の話なので知っていて、その大破壊はやはりあの女がもたらした「創世の光」と呼ばれるアーティファクトが原因で起きていた事を知った。
「あの女はイーストで人工アーティファクトの技術を身につけた。そして「悪魔のタマゴ」と言うモノも作ってしまった。悪魔のタマゴで悪魔化された狼と戦ったことがある。正直化け物だ」
「俺達がさっき戦った熊もあの女は悪魔化したビッグベアだと言っていた」
アーイが「人工アーティファクト。そうだ、あの女は人工アーティファクトで「龍の顎」を作ったと言っていた!それをノースの兵に身に付けさせたと…」と言うとカムカが「嘘だろ…、あれで悪魔化なんてされてみろ…勝ち目が一気に無くなるぞ」と言って青くなる。
今度はこちらから説明をした。
戦争の原因はあの女が引き起こした事。
ウエストは死者の蘇生方法という言葉に騙されなかったが、ノースの王は純粋さに付け込まれたと説明をした。
そして今、ノースの王は瀕死でウエストの城に居る事。
今、ノースの城はザンネと言うアーイのハトコがあの女と手を組んで支配していることを伝えた。
その後はあの女は何なのだと言う話になった。
自称、神の使い。
全ての国に介入して被害を与えている。
介入した全てを「実験」と呼んでいる事などを聞いた。
「だがあの女は死んだはずなんだ、イーストで「創世の光」を喰らって蒸発した。俺はこの目で見たんだ!」
…なら何で生きている?
本当に神の使いで、不死なのか?
そうなると勝ち目が本当に無くなる。
それから擬似アーティファクトの説明を聞いた。
サウスのペックという老人が「大地の核」から作った物で、アーティファクトの他に装備が出来るようになるが、使うと物凄く疲れるという事。「大地の核」周辺でなら威力が期待できる事なんかを聞いた。
カムカに擬似アーティファクトについて聞くと「イーストにも技術は渡ってて、擬似アーティファクト職人は居たんだけどさ、「大地の核」が大破壊で弱っているからロクなもんが作れないんだよな」と言われたが、その点ならウエストの大地は無傷だ。
きっと能力が期待できる。
後はイーストの天才アーティファクト使いが擬似アーティファクトの知識から人工アーティファクトと言うものも作ったそうだ。そしてその技術を魔女が盗んで悪用している。
唐突にカムカが「なあ、ウエストってアーティファクトは足りているのか?」と聞いてきた。
「なんでだ?」
「俺達サウスの人間は15歳になると神の使いが現れて成人の儀を執り行うんだよ」
これにアーイが「成人の儀?」と聞き返す。
「ああ、そこで自分のアーティファクトを授かる。だが、そうなるとアーティファクトの数が基本、一人一個だから足りないんだ」
「ああ、そういう事か。ウエストは戦争中だからな…どんどん人は死ぬし、戦場から引き揚げたアーティファクトが城で次の使い手を探しているよ」
カムカが「そっか」と返すとアーイが「ノースはC級やB級のアーティファクトならイーストから買ったりしているな」と答える。
何だそれは?俺は知らない話だ。
「ああ、冒険者が奈落から引き揚げてきたアーティファクトを国に売ったりするんだよな」
「ああそうだ。詳しいな」
「特使としてあの女が居るかもしれないから奈落にも入ったんだ」
「カムカは凄いのだな」
アーイが驚き、カムカが「そんな事ない」と笑う。
話が広がりすぎてわかりにくくなってしまったが、擬似アーティファクトはこの国に必要な力だ。何としてでもサウスに協力を仰ごう。
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