東の勇者-奈落突入。

第48話 奈落への挑戦。

城の外に広がる景色は物凄いモノだった。

枯れて死んだ土地、城のすぐ前から始まるすり鉢状にえぐれた土地。

その中心部の傍に出来た町が見えた。


俺たちはそこまで歩く。


町には、武器防具の店、道具屋、宿屋に飲み屋も見えた。

後は近くに住む冒険家の家だろう。

色んなあばら家が経っていた。


まず防具屋で中に着る普段着から鎧まで調達をする。


テツイはニコニコと「アインツ様からいただいた支度金の他にウノ様からも支度金をいただけましたので十分な装備を整えましょう」と言って俺の身体に合う鎧を探している。


そう聞くといい話に聞こえてきてしまうのが困る。

そもそも召喚をされなければこんな目には遭っていないのだ。


テツイは防具を見た後は横の武器屋を無視してその先の道具屋に行く。

俺が「武器は見ないのか?」と聞くとテツイは「はい、ツネツギ様は勇者の腕輪がございますので剣は不要です」と言った。


正直剣だけでは不安なので槍とかもっと何かこう距離が取れる武器が欲しいと言おうとする俺にテツイは「さらに言えば、勇者の腕輪の注意点…、制限のようにお考えいただきたいのですが、その関係で武器は一切装備することが出来ません」と言ってきた。


ナニソレ?


俺は驚きと共に「何か!?どんな奴を相手でも全部剣で戦うのか!?」と聞くとテツイは極々普通に「はい。そうなります」と言ってくる。


…剣も握った事ないような俺が剣一本でダンジョンの魔物を相手するとかどうかしている。

だが、俺が死んでしまった場合には御代の身の保証はない。

何があっても生き残って最深部からアーティファクトを持って帰ってくる必要がある。


俺は「わかった」と言った後で「とりあえずお金の管理と道具の選定は頼む」と言って買い物の全てをテツイに任せる。

段々と喉が渇いてきた俺はテツイに飲み物が飲める場所、酒場なんかに寄りたいと言ったが、毒の心配をされて却下されてしまった。


俺は引率者の顔で「お水でしたら僕が用意をしましたのでそちらをお飲みください」と言うテツイを見て物凄く不自由な話にイライラしてしまった。


水でしか喉を潤せないのでとりあえず奈落に入ってみる事にした。

奈落に入ると想像とは違うレンガ造りのダンジョンが目の前に広がる。


「これはすげえな。てっきり土で出来た洞窟みたいなのだと思っていたぜ」

「これもアーティファクト「迷宮の入り口」のお陰です」


テツイが当たり前のように話すたびに俺は苛立ちを覚える。

その気持ちを表すように「はぁ?」と聞き返すとテツイは照れ隠しのように「あ、申し上げて居ませんでしたね。この迷宮もアーティファクトでして、それで地下何階までかハッキリしているんです」と言ってきた。


「それなら地下何階に何が置いてあるとかわからねえのか?」

「それなのですが、地下に廃棄をしに行った当時の担当者が奈落に入ったのは確認出来たのですが、帰ってきたのは誰も見ていなくて…」


「わからないと」

「はい…」


テツイは申し訳なさそうに俺をみると「それでその後盗掘が増えたので「地獄の門」を最下層で使ったもので…」と続けてくる。


「今度は13階より地下にも行けなくなったと」

「はい」


何やっているんだこの国の連中は?

戻らなかった段階で探索隊や捜索隊を送り込むべきだろう…それに人で対応しないでアーティファクトで魔物を生み出して対応?正直頭悪いだろう…。


こんな奴らに御代を任せていいのか?

俺は考える度にひどく苛立ってしまう。


そしてそれをテツイにぶつけてしまうとテツイは「あ、申し訳ございません…仰る通りです」と謝ると説明を続けた。それは推進派と反対派の代理戦争で、捜索隊や探索隊の話を推進派がすれば反対派が邪魔をして、盗掘に対応する話の時には、我先にと病で先の短い推進派の部下が地下まで「地獄の門」を持ち込んで発動させてしまったと言う事だった。


「それに、確証はありませんが、あの猛毒ガエルの毒に関しても反対派の誰かが冒険者から買い上げた物かも知れません。反対派からすれば「勇者の腕輪」に選ばれたツネツギ様とミシロ様は推進派を勢い付かせる存在…疎まれてしまうのも致し方ありません」


聞けば聞くほど良くない状況に俺は「くそっ」と言ってしまう。

ここはさっさと奈落を踏破して一日も早く日本に帰れるようになった方がいい。

焦る気持ちのまま先を急ぐ事にした。



「下への階段は何処にある?」

「階段は10階までは常に向かい側の端にあります」


「じゃあ奇数階はこっち側、偶数階は反対って事か?」

「はい」


それは分かり易くていい。


ダンジョンはそれなりに入り組んでいるが、大きく道を逸らされる物もないので向かい側を意識さえしていれば簡単に先に進める。

これは大きなアドバンテージになる。


しばらくするとドロドロの水溜りみたいなのが動いていた。


「スライムですね」

「ああ、これが」


俺の目の前に現れたドロドロは絵に描いたようなスライムだった。



初戦闘、俺は「勇者の腕輪」から光の剣を出すとテツイが「ツネツギ様、よろしくお願いします!」と言ってくる。

テツイの方を見て「ん?」と聞き返すとテツイは「私は非戦闘員ですので戦闘には参加できません」と言ってくる。


すると俺は1人か?

怒る事も考えたが魔物が目の前にいるのにテツイに説教をする気はなかったので、とりあえず剣で切りつけてみるとあっという間にドロドロは消えた。


ドロドロが消えると「お疲れ様です!」と言ってテツイが寄ってくる。

テツイは本当に戦闘に参加をしなかった。

まさかコイツが戦わないとは思わなかった。


その後も日本では馴染みのあるキノコの魔物なんかが出てきたが光の剣で蹴散らした。


そうして案外簡単に地下2階も踏破していた俺は他の冒険者が8年かかって13階までしか進めていない事を忘れていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


地下3階に降りた。

この階の主な魔物は俺の膝くらいまでの大きさがある蟷螂の魔物だった。


ここは主な魔物と上の階で出てきた魔物が出てくるダンジョンで確かに進む度に厄介になって行くのもよくわかる。


我ながら快進撃だと思った。

もう、3階に居ることが俺の気を大きくする。


テツイに他の冒険者も1日で3階に行けるものなのかを聞くと「そんな!奈落初挑戦の冒険者はスライムにも難儀しています!その「勇者の腕輪」が強力なんですよ!」と鼻息荒く話してくる。


…そうか。

この腕輪も相当なアーティファクトなのか…

何も考えていなかった。


しばらく進むと蟷螂の魔物が2匹現れた。

もう、その時の俺には油断しかなかった。

右腕の剣を振るえば1匹は確実に倒せるのだから油断をしない方が無理というものだと思う。


1回目で倒さなかった方の蟷螂が左腕に攻撃をしてきた。

かわしはしたが、結構深く切れていてとても痛い。

日本なら確実に縫うレベルの怪我だ。


俺はそれを涙目になりながら我慢をして2匹目の蟷螂を倒した。


蟷螂が動かない事と周りに魔物が居ない事を確認して俺が「おい、テツイ…さっさと治してくれ!!」と言うとテツイが出してきたのは…針と糸だった。


え?

縫うの?


俺は探るように「嘘だろ?」と聞くとテツイは真顔で「何がですか?出血が激しいので縫わないことには…」と言う。


こんな不衛生極まりない場所で不衛生極まりない世界で針と糸で縫う?


俺は慌てて「いや、治癒のアーティファクトとか無いのかよ!!」と聞くとテツイは「ありません」とハッキリ言う。


「無い?それはこの世に治癒のアーティファクトが無いのか?お前が持っていないのかどっちだ!?」

「僕が持っていません」


使えない!

なんだコイツは…

なんでこんなので付き人みたいな事をしているんだ?


「じゃあどこで手に入るんだ!?」

「えーと…地下5階ですね」


そう言うとテツイが何やら地図を出して見ている。

「何その地図?」

「あ、ツネツギ様も見ますか?13階までの迷宮の地図です。踏破されると国から販売されるんです」


俺は頭がクラクラしてきた。それは血が足りないから頭がクラクラするのか、コイツが心底気の利かない男でイライラしてクラクラするのかわからなくなってきたが、どちらにせよ早くしないと命に関わる。


俺が「地図の件は後回しだ。縫うのもゴメンだ。なんとか治癒のアーティファクトを手に入れて治してくれ」と言うとテツイは気のない返事で「はぁ………」と返してくる。


俺の腕からは血がドクドクと流れてきて、遠くから魔物の泣き声が聞こえてくる。

それなのにテツイの野郎は何もしない。


いい加減しびれを切らした俺が「……まだか?」と聞くとテツイは目を輝かせて「はい!頑張っています」と返す。


ムカつく。

ああ、何となくアインツがコイツを殴ったのが分かる気がする。


「あの!」

「何か方法か?」


「はい、町に戻れば擬似アーティファクトが買えますのでそれで治癒のアーティファクトを買って使うのはどうでしょうか?」

「何それ、すげぇ便利そうじゃん」


「まあ、まだ問題はあるのですが、それはそれと言う事で…とりあえず出血は僕のアーティファクトで一時停止しますのでその間に町に帰りましょう」


帰り道に2階で火の指輪と言うアーティファクトが落ちていたので拾う。

さっき通った時には無かったが何処から出てきたんだ?

よくわからないが初アーティファクトゲットだ。


「これはB級なのであまり価値はありませんが、これで擬似アーティファクトと交換してもらいましょう!」


B級?

また知らない言葉が出てきた。

一度キツく言い聞かせて情報を吐き出させたほうがいいかも知れないな。


町に戻ってくると奈落の出入口に居る兵士から「大丈夫か?」と声をかけられた。

俺は「何とかな」と返事をした。


そのままえぐれてしまった部分を上り、元々あったであろう街の端までくる。

この頃にはテツイの一時停止は効力を失っていて、また左腕からは血が流れ始めている。


テツイに聞くと、一時停止は一度使うと20分は停止するが、その後1時間は使えなくなると言う。そもそも非戦闘員とか言っていたが、強敵には一時停止を使えばいいのでは無いかと思った。


街の端からさらに歩いていると不思議な場所に出た。


とにかく馬鹿でかい宝石…、いや原石が置いてあって周りには老人と侍風の男が居るだけなのだ。


テツイが「ここで治癒の擬似アーティファクトが買えます」と言うと、老人と侍風の男がこちらを見てきて老人が「お前さんたち、擬似アーティファクトをお求めかい?珍しいねぇ」と言って笑う。


珍しい?何故だ?

出血は気になるがどういうことか聞くことにした。


この石は「大地の核」と言う土地に根付いたアーティファクトだそうだ。

この核の力を借りて擬似アーティファクトは作られるし、エネルギー源の一部になるので大地の核から離れて使用するのは難しいらしい。


「今はご覧の通り、土地が痩せ細りすぎていて擬似アーティファクトをいくら作っても疲れるばかりで能力は子供騙しみたいなもんよ」と老人は言っていたが気になんかしていられらない。


早速、火の指輪と回復の指輪を交換した。

「本来は土地が豊かならこの子もB級までの効果が期待できたんだけど。土地が痩せているからC級止まりなんだよね。おかげで誰も来なくなっちゃったよ」


何でもいい、とりあえず今は擬似アーティファクトを手に入れた。


俺は必死に左腕を指さして「テツイ、早速使ってくれ!」と言うとテツイは「出来ません!」と即答してくる。

はぁぁ?なんだコイツは?本当に何なんだコイツは?


テツイのありがたいご高説を賜る所によれば、アーティファクトによっては様々な相性で使えない人も居るらしく、テツイは補助系のアーティファクトを持っているからか、使っているからかで治癒系や攻撃系のアーティファクトは使えないと言う。


マジでコイツいらねぇ。

ちなみにこれがテツイの言っていた問題だそうだ。


俺自身が使うとも言ったのだが、「勇者の腕輪」を装備しているとそれ以外のアーティファクトは使えなくなるそうだ。


もう何なんだこの状況。


俺は今も血が流れる左腕を指さしながら「じゃあどうすんの?俺に死ねと?」と言うとテツイは「いえ、手がないわけでは無いんです。こちらにいらしてください」と言って街の中を進む。


下の町とは違ってしっかりとした石造りの家だ。

山の手と下町といった感じだな。


テツイは「ここです」と言うと中に入って行き「姉さん、姉さん」と呼ぶ。


テツイの姉?アイツの実家か?

俺がそう思っていると家の中から「急いで」と言う声が聞こえた後でパチーンと言う音が聞こえると1人の女が出てきた。


女は俺を見て「初めまして勇者様。テツイの姉のナオイです」と名乗った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


気の強そうな栗色のロングヘアの女ナオイは自身をテツイの姉と言って俺を中に招き入れてくれた。

椅子に腰掛けさせるとガーゼで血を拭き取りながら回復の擬似アーティファクトで左腕の傷を治してくれた。


ナオイが「【アーティファクト】」と唱えると先ほど買ったばかりの回復の擬似アーティファクトが光を放つ。その暖かな光を浴びた傷口は血が止まった。


傷口は塞がらないが血は止まったので大分マシになった感じがした。

5分も続けるとナオイは「すみません勇者様。私にはここが限界みたいです」と謝って俺の向かいの椅子にもたれかかった。


ちなみにテツイは2つある1つのベッドに腰掛けてこちらを見ていたが「擬似アーティファクトは使うと物凄く疲れるんですよ」と言ってきた。


「そう言うのは早く言え。血が止まればやめてもらう事も出来たんだぞ?」


俺が言うとテツイは「すみません」と言って小さくなった。

ちなみにテツイの左頬は手の形がハッキリ見える形で真っ赤に腫れ上がっている。


これはナオイがテツイの説明が良くなかった罰としてつけたものだ。


「いきなり城勤めになった弟が家に来て「勇者様が居るから早く来て。急いで」なんて言うもので、別にこんなあばら家の街娘1人見せても勇者様に失礼だろうと思って断ってみれば「勇者様が命に関わる大怪我をなさっていて、私の力が必要だなんて言うのですよ。もう頭にきて殴ってしまいました」


ナオイの言葉を聞いて俺は「あ、テツイに腹が立つのはみんな一緒なのか」と思って少しホッとした。


そのままナオイに許可を得て、この場で色々と聞き出すことにした。


「どうして地図の事を言わなかった?」

「僕が知っていれば十分かなと思いました」


「アーティファクトには級があるのか?なぜソレを言わなかった?」

「あれ?言っていませんでしたっけ?」


「どうして奈落が人為的に作られたものと言わなかった?」

「あれれ?これも言っていませんでしたっけ?」



壊滅的に腹が立つ。

途中何回か見かねたナオイが代理で殴ってくれているが、非常にこれはやりにくい。


俺が「俺、回復の能力もあるみたいだし奈落の冒険はナオイさんがいいな」と言うとテツイが「ダメです。姉さんはお城で許可を貰っていませんので奈落には入れません」と言って慌てて止めに来る。


「え?奈落って許可制なの?」

「はい、出入り口に居た兵隊が全部チェックしております」


「でもよう、奈落で高級なアーティファクトを取ってきちゃって万一に使えたらどうすんだ?」

「それはあの兵隊が国で五本の指に入る強者だから大丈夫だと思いますよ。まあ、後は犯罪をするだけの旨味が無いと言う事も言えます。ここは非常にお店が少ないので一度そっぽを向かれてしまうと中々に困るのです」


何か軽い気がする。

まあ、また問題が起きたら反対派が小躍りするんだろうな。


「後は最後にもう一つ。俺は奈落に潜って何を取ってくればいい?」

「それはS級アーティファクト「創世の光」です」


「「創世の光」…?」

テツイの答えを統合すると「創世の光」は扱いが難しいが高威力のアーティファクトで、イーストのこの惨状を作り上げたもの。

それを危険視した前の王が部下の1人に命じて国中のアーティファクトと一緒に奈落に投棄してきたそうだ。


「俺の仕事はそのアーティファクトを持って帰ってきて王に渡すと」

「はい。その通りです」


「それには情報とか足りねえだろう?」

「そこはこのチームの司令塔の僕が居れば安心ですよ」


「お前確実に足引っ張るだろ?回復はお姉さん頼み。戦闘には参加できないで俺頼み。何が出来んの?」

「え?この世界に不慣れなツネツギ様のフォローを…」


何言ってんの?と言う顔で俺を見るテツイ。俺が「うん。まあそこは認める」と言うとテツイの顔が明るくなる。


だが甘やかしはしない。

俺が「だが、だったらきちんと過不足なく情報をくれ」と言うとテツイはシュンとなって「はい…」と言った所に「アンタは昔から…」とナオイが追い打ちをかけている。



俺は話を迷宮の地図に関してに切り替える。

「その地図は何だね?」

「冒険者が踏破する度に国に売り込みに来るんです」


「信憑性は?」

「一度調査隊を派遣してチェックしているので問題はありません」


「見せてくれ」

「どうぞ」


テツイから地図を受け取った俺は驚いてしまう。

何だこの地図は…ふざけているとかそう言う地図ではない。

何というか…10階までは規則性しか感じられない。


向かい合わせの階段。

投棄されていると言うアーティファクトの位置と内容。


この迷宮を作った人間は何を考えていたのだろう。

そしてアーティファクトを投棄して行方不明になった人間はどうなったと言うのだ?


だが、この地図は大いに使える。

この通りならば10階までは問題ない。


装備できるかどうかは別として、地下5階の回復系と書かれている投棄ポイントと、9階と10階にある時系と治療系は一度押さえておきたい。


ついでなので10階以降の地図も確認をしてみる事にした。



「おいテツイ」

「はい?なんでしょうか?」


「お前、この地図見て何か気づかないか?」

「さあ…私にはさっぱり…」


一応ナオイにも確認をしてみたが特にと言う返事だった。

…この姉弟が鈍いのか、それともこの世界の人間が全員甘いのかはわからないが、10階以降も規則性がある。

これはかなり期待できることが判明した。


時間経過でナオイの体力が少し回復したと言うので今度は3分程回復をお願いしたおかげでまだ痛むが動かしても出血が無いくらいに回復はした。


話ついでにナオイのアーティファクトを聞いてみると「私は…8年前に奈落に持って行って貰いました」という、まさかの返事だった。


ナオイは俺が黙っていたので返事をするように「父も母も、大破壊で失いました。その原因がアーティファクトだと聞いて、私はアーティファクトを手放すことにしました」と説明をしてくれるので、昔持っていたアーティファクトを聞いてみることにする。


ナオイは懐かしむような顔で奈落の方を見て「氷のアーティファクトです」と言った。

俺は「うん、ほんとに勿体ない」と思ってしまった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


今日はもう遅いと言うことで奈落ではなく城の小屋に帰る。


夕方の街並みからは夕飯の美味そうな匂いがしてくるなか小屋の前に立った俺は「…んなっ?ここまでやるか?」と言ってしまう。


なんと小屋の扉に赤い文字で「カエレ」「出て行け」と大きく書かれていた。


横で一緒に文字を見ているテツイは「いやー、焼き出されなくて良かったですね」と言って笑っていてこのフォローになっていないフォローが腹立たしかった。



この日の晩御飯を俺は忘れない。


虹色に輝く肉とパンが出てきた。

酷く食欲を無くす極採色。


俺自身は食べたことはないが虹色のスイーツとかはテレビに出ていたが虹色の肉と言うのはどうにも来るものがある。


俺は肉を見た後でニコニコと顔に「さあ召し上がれ!」と書いているテツイの顔を見て「テツイ…」と声をかけるとテツイは元気よく「はい!」と返事をしてくる。


「なにこの肉?」

「虹色カラスの肉です」


虹色カラス?

何その鳥。


俺が不思議そうに思っているとテツイが「安くて量があって素晴らしいお肉です。まあ味は普通なんですけどね」と説明をしてくる。


そう、味は普通なのだ。

食べた俺の感想は「普通」だった。なんか勝手に赤い部分は辛いのではないか?青い部分は酸っぱいのではないかと思ったが普通の鳥肉だった。


だが虹色に輝く肉と言うのはなんとも言えない感じになる。

食が進まない。

テツイは「遠慮なさらずに私の分まで召し上がってくださいね」とか言っていて本格的にストレスを感じていた。


その後、お湯で汗を拭いた際に左腕を見ると腕の傷は大分マシになっている。

治りが早く感じるのはナオイのおかげだろう。

今度、奈落で氷のアーティファクトを見かけたらお礼にあげてもいいかもしれない。



翌日からは地図があったのでかなりハイペースに進む。

1日で5階まで到達した。

4階で氷の指輪を見つけたのでナオイにプレゼントをしたら前のアーティファクトとは装飾が違うが嬉しいと喜んでくれた。後は5階で見つけた回復の短剣をナオイに渡してこれからの回復もお願いしたら快諾してくれた。


だが、「回復の短剣」の見た目の悪さは酷かった。

短剣を身体に突き立てることで回復が執り行われるのでなんか嫌な気持ちになる。

腕の傷口に剣を突き立てて「【アーティファクト】」は無いだろう。



だが、これで腕の傷は完治した。


3日目には7階まで到達した。

7階になって初めて火の玉が敵として現れた。

火の玉は体当たりをしてくるので全て打ち返した。

バッティングセンターには縁がなかったがもっと早くに知っていれば楽しかったかも知れない。あと髪の毛が少し焦げた。


4日目の朝、奈落の入り口で何やら騒ぐ声が聞こえてきた。

見てみるとガタイのいい筋肉質の男が奈落に入れてくれと騒いでいる。

門番をしている兵士が「城に行って冒険者として登録を」と言うが男は「その申請って何日かかるんだよ?待ってられねーよ」と騒いでいる。


何となく今まで見てきた奴らとは何かが違う雰囲気のこの男に興味が湧いた俺は話しかけることにした。

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