第47話 勇者の状況、奈落を目指す理由。

テツイに連れられて城から出て敷地の端にある小屋に連れてこられた常継と御代。

何もわからない常継が「で、ここは?何で俺たちはこんな外れの小屋に居るの?」と言ってテツイに詰め寄る。


テツイは深呼吸の後で「ここはイーストガーデンです。そしてあなた達は勇者召喚で我々に呼ばれた救国の勇者様です」と言って友好的に笑顔で説明をする。


だが常継の反応は悪く「ふーん…」としか言わない。


反応と言うより機嫌が悪い。

常継に言わせれば「いきなり気がついたら妹が横に居て、スマホと財布もない状態で落ち着いては居られない」そんな状況だった。


常継はテツイに向かって「日本って知ってる?」と聞くとテツイは「ニホン…ですか?いえ」と返してくるので即座に常継が「地球って知ってる?」と聞けば即答で「いえ」と言われる。

絶望の表情で「マジか」と言う常継にテツイは「いえ、それも知りません」と丁寧に返事をした。


「…うがぁぁぁぁ!!どうすれば帰れるんだよ」

「…すみませんそれも僕には…。お役目が終われば帰れると思うのですが…」


「ですが?」

「はい、なにぶん…長い歴史で勇者様がいらしてくれたのが初めてでして…」

テツイの言葉を反芻して「初?」と言うと常継はへたり込んでしまい、横に居た御代が「お兄、大丈夫?」と声をかける。


日本も知らない。

地球も知らない。


段々とここが本当に自分の居た世界と違う場所だと気付かされた常継が「じゃあ、何か?お前らは片道切符かもしれない世界に俺達を呼んで、助けてくれ。でも帰り方は知らないって言うのか?」と聞くとテツイは真面目に「はい…そうなります」と答えてくる。


常継はテツイの返事に余計に力が抜ける。脳内は「俺はまだ就職浪人だけど、妹は…御代は受験を控えた身の上でこんな所に居ていい訳がない。これは非常に困った展開だ」と思っている。


そしてそれは御代も同じで「お兄はニートだからいいけど、私受験生なんだけど?」とテツイに詰め寄る。その横で常継が「御代、俺はニートじゃない、就職浪に…」と言うのだが最後まで言う前に「ニートでしょ?」と言われてしまう。


そこは常継には譲れない部分で「今、バイト先で、もしかしたら非常勤だが雇ってくれる話も」と言った所ではたとなり「…って帰れないとその話もパーか!?」と慌てるとそのまま兄妹でぎゃあぎゃあと言い合い始めた。



一通り言い合った事を確認したテツイが「あの、そろそろよろしいですか?」と言うと先ほど召喚に使っていた「勇者の腕輪」を出してきた。


「これは、アーティファクト「勇者の腕輪」です。お二人のうちどちらかが腕輪に選ばれた勇者と言う事になりますので、まずはそちらをハッキリさせていただけないでしょうか?」


この流れに常継が図々しいと怒ったが、先に進まないのも問題だと言う御代の意見で「勇者の腕輪」を試すことになる。


「アーティファクトと言うのはこの世界に神様が授けてくださるありがたいものでして、それを使うとアーティファクトによって様々な奇跡が期待できます」


この説明に常継が「じゃあ、お前が使えよ」と冷たく言う。

即座に「ダメなんです」とテツイが返し、そのまま「素質がないものはそもそもアーティファクトを使う事が出来ず。この「勇者の腕輪」に関しては素質の無いものが使うと、良くて勇者様を召喚出来るという事になっています」と説明をしていた。


色々と諦めた常継が「で、じゃあどうすればいい?」と聞くとテツイが「腕輪を嵌めてみてください。腕輪に選ばれた勇者なら腕にぴったりとハマるはずです」と説明をした。


常継は嫌そうに「…はずとか、だろうとか多分とか…多いんだよな」と言いながら腕輪に手を伸ばし御代より先に使い試した。それは万一何かのトラブルで妹の身に怪我でもあったら問題だったからの行動だった。


常継が腕輪を腕に通すと、自然と腕輪の形が変わり、常継の身体にジャストフィットする。


「お?ピッタリになった」

「おめでとうございます!ツネツギ様が勇者様です」


常継は何となくだが勇者と呼ばれたことは嫌ではなかった。顔に出ていたのだろう、御代が「良かったじゃん、お兄。このままここに就職しちゃえば?」と言うと常継が「誰がするか!」と声を荒げる。


御代はテツイを見て「でさあ。テツイさん、私ってどうなるの?さっきの赤いお爺さんの話だとナラクだっけ?そこにお兄は行くんだよね?」と質問をする。

横で常継が「おい、俺はまだ行くなんて一言も…」と言っているのだがテツイは話を聞かずに「はい。ツネツギ様には奈落へ赴いていただき、最下層に眠るアーティファクトを回収していただきます」と説明を始める。


面倒事が嫌な常継は「だから、勝手に決めんな。それくらい自分たちで行けよ」と文句を言うと御代が「えー、何かこう言う展開って本で読んだことあるけど、そこには魔物がいっぱいいるから勇者が取りに行くって奴じゃないの?」とツッコむとテツイが顔を輝かせて「そうです!!その通りなんです!!ミシロ様はご聡明でいらっしゃる!!」と喜ぶ。


「それで、その間私は?」

「ミシロ様にはこの家でツネツギ様がアーティファクトを取ってこられるのをお待ちいただく他御座いません」


その後テツイが勇者と奈落についての説明をした。

勇者は古い言い伝えで国が本当に危機に瀕した際に召喚に応じて馳せ参じて国を救う存在として語られていて、奈落は国中のアーティファクトを集めた場所で魔物が出るから自分たちではおいそれとは取りに行けない。

補足として、奈落の魔物は最深部にある「地獄の門」から生まれてきて、地獄の門から出ているエネルギーで活動しているから、エネルギーを大量に消費する強い魔物は最下層に多く、逆に少ないエネルギーで活動できる弱い魔物が地表部分まで出てくる。

ただ、地表から先に出ると身体を保っていられないので心配はいらない。


ようやく話したいところまで離したのだろう。テツイが嬉しそうに「以上が簡単な説明になります。何かご質問は?」と聞くと常継が「一個、とにかくまず一個」と言った。


「はい。なんでしょうか?」

「勇者は救国の存在なんだよな?」


「はい。そうです」

「じゃあ、なんで国を挙げて盛大にお出迎えとかしないでこんな小屋に居るの?」


この質問にテツイは表情を曇らせて無言になると常継が「何?言えない理由?救国の存在なんじゃないの?」と言ってここぞとテツイを詰めると御代が「お兄、あんまり言うと可哀そうだよ」と止めに入る。


御代を見て救いの天使を見たような顔をするテツイが深呼吸をして「わかりました」と言うと「大変申し訳ないのですが、我がイーストはアーティファクト反対派と推進派に分かれております。先ほどツネツギ様が会った白い服のイー大臣は反対派、アインツ様は推進派です。そして私はアインツ様の部下になります。そしてこの度の勇者召喚はアインツ様の独断によるもので御座いまして…」と説明をした所で常継が「極端な言い方をすれば反対派…国の半分からは歓迎されていないと…」と言ってしまう。


テツイは申し訳なさそうに肩を落として「……はい。申し訳ありません。ですので国を挙げてと言うのは難しい状況です」と言い、ようやく少し状況が飲み込めた常継と御代であった。


常継は気を取り直してテツイに質問をする。

「で、あのジイサンの言う通りだと俺は奈落と言う所に行かなければならないと…」

「はい」


「反対派の目を気にしながら、反対派の怨敵のようなアーティファクトに呼ばれた俺が、奈落にあるアーティファクトを取ってくると言いたい訳だな」

「はい」


常継は頭が痛くなっていた。

この状況でどうやって御代を危険から遠ざけて、一日も早く日本に連れ帰って受験をさせるかと言う事を考えたが今のところはベストな答えが出せないでいる。


「お兄、あんまり考えるのやめようよ。とりあえず今はお腹空いたしさ…、テツイさん、何か食事は貰えますか?」

「はい!ミシロ様!それは勿論でございます。今すぐご用意いたします」

テツイは先程から御代の会話に救われていて、今も嬉しそうに小屋を飛び出して行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


テツイが出て行ってすぐ女中さんが食事を持ってきた。

テツイの服装を見るからに和食は期待できなかったが、ファミレスで出てくる感じの洋食なので、御代は喜んでいた。


女中が「さあ、お早くお召し上がりください」と料理を勧めてくる。

だが、正直これからの事を考えると飯が喉を通るのかが気になる。

御代を守りながら目的を達成して日本に帰る。

その事ばかりを考えてしまう。


悩んでいると俺の気も知らない御代が「何してんのお兄?冷めちゃうよ?食べないと身体もたないよ?」と言うと「いただきます」も言わずに一口俺の皿から付け合わせのフライドポテトを食べた。


そこに「お待たせしました!」と言ってテツイが扉を開けて入ってきた。


テツイの手には食事が入った器を持っていた。


???


なんだこの状況は、この女中は何だ?

俺がそう思っていると、「あなた、何をやっているんですか!?」とテツイも女中に向かって何者かと聞く。


そんな事は関係ないとばかりにポテトを口に含んだ御代が「うん、美味しいよ」と言ってすぐに「………あれ?」と言い倒れた。


「御代!!」

「ミシロ様!!」


俺とテツイが御代に近寄るタイミングで女中が走ってその場から逃げる。

テツイが「待ちなさい!」と言ったが女中は凄い速さで逃げて行ってしまった。



俺がどれだけ「御代!御代!!無事か?」と問いかけても御代は返事をしない。


何だこれ?

何で勝手に呼ばれたこの場所で御代が?


そんな事を考えて放心している俺の横に来たテツイが「ツネツギ様!おそらくこれは毒です!」と言いながら御代に手をかざす。


そして「とりあえず今はこの状況を食い止めます。【アーティファクト】!」と言うと、かざした手が一瞬光った。


俺が問いかける前にテツイは「今、ミシロ様の時を一時的に止めました」と説明をする。


何を言っているのだろうと思うとテツイは「これが僕の今使えるアーティファクトの一つ「時の指輪」です。効力は一時的に対象の時を止める事です」と言う。


アーティファクトを取ってこいとは言われたが、こういうモノだったのかと俺は納得した。


「ミシロ様は、今は無事です。食べたものと一緒に医者に見せます。ツネツギ様は食事を、僕はミシロ様を運びます」


そう言うとテツイが御代をおぶって走っていくので俺も皿を持って走る。

皿の中身はテツイの言う通り毒入りかもしれないがいい匂いをしていて、その事で余計に腹が立った。


医者に診せると、「これは奈落に住む猛毒ガエルの毒だろう」と言われた。

そしてこのままでは間もなく御代は死ぬとも言われた。


俺が「医者が毒の種類もわかるなら何とかしろ」と叫んだが、手元にはこの毒に効く解毒のアーティファクトも持っていないし薬も足りないと言われた。


俺の頭の中は真っ赤に染まった。

俺は医者の言葉に返事をせずに「テツイ?」と呼びかける。

テツイは俺の顔を見て探るように「ツネツギ様…」と返事をする。


「俺は救国の勇者なんだよな?」

「はい」


「勇者の妹が毒で危ないんだ、何とかするべきじゃないのか?」

「はい…ですが…」


ですが?

その応酬が俺をいらだたせる。


「ですがなんだ?勝手に呼びつけて毒殺するのか!?」

「いえ、決してそんな事は」


…相手が平気で殺しに来る場所。

ここは日本ではない。

だから奴らも平気でそういう事が出来るんだ。



それなら俺も容赦はしない。


「おい、一つ思い違いをしているようなら言ってやる」

「ツネツギ様?」


「御代に何かあってみろ、俺が勇者の力とやらで今まで会った奴らを皆殺しにする」

「ツネツギ様!?何を!?」


テツイは顔色を変えて俺を見てくるが俺には関係ない。


「俺は本気だ、もし仮にこれがお前らの陰謀で、御代が居なくなれば俺が奈落に行くと思っているんだとしたら大きな間違いだ。御代が居るからまだ俺は大人しい」


そう、これは脅し文句ではない。


「ですが、ツネツギ様はアーティファクトの使い方も能力も知らない方、変な脅し文句は止めて僕を信じてください。今はミシロ様の事を第一に考えてください」


テツイの言葉が白々しく耳に届いてきてどんどん冷めていく心が口を開かせる。


俺は「考えているさ。それに今のお前の動きを見ていたから何となくならわかるさ。こうするんだろ?」と言って手をかざす。

俺は恐らくだがこの腕輪が何かをすると思ったのだ、俺は腕輪を見ながら「【アーティファクト】」と唱えてみた。


次の瞬間、俺の前に腕からまっすぐ伸びた青い光の剣があった。

光の剣を見たテツイも「「勇者の腕輪」…光の剣…」と言って驚いている。


俺は剣を医者に向けながら「これがどういう事かわかるよな?」と詰め寄る。

医者は光の剣を見て青ざめた顔で首を横に振っている。


どうやらわからないようだ。


だから丁寧に説明をしてやることにする。


俺は努めて残虐な顔をして「御代が助かって、お前も助かる」と言って「御代が助からないで、お前が俺に全身を切り刻まれて死ぬそれだけだ」と続ける。

その言葉に医者は「ひぃぃ」と情けない声を出すと、戸棚の奥から薬を出してくる。


ほら、やっぱりだ。

俺達を舐めて馬鹿にしていることがこれで分かった。

俺が「あるじゃないか」と言うと医者は震える声で「これじゃ足りないんだ時間稼ぎにしかならない」と訴えかけてくる。


「それでもいいじゃないか、お前自身が助かる為にも最善を尽くせ?」

「わかってる!だから剣をしまってくれ」


…………しまい方か、いまいちよくわからん。

俺はわからないとは言えないので「断る」と言う。


テツイが縋るように「ツネツギ様、どうかお怒りを収めてください」と声をかけてくるがこの状況でテツイは邪魔でしかない。

俺はテツイを一瞥して「うるせぇ!!お前はこの次の手を考えろ!!」と怒鳴りつけると部屋の扉が開き「何事ですか?騒がしい」と言いながら現れたのは、あの白服の老人だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は部屋に入ってきた白服のジジイ、イーを見て「ちっ、一番面倒くさそうな奴が出てきた」と思った。


案の定イーは俺と腕を見て「お前は勇者!その腕輪、その光る剣…間違いない!!」と言うと詰め寄ってくる。


イーはこの状況も見ずに顔を真っ赤にして「奈落には行くな!行かせないぞ!!」と怒鳴りつけてくる。

グダグダと煩いジジイだ…


そもそもテツイが何も知らない以上、毒を盛ったのはコイツかもしれない。

俺はジジイに剣を向けて「毒を盛ったのはお前か?」と聞いた。


イーは剣に慄くことなく「毒?何のことだ!?私は何も知らない」と言ってくる。


この状況下でシラを切るとは愚かなジジイだ。

俺が本気ではないと思っているのか?


俺は御代を見てから「いいか、妹は今毒で死にそうだ」と言ってからイーを睨んで「もし妹が死んだら俺は勇者の力でお前たちを皆殺しにする。これは警告ではない。よく考えろ?薬があるなら全部出せ、出来る事は全部やれ」と言って迫るとイーは御代を一瞥して「なんだコイツは!何を言っている?だから私はアーティファクトも勇者も不要だと言ったのだ!!」と声を荒げるだけだった。


俺はそんなイーに再度剣を向けて「うるせぇ、さっさと妹の為に行動をしろ」と怒鳴ると「騒々しい、何事ですか?」と言って部屋に入ってきたのは黒い服の男だった。


パッと見た所、年の頃は40…50代と言った感じで、この白いイーとかさっきのアインツとは年が違う感じだ。


黒服の男が俺を見ると「勇者ですか?先ほどアインツが報告にきましたよ」と言った。

テツイが「ウノ様、これには事情が…」と黒い服の男に近寄って行き状況を説明している。


すぐにウノは「勇者様…ツネツギ様、状況はテツイから聞いて全てを理解いたしました。この国に来てくださったお礼もまだなのに、このような事態になってしまい。お怒りはごもっとも。申し訳ありません。ミシロ様…妹君の件は全てわたくしにお任せください」と言って謝ってくる中、テツイが俺の横に来て「アインツ様、イー様を束ねられる、3大臣の長。ウノ様です」と紹介をした。


「まずは猛毒ガエルの毒を解毒できるアーティファクトは手元には御座いませんが、それ以外のアーティファクトでミシロ様の毒を止めておきます。その間にツネツギ様には奈落に入っていただきアーティファクトを集めて貰えないでしょうか?その中に解毒のアーティファクトがあれば真っ先にミシロ様に使用させていただきます」


一通り先にできる範囲のこと、その結果について言われてしまうと俺は大人しくなるしか無かった。

俺が「1つ言わせてくれ、そして聞かせてくれ」と言うと、ウノは「どうぞ」と返してきて俺を見る。

何というかこの態度や余裕を見ていると三大臣の長と言うのは間違いないなと思った。


1つ目は御代が無事だから暴れないが、万一何かあれば全力でお前らを叩き潰すと言う話。

これにはウノは「ご安心ください。その万一は起こらないのでどうぞ好きに言ってください」と言われた。


2つ目はウノの側で御代の治療をする事は安全かと聞いた。「間違いなく今この国で1番安全な場所だと言い切れます」と言われた。

その理由を聞いたら、アインツもイーもウノには手出しが出来ないからだと言っていた。



ミシロはすぐにウノの部下がウノの部屋に連れて行かれた。


「それではツネツギ様におかれましては、このテツイと行動を共にしてください。異世界からの勇者様には文化や風習の違いもありましょう?そしてテツイ。アインツ大臣には私から説明をします。あなたはそのままツネツギ様のお世話をするのです。ミシロ様に関しましては症状に変化があればそれの良し悪しを関係なく必ずお伝えさせていただきます」


そう言ってウノはいなくなった。

ウノの後をイーが追いかけてアーティファクト不要論を延々と語っていた。


それを見ている俺の横でテツイが「ツネツギ様…そういう事ですのでよろしくお願いします」と言って頭を下げた。


俺はテツイを見て「ああ、こちらこそ頼む」と言ってから「それで早速だが…」と言い、テツイが「はい!何でしょうか?」と聞いてくるので右手で青い光を放つ剣を見せて「この剣のしまい方を教えてくれ」と言うと呆気に取られたテツイは「……そうですか」と言った後で剣のしまい方を教えてくれた。


「それにしても何とか間に合って良かったです」

「間に合った?」


テツイは「はい」と答えて自分が持つ一時停止のアーティファクトは止めていられる時間に制限があると言っていて、その制限時間が残り僅かであったことを話す。

それが本当だったらなんとかなってくれて良かったと俺も思った。



一度小屋に帰る事にした。

誰の手配かわからないが小屋の中は片付けられていて食事は何もなかった。

正直腹は減ったが御代の事を優先したい俺は食事を諦めて奈落突入の前に色々と聞くことにした。


ひとまずこの世界のことを聞きたかったので、地図を持ってきてもらう。


地図を見た俺は目を丸くして「はぁ?これが世界地図だと言うのか!?」と聞くとテツイは「はい。あ、これは15年前のものでして13年前の大破壊でイーストの地形は若干変わっています」と返事をしてくる。


違う、そうじゃない。この地図は無茶苦茶だ…


正方形の四角い紙にバツの形で国が四つに分けられていて、文字通り、北がノース、東がイーストと言った風になっていて、外周は山に覆われていたのだ。


「この山の向こうは?」

「誰も行ったことがありません。そもそも行こうとすれば落雷で命を落とすと聞いています」


何だここは………そして見ていてもう一つの事に気が付く。


[イースト]とイーストに書かれている。

…日本語!?


「おい、テツイ!これは日本語か!?」

「日本語…何でしょうかそれは?」


…駄目だ、御代が居て一緒に見ていればまだ説明もつくが、今のままだともしかすると勇者として召喚されたことで言葉が通じているだけかもしれない。

確認のしようがない。


「地図はわかった、ありがとう。次にお金だ…この国…いや世界に通貨は存在するか?」

「はい。買い物をするにも何をするにもお金は必要ですよ」


そう言うとテツイは笑ってお金を見せてくる。

銅貨、銀貨、金貨が出てきた。


「紙の金はあるか?」

「いえ、そういうモノは…」

先ほどの日本語はやはり召喚の影響かもしれない。

そう思っていた所にテツイが続ける。


「単位はエェンと言われます」


円!!?

本当になんだここは?


この後も色々と聞いたが、生活様式はファンタジー寄りの外国と言った感じだが、通貨単位などは日本に近い感じがした。総合的に見て何というか適当な感じがした。


話すことがなくなったからかテツイは「さて、それでは早速ですが奈落に行ってみましょう」と言って外に出る。小屋は城の中にあるので城門から外に出るとテツイが「城ですが真夜中は駄目ですが日中はいつでも開いています」と説明をしてくる。


その理由を聞いたら日中は奈落を拠点にした冒険者が見つけたアーティファクトを売り込みにくるそうだ。今の王はアーティファクトを不要とは思わず軍備増強に力を入れているらしい。


「じゃあ、そいつらに最下層行きを任せればいいじゃないか」

「いえ、あくまで売り込みは冒険者の意志なのであまりに高位のアーティファクトは持ち去られる可能性もあります。しかもそれを隣国に売られると…」


「いずれは自分の国に仇をなすと…」

「はい」


唯一俺だけが中に行けると思っていたがそれも間違いで、それ以外の奴らはこの国ではなく別の国に売る可能性もあると言う。

俺は心配になって「そんなんじゃ早く行かないとマズいんじゃないのか?」と言うとテツイは余裕の表情で「その心配はありません」と即答してきた。


俺はテツイの顔が気になって「なんだ今の言い方?」と聞き返すと「現状、踏破されたのは地下13階までで、その先はまだ…」と言ってきた。


それで勇者を召喚したと言う訳か…


「ちなみにだがそれは何年かかって13階なんだ?」

「8年です」


8年!!?そんなにかかってようやく13階ということに俺は驚いた。


「全部で何階なんだ?」

「全部で30階です」


今のペースで行けば10年はゆうにかかる内容だ。

…気が遠くなってきた。


俺の表情を見て不安を察したテツイは「しかしツネツギ様は勇者!きっと勇者の力であっという間に攻略できますよ!」と無責任に肯定的なコメントを出してくるので「だといいけどな…」と返事をしたが俺の心には不安しかなかった。

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