第49話 カムカ登場。

俺が「どうしたんだ?」と声をかけると兵士達は「助かった」という顔をした。

このガタイで迫られれば最悪突破されるかも知れないし、その隙に悪漢どもが悪さを働くかも知れない。


あまり役には立たないかも知れないが、「勇者の腕輪」の持ち主として知られ始めている俺が来たと言うのが有難いのだろう。


ガタイのいい筋肉質の男は俺を見て「おっ、アンタも冒険者か?オレはカムカ。南の二の村のカムカ。あんたは?」と聞いてきたので「俺は伊加利 常継。ここではツネツギで呼ばれている。冒険者…かどうかはわからない。だが奈落に入れる権利はある」と自己紹介をした。



ここでテツイが血相を変えて割り込んできて「サウスの人間!?どうやってここまで!」と聞くとカムカは「歩いて」と返す。


「そうじゃありません!あの雷の結界をどのようにして抜けたんですか?」

「あ、俺はキチンと連絡すれば通れるの。特使って奴?」


そのまま、カムカはぶつぶつと「シモーリの奴がそう言っていたよな」「全然、自由に歩けないぞ」と言っている。


テツイは「そんな…特使だなんて…」と言って驚いているとカムカは「あれ?何か俺が出かける前に城の奴から手紙とか来なかった?その中に俺の事とか書いてあるって言っていたけど?」と確認をしてくる。


この敵国かも知れない場所で堂々としていられる態度、そして見た目の強さ。

これは仲間になれば奈落の攻略が捗るかも知れない。


俺はテツイの肩を掴んで振り向かせると「テツイ、カムカを俺たちと一緒に奈落に入れるようにしろ」と指示を出す。

想定外の指示にテツイは「えぇぇぇぇっ!?」と返すが俺はそれを無視して「カムカ、俺たちの仲間になってくれないか?手が足りてなくて困っていたんだ」と持ちかけるとカムカは「んあ?奈落の話か?それなら構わないけど、嫌なことはハッキリと断るからな」と言ってきた。


「それで構わない。腕に自信は?」

「それならこの筋肉を見れば一目瞭然だろ?」


「よし、では早速このテツイに奈落に行けるように手配をさせよう」



テツイと共に城に行く。

テツイは直上の上司であるアインツに取次をした。

「何だ、忙しいんだぞ私は」と言いながらアインツが出てきて俺を見て「これはこれは勇者様、奈落攻略は如何ですかな?」と聞いてきたので、俺は「テツイはまた報告してないのか?」と呆れながら「昨日で7階までは済んだ。今日中に10階を目指そうと思っている」と説明をする。


「それは大変素晴らしい。で、本日はどのような御用で?」

「この男を仲間に迎えたい。うまくいけば今日中に11階も夢じゃなくなる」


アインツは気分良さそうに「ほほぅ、それはそれは」と言うとカムカを見て「それでこの男は?」と聞いてきた。


カムカが自己紹介をするとアインツの顔が曇る。

テツイと同じ反応をしてカムカが同じことを言う。

そこにタイミング悪く白い老人のイーもやってきて、また更に面倒な話になった。


カムカも熱が入ってきたのか「だからー、手紙に俺の事が書いてあるってシモーリの奴が言っていたんだよ!」という声が大きくなってきた。

ヒートアップして色々と面倒くさいと感じた俺は「あのさ、その手紙ってのを見ればわかるだろ?」と口を挟むと皆の動きが止まって騒ぎが収まる。


「手紙に書いてあればカムカは本物。無ければ偽物だろ?手紙はどこにあるんだ?」

俺の言葉に「それはウノ様が…」と返すイーの言葉を聞いたテツイが「ウノ様を呼んできます!」と走っていった。


共通の知り合いがテツイだけの俺達の間に流れてくる気まずい空気。

誰も口を開かずにシンとしてしまう。


数分後、テツイとウノが俺たちの前にやってきた。


ウノはここに来るまでに話が済んでいたので「事情はわかりました。確かにサウスからの書面にも「新しい王が信頼を寄せる者、カムカが国を見て回らせてもらいたい」とありました。それで、我々はカムカ殿に奈落行きを許可すればよろしいのでしょうか?」と出てくるなり言う。


カムカは「そうして貰えると助かります!」と言って軽快に返事をする。


カムカの顔を見たウノの目がキツくなり「ただで、と言うわけには行きにくいのですが…、奈落に行きたい理由やサウスがどうなっているかを伺うことは出来ますか?」と言うとカムカは「いいぜ、サウスの事も俺が答えていいと思える相手になら教えてていいってキヨ…王やシモーリにも言われているしな」と言って説明を始めた。


今まではアーティファクトを無理矢理多重装備して悪魔化した王が国を閉ざしていた事。

それを今の王とカムカや仲間達が討ち取って国を救った事。

まあ、流石に今の王様のアーティファクトは「答えんなって言われてます。ただ悪魔化した王様も無傷で倒せるアーティファクトだという事だけ教えておきます」と言っていた。



ウノが話を聞いた後でカムカに「サウスに戦争の意思はないと?」と問うと、カムカは今も結界が張ってあるのは、乱れた国内を立て直す間だけにしたいと王が考えている事を伝えた。


次に前の王が悪魔化した理由として神の使いを名乗る女が王に「龍の顎」と言うアーティファクトを渡した事が原因で、カムカは王や別の神の使いの頼みでその女を探索していると言う。


奈落はその特性上、隠れるには向いているのではないか?

命を落とした冒険者のフリをして住み着いているのではないか?

そう思って奈落を目指したと言う。


「わかりました。カムカさんの奈落行きを認めます。ただ…、奈落に関しては決まりごとも多いので単独ではなくこのままツネツギ様とテツイと行動を共にすると言う条件付という事にさせてください」

「さっきツネツギに聞いたら最下層を目指してるって言っていたし、目的は一緒ですからそれで構いません!」


カムカの言葉に頷いたウノは「最後にもう一つ。この許可はあくまで我らがイーストに害を成さないことが前提にあります。仮にこの先、カムカさんの意に反した事が起きたとしても決して逆らわぬように」と言ってカムカを睨む。


カムカは意に介す事なく明るく「わかってますよ」と返事をした後で「俺は俺の正義で物事を決める。あなた達の国益が正義の行動なら俺は邪魔をしない」と言いウノをあしらった。


ため息をついたウノは「話が無ければ我々はこれで、テツイ。お2人をしっかりとサポートして一日も早く目的を遂げるのですよ」と言って立ち去ろうとしたがもう一度こちらを振り返ると「ツネツギ様、ミシロ様の毒は止めてありますのでご安心ください。治癒のアーティファクトが見つかり次第、治療をさせていただきます」と言って俺にしっかりと釘を刺して去って行った。


「忘れるなって事か?忘れるわけがねぇ…」


そうウノの背中に向かって言う俺に「何か大変そうだな?話せよ」とカムカが言ってきた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カムカの知識は役にたつかもしれない。

テツイとナオイの知識は十分なのかも知れないが偏りがある。

そう思った俺は今までの経緯をカムカに話す。


「そっか、妹さんが毒で…。それにイーストが治癒や解毒のアーティファクトを奈落に投棄したから今は救う手立てが無いと…」

「ああ、だから俺は早く地下10階に行って妹を救えるような解毒のアーティファクトを見つけたいんだ」


カムカは親身になってくれている。

顔も最初の時の飄々とした感じではなく怒気を孕んでいる。



そんなカムカが「うーん…」と言って難しい顔をしている。やはり難題なのかも知れない。俺は「いや、済まない。無理に悩ませるような事を言って悪かった。もしかしたらサウスには解毒のアーティファクトがあるんじゃないかと思って…つい話してしまった」と謝るとカムカは「あるにはあるんだけどよぅ…」と言う。


カムカからのまさかの返事に俺は驚いていると「ただなぁ…。持ち出すには気になることが何個かあるんだよな」と言った。

俺は目の色を変えて「気になること?何だそれは言ってくれ!」と言い、カムカに縋り付く。


カムカはテツイを見て「んー?テツイには悪いんだが…」と言ってから「もしこれが仕組まれた話だと、サウスから解毒のアーティファクトを持ち込んでもいい顔はされないだろ?」と言って辺りを見る。


この言葉にテツイが「そんな!仕組まれたとは何ですか?」と言いながらカムカに詰め寄るが、カムカは「ツネツギにどうしても奈落に行って欲しいから妹さんを人質にしてって言う風にも考えられるんだよな」と続ける。


「そんな…」

テツイはそんな事はないと言いたそうだったが、反対派と推進派の愚かさ丸出しの過激さを知っているだけに何も言えなくなっていた。

ここで俺は「それは俺も考えていた。だが妹を救うためならば手段を選びたくないんだ」と言って深々とカムカに頭を下げる。



一瞬の間の後で「そっか、わかった」と言ったカムカは「後の問題は…解毒のアーティファクトがイーストに来たがるかだよなぁ…、自称新婚さんだから…呼んできてくれれば良いんだけど…。それに俺以上にサウスの重要人物だからなぁ…」と言って困り顔になると、もう一度周りを見て「………ツネツギ、ちょっとこっちに」と言って俺を呼んだ。


カムカは付いてこようとするテツイに「テツイ、済まないがそこに居てくれ!」と制止をする。テツイには聞かせたくないらしい。


俺も解毒のアーティファクトが関わっている事から「テツイ、待っていてくれ」と言うと味方だと思っていた俺の言葉にテツイは「そんな〜」と情けない声を出していた。



俺はカムカとテツイに背を向ける。

ヒソヒソ話でカムカが「解毒のアーティファクト使いなんだがな」と言う。


「ああ」

「サウスの…王様の自称第1夫人なんだよ」


俺の脳は一瞬では処理しきれずに「え!?」と言って言葉の意味を考えてしまった。


「万一その人に何かあったらサウスの王様のは間違いなくアーティファクトでこの国全部を滅ぼすと思うんだけど…、それでも呼ぶ?」


お妃様を呼ぶと言うのか?


事の重大さを理解した俺は息を呑んで「もし呼べるなら頼みたい」と言うとカムカが神妙な顔で「そっか…。お前、妹さんと自分自身の次にその人を守れるか?」と聞いてくる。


俺が「俺は二の次三の次だ、御代が一番で、その人が二番目だが命に代えても守りきる!」と力強く言うとカムカがニコッと笑ってガッツポーズを決めて「じゃあ、俺も腹をくくるか!」と言ってくれた。


カムカはさっさとテツイの所に戻って「奈落攻略に人が足りないからサウスから援軍呼びたいからさっきの偉い人に許可を貰ってきてよ」と言う、テツイはこの先の事を考えたのか「えぇぇぇぇっ!?」と言って泣きそうな顔をしていた。



「あ、後さ「大地の核」って無い?」

「あー、ご案内します」


大地の核に着いたカムカはピンポン球サイズの球を取り出して「おーい!居るかー?」と話しかけていた。

暫くすると「カムカ?どうしたの?」と男の子の声が聞こえてきた。


カムカは球に向かって解毒の話をしている。


「フィルさん、カムカからフィルさんにお願いがあるって通信球で連絡きているんだけど」

「カムカから?」

球の向こうから若そうな女の声が聞こえてきた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


フィルさんは僕から通信球を受け取って話をしているのだが、段々と語調が強くなってきて「それって!」「はぁ!?」「どうして?」「私は新婚でキョロくんと1秒も離れたくないのに」と言っている。


別に僕達は結婚しているわけではないのだけど…フィルさんはこのジチさんとリーンと僕と居る4人の日々を大切にしてくれている。


「ちょっと待ってて。こちらから連絡するから」と言って通信を終わらせたフィルさんが通信球を左手に持ちながら「キョロくん!カムカが酷いの!」と言って抱き着いてきた。


カムカの話ではイーストに召喚された勇者の妹が毒で人質にされていて助けてあげたいと言う事だった。

しかもイーストは脱アーティファクトが進んでいて解毒のアーティファクトも無くて八方塞がりでフィルさんを頼る他ないと言う。


それは仕方のないことだと理解した僕は「カムカ。困ってなかった?」と聞くとフィルさんが「それは困っていたけど…。キョロくんは一緒に来られないでしょ?」と聞き返してきて僕の後ろでシモーリが「無論です奥様」と答える。


肩を落として「行きたくないなぁ…。カムカや毒に困る人は助けてあげたいけどキョロくんと離れ離れは嫌なの」と言うフィルさんに「それでしたら奥様、素晴らしい案を提示させて頂きます」とシモーリが身を乗り出してきた。


シモーリの提案は今日一日をフィルさんだけの日にしてジチさんとリーンは僕が普段執り行う国境の監視や魔物の撃退をしてもらい、それから四日間だけカムカの手伝いに行って終わって帰ってきたらまた一日をフィルさんだけの日にすると言うものであった。


フィルさんは「う…、それはすごく魅力的ね」と言って顔が緩む。

そして探るように「私だけの日ってどこに行ってもいいの?」と聞くとシモーリは「奥様、それは申し訳ありませんが、王のアーティファクトの範囲外になりますと2人の奥様がアーティファクトを使えなくなりますので…、城の中なら何処でもになります」と説明する。


フィルさんは「それもそうね」と納得して今日一日は僕の部屋から出ない事を宣言して、食事は部屋の外に置く事、後はお湯を沢山沸かしてお茶を沢山飲みながら僕と話し続けると言った。


シモーリもその提案を受け入れ「残りの奥様の説得はお任せください」と言って去って行った。


僕は何だかんだ言ってフィルさんが居なくなる事が不安になったのでシモーリを呼び寄せて僕の考えを伝えると「それは素晴らしいお考えです。すぐに手配致します」と言ってシモーリは消えた。


やり取りを見ていてフィルさんが「キョロくん?何を言ったの?」と聞いてくるので僕は「え?フィルさんが無事に帰って来られるようにね」とだけ言って笑う。


「もう、キョロくんてば、教えてよ」

「明日になればわかるよ。さ、部屋に行ってカムカに通信したら沢山話そうね」

僕がそう言うとフィルさんは「離れ離れは嫌だけど、お城に来て初めて長時間2人きりになれるから嬉しい」と抱き着いて来た。


それにしても毒か、ムラサキさんが解脱に近付くといいなと僕は思っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


案の定、フィルさんは嫌がっていた。

人助けとか好きな人だが、ひとたびキヨロスが関わると人が変わるから困る。


「どうだ?」と言ってツネツギが不安そうに聞いてくる。

時間短縮のためにもテツイはお城に確認に行っている。


俺が「返事待ち、多分条件付きだけど大丈夫だと思う」と言うとツネツギがホッとした顔をする。


そんな時。「おーい……、おーいカムカー」と通信球から声が聞こえたので俺は「キヨロスか?」と言いながら話しかける。

声の主、キヨロスは俺の弟分、サウスの王様だ。


このタイミングの連絡がキヨロスからなら期待が持てる。

以下がフィルさんをこっちに送る為の条件やらなんやらだった。

・期間は4日、明日を1日目として明日中にフィルさんが到着するから、それから4日目の朝までフィルさんは一緒に居てくれる。4日目の朝にイーストの城を旅立って国境を目指すからそれまでと言う話になった。

・キヨロスも大概で「フィルさんに消えない傷がついたら、ここから12本の剣を飛ばしてイーストを滅ぼすから」と言っていた。

・そこまでして更に「フィルさんが心配だから護衛にマリオンを付けるから」と言っていた。

・理由は明日話すから今日はC級でもいいから捨てていいアーティファクトを掻き集めておくように言われた。


最後の最後も「くれぐれもフィルさんに怪我とか無いようにしてよね」とキヨロスに釘を刺され、通信の終わり際に今の言葉が聞こえていたことで大事にされている事を知れて嬉しそうなフィルさんの「キョロくん!!」って声が聞こえてきたが俺はヘトヘトだ。


こっちはこっちでツネツギが必死な声で「どうだ!?」と聞いてくる。俺はヘトヘト顔で「大丈夫、手配は済んだから」と言った後で「ただよツネツギ…、妹さんを二番にしてくんない?」と聞く。


「何故だ!!?」

「何故ってお前…、全面戦争…でもねえや、俺は一方的な破壊を止めたいんだよ…」


俺がガックリしているとテツイが息を切らせて帰ってきた。

細かい理由はさて置いて、今日はアーティファクト狩りをしつつ探索だ。

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