第30話 君が望む限り僕は跳ぶ。

僕達は足早に四の村を後にする。

今回は亡霊騎士を心配しないでいいだけ気が楽だ。


道中、フィルさんが僕に質問をしてきた。

質問はどうしてマリーに鎧を近づけたのかと言うものだ。

「仮定の話で、もしも制御球が二つある事で機能停止が完全じゃなかった時、無理矢理外されたマリーがどうなるかを考えてみたんだ。もしも、まだマリーと鎧が繋がっていれば手足が思い通りに動かない事も想像がつくし、そうなら近づければ何かしらの反応をすると思ってやってみたんだ」

この説明にフィルさんが「そう言う事だったのね、でもそれなら言ってくれれば私は協力したのに」と言って少し困った顔をする。正直打ち明けて頼って欲しかったんだと思う。


「ごめんね、あの場で理由を話して試そうなんて言えばペック爺さんが何を言うかわからないし、また良くない事を言う気がしたんだ」

「そう…かもね」


僕達は話をそこそこにしながら山を登り、いよいよ村長の家が見える所まできた所で突如マリオンが「ん…!?」と声を上げる。


「マリオン?」

「なんか、鎧の違和感が強くなってきた」

マリオンは「どうしよう?私も暴走しちゃうのかな?」と言って不安げな声を出す。


僕が「暴走状態にならないようにガミガミ爺さんに調整させたから大丈夫だよ」と説明するとマリオンは「本当?良かった…みんなを襲わないで済む」と言ってマリオンは泣いた。

こうして見ていると彼女が人形と言うのが信じられなくなる。


そろそろ村長の家なのでマリオンに兜も装備してもらう。



門が見えた。

僕が「カムカ」と声をかけるとカムカが「よしきた!」と前にでる。


だがマリオンが「ちょっと待って」と言って「私が壊してみたい」と言いながらアーティファクト砲の発射体制に入る。


カムカが「え!?俺が…」と言って自分を指さした時にはマリオンは「【アーティファクト】!」と言ってアーティファクト砲を放った。


左腕から放たれた光弾を見てカムカが「うぉっ!?」と言いながら大急ぎでかわす。

門は何とか吹き飛んだが、マリーが着ていた時ほどの効果は出ていない。


吹き飛んだ門を見てマリオンが「こんなもんか、まだマリーと繋がっているからかな?」とつまらなそうにそう言う。

その横でカムカが「お、おい。身体大丈夫か?倒れたりしないか?」と言いながらマリオンに詰め寄る。


マリオンは左腕を見ながら「うん、平気だね」と言うので僕は「その鎧が力を補充してくれるってガミガミ爺さんが言っていたからかな」と言うとマリオンは鎧を見て「じゃあ、この鎧があれば私は自由なんだ」と言う。その声は少し嬉しそうだった。


「ただ、あまり「大地の核」からは離れると効果が弱まるみたいだよ」

「なんだー、行けても三の村とかお城くらいかなー」

マリオンがガッカリした声を出している。


三の村ならガミガミ爺さんやフィルさん、それにジチさんも居るから安心して暮らせる話をするとマリオンは「私迷惑じゃないかな?」と言いフィルさんとカムカが「そんな訳無いだろ?」と言った。


村長の家に入る。

慣れた手つきで村長の像を破壊するカムカ。

毒の部屋の毒はフィルさんが無効化した。


マリオンが先頭を歩くと言うので任せる。

本当はフィルさんを前にするべきなのだが、マリオンはどうしても村長を驚かせたいらしい。


「亡霊騎士の走り方ってこうだったかな?」と言って走り始めるマリオン。


いきなり最高速から始まる亡霊騎士の真似がマリオンにできるのであろうか?


「行くよ!」と言ったが直後に「…きゃっ!?」と言う声と共にゴツッという鈍い音が部屋に響き、勢い余ったマリオンは壁に激突した。


その音を聞いて村長が「きたのか…」と言ってボウガンを構えて現れる。

僕が「制御球を渡してください」と言うと村長は胸元から制御球を取り出して僕達の目の前で床に落とした。


床に落ちた制御球はガチャンという音を立てて砕けた。

村長は「どうだ!壊してやったぞ!!」と言って下卑た笑いをする。


だがこれは好都合だ、僕は「ありがとう。村長さん」と言ってマリオンを見ながら「マリオン?」と聞くとマリオンは「うん、感覚が変わった。多分マリーは大丈夫だと思う」と言った。


村長は状況が理解できずに「な…何を言っている?もう制御球は無いんだぞ!もうそいつは止まらないんだぞ!」と言ってマリオンを指さす。


マリオンは「そう…止まらないから」と言うと最高速で村長の前に出て村長を殴り飛ばす。

2回目で最高速の動きに合わせられるのは人形兵士の所以なのかも知れない。


そのマリオンの拳で殴り飛ばされた村長は「ぶべっ!?」と言う叫び声と共に奥の部屋の扉にぶつかりグッタリする。

マリオンはそこで手を止めず、アーティファクト砲の発射体制に入るとぐったりとしている村長に「私はあんたを殺すまで止まらない」と言った。


フィルさんが「マリオンちゃん!」と言い、カムカが右手を前に出して「お…おい…」と言いながらマリオンを止めようとしている。だが僕が「この村長は生きていてもまたマリー達を苦しめるんじゃないかな?」と言うと2人はハッとした顔をする。


そして困った顔をして「確かに…そうだけどさ…」「でもマリオンちゃんが村長を…」と言うが、僕が「僕はマリオンを見届けてあげたいんだ」と言うと2人は攫うに言葉を詰まらせる。


このやり取りを見ていたマリオンは「アンタ、いい奴だよね」と言うと改めて村長を見据える。

村長は村長は朦朧とする意識から今がどう言う状況かわかったようでマリオンに「ひぃっ!!?やめてくれ!助けてくれ!」と命乞いをする。


だがマリオンは止まらない。


「お前はマリーを、お爺ちゃんを…。やめてと言った皆を笑いながら無視した。マリーを亡霊騎士にした。お爺ちゃんを狂わせた」

そう言って左腕を下ろさずにいると村長は「村を裕福にする為に必要だっただけで、やりたかった訳じゃ…」と震える声で言う。


「嘘だ!私は今も覚えている。お前がお爺ちゃんに『人形と余生を過ごすのは嫌だろう?もっと優れた人形兵士を作って孫を助け出せばいい』と言った時のあの顔を今も覚えている!!」


マリオンの殺気に村長が「ご…ごめん…なさい……許して…」と言ったがマリオンは驚くほどに冷たい声で「【アーティファクト】」と唱えると、マリオンの左腕からアーティファクト砲が発射され、瞬く間に村長の体を奥の部屋ごと吹き飛ばした。


威力は先程門に試した時よりも上がっていた。

恐らく村長が制御球を壊したからだろう。


カムカとフィルさんは幼いマリオンの手が汚れた事を良しとは思っていない顔をしていた。

マリオンはやり遂げた空気を出している。

これで良かったのだろう。



だが、僕の心は晴れなかった。

僕は心で「トキタマ」と語り掛けるとトキタマは嬉しそうに「りょうかいでーす」と返事をして時を跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



81回目の時間。

マリオンは「あれ?」と言った後で「…アンタ?」と驚きながら僕を見た。

そう、僕は跳んだ。

今回に至ってはリーンもフィルさんも連れてこなかった。

マリオンと僕だけで跳んだ。


状況を理解したマリオンは「そう言うことか、ありがとう」と言うと改めて村長を見据える。

マリオンの目線と殺気に気付いた村長の「ひぃっ!!?やめてくれ!助けてくれ!」という命乞い。


「お前が私の家族を滅茶苦茶にした」

「村の為にやったんだ…頼む…見逃してくれ」


前の時間とほぼ同じ命乞いと言い訳と弁明。

僕ですら鬱陶しいんだ、マリオンはもっと苛立ったのだろう「うるさい」と一言いうと村長が涙を流して「……ゆ……ゆ…許してください…」と懇願してくる。


だがマリオンはマリオンは容赦なくアーティファクト砲を放つ。

光弾が村長に直撃して村長は「ぎぃぃやぁぁぁぁっ」という絶叫を上げていた。


また僕は「トキタマ」と心で語り掛けるとトキタマは「はい!」と返事をして時を跳んだ。



82回目の時間。

また村長を殺す前に戻った事に気付いたマリオンが「あれ?…また…」と呟きながらこちらを見て、異常に気付いた村長も「なんだこれは?なんでまた!?」と驚き怯える。


マリオンが僕を見て「アンタ…まさか…」と言う。


僕は多分悪い笑顔をしているのだろう。マリオンに目配せをした。

マリオンは僕の目配せに気付いて「ありがとう」と言い、村長はこれから起きる事を察して「い…嫌だ、助けてくれ!」と叫んだ。



どうにも心が晴れない僕は、今回はマリオンと村長を連れて跳んだ。

四の村の事件は心が曇る事ばかりだ、ペック爺さんの態度、マリオンの悲しげな顔、元凶の村長。

僕は晴れない心、怒りの全てを村長にぶつけることにした。


村長は自分の身に起きたことに理解が追いついておらずに「夢か?これはなんだ?なんでまた」と言って必死に何かを考えている。

そんな村長にマリオンはアーティファクト砲を放つ。

村長は向かってくる光弾に首を横に振りながら「いやだぁぁっ」と叫びながら直撃をした。


僕はまた心の中で「トキタマ」と言い、トキタマも「はーい」と言って時を跳ばした。



83回目の時間。

マリオンは何も言わずに僕を見る。

僕は目で「気が済むまでやろう」と言った。

それがマリオンに伝わったかはわからない。


「ま…また!?もう許してくれ!!」

もう何回も聞いている村長の鳴き声。


村長の「また」と言った言葉に反応をしたフィルさんが僕の行動に気付いて「また?キョロくん!跳んだの!?」と言って僕を見る。

だが僕はフィルさんの目を無視する。


僕が無視をしたからフィルさんがカムカに「カムカ!マリオンちゃんを止めて!」と言い、僕に「キョロくん!やめて!!」と言って前に出てきた。


村長は「も…もう嫌だ、助けてくれ!」と言いながらこの世の終わりのような顔をしている。

多分なんとなくわかっているのだろう。この瞬間がまだまだ続くことを…。


カムカが「やめろー!!」と言いながらマリオンに跳びかかろうとしたがそれよりも早くマリオンは「【アーティファクト】」と唱えて村長にアーティファクト砲を放って。


迫る光弾に村長は「助けてくれぇぇぇぇっ」と叫んでいた。


もうトキタマもわかっているだろう「トキタマ」と呼ぶだけで「はーい」と返事をして時を跳んだ。



84回目の時間。

85回目の時間。

86回目の時間。

この3回も異変に気づいたフィルさんが妨害を試みてきたが、一度も成功できずにマリオンはアーティファクト砲を放ち僕はマリオンと村長と跳んだ。

前にムラサキさんが言っていた事が本当なら短距離で少人数なら僕の魂はそんなに擦り減らないだろう。

それにしても僕は後何回跳べば気が晴れるのだろう?



87回目の時間。

今回も村長の「も…もうやめてください。お願いしますぅぅぅ」という哀願から始まる。今回のフィルさんも村長の言葉に反応して「もう?」と言う。


村長が涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら「殺すならぁ…一思いにぃ…殺してぇ…くださいぃ。何回もぉ…殺されるのは嫌ですぅぅ」と言ってきた。


フィルさんは今度は「何回も」の部分に気付き、「何回も?キョロくん!!?跳んでいるの!?私の知らないところで跳んでいるの?」と聞いてきたので、「そうだよ、フィルさん」と僕は言う。


何回も邪魔をされても僕は跳んだ。

その余裕からフィルさんに説明をする。


「1年半もマリーは鎧の中で生かされて手足の骨が折れた。マリオンは今日までマリーの代わりとして生かされて、マリーが帰ってきたらペック爺さんからは道具扱い。可哀想じゃないか。マリオンもたった一回で苦しみが晴れるとは僕は思っていない。だから跳んだんだ」


僕の説明にフィルさんが必死になって「それは命を削ってまで跳ぶ時じゃないでしょ?」と言うとトキタマが「やだなー、お姉さん。跳んでもお父さんは命を削ったりなんてしませんよー。ちょっと疲れちゃうだけですよー」と割り込む。


そのタイミングで僕も「僕は今が僕の力の使いどころだと思っているよ」と言うとフィルさんが「そんな」と泣きそうな声で僕を見る。

僕は「カムカも僕が良ければそれもいいって思っているだろ?」と聞くとカムカは返事に困っている。


カムカが黙っている時にフィルさんが兜を脱いで泣きながら僕に「後で後悔する日がくるかもしれない」と言った。

言っている事は分かる。でも僕は後よりも今の事を大事にしたかった。


「ごめんねフィルさん、僕は今後悔したくないんだ。マリオンの無念を晴らしてあげたい」

マリオンは僕たちの話を聞きながら発射を待っている。


僕はマリオンに「マリオン!気が済むまで跳ぼう!僕は付き合う!」と言うとマリオンは腕をおろした。


今までと違う展開に僕が「マリオン?」と意図を探ろうとするとマリオンは「ありがとう。アンタは本当に優しいね。その優しさが私を救ってくれる」と言うと村長に背を向ける。


村長はマリオンに腕を向けられている間、ずっと泣きじゃくっていた為にぐしゃぐしゃの顔で助かった事に「ふぇ…」と言いながらマリオンを見た。


「もう気が済んだ。後は生き恥さらして生きればいいさ」

そう言ってマリオンは僕たちの元に来て「帰ろう」と言った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



僕は帰ろうと言ったマリオンに「本当にいいの?」と聞くとマリオンは「いいって、それこそあんな奴の為にアンタの命が削れる方が嫌だって」と言って呆れる。


「そう…、マリオンがいいならいいけど」

そう言って皆で背を向けた時だった。


「おい!お前も手伝え!!」

村長がそう言うと、扉の向こうから居なくなっていた6人目の協力者がアーティファクト砲を構えて出てきた。

そして村長と2人で3個のアーティファクト砲を構えて「死ね!!」と言うと3個のアーティファクト砲から3色の光が飛び出してくる。



フィルさんが「下がって!【アーティファクト】!!」と言ってムラサキさんを構えて壁を作る。


その壁の中で僕は「やはり殺したおいた方がいい人間だったんだ…」と呟いた時、マリオンが壁の脇から村長に向けて走り出し殴り飛ばす。

扉の向こう側、壁に激突して今度こそ気絶する村長。

6人目はあまりの出来事に驚いて尻もちをついている。

「アンタも死ね」と言いながら殴ろうとするマリオンをカムカが制止した。


カムカが「もういい、お前が手を汚すことはない」とマリオンに声をかけるとマリオンが「どうして!?」と聞く。


カムカは「俺が罰を下す」と言うと、村長と6人目の両足を殴り折った後で村長を起こすと改めてこう言った。


「毒の部屋は開けておく。そのうち毒が充満するだろう。その前に逃げられて村に帰ってこられたら今日までの事は許してやる」


この言葉に村長は「そんな!この足で逃げられるわけがない」と言うがカムカは「そんな事、俺は知らない。もし生き残れたとして、村に帰ってこようがどこか別の地で生きようが構わないが、また俺たちに危害を加えるようなら今度は許さない。以上だ」と言って村長に背を向ける。


カムカに見捨てられた村長が6人目に「おい、お前私を助けろ!!」と無茶な事を言うので、カムカが「あ、5人に連絡してもいいけど、鎖につながれているからどうにもならないだろうよ」と追い打ちをかける。

その言葉を聞いた村長はがっくりとうなだれた。


「さ、皆村に帰ろうぜ」

カムカが仕切る形になって先に進む。

村長達の助けを求める声を無視して家を出るころには助けを求める声は罵倒に変わっていた。

その声を聴きながら僕はマリオンに話しかける。


「マリオン、本当にいいの?」

「いいよ。ありがとう」


そう言ってマリオンは先に進む。

カムカが「肩車してやろうか?」とマリオンに言うと「おぶって最高速で走ってあげようか?」と逆に言われていた。

2人は笑いながら「手でも繋ぐか?」「うん」と言って先に行ってしまった。


僕はひとまずめでたしかな?と思ったのだが、背筋に冷たいものが走る。

背後に居るフィルさんが怖い目で僕を睨みつけている。

美人は怒っていても美人だが、怖いものは怖い。

無視をしたい気持ちもあったのだが、無視で済むわけもないのでフィルさんを見る。

目が合った瞬間、フィルさんは「キョロくん」と言うので僕は素直に「ごめんね」と謝る事にした。


だがフィルさんは「ダメ。許しません」と言い、珍しくフィルさんの口調がキツい。

僕は恐る恐る「凄く怒っている?」と怒っているかの確認をする。


「当たり前でしょう?何だと思っているの!」

「短距離だし、跳んだのもマリオンと村長だから大丈夫かなって…」


「そういう事じゃなくて、もっと自分を大事にして!」

「しているよ」


「していません。で、何回跳んだの?」

「え?言わなきゃダメかな?」


「ダメ」

「言ったら怒るよね。怒らない?」


この返しにフィルさんが「怒る……ってそんなに跳んだの?」と言って怒り口調から呆れ口調に変わる。


ここで僕は素直に「7回…」と答えるとフィルさんは「7回も!!何で!?」と声を荒げる。

僕が「マリオンが可哀想で…。それに僕も頭にきていて…」と言い終わる前にフィルさんが僕に抱き着いてきた。


「優しいのも知っている。でも本当に自分を大事にして。悲しくなるようなことをしないで」

「フィルさん…ごめんね」


「謝るならしないで!」

そう言ってフィルさんが抱き着いたまま泣いてしまった。

僕は泣かれるとまでは思っていなかったのでちょっと困った。

僕が「もう行こうよ」と言ってもフィルさんは「ダメ」と言って僕を離さない。


「暗くなると亡霊騎士が出てくるよ」

「それは解決したでしょ」


そんな会話をしているうちにフィルさんの機嫌が直ったようで僕は離されたので一緒に村に向かって歩き始める。


しばらくすると亡霊騎士…マリオンが迎えに来る。

亡霊騎士の格好で走ってこられるとちょっと驚く。


マリオンが訝しむように「遅いよ、どうしたの?」と聞いてくるとフィルさんが「ごめんね、マリオンちゃん。ちょっとキョロくんにお説教してたの」と答える。

その答えにマリオンが「ふーん、そうなんだ。さ、早く帰ろう!!」と言って僕達と歩く。


カムカは律義に村の入り口で待っていて「四人で入らないと意味ないからよ」と言っている。

僕達は「お待たせ」「待っててくれてありがとう」と言って4人で村に帰る。



ペック爺さんの家の前。

横に居るマリオンの緊張感が伝わってくる。

「マリオン、僕たちが居るから」

僕が言い、カムカとフィルさんも口々に大丈夫とマリオンを励ます。



マリオンは「ありがとう」と言って扉を開けると「おかえりなさい!!」と言う明るい声が出迎えてくれた。

声の主はマリーだった。


マリオンは嬉しそうに「マリー!!」と言うとマリーも「マリオン!!」と言う。

マリーとマリオンが笑顔で向かい合っている。


その後ろでガミガミ爺さんが「ついさっき目覚めたら手も足も動いてこの通りだ」と嬉しそうに言う。


「マリオンちゃん、鎧を脱ぎましょう」

「うん」


「あ、ガミガミ爺さん、機能停止して」

「そうだったな」

そう言ってガミガミ爺さんが制御球を出して機能を停止させる。


鎧を脱いだマリオンはマリーの前に立つ。

「久しぶり…」

「うん、久しぶりだね。マリオン!!」

こうしていると、よく似た姉妹にしか見えない。


ここで僕はこの部屋にペック爺さんとジチさんが居ない事に気付く。

「あれ?ジチさんとペック爺さんは?」

「奥で姉ちゃんがペックの事を説教しているよ」


話しているとしょんぼりした顔のペック爺さんが奥の部屋からやってきた。

ペック爺さんは「マリオン…」と声をかけるとマリオンが暗い声で「お爺ちゃん」と言う。


正直、僕は何か変な事を言おうものならペック爺さんを思い切り殴って跳んで無かった事にしてやろうと思った。


だが、ペック爺さんは目に涙をためてマリオンに謝った。


「マリオン、済まなかった。僕は気が動転していたんだ」

この言葉にマリオンは困った顔で「いいよ、仕方ないよ。私はあくまで人形だから」と言うと奥から現れたジチさんが「こら!そんな言い方しないの!お姉さんは君をそんな風に見てないわよ」と言ってマリオンをたしなめる。


たしなめた後で「でも、そう言わないとお爺ちゃんに裏切られた時に辛いのもお姉さんはわかっているからさ、仕方ないってのもわかるよ」と言ってマリオンの頭を撫でるとマリオンは少し落ち着いた感じで「お姉さん…」と言った。



マリオンから手を離したジチさんが僕達を見て「さて!夕飯にするよ!!今日はイノシシで沢山ご飯を作ります!」と言う。


この言葉で僕はひとつの事を思い出した。

「あ、そのイノシシって…」

「そうですー。キヨロスくん達が出かけた後、村の外まで二往復して私が回収してきたイノシシです」


しまった、朝から亡霊騎士のことばかりで村の入り口に置きっぱなしにしてきたイノシシの事を忘れていた。


僕が気づいた事で満足そうなジチさんが「さ、キヨロスくんは解体。お姉さんとフィルは料理。お爺ちゃんたちは片付け」と言ったところでカムカが「俺は?」と口を挟む。


「カムカは近所に行って食器を分けてもらう係!後は外の5人を解放する係!」

役割を貰ったカムカは「よーし!任せとけ!!」と言うと走って行ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



その日の夕飯はマリーもマリオンも喜んで食べてくれた。

マリオンは多少なら食べ物も食べられるようになっているらしい。

僕にはわからない話だし、あまり興味はない。悪い意味なんかではなくマリオンはマリオンだからだ。


子供たちの前でするのは少し気になったが、明日以降の話をした。

ジチさんはやはり三の村を安住の地にしたいらしい。

ただ、擬似アーティファクトの事があるので四の村にはこれからも顔を出すと言う。


ジチさんは「お姉さんはここでドフ爺さんとフィルを待って、一緒に三の村に帰ってから10人を迎えに行くよ」と言うので明日はペック爺さんの家にいるらしい。


ガミガミ爺さんは僕達に付いて来たそうにしていたが、戦力としては無理があるのでジチさんと一緒にここで待つことになった。ちなみに待つことはペック爺さんも了承している。


カムカとフィルさんと3人で城に行く話に纏まった時、マリオンが「私も行く」と言い出した。


「戦いになるなら私が居た方がいいでしょ?もう兜の機能は取ってあるから私一人で鎧の力も引き出せるし、それにお城なら「大地の核」の力も届くよね?」

マリオンの提案にペック爺さんは「確かにそうだが」と言いながら反対をする。


そしてペック爺さんが「もしや、僕の発言を気にして?」と言って「あれは気が動転していただけで本心じゃない」と必死になってマリオンに謝るが、マリオンは「そういう事じゃなくて、私は恩人の役に立ちたいんだよ」と言って僕たちの横に立つ。


しばらくの問答の後、諦めたペック爺さんが「孫をよろしく頼みます」と僕達に言ってきた。



その後は明日の準備としてガミガミ爺さんが夜通しで再度僕たちの装備をメンテナンスして、溜まった雷の力をマリオンに渡していた。



[8日目]

ペック爺さんの家の玄関で僕が「じゃあ、行ってきます」と言うとフィルさんも「お爺ちゃん、行ってくるね」と言う。

僕は村の出入り口に向かって進み始める僕達の背中に向かって聞こえてくる「小僧、小童、フィルとマリオンを頼んだぜ!」と言うガミガミ爺さんの声を聞いて僕達は返事代わりに手を振る。


ペック爺さんの家を出てすぐにジチさんが「これ、持って行って。お姉さんのお手製お弁当」と言って僕にお弁当を渡してくる。

僕はお弁当を受け取る時にジチさんが「ちゃんと帰っておいでよ」と言ってくれるので「はい」と返事をした。


そう言って僕は村を出る。

マリオンもマリーやペック爺さん達と何かを話していたようだ。

マリオンに聞くと「お爺ちゃんをよろしくねって話をしていただけよ」と素っ気なく答えられた。


今日、いよいよ城に着く。

そして全てを終わらせて一の村に帰るんだ。


僕達は足取り軽く城に向かう。


「なあ、城って夜でもいいのか?」

カムカが聞いてくる。

そう言えばどうなんだろう?四の村から城までは約一日かかる話だった。城に着く頃には辺りは夜になる。


「ダメなら王都で宿を探して一晩経ってからだけど…」

「とりあえず城に行ってみてからじゃないかな?」


「そうするか」

カムカは豪快に笑いながら歩く。


途中、皆のお腹が減ってきた所でジチさんのお弁当を食べる。

ちゃんとマリオンの分は小ぶりのお弁当になっていて、この気遣いにマリオンが大喜びをする姿に僕達はほのぼのとしてしまう。これから戦いにいくのだけど、こんなのでいいのかな?と思ってしまった程だった。

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