第14話 ジチのお説教。

お姉さんは僕に「さあ!行こうか!!」と力強く言うと真っ直ぐ街道を進み始めた。


少しして槍の男が見えなくなったところでお姉さんが「最初の目的地はどこだい?」と聞いてくるので「三の村です」と答える。


毒竜がいる三の村だ、お姉さんは及び腰になって諦めてくれるかも知れない。


僕はそう思ったのだがお姉さんは「毒の中を行くなんてよっぽどだね!もしかしたら三の村もアイツらと住みやすいかもね!行ってみよう!!」と言ってニコリと笑う。


強いと言うか何と言うか…僕には到底真似ができないな…



僕達は街道を進む。

理想は今日中に三の村に着いて毒竜の情報を集めたいのだ。


お姉さんは僕の速度に鼻歌交じりで着いてくる。

この分なら引き離すとか置いて行くと言うことは無さそうだ。


お姉さんが「あー、ところで何だがね」と言って話しかけてくる。

僕はまさか疲れたとかそう言う話になるのか?と警戒しながら「何ですか?」と聞くとお姉さんは僕の顔を見て「貴方の名前を私は知らないんだよ。一緒に旅をする中だろう?教えておくれよ」と言った。


そう言えばそうだ、まあ名前くらいならいいと思う。

「一の村のキヨロスです」

「キヨロスくんね、私の名前はジチ。本名はジチーチェって言うんだけど長いだろ?だから皆にはジチで通しているんだ」


お姉さん…ジチさんはそう言うと笑った。

一の村には居ないタイプの人だ。

この話し方と笑顔と距離感に僕は少しだけこの人を信用し始めて居た。


それで僕は「親しい人は僕の事を「キョロ」と呼びます」と教えてしまう。

お姉さんは「キョロくんね。どっちで呼ぶかは追い追い考えておくよ。所で年は幾つだい?」と聞いてくる。

ジチさんは年齢で人を判断しない人だとは思うが未熟者と思われてナメられても困る。


僕が黙っていると「何だい?言いたくないのかい?まだ信用出来てないのかな?それとも、人に聞くのならまず自分からって奴かい?女性に年を聞くのは失礼なんだからね?」と一気に喋ると「まあいいや私は25歳だよ」と言った。


矢継ぎ早に言葉が飛んで来て言葉の波に流されてしまうと思いながら僕は「僕は15歳です」と言うと僕の年齢を聞いたジチさんは「そうかい、しっかりしてるからもう少し上かと思って居たけど、15歳かい!それじゃあ成人の儀をやってその不思議なアーティファクトを手に入れたんだね?」と言った。


そこから先は色々な話になった。

ジチさんのアーティファクトは「風の羽」と言う髪飾りで能力は移動速度の向上で、「風の羽」を使って色々歩いているうちに健脚になったらしい。

注意点は3日後に疲労が一気に襲いかかってくるもので、初めて使った時は3日後に足が痛くてベッドから出られなくなったと言って笑っていた。

何でも歩くのが楽しくなって生まれた五の村から八の村まで往復してきたらしい。


その後は僕のこれまでの経緯を聞かれた。

話せる範囲でトキタマの事、王の話、村が人質に取られた事を話した。


「キヨロスくんも大変ねー」と言ったジチさんは「偉いぞ!村のみんなの為って言っても中々行動出来るもんじゃない。それを決断できたのは貴方の心が素晴らしいのと、それだけ貴方がご両親や村の人に愛されて居たと言う事だよ」と言って僕を褒める。


褒められて思ったのはやはり褒められるのは苦手だと言う事。


ジチさんは「もし、この先…私と貴方が友と呼べる仲になって全てが片付いたら一の村に遊びに行ってみたいな」と言う。


僕は一の村を思い出しながら「サウスの端ですが一の村はとてもいい所です」と言うとジチさんは「キチンと自分の生まれ故郷を愛せている。素敵だね。私は貴方に好意を抱いてしまうよ」と言って僕を見た。


好意と言われた僕は驚きながら何を言いだすんだこの人はと思っているとジチさんは嬉しそうに「おっ、照れているのかい?それとも沢山話してお姉さんの魅力に気付いて好きになっちゃったかな?」と言ってまた嬉しそうに笑う。


そんな事はない。

綺麗な人だが、僕はこの短時間でそういう風に思ったりはしない。


少しだけムキになって「……違います」と言うと「じゃあ何かなこの間は…?それとも村の話が出たから村に残してきた彼女の事とか考えてしまったのかな?」と言う。


「違います。本当に褒められるのが苦手なだけです。僕は全てを使い切ってでも村の皆を助けるんです!」と返すとジチさんは「彼女の事は否定しない…と」と言ってニヤニヤと僕を見て嬉しそうな顔をする。


急にこのやり取りとジチさんの勢いが腹立たしくなった僕は「いい加減にしろ」と怒鳴ってしまった。


一瞬の沈黙の後でジチさんが「言いすぎたね、ごめんなさい。つい弟みたいで楽しくなりすぎちゃったよ」と謝ってくれる。

僕はジチさんが謝ってくれた事で冷静になれて「…僕の方こそ言い過ぎました」と謝ることが出来た。


「良いって、私がしつこかったんだ」と言ったジチさんは一瞬の間の後で「ただね…」と言って僕を睨みつけた。


その目と口調と空気で怒っているのがわかる。

僕が言い過ぎたことには怒って居ないと言っていたのになんだ?と思っているとジチさんは大きく息を吸うと僕に向かってこう言った。


「たかだか15歳の若造が何を「全てを使い切る」なんて言ってるんだい!馬鹿言っているんじゃないよ!!」


何を怒っているんだ?


「あんたがそんなんで、あんたのご両親は何とも思わないと思わなかったのかい!?泣かなかったのかい!?泣かなかったとしたら我慢してくれて居たんだよ!そんな事もわからない子供が、何が使い切るだ!そんなんで助かってもねえ、誰も嬉しくないんだよ!!」


ジチさんが怒涛の勢いで一気に僕を怒鳴りつける。叱りつける。


僕の考えは間違っているのか?

子が親のために命を使い切るのははダメなのか?

ちょっと前の僕ならジチさんの言っている言葉の意味が分かったはずなんだけど、どうしても今の僕は考えがまとまらない。何がいけないのかピンと来ない。


そんな僕にジチさんは言葉を続ける。


「あんた、村に彼女がいるのかわからないけどさ、あんたがそんな事を言っていたのを知っていたら絶対に行かせなかっただろうよ!親友だってそうさ!逆の場合を考えてごらん!!」


ジチさんに彼女、親友と言われた僕はリーンとナックを思い浮かべた。

リーン、ナック…僕が命を使いつぶすと知ったら行かせない?

逆にリーンとナックが命を使いつぶす?

それは駄目だ。命を使いつぶすのは僕だ…


ジチさんの言葉に僕はひどく混乱をした。


考えてはいけない。


そのうちそう思い始めた僕は「考えちゃいけない」とうわ言のように言いながら倒れてしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



僕はふと目を覚ます。

僕はいつのまにか寝てしまったようだ。

早く起きて三の村を目指さねばいけない。


僕が起きた事を確認したトキタマが「お父さん、起きましたかー?」と言って胸に乗ってきた。


僕が「ああ、どうしたんだろう?急に寝てしまったみたいだ」と答えるとトキタマが「お姉さんも心配していましたけど僕が寝かせてあげましょうと言っておきました」と言う。


お姉さん…?

ああ、ジチさんの事だ。

ジチさんは何処だろう?


目覚めた時にはすっかり忘れていたジチさんの事を探そうとすると僕の頭の上から「おはよう、キヨロスくん」と声がする。


起きて驚いた。

僕はジチさんに膝枕をして貰っていた。

僕は慌てて起きてジチさんに謝る。


ジチさんは優しい笑顔で「いいのよぉ、別にこれくらい」と言うと「それにしても急に寝ちゃうなんて大丈夫かい?疲れているんじゃない?もう少し休むかい?」と言ってくれる。

ジチさんの提案を「いえ」と断った僕は「僕はどのくらい寝てしまいましたか?」と聞くと「んー、体感だけど15分ってところだね」とジチさんが言う。


15分、それならまだ取り返せる。

ジチさんが「疲れて休んだと思うことにしようよ」と言ってくれて僕は「そうですね」と言った。



僕たちは再び歩き始める。

それにしてもジチさんは先程声を荒げてしまった僕にこんなに良くしてくれて申し訳ない気持ちになる。


「さっきは声を荒げてごめんなさい」と謝ると「おや、そこは覚えていたのかい?」と言って優しく笑った後で「いいっていいってお姉さんも言い過ぎたって言っただろ?こちらこそごめんなさい。弟が出来たみたいで嬉しくてはしゃいじゃったんだ。キヨロスくんが怒ってすぐに倒れたから覚えてないと思ったよ」と言葉をかけてくれる。


この人のこう言うところを見て10人の男の人たちはジチさんの事をボスと呼んでいるのかもしれないな。


しばらく歩くと空気が悪くなってきた。

三の村が近いのだろうか?

辺りは夕方で薄暗くなってきた。

時間的に言えばそろそろ村が見えてもいい頃だ。


そんな時、グルルル…と聞こえてくるとジチさんが「何か聞こえなかったかい?」と言った。

確かに聞こえた僕は「はい。何かが居ます」と言って辺りに気を回すと右奥の茂みが動いた。


多分あそこに何かがいる。

僕は茂みを指さして「ジチさんは僕の後ろに、極力守りますが危なくなったら三の村を目指して走ってください」と言って身構えるとジチさんは僕の後ろに来る。


あの茂みの辺りまでなら火球が投げられると思った僕は「火の指輪」を構えて火球を茂みに投げ入れる。


火球が茂みに入ると「グオォォオッ」と言って茂みから飛び出してきたのはビッグベアだった。


「ビッグベア!?何でこんなところに?」

ビッグベアは本来山に住む魔物だ。

こんな街道付近をウロウロとしていると言うのは異常なのだ。


迷子か何かだが、ビッグベアが危険な事には変わらない。

更によく見ると随分と痩せている気がする。


痩せているという事はこのビッグベアは空腹だ。

ここで倒さないと僕らが餌にされてしまう。

僕は火を纏わせた剣でビッグベアを倒すとジチさんが少し離れたところから戻ってきて「やったのかい?流石だねえ」と言った。



ジチさんは倒したビッグベアを見ながら「この辺りはこんな魔物がウロウロとしているのかい?危ないねぇ…10人と住むのは無理かしらねえ?」と言っている。

確かに山の魔物が平地に居るとなると三の村周辺は平和とは言えないな。



「ところでキヨロスくんは息大丈夫?」

「息?毒か…、ええ平気です」


毒と聞いた僕はどうしてビッグベアがこの場に居たのかわかった気がした。


「おそらくビッグベアは山に住んで居たのに山に毒竜が住み始めて毒を撒き散らすから山を降りるしか無かったんじゃないですかね?」

「それなら毒竜さえ何とかなればこの辺りも平和になるって事かい?そうなら助かるねえ、うまくいけば10人と住めるよ」


ジチさんが納得をした所で僕は「さて、ジチさん。手伝ってください」という。

「え?何をだい?」と聞くジチさんに「このビッグベアを運ぶんですよ。今日の夕飯です」と言ってビッグベアを指さす。


「え…嘘でしょ?」というジチさんに僕はニコリと笑って荷物の中からロープを出した。


ジチさんは「重い…」と言いながら頑張ってビッグベアを引っ張る。

それはこの巨体だから仕方がない。

2人で運んでいるのだからこれでも随分とマシだ。


少し歩いたところでようやく三の村が見えてくると「お姉さんが先に行ってビッグベアを運ぶの手伝ってくれるように頼んでくるよ!」と言うとジチさんはすごい速さで駆け出していた。


余程重かったんだな。

僕も休憩しよう。


そう思ったのだが残念。

何かが遠くからこちらに向かって走ってくる。

僕は剣を抜いて身構える。


走ってきたのは高速イノシシだった。

高速イノシシも本来は山に住んでいて高速で野山を駆け回る厄介な魔物だ。

高速イノシシは折角仕掛けた罠も壊すし普通のイノシシとかも跳ね殺す山で狩りをする者の敵だ。


高速イノシシには基本進路変更はない。

曲がる時はぶつかりながら曲がる。

おかげで頭部が発達していて硬いコブになっている。



高速イノシシの進路に僕はいる。

このままだとビッグベアは跳ね飛ばされて食べられたものではなくなる。


やるしかない。


斬り込むタイミングを間違えると大怪我だ。

この「兵士の剣」は突きで能力を使ったことがない。


初めて見たあの斬撃でしか発動をさせていない僕は試してみるしかない。

アーティファクトを発動させて突きを放つ。

それが出来れば高速イノシシの突進力と合わせて威力は倍になる。


「【アーティファクト】!」と唱えながら突きを放つと高速イノシシは何とか倒せた。


コブの下、眉間のあたりに「兵士の剣」が刺さっている。

アーティファクトは発動したのだが剣の訓練を受けていない素人の僕が放った突きは思った程の威力が出なかった。

これで発動すらしなかったら危ないところだった。

まあ、これで晩御飯が増えた。

しばらくするとジチさんが男の人を2人連れて戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る