南の「時のタマゴ」-旅立ち・出会い。
第13話 一度目の死と仕返し。そして加入。
[4日目]
起きたのは夜明け前。
トキタマにアーティファクトの反応を聞くと、位置は違うが前と同じ数が配置済みだった。
そうだ、向こうは跳んだ事を知らないから同じく配置は済んでいるのだろう。
僕は準備をしながら「そう言えばまた成長したのか?」とトキタマに聞くと持って跳べる記憶の数やアーティファクトの種類、アーティファクトの級が高くても装備可能になった事を言われた。
後、目新しい部分で「肉体の経験値」を持って跳べるようになったらしい。
今までは剣を100回振るっても跳んで戻れば僕の肉体上は0回になっていたが、今度からは100回の経験も体に残るらしい。
トキタマに言わせれば、それも沢山跳ぶようにしてくれたリーンのおかげらしい。
リーンの事を聞くとどうしても昨晩のキスを思い出してしまう。
父さんと母さんは起きていた。
寝ていたら黙って出ていくつもりだったのが見透かされたのだろう。
昨日のリーンのお父さんの言葉を思い出す。
親というものは凄いな。
僕が扉の前で「行ってきます」と言うと母さんが「行ってらっしゃい」と言って父さんが「気をつけてな」と言う。そのまま僕たちは3人で抱き合った。
右手に父さんの感覚、左手に母さんの感覚が伝わる。
温もりと感覚で僕は少しだけ名残惜しい気持ちになったが約束の日の出までにフードの男を探さなければならない。
僕は少しだけ急いで家を出た。
前回見かけた場所にフードの男は居なかった。
おそらく父さんと母さんが起きて居た事と僕の心境の変化が時の流れに影響したのだろう。
このままでは総攻撃が始まってしまう…日の出までにフードの男を探す為に僕は走った。
結局フードの男は見つからずに総攻撃が始まってしまった。
まだ、誰も死んでいない。死んでしまったら僕は止まらなくなる。
僕はそう言い聞かせて跳ぶ事にした。
56回目の時間。
父さん母さんと抱き合ってすぐに家を飛び出した僕はフードの男を探す。
リーンの家の方も見たし、南の方も見た。
だが居なかった。
焦る僕をあざ笑うかのように時間は過ぎていく。
今度は日の出の少し前にフードの男を見つけることが出来た。
フードの男は北の村はずれに居た。
フードの男はこちらを見ると全てを理解したようで「条件は総攻撃の中止か…」と言った。
僕は頷いて「そうだ、僕は約束を守ったのだからお前も約束を守れ」と言うとフードの男は手を挙げた。
村の至る所に配置された兵士がフードの男のところに集まる。
見た感じはこの前と編成が変わって居ない。
剣の兵士が4人で、後は弓と剣を装備した兵士が2人に火のアーティファクト使いが1人の3人編成が7組居た。
僕の視線を感じたフードの男は「探っているのか?」と聞く。僕も隠さずに「あなた方がいつ僕を裏切るとも限らないですからそうなりますね」と言う。
フードの男は「約束を守っている間は大丈夫だ。まあ10日以内に城に行かなければ兵士達には総攻撃をさせるがな」と言う。
10日…三の村と四の村で何をするのかわからないが、足りるのであろうか?
僕が考えている間に「ああ、もう一つ伝えておこう。良い話と悪い話だ、どちらから聞きたい?」とフードの男が聞いてくるので僕は「どちらでも構いません」と答える。
「まあ、どちらも同じ事なのだがな。この兵士達は王のアーティファクト「支配の王錫」の力で意思を奪われている。個体差はあるが話をするくらいは出来るが痛みなんか感じないで立ち向かってくる。だから良い話はお前の居ない間に村で何か悪さを行うと言うことはない。そして悪い話はいくら村の連中が情に訴えかけても命令があれば簡単に虐殺行為を行う」
確かに、良くも悪くもある話だ。
それにしても王のアーティファクトは「雷鳴の杖」では無かったのか?「支配の王錫」なんて聞いた事がない。
僕は「お願いがあります」と言うとフードの男は「それが願う態度か?」と言って呆れる。
「言うことを聞いているだけでも十分だと思いますが?」
「まあいい、言ってみろ」
僕は村の備蓄を気にしていたので狩りに出られるようにして欲しいこと。
後は村の食料を必要以上に取らないで欲しいと言うことを伝えた。
フードの男は「狩りはダメだ」と言うとそのまま「兵士達は村から出るものを殺すように指示をする。その説明は村の連中にしてやる。食料は安心しろ、この兵士達は食事も睡眠も不要だ。アーティファクトの能力でどちらも必要としない」と言った。
僕は狩りにいけない皆が僕が帰るまで大丈夫なのかと気にしているとフードの男は「不服か?それなら今すぐに総攻撃だがな」と言う。
どうしても立場が弱い僕は最後には従うしかない。
僕が「わかりました」と言うと興味なさげに「なら行け」と言われたのでそのまま村を出た。
まずは二の村を目指す。
大人の足で半日と言われているので僕でも昼には着くだろう。
二の村まではトラブルと言うトラブルもなく順調に街道を進んでいく。
初めて1人で歩いたからか予定より昼を過ぎた頃に二の村に着いた。
二の村の規模は僕の住む村とあまり変わらない。
その村が焼け落ちている。
これが僕たちの村の未来だ、そうならない為にも早く行かねばならない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は二の村の中には入らずに村の入り口から亡くなった人達に手を合わせた後で先に進む。
少し進んだ所で昼食を取ることにした。
干し肉やパンの日持ちをするものは明日以降にするが今日だけは母さんの持たせてくれた昨日の夕飯を使ったサンドウィッチを食べる。
「当分食べられないおふくろの味か…」と呟きながら僕は噛みしめるようにサンドウィッチを食べる。
食べる時に1人で食べることが無かったので1人で食べてみると案外退屈で、話し相手が居ない為につい考え事をしてしまう。
僕の不死の呪いとはどう言うものなのだろう?
ずっと考えてはいたが、川に身を沈める勇気も無ければイノシシの群れに飛び込む勇気もない。
きっとナックなら試すのかもしれないなと思って1人で笑ってしまった。
そんな僕に不死の呪いを知る機会にはすぐに恵まれた。
街道を歩く僕は突然の痛みに襲われた。
胸を見ると一本の矢が刺さっていた。
矢を抜く、周りを警戒する、様々な事を考えたが力が入らない。
口の中が鉄臭い。
目の前が暗くなる…
そう思いながら僕は倒れ込んだ。
遠くの方から「一発だぜ!」と聞こえてきたのを最後に僕の意識は遠のいた。
57回目の時間。
ふと気づくとそこは昼食を済ませた場所だった。
だが僕の手にはまだ食べていないサンドウィッチがある。
僕は状況を把握する為にトキタマを呼ぶと「はいはい」と言ってトキタマが僕の肩にとまる。
「僕はどうなった?」と聞くとトキタマは「お父さんは胸に矢が刺さって死にました」と言った。
「死ぬと僕の能力で直近の安全な時間に跳ばされます。さあ、早くご飯を食べて先に進みましょう!」
不死の呪いとはよく言ったものだ。
厳密には死ぬが、死んだ瞬間に強制的に死ぬ前に跳ばされる。
確かに死ねない。
そう言うものか。
痛みもあるし苦しみもある。
だが、死ぬ瞬間には戻される。
食欲の無くなった僕はサンドウィッチをしまうと休憩もそこそこに歩く事にした。
街道をまた進むと先程殺された場所が近づく。
確かに一度殺されて気がついたが、周りは少し高い丘や山になっていて、茂みや木など身を潜める場所が何箇所かあり、逆に街道は驚く程見晴らしが良くて無防備だ。
僕は「まるで狩場だな」と呟く。
今回も殺されてやる気はない。
こちらが仕掛ける番だ。
早速トキタマに「トキタマ!アーティファクトの位置はわかるか?」と聞くと「わかりません!」と即答された。
思わぬ返事に僕は「わからない?」と聞く。
トキタマは少し悩んだ顔で「わからない…と言うか、無いです」と言う。
僕は目を丸くして「無い?」と聞く。
どう言う事だ?とりあえずトキタマがわからない以上、何回跳んででも探し出して皆殺しにするしかない。
自身が狩りをするイメージになって左側にある茂みの一つに目を向ける。
矢は胸に刺さったから前からの射撃だが、恐らくは1人では無いだろう。
僕が後ろで、前が父さんで…
このパターンと同じなら前を向いている間に横や後ろからも攻撃をする。
それならこの茂みかもう一つの茂みに仲間が居るだろう。
僕は目を凝らして探す。居た…すぐに見つけた。
狩りは不慣れなのか気配が消しきれて居ない。
向こうはこちらが街道から逸れたことに驚いて居たが、まだ隠れられていると思ったのだろう。必死に身を潜めている。
僕は近寄ってから剣で斬るのも考えたが、万一弓で狙われて死んではたまったものではない。
あの力が抜けていく感覚は何度も味わいたいものではないのだ。
「あぶり出すか」と呟きながら火の指輪を構えて火球を作り出す。
火球は手の届く範囲なら何処にでも精製できる事がこの前使った時にわかった。
成長していないからか、それともそう言うものなのかわからないが、飛ばすという事はイメージしても出来なかったが、投げると言うのはイメージ通りに出来た。
僕はその火の玉を茂みに向かって投げ入れる。
すぐさま「うわぁっ」と言う悲鳴と共に悪人顔の男が飛び出してきた。
話を聞いてみたかったがもう1人居るのは確定なので剣で殺してしまう。
もう1人はまだ身を隠すか、それとも弓で狙ってくるか…万一を考えて矢が飛んできにくい位置に身をずらす。
身をずらしてすぐ裏の山から剣を持った人間が「よくも弟を!」と言いながら駆け降りてきた。
顔をよく見ると年をとった男なのがわかる。
弟?
義兄弟とかかな?
知ったことでは無いし、よくもって言う話で言えば僕は一度殺されている。
こちらこそよくもだ。
剣には剣でなんて言わない。
最近のマイブーム「顔面ファイヤー」を喰らわす。
火球を生み出したままの手で男の顔に手を当てて着火すると男は「ぐわぁぁぁっ!?」と悲鳴をあげながら顔の火をバタバタと叩くがアーティファクトで出来た火は中々消えない。
男は酸欠かなにかで倒れた。
ここで終わりにして後ろから殺されたのではたまったものではない。
僕は男の胸に剣を突き立てて念入りにとどめを刺すと確実に倒せたことで僕は気が大きくなって「よし」と言って剣をしまう。
後は弓を使った敵だけだと思った僕は慎重に前に進もうとした時、また山から男どもが「よくも仲間を!!」と言いながら剣だの槍だのを持って襲いかかってきた。
中には槍を投げてくるのもいる。
しまった。
遠距離の攻撃方法はない。
槍はかわすことが出来るかな?
刺殺されるのはやだな…
乱戦になると槍は飛んでこなくなった。
同士討ちはしたくないだろうからそれもそうかと思った。
今までの経験が活きているのか敵の動きが見える。
こうやって動きながら考え事が出来るくらいの余裕がある。
そうなると逆に一般兵の強さが骨身にしみてわかる。
あの時は余裕なんてどこにも無かった。
男どもは数えたら6人程居た。
上から槍を放った奴を入れたら7人になる。
僕はまだしまった剣を抜いて居ない。
男どもは僕を「火の指輪」の使い手と思い込んでいるのか距離の取り方に気をつけているのがわかる。
「「火の指輪」なら同時に二発は撃てない!一発撃ったら次までの間に斬りこめ!」と1人の男が言っている。
成る程、同時に火の玉を出す事は考えて居なかった。
だが、村を襲った訓練兵は両手に火を持っていた。
二発は無理でも一発を分ける事は出来るのではないか?
そう思った僕は試しに右手に作った火の玉を2つに割ってみた。
集中していないと左手に割った方の火が消えてしまいそうになる。
これか、これで訓練兵はモタついていたのか…。
これは顔面ファイヤーには向かない技だ。
出来るなら左右から顔面ファイヤーをお見舞いしたかったのだが残念だ。
さっさと使ってしまおう。
2つに分かれた火球はそう大した火力もないので僕はすれ違いざまに男どもの襟に火を放つ。
男どもが「アチィィィッ!?」と言ってどよめきながらこちらを見てくる。
距離を取りながら「コイツ、まだガキなのに戦い慣れてやがる!」と言っている奴も居る。
そうか?
僕は戦い慣れているのか?
段々と僕はとても楽しい気分になってきた。
初めてトキタマを使った日とはまた違う高揚感に支配された僕はこの戦いを楽しむことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
男どもの1人が未だに僕を睨んで「もう容赦しねぇ」と事を言っている。
とりあえず試したい事も出来たのでサッサと3人は殺してしまおう。
僕は剣を抜くと男どもが「コイツ、剣も使うのか?」と驚きを口にする。
1人の男が「安心しろ、アーティファクトは指輪だ、剣は俺たちと同じ既製品だ!」と言って県ではなく指輪に注意しているが残念ながら…そうでもないんだな!
僕は「【アーティファクト】!」と唱えながら男に斬り込む。
一閃と言うのだろう。
あっという間に男の1人を斬り捨てた。
この状況に1人の男は「2個持ち!?なんだそりゃ!」と言い、別の男は「兄貴ーっ!」と叫び、残りの男が「うわぁぁぁっ!」と叫んでいる。
僕はその間にもう1人も切り捨てた。
実は連続でアーティファクトを使えないものかを確認したのだが、発動と発動の間には時間がかかるようでまだ発動しない。
もう少し親切にわかると助かるのだが、わからない以上は実戦で感覚を養うしかない。
ようやく再度の発動が可能になったので3人目を切り捨てた。
これからがテストだ。
前に村を襲った訓練兵達は矢に火をつけていた。
僕も同じことができるのではないかと思ったのだ。
僕は剣を構えて「【アーティファクト】!」と唱える。
出来た、剣に向かって火を纏わせる。集中をうまいことしないと剣先だけに火球が集中してしまうが、一応は成功した。
物凄く情けない顔をした男が「ひっ、何だよそれ、ふざけるなよ…」と言いながら槍で向かってくる。
槍から繰り出される突きもナックに比べれば全然遅い。
正直、一般兵の中にも槍兵は今後出てくるかもしれないので少し戦っておきたかったのだがこれでは意味がない。
僕は火のついた剣であっけなく男を切り捨てた。
後2人、次に僕が試したいのは火球の連射だ。
どのくらい間隔をあける必要があるのか試そうと思う。
とりあえず剣をしまって手に火を纏わせる。
顔面ファイヤーだ。
男が顔の火を取ろうとのたうち回っている。
僕はすかさず男に手をかざす。
数を数えながら常にアーティファクトの発動を試みる。
20秒。
20秒かかって、次の火球が準備できた。
僕は再度火球を男に投げつける。
投げた時に男は動かなくなっていた。
あまり有効的ではないな。
あと1人。
最後の男が「う…うそだろ?こっちは6人も居たんだぜ?」と言ってうろたえている。
多分、僕の想像通りならと思っていると想像通りに「くそっ、覚えていやがれ!!」と言って逃げだした。
それを見越して、これは最後まで取っておいた。
「【アーティファクト】!」と唱えて剣に火を纏わせるとそれを見た男が「ひぃっ!!」と言って更に加速する。
そうだ、僕が待っていたのはそれだ。
「【アーティファクト】!」と唱えて剣を振るった次の瞬間、僕の剣は最後の男を切り捨てた。
火球を纏わせた剣でのアーティファクトの一撃はどうなるのかを確かめてみたが威力は問題ない。
切り口の辺りが焼けている。
斬ると焼く…これはいい結果に終わった。
そうだ終わった気になったが忘れていた。
男は後2人居たんだった。
僕を射殺した奴と槍を投げてきた奴。
多分、弓の男は逃げ出しているだろう。
ざっと隠れていたであろうポイントに向かうと、足跡があったが本人は居なくなっていた。
僕の予想通りなら、奴らは合流しているだろう。
僕は山の上を目指した。
山の上、槍を投げた男の場所まで行くと足跡が沢山ある。その足跡を辿ると少し先に洞窟があった。
ここが奴らの根城だろう。
中に入ろうとすると矢が飛んで来た。
逃げ出していた弓使いも居てくれるなんて僥倖だ。
僕が「諦めて出てきてください!」と言い終わる頃、また矢が飛んできた。
今度も洞窟の中からだった。
この展開にちょっとだけイライラしていた。
僕は入り口から離れつつ、決して目を逸らさないように付近の枝を集めた。
洞窟の入り口に枝を並べた僕は枝に火をつけた。
もくもくと立ちあがる煙が洞窟に入っていく。
「このまま燻されて死にますか、諦めて出てきますか!」と言っていると、左から槍が飛んで来た。
今度は先ほどの槍投げをした男か…
燃やした煙のおかげで相手からもよく見えなかったのだろう。
運よく命中しなかった。
僕はその槍を取って投げ返そうとした時「バチッ!」という音と共に手に衝撃が走る。
あれだ、アーティファクトの衝撃!静電気…
この槍はアーティファクトではない既製品ではないのか?
僕は「トキタマ、この槍はアーティファクトか?」と聞くとトキタマは「これは違いますよ」と答える。
謎が深まって苛立った僕は「じゃあ何で弾かれる!?成長の問題か?」と聞く。
トキタマは「違いますよ、多分その剣を持っているとそれ以外の武器が使えなくなるんだと思いますよ」と答えた。
何だと…それであの時も弓が持てなかったのか。
しばらくすると咳き込む音と一緒に「やめてくれ」と聞こえてきた。
武器を捨てて出てこいと言うと「わかった」と言って左から男が1人、洞窟の中から男と女が出てきた。
出てきた男は女の首元にナイフを突きつけている。
女は「やめて…何もしないで」と言っている。
左から出てきた男は槍をもう一本持っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
女の首にナイフを当てている男が僕を見て「お前、何者だ!」と言っている。
男は青年ではなくて中年だと思うが父さんよりは若い気がする。
もう1人の槍投げの男は青年といった感じだ。
首にナイフを当てられて震えている女は20代だと思うがよくわからない。
女は僕を見て「た…助けて」と言って泣いている。
僕が「その人は人質ですか?」と聞くと男たちは「そうだ!この女の命が惜しければ武器と食い物を置いてさっさと居なくなれ!」と言っている。
「先ほどまで燻されていた人たちと同じとは思えない反応ですね」と言った僕の言い方が怖かったのか、男たちの顔が引きつっている。
「あなた達は何者ですが?」と僕が逆に問うと男たちは黙り込む。
苛立った僕は「答えなければ殺します。僕は別にそのお姉さんがどうなろうと知りません」と言う。ちなみにハッタリではないこれは本心だ。
お姉さんが「ひっ!」と泣きそうな声を出している。
言い方は悪いが、なんで今さっき会った人間に助けてもらえると信じているのだろう?
「別に僕は脅しではなくて事実を述べています。あなた達こそもう仲間は居ないんですよ?仲間のようになりたいですか?」
この言葉で下で死んでいる男どもを見て槍の人が「ゆ…許してくれ」と言って謝ってきた。
僕は頷きながらお姉さんにナイフを当てているナイフの人に「ナイフの人、ああ、あなたは弓の人ですよね?あなたはどうですか?」と聞くと諦めたように「わかった」と言ってお姉さんの手を離し、喉に突き付けたナイフをしまった。
お姉さんが安堵の表情を浮かべて「た…助かった」と言ったが急に地面に座ってしまった。
お姉さんは困り顔で「腰が抜けちゃったよ。ちょっと助けてよ…」と言って僕を見る。
まあ、怖い経験であったのだろう。
僕は手を貸すことにした。
お姉さんの為にしゃがんで手を出した時、視界の端に弓使いがナイフを再び出して襲い掛かってくるのが見えた。
…まだ不意を打てば勝てると思っていることが僕を苛つかせた。
顔面ファイヤーの刑に処すことにした僕は「【アーティファクト】!」と唱えて男の顔面に火を放つと10秒で火を消す。
相手の男は助かったという感じで荒々しく息をしている。
20秒経った瞬間に「【アーティファクト】!」と唱えて再度顔面に火を放つ。
そして10秒後には消してまた火を放った。
見ていられない槍の男が「すまない、やめてくれ!やめてください!!」と懇願してくる。
僕は「別に変な気を起こさなければ良いだけです」と言うと槍の男は「は、はい」と返事をする。
「貴方には聞きたいことがあります。それに答えてください」
「わ…わかりました」
会話を始めようとした所でお姉さんが「ちょっと、この人死んだわよ…」と話しかけてくる。
僕は「そうですね。それも致し方ないと思います。これは命の奪い合いです。僕は撃退しなかったら殺されていますから。酷いとかそういう話は無しですよ」と言うとお姉さんは黙った。
槍の男は後に回してお姉さんに聞くことを聞いてしまう事にした僕は「あ、事情は後で聞きますが、お姉さんは人質と言う事でいいですよね?」と言うとお姉さんは「え…えぇ」と言う。
「万一この人たちの仲間で僕にだまし討ちでもしようものなら、どうなるかわかりますよね?」
この言葉にお姉さんは「わ…わかっているわよ」と言いながら一歩後ずさる。
僕は「そうですか、それは良かった」と言い槍の男をもう一度見る。
身近な所で仲間が無残に殺されたのが余程辛かったのか、放心してしまっている。
僕は再度槍の男に質問をする。
質問は「何処の生まれか」「何故ここにいるのか」「アーティファクトはどうしてないのか」を聞いた。
産まれは昔の名前で言えば六の村で、ほかの男たちの出身地に関しては何も知らないと言う事であった、男どもの共通点としてはある日兵士に捕まってアーティファクトを奪われて命まで取られる前に何とか逃げ出したと言う事、行き場がなく二の村を目指そうと思ったが兵士たちがやってきて村を滅ぼしてしまったのでこの洞窟に住みついたらしい。
よりによって何で二の村だったのかが気になった僕は「なぜ、二の村に?」と聞くと槍の男は「四の村は城に近いので捕まる恐れもあったのでやめました。三の村…あの村はもう終わっている」と言った。
「終わっている?兵士に滅ぼされたのですか?」と聞くと「違う、毒霧だ…」と言って三の村の方角を見る槍の男。
「毒霧?」
「そうだ、三の村の南に毒竜が住み着いてから奴は日に何回か毒をまき散らす。それで兵士も三の村には手が出せずに放置をして二の村に行ったんだと思う」
そんな事があって僕は三の村に行くのかと思っていると槍の男が「兄さん、あんた毒竜がどうして毒を振りまくかわかるかい?」と聞いてくるので僕は知らないと答えた。
「竜は子供を育てるのに必要な環境作りから始めるんだ。火竜なら活火山を目指したりするが、活火山がない時は森に住み着いて森を焼いたりするんだ。毒竜もそうだ、外敵から子供を守るために辺りを毒まみれにするんだ」
「それが三の村の南に住み着いた?」
「そうだ。だからあの村はもう終わりだ。何でか毒の回りが遅いから村人は辛うじて生き残っているがな、いずれ村ごと毒竜の巣になる。それで俺たちは三の村を諦めてここに居たんだ」
聞きたい話は聞けた。
それにしても三の村にはそんなトラブルが起きていたのか、フードの男は「お前は弱い」とか言って行くように言っていたが厄介ごとを押し付けてきているのではないか?
そもそも魔物の退治は国の仕事だろう。
ふと気付くと殺された事への苛立ちが消えていくのがわかる。
苛立ちの消えた僕は「あの、あなた達はこれからどうしますか?」と聞く。
不思議と口調が落ち着いてきた。
そう言えば今までも何回も跳んだ時や解決しない時は酷く苛ついていた。
口調の変わった僕を見て槍の男が怪訝そうな顔をしながら問いに答える。
「みんなを弔う。その後は山に篭って生きて行くかな。いつかイーストやウエストに行けるようになったら行ってみたいな。今よりはマシだろうしな」
槍の男の後でお姉さんが「私はどうしようかしら」と言って僕を見る。
僕は呆れながら「攫われたのなら帰れば良いのではないですか?」と言うとお姉さんは「私も王都でアーティファクトを取り上げられたクチだから、今更王都には帰られないのよね」と言って僕をまた見る。
視線を感じた僕は「そうですか、あなたの事は僕には決められません」と言ってもう一度槍の男の方を見る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は槍の男を見て「1ついいですか?」と聞く。槍の男は「なんだい?」と返してくる。
「もし仮に僕と会う前にやり直せたらあなたはどうしますか?」
この質問に意味がないと思った槍の男は「そんな事…」と言うのだが僕は最後まで言わさずに「いいから答えてください」と言うと男は返答に困りながら「君に戦いを仕向ける事はしたくないな」と言った。
「仲間を説得する事は出来ますか?」
「君を襲わないようにかい?」
「ええ、それとこの人を解放する事です」
僕はそう言ってお姉さんを見ると槍の男は「彼女の事は…う…ん…、うん。なるべく努力するようにする」と言う。
「そもそもさらった理由はなんですか?お金ですか?」
「……俺たちは料理が苦手だから料理の上手い人が必要だっただけなんだ」
なんか変な歯切れの悪い言い方が気になるがいちいち追及する気はないので「そうですか、それで僕への攻撃は辞められますか?」と再度聞く。
槍の男は「戻れるのならやってみる。確実に半分の5人は止められると思う」と言った後で「後の5人は…正直自信はない」と言った。
5人か…まあいいかな?
残酷な殺し方をしたから歯向かう気は無いと思う。
僕は「わかりました。それでは僕がここにくる少し前に戻ります。僕が来るまでの間に貴方は仲間達に僕の特徴を伝えて手出しを止めるように説得をしてください。ダメだった時は前以上に残酷な方法で殺します」と言うと槍の男が「そんな、夢みたいなこと…」と言う。
「いいからやってください。必ずですよ。そして出来たら安全な村を見つけてやり直してください。一応伝えますが、一の村は今国から狙われています」と言った僕の剣幕に押された槍の男はただ頷いた。
「兵士が向かったのはやはり一の村か…二度向かったという事は…君が一度目を退けた?」
「今回は村全体が人質ですけどね。約束を守ってくれればそれで良いです。行きますよ」と言った僕がトキタマを呼ぶと「はいー」と聞こえてきて時を跳んだ。
58回目の時間。
僕はまたサンドウィッチを手に持っている所に跳んできた。
リーンなら「またここ?」と言うだろうな。
今回は槍の男が説得する時間も考えて食事をしてから行く事にする。
多分説得は成功するだろう。
残り9人の心には僕に殺された瞬間が跳んできているので僕の特徴を聞けば手出ししようなんて奴は出てこないと思う。
やはり母さんのご飯は美味い。
今回は美味しく食べられた。
街道を進む。
あと少しで襲撃された場所というところまで来た所でトキタマが「お父さんは優しいですねー」と話しかけてきた。
「別に殺したままでも良かったのに、跳んで助けてあげちゃうんですから。僕はお父さんが僕を使ってくれたから嬉しいですー」
「別にあの人達の為に跳んだんではないよ。時間が限られている以上、戦わないで済むなら戦わないよ。それに今は経験が身体にも残るんだろ?だから跳んだ方が有益なんだよ」
僕の答えにトキタマがイマイチ理解していない感じで「はー、そうですか。何にせよ僕はお父さんが跳んでくれて嬉しいです」と言った。
さて、襲撃ポイントだ。
前を見ると街道の真ん中に槍の男とお姉さんが居た。
僕に気づくと槍の男は手を振って近づいてきた。
槍の男は嬉しそうに近づいてきて「君は凄いな。どう言う力なのかわからないけれど確かに全員が生きている」と言う。
「説得は成功したみたいですね」
「ああ、無事にね。皆、君のことは覚えてなかったけれど、君の特徴とこれから起きる事を話したら真っ青になって辞めようと言ってくれたよ」
僕は「それは良かった」と答えた所で槍の男と並んでいるお姉さんに視線をズラして「ところで何でお姉さんがここに?」と聞く。
お姉さんが答える前に槍の男が「君が解放するように言っただろう」と言って困った顔でお姉さんを見て「それに…この人、ボスが君に会いたいと言っていて…」と言った。
僕が「ボスですか?」と聞くとお姉さんが「初めまして、って貴方からしたら2回目なのかしら?不思議な力ね」と言う。
やはりこの人は仲間だったのか。
それもボスだと言う。
お姉さんは警戒した僕を見て「王都から逃げ出す時に皆を扇動したからボスって言われているだけで、別に何の力も無いのよ。あるとしたら…この人達は料理が下手だからご飯を作るくらいかしらね」と言って笑う。
お姉さんは美人で笑顔を向けられて悪い気はしないが警戒を解く気はない。「それで僕に何のご用ですか?」と聞くと「あら警戒しないで」と言うと「まずは…お礼を言いたくてね」と言った。
「お礼ですか?」
「そう、残りの9人を殺したままにする事も出来たのにわざわざ生き返らせてくれるなんて、貴方いい人ね」
「そう言うんじゃ無いですよ。僕には事情があって、早く移動しなければならないんです。戦闘をしないで済むのなら移動も早くなりますから」
「あらそうなの、それでもありがとう。あの人達、元は悪さをしたり顔も怖いしキレやすいんだけど、付き合うと気はいい人達なのよ。死なれるのは悲しいのよ」
話が長そうだったので僕は「お話がこれで終わりなら僕は先に進みたいのですが?」と言って話を切るとお姉さんは「ごめんなさい、急いでいるのよね?」と言った後で「もう一つ話があって…」と言う。
あまり良い話の気がしない。
それは見事に的中する。
お姉さんは「私も連れて行ってくれないかしら?」と言った。
「貴方この人に私を解放するように言ってくれたんでしょ?」
…やはり良くない話だった。
僕は「それはお姉さんが拐われたと言っていたからで、仲間だったら…むしろボスならその必要は無いじゃないですか?」と言って一蹴する。
「そんなこと言わないで〜、別に仲間にしてって話じゃないの。貴方この人に「出来たら安全な村を見つけてやり直してください」って言ったんでしょ?だから私が安全な村を見つけてこようと思うのよ。でもひとり旅って危ないじゃない?だからね。貴方強いし…助けてほしいなって…」
「お断りします!」
「うん…そうよね。やっぱり貴方は優し…い!?えぇぇっ!?何で?こんなに綺麗なお姉さんが一緒に行くって言っているのよ?」
お姉さんが身振り手振りでおかしいと言いながら僕を説得しようとするが僕は「知りませんよ。と言うか一緒に行く前提で話を進めないでください」と言って断る。
「何で?どうして!?」
「僕は急がなければならないからです」
ここまで言えば大人のお姉さんは身を引いてくれる…と思ったのだが「それなら任せて!お姉さん、こう見えて健脚だから!歩きには自信あるのよ!」と言って足を見せてくる。
長いスカートからチラリと見える足は確かに健康的だが…今はそう言う話じゃない。
僕は「それでも…」と言ったところで最後まで言わせる前に「わかったわ!じゃあこうしましょう!貴方は気にせずに歩く、私はついて行く!私が追い付けなくなったら貴方は私を見捨てて先に行く!これでどう!?」と詰め寄ってくる。
確かにそれなら邪魔にはならないが、僕はこのお姉さんに情が湧いてしまって見棄てられないかも知れない。そうすると自分の事がブレる。
しかしここでの問答も時間の無駄になる。
諦めた僕は「わかりました。では一つ条件を付けさせてください。僕が本気でここまでと言って断った時には着いてくることは諦めてください」と言うとお姉さんは「うんうん、それでいい!じゃあ今すぐに行きましょう!」と言ってお姉さんは槍の男の方を向く。
「私はこの子について行く!後のことは任せたよ!10日して私が戻らなかった時は話しておいた通り10人で新天地を探すんだよ。それまでは無闇矢鱈に通行人を襲うんじゃないよ。私はあんた達と暮らせる場所を見つけたらすぐに戻ってくるからね!」
お姉さんがそう言うと槍の男は深々と頭を下げて「ボス!留守はお任せください!」と言った。
なんだ、やはりボスなんじゃないかと呆れる僕にお姉さんは「さあ!行こうか!!」と力強く言って歩き始めた。
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