第12話 本当の気持ち。

今回の広場での話題はリーンのお化粧の話だった。

お化粧をする事の大変さの話、それがまずまずの評判で報われた話をリーンが熱弁している。


リーンが僕の顔を覗き込んで「で、キョロはどっちの私が良かった?」と聞いてくる。

僕は「最初のお化粧はいつものリーンらしさが出ていて凄く可愛かったよ」と言うとパァっと明るくなった顔をしたが直後に「じゃあ今は?」「好みじゃない?」と書いてある顔のリーンを見ながら僕は「今のお化粧は見たことないリーンが見られたから嬉しいし凄く綺麗だよ」と言うとキョトンとした顔になるリーンに「どちらも甲乙つけがたい良さだよ」と締めるとリーンが照れながら喜んでくれる。


見たことのないリーンがそこに居て笑っている。

本当に綺麗だと思うし、何より初めて見る赤い口紅が着いた口元に目がいってしまう。


僕の視線を感じたリーンが「キョロ?」と聞いてくる。

僕が「あ、ごめん。なんでもない」と言うと急に悲しそうな顔になったリーンが「明日からの事を考えて居たの?」と聞いてくる。


「いや、違うよ」

「じゃあ何?もう私と跳ぶのは飽きた?」


「そんな事ないよ」

「じゃあ何?急に黙っちゃって」


必死に聞いてくるリーンに「本当、明日からの事とかじゃないから」と言ったがリーンは引き下がらずに「気になるからちゃんと教えてよ」と言う。


しまった、このリーンは手強いリーンだ、そしてせっかくの時間を揉めて過ごすのは得策とは思えない。

僕は思った事を伝える事にする。


素直に「リーンの口元が綺麗で、ついつい見入ってしまったんだ」と言うとリーンが驚いた顔で「え?」と聞き返してくる。僕はもう一度「ごめん、赤い口元が凄く気になってしまったんだ」と言うとようやくいみを理解したリーンが照れて顔を赤くしている。


それを見ると僕も顔が赤くなるのがわかる。

僕も照れながら「それを言うのが恥ずかしくてさ」と言うとリーンが嬉しそうに「そっか、ふふふ」と笑ってから「じゃあちゃんと帰ってきてくれたらまたこのお化粧も見せてあげる」と言ってニコニコと僕を見て「どう?帰ってきたくなった?」と聞く。


その言葉に僕は確かに嬉しい気持ちになっていた。


「ずっとその話だね。僕は帰ってくるって言っているんだけどなぁ…」

「本当に帰ってきてくれる?」


リーンがこちらを覗き込むように見つめながら聞いてくるので僕は「帰ってくるよ。この村が僕の居場所なんだからさ」と言うのだが、そう言ってもリーンは信用してくれないのか、僕から目を逸らさない。


そして「何となく、隠し事をしているのはわかっているんだからね?」と言われた。

一瞬驚いた僕は「え、そんなこと…」と言うとリーンは呆れたように「言わないでいいから、きっと私たちの事を考えているから言えないのもわかっている。だから聞かないけど、隠し事のせいで帰ってこられないんじゃないかと思って…」と言って暗い顔になる。


リーンに心配をさせてしまっているのが心苦しい。

それでも不死の呪いの事は言えない。

だから僕は「大丈夫、帰ってくるよ」と言って微笑む。


「ここ数日は家の手伝いも全然出来ていないし、それよりもリーンがまたその姿を見せてくれるんだよね?早く帰って来なきゃ!」

僕が努めて明るく言うと「本当?」と聞かれる。


「本当だよ、僕って冗談は言うけど嘘はつかないよね?リーンこそ本当にどちらのリーンも見せてくれるの?」

「ちゃんと帰ってきてくれたら見せてあげるわよ。それまで誰にも見せないから早く帰ってきてよね」


このやり取りに僕が「わかったよ」と言うとようやくリーンは安心したのか微笑んでくれた。


ごめんねリーン。

僕は多分初めて君や村のみんなに嘘をつく事になる。

王を倒して村に帰ってくる。

それは危険が去った事をみんなに伝えるためだけで、その後は不死の僕に居場所はないと思うから僕自身の意思で村を去る事になると思う。


また再びの沈黙。

月明かりに照らされたリーンは何度跳んでも何度見ても綺麗だ。

本当に先程までのリーンも綺麗だったが、この赤い口元のリーンも綺麗だと僕は思った。


そんな沈黙の中、「またよくない事を考えていたでしょ?」と言って沈黙を破ったのはリーンだった。


「違うよ、また見入っていただけだよ」

「それは今のキョロで、その前のキョロは難しい顔をしてたわよ」


そうなのだろうか?

女性の勘は怖いな…


僕が困るとリーンは「あーあ、これじゃあ何回私と過ごしても私を納得や割り切らせるなんて出来ない話ね」と言う。


「えぇ、僕は跳ぶのは構わないけど、リーンを納得させられないのは困るなぁ」


この言葉に「本当に納得させてくれる?」と言ってリーンがまた僕を覗き込むので僕が「そのつもりだよ」と言うとリーンは少し必死な顔で「じゃあお願いを聞いて」と言った。


「申し訳ないけど、行かないでと一緒に連れて行っては無理だからね。それ以外なら頑張るよ」

「うん」



リーンが真剣な面持ちで僕の顔を覗き込む。

化粧の効果か、僕は照れてしまう。

どんな顔をしてしまっているか心配だ。


リーンは口を開くと「まず一つめ、私も連れて行って」と言った。

僕が「ダメだって言ったよね」と言うと「うん、それでも言いたかったの。本当はこっち」と言ってリーンが何処にあるのかわからないポケットから「万能の柄」を取り出した。


「私の気持ちも連れて行って。私がダメでもアーティファクトは許されるでしょ?」


そういう事かと思っているとリーンは「それなら一緒に行けなくても私の心はいつでもキョロと一緒に居れる」と言葉を続ける。

僕は首を横に振って「僕は、リーンとナックに村の事をお願いしたよね。だから持っていて欲しい。万一の時はリーンとナックで村を守ってほしい。村が難しくても自身を守って生き延びて欲しい」と言うとリーンは「でも、今度の兵士は凄く強いんでしょ?キョロでも倒せない程の兵士だったんでしょ?それなら私たちがちょっと備えても駄目だと思う。だから…キョロに持って行ってほしいの」と退かずに言う。


確かに戦力差は圧倒的で、僕たちのアーティファクトでは兵士たちに太刀打ちできない。それでも持って行ってはいけない気がしている。

僕はその気持ちで「今はやめておくよ」と言うとリーンが驚いた顔で「なんで!?」と聞いてくる。


僕は笑って「もしも明日以降で必要になったら貰いに戻ってくるよ。そうすればまたリーンにも会えるしさ」と語りかけた。


戻ってくるが良かったのだろう。リーンは「…うぅ」と言葉に困った後で「それなら仕方ないけど、無理はしないでよね」と言った。

僕は力こぶを見せて「うん。大丈夫だよ」と言ってリーンを安心させる。


また沈黙が訪れる。

リーンとの話は済んだと思った僕は「気は済んだ?」と聞くとリーンは即答で「まだ」と言う。

だが今回も遅い時間になってしまったので「一度跳ぶよ」と言うとリーンは「うん」と頷いてくれた。


「タイミングはいつ頃が良い?」

「次もこのお化粧でキョロと話したいからお父さんが家の中に呼びに来る頃でいいかな?」


「わかった。トキタマ!」

「はーい!」

そしてまた僕は時を跳んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



46回目の時間。

跳んで戻った僕の目の前にリーンのお父さんがいる。

ここは何処のタイミングだろう…話の内容がわからない。


しまった。

タイミングが良くない。


困惑する僕の表情を見たリーンのお父さんは「おや?また跳んでくれたのかい?」と聞いてくる。僕は「あ……はい」と返事をすると「リーンが迷惑をかけているのかな?すまないね」と言ってくれる。


僕が「いえ、話が沢山ありすぎて時間が足りないだけですから」と言うと「それならいいのだけど、リーンもお願い事をする時なんかはそうなのだが、一番話したいことは最後にする癖があるから中々終わらないよね…」と申し訳なさそうに言って困った顔をする。


まだリーンは出てこないのでリーンのお父さんは家の方を見て「明日もあるのにごめんね」と謝ってくれる。

僕が「いえ、大丈夫です」と言うと「君がきちんと帰ってくるかを心配しているのだろうね。また2人の時間が減ってしまうね。ちょっと呼んでくるよ」と言ってリーンのお父さんが家に戻っていく。


リーンのお父さんの「そろそろ準備は出来たかな?」という声で家の中が少しバタバタした気がしたが、先ほどのような掛け合いもなくしばらくするとリーンが出てきた。


リーンが少し息を切らせて「お待たせ」と出てきて僕は「うん。タイミングしくじってしまったよ」と言う。

僕の言い方が気になったリーンが「どうしたの?」と聞いてくる。

僕は困り笑顔で「リーンのお父さんに何回目?って聞かれちゃったよ」と言うと呆れた顔のリーンが「お父さん、こういう時には鋭いんだから」と言う。


そんな話をしながら笑いあって広場へ向かう。

今回はリーンからさっきしなかったいい匂いがした事で僕は「ん?」と声に出してしまうとリーンが「あ、気づいた?香水をお母さんがつけてくれたの」と言ってニコニコとする。


リーンもその後で照れ臭そうに「多分…お母さんにも何回も跳んでいるのがバレてるみたい「今度は香水もつけてみなさいよ」って言われちゃったの」と言い僕も同調するように「ああ、バレてるね…」と言う。


僕たちが何回も跳んでいる事実がバレてしまった事にすこし照れてしまい。

2人で赤くなってしまった。


広場について長椅子に座ると「さあ、二つ目の納得するための話をしてよ」と僕から話をする。


リーンは「うん」と頷くと「お願いなんだけど、無理なら仕方ないけど…それでも出来たらお願いしたいの」と言った。


一緒に行く以上のお願いって何だろう?

僕は相槌を打ちながらリーンがきちんと言い終わるのを待つ。


「帰ってくるまでの間、跳ぶときは全部私の記憶も一緒に跳ばして欲しいの。お願い、ダメかな?」

この言葉を聞いた時僕は自分が跳ぶ時の事を、前回一般兵と戦った時の事を思い出しながら考えると正直保証は出来ない…それこそ、戦闘のタイミングで何回も跳ぶ時にリーンの心が耐えられるのかわからない。


僕はハッキリと「あまりに連続した時とかは跳ばしたくない」と言うと困った…泣きそうな表情のリーンが「なんで?」と聞いてくる。


僕は冷静に「酷いときは10分に1回とか跳ぶんだ、そういう時に一緒に跳んでいたらリーンが耐えられなくなると思うんだ」と言うとリーンは縋るように「大丈夫!私耐えるから、耐えるから置き去りにしないで?」と声を荒げる。


僕は首を縦に振らずに「耐えられないリーンが居ると思うと跳ぶに跳べなくなる」と言って断るとリーンは「お願い!!」と言って泣いてしまった。

嘘をつくのは嫌だ、だがこのままでは収拾がつかないのも確かだ…。


僕は折衷案で「僕もなるべく跳ばないようにはする。どうしても連続する時は置いていく事は受け入れて欲しい」と言うとリーンが「それなら連れて跳んでくれる?」と聞いてくる。


しばらくの沈黙の後、僕は頷いて「うん、約束はする。でもナックや父さん母さんには言わないでくれるかな?」と返事をすると「うん、約束する」と言ってようやくリーンが泣き止んでくれた。


これで納得してくれただろうか?と思って「もうお願い事は全部かな?」と聞くととリーンが「まだ、もう一つあるの」と言った。

この時僕の中では「リーンも一番話したいことは最後にする癖があるから」と言ったリーンのお父さんの顔が思い出された。

これが一番大事なのだろう。


僕は「何?聞ける事なら叶えるから言って?」と聞くとリーンが「本当に聞いてくれる?」と聞いてくる。

僕が「うん」と言うとリーンが黙ってしまう。


沈黙だ。

僕が跳ぶ時に記憶を一緒に跳ばす以上のお願いがあるのか?

リーンが難しい顔をして僕を覗き込んでいる。


考えられるものはある程度考えてみたがわからない。

これが他の村でかわいい服とか化粧品を買ってきてならマシなんだけど、きっとそう言う類のものではない。


僕にはわからないからリーンの言葉を待つしかない。

待つしかないのだが、また時間が遅くなってしまった。


僕は「遅くなってきたけど、もう一回跳びなおす?」とリーンに聞いたのだがリーンは「このままで、今跳ぶと決心が揺らぐから、このままで待っていて」と言った。


決心?

何をするつもりだろう


少し待つとリーンが「うん、よし!」と言って小さく気合を入れる。


そして僕の顔を見て「キョロ、私の事好き?」と聞いてくる。

突然の質問に僕は言葉を失ってしまった。


驚いた僕は「いきなりどうしたの?」と聞くとリーンは「いいから答えて!好きだったら帰ってきてくれるでしょ!?」と言う。


正直、好き嫌いはよくわからない。

嫌いではない。

でもリーンは将来別の村に嫁ぐか、ナックと結婚をすると思っていたのでこの質問には驚いた。


リーンは答えに困る僕に「嫌い?」と聞いてくる。

僕は「嫌いだったら約束を守って記憶を連れて跳んだりしないよ。こうした一緒に長い時間も過ごさない」と言うと間髪入れずに「じゃあ、好き?」と聞いてくる。


「それもいきなりで良くわからない。リーン、君が僕にそういう事を聞いてくるとか思ってくれているとか考えたこともなかったから今はよくわからないんだよ」


この僕の返事にリーンは「うん、嫌いではないと…」と呟いて何か自分に言い聞かせている。


そして次の瞬間に「じゃあ、キスして」と言う。

一瞬の間の後で言葉の意味を理解した僕が驚いて「えぇ?」と聞き返すと「嫌?」と聞かれる。


「嫌ではない」と言うと「ならして」と即座に言われて僕は言葉に困ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



リーンに「じゃあ、キスして」と言われた僕が言葉に困っていると「私、今物凄く恥ずかしいんだから、少しは察してよ」とリーンが言う。

そうだ、いきなりこんな話になって考えが追いついていなかったが、リーンも余程恥ずかしいのだろう。


僕は落ち着いて「嫌いじゃないからキスをすると言うのはいいの?」と聞くとリーンが即答で

「いいの、して」と言う。


確かに僕はリーンの口元から目が離せなかった。

草の匂いが全くしないでリーンの香水の匂いだけが僕の中に入ってくる。

目と鼻がリーンに捕まってしまっている。

その為の赤い口紅と香水か…と今悟った。


僕はリーンの気持ちに応えるようにキスをした。

長さや力加減などを直前まで考えてはいたが、キスをしている間はそんな事を考える余裕はどこにもなかった。


少しの時間だったと思うが僕はリーンから唇を離す。


リーンは月明かりでもわかる程に真っ赤だ。

多分それは僕も同じで真っ赤だろう。


一瞬の沈黙の後でいきなりリーンが「どうだった?」と聞いてきた。


僕は言葉に困りながら「どうって、その質問はちょっとデリカシーが無くて嫌かな…」と言うとリーンは「もっとしたい、またしたいって思ってくれた?」と聞く。


その言葉で「あ…」という言葉が僕から出た。

今リーンの言葉を聞いて、確かに僕はまたしたい、もっとしたいと思った。


そしてその思いは恐らく顔に出たのだろう。

リーンが「いいよ。またしよう。もっとしよう。だからちゃんと帰ってきて。帰ってきたらもっともっと出来るよ」と言って僕の顔を見た。


そうか、帰ってきたらまたできる。もっとできるのか…。

確かに今までの覚悟とか約束とかよりも強く帰ってきたくなった。


僕は気持ちのまま「うん。帰ってきたくなった」と言うとリーンが「良かった、嬉しい」と言って泣き出した。

そのまま「ようやく本音が聞けた。ずっと嘘ではないけど本音で喋っていない感じで怖かった。だから何が何でも帰ってきてもらいたかった…」と言う。


それでキスとはリーンの行動力は凄い。


僕はリーンに感謝しながら「リーン、ありがとう」と言うと恥ずかしそうに「どういたしまして」と言ったリーンが「キョロ…」と僕の名を呼ぶ。


僕が「何?」と聞くとリーンが「順番が滅茶苦茶だけど私はキョロが好き」とハッキリと言った。


また驚いた。


僕が驚いていると「知らなかったと思うけど本当だよ。きっと村の皆も気づいているの」とリーンが言う。


そうなのか…僕だけが知らなかったのか?


「キョロがどう思ってもいい、全部終わった時に私に気持ちが無くてもいい。今は気持ちを伝えられたし、記憶を持って跳んでもらえて無事に帰ってきてくれたらそれでいい」


この言葉に僕は「ありがとう。嬉しいよ」と言うと「本当?」と言ったリーンはもう一度目を瞑る。

僕はその気持ちに応えるためにも唇を重ねた。


気付けばまた夜も更けてきた。

僕は「もう、随分と遅くなった。これでリーンは納得してくれた?」と聞くと不満げなリーンは「なんだか、その言い方だと私が納得する為にキスしたみたいに聞こえるんだけどなー」と言って拗ねたような顔をする。

僕は「いや、そういう事ではないんだけど、もう帰る?と聞きたかったんだ。素直に聞けばよかったね。ごめん」と謝るとリーンは笑顔で「ううん、わかっている。まだ帰りたくない」と言った。


僕はリーンに「わかった」と言って「トキタマ!」と呼ぶとトキタマは「はいはいはいー」と言って時を跳んだ。



47回目の時間。

今度は広場に着いたタイミングに跳んだ。

リーンはまだ泣いていないのでお化粧もバッチリだし、何より今リーンの家に跳ぶとリーンのお父さんとお母さんに何を言われるかわかったものではないし、僕自身ボロが出そうなのでこの時間にした。


リーンが広場を見て「あれ?今度はここ?」と不思議そうに言う。


僕が気恥ずかしそうに「うん、今リーンの家に行くといろいろ見抜かれそうだから」と言うとリーンが「そっか、そうかもね」と言って笑っている。


僕はその笑顔を見ながら「リーン、笑顔も綺麗だよ」と言うとキョトンとした顔のリーンが「どうしたの?」と聞く。


僕は「さっきはありがとう」と言ってリーンに顔を近づけてキスをした。

唇を離すと未だ驚いているリーンに「僕のタイミングでキスをしたかったから」と告げた。


リーンは嬉しさと照れが混じって赤くなった顔で「もう、もっとしたいって言っても今飽きるまでしちゃって帰ってくるの嫌になったりしないでね?今の私だけじゃなくて未来の私ともちゃんとしてね」と言う。


その言葉に「うん」と返事をしながら一つの事を思いついた。

遠くで「はいはーい」と聞こえた。



48回目の時間。

また広場に到着したタイミングに跳んできた。

急に広場に戻った事で「え?え?」とリーンが驚いている。


随分と前からトキタマが僕の考えを読んでいる気がした時があったので今も声に出さずにトキタマに呼びかければ反応をするのではないかと思っので呼びかけてみた。

やはり思った通り跳んでこれた。


リーンは「え?跳んだの?え?」と言って僕を見る。

僕は「リーン」と呼びかけて止めるように話しかける。


落ち着いて僕を見るリーンに「リーン、今はこれがそうなのかわからない。でも僕も伝えるよ」と言う。まだちょっと混乱しているリーンは「え?何?」と言っているけど気にしない。ここは勢いだ。


僕はキチンとリーンを見て「リーン、僕も君が好きだ」と言った。

実際はいきなりすぎて考えが追いついていないから本当の所は自分でもわかっていないので正しくは「好きだと思う」なのだがそうは言わなかった。

言ってはいけない気がした。


リーンは一瞬の間の後で「え?それって…本当?嬉しい」と言ってまた泣いた。

…泣かない筋道はないのだろう。


リーンは涙を浮かべながら「でも何で急に跳んだの?」と聞く。僕は少し照れながら「順序が無茶苦茶だなって思って、気持ちを伝えてからキスした方がいいかなって…」と言うと最後まで言う前に「でも、トキタマちゃんを呼ばなかったよね?」とリーンが疑問を口にする。


僕はちょっと面白そうに「心で呼びかけて跳べるか試してみたんだ」と言うとリーンが少しあきれた感じで「こんな時に、そんなことしてみたの?」と言う。


「ごめん」

「うん、いいよ」


そう言ってどちらからともなくキスを交わす。

その後、僕たちはキスをしては他愛のない話をしてまたキスをして、時間が遅くなるとまた跳んだ。


49回目の時間もそうして過ごしたし、

50回目の時間も同じように過ごした。


51回目の時間でようやくリーンが納得をしてくれたので広場で一度だけキスをしてから早めに切り上げてリーンを家まで送り届ける。

出迎えに出たお父さんとお母さんはちょっと察した顔をしながらリーンに「楽しかったか?」「言いたいことは言えたか?」「納得して送り出してあげられるのか?」と聞いていた。

リーンが少し返答に困りながらも笑顔で「うん」と言った。


その顔を見たリーンのお父さんが僕に「きちんと向き合ってくれたようだね。ありがとう。君自身も顔つきが少し穏やかになっているからいい時間を過ごせたみたいでよかったよ」と言ってきた。

大人は凄いなと思いながら家に着く。


「ただいま」と言って家に入ると「お帰りなさい」と母さんが言って「お前の出かけている間にナックが来て手紙を置いていったぞ」と父さんが言って手紙をくれた。


部屋に入って手紙を開くとそこには「村中にお膳立てをしておいてやったからな、今日は何処に行っても邪魔はいないはずだ。うまくやれよな。失敗したら跳んでやり直せ!頑張れよ!」と書いてあった、

それで何処に行っても人が居なかったのか…余計な気遣いのような、ありがたいような…


そう思っていると部屋の外に母さんがいるのがわかった。

扉を開けずに「なに?」と僕が聞くと「中々赤い口紅の色は落ちないのよね」と言って母さんが去って行った。


慌てて手で口を拭く。

確かにまだ赤い色が残っていたのか手に色が着いた。

しまった、家に着くまでに拭いたのだがまだ残っていたのか。


ここでもう一つ気付く。

あー、あの時それでリーンのお父さんとお母さんが察した表情をしていたのか…


しまったこれは恥ずかしい。


僕は殻のベッドを用意しているトキタマに申し訳なさそうに「あの…、トキタマさん…」と声をかけるとトキタマは「どうぞどうぞ」と言う。

トキタマのにやけ顔がちょっとだけ恨めしい。



52回目の時間。

僕は広場に戻ってきた。

まさか戻されると思っていなかったリーンが「え!?」と言って慌てている。


さっき別れたばかりなのにまた会うのは何か変な感じがする。


リーンは跳んできた事を理解すると僕を見て「どうしたの?」と聞く。僕はバツの悪い顔をしながら「いや、僕の唇にリーンの口紅が残っていたらしくて、それでリーンのお父さんたちやうちの母さんにバレて…」と状況を伝えるとリーンは「それで?」と相槌を打ってくるので「ちょっと恥ずかしいやら、リーンもバレて恥ずかしい思いをしたんじゃないかと思って跳んできたんだ」と言った。


リーンはニコニコと笑顔で「それなら平気よ」と言う。

想定外の答えに「え?」と言う僕に「私の気持ちはみんな知っているから、お父さん達も喜んでくれていたよ。あ、あの後キョロの口元の事で笑っていたけどね」とリーンが説明をする。


何と言うことだ…恥ずかしい。


恥ずかしがる僕にリーンが「それよりも…」と言って少し怖い声を出す。

僕はリーンが何を言いたいのかわからずに「何?」と聞くと洋服を触りながら「この服、片付けるのも大変だし、お化粧は取るの大変だし、ようやく片付けに目処が立っていた所なのに…」と言う。

ようやくお化粧を落として洋服を綺麗に脱いで畳んだのだろう。

それなのに呼び戻された事でやり直しになったと言う。


僕が素直に「ごめんなさい」と謝ると「ううん、いいよ。また会えたし」と言って笑顔になるリーンは「でもこのまますぐ帰って片付けになるのはやだな」と言った。


僕も頷いて「わかった。僕もリーンの顔を見たら離れるのが名残惜しくなってきた所だよ」と言いながら、3回ほど、一緒の時間を過ごしては跳んでを繰り返してから帰路についた。



55回目の時間。

僕は帰る頃には落ち着いたもので堂々としていた。

帰宅して母さんに口紅の事を指摘された時も「そうみたいだね。ありがとう」と言ったら、更に察したらしく、父さんに「あの子が大人になっていく」と泣きついていた。


父さんからナックの手紙を受け取った僕もナックに手紙を書く事にした。


手紙の文面は簡潔に気遣いへの感謝と行ってくる事と帰ってくるから待っていて欲しいと言う事にした。


そこでリーンにちゃんと行ってくると言っていなかった事を思い出した。

また跳んで片付けが大変になってもいけないのでリーンにも手紙を書いた。


心配してくれてありがとう。

行ってきます。

終わったらキチンと帰ってきます。


それだけを簡潔に書いた。


こうなると止まらない。

父さんと母さんには感謝と謝罪を書いて渡した。

父さんと母さんは夜も遅いと言うのに寝ないで朝を迎えようとしていた。

僕も付き合うと言うと寝るように言われた。

ナックとリーンの手紙は明日父さんから渡してくれる事になった。


とても長い1日だった。

今日だけで僕は何回跳んだんだろう?

トキタマには明日になったら何が出来るようになったのか聞こう。

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